全世界が新型コロナウィルスの大流行に見舞われて間もなく満2年になろうとしている。当初からこの新型コロナウィルスは人為的に作られたもの、つまり、生物兵器ではないかと方々から疑問視されてきた。
10月29日、アメリカ合衆国国家情報長官のオフィスは新型コロナウィルスの起源に関して17
頁から成る報告書をバイデン大統領に提出した。それによると、自然発生説と生物兵器説のふたつがあって、諜報当局の内部には依然として意見の相違が存在することを認めている。米諜報界の総合的な見解としては新型コロナが何時、何処で発生し、どのようにして人類初の大流行となるに至ったのかについては(中国からの)新たな情報が得られない限りは結論付けることはできないと報告した。
しかしながら、この報告書はその概要で個々の要素に関してさまざまな見解を述べてもいる。たとえば、新型コロナウィルスは生物兵器として開発されたものではないと断定している。自信の程度が低いとは言え、多くの諜報部門は新型コロナウィルスは遺伝子操作されたものではないと言う。さらには、ふたつの諜報部門はこれらふたつの説のどちらが実際に起こったのかについては十分な証拠が揃ってはいないとして、断定することを保留したとのこと。最終的に、米諜報機関は新型コロナが発生した当初中国政府はこのウィルスに関して何の予備知識も持ってはいなかったと思われるとも評している。(出典:Updated Assessment on Covid-19 Origins: By Office of
The Director of National Intelligence / National Intelligence Council)
ということで、現時点では米諜報機関は新型コロナウィルスが自然発生であったのか、それとも、人工的に作られた生物兵器であったのかについては断定することは出来ないとしてバイデン大統領に報告した。問題は果たして全世界が本報告書が報告した通りに受け取るかどうかである。確かに、米諜報界が言っているように、現段階では十分な情報が出そろったとは言えなそうだ。最終的な結論が成されるまでにはまだまだ待たなければならない。
ところで、米国の諜報界の見解については多くの場合疑ってかかるのが本筋だと私は思っている。過去のさまざまな経験から言えば、字面とは真逆の状況も常に念頭に置く必要があると言えるだろう。米国家情報長官のオフィスが今回提出した報告書はどう見ても、米中間の綱引きというバイデン政権にとっては最大級の政治課題に大きく影響されているように思える。米国はあくまでも新型コロナウィルスの起源については中国との綱引きを有利に展開することが可能な筋書きを押し通したいのだと読める。そうすることが分断された国内政治を有利に展開する最後の選択肢なのだ。
2021年の国際社会は今大きく変わろうしていることが肌で感じられる。その一つは一極支配の世界から多極化の世界への移行であり、もうひとつは全世界に大きな影響を与えている新型コロナウィルスの大流行によってもたらされた社会の変化である。前者はかなり長期的なプロセスであると思われ、今すぐに国際秩序が大きく変わるという状況ではないように思える。後者は単なる感染症に対する医学的な対処、つまり、ワクチンや治療薬の開発に関する話ではなく、今米中間で起こっている情報戦争に見られるように旧覇権国と台頭する新勢力との間の地政学的な綱引きにおいて爆発的な影響力を発揮する武器として使われている。その真実の姿は遅かれ早かれ見えてくるのではないだろうか。
ここに、「中ロ外相が共同声明 ― 生物兵器について」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。
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細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産および貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約をさらに強化することについて中ロ外相が共同声明を発した:
ロシアと中国の両国は「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産および貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」(BWC)は世界の平和と安全保障を支える柱として非常に重要であること、ならびに、本条約の権威と実効性とを援護する両国は揺るぎない決意を持っていることを再確認する。1975年当時と同様に、今日、本条約の目的は今日的な意味を帯びている。つまり、それは生物学的作用物質を兵器として用いる可能性を完全に排除しなければならないという観点においてである。
ロシアと中国の両国はBWCを完全に順守する必要性を繰り返して主張し、同条約の制度化や実効性のある検証メカニズムを有する法的強制力を持った議定書を採用することも含め、本条約の実施に関係する諸問題を解決するに当たって必要となる定期的な協議や協力を通して本条約をさらに強化するべきであると主張する。
ロシアと中国の両国はBWCの機能は、国連安保理が懸念する事項も含めて、他のメカニズムによって重複されるべきではないことを強調する。生物兵器の使用が取りざたされている事案を解明するためのBWCメカニズムの開発に着目し、両国はBWC締約国に対して同メカニズムの作業基準、ならびに、技術的指針や実施要領を開発することを呼びかける。
ロシアと中国の両国はBWCの締約国は、米国が2001年に意見の一致がほとんど得られていたにもかかわらずこのプロセスから一方的に脱退した際に中断されたままとなった本条約の議定書に関して、圧倒的多数の締約国からの要請があったにもかかわらず多国間交渉を再開することについては合意に至らなかったことに懸念を表明する。その結果、ならびに、軍民両用の科学技術分野が急速な発展する中で生物学的作用物質を兵器として用いるリスクは急速に高まっている。
この文脈において、米国とその同盟国の海外における軍事用生物兵器に関する活動(200か所を越す米国の生物研究所が米国の国外において展開されており、その機能は曖昧で透明性に欠けている)はBWCへの順守に関して国際社会に深刻な懸念を生ぜしめていることを両国は強調する。両国はこうした活動はロシアや中国に対して深刻な脅威を引き起こし、それぞれの地域の安全保障に有害であるという立場を共有する。
さらに、ロシアと中国は米国とその同盟国の国内における軍事用生物兵器活動もまた同条約の順守に関して深刻な懸念を引き起こしていることに留意する。
米国とその同盟国がそれらの軍事用生物兵器活動に関して意味のある情報、つまり、国際社会の懸念を軽減してくれる情報は何ら提供してはいないという事実を踏まえて、ロシアと中国の両国は米国とその同盟国は国内や海外において行われている生物兵器活動に関する情報を適切に報告すること、そして、実効性のある検証メカニズムを法的強制力を持ったBWCの議定書の形で交渉を再開することによってBWCの順守を確実にするためにも米国とその同盟国は偏見のない、透明性のある、責任を持った行動をとるよう強く求める。
この文脈においてロシアと中国は、BWC締約国が、とりわけ、海外における軍事用生物兵器活動に関しては報告書の形式を用いた情報の提供を含めて、本条約の下で自信を高めるための手段を改善していくことが重要であることに留意する。両国はこういった宣言は結果として余白を埋め、締約国間の信頼を育むことに繋がるであろうと考える。
また、ロシアと中国はBWC締約国がしっかりした、法的強制力を持った基礎に関して本条約をさらに強化することに向けた合同の取り組みを継続するよう呼びかける。それと同時に、両国は現行の本条約の実行をさらに改善するための補助的な策を支持する。
BWCの制度的な枠組みは、生物兵器が使用された場合、提案されている「移動バイオメディカルチーム」が必要となる支援を提供し、そのような事案を調査し、さまざまな起源を持った大流行との闘いを支援することによってさらに強化されるであろう。この提案は国際的なレベルでの本条約の実行に改善をもたらす新たな試みを代表するものであり、これは平和目的のための集団的安全保障と協力の諸原則を結び付けてくれる。
ロシアと中国はBWCと関連する領域における科学技術の急速な進歩に対してBWC締約国はより強い関心を寄せるよう呼びかける。軍民両用の研究と関連するリスクに関して認識を高める必要があり、それと同時に、平和目的のためのバイオテクノロジー分野における最近の進歩を十分に活用する必要がある。この文脈において、ロシアと中国は本条約と関連する科学技術の進歩を調査し、それに基づいて本条約の締約国に助言を与える「BWC科学諮問委員会」を設置する考えを支持する。
BWCの第9回検討会議においてロシアと中国は本条約を強化し、本条約の実行を無差別的に改善することに役立つような提案を行う用意がある。BWCの枠組みを強化することを確実にするためにも両国は全BWC締約国に対して建設的な取り組みを採択する決意を持つよう呼びかける。
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これで全文の仮訳が終了した。
これは第76回国連総会(2021年9月21日~27日)の第1委員会で中国の代表が述べた内容である。米国とその同盟国は国外に全世界で200か所を越す生物兵器の研究所を持っていることを指摘し、このような生物兵器に関わる活動については透明性のある報告を行い、BWCの枠組みを強化するよう求めた。
新型コロナウィルスの大流行とそれに伴って各国政府が採用した都市閉鎖等の厳しい行動制限を背景として規制をする側の政府と規制を受ける側の一般庶民との関係は悪化し、国によっては反政府抗議行動にまで発展している。また、国際関係に目を転じると、米中関係は新型コロナウィルスの起源を巡って議論の応酬となって、悪化するばかりとなり、すでに情報戦争の観を呈している。このような状況がここに引用した中ロ外相による共同声明に直接・間接的な影響を与え、国連総会の場で全BWC締約国に対して注意を喚起し、協力を求めたものと推測される。
そして、常に秘密裏に置かれる生物兵器はわれわれ一般大衆にとっても不安を助長し、軍産複合体や好戦的な政治家、ジャーナリズム精神をすっかり忘れ、彼らの筋書きを喧伝する大手メディア、等に対する信頼感は低空飛行を続けており、まさに地表に接触しそうである。
因みに、この引用記事と関連する生物兵器についての本ブログでの投稿は下記の通り:
2021年6月7日:生物兵器としての新型コロナ ― 閉ざされた扉の背後からの厳しい質問
2021年5月1日:米国は生物兵器による戦争を準備しているのだろうか?
2020年3月18日:米国は生物兵器の研究や生産とその使用では世界的なリーダー
参照:
注1:Joint Statement: Foreign
Ministers of Russia and China: Biological Weapons: By The Saker, Oct/07/2021
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