2021年11月4日木曜日

ロシア、そして、NATOのべらぼうなはったり

 

ソ連の崩壊ならびに東側の軍事同盟であったワルシャワ条約機構軍の解体によって東西間の冷戦は事実上終ってしまった。ところが、その後でさえもロシアと西側の緊張した関係は雪解けを見ることがなかった。そこには西側の意図が見え隠れしていた。その典型的な姿が北大西洋条約機構(NATO)の拡大に見られ、NATO圏は今ではロシアの玄関先にまで迫っている。

しかしながら、近年、NATOの老化が顕著になって来た。そのことについては「NATOの脳死状態がさらに進行」と題した前回の投稿でご紹介したばかりだ。

ここに「ロシア、そして、NATOのべらぼうなはったり」と題された新着の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。前回の投稿に続いて、NATOの現状を違った切り口から考えてみよう。

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その昔、北大西洋条約機構と称される組織があった。略してNATO。同機構は1949年に設立され、今日、欧州と北米から30か国がこのグループを形成している。NATO はその参加国の住民や領土を防護するために存在する。30か国の内で28か国は欧州からの参加で、北米からはカナダと米国が参加している。

NATOの「門戸開放政策」の一環として、ヨーロッパや大西洋圏にある国家はどの国家であってもNATOに参加することができる。参加の条件としてはその当事国が参加国としての義務を全うし、本同盟の安全保障に貢献し、NATOの価値基準、つまり、民主主義や改革、法の順守を共有する準備ができていることだ。これらはNATO基準の一部である。

1949年以降、 NATOの参加国は12か国から30か国にまで拡大した。NATOは、2020年、同機構の30番目の参加国として北マケドニアを迎え入れた。

NATOは第二次世界大戦後にCIAの協力の下で米国防総省によって設立された。そのもっともらしい口実は「ソ連による脅威に対して集団的な安全保障を構築する」というものであった。つまり、このNATOという組織作りはソ連邦は第二次世界大戦で3千万人余も失い、インフラがすっかり破壊されてしまったにもかかわらずヨーロッパ諸国の脅威になるであろうということを全世界に信じ込んで貰うためのものであった。しかし、極めて不思議なことに、嘘で固められたメディアによるプロパガンダは、今日、まさに新型コロナの流行においてそうであるように功を奏したのである。何時もながらのことではあるが、壁面には今やもう一つの戦争が見事に描かれている始末だ。

恐怖の念を醸成することは戦略の重要な一部である。人々は恐怖に煽られると、いかなる種類の人心の操作であってもその影響を受け易くなる。これは昔ながらの金言であって、ローマ帝国以前にさえも遡ることが可能だ。そして、それは今でも奏功する。当面、人々はそのことに気付いていないだけだ。

それはいったい何時起こるのであろうか?つまり、人々がこの茶番劇を見透かし、このはったりを見破りさえすれば、世界は大きく変わるのだが。パワーはわれわれの側にあり、市民の側にあるということを我々は突然、あるいは、徐々に、かってない程に速やかに実感することになるであろう。

特に米国や欧州の富裕な連中は「安全地帯」に安住しており、当局が伝えることは何でもその通りに信じ込み、その挙句に、金で動くメディアの言うことを鵜呑みにする。これらの人たちは当局の言うことに従う。なぜならば、結局のところ、自分たちのことを考えてみればいい。あなたが政府に金(訳注:つまり、賄賂のことであるが、明主義社会ではこれを政治資金と呼んでいる)を払っているならば、政府はあなたのことを親身になって考えてくれる筈だ。そうだろう?裕福であればあるほどに、彼らは政府の奴隷と化していく。もっと悪いことには、彼らは頑固で、強情で、道理も通す。彼らはまさに「当局」が望む通りに行動し、社会を独裁政治に変えてしまう。「われわれは民主国家である」との言い訳をしながら・・・。こうして、われわれが従順である限り、われわれは絶望的なままだ。

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NATOはわれわれに立派な教訓を与えてくれるべきであった。しかし、それがロシアや中国に対するものではないとするならば、NATOはもぬけの殻であり、何のパワーも持ち合わせてはおらず、NATOの連中に最後に残されたものはそのトップや中間にいる幾人かの横柄な連中だけであることについては気付くこともなしに、われわれはNATOを喜ばせるために跪いていることだろう。これらの連中はヨーロッパを自分たちの支配下に置くことを少しでも長く継続したいのである。そして、それ以外の世界についてもまったく同様だ。

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NATOを構築した際の原則のひとつはその憲章の第5条であって、それは加盟国のひとつの国に対する武力攻撃は全加盟国に対する武力攻撃であるとみなすと記している。これは脅かしを仄めかしているのである。つまり、NATOによる攻勢を受け、挑発されている国、たとえば、もしもソ連、つまり、現在のロシア、あるいは、中国がNATOからの絶えることのない攻勢や挑発に対して報復措置をとったならばNATOは世界大戦を引き起こすことになるかも知れないと言っているのだ。

それが当時のNATOであった。そして、現在においてさえもそれがNATOの姿であり、依然としてそうであるかのように装っている。しかしながら、装うことだけがこの時点でかき集めることができる全てなのである。装うということは失うものは何も残ってはいないということを代弁している(ジャニス・ジョプリンが歌った「ボビー・マックジー」から「自由は何も残ってはいないことを示す別の言葉」を髣髴とさせる)。これこそが最悪時のNATOの姿である。

なぜか不可思議な理由からロシアはつい最近に至るまでNATOのオブザーバーの地位を持っていたが、最大の敵国を仲間にしていることなんて実際に信じることは極めて困難である。唯一の説明はこのオブザーバーの地位を維持することによって彼らはロシアを一種の「部内者」であると見なしたのであろうが、それは第一日目から幻想に過ぎなかった。

1990年にヘルムート・コール首相の下で外相を務めたハンス・ディートリッヒ・ゲンシャーに対してNATOが述べたとされる「NATOはベルリンから先へは1インチたりとも拡大することはない」という約束については書き物は見つかってはいない。だが、モスクワ政府はドイツの統一に合意するためにゲンシャーや他の西ドイツ高官らの約束を信用した。今日、NATOの支持者たちは、ドイツ国内の支持者も含めて、ドイツの統一は「NATO下におけるドイツの統一があったからこそ実現したのだ」と言う。しかし、これは真っ赤な嘘だ。NATOの規則はどれを取り上げてみても参加国の主権を合法的に否定することはできないからである。しかしながら、この嘘は鵜呑みにされ、NATO の東方への拡大の前例となって行ったのである。(訳注:東西冷戦を終結させた当事者のひとりであるソ連のゴルバチョフ元書記長の自叙伝によると、「NATOはベルリンから先へは1インチたりとも拡大することはない」と言ったのはジェームズ・ベーカー国務長官である。この引用記事が伝える内容とはやや異なる。いずれにしても、当時の西側の高官らは誰もがこの文言を喋り、用いたというのが実情であったと思われる。結局のところ、書き物としての証拠はなく、誰の文言であったかを特定することは決して容易ではなさそうだ。ゴルバチョフにとってそれは彼の交渉相手であったベーカー国務長官であったし、ドイツ国内の一般大衆にとってそれはゲンシャー外相であったということなのであろう。)

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当時はそんな具合であった。そして、30年が経過し、今は今だ。NATOはモスクワ政府の玄関先にまで拡大している。モスクワにさらに近づくためにもウクライナをNATO の加盟国に迎え入れることになるのかも知れない。ベラルーシ国内で西側がベラルーシとの紛争を画策した理由のひとつはルカシェンコ現大統領を失脚させることにあった。同国に西側との友好を標榜するような独裁政権を擁立する機会をもたらし、いつの日にかその政権はNATOのためにベラルーシの門戸を開放するであろうというものであった。西側は傲慢で、非現実的な夢を見ている。もちろん、プーチン大統領およびクレムリンは一致団結して、このような動きを決して許さないだろう。しかし、誇大妄想狂にとっては何の制約も無いのだ。

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これに関連する事項として、NATO の居場所は何処にあるのか、その目的ないったい何なのかに関してより適切に理解するために、拒否権を有する5か国で構成される国連安保理の解体に直面する中、20211021日にプーチン大統領が発した警告をここで吟味しておこう。「もしもわれわれが永久メンバーの拒否権を剥奪すれば、国連はその日に崩壊する ― 国連は国際連盟になってしまう。国連は単なるディスカッションの場に変貌してしまうだろう。」

拒否権を持つ5か国で構成された国連安保理が崩壊することはあり得ることだ。そうなった暁にはNATOの背後にたむろす「天才たち」は国連安保理の役割を取り込むことができるかも知れないと考えたとしても決して不思議ではない。これらの事柄はすべてが死にかかっている西側帝国の最大の関心事であるからだ。

NATOは国際連盟を念頭に置いて第二次世界大戦後の1949年に設立された。国際連盟は第一次世界大戦後の1919年に創設されたが、これは帝国主義国家がてっち上げたものであって、第一次世界大戦で疲弊し切った世界に対して「永続する平和」のための最終的、かつ、最大の希望として世界平和を装い、売り込んだものであった。今やわれわれは本当の歴史を知っている。

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早送りしよう。RT20211025日に適切な分析を行っている。「洋上や空中で、さらには、宇宙空間でロシアと戦うというNATOの好戦的な新計画は結局裏目に出て、核戦争という大失策をもたらすかも知れない。NATOはバルト海から黒海に至るまでのヨーロッパ全域でロシアと戦うという新戦略が承認された。その詳細は秘密のままであることは必ずしも驚きではないが、この軍事同盟の高官らはこの戦略には核戦争やサイバー戦争、宇宙戦争が含まれると述べている。」

「予期されるように、この大陸横断的な戦略は自衛を目的としたものであるとNATOは主張し、米国主導のこの軍事同盟はロシアからの攻撃は今すぐに起こりそうにはないということも強調している。換言すると、NATOはこの動きを適切な配慮を示す行為として提言したのだ。つまり、ドイツのアンネグレート・クランプ・カレンバウエル国防相が強調したように、想像し得る最悪の事態に備え、核による抑止によってそういった事態が現実になることを回避するためのものである。」

別様に言えば、ドイツの最近の選挙運動中に述べられ、約束が成されたことであるにも関わらず、ロシアとの関係を改善するために門戸を開放しておくことはドイツ国防相の声明によってもはや無用のものとなっている。「抑止力」の議論はロシアに対する攻撃そのものである。これは間違いなくNATOや西側の多くのネオリベラル派を喜ばせてくれるが、ドイツ人やヨーロッパ圏の市民の大多数にとっては決してそうではない。誰もが平和的な隣人との関係を改善したいと思っているからだ。

そう、その通りだ。ロシアこそがその平和的な隣人なのである。ロシアは他国を侵略したことはない。これは自衛を除いての話である。たとえば、第二次世界大戦ではナチスドイツをベルリンにまで追い返した。攻撃を仕掛けることはロシアのもって生まれた性格ではない。このことは西側のメディアが報じている嘘とはまったく異なるものだ。しかし、他の嘘やでっち上げのように、裕福な生活水準を謳歌するヨーロッパ人が希望の光を見ることを禁じ、在りのままの真実を見たいと思う自由を封じてしまう。実に悲しいことだ。彼らが真実を見るとしても、その真実は彼らを打ちのめし、われわれヨーロッパ人に襲いかかり、それは遅きに失することであろう。

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もちろん、モスクワ政府はものごとを違った角度から見ている。しかも、正当に。クレムリンにとってはNATO 圏の東方への拡大は「NATOはベルリンから先へは1インチたりとも拡大することはない」と言ったゲンシャードイツ外相の約束が反故にされた1990年代からの問題であった。プチン大統領が数多くの機会に指摘しているように、NATOウクライナへ拡大することはあり得ないし、ベラルーシへ拡大することもあり得ない。それ以外の国についても同様だ。NATOがよくわきまえているように、「それ以外」は極めて重要な言葉である。

ロシアの防衛システムは西側のそれと比べると指数的に何倍も効率が良く、しかも実に強力である。したがって、この非常に深遠で、計り知れない記述を継続することはまさにNATO が行っているはったり以上のものではない。NATOはもぬけの殻になってしまった今日でさえもNATO依然として威力を持っているのだと西側に信じ込ませるための試みなのである。過度に膨張し、空っぽになった殻であり、加盟国の国民はその大多数がNATOからの脱退を考えており、彼らはNATOには今や何の目標も持ってはいないのである。NATOの存在は今や平和にとっては脅威でさえある。今もっとも重要な要素は人々がロシアや中国を恐れてはいないことだ。

恐怖の源は東側にあると信じ込ませているのは偽情報を拡散し、恐怖を作り出すマシーン、つまり、西側によってふんだんに金が支払われ、支援されている宣伝マシーンである。事実、彼らは二元論的な壁を構築し、それを維持し続け、西側中を評価している。二元論的哲学は古い宗教であって、全てを善と悪とに選り分ける。また、それは「二重性」でもある。もしもあなたの思考が二元論的であるならば、あなたは物事を黒か白かのどちらかに見ようとする。それこそがまさに西側が行っていることなのだ。それはワシントンで生まれ変わった哲学だ。これは第二次世界大戦後にヨーロッパ中で40年間にもわたって喧伝されてきた強力な冷戦の哲学であり、アジアや南米の一部にも見られる。

NATOは世界中に拡張されているが、その実体は極めて薄っぺらだ。南シナ海にある直接運用されている軍事基地や借り物の基地、陸上にあっては中国やロシアを包囲する基地を見て欲しい。3,000カ所もある。ロシアや中国の最新式の兵器に対していったいどうやって効果的な作戦を実行するのであろうか。これらの二国は何れも「抑止力」を自慢してはいない。彼らにはそうする必要はないのだ。

彼らには分かっている。そして、これは冷酷な現実ではあるのだが、西側は、特にヨーロッパは将来は陽が上る地にある、即ち、東側にあるという考えに目を覚ますべきである。

著者のプロフィール:ピーター・ケーニッヒは地政学的な観点から分析を行い、世界銀行やWHOにて上級経済専門家として働き、30年以上にわたって世界の水や環境に関して仕事をしてきた。彼は米国やヨーロッパ、南アの大学で講義を行っている。オンライン・ジャーナルに定期的に寄稿し、戦争や環境破壊および大企業の金儲け主義を描いた経済スリラーである「Implosion」の著者であり、シンシア・マックキニーの「When China Sneezes: From the Coronavirus Lockdown to the Global Politico-Economic Crisis」と題された書籍(Clarity Press – November 1, 2020)の共著者でもある。ピーター・ケーニッヒは「グローバリゼーション研究センター」の研究員を務める。また、北京にある中国人民大学重陽金融研究院の非常勤上級研究員でもある。

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これで全文の仮訳が終了した。

この引用記事の著者によれば、NATOの賞味期限はとうの昔に過ぎてしまった。それにもかかわらず、巨大な組織と化したこの軍事同盟はその実体は空っぽであるにもかかわらず、自己保存本能にしたがって存続し続けてきたと引用記事の著者は言う。そのために数多くの偽情報が作り出され、それらは大手メディアによって世界中で喧伝されてきた。

偽情報の最たるものはロシアは攻撃的でヨーロッパを侵略するという考えだ。このロシアに対する強硬な見方はバルト三国に典型的に見られるが、ある専門家の見解によれば、これは国内政治のために外敵を作ることによって国内の関心をその外敵に向けるためのものであるという。そう主張する記事を読んだことがある。非常に辛辣に聞こえるが、部分的に頷ける要素を持っていると言えそうである。ヨーロッパ南部の国々、あるいは、古くからのメンバー国は新たに加わった国々とは異なる見方をしており、ロシアとの和解を望んでいると報じられている。NATO加盟国としては30か国もあり、経済や政治、外交における各国のニーズはさまざまであって、NATO参加国の間で思想統一を行うことは決して容易ではないようだ。ヨーロッパはどう見ても一枚岩ではない。

われわれ一般大衆の多くが目を覚ますならば、プロパガンダによって隠されている真実の姿は間違いなくわれわれの目の前に現れて来る。その醜悪な姿からは目を背けたくなるかも知れない。しかしながら、冷徹な現実は今まで多かれ少なかれ強制的に抱かされて来た甘味な幻想や勘違いを木っ端みじんにするであろう。たとえそういった衝撃的な場面に見舞われようとも、覚醒した物の見方は真実を暴き出し、われわれに、そして、われわれの次世代により明るい将来を約束してくれるに違いない。


参照:

注1:Russia and the Big NATO Bluff: By Peter Koenig, The Saker, Oct/31/2021

 




2 件のコメント:

  1. ロシアの討論番組を見ていると、「某NATOの高官が、NATO諸国に接近しつつあるロシアは脅威だと、言っている。誰が近付いてきているのかは言わない。」という話が再々出てきます。主語を入れ替え、犯罪者が被害者に向かって「お前がやった」というようなものです。この破れかぶれの論理も、ネットを含めた圧倒的なマスメディアの力で「正論」として通用しています。

    翻って、欧米の目も眩むような豊かさは何処から来たのかを考えれば、他地域、他国、将来、要は自分以外からの富の強奪によるものでしょう。(ロシアは彼らにすれば最高の獲物です)当然、その行為は完全に犯罪なのですが、犯罪を犯罪とは見せずに、歯の浮く言葉で「正当性」を主張するのが西側マスコミの役割であり、犯罪により獲得できた分け前により「国民」は満足させられ押し黙っているのが、西側諸国ではないでしょうか。現在の状況は、この構図が行き詰まり自暴自棄になっている精神病患者のように思えます。

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  2. 石井様

    コメントをお寄せいただき、有難うございます。
    西側世界の現状、まったくご指摘の通りだと思います。一人でも多くの人たちがこの事実に気付き、永い眠りから目覚める日が早く来て欲しいと思います。
    朝晩の冷え込みが気になる季節となってきましたが、ご自愛願います。今日もいい一日でありますよう!

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