ロシアがウクライナにおける特別軍事作戦を宣言した際、西側はロシア産エネルギーの輸出に対して経済制裁を課した。
ロシア・ウクライナ戦争は6カ月を過ぎた。ロシア産の天然ガスや原油を購入しないという西側による経済制裁が公開された中、この8月のロシア産原油の輸出は前前年同月比で増加した。ロシア産原油の輸出は期待を超える程の好調さを示し、同原油の国際市場への浸透がつづいている。これらのロシアからの原油輸出の大部分は外国船籍のタンカーによって行われ、特にギリシャ船籍の船舶に負うところが大きい。
ここに、「この8月ロシア産原油の輸出は好調、その大部分はギリシャの船舶が輸送」と題された記事がある(注1)。現状についておさらいをしておこう。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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- ロシアはこの8月記録上で他のどの8月よりも多くの原油を輸出したと国際金融研究所(IIF)が述べている。
- IIFはロシアを出港する石油タンカーの輸送能力は8月に1億6000万バレルに達し、その大半はギリシャ船籍であると言った。
- これは、ウクライナでの戦争が始まって以来、ロシアの石油生産と輸出が予想以上に持ちこたえていることを示す最新の兆候である。
国際金融研究所のデータによると、ロシアの石油出荷は8月に過去最高の水準に達し、ロシアのエネルギー輸出が予想よりもはるかに良好に持ちこたえているという最新の兆候を示している。
また、IIFは、船舶を所有するダミー企業を洗い上げた結果、ギリシャが所有するタンカーがロシア産石油を国際市場に到達させる上で最大級の役割を果たしていることを発見した。
全輸出量の大部分を占めるロシア港を出港する石油タンカーの能力は、この8月、1億6千万バレル弱に達したとIIFのチーフエコノミスト、ロビン・ブルックスが火曜日(8月30日)にツイッターで述べている。前年のどの8月よりも多かった、と彼は言った。
「ロシアは原油の大部分を外国籍の石油タンカーを使って輸出している」とブルックスは述べた。「2022年8月のこれらの出荷量は、ロシアの石油輸送能力をそっくり横へ移動した形でギリシャ船籍の石油タンカーが請け負い、前年を上回った。」
それよりも前のツイートで彼は「ロシアは今まで以上に輸出をしている」と言っていた。
8月の数値は5月の輸出量である約1億8千万バレルからやや減少したが、今月は異常に高いレベルであることがIIFのデータが示した。これは、ロシアのエネルギー輸出の強さを示す最新のデータである。
国際エネルギー機関(IEA)のアナリストを含め、西側のバイヤーがロシアの商品を避けるだろうから、多くのコメンテーターはロシアの石油輸出と生産は2月下旬のウクライナ侵攻後は急激に減少するだろうと述べていた。
しかし、ロシアは実際には中国とインドに軸足を移し、これらの国々は国際市場で割引価格で取引されている原油の購入を強化している。
今月のIEAのデータによると、ロシアの石油輸出量は今年最初の7ヶ月間で日量平均775万バレルで、2021年全体の平均であった750万バレルから増加した。
ウクライナをめぐって緊張が高まる中、ロシアはヨーロッパ経済に圧力をかけるために商品超大国としての地位を活用している。7月には供給容量のわずか20%にまで削減していたが、水曜日(8月31日)、ノルドストリーム1パイプライン経由のヨーロッパへの天然ガスの流れを止めた。
しかしながら、アナリストらは、欧州連合(EU)による禁輸措置が今後数カ月で発効すると、ロシアの石油輸出と生産量は減少すると予想している。
IEAのファティ・ビロル事務局長は、月曜日(8月29日)、制裁が効いてくるにつれて生産は落ち始めると予想しているとロイターに対して語った。
「(西側の)企業がいなければ、技術提供者がいなければ、さらには、サービス企業がいなければ、ロシアが原油生産を維持することははるかに困難になるだろう」と彼は言った。
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これで全文の仮訳が終了した。
さて、この12月にロシア産原油の禁輸政策が発効した暁には原油市場の混乱はどこまで高まるのであろうか?
また、西側によるロシア産原油の禁輸政策から派生した政策として、原油の取引価格の上限を押さえようとする動きが、最近、G7蔵相会議で合意となった。この制裁は12月5日に始動する。取引価格の上限を押さえることによってロシアが受け取る輸出代金を最低限に抑え、ロシア経済を疲弊させるというのが西側の魂胆である。非西側諸国ではドル離れが進み、米国が把握することができるデータは限定的になるとの見方もあって、この制裁がどれだけ功を奏するかは未知数だ。
こうして、世界は米国とその同盟国のグループとロシアや中国、イラン、インド、その他の非米諸国のグループに分断されることになる。前者はエネルギー資源には恵まれていない国家が多く、後者はエネルギー資源に恵まれている。日本は前者に属する。エネルギー資源の安定した供給が中断すると、国民生活は大打撃を受け、産業界は操業停止に追い込まれる。
地球温暖化対策で化石燃料の使用を制限しようとする動きはウクライナ紛争の中で西側諸国にエネルギー資源のひっ迫を引き起こし、停止状態にある原発や石炭火力を再稼働せざるを得ない状況となっている。グローバリズムを標榜する政治的欲求から引き起こされたウクライナ紛争は、皮肉にも、彼らのもうひとつの政治的スローガンである地球温暖化政策にブレーキを掛けざるを得ないことになったようである。
ロシアに関してはひとつだけ確かだと思える点がある。たとえば、ロシアに対する食品輸出を西側が停止した際のロシア側の対応策は迅速で、素晴らしい成果を上げた。今回のロシア産原油の禁輸措置でもあの時と同じような状況が起こるのではないか。ロシア側が何もしないで12月が来るのを待っているとは思えない。上述のように、ロシア原油の輸出先はすでに非米諸国へと軸足が大きく移されている。今まで西側からの輸入に頼っていた機材やサービスを内製化するといった、あらゆる種類の準備が今行われていると推測するのが妥当であろう。
結局のところ、原油市場の混乱はその大半が西側での混乱として終わりを迎えるのではないかと、今までの新冷戦の経緯が示している。
ユーロ通貨はその価値を弱めて、対ドルでの地位は最近逆転した。EU圏の経済は過去2か月間収縮し続けている。インフレと失業、そして、エネルギー危機の中でヨーロッパが寒い冬を経験した後にはユーロ離れが起こって、自国通貨を使用し始めるのではないかといった推測が現れ始めた。(原典:Analyst Vasilyev:
Italy, Greece, Spain and Portugal may return to national currencies: By RGRU,
Sep/04/2022)
参照:
注1:Russia just exported the most oil in any August on
record,with Greek tankers handling most of the cargoes: Harry Robertson, MARKETS INSIDER, Aug/31/2022
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