何と言っても、脱ドル化は戦後70数年にわたって世界を席捲して来た米ドルが国際貿易の決済通貨や一国の準備通貨の役割から降りるという話であるから、国際社会にとってはこれは非常に大きな変化となるに違いない。
ここに、「世界は米ドルから脱しようとしている」と題された最新の記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したい。
<引用開始>
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明日にでも、米国を除いて、誰も米ドルを使わなくなるとしたらどうだろうか?各国は自国通貨、つまり、自国経済に根ざした兌換通貨を国内および国際貿易に使うことになろう。その通貨は伝統的な通貨であるかも知れないし、あるいは、政府の管理下で新たに設けられた通貨であるかも知れない。何れにしても、その国が独立国であることを象徴する通貨である。もはや、米ドルは使用されない。米ドルの申し子であるユーロも然りである。米銀ならびに国際送金システムであるSWIFTのコントロール下に置かれた国際通貨決済も行われない。このSWIFTシステムこそが米国によるあらゆる種類の融資あるいは経済制裁を可能にし、促進して来た手段なのである。つまり、外国の資産を差し押さえ、国家間の通商を停止させ、服従を潔しとはしない国家を脅迫する、等々。いったい何が起こるのであろうか?もっとも端的な答えはわれわれは米国の(金融上の)覇権から脱して、世界は平和になり、それぞれの国家は自国の主権を回復し、世界はより平等な地政学的構造に一歩近づくことになろう。
われわれはまだそこには到着していない。しかしながら、落書きが壁いっぱいに書き込まれ、われわれは今急速にその方向へ移動していることを告げている。そして、トランプはそのことを知っており、彼を操る側近たちもそのことを十分に知っている。このことこそが金融犯罪や経済制裁、貿易戦争、外国の資産や準備金の差し押さえ、等のすべてを「米国をふたたび偉大にする」という名目の下で行っている理由なのだ。そして、これらの行為は指数的に増加しており、何のお咎めもない。もっとも大きな驚きはアングロ・サクソンの覇者はこれらの脅かし、つまり、経済制裁や通商障壁は米国の偉大さを構築するのに役立つとする考えとはまったく正反対の結果をもたらすことには気が付いていないようだ。たとえそれがどのような形態であっても、世界が貿易や準備金のための通貨として米ドルを使用している限り、経済制裁は効力を発揮する。
世界中がワシントン政府のグロテスクな横暴振りや米国の専横的なルールに従わない国家に課す制裁には辟易となり、飽き飽きしてしまったら、各国は我先にと他のボートに乗り換え、米ドルを放り出し、自国通貨に価値を見い出すことになろう。これはお互いの通商には自国通貨を使うことを意味する。ひとつの国から他の国への送金がSWIFTを通じて行われる限りは米国の銀行システムは地方通貨を用いた通商を依然としてコントロール下に置くことが可能ではあったが、これは米国の銀行システムの枠外で決済される。
多くの国々は自国経済の価値が米ドルによってますます頻繁に操作されるようになったと感じている。米ドルは非兌換紙幣ではあるが、その膨大な量によって一国の経済を引き上げたり、引き下げたりする。どちらへ動かすは覇権国がその国家をどちらへ追いやりたいか次第である。馬鹿馬鹿しい現状ではあるが、この現象を大局的な視点から眺めてみよう。
今日、米ドルは上昇気流に乗っているわけではなく、むしろ、印刷された紙切れそのものの価値よりも低い。(世界銀行の推定によると)米国のGDPは21.1兆ドルで、現在の借金総額は22.0兆ドル、あるいは、GDPの105パーセントに相当する。フォーブスによると、「未積立負債」(将来支払いが予定されているが積立を行ってはいない借金、主として、社会保障や医療費補助制度のための支払い、および、借金の利息)は約210兆ドルとなり、米国のGDPの約10倍となる。借金の金利が加わることから、この数値は膨らみ続け、ビジネス用語では「債務元利払い」(金利と借金の償却)と称されるが、決して「返済」は行われない。これに加えて、世界中で発行されているデリバティブと称される商品が(誰も詳しい数値をつかんではいないが)1,000兆~2,000兆ドルも存在する。デリバティブは原資産の投機的な変化から価値を生み出す金融商品であって、通常はほとんどが銀行間で取引されたり、株式取引所で取引され、「先物取引」や「オプション」、「先渡契約」、「スワップ」といった種類がある。
この巨大な魔物となった借金は世界各国で米財務省証券の形で外貨準備として保有されている。その一部は米国自身によっても保有されるが、支払いを行う計画はなく、さらに紙幣を発行し、借金を続けている。こうして、米国は休む間もなく戦争を続け、武器を製造するために予算を使い、このゲームの一員として参画することを促すプロパガンダの継続に没頭している。
これが米ドルをベースとした巨大なピラミッドを構成しているのだ。たとえば、(ウオールストリートの)ひとつの、あるいは、いくつかの巨大銀行が破産間際であることからも、この借金の構造が崩壊する場合を想定してみよう。皆が彼らの発行済みのデリバティブやペーパーゴールド(これはIMFからの特別引出権の俗称で、銀行業が生み出したもうひとつのナンセンス)、小銀行からのその他の借金、等々について支払いを請求する。これが連鎖反応を引き起こし、米ドルに依存する世界経済を崩壊させることになろう。「2008年のリーマンブラザーズ危機」を世界規模で引き起こすことになるかも知れないのだ。
トランプカードで作った家のように極めて不安定な経済がもたらす現実の脅威について世界は以前にも増して認識を深めており、各国はこの落とし穴から抜け出し、米ドルの牙から逃れようとしている。ドル建ての準備金や世界中に投資された資産の取り扱いは容易ではない。ひとつの解決策はそれら(米ドルの流通性や投資)を徐々に処分し、米ドル以外の通貨、つまり、中国のユアンやロシアのルーブル、あるいは、米ドルや米国の国際支払いシステム(SWIFT)からは切り離されている通貨バスケットに乗り換えることだ。ところで、ユーロは米ドルの申し子であることに十分に留意されたい!
ブロックチェ-ン技術については今まで以上にさまざまな選択肢がある(訳注: ウィキペディアによると、ブロックチェーンは「ブロック」と呼ばれるデータの単位を生成し、鎖(チェーン)のように連結していくことによりデータを保管するデータベースである。これはビットコインのような仮想通貨で使用されている)。中国やロシア、イラン、ベネズエラは制裁を避ける意味で米ドルの枠外で支払いや送金を行える新システムを構築するためにすでに政府の監督下で仮想通貨の実験を行っている。インドがこのクラブに入会するかどうかは分からない。すべてはモディ政権が東西のどちらを選ぶのか次第だ。論理的に言えば、インドは広大なユーラシア経済圏に属し、ユーラシア大陸の一部であることからも、インドは東方へ傾斜しようとするであろう。
インドはすでに上海協力機構(SCO)のメンバーである。SCOは通商や通貨の安全および国防に関して平和的な戦略を標榜する機構であって、中国、ロシア、インド、パキスタン、中央アジア各国で構成されている。イランは正会員になるべく目下待機中だ。SCOは世界人口の半分を網羅し、世界の経済生産の三分の一を占める。東側は生存のために西側を必要とする訳ではない。西側のメディアはSCOについて報道することはほとんどなく、西側の一般庶民はSCOとは何を意味するのかについては何の理解もなく、どの国がメンバーであるのかについてもまったく知らない。
米国の威圧的な金融パワーに抗し、経済制裁に耐え忍ぶには、政府の監督下にありその規制を受けるブロックチェーン技術は重要な策となるのかも知れない。この新同盟の機構へはどの国の参加であっても歓迎され、通商のための代替策としては新しいとは言え、急速に拡大している。そこでは、参加国は国家政策や金融面で自国の主権を取り戻せるのである。
インド式の「物々交換銀行」は脱米ドルとまったく同じ文脈にある。たとえば、これらの銀行はインド産のお茶をイラン産の原油と交換する。イラン産の原油に対してインドの産物と交換する業務はインドの「物々交換銀行」が取り扱い、両国の通貨、つまり、イランのリアル通貨とインドのルピー通貨が同銀行で処理される。この物々交換ではイランの炭化水素製品に対してはインドの貿易品目の中でも金額的にもっとも大きい品目が選ばれる。たとえば、イランからインドに輸入される品目で大きなものはお茶だ。インド外部では金銭的な決済は何も行われない。こうして、米国による経済制裁は回避される。米銀や米財務省はこの種の二国間の経済活動に関しては何等の干渉もすることはできないからだ。
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米国およびEUによる経済制裁が課されているにもかかわらず、ドイツのロシアへの投資はこの2019年には過去10年来の新記録を更新した。ドイツの業界は2019年の最初の3か月間に17憶ドル以上をロシア経済に注入した。ロシア・ドイツ商工会議所によると、ドイツ企業によるロシアへの投資は前年度比で33パーセント増、4億ドル増を示した。総投資額は32億ドルに達し、2008年以降で最大規模になった。同商工会議所に登録され、調査を受けた140社のドイツ企業は経済制裁によって約10億ドルの被害を被り、西側による反ロ圧力が高まったにもかかわらず、ロシア・ドイツ間の貿易は2018年に8.4パーセント増加し、約620憶ドルの規模に達した。
加えるに、米国からの反論や経済制裁による脅威があったにもかかわらず、モスクワとベルリンの両政府は天然ガスを輸送する「ノルドストリーム2」のプロジェクトを継続した。このプロジェクトは2019年末には完成の予定である。ドイツやヨーロッパにとってはロシア産天然ガスは自国の近くで入手が可能であって、非常に自然で論理的な供給源である。また、そればかりではなく、ロシア産天然ガスは米国の強圧的な売り込みを回避し、米国から独立することが可能となるのだ。そして、支払いは米ドルでは行われない。長期的に見ると、ドイツ・ロシア間のビジネスや経済関係の利益は非合法的な米国による経済制裁がもたらす損害を遥かに上回るであろう。この種の理解が浸透した暁には、ロシア・ドイツ間のビジネス関係が開花するのを止める術はなく、他のEU諸国とロシアとのビジネス関係をも誘い込み、それらはすべてがドル建ての金融・送金システムの枠外で行われる。
トランプ大統領による中国との貿易戦争は中国がアジアやアジア・太平洋地域およびヨーロッパで他の貿易相手国を見い出すことを促す。結局のところ、これは脱米ドルの効果をもたらす。これらの国々や地域については中国はドル建て契約やSWIFT送金システムの枠外で貿易を行う。たとえば、中国国際支払いシステム(CIPS)を活用する。この中国のシステムは如何なる国家に対しても国際貿易のために門戸が解放されている。
これは中国からの輸出品に対する厳しい関税を回避するばかりではなく(中国製品を求める米国の顧客にとっては中国製品が適度な価格では入手できなくなることを意味することから、あるいは、まったく入手することができなくなることから、これらの顧客を激怒させ)、この戦略は国際市場では中国ユアンを強化し、中国ユアンを信頼できる準備通貨としてもてはやすであろう。やがては米ドルを凌ぐことになろう。事実、ドル建ての資産は20年前には90パーセント以上を占めていたが、今や60パーセント弱に減少している。そして、ワシントン政府による威圧的な金融政策が継続する限り、この数値はさらに低下する。ドル建ての準備金は急速にユアンや金に置き換えられよう。オーストラリアのような強情な西側支持国においてさえも然りだ。
ワシントン政府はトルコに対しても非建設的な金融政策を開始した。これはトルコがロシアやイラン、中国との間で友好的な関係を築こうとしているからである。何よりもまず、NATOでは重要な地位を持つトルコがロシアから最先端技術のS-400対空ミサイルシステムを調達しようとしているからだ。米国としてはトルコ・ロシア間の新たな軍事的同盟関係を受け入れることはできないのだ。その結果、米国はトルコ通貨に対して邪魔立てをし、リラ通貨は2018年1月以降で40パーセントも下落した。
トルコは米ドルの抑圧や通貨に対する制裁からは何としてでも逃れようとしてあらゆる策をつくすことだろう。そして、さらに東側との同盟を求めるであろう。これは米国にとっては二重の失敗となる。トルコは米ドルによる貿易を放り出し、たとえば、自国の通貨を中国のユアンやロシアのルーブルと連携させ、トルコはNATOを離脱するかも知れない。大西洋同盟にとっては痛手となるに違いない。トルコは戦略的に重要であり、NATO29ヵ国の加盟国の間では、米国を除くと、NATOの軍事力としては最強メンバーのひとつであると見なされていることからも、NATOからの離脱は米国にとっては大失敗となる。
もしもトルコがNATOから離脱するとすれば、ヨーロッパのNATO同盟全体が影響を受け、NATOの存在が問い質されることであろう。長い間警戒心を抱き続け、NATOの核兵器を国内に貯蔵する国々、特に、イタリアとドイツはNATOからの離脱を試みるかも知れない。ドイツとイタリアでは、一般市民の過半数がNATOに反対であり、特に、ドイツやイタリアの国内にあるNATO基地から発進し、戦争を遂行するペンタゴンのやり方に反対をしている。
この潮流を阻止するために、前ドイツ連邦国防相であって、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)のウルズラ・フォン・デア・ライエンがジャン・クロード・ユンケルの後継者として欧州委員長の座に就く準備が進められている。ユンケル氏は2014年から委員長の座にあった。フォン・デア・ライエン氏は今晩7月17日に9票差で選出された。彼女は頑迷なNATO支持者である。彼女の役目はEUからは不可分なNATOを維持することにある。今日のNATOを見ると、NATOは、事実、EUを動かしている。しかしながら、一般市民はNATOに反対し、米国の衛星国の立場にいることを反対し、ブリュッセルの指導層に反対している。自分たちの市民国家の民主的権利を要求して一般市民が立ち上がった暁にはNATOの現状は大きく変化することだろう。
ペンタゴンが開始し、ワシントン政府に同調するヨーロッパの操り人形的な同盟国によっても支持されている現行の戦争や紛争は核戦争に発展する可能性があることをヨーロッパ市民は感じ取っているのだ。自分たちの国内にあるNATOの基地は最初の攻撃目標となって、ヨーロッパをこの100年間で三回目の世界大戦の戦場に化してしまう恐れがある。しかしながら、三回目の大戦は核戦争であることから、そのような大惨事の被害や破壊の程度を知る術はなく、可能でもない。母なる大地は核戦争の被害から回復する時間さえも与えられないであろう。
トルコがNATOから離脱することを期待しようではないか。これはトルコの通貨に対してワシントン政府が課す脅迫や邪魔立てに対抗するものであって、平和で健全な対応を求める大きな第一歩となるであろう。米国によるトルコ通貨に対する制裁は、長期的に見ると、神の恵みでさえある。トルコにとっては米ドルを破棄し、東側の通貨、主として中国のユアンに徐々に移行する。これは米ドルの棺に打ち込まれるもう一本の釘となる。
ところで、ワシントン政府にとってもっとも耐え難い打撃はトルコがNATOを離脱する時であろう。フォン・デア・ライエンがNATOのために執拗に闘ったとしても、この動きは遅かれ早かれやって来る。NATOの崩壊はヨーロッパだけではなく、800カ所以上の米軍基地が存在する全世界においても西側の権力構造を破壊することだろう。その一方で、NATOの解体は世界の、特に、ヨーロッパの安全保障を改善し、それはこのようなNATOからの離脱がもたらす悪影響のすべてを相殺して、さらに余りがあるだろう。NATOからの脱退、ならびに、米ドルの軌道から抜け出すことは脱米ドルのための重要な一歩であり、これは米国の金融および軍事上の覇権に大打撃を与えるだろう。
最後に、中国の一帯一路(BRI)、あるいは、新シルクロードの政策に向けた投資はほとんどがユアン建てとなり、ひとつあるいはいくつもの地域や海域にまたがる当事国の現地通貨で行われ、これはやがて全世界に広がって行く。いくつかの米ドルによる投資は中国が保有する2兆ドル近くの準備金についてドル売りを行う道具として中国の中央銀行である中国人民銀行のために仕えることになろう。
BRIは次世代型の経済革命、つまり、今後数十年間、多分、今後一世紀間にも及ぶ非米ドルによる経済開発構想を約束し、各国の人々や数多くの国々を連携させ、文化や研究、教育は均等性を強制せず、むしろ、文化の多様性や人間性の平等を推進する。そして、それらはすべてが米ドル王国の枠外で行われ、悪名高い米ドルの覇権を崩壊させる。
著者のプロフィール: ピーター・ケーニッヒは経済学や地政学的な分析を専門とする。世界銀行にて30年間仕事をした後に、実務経験に根ざした経済に関するスリラー「インプロ―ジョン」を出版。オンラインマガジン「New Eastern Outlook」に独占的に投稿している。
<引用終了>
著者のプロフィールに記載されている書籍「インプロ―ジョン」を検索してみると、そのキンドル版を垣間見ることが可能だ。
著者は途上国の経済開発を取り扱う「開発経済学」に終生を捧げてきた。世界銀行に勤務して、貧困や飢餓、失業、教育、環境、飲料水、等の問題に取り組み、世界を駆け巡った。世界銀行やIMF、その他の経済発展を推進する諸々の組織が繰り広げる業務を通じて彼らが展開する仮面舞踏会の真の姿を見い出した時の感慨が著者の記述からありありと実感される。察するに、その時の印象は人間味を感じさせない、寒々とした風景であったに違いない。
たとえば、世界銀行やIMFは貧困国へ向けて過去に何兆ドルもの融資を行って来たが、何の役にも立たなかったと彼は言う。貧困を和らげる代わりに、この膨大な額の資金の流入はかえって債務を増加させ、貧困をさらに悪化させるだけに終わった。たとえば、アフリカ諸国の平均的な福利厚生は1970年代初頭のレベルに置き去りにされたままである。世界銀行の基本的行動理念はワシントンDCにあるきらびやかな本社の入口に掲示されているが、それは「我々の夢は世界の貧困を撲滅すること」と唄っている。
こうした現状を念頭に置いて引用記事を読んでみると、米国とその同盟国との関係が如何に一方的であり、不条理なものとなり易いかを理解することができる。「偉大な米国を取り戻す」と言って、2016年の大統領選で選出されたトランプ大統領は対外政策ではあらゆる機会に米国の一方的な利益を追求しようとする。そこには、EUや日本といった同盟国を相手にしてさえも、自国の利益のために難題を吹っかけて来る強引な姿勢があり、はた目には見苦しいほどだ。
引用記事の著者が声援を送っているトルコのNATOからの脱退に目を向けてみよう。1991年のソ連邦の崩壊によって東西の冷戦は終った。あれからすでに28年、NATOはとっくの昔に本来の存在理由を失った。その代わりに、NATOは米国の軍産複合体の利益代弁者となった。世界中の人々にとっては大きな不幸であるが、米国による絶え間のない戦争が米国の経済を支えている。何という皮肉であろうか。確かに、NATOが解体すれば、著者が展望する近未来小説の舞台はどの国にとっても遥かに住みやすい世界となることだろう。
賞味期限がとっくに過ぎてしまった米国を何時までも「偉大な米国」に維持しようとすると、必然的にその代価は大きくなるばかりであり、米国以外の国々がその多くを負担しなければならない。この構図はトランプ政権になってからはっきりとしてきた。日本は経済力が大きいが故に米国の期待も大きい。中国もドイツも然りだ。ロシアについては同国が保有する天然資源をただ同然で入手しようと、米国の地政学的な攻撃目標となっている。はた迷惑な話である。
ところで、7月22日のニューヨークタイムズ紙に異変が起こったと報じられている。RTの「極寒の日々は過ぎ去ったか?ニューヨークタイムズは対ロ関係を改善し、トランプを祝福したい」と題された記事(注2)によると、今までの2年間反ロ政策を喧伝し、トランプ大統領を敵のように批判してきた同紙は、7月22日、急遽方向転換をした。何のためか?これは中国の進出を阻止するためだ。米国としてはロシアと中国という二正面作戦から中国だけに焦点を絞ろうという戦略だ。これは攪乱のための一時的な動きであるのか、あるいは、新たな戦略なのかは時間が経たないと分からない。
すでに同盟関係が深化している中国とロシアの関係に風穴を開けることができるかどうかは不明だ。米国が抱える弱点や山積する国内問題に目を向ければ、中国一国を相手にしたとしても、疲弊した米国経済にとっては、依然として、負担が大き過ぎるのではないか・・・。米国は対外政策のために軍事予算(つまり、税金)を浪費するのではなく、今や国内問題の解決に向けて国家予算を戦略的に投入するべき時だ。
7月8日付けの投稿「米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった」の最後に記述しておいたように、米国人が米国を自分の故郷として誇れるようなごく普通の国家に早くなって欲しいものだ。
参照:
注1: The World is Dedollarizing: By Peter Koenig, NEO, Jul/18/2019
注2: Hell
freezes over? New York Times wants closer relationship: By RT, Jul/22/2019
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