2019年7月1日月曜日

いったい誰が得をするのか - イランにはオマーン湾でオイルタンカーに向けて魚雷攻撃を仕掛けたり、戦争を引き起こしたりする理由がない

6月13日、オマーン湾で2艘のオイルタンカーが何者かによって攻撃され、その内の1艘に火の手が上がった。攻撃された両タンカーの船員は全員がイランの救助艇や韓国の貨物船によって救助され。イランの港へ運ばれた。これらのタンカーはペルシャ湾から出て、オマーン湾上にあり、インド洋に向かうところであった。この事件の1ヶ月前には、他に、このオマーン湾で4艘のオイルタンカーが攻撃を受けていた。

米国のマイク・ポンペオ国務長官はこの攻撃はイランの仕業だと言った。この判断は諜報データに基づいたものだと付け加えたが、証拠は示さなかった。

オイルタンカーが攻撃されたとの報道を受けて、原油の取引価格は4パーセント強急騰したという。しかしながら、マスコミ各社によって騒がれた割には原油の急騰はさらに悪化する気配はなかった。率直に言って、このオイルタンカーの攻撃ではイランの仕業であるとする米国の主張は説得力に欠けており、多くの人たちは「自作自演ではないか」、あるいは、「イランではなく、他の国が関与しているのではないか」という疑念を抱いたものと推測される。

ここに、「いったい誰が得をするのか - イランにはオマーン湾でオイルタンカーに向けて魚雷攻撃を仕掛けたり、戦争を引き起こしたりする理由がない」と題された記事がある(注1)。タンカー攻撃を行った犯人は名乗り出てはいない。誰が犯人であるのかは目下推測の域を出ない。このような状況下では「誰が得をするのか」を分析してみることが常道だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>




Photo-1: 資料写真: 2018年12月21日、ホルムズ海峡を通過するオイルタンカー。© Reuters / Hamad I Mohammed/ File Photo

ワシントン政府からの非難があったにもかかわらず、分析の専門家らはRTに対して「イランにはオマーン湾においてオイルタンカーを攻撃する動機はない」と言う。この不振な事件はテヘラン政府を支援するどころか、逆にテヘランに害を与えたと述べた。

「フロント・アルタイル」と「コクカ・カレイジャス」の2艘のタンカーが木曜日(6月13日)に攻撃を受けた後、イランはこれらのタンカーの乗組員44人を救出した。マイク・ポンペオ米国務長官は、イスラム共和国がワシントン政府の経済制裁に欲求不満を覚え、攻撃をしたのだと主張し、この事故の責任を速やかにイランになすりつけた。

しかしながら、RTと話をした分析専門家らはポンペオの理由付けには疑問を呈している。

「いったいどういう理由でイランは攻撃をするというのか?」

テヘラン政府にとってはオイルタンカーを攻撃して得をすることは何もない、と国防関連の分析を専門とする退役中将のアムラジ・ショアイブが述べている。

「イランはいったいどうしてそんなことをすると言うのか?彼らには戦争を始める理由なんてないし、現状を悪化させる理由もない」と彼は強調する。

この攻撃への関与についてテヘラン政府は断固として否定した。イランのジャヴァド・ザリフ外相はこの事件は非常に不審であると言い、ワシントン政府が証拠も示さずに主張している非難はイラン政府の外交努力を台無しにしようとする魂胆からだと付け足した。

rt.comからの関連記事: ‘Iran written all over it’: Trump accuses Tehran of carrying out tanker attacks 



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また、専門家らはこの攻撃は不可思議なタイミングであるとも指摘している。折りしも、日本の安倍晋三首相がイランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師と会談をしている最中であったからだ。日本の首相がイランを訪問したのは40年振りのことであり、偶然にも、攻撃された2艘のオイルタンカーのひとつは日本企業の所有である。

日本企業の国華産業(株)は金曜日(6月14日)に同社のタンカーは二発の「飛行物体」による攻撃を受けたが、積荷のメタノールには何の影響もなかったと発表した。

弁護士で中東の専門家であるクーロシ・シャムルーはRTに対して次のように述べている。そのような歴史的な会談を文字通り妨害するなんてあり得ないことだ。特に、そのような行為は反イランを標榜するワシントンのタカ派の手中に陥るようなものであるからだ。

「私は弁護士だ。この犯罪ではいったい誰が得をするのかを理解しなければならない。われわれはペルシャ湾におけるイランと米国の地政学的な状況を見定めることができる。イランは米国によるイラン攻撃をもたらしかねない船舶攻撃には決して踏み切らないだろう。そのようなことをすれば、米国にイランを攻撃する口実をわざと与えてしまうことになる。つまり、タンカー攻撃を行ったのはイランではない。」

事実、この事件はすでにイランに対して経済的影響を及ぼし始めたとテヘラン大学で政治学教授を務め、カールトン大学の客員教授でもあるハメド・ムサヴィはRTのインタビューで指摘した。

「イラン通貨は今日5パーセントも下落した。これは事態が悪化しているとの言説や戦争が起こる可能性があるからだ。目下イラン政府がもっとも望んでいることは米政府との状況を改善することにあると私は推測する」とムサヴィ教授は言う。 

「主流の陰謀論」: 

大手メディアはポンペオのイランに対する非難については彼の論理について質問するでもなく、証拠を求めるでもなく、ただ彼の非難を忠実に右から左へ流しているだけであって、この事実は驚くには値しないと政治分析の専門家であるシャッビール・ラズヴィが意見を述べた。

「湾岸地域、特に、ペルシャ湾やホルムズ海峡においては、過去数ヶ月間、何かが起こるや否や米国は速やかにイランの責任を追及しようとして来た」と彼は言った。この現象はワシントン政府や無批判なメディアによって推進されている「主流の陰謀論」であると説明を加えた。

rt.comからの関連記事: Sabotage diplomacy: Zarif says no need to be ‘clairvoyant’ to see US ‘plan B’ for Iran 


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ラズヴィは、ワシントン政府やその同盟国が証拠もなしにこの攻撃の犯人が誰であるのかを公言することは非常に無責任だと強調した。しかしながら、軍事行動を起こすために筋書きを作り上げようとする国が少なくともひとつはあるとシャムルーは指摘する。

「突然、何らかの出来事が発生する。米国は犯人はベトナムだ、イラクだ、あるいは、イランだと言い始める。そうすることによって、彼らは自国の軍が攻撃を開始する正当な理由をでっち上げる。」 

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

たとえ米国がイランの犯行説を声高に喋ったとしても、説得力がついて来ない。6月17日のニューズウィークの日本語版は「タンカー攻撃、イラン犯行説にドイツも異議あり」と題して米国の同盟国の間でも足並みが揃ってはいない現状を伝えている。ドイツのハイコ・マース外相は14日、米政府の証拠に疑問を呈した。米国の主張を支持しているのは英国だけである。

「Japanese tanker owner contradicts U.S. officials over explosives used in Gulf of Oman attack」と題された6月14日付けの記事によると、「コクカ・カレイジャス」の所有者である国華産業(株)の社長は、同社のタンカーの乗組員が爆発の寸前に飛行物体を見ていることや損傷を受けた場所が喫水線よりも上側にあって、爆発を起こしたのは魚雷とか水面下に設置される吸着機雷とかのせいではないと報告している。明らかに、米国の説明とは食い違う。

上記の見解や様々な指摘を読むと、このオマーン湾上での2艘のオイルタンカーの攻撃は、米国がどのような発言をしようとも、イランの仕業ではないことがほぼ確実だ。

時間が経過するにつれて、トランプ大統領は国内でも、国際世論においても孤立する可能性が高い。米国の2018年の世論を見ると、大多数が海外で行われている終わりのない米国の戦争を嫌っており、70.8パーセントが海外での武力侵攻を抑制する立法を求めている(原典:A New Poll Shows the Public Is Overwhelmingly Opposed to Endless US Military Interventions: By
James Carden, Jan/09/2018)。

そのような世論の中、トランプ大統領が来年の米大統領選で再選を目指しても、今回の発言は大失敗だったと後悔することになるかも知れない。あるいは、再選を目指して、得意の大英断によってまったく異なる声明を発表して窮地からの脱出にまんまと成功するのかも知れない。

「犯人はイランだ」と述べたトランプ大統領は今後どのように軌道修正をするのであろうか。見ものである。

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そして、もうひとつの出来事が中東を震撼させた。

米軍はイラン国内の攻撃目標に向けて空爆を開始するところであったが、その10分前にトランプ大統領によって中断されたとの報道が1週間弱前に現れた。この攻撃は米軍のスパイドローンがイラン軍によって撃墜されたこと(6月20日)を受けた報復攻撃であると説明された。米国はこのドローンは公海上にあったと言う。だが、イランの高官は反論している。

6月22日、イランのザリフ外相はイランが撃墜したドローンの詳しい飛行経路を示した。撃墜時刻は午前4時5分、撃墜場所は北緯25度59分43秒、 東経57度02分25秒であると発表した。



Photo-4: 青線が撃墜されたドローンの飛行経路。オマーン湾に入ってからどこかでUターンをし、北西から北北西に向けて飛行していたが、最後にイランの領海を示す赤線の内側へ入り込んだ。撃墜場所が赤の四角で示されている。

イラン外相が反論したばかりではなく、6月25日のAFPの報道によると、ロシアの安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記が「テヘラン政府によって撃墜された米国のドローンはイランの領空を侵犯していた」と述べている(原典: Moscow says downed US drone was in Iranian airspace: By afp.com, Jun/25/2019)。このロシアの公式発言は米国にとっては非常に重い。

米国のドローンがイランの領空を侵犯したというイランならびにロシアの主張に対して、その後、米国側からのさらなる反論は無い。通常、直ぐにでも反論して来るのが米国流の外交であり、他国をコントロール下に置く覇権のテクニックだ。米国が沈黙を守っている場合は、米国側には反論のしようがないのか、それとも、次の機会を待っているのかのどちらかであろう。

ペルシャ湾からオマーン湾にかけてのオイルタンカーの航行は非常に頻繁である。その混雑ぶりを示すものとして、やや古いデータではあるが、2012年6月2日のある時点での船舶の航行の状況を見ると、こんな具合だ。



Photo-5: 混雑するホルムズ海峡

現在、原油を積み込んだタンカーは毎日10艘から40艘もホルムズ海峡を通過する。今回の事件、ならびに、5月12日に3艘のタンカーと1艘の燃料補給船に対して行われた攻撃を反映して、用船料は10~20パーセント上昇し、保険料も10~15パーセント上昇したという。こうしてペルシャ湾から運び出される原油はほとんどが東アジア向けである。中国、日本、韓国、シンガポール、インドネシアへと輸送される。この地域で活動する海運関連企業は世界で2000社ほどもあって、今回の事件で用船の予約を即座に止めたのは2社だけであったとのことだ。危険が増してはいるが、海運業は毎日継続されている。

もしもイランが戦争に巻き込まれたならば、中東からの原油輸出は完全に中断されるだろう。日本は万事休すだ。ある報道は下記のように伝えている:

消息筋は次のような内容を確認した。戦争が起こった場合、イランは中東からの原油の輸出を完全にストップさせる。これはオイルタンカーを攻撃することによってではなく、中東各国の原油生産施設を攻撃することによってだ。相手国が同盟国あるいは敵国であるかどうかには関係なくこれを実施する。その目的は中東から世界中に輸出される原油のすべてを中断させるためだ(原典: Iran and Trump on the edge of the abyss: By Elijah J. Magnier, Information Clearing House, Jun/24/2019)。 

トランプは外観だけでもイランとの戦争に勝ちたいと思っている。しかしながら、イラン政権はトランプに対しては何の親切心も示さない。これはトランプがイランに対して親切心を示さないのとまったく同じだ。トランプはイラン原油の輸出を一方的に差し止め、イラン経済を窮地に陥れようとする経済制裁は戦争行為であるという事実を忘れてしまったかのようだ。トランプはすでに宣戦布告をしたに等しい。

ここで、トランプが次回の大統領選のために表面的にでもイランとの戦争に勝とうとしていることを示す格好のエピソードをご紹介しておこう。

消息通によると、イランは米国の諜報部門が示した提案を拒否した。米国側は、第三者を通じて、イラン側にとんでもない提案をしてきた。米軍の空爆目標としてイラン側が1ヵ所、2ヵ所、あるいは3ヵ所を選び、それを米国側に伝え、トランプはそれらの目標を空爆するというものだ。そうすることによって、両国はそれぞれが勝者としてこの戦争を終わらせ、トランプは面子を保つことができる。イランはこの提案を断固として拒否した。「たとえイランの人っ子ひとりもいない砂浜に対する攻撃であっても、湾岸地域の米軍施設に対してミサイルによる報復攻撃を行う」と回答した。(原典:Iran and Trump on the edge of the abyss: By Elijah J. Magnier, Information Clearing House, Jun/24/2019) 

舞台裏ではあきれる程に漫画的なやり取りがあったのだ。

ところで、世界の海運業界は安全を確保するために海軍の出動を議論しているが、米国は今やペルシャ湾沿岸からの原油の輸入がないことから、米海軍がしゃしゃり出る幕ではなく、東アジア諸国が対応するべきだとの姿勢をとっている。

しかしながら、ここでは軍事的対応策を考えるのではなく、本質的な解決策、つまり、政治的な決断を優先することが大事だと私は思う。特に、日本にとってはこれは死活的な大問題である。

そもそも、この問題は米国がイラン合意から離脱すると一方的に宣言したことから始まったことだ。米国がイランを敵視する政策を引っ込めさえすれば、すべてが解決する問題である。米国は国際法や条約を無視する対外政策、ならびに、傲慢な例外主義やグローバリズム、新資本主義、経済制裁といった政策を改めるべきである。世界は好戦派のネオコンとはおさらばしなければならない。

中国、日本、韓国、シンガポール、インドネシア、ならびに、EUは結束して、米国にそう提言するべきだ。


参照:

注1: Cui bono? Iran has ‘no reason’ to torpedo oil tankers in Gulf of Oman and ‘go to war’: By RT, Jun/14/2019,
https://on.rt.com/9wdt

 

 

 

 

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