2019年7月8日月曜日

米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった

あるニューズレターの最近号に大手メディアでは報じられないような秘話が含まれていた。

「板門店で電撃の米朝首脳会談」と題されたその記事
(http://tanakanews.com/190629korea.htm、2019年6月29日)は国際政治は今大きく舵を切っているんだなあ・・・と実感させるのに十分な内容であった。そこに含まれていたふたつの秘話をここに簡単にご紹介しておこう:

(1)日中関係: 日米安保の代わりとして、中国は昨秋、安倍の訪中時に、日本と安保協定を結びたいと提案していたと、先日、暴露された。こんな暴露が今の時期に行われた点も興味深い。

(2)日韓関係: ハブ&スポーク的な日韓別々の対米従属を維持するための、子供じみた日韓の相互敵視も、米国の覇権低下とともに下火になり、日韓も安保協定を結ぶ。日本の対米従属の終わりが、すぐそこまできている。

日本の対米従属の終わりが本当にすぐそこまで来ているのかどうかは私には分からない。そのようなことは日頃のマスコミ情報からはこれっぽっちも感じられない。また、日米安保条約の代わりに日中安保条約が締結される日が来るのかどうかも私には分からない。しかしながら、国際政治の趨勢を読み取ろうとする専門家は多くの関連情報を収集し、それらの情報の全てを俯瞰し、それらが何を意味するのかを読み取ろうとする。こうして出来上がったジグソーパズルから見えて来る将来像には、おそらく、かなりの信憑性が秘められているのではないか。少なくとも可能性のひとつとして、あるいは、方向性のひとつとして自分の思考過程に放り込むことは意義深いと思う次第だ。

日本での毎日の生活の場を考えてみよう。これらの情報が存在していることも知らずに毎日NHKの報道を視聴している場合とたとえその情報量が小さなものであったとしても外部に存在するさまざまな情報を理解した上でNHKのニュースを視聴する場合とを比較すると、そこには大きな違いがあると言わざるを得ない。多くの場合、その違いはべらぼうに大きい。

米国による覇権を維持する道具のひとつとして国際通貨として何十年間も使用されてきた米ドルに目を向けると、近年、脱ドル化が急速に進行したことが分かる。たとえば、中国は「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立し、アジア地域における米ドルによるインフラ投資を避けるためのシステムを構築した。2016年1月、同銀行の開業式典が行われた。57ヵ国が創設メンバーとして加わり、2019年4月の時点では97カ国・地域が加盟しているという。また、世界最大の原油輸入国である中国は、2018年3月、上海の先物市場でユアン建ての原油取引を開始した。原油の価格形成は従来米欧の独占であったが、ここに世界最大の原油輸入国である中国がこのプロセスに参入し、その影響力を構築し始めたのである。何時の日にかオイルダラーがオイルユアンに取って代られるのかも知れない。

米国の覇権が低下すればするほど、日米安保条約の存在の意味は薄れ、米ドルの強さは低下する。日本国内での日常生活ではそのことを実感する機会は決して多くはないけれども、少なくとも、国際政治の論議においては脱ドル化が何らかの形で論じられることがない日なんて一日もない程だ。今や、これが昨今の現実なのである。

ここに、「米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

この表題から感じられるのは「米ドルと喧嘩別れはしたくはない。あくまでも友達として別れようではないか」という紳士的な姿勢だ。思うに、経済制裁や気に入らない政府の転覆、空母の派遣、軍事演習の実施、国際法の無視、条約からの離脱といった諸々の米国の行動を見て、この紳士的な姿勢は米国に対する忠告の言葉である。これは現実の政治とは違った、単なる理想の追求でしかないのではないかと誰かが言うかも知れないが、米国の同盟国の一員である日本に住むわれわれとしては、凋落が始まっている米国との同盟関係を解消する時が来た際にどのようにお別れをするべきかを考えると、これは実に現実的な局面を想定しているとも言える。

<引用開始>

過去の2年間にわたって、ホワイトハウスは貿易論争を引き起こし、同盟国を敵国同様に侮辱し、多国間の条約や合意から脱退したり、批准を拒んだりしてきた。米政府は一方的な規則の適用を広め、米国の要求を他国が受け入れるよう強いた。そうしなければ経済制裁を課すぞ、と脅しをかけた。トランプ政権は米国にとってもっと有利な環境を新たに作ろうと意図したが、結果はその意図とはまったく違って、「ワシントン政府は不安定で、パートナーとしては頼りにならない、信頼することもできない」という共通の認識が国際的に広まって行った。そして、この感情は各国政府間に如何にして米銀を回避するかという議論をもたらした。米銀は、爆弾を投下することを除けば、ワシントン政府にとっては他国を自分たちの命令に従わせるもっとも攻撃的な武器であるのだ。

結果的には、「米国を再び偉大な国に」するというキャンペーンはとてつもなく大きく、否定的な反応をもたらした。裏を返せば、米国の「偉大さ」は他国を偉大な存在ではなくなるように仕向けることによって実現されるのである。米国に好意を抱いている唯一の国家はイスラエルであるが、トランプ政権が与える寛大さを考慮すると、同国にはそう考える理由が間違いなく存在する。イスラエルを除くと、どの国も米国の影響下から離脱することに熱心である。

窮鼠猫を噛むという状況がついにやって来たのだ。ドイツの無関心なアンゲラ・メルケルでさえも、今や、米国がとんでもない要求をして来た時には国益を最優先すべきだということを理解している。東京(訳注:これは間違いで、開催地は大阪)で開催された最近のG20サミットでは英国、フランス、ドイツは今まで取り組んできた「貿易取引支援機関」(INSTEX)が完成し、稼働を始めたと発表した。 これはヨーロッパの企業が、貿易をSWIFTシステムの枠外で進めることによって、米国からの経済制裁を受けずに、イランのような国家ともビジネス関係を築くことを可能とするものである。SWIFTシステムでは米ドルが圧倒的に多く使用され、同システムは米財務省の実質的なコントロール下に置かれている。

このヨーロッパの動きが何を意味するのかという点は決して軽視するべきではない。世界貿易の決済用としての通貨や準備通貨としてのドルの優位性から離脱するという観点からは、これは実に大きな第一歩であるからだ。多くの場合がそうであるように、米国の国益が被るであろう損害は自ら招いたものだ。米ドルを介さない貿易メカニズムの設定は何年も前から論じられてきたが、トランプ政権が1年前に突然イランとの「包括的共同行動計画」(JCPOA)から離脱すると宣言するまでは何の進展もなかった。

JCPOAには他にも締約国があるが、何れの国もホワイトハウスの動きには激怒した。何故かと言うと、このイランとの合意はイランの核兵器開発を防止し、中東地域での緊張を和らげる上では立派なものであると誰もが信じていたからだ。ヨーロッパの大国であるドイツ、フランス、英国はロシアや中国と並ぶ締約国であり、この合意は国連安保理によっても承認されていた。したがって、「行動計画」を潰そうとする米国の離脱は他のすべての締約国には非常に否定的に受け止められ、ワシントン政府がイランに対して再度経済制裁を課すこと、ならびに、イランとの交易に関する制約に準拠しない第三国に対しても二次的な経済制裁を課すことを宣言した時、これらの締約国の怒りはさらに高まった。

INSTEXは実際に送金をすることもなくイランとの貿易を決済するためにヨーロッパの国々が1年前に設立した「特別目的事業体」(SPV)をさらに改良したシステムである。言わば、これは差し引き勘定に基づいて決済する物々交換取引のようなものだ。このINSTEXに関する発表は先週ウィーンで米国を除くJCPOA締約国がイラン政府の広報担当官であるアッバス・ムサビと会合を持った結果であった。ムサビはこの会合を「残された締約国にとっては、一堂に会し、どうしたらイランとの合意を果たすことができるのかを探る最後の機会である」と評した。

この新たな取り組みには批判があり、INSTEXは十分ではないとイラン政府が公言し、イランはウランの増産計画を実行すると述べているが、イランはこの展開を静かに歓迎している。マイク・ポンぺオ国務長官は直ぐに反応し、先週ニューデリーで「もしも紛争が起こり、戦争が起こり、あるいは、物理的な行動が起こったならば、それはイラン側がそのような選択肢を選んだからに他ならない」と言った。そうとは言え、INSTEXはイランがワシントン政府からの妨害も無しに自国の原油を売ることができるひとつのモデルとなるだろう。しかしながら、ホワイトハウスからの鋭い反応に見舞われることは間違いない。INSTEXが開発の段階にあった頃、米国からの会議参加者は実際の貿易を決済する「イランの特別貿易金融商品」にはすでに米国の経済制裁の対象となっている省庁も含まれていると指摘した。そういったことがあり得るということはワシントン政府はヨーロッパ各国に対する二次的な経済制裁に頼ることを意味し、これは間違いなく二国間関係を今よりもさらに厳しい危険に曝す動きとなるであろう。世界貿易戦争が起こる可能性は明らかであって、上記に論じて来たように、国際的な準備通貨として用いられてきた米ドルからの離脱は今までの出来事がもたらす当然の結果であって、起こり得ることだ。

トランプは「イスラム共和国との貿易を米国の経済制裁から防護するためにドイツ、英国、フランスが作り上げた金融手段に対してすでに脅しをかけている。」 テロ・金融諜報担当の財務次官であるイスラエル生まれのサイガル・マンデルカ―は5月7日付けの手紙の中で次のような警告を発した。「あなた方にはINSTEXが経済制裁に曝されるかも知れないことを注意深く考えて貰いたい。米国の経済制裁に抵触するような行動は深刻な結果をもたらし得る。たとえば、米国の金融システムへのアクセスを喪失することになるであろう。」 

実際に、ホワイトハウスはイランに対する制裁をゴリ押しして、ヨーロッパとの経済戦争さえも辞さないかのようである。財務省はマンデルカ―の手紙に関して声明を発表し、「イランとの貿易の決済では、それが如何なる手段であろうとも、当事者は制裁を受けるリスクに曝される。米財務省はその権限を積極的に行使する積りだ」と述べている。また、5月8日のロンドン訪問中にマイク・ポンぺオはこう言った。「・・・どんな決済手段があるかは問題ではない。その決済が制裁の対象に該当するならば、われわれはその案件を評価し、審査し、そうすることが適切であると認められる場合はその決済に関与した当事者に対して制裁を課す。これは実に明快だ。」 

ヨーロッパの連中が成功することを祈りたいと思うが、これは決して不適切ではない。何故ならば、彼らは自由貿易を支持し、ホワイトハウスが金融システムを使って推進する他国への脅かしには反対の立場を表明しているからだ。米ドルが貿易の決済通貨、あるいは、準備通貨としての役割を辞するとしても、だからどうだって言うんだ?それが意味することは財務省が余分なドル札を印刷する必要はなくなるだろうということであり、米国がクレジットカードにおける世界規模の覇権を維持する能力には大きな妨げとなるであろうということだ。これらは、むしろ、好ましい結果である。そればかりではなく、米国は間もなく米国人が自分の故郷であると誇ることができるようなごく普通の国家になって欲しいと誰もが希望することだろう。

著者のプロフィール: フィリップ・ジラルディは博士号を持ち、「Council for the National Interest」の専務理事を務める。以前はCIAの作戦要員や陸軍の諜報将校を務め、ヨーロッパや中東で20年もの海外勤務をし、対テロ作戦に従事した。シカゴ大学で文学士を取得し、ロンドン大学で現代史に関して修士号および博士号を取得。

この記事の初出は「Strategic Culture Foundation

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

この論評を読んだ結果、私は冒頭に列記したふたつの秘話が決して荒唐無稽なものではなく、現実をよく反映していると思えるようになった。もちろん、脱ドル化が何時頃起こるのかということは恐らく誰にも分からないだろうし、定義をすることさえもそう簡単ではないだろう。しかしながら、その方向性は今までの米国の対外政策がもたらした結果であるとする著者の見方は実に明快だと私には思える。現実を踏まえた見解である。

日本を取り巻く政治的環境は決して不動のものではない。当然ながら世界の潮流によって右に左に傾く。米ソ間の東西冷戦はとっくの昔に終わり、1年前から急展開している米中貿易戦争も永遠に続く訳ではない。つまり、現在の日米安保条約を必要とした米国を取り巻く環境は大きく変貌し、さらに変わろうとしている。今や、ポスト日米安保体制を議論する時がやって来たと言える。

私も、米国人が米国を自分の故郷として誇れるようなごく普通の国家に早くなって欲しいと希望したい。


参照:

注1: Goodbye Dollar, It Was Nice Knowing You!: By Philip Giraldi, Information Clearing House, Jul/05/2019










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