蚊が媒介する感染症としてデング熱やジカ熱感染症がある。
デング熱は主に熱帯や亜熱帯地域で多発する感染症であって、日本にもっとも近い流行地は台湾だという。発熱、頭痛、筋肉痛が伴う。ところが、2014年に日本国内でもデング熱の感染例が報告された。2014年10月31日に国立感染症研究所が報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ」を見ると、160例が報告されている。それらの大部分は代々木公園へ行ったとか、明治神宮外苑、新宿中央公園、その他の公園へ行ったと、患者らは報告している。中には感染地を推定できなかった事例もいくつかある。
一方、ジカ熱感染症は中南米を中心に報告されている。ブラジルでは集団感染が起こり、2016年のリオデジャネイロでのオリンピックの開催に懸念が持たれたが、結果としてオリンピックを通じて感染したという報告はなかったようだ。症状は比較的軽く、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛が現れる。しかしながら、妊娠中の女性が感染すると、胎児に影響が現れて小頭症という先天性障害をもたらす恐れがある。このブラジルにおけるジカ熱感染症の集団感染は2014年8月から症例が認められて、2016年には20万5千人強の症例があった。しかし、2017年には1万3千人と急減した。ウィルスに対する集団免疫が確立され、ようやく収束したと言われている。WHOは2016年11月に収束を宣言した。
これらの感染症を媒介する蚊はヒトスジシマカとネッタイシマカの二種類。ヒトスジシマカは一般にやぶ蚊とも呼ばれ、日本では本州(青森を除く)以南に生息しており、その出現期は5月から11月。ネッタイシマカは日本では以前は沖縄県や小笠原諸島で生息していたが、近年は採集報告はないという。ただし、蚊は航空機を介して日本国内へも移動し、温度環境が比較的整っている地域や場所で発見された事例が報告されている。2012年に成田国際空港で幼虫および蛹が発見された。2017年、2018年には中部国際空港で採集されたネッタイシマカからは強い殺虫剤抵抗性を示す遺伝子が検出されており、今後殺虫剤による駆除が容易ではなくなる可能性が示唆されている。ここに「ビル・ゲーツとペンタゴンはなぜフロリダで遺伝子込み替えをした蚊を放出するのか?」と題された記事がある(注1)。遺伝子組み換えをした蚊を特定の地域に放出して、病原体を運搬する蚊を撲滅するというアイディアについては前々から聞いている人は多いのではないかと思う。つまり、ブラジルでの失敗をよそに、フロリダを舞台にしてまたしても具体的なプロジェクトが出て来たということだ。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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住民からの強い抵抗があるにもかかわらず、米環境庁とフロリダ州当局はフロリダキーズ地区に遺伝子組み換えを行ったキラー・モスキートを何百万匹も放出するという計画を承認した。本計画については議論が沸き起こっている。と同時に、バイデン大統領が科学担当の大統領補佐官として指名した人物は蚊から始まってファイザーやモデルナの新型コロナ用mRNA「ワクチン」に至るまでの遺伝子組み換え、さらには、遺伝子組み換えの鮭にも使用されるゲノム編集技術(CRISPR)の開発にも関わって来た。ビル・ゲイツ、ペンタゴンおよび優生学を標榜する連中がどうして寄り集まっているのかは、率直に言って、警戒すべき事態である。
4月30日、フロリダキーズのモスキート・コントロール・ディストリクトとバイオテクノロジー企業のオクシテックは7億5千万匹の遺伝子組み換えをした蚊の放出を開始すると発表した。蚊の種類はネッタイシマカであって、遺伝子編集技術を使って遺伝子組み換えが行われている。ネッタイシマカはフロリダキーズでは蚊の総個体数のほんの4%を占めるだけである。この放出計画は昨年の選挙の際に住民投票を要求した環境グループからの激しい反対に遭遇したが、不思議なことには、モスキート・コントロール・ディストリクトは住民投票を拒否した。オクシテックとディストリクトの理事会はこの放出によってデング熱やジカ熱その他の感染症を媒介するネッタイシマカを撲滅すると主張している。
本プロジェクトはプレスリリースでは肯定的に聞こえるが、いくつかの理由から警戒すべきだ。第一に、この議論が多い遺伝子組み換えの蚊の放出に関する住民投票が拒否されたこと。第二には、放出後の遺伝的形質は多くの場合予測できない形で突然変異を起こし、このような蚊を何百万匹も放出することに関するリスクや恩典については費用対効果解析が行われてはいない点だ。このプロジェクトを通じて今までにはいなかったような強力な蚊が突然変異によって現れるかも知れない。このようなリスクを冒す価値はあるのか?誰も答えることはできない。伝統的な手法による蚊のコントロールテクニックは今までうまく行われてきたではないか。
オクシテック社のCEOであるグレイ・フランドセンは米政府との関わりからバルカン半島では暗い過去を持っている。彼は米海軍の顧問として、ならびに、ジョージ・ソロス傘下のインターナショナル・クライシス・グループの特別研究員として1990年代に行われたユーゴスラビアの破壊では重要な役割を演じたのである。バイオテクノロジーに関してはそれ以前には何の経験も持ち合わせてはいないにもかかわらず、フランドセンは2017年にオクシテックの最高経営責任者となった。英国の企業であったオクシテック社は、現在、ランドール・J・クラークによって率いられているバージニア州ラドフォード市に所在する米ベンチャーキャピタル企業であるサード・セキュリティー社の所有である。また、クラークは遺伝子組み換えをした鮭を生産する企業であるアクアバウンティー社を所有してもいる。
ブラジルでの大失敗
オクシテックはブラジルのバイーア州で遺伝子組み換えのネッタイシマカを放出するもうひとつのプロジェクトを推進した。その地域でジカ熱感染症やマラリア、その他の感染症を媒介する蚊と交尾をするかどうかを観察するための試験的放出を行ったのだが、ネイチャー・リポート誌に発表された研究報告によると、ターゲットとなった蚊の種類の個体数は当初減少したものの、かなり減少していた総個体数は何か月か後には放出前の水準近くにまで戻ってしまった。エール大学からの研究者チームとブラジルのいくつかの研究所とが実験の進捗状況について追跡をした。彼らの知見によると、ターゲットとした群の個体数は当初目立って減少していたが、約18か月後には放出以前の個体数レベルに戻ってしまったのである。論文の指摘によると、そればかりではなく、一部の蚊は「ハイブリッドな活力」を持っているようであった。つまり、自然のままの蚊と遺伝子組み換えの蚊との交配によって「放出前の個体群よりも強力な」個体群を新たに現出させたのである。これらの蚊は殺虫剤に対してより強い耐性を獲得しており、一言で言えば殺虫剤に耐性を持った「スーパー・モスキート」である。ブラジルでのオクシテックによる調査結果は「これらが感染症の広がりやこれらの危険な媒介生物に対するコントロール策に今後どのような影響を与えるのかは不明だ」と結論した。
端的に言って、遺伝子の突然変異は予測不能だ。2020年のもうひとつの科学的研究によると、「不妊症」の雄は雌に先祖帰りをして、抵抗力があるGMO個体群を形成し、環境中に生き残るのである。この研究は中国、ドイツおよび米農務省の研究者らによって発表された。研究所のハエに突然変異がごく自然に起こり、意図された形質に対する抵抗性をもたらすことを示した。換言すると、「スーパー・フライ」または「スーパー・モスキート」の出現である。
さらに言えば、フロリダキーズにおけるデング熱やジカ熱感染症は必ずしも由々しい問題だというわけではない。CDCからの公式報告によると、2020年のジカ熱の患者は地域住民の間では全米で一件もなく、外国からの旅行者の間で4例が報告されただけだ。症状がインフルエンザと似通って軽微で、致死性を示すことが稀なデング熱に関しては、2020年にフロリダキーズにおいて26件あった。今回の流行は過去10年間で初めてのものであった。不思議なことには、2010年にデング熱の小さな流行が起こったが、オクシテックはフロリダで遺伝子組み換えを行った蚊を放出するとの議論をしていた。また、2020年の新しい流行は、不可思議なことではあったが、フロリダで遺伝子組み換えをした蚊の放出を何とか推進しようとしているオクシテックにとっては好都合な出来事であった。この放出計画は2020年に承認された。
オクシテック、ゲーツおよびDARPA
フロリダでの遺伝子組み換えをした蚊の放出について疑念を抱かせるのはオクシテック社のプロジェクトが極めて多くの議論を呼ぶふたつの組織と関わっていることだ。つまり、メリンダ&ビル・ゲーツ財団とペンタゴンの下部機関である国防高等研究計画局(DARPA)からの支援を受けている点である。ゲーツ夫妻はゲノム編集によって開発されたファイザーとモデルナの新型コロナ用「ワクチン」を資金面で支援しており、大口の支援者であるばかりではなく、WHOに対する個人の資金提供者としては最大級の募金額を誇っている。ふたりは10年以上も前からゲノム編集に資金を提供して来た。ゲーツはゲノム編集技術が悪意のある使用に供される可能性があることは十分に承知している。生物兵器への応用が可能なのである。2016年にゲーツは次のように述べている。「次の大流行はテロリストがコンピュータ上で天然痘ウィルスの合成のためにゲノム編集を試みることから始まることであろう」と。2017年7月、インテル・ヘルス&ライフ・サイエンスのジョン・ソトスは「ゲノム編集の研究は想像を絶するような破壊力を秘めた生物兵器の可能性に扉を開くことになろう」と言った。
2016年、国連では生物多様性条約(CBD)によって安全性が確保されるまではゲノム編集を一時禁止する動きが広がっていたが、ゲーツ財団は広告代理店のエマージング・アグ社に160万ドルを提供してこの動きを阻止した。ETCグループによって取得された電子メールによると、エマージング・アグ社はゲーツ財団の上級職員やDARPAの職員、DARPAから研究資金を受け取った学者、等を含めて65人以上もの専門家たちを動員したのである。彼らは見事に成功した。
昆虫兵器?
DARPAは蚊のゲノム編集に関してはすでに数年にもわたって関与して来た。「昆虫同盟」プログラムを介して、DARPAはゲノム編集(CRISPR)や遺伝子ドライブ技術を用いてネッタイシマカの遺伝子組み換えを行ってきたのである。米国防省は「遺伝子ドライブ」と称して知られ、異論が多いこの技術には少なくとも1億ドルを費やしており、遺伝子組み換え技術に対する資金提供では世界で一位の座を占め、トップクラスの開発組織である。「遺伝子ドライブは強力で危険な新技術であり、それによって開発される潜在的な生物兵器は、特にそれが誤用された場合、平和や食料安保、環境に対して甚大な影響を与える」と、環境安全グループであるETCグループの共同ディレクターを務めるジム・トーマスが警告している。「遺伝子ドライブの開発は今や主として米国の軍部によって資金が提供されているという事実はこの分野全体に関して疑問を抱かせるのに十分だ。」
昆虫兵器は生物兵器の一種であり、感染症を伝播させるのに昆虫を用いる。DARPAによる研究を駆使して、ペンタゴンはジョージアとロシア [訳注:「ロシア」は「ウクライナ」の間違いではないかと思われます] で秘密裏に昆虫戦争の試験を行ったと言われている。ゲーツ財団やオクシテックと共にDARPAが行っている遺伝子組み換えの蚊の開発は昆虫兵器のための秘密プログラムなのではないか。
ペンタゴンは現在世界中で25か国においてもっとも厳しい警護体制を施したバイオ研究所を運営しており、21億ドルの軍事プログラム、つまり、共同生物学的関与プログラム(CBEP)の下で国防脅威削減局(DTRA)から資金を提供している。これらのバイオ研究所はジョージアやウクライナといった前ソ連邦の国々、中東、東南アジア、アフリカといった地域に散らばっている。これらの研究所での数々の研究プロジェクトが推進されている中、サンシチョウ亜科に属するサンシチョウバエは「急性発熱性疾患に関する調査」という名の下で収集が行われ、全ての雌のサンシチョウバエに対して感染力についての試験が実施された。三番目のプロジェクトではサンシチョウバエの収集を行い、唾液腺の特性について研究を行った。これは兵器化のための研究である。[訳注:サンシチョウ亜科に属するハエは世界中で500種もあると言われ、感染症の媒介者としては30種ほどが知られている]
バイデン政権によって初の閣僚レベルの科学顧問として指名されたエリック・ランダーは異論が多い人物であるが、MIT・ハーバード・ブロード研究所から抜擢された。[訳注:MIT・ハーバード・ブロード研究所はハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究施設。疾患の研究に重点を置いている] ランダーは遺伝子ドライブやゲノム編集技術の専門家であり、不完全に終わった「ヒト遺伝子に関する米国のプロジェクト」で重要な役割を担った。これはわれわれが支援をする必要があると感じるような種類の科学ではない。むしろ、明らかにこれはもっと大きな優生学に関する動きの一部である。ここでもビル・ゲイツは主要な役割を演じている。
著者のプロフィール:F・ウィリアム・エングラーは戦略的リスクに関するコンサルタントであり、講師役も務めている。彼はプリンストン大学から政治学における博士号を取得し、原油や地政学に関する書籍を著し、ベストセラー作家である。「 New Eastern Outlook」に特別寄稿をしている。
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これで全文の仮訳が終了した。
ウィルスの専門家たちは、ワクチンを製造する大手製薬企業を含めて、一種の運命共同体を形成している。新型コロナの大流行を介して、奇しくもその実態が目に見えて鮮明になって来たように感じられる。10年前に日本で観察された「原子力村」を髣髴とさせるような「ウィルス村」あるいは「ワクチン村」の出現である。
ウィルス学の専門家の多くは大手製薬企業やゲーツ財団、等から研究費を提供して貰って研究活動を維持している。彼らは人類の生命や健康について科学を追求する立場にあるだけではなく、研究費の確保にも追われているのが現状だ。フロリダキーズにおける遺伝子組み換えをした蚊が当初の研究課題を達成できそうにはない場合、その理由が科学的な観点からどこに欠陥があるのかに関してある学者が何らかの指摘をした場合、その学者はそのプロジェクトに研究資金を提供している組織や大企業からは煙ったい目で見られることがある。そうした事態が起こると、その学者は自分の将来の研究活動に災いを呼び込みかねないのである。最悪の場合、キャリアを失うことになる。こうして、お互いを庇い合う「ウィルス村」が出現する。こういった現状を都合よく活用しているのが行政当局とつるんでいる大企業や特定の政治目標を持ち、潤沢な資金に恵まれ学者らに資金提供を行っている財団である。
著者のF・ウィリアム・エングラーは、今、遺伝子組み換えをした蚊の放出に絡んでそのことに関して警鐘を鳴らそうとしている。特筆すべきはこういったプロジェクトの背景にはもっと大きなアジェンダが存在しており、それが見え隠れしていることだ。
今後目を離すことができない課題である。
参照:
注1:Why Are Gates and Pentagon Releasing GMO Mosquitoes in Florida Keyes? By F.William Engdahl, NEO, May/11/2021
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