2021年8月9日月曜日

対中日米同盟には世界大戦を引き起こすリスクがある

 

米中戦争は起こるのか?

この問いに対しては二つの異なった答えが返って来る。ある人は戦争が起こると言うが、別の人は戦争は起こらないと言う。実際の答えはひとつしかない。

古代ローマの歴史家であるツキジデスに言わせると、たそがれ時が迫った覇権国家のおよそ三分の二は新たに台頭して来る国家とは戦争を引き起こす。

現状を見ると、伝統的な熱い戦争には至っていないものの、米中間ではすでに貿易戦争や関税戦争、情報戦争、サイバー戦争が始まっている。米中の政府高官が相手に対して放つ文言はすでに極めて敵対的な水準に至っている。たとえば、トランプ政権のペンス副大統領は2018104日のワシントンでの講演で貿易など経済分野に限らず安全保障分野でも、中国には「断固として立ち向かう」と言った。これを受けて、ジャーナリストの長谷川幸洋はこれは米国の中国に対する宣戦布告であると評した。新冷戦の開始であると。これはチャーチルが行った鉄のカーテン演説に匹敵するほどの文言であると解説した。

ここに、「対中日米同盟には世界大戦を引き起こすリスクがある」と題された記事がある(注1)。

これは極めて物騒な話である。米中戦争は必然的に日米と中国との間の戦争となる。尖閣諸島の国有化を発端に始まった日中間の領土問題は、それまでの両国による穏健な棚上げ政策を一挙に投げ捨てて、さまざまな局面を経て、今や日本の世論を対中強硬路線一色に染め上げるまでになっている。中国敵視は間違いだと主張する識者はいないのであろうか。もちろん、当然いる筈ではあるが、その声は聞こえて来ない。非常に不気味であると言いたい。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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2003年、私自身を含めて何人かの弁護士が北朝鮮を訪問した。かの地では社会主義に関して多くを学ぶ機会に恵まれた。われわれは1950年に共産軍によって押収された米陸軍の文書を見せて貰った。あの年、彼らはソウルを席巻し、米軍の本部を一掃したのである。その際の押収文書によると、北側に侵攻したのはその地域の共産党勢力を一掃し、中国を攻撃するために侵攻してきた米軍とその操り人形である南側の連中であった。その逆ではないのである。米軍の計画は挫折し、米軍は敗走した。だが、私を驚かせたのは米軍は1945年に日米間の戦争が終結した頃韓国に展開していた日本陸軍の元将官らからの支援を受けていたことを示す証拠がその文書の中に見られたことであった。台頭するふたつの帝国は太平洋で開戦したが、結局、米国に敗れ、占領された日本は間もなく世界を覇権下に収めようとしている米帝国側に加わった。朝鮮戦争は米国に対する日本の忠誠心を試す最初の機会となった。この忠誠は彼らが敗戦の憂き目を見たからであるばかりではなく、米国の資本と日本の資本とが同一の関心を抱いていたからでもあった。それは中国を服従させることであり、中国を搾取することであった。

76日、日本の副首相が自民党の集まりで「もしも台湾は中国の一部であるとして中国が台湾を取りに来れば、日本は台湾を防衛する。何故ならば、中国によるそのような暴挙は日本の死活問題となるからだ」と述べた。

「もしも何か大きなことが起これば、それは日本が生き残れるかどうかを左右することになると言っても過言ではない。そうした場合、日米は一緒に台湾を防衛しなければならない。」 

どうしてそれが日本にとって死活問題であるのかに関しては彼は説明をしなかった。

日本の指導者たちに向けて彼が喋ったことは明白である。台湾における中国の行動は干渉であり、そのような干渉は中国に対する攻撃理由となる。しかし、それは自衛隊が攻撃的な軍事行動を起こすことを禁止する日本国憲法ならびに国連憲章の違反となることもまた明白である。

中国が台湾の管理権を取り戻そうとした際に日米が干渉しようとするならば、中国は日米両国を打ち負かすだけの準備ができていると中国はその反論の中で繰り返して述べている。米国人や台湾人によるそのような干渉は如何なるものであっても中国を挑発することとなる。米国はこの地域で単独で干渉する力を十分には持っていないことから、米国は日米の計画を支援するべく南シナ海へ海軍を差し向けるよう英国やフランスおよびドイツ、ならびに、とても熱心なオーストラリアを誘ったのである。第二次世界大戦では日本帝国の宿敵であったこれらの四つの国々を今見ることはまさに皮肉以上の感がある。今や日本と共謀して中国を攻撃しようとし、第二次世界大戦では日本の同盟国であったドイツは世界中でその力をもう一度振りかざそうとしている。朝鮮半島の人々が日本の統治時代について苦い記憶を抱いているのと同様に、中国人も1930年代から1940年代における日本の侵攻と占領に関しては長期にわたって苦い記憶を持っている。

しかし、今やわれわれは1945年のドイツや日本におけるファシストや軍部が直面した敗北は彼らの最後の敗北ではなかったということを認めざるを得ない。これらの二つの国々と戦争をした政府にはファシスト分子も居り、ドイツがソ連国内の共産主義者を潰し、日本が中国国内の共産主義者を潰してくれることを望んでいたことも認めよう。それに代わって、自分たちの利益を拡大させるためにはファシズムを許容し、帝国主義に頼ろうとした世界を股にかける資本家勢力は速やかに状況を理解し、ワシントン内の極右勢力に導かれて、ソ連、つまり、今のロシアと中国、ならびに、その他の独立国に対する攻撃を継続するためにNATO組織を発足させた。彼らは今やまったく違った衣服を身にまとってはいるが、中国とロシアに対するもうひとつの戦争を準備するに当たってはナチスや日本の軍部が用いたのとまったく同じような嘘をつき、プロパガンダの術を駆使するのである。

730日、中国政府は英国政府ならびに新たに建造された空母「エリザベス女王」に率いられた海軍特別部隊に対して中国の領海には近寄らないようにと警告を発した。さもなければ、それ相応の結末に直面するであろうとも言った。それと同時に、フランスはタヒチで自国軍の強化訓練を行い、米国とフランスの両国はハワイで数十機もの米国のF22戦闘機とフランスのラファール戦闘機による合同演習を行った。その一方で、中国がグアム島の基地を速やかに破壊することが可能であることから、米国はグアム島の基地に配備されているF35戦闘機を含む爆撃機や戦闘機の部隊を小さな島の基地へと分散配備した。これは中国軍がこれらの航空機を一挙に破壊してしまうことをより困難にするためのものであることに他ならない。この種の分散配備は戦争が迫っている際や戦時中には常に見られる行動である。

と同時に、ドイツ人は米国と日本を支援するために南シナ海へフリゲート艦を送り込むと発表した。米国は、今週、さらなる艦艇を台湾海峡に送り込んだ。これらの行動はすべてが武力の誇示であると誰かが言うかも知れない。しかし、武力の誇示にしては余りにも大規模なのである。連中は武力の誇示以上のことを行っている。

ハンス・ルディグル・ミノーが奇しくも「ドイツ外交政策」で述べているように、西側の作戦行動の激化や戦闘作戦に対する関心の高まりは現行の状況下では極めて現実的なものであり、米軍高官が予知した内容に呼応する。彼の予測によると、米中間の戦争が近い将来起こる可能性があるのだ。たとえば、NATOの元ヨーロッパ連合軍司令官(SACEUR)であるジェームズ・Gスタヴリディスはわれわれのテクノロジーやこの地域における同盟国ならびに軍事基地のネットワークは中国のそれを依然として上回っていると述べた。当面はそうかもね。しかしながら、2020年代の終わり頃には人民共和国は少なくとも南シナ海においては米国に挑戦する地位に上り詰めているであろう。最近、スタヴリディスは小説を発刊した。その小説で彼は2034年に勃発する米中間の空想上の戦争を描写している。「われわれは2034年まではこの戦いに備える必要はないだろうが、もっと早くやって来る可能性もある。」軍事畑における彼の仕事仲間は「2034年ではなく」、この大戦争がやって来るのは恐らくは「2024年か2026年だ」と言う。

しかしながら、戦争を求めているのは中国ではない。この狂気の沙汰を推し進めているのはいったい誰なんだ? それは西側のプロパガンダ・マシーン、軍産複合体のすべてを含めた一大勢力である。だが、彼らの中でもっとも性質が悪いのはハドソン研究所だ。これは1961年にランド研究所のハーマン・カーンによって設立された。彼は核戦争のシミュレーションや戦争における核兵器の使用の理論化では極めて有名である。同研究所の現在の指導者やメンバーにはファシストであるマイク・ポンぺオやセス・クロプシーが居り、他にも米政府の各部門や軍部の高官らが含まれている。

セス・クロプシーの履歴書は次のような内容を示している。「クロプシーの米政府における経歴は国防総省で始まった。彼はキャスパー・ワインバーガー国防長官の補佐役を務めた。その後、ロナルド・リーガンおよびジョージHW・ブッシュの政権下で海軍次官代理を務め、国防総省の再編では彼は海軍の地位、海事戦略の開発、海軍学術研究所、海軍特殊作戦、NATO加盟国との責任の分担、等に関して責任を負った。」ブッシュ政権では、クロプシーは国防長官室(OSD)へ移り、次官補代行となり、特殊作戦や低レベルの抗争に関して中心的な役割を務める次官補代行となった。クロプシーは1985年から2004年まで海軍将校であった。

1982年から1984年まで、クロプシーはボイスオブアメリカ(VOA)の論説に関する政策、つまり、ポーランドにおける連帯の動きや反政府派に対するソ連政府の扱い、その他の課題に関して方向付けを行った。2002年に米国政府の国際放送局の局長として開かれた外交へ戻り、ムスリム世界に対するラジオやテレビ放送を拡大することに成功を収め、彼は同局を監督した。」

換言すると、彼は長い期間にわたって反社会主義的なプロパガンダに従事した戦争犯罪者である。

クロプシーは最近ワシントンにおける諸々の出来事を扱う右翼系のThe Hills誌に記事を投稿した。その表題は「米国が中国に対抗する中、日本は好機を伺う」。この記事で彼は「台湾をコントロール下に収めるために中国が何らかの動きをした場合、日本は台湾を支援する」と述べた麻生太郎を称賛し、中国は世界制覇を追求し、近い将来米国との戦争が起こるとの予測をしている。

さらに彼は日本は外交および軍事上の政策において「決定的な転換」をしたと述べ、日本は攻撃的な行動を起こさないとする憲法の制約を退け、中国に「対抗する」ために軍隊を増強し、支援することを求めた。

彼はこう書いた:

「台湾の防衛は困難な仕事である。人民解放軍は第一列島線内においては最強であり、特に、北京政府の海軍、空軍、ミサイル軍の集中振りを見ると台湾の周囲においてはなおさらのことである。台湾を防衛するには、米国とその同盟国は中国のミサイルが到達する域内で作戦行動を取らなければならない。米国の戦闘部隊は頼りとする高価な資産を台無しにすることになるであろう。

しかしながら、日米両国は十分な潜水艦部隊を擁している ― 日本の小型ではあるが静粛なバッテリー駆動の潜水艦は米国の核動力の大型攻撃潜水艦と並んで、極めて威力の高い相棒である。これらの潜水艦は台湾の制空権と制海権を確保するのに人民解放軍が頼りにしなければならないミサイル部隊からは何の脅威も受けない。高速艇による機雷の施設を行い、陸上移動型の対艦・対空ミサイルによる援護を受けるとすれば、日米潜水艦部隊の増派は人民解放軍の台湾への侵攻を食い止めることを可能とするであろう。あるいは、少なくとも中国が期待する既成事実を防ぐことができるであろう。」

こういった戦略的現実を与えられ:

彼は日米、フランス、英国および他の同盟国は「戦争に備える」ためにさらなる軍事演習を実施するよう呼び掛けている。そして、「戦争を抑止するためには戦争に備えることが必須である」との嘘っぱちを付け加えている。彼が実際に言うべきことは「米国は戦争を行うために戦争の準備をしている」という点だ。

中国に対する戦争はロシアや他の国々を引っ張り込み、世界大戦をもたらし、核戦争に発展させ、人類の滅亡となる危険性を孕んでいることから、世界における平和と理性を代表する勢力はこれらの戦争準備を断固として非難しなければならない。これらの犯罪者を糾弾し、国際刑事裁判所(ICC)の検察官には米国人に対して警告を発し、同裁判所が管轄権を有する米国の同盟国の指導者やセス・クロプシーのような宣伝屋、ならびに、攻撃をすることに積極的な他の共謀者らを訴追するよう求めなければならない。これらの行為は最高レベルの戦争犯罪であり、狂気の沙汰である。なぜならば、対中戦争が上記のように展開すると、まさにそれは人類のドラマの最終章になると思われるからである。われわれは気候変動が突然われわれに終焉をもたらす日を待つ必要はなくなるであろう。

しかし、ICCはこれらに関しては何も言わず、国連安保理はまったく無能と化している。とすると、いったい誰が異論を唱え、「もうたくさんだ」と言い放つのであろうか?われわれ一般庶民を除けば、戦争犯罪者や彼らの戦争などくそ食らえだ。だが、一般大衆はいったい何をすることができるのか?抗議行動や請願を行い、書き、叫び、泣きわめき、私が加わっている「カナダ平和会議」のような平和運動グループに参加し、ボブ・マーレーが呼びかけているようにわれわれは起き上がり、立ち上がって、ジョン・レノンが訴えているように平和にチャンスを与えようではないか。

著者のプロフィール:クリストファー・ブラックはトロントに本拠を置いた国際刑事事件を専門とする弁護士。知名度の高い戦争犯罪をいくつも扱ったことで知られており、最近、「Beneath the Clouds」と題された小説を出版した。国際法や政治、国際的な出来事に関して論文を書き、オンラインマガジンの「New Eastern Outlook」に寄稿している。

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これで全文の仮訳が終了した。

麻生太郎副首相が台湾の防衛のためには自衛隊を派遣すると述べたことについては、恥ずかしながら私は何も知らなかった。確かにこれは「決定的な転換」である。米国ではトランプ政権下でペンス副大統領が、2018104日、ワシントンでの講演で中国に対する宣戦布告と受け止められるような発言をした。そして、日本では麻生太郎副首相が台湾有事の際には自衛隊が台湾の防衛に当たると言った。こうして、日米軍事同盟の足並みが揃ったのだ。

この「決定的な転換」を白紙に戻すことができるのは米国の大統領と日本の首相のふたりだけである。逆説的に言えば、日米両国には後にもう一度決定的な転換を行う余地が残されているということでもある。しかしながら、これらのふたりは世界規模の核戦争を回避する、つまり、人類のドラマの最終章を永久に先送りする見識と英知を備えているのであろうか。はなはだ疑問である。

われわれ一般庶民は戦争を回避するために具体的な行動を起こさなければならない。


参照:

注1:The US-Japanese Alliance Against China Risks World War: By Christopher Black, NEO, Aug/03/2021

 




 

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