2021年8月15日日曜日

さあ、レンガを買いたまえ!米国はウクライナを売りに出しているぞ~

 

20142月のウクライナイにおけるマイダン革命からすでに7年余りとなった。革命当時の混乱の時期に比べて、今や驚くほど多くの事実が掘り起こされており、当時のメディアが後押ししていたオフィシャルな筋書きとはまったく異なる背景や解釈が表面化している。しかしながら、マイダン革命に関するオフィシャルな性格付けと事実との間のギャップが妥当なレベルにまで縮小したのかと言うと、現実は必ずしもそうではない。

ここに、「さあ、レンガを買いたまえ!米国はウクライナを売りに出しているぞ~」と題された記事がある(注1)。「米国がウクライナを売りに出している」という表現は極めて衝撃的な言い方ではあるが、この表題はオフィシャルな説明が現実からさらに乖離することを約束しているかのようにも読み取れる。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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誰もが知っているように、無用の長物を誰かに売りつけるには、まず、その無用の長物を入手しなければならない。つまり、ワシントン政府はどこかの時点でウクライナを買ったのだ ― しかも、かなりの高額で。この購入のプロセスには膨大な時間を要した。ウクライナの購入は段階的に行われたからである。

2014年にウクライナ全土がついに米国の資産となった時、ホワイトハウスは米政権が何代にもわたってこの無用の長物のために莫大な資金を注ぎ込んできた事実を速やかに悟った。

米国人は自分たちの感情を隠す必要があるとは思わなかった。だから、2015年に「マイダン革命の英雄」の誰かが米国に居る彼らの所有者によってプーチンがクリミアを入手し、残りのウクライナを米国に背負い込ませるためにこの革命が組織化されたという推論を提示された際、それを理解することはまったく不可能であった。コントロール下に置かれた地域の住民はこの陰謀論に大はしゃぎをしたものだが、米国人はウクライナを何処かへ売り飛ばそうと考えていた。

まず、彼らはロシアは間違いなくウクライナに関心を示すであろうと考えた。その理由は明らかで、下記の通りだ:

個人的ならびに家族的な関係がある。

産業界の協力が重要であり、ロシア経済にとってはウクライナ経由の天然ガスの輸出は極めて重要である。

クリミア問題を解決する(ウクライナが消滅してしまえば、クリミア半島の所有権を主張する当事者が居なくなってしまうかも知れない)。

ロシアがシリアと中東で勝手気ままな介入をすることの代償として米国はロシアにウクライナを買い取らせようとした。「クリミアの占領」に対して導入された制裁が、今度は「ウクライナの占領」に対する制裁に置き換えられることになるであろうと彼らは思った。手短かに言えば、ワシントン政府はロシアに対して圧力を加えることを維持しながらも、無用の長物を有益な物と交換しようとしたわけだ。もしも潜在的な損失に直面した際に米国人がそこから何とか金を絞り出そうとはしなかったとすれば、その米国人はもはや米国人であるとは言えない。

しかしながら、今回、米国は失望に見舞われる運命にあった。モスクワ政府はあの無用の長物には何の関心も示さなかったのである。たとえそうすることのために支払いを受けたとしてもモスクワ政府が果たしてウクライナに食らいつくかどうかは明らかではなかった ― まったく問題外であったのだ。特定の状況を作り出すためにウクライナを併合した際にクレムリン政府に対して課すべき次の一連の制裁は現状を維持するよりも害は少ないであろうし、問題を解決するものでもなかった。ロシアは制裁によって短期的な害に見舞われたとは言え、長期的なゲームにおける戦略的な勝利を如何にして勝ち取るかをそこから学んだのである。

ウクライナは2016年にロシアに関して米国の主導権のために重要な役割を演じることは止めることにした。ウクライナは依然として売りに出されてはいたが、誰か新しい買い手を見つける必要があった。さらに、その頃までにはアフリカのピグミーでさえもがウクライナが実際には何の価値もないことを理解していたにちがいないことから、このオファーを断ることができそうもない買い手を見つけ出すことは決定的に重要であった。米帝国の植民地であるキエフを売りに出すことは「レンガを買いたまえ」(*)というモードに変わった。当該モードではごく通常の強盗行為であってさえも自発的な購入のように見せかけてくれるのである。

オバマ政権は「買い手」を見つけることには失敗した。トランプはウクライナ問題にはそれほどの関心はなく、中国に対して陰謀を企て、米国の天然ガス産業界の利益のためにノルドストリーム2に反対する方を好んだ。しかしながら、結局のところ、バイデン政権がレンガのオファーを拒むことができないような買い手を見つけることに助けとなったのはトランプが採用した政策そのものであったと言える。

ノルドストリーム2に反対し、世界に対する米国の覇権を維持するためのコストを最小化しようとして、トランプはドイツとの関係を酷く損なってしまった。米国が同盟関係から経済上の競争相手へと変貌し、軍事的ならびに政治的な保護を保証することを止めにした時、ドイツ人は自分たちがまったく予期しなかった状況に置かれていることを悟った。ところが、彼らは急激なギアチェンジを行ってロシアの傘下に入ろうとはしなかったのである。それだけではなく、もしもドイツがそうしていたならば、EUには取り返しのつかない亀裂が生じていたことであろう。ベルリン政府は米国との良好な関係を模索し始めた。

その結果、バイデン政権は方向転換を行うことができた。米国の石油・天然ガス業界からの縛りには拘束されず(バイデンは伝統的なエネルギー源ではなくグリーンエネルギーを好む)、ドイツ人がノルドストリーム2は如何なるコストを支払ってでも完成させる決意を持っていることを十分に理解し、ワシントン政府はウクライナの運命については酷く気を揉んでいるという振りをした。このテーマに関してドイツと話し合うことは関係改善のための基本的な前提条件であるとの提言が成された。それと同時に、米国は異例の動きをした。つまり、ノルドストリーム2プロジェクトに関与するドイツ人政治家やドイツ企業に対して制裁を課すことは止めたのである。

交渉の段階で相手に譲歩を迫っても、通常、ワシントン政府が最初に何らかの成果を挙げることはない。しかしながら、今回ばかりは、米国人は目を見張るほど前向きな行動をした。そのような態度をとる本当の理由はやがて判明した。すなわち、米国人はドイツにウクライナの関心事にかかわる取引に署名させることにまんまと成功したのである。

だが、キエフにおけるお祝い気分は決して長くは続かなかった。この取引の詳細が判明すると、誰もがウクライナに対して何も保証してはおらず、何かを補償するようなものでもなかった。ウクライナの関心事のために戦い、ガスプロムにウクライナ通過契約の延長に関するウクライナとの交渉を推進することに関しては、ドイツの約束は曖昧であった。ところで、これはウクライナ側が競争力のある通過条件を提示する限りにおいてはロシア政府側はそうすることを決して拒まなかった。しかしながら、キエフ政府は自分たちが持っている通過条件の「独占権」から引き続き利益をあげることを夢見ていたことから、まさにこれはキエフ政府がもっともしたくはないことであった。これこそがノルドストリーム2に対してウクライナが激しく反対する理由なのであった。しかしながら、モスクワ政府を不利益な取引に応じさせることは誰も約束をしてはいなかった。最終的に、このことはウクライナでも理解され始め、裏切りに関する哀れっぽいすすり泣きがやがて聞こえてきた。

ウクライナは誤解した。つまり、ウクライナは裏切られたのではなく、ウクライナは売りに出されたのである。さらには、バイデンの反対派からの指摘があるにもかかわらず、バイデンはウクライナをプーチンには売らなかった。プーチンはウクライナの現状をロシアの国益のために活用しているが、彼は一文も払わず、政治的な譲歩は何も認めようとはしなかった。逆に、ガスプロムとロシアは今までに強要されてきた不利益な状況を埋めて、これらのすべての状況から利益を引き出そうとさえしている程だ。バイデンは結局ウクライナという「レンガ」をドイツへ売り飛ばした。

政治の舞台から格好良く姿を消し、自分の党が権力の座にとどまるチャンスを維持するためには、連邦首相にとっては米国との相互理解を回復することが必要であった。しかしながら、ノルドストリーム2は非常に重要なプロジェクトであって、メルケルはこの件ではなんらの譲歩さえもする積りはなかった。だが、米国人は厳しい交渉をする。彼らは彼女が拒むことができないような提案をした。

彼らはノルドストリーム2を交渉の方程式から外した。既存の制裁は何の害をも及ぼさないことから、そのまま残されたが、特にドイツ人に対しては新たな制裁は課されなかった。ウクライナに対するドイツの義務は出来る限り曖昧な表現で記された。これらの義務が実際にどのようなものとなるのかについては、ベルリン政府の一存となった。

唯一の具体的な約束は米国が西側で10億ドルを集めることである。天然ガスの供給に関する潜在的な問題を相殺するためにウクライナは「グリーン」エネルギーの開発を進めなければならない。この資金はそのためにウクライナへ供与するものである。ドイツはウクライナにおけるグリーンエネルギーの開発ではマネジャー役を任され、その10億ドルの一部としてウクライナに15千万ドル~2億ドル(ドイツにとっては些細な額)を寄贈することとした。

バイデンは一つの石を投げて2羽の鳥を仕留めた。第一に、米国内の支持者たちに向けてウクライナのような遠隔の地で、つまり、神に見捨てられたような国でグリーンエネルギーを生態学的な環境のために効果的に導入しようとしている姿を見せた。

二番目には、国内でもう何年にもわたって原子力発電や石炭火力と闘ってきたドイツ人は自分たちの経験をウクライナに適用し、それと同時に何十億ドルもの金を活用することができるのだ。もちろん、彼らは現地の人たちともいくらかの資金を共有しなければならないではあろうが、それ程多くは共有しないだろう。加えて、ドイツ人は潜在的にはチェルノブイリ発電所の二の舞を演じる可能性をもっているウクライナの原発問題を解決する地位にとどまるであろう。これらの原発は悪ふざけをすることが好きなウクライナ人の手中にある(訳注:現在15基が稼働している)。

三番目に、この「支援」と「改革」の後にはウクライナは不可避的に電力不足に直面することであろう。EUはウクライナへ天然ガスを逆輸出するだけではなく、電力を売ることさえも可能となるだろう。

四番目に、ウクライナをドイツにうまく売り飛ばして、ついに米国は成功裏にウクライナの「ハンドルが付いてはいないスーツケース」から身を引くことができた。今や、たとえ追加的な資金による補填が必要となろうとも、メルケルの後継者にとってはどうやってウクライナをロシアへ転売するかについて色々と考えを巡らす時が来る。

メルケル自身には不平を唱える理由はない。もちろん、「レンガ」を買ったのは彼女自身ではあるが、そのレンガは金箔を使って見事に包装されている。この購入品の包装が解かれる中、総選挙が終了し、現連邦首相は首相の座を降りる。たとえCDU/CSU連合が権力の座を失なったとしても、それは彼女の責任ではない。メルケルは借金や問題もなしに、堅固で手入れの行き届いた国家を後継者に引き渡す。故意に騒動や問題を引き起こすキエフの連中がしがみついている例の約束はドイツにおける総選挙の結果が判明し、連合政府が決まった時点に表面化して来るであろう。

われわれは名誉が与えられて然るべき場所に名誉を与えなければならない。米国人は決して何かを廃棄しようとはせず、無用の長物であって、まったく何の魅力もない製品のためであっても何とか儲けようとする。

ウクライナに関しては、もはや誰もウクライナについて心配しようとはしない。ウクライナの市民は将来のある時点で、何回も転売された後に、たとえ主人の家具に噛み付き、壁紙に傷を付け、いたる所でうんちをするような極めて反抗的な個性を持っているとはしても、重病人であるウクライナはいずれは善良な主人に迎えられるであろうという希望だけが残されている。

しかし、これはあり得そうもない話だ。

() 「さあ、レンガを買いたまえ」:これはロシアでよく知られている冗談である。1個のレンガを持った大男が通行人に向かって、「おい、君、このレンガを買いな」と言う。呼びかけられた通行人は「そんな物は要らないよ!」と言う。大男は相手の頭の上で威嚇するようにレンガを振り回してこう言う。「このレンガを買った方がいいぜ。あんたが自分の運命を決める必要なんてないのだからな。」

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これで全文の仮訳が終了した。

世界を揺さぶる政治の動きは大手メディアによって報じられる。時には、あるいは、あまりにも頻繁であるとの苦情も聞こえてくるが、フェークニュースも一緒に報じられる。昨今のこのような趨勢の中、この引用記事には非常に興味深い国際政治の舞台裏、心理描写、駆け引き、長期戦略といったさまざまな要素が散りばめられており、語り口が実にいい。興味深い記事である。そして、貴重な見解であるとも思う。

この記事の著者はウクライナ人であるのだが、本記事から伺える著者の客観性を重んじる姿勢は驚くほど徹底しており、注目に値する。


参照:

1Buy a brick! The USA is selling Ukraine: by Rostislav Ishchenko, translated by Eugenia, The Saker, Jul/28/2021, Source: https://ukraina.ru/opinion/20210723/1031902943.html

 

 


5 件のコメント:

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  2. 登録読者のИсао Симомураです.今しがた投稿した文章中に特定可能な個人名を書いてしまいました.よって削除した次第であります.
     この記事は実に見事なウクライナ問題の分析評価になっておりますね.「賭場広場」から始まったアメリカによるウクライナの乗っ取りは,ナチによる恐怖統治と全く同じものであったのですね.当時の記録映画を視ると,少なからざるウクライナ人が自国民を虐待処刑していったことがわかります.「重病人であるウクライナはいずれは善良な主人に迎えられる」ことが早く実現してほしい.友人のウクライナ人は,ウクライナはどうなるのか,という小生の問いに"Россия примет её русской рубашкой「ロシアは彼女をロシア式シャツで引き取るよ」と答えてくれました.今になってこのロシア語は意味深長なものだと気がつきました.前置詞"в"無しの「ロシア式シャツで」には,勿論「温かいシャツに包んで」という意味のほかに,「トランプ札の裏側で」の意味があるからです.

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  3. シモムラ様
    コメントを寄せていただき、有難うございます。
    この記事に遭遇して、久しぶりに説得力のある記事を読むことに満足感を覚えた次第です。さて、これから、ウクライナはどうなるのでしょうか。ドイツの総選挙後にはもっと明白な動きが出て来るというこの引用記事の著者の予測によれば、年内には何らかの兆しが感じ取れるようになるかもしれませんね。
    ロシア語にはさまざまな意味合いが含まれていますね。時には表と裏の二つの意味があって、どちらが本当なのかはある程度の時間が経って、初めて判明する。でも、その本当の意味に気が付くにはロシア語をよく理解していることが大前提となることを考えますと、シモムラさまのロシア語への造詣の深さに当方は脱帽です。
    残暑が続きますので、ご自愛いただきたいと思います。

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  4. И.Симомураです.Кирпич купи! 煉瓦を買いな!
    https://www.youtube.com/watch?v=k_yqWSOsaJw にあります.面白いですよ.

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  5. シモムラさま
    YouTubeの動画を見ました。面白い内容ですね。有難うございました。

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