2021年8月23日月曜日

カザフスタンにある米軍の生物研究所ではどのようなウィルスが研究されているのか?

 

新型コロナウィルスの感染が世界的に拡大したことによって、好むと好まざるとにかかわらず、生物兵器に対する関心が高まっている。

▪ 生物兵器の歴史を辿ると、日本も太平洋戦争当時生物兵器の開発に関与していた事実が明らかにされている。731部隊が実験を行っていたのは、中国東北部の旧満洲にある秘密研究所。ペストやチフス、凍傷に関する人体実験のための材料とされ亡くなった人は3,000人に上るとも言われている。(原典:731部隊の真実 ~エリート医学者と人体実験~:NHKスペシャル、20171219日)

その一方、森村誠一『続・悪魔の飽食』などに「731部隊によって生体解剖される中国人の犠牲者」として紹介された写真は、『山東省動乱記念写真帖』(青島新報、1928年)に掲載された済南事件被害者の検死中の写真であり、731部隊とは無関係であったとも言われている。(ウキペディアから)

 朝鮮戦争では米軍が生物兵器を使用した。腸チフス、再起熱、パラチフス、発疹チフス、コレラ、天然痘、流行性出血熱、等の伝染病が発生。特筆すべきは太平洋戦争当時731部隊の長であった石井四郎軍医が朝鮮戦争中に南朝鮮に現れたと報じられている。

▪ ベトナム戦争(1955年―1975年)における米軍による枯葉剤の大量使用については現在誰もが何らかの知識を持っている。米軍は枯葉剤はマラリア対策であるとしたが、実際の使用理由はベトコンが潜むジャングルを破壊し、ベトコンを支える農耕地帯を破壊することであった。ベトナム政府によると、最大で300万人が枯葉剤に暴露され、21世紀の今でも先天性欠損(先天性口蓋裂等の奇形出産)を抱える子供15万人を含む100万人が深刻な健康影響を受けているという。

▪ オーム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件(1995年)では13人の死者と6000人の負傷者を出して、大惨事となった。オーム真理教の教祖である麻原彰晃は死刑を宣告され、教団の幹部らと共に2018年に死刑が執行された。そして、今も未解決のままに残されているのは50人もの教団関係者が依然として行方不明のままであるという点だ。1995年に起こったこの事件を境にして、日本社会に関する安全性神話は完全に崩れたと指摘する向きが多い。この指摘は個人的にも共感できる。国内におけるそうした負のイメージとは逆説的な社会現象が最近現れたことも事実として触れておこう。海外からの観光客の数が増加して、コロナ惨禍前の2019年には3188万人と最多記録に達した。彼らの多くは日本の都市にはゴミ箱が無いにもかかわらず、ゴミがひとつも落ちてはいず、すごく綺麗だと言って、称賛を惜しまない。これは地下鉄サリン事件を契機にして、再びテロを引き起こさないために通りに設置されていたゴミ箱が撤去されたからであった。ゴミ箱の撤去は地下鉄サリン事件から派生した二次的な現象であることは多くの海外観光客にとっては知る術もない事柄なのである。

▪ 同時多発テロ事件の7日後に発生した米国における炭そ菌テロ事件(2001年)では、大手テレビ局や出版社、上院議員に対して炭そ菌が封入された封筒が送り付けられ、米国社会を震撼させた。この事件では郵便局の職員を含む5人が死亡し、17人が負傷した。炭そ菌についての専門知識を持っている者が犯人であると考えられ、専門の研究設備がなければ生産できないことが分かっていた。容疑者とみなされた学者は自殺した(2008年)。彼は米陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)に長年にわたって勤務していた。汚染された建物やオフィスの洗浄のために総額10億ドルが費やされたという。2010年米司法省は上記の科学者の単独犯行でっあっとの最終結論を発表し、この調査の終了を宣言したが、米国科学アカデミーの報告書(2011年)は米法務省の最終結論に疑義を呈している。結局、この炭そ菌事件はニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機を突入させるという異様なテロ事件と並んで、イラクやアフガニスタンに対する武力侵攻を正当化する上で大きく役立ったようだ。

上記の事例は生物兵器の歴史を示すほんの一部でしかない。

余談になるが、生物兵器と並んで常に議論されるのが核兵器と化学兵器である。核兵器を筆頭に、これらの三種類の兵器は大量破壊兵器と呼ばれる。それが故に、政治絡めで議論されると話がこじれて来る。逆説的に言えば、国際政治の舞台では、たとえ舌戦ではあっても、これらの大量破壊兵器は相手側に相当の衝撃を与える。生物兵器について言えば、今進行中の新型コロナウィルスの起源は自然発生か、それとも、人工的に作られたもの(つまり、生物兵器)かという議論が今も続いている。直ぐには答えはでないであろう。化学兵器については、シリア政府軍が化学兵器を使ったとしてシリア政府を非難した反政府武装勢力の活動が余りにも有名である。しかも、西側が支援するシリアの反政府派が行った自作自演作戦を擁護するために、化学兵器禁止機関(OPCW)までが現地調査を行った調査官の報告書を改ざんし、最終的には偽りの報告書を公開するという破廉恥な行動をとった事実が明るみに出た。まだ記憶に新しい。

ここに「カザフスタンにある米軍の生物研究所ではどのようなウィルスが研究されているのか?」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。米軍による生物兵器開発の実態を再認識しておこう。

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米国が生物兵器の開発を行っている中で、最近米国の活動に関して苦情が増加している。こういった苦情が表面化する理由は増えるばかりだ。主な苦情のひとつは25か国において400か所以上もの軍事用生物研究所を運営している米国の活動についてである。それらの国々には旧ソ連圏に属していたアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、カザフスタン、モルドヴァ、ウクライナおよびウズベキスタンが含まれる。

米国の政治家はこれらの研究所は単なる「研究センター」であって、米国の専門家は各国の研究者が危険な疾病との闘いを行う手法について手助けをしているだけであると言うのであるが、ワシントン政府はこれらの軍事的な研究施設ではいったい何が行われているのかについての情報は如何なるものであっても極めて注意深く抑制する。上記の国々の議員らにとってはこれらの施設内では閉じられた扉の向こう側でいったい何が起こっているのかを知る術はないのである。これらの国々に配置された米国の生物研究センターと米国のフォート・デリック軍事基地に所在する研究施設においては国防総省の白衣を着た研究者らが何十年にもわたって生物兵器を研究して来た。これらは同一組織なのである。

このような研究施設が存在する国々では極めて不可思議な疾病が出現し、これらの出来事には米国主導の生物研究所が関与しているのではないかという疑念が高まっている。

730日、カザフスタンのテレビ局「チャンネル・ワン・ユーラシア」はカザフスタン国内の二つの地域で予期しない形で原因不明の疾病によって大量の家畜が死亡したことを報道した。特に、家畜の死亡は北カザフスタン地域で起こった。獣医らはこの病気は黒脚症(emphysematous carbuncle)ではないかと疑っているが、この疾病はこの地域では長い間一度も報告されてはいなかったのである。この感染症は主にワクチンの接種をすることができないような非常に若い家畜を襲う。大量死はお隣のアクモラ地域でも起こっており、アザトとカラブラクの二つの集村では500頭以上もの家畜が病気に罹った。

知られてはいない疾病あるいは大分前に流行ったが今や根絶されたと思われている疾病が、近年、カザフスタンのさまざまな地域で定期的に起こっていることに専門家らは気付いている。その結果、家畜が大量に死んだ。一般大衆はこれはアルマータに所在する米国の軍事用生物研究所が関係していると見ており、同研究所の活動はカザフスタンによる公的な監督だけではなく国際的な科学者サークルによる監督についても埒外に置かれているという事実にも関連付けられている。

新型コロナウィルスの大流行との関連でロシアと中国はこれらの研究所と同様の研究施設については全世界でチェックをする必要があることを強調した。このことを思い起こして欲しい。しかしながら、米国はその提案を無視した。7月中旬、カザフスタンの社会主義運動党やジョージアの統一共産党、ラトビアの社会党、パキスタンの共産党が生物兵器の生産と配備に反対し、米国の軍事用生物研究所の閉鎖を求める請願書に署名を開始するよう合同提案を行った。

この提案の背景には同じような研究施設が旧ソ連圏の国々で10か所以上も稼働しており、このことが大きな動機となった。米国の資金で「セントラル・リファレンス・ラボラトリー」が数年前にアルマータに設立され、この施設はペンタゴンが使っている。しばらく前に、カザフスタンのメディアがこの件に関心を寄せようとした。昨年、コロナウィルスがカザフスタンで猛威を振るい、死亡率が高まり、厳格な隔離政策がとられた際に、地元の大衆紙がアルマータにある米国のセントラル・リファレンス・ラボラトリーの目的のひとつは、ワシントン政府の公的な声明によれば、危険な感染症と闘うことであるとして、読者に注意を喚起した。これに関して、カザフスタンの人々は極めて正当な疑念を抱いた。「闘い?いったい何処で行われているのか?」と。

国際条約が存在するにもかかわらず、米国が生物兵器の生産を中断しなかったことは決して秘密ではない。そして、次のことが確認されている。ペンタゴンには国防高等研究計画局(DARPA)があり、この組織は軍事領域におけるもっとも先進的な技術を開発し、それらを実現することに携わっている。バイオテクノロジー分野もそのひとつである。米国防総省は自分たちが携わっている技術は軍事と民生の両方で使用可能であることを認めている。しかしながら、米国の国内法ではある種の実験は地域住民に脅威をもたらすことから米国国内では禁止されている。これはそういった実験は旧ソ連圏を含めて外国で実施されることを意味する。

201810月、アメリカン・ジャーナル・オブ・サイエンス誌は「農業関連の研究なのか、それとも生物兵器か?」と題された記事を掲載した。この記事の中で、ドイツとフランスの微生物学者は中ロの国境地帯でそういった研究所の数が増えていることに懸念を示し、米国は米国自身の国境からは何千キロメートルも離れた場所で細菌戦争の準備をしているとの見解を表明した。この記事は昆虫同盟と称されるペンタゴンのプログラムに関して記述している。これは大規模な生物学的実験に関するもので、得られた結果は軍事目的に使用される。

カザフスタンで外国が主導する研究所に関して最初に反対した一人はアミルベク・トグソフであった。彼はカザフスタンの元外務副大臣であったが、2020年の夏、米軍が行った致死的ウィルスの実験に関する資料をロシアに手渡した。

「ここではわれわれは実験用のサル同然であって、ペンタゴンはこれらの新型ウィルスのためにわれわれの領土を自然界における実験場として使っている。研究所はわが国の管理下からは除外され、秘密裏の活動を行っている」と、アミルベク・トグソフ将軍は当時述べた。その後間もなく、トグソフ将軍は突然予期せぬ形で死亡した。

だが、この話はカザフスタンの一般大衆を代表する何人もの議員らによっても取り上げられ、同国における新型コロナウィルスの出所はアルマータにある米国の生物研究所であると主張した。カザフスタン当局は自分たちの名声を維持することに全力を尽くし、そういったコメントを発した者たちを100人以上も刑事訴追をしたが、これらの主張は一般大衆から広い支持を受けることとなった。

「生物研究所問題」に関するアフガニスタン当局の立ち位置は過去一年間ずっと変化し続けてきた。研究所で働いている「外国からの研究者」はまったく居ないとさえ言った。しかしながら、「Center for Highly Hazardous Infections」研究所には米国の軍人が雇用されている事実が当該研究所の管理部門によって公に認識されている。20214月、同管理部門は、「Jacobs Engineering」社の一部であり、米国防総省の代理人役を務める企業「CH2M Hill Constructors, Inc.」と一緒に業務を継続することを表明した。CH2M社は「国防脅威削減局」(DTRA)との契約の下でペンタゴンの「Cooperative Biological Engagement Program」(CBEP)プログラムによって設立された研究施設を管理・支援するためにアフガニスタンで業務を進めていた。DTRA4億ドルの資金を投下して、カザフスタンに生物研究所を設立した。CH2M 社の業務に対するペンタゴンの介入振りは米国陸軍工兵隊のエンジニアであるエリック・グラハムが同研究所のある部門の長の地位を占めているという実態からも明らかである。彼は、以前、ジョージア州で軍事用生物研究所の建設に参画していた。

一般公開されている米国の情報源によると、DTRAは少なくとも2005年以降カザフスタンにおいて研究活動を行って来た。同国の6か所に研究所があって、これらはCBEPプロジェクトの一部としてペンタゴンの資金によって創設され、CH2MJacobsの両社が運営の責任を負っている。同国で起こったいくつかの感染症の大流行はこれらの秘密に運営されている研究所で働く研究者らによって引き起こされたのではないかと多くのカザフスタン人たちは疑っている。しかしながら、これらの疑惑について確証を与えた者はまだ現れず、ワシントン政府は諸々の活動を秘密裏に維持することに全力を振るっている。

20205月、ロシア外務省のセルゲイ・ラブロフ外相は米国は生物兵器研究所について透明性を保つことを拒否していると指摘し、非難した。彼は「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産および貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」における査察メカニズムを構築することに対する米国の拒絶はワシントン政府の実際の目標はいったい何なのかと疑わせるものだと厳しく指摘した。

著者のプロフィール:ウラジミール・プラトフは中東問題の専門家であって、オンライン誌の「New Eastern Outlook」に特別寄稿をしている。

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これで全文の仮訳が終了した。

生物兵器に関する歴史的事実がどこまで真実であるかを議論する際には証拠や証言を支える記録文書の存在が欠かせない。そういう観点から言えば、個々の出来事について真実を追求し、合理的な結論を導くことができるかどうかを確信することはそう容易いことではなさそうだ。

そして、そういった状況は21世紀の現在も大なり小なり観察される。

新型コロナウィルスが大流行し、その収束がまだ定かには見えてはいない中、米軍主導のカザフスタンにおける軍事用生物研究所はカザフスタンの人々の間に深刻な疑念を引き起こしている。この深刻な状況をさらに深刻にしているもうひとつの要素はカザフスタン以外にも同じ状況に曝されている国がいくつも存在しているという現実だ。

新冷戦が続いている現時点の地政学的環境の中では政治理念や人道的な倫理観だけではこれらの課題を解決することは不可能である。政治・経済的な覇権を維持するためには覇権国は新たに登場してきた相手国には常に、貿易戦争、通貨戦争、情報戦争やサイバー戦争を含めて、総合的な軍事的脅威を与え続けることとなる。こうして、真実や人道的倫理観は常に最初の犠牲者となるのである。実に不幸なことである。

参照:

1What Viruses are Being Studied by US Military Bio-Laboratories in Kazakhstan?: By Vladimir Platov, NEO, Aug/06/2021

 




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