2022年2月2日水曜日

米国務省のファクト・シートに対するロシア側の反論:ファクト対虚構 ― ウクライナに関するロシアのガセネタ

 

米ロ間の情報戦争を見ていると、事実だと称する内容がとんでもない虚報であったり、虚報だと思われていた事柄が実は文字通りに真実であったりする。「事実」(ファクト)という言葉は本来の言葉の定義とはまったくかけ離れた意味合いで、つまり、一見真実であるかのように大っぴらに使われている。

戦争においては嘘をつく場合はとてつもなく大きな嘘をつき、それを繰り返すことが鉄則であると言う。歴史的にもそういった事例が多く見られる。そして、今はウクライナをめぐってさまざまな情報が連日飛び交っている。

このような状況はウクライナ紛争をめぐる場面だけの話ではない。新型コロナの大流行においてもさまざまなガセネタが行き交ったことは誰にとっても記憶に新しい。インターネット時代にある今、われわれ一般大衆が享受するインターネットの恩恵と世界を指導していると自負するエリートたちがインターネットを駆使して洗脳のために使うプロパガンダとは同じコインの表と裏の関係であると言えそうだ。

今や、情報の伝わり方は非常に速い。一片の情報は一日の内に全世界に広がってしまう。今日の情報伝達の速さと連日飛び交っている情報量は、米国を除いて、全世界を荒廃させた第二次世界大戦の前夜とはまさに雲泥の差だ。

そんな中、われわれ一般庶民が手にする情報の質を見ると、まさに玉石混交である。情報の真偽を確かめ、ガセネタに惑わされないようにしなければならない。ウクライナをめぐってロシアとNATOとの武力衝突が喧伝されている昨今、さらには、新型コロナの大流行が収束にほぼ近づいて来た今、この感触は誰もが感じ取っている筈だ。

ここに、「米国務省のファクト・シートに対するロシア側の反論:ファクト対虚構 ― ウクライナに関するロシアのガセネタ」と題された記事がある(注1)。

ところで、一言付け加えると、この記事における「ロシアのガセネタ」とは「西側が言うところのロシアのガセネタ」と言う意味である。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

さまざまな情報が行き交い、真実と思われる情報がガセネタであったり、ガセネタだとこっぴどく批判されていた情報が真実を伝えていたことが判明する昨今、この投稿はウクライナ内戦の深層を吟味し、より本当の姿を理解しようとする上で少なからず役に立つのではないかと思う。

***

ロシア連邦外務省発。

120日、@StateDept(米国務省)はウクライナに関するロシアのガセネタについて「ファクトシート」を発表した。(https://is.gd/QBgF3i)

この文書に記載されている内容はどれを取り上げてみても批判的な解析には到底耐えられそうにはない。

上述のファクトシートに対する我々の反論をここに示そう。願わくば、米国やNATOにおけるわれわれの同僚は当方の反論を注意深く吟味するために十分な時間を割いて貰いたいものである。

 

米国務省のファクト・シートに対するロシア側の反論:

ファクト対虚構 ― ウクライナに関するロシアのガセネタ

 

米国務省が主張する「真実」:

プーチン政権の大嘘の主張はロシアの侵攻による犠牲者であるウクライナを非難している。ロシアは2014年にウクライナを侵略した。プーチン大統領はもしも要求が満たされなければその報復として軍事的な策を講ずると言って脅しをかける一方、クリミアを占領し、ドンバス地方の武装勢力をコントロール下に置き、今やウクライナとの国境周辺に10万人以上もの兵力を終結している。

その現実はこうだ:

ウクライナの状況を不安定化した責任は米国とその他のNATO加盟国にあり、彼らは2014年のクーデターを支援した。その結果、選挙で正式に選出されていた大統領を失脚させ、国粋主義者たちが政権に就くことになった。クリミアやドンバスの住民は自分たちの身の安全について危機感を抱き、ステパン・バンデラやロマン・シュへービッチの信奉者によって樹立された新政権の下で生きることは出来ないと判断した。その結果、クリミアはロシアへ併合され、ドネツクとルガンスクの両地域は独立を宣言し、キエフ政府はこのドンバス地域に対して内戦状態を引き起こし、それが今でも続いている。


米国務省が主張する「真実」:

モスクワ政府はウクライナとの国境に10万人以上の兵力を集合することによって現行の危機を誘発した。ウクライナ側の国境地域にはこれに匹敵するような軍事行動はない。ロシア軍およびその諜報機関はウクライナに向けてガセネタを発信し、ウクライナやウクライナ政府高官はロシア・ウクライナ関係における攻撃者であると描写している。ロシア政府は世界中をトリックにかけ、ウクライナの行動は世界規模の紛争を引き起こしかねないと信じ込ませ、ロシア市民にはウクライナにおける軍事行動は必要不可欠であると思い込ませようとしている。ロシアは自分自身の攻撃性について他者にその責任をなすりつけようとしているが、軍事行動を縮小し、外交を通してこの危機を平和裏に終わらせるのはモスクワ政府の責任である。モスクワ政府は2014年にウクライナに侵攻し、クリミアを占領し、ウクライナ東部での紛争に今も油を注いでいる。これはロシア人の典型的な行動パターンをなぞるものであって、この地域の国の主権や領土を侵害している。たとえば、2008年にはジョージアの領土の一部に侵攻し、占領した。さらには、ロシアはモルドバから兵力と軍需品を撤収するという1999年の約束を履行してはいない。モルドバにおいては政府からの同意も無しにロシアは軍の駐留を続けている。

 その現実はこうだ:

キエフ政府は西側と共謀してロシアはドンバス地域における紛争の当事者として描写しようとしている。しかしながら、「Package of Measures」文書の第2パラグラフに示されているように、(仲介しようとする)関係各国はキエフ政府とドネツクおよびルガンスクとが軍事的な問題に関する紛争当事者であると認識している。それだけではなく、紛争の決着に関する他の全ての事柄に関しても言及している。OSCE との関係で言えば、ロシアはドイツやフランスと並んで「コンタクト・グループ」(CG)およびノルマンディー・フォーマットにおける仲介役でもある。

米国およびNATO 諸国はウクライナで自分たちが行っている軍事展開から国際社会の関心を逸らせるためにそうしているのだ。ウクライナとその同盟国の武装兵力はロシア国境の周辺地域において軍事行動を活発化させており、多国籍軍による大規模軍事演習を行っている。今年は演習が10回も行われる予定で、これは20211214日の法律に記載されており、2022年には外国の武装兵力をウクライナへ受け入れるとしている。本法律は軍事演習の規模を著しく拡大することを明記している。事実、演習への参加兵士の数は2倍となり、機材の投入量は何倍にも膨らむこととなる。

これらの行動は「Package of Measures」文書の第10パラグラフとの間で矛盾をもたらす。このパラグラフは外国からの軍隊はすべてがウクライナの領土から撤退することを明記している。

ロシアがジョージアの一部を占領し、モルドバからの撤退を拒否しているという主張はまったくの嘘である。アフカジアと南オセチアはトウビリシ政府の攻撃的な政策の結果として独立を勝ち取り、ロシア軍はこれらの国々との相互の同意に基づいてジョージア政府からの攻撃を阻止するために駐留している。トランスニストリアからの軍隊の撤退が完了する時期はキシナウ政府とティラスポリ政府との間の紛争が解決するかどうかにかかっている。このことはOSCEの文書に正式に記載されており、米国も参画している。


 米国務省が主張する「真実」:

戦闘経験が豊富な戦闘部隊や周囲を納得させるだけの無難な説明もできない攻撃的な武器を持った10万人以上の兵力をロシアは先に侵略した国家の国境付近へ配備し、いくつもの地域を依然として占領していることは単なる兵力の展開とは言えない。それはウクライナの主権と領土に対するロシアによる明らかな、そして、新たな脅威である。この兵力の増強はウクライナ政府の信用を低下させ、さらなる侵攻の口実を作り出すためのロシア側の活発なガセネタ策と連携して行われている。

その現実はこうだ:

ロシアは自国の領土内で軍事演習を行い、軍隊に対しては抜き打ち検査を実施する。その一方、米国は自国の領土から何千キロも離れた東ヨーロッパへ兵力や武器を配備し、それによってヨーロッパの安全保障と戦略の安定性を損ない、ドンバス地域に居住する自国民に対するキエフ政権による攻撃的な軍事行動を扇動している。

 

米国務省が主張する「真実」:

米国とロシアは化学兵器条約の締約国である。この国際条約の下で要求される義務に基づいて、米国は化学兵器を使用しない。しかしながら、ロシア政府は反対派を暗殺するために二度も化学兵器を用いた。そういった事例には国外でのケースも含まれる。ロシアが行ったウクライナ東部において紛争を助長することよりも、米国はむしろ2014年以降同地域ではモスクワ政府による攻撃によって影響を被った人たちに対する人道支援として35千百万ドル以上を提供した。ロシア側は高官の言葉だけではなくプロパガンダ用テレビ・ラジオ局を用いて、軍事行動のための口実を作り出すために真っ赤な嘘を故意に広げている。

その現実はこうだ:

われわれは誰もが知っている。独立国家への侵攻を行う前に米国当局がどのようにガセネタを用いるかを。たとえば、米国がイラクへ侵攻するための口実としてコリン・パウェルが使ったあの悪名高い小さな管のことを思い起こしさえすれば十分だ。米国が人道支援として提供したとする上述の金額はドンバス地域の住民のためにロシアが提供した巨額の支援に比較すると、大海に注がれる一滴の水でしかない。

 

米国務省が主張する「真実」:

ウクライナ政府による脅威を受けているとするロシア人集団や親ロシア派の話し手からは信用することができるような報告はない。しかしながら、ロシアの占領下にあるクリミアやドンバス地域においてはウクライナ人は厳しい弾圧や恐怖の中で自分たちの文化や国籍および生命に対する弾圧に直面しており、彼らの報告は信用するに値する。クリミアでは、ロシアはウクライナ人にロシア国籍を取得するよう強要し、国籍を取得しないならば財産が没収され、医療サービスの恩恵は受けられず、職場さえも失う。ロシアによる占領またはコントロールに対して平和裏に反論を呈する者は根拠もなく投獄され、警察は彼らの自宅を襲い、公に人種差別的行為を行い、場合によっては拷問を加えたり、虐待する。宗教上および民族上の少数派は「急進派」とか「テロリスト」として調査の対象となり、訴求される。

その現実はこうだ:

ウクライナ国内のロシア語を喋る市民に対する権利の侵害はその数が何百万件にもなっており、恐ろしい規模に達している。同国政府は言語、教育、ならびに、いわゆる「先住民族」に関して人種差別的な法律を定め、生活圏のあらゆる場面からロシア語を締め出そうとしている。20218月、ウクライナのウラジミール・ゼレンスキー大統領は外国人嫌いが否定し難い程に高まった際にロシア語系住民はウクライナから去るようにとさえ述べた。また、20216月、国家言語の防護を担当するコミッショナーであるタラス・クレメンは言語法に反対する者は「この国の領土から去ることができる」と言った。

人権問題については、通常、非常に献身的である米国がロシア語系ウクライナ人と直面した場合には、広く知られている人種差別を認めようともしないのはいったい何故だろうかと誰もが不審を抱く。恐らく、彼らはロシア人を人間として見てはいないのではないか?

クリミアにおける人権に関しては、少数民族の現状も含めて、クリミア半島のロシア復帰後に状況が大きく改善したとは言えないが、完全に変化はしている。以前の、ならびに、現在のウクライナ政府とは異なり、ロシア連邦は同半島のユニークな多文化空間を維持しようとしている。われわれの理解するところに寄れば、ウクライナ東部における人権に関する悲惨な現状から国際社会の関心を逸らせるために西側はクリミアにおける人権問題についてガセネタを広げることに躍起になっている。

 

米国務省が主張する「真実」:

バイデン大統領はプーチン大統領と二回会談し、米国の高官らは現状を平和裏に解決するために総括的な外交努力の一部としてロシアやヨーロッパと十何回もの高官レベルの会合を持った。

その現実はこうだ:

「総括的な外交努力」という文言をここに持ち出すことは、良く言ってさえも、偽善的であり、見掛け倒しである。安全保障の保証とロシアとNATO 諸国間の安全保障を確実にすることに関してわれわれがふたつの条約草案をワシントン政府へ送付した昨年の1215日以降、米国はロシアが提案した個別の主なパラメータについての議論をそれぞれ異なる専門レベルで、さまざまな進め方を行って、あからさまに長引かせようとした。間をあけて、ロシア側の文書によって提起されている問題点の核心について答える代わりに、ホワイトハウスと西側の同盟諸国はロシアを「攻撃者」、「文明の高いヨーロッパの敵」、および、国際的な安定性に対する「脅威」であると称して、極めて毒を含んだ情報を流し、プロパガンダ作戦を開始した。われわれの経済を疲弊させ、ロシアに対する組織的な挑戦を形成することを目的に「痛みが大きい」経済制裁によるロシアへの際限のない脅迫に加えて、これらすべてが行われた。セルゲイ・ラブロフ外相とアントニー・ブリンケン国務長官の会談が行われる前夜に国務省が発行した「推奨事項」は大っぴらな挑発そのものであると解するしかない。安全保障に関する会談後の記者会見でラブロフ外相はロシアの取り組み方について詳細を説明した。(hyperlink  https://www.mid.ru/ru/foreign_policy/news/1795493).

 

米国務省が主張する「真実」:

NATOは防衛のための同盟であって、その目的は参加国を防護することである。

その現実はこうだ:

この軍事同盟は国際法に逆らう行動を起こして、その名声を失墜させた。つまり、NATO加盟国によるユーゴスラビアに対する軍事行動やイラクやアフガニスタンへの侵攻、有志国家による同盟軍によるリビアに対する野蛮な破壊行為、等だ。これらの行為は「防衛」とは何の関係もない。

NATOが持つ防衛という特性に関して2002年にロシアのウラジミール・プーチン大統領が述べた事柄を参照することは文脈からまったく排除され、ロシアとNATOとの協力を企てた期間にも影響を与える。それ以降のNATOのロシアに対する攻撃的な政策ならびに東方への拡大はこれらの意図を完全に壊した。

 

米国務省が主張する「真実」:

NATOは新しい参加国を迎え入れないとは決して約束してはいない。

その現実はこうだ:

199029日、エドワルド・シュワルナゼソ連外相との会談中に米国のジェームズ・ベーカー国務長官は「NATO軍の東方への拡大は1インチたりともしないであろう」という実に堅固な保証の言葉を述べた。1990210日、ドイツのハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー外相はエドワルド・シュワルナゼに「NATOは東方へは拡大しない」ことを保証した。同日、ドイツのヘルムート・コール首相はミカイル・ゴルバチョフとの間でこのことを確認した。米国務長官のジェームズ・ベーカーは1990213日の状況説明会でワシントン政府はドイツの統一やドイツをNATOに迎え入れることに好感を抱いており、同軍事同盟がさらに東方へ拡大しない用意ができていると言明した。これらの保証内容はすべてが会合の議事録から見い出すことが可能であって、今日これらの文書は一般大衆にも入手可能である。

 

米国務省が主張する「真実」:

NATOの拡大はロシアに対するためのものではない。

 その現実はこうだ:

過去20年間、NATOの同盟軍はすべてに関して正確に東方戦線のみに集中してきた。この軍事同盟のロシア国境への接近は軍事的インフラの創設と改善、大西洋を越す移動も含めた大部隊の速やかな移動、ならびに、ふたつの目的(訳注:これは自衛ならびに攻撃を指す)を持ったミサイル防衛施設をルーマニアに設置することと同時進行で行われてきた。ポーランドにおけるミサイル防衛施設の設置は目下進行中である。大型の武器を格納する地下施設の建設は東欧のNATO参加国で進んでいる。これらの国々では外国軍の駐留に機会が与えられ、1997年の「NATO・ロシア基本議定書」の文言には触れてはいないにしても、議定書の精神を危機一髪で阻害するところにまで来ている。

黒海へ面してはいない国の艦船が黒海へ入って来ており、それらの国々からの艦艇の数は著しく増え、この海域をもうひとつの不安定な海域へと変貌させている。以前は穏やかで平和的であった黒海は今や軍事衝突の舞台となった。NATO加盟国の偵察機の飛行が頻繁になって、民間航空機の飛行には脅威となってさえいる。

同盟軍は定常的にわれわれの国境付近で軍事演習を行っている。昨年だけでも、120回もの演習が行われ、それらの演習では攻撃的なシナリオが採用され、ロシアは仮想敵国として想定された。

NATO極めて攻撃的なパートナー政策を求め、フィンランドやスウェーデン、ウクライナおよびジョージアに目くばせをしている。その一方、中央アジアでは踏み場を構築しようと試みている。また、NATOは潜在的にバイオ・ハザードを引き起こしかねない施設を構築している。

***

これで全文の仮訳が終了した。

陳腐な言葉かも知れないが、この記事を読んで「戦争の最初の犠牲者は真実である」という言葉を否が応でも思い起こす。戦争を開始しようとする勢力はどうしても真実を歪曲するしかない場面に遭遇する。歴史を紐解けば、豊富な事例を見ることができる。巷では誤解されるであろうことを承知の上で言うとすれば、米国務省とロシア外務省とが展開している上記の口喧嘩を見ると、米国による長い戦争の歴史を言及するまでもなく、米国こそが戦争を仕掛けていると言わざるを得ない。

良心的な読者の皆さんは多くが早急な判断を避けることであろう。要は、より多くの情報を集めた上でご判断いただきたいと思う。ここに掲載した情報は数多くの材料のひとつになるだろうと思う次第だ。

もう一件。最近の動きの中でもっとも重要と思われる件についても触れておこう。

ウクライナを東西勢力間の綱引きの舞台にしている限り、ウクライナには平和は永遠にやって来ない。地理的にロシアの隣に位置していることから、ウクライナはそういう地政学的な宿命を背負っている。その意味では、ウクライナの平和に関しては米国とロシアの両国が最終的な責任を担っている。「ロシアよ、アメリカよ、しっかりしてくれよ!」と私は言いたい。そのような観点から、一本の記事が非常に興味深い情報を伝えていることに気付いた。それは「ウクライナを中立にせよ ― ドイツ国会議員の言」という表題をもった記事だ(原題:Make Ukraine neutral - German MP: By RT, Jan/30/2022)。中立国家にするということはウクライナをNATOへは迎え入れないということだ。

ドイツ首相が近い将来米国を訪問し、国内問題で多忙を極めているバイデン大統領と会談することになったと報じられている。議題はふたつ。ウクライナ情勢とノルドストリーム2だ。個人的な推測となるが、上記のドイツの国会議員の発言はドイツ首相の訪米を意識したものなのではないか。たとえ短期的な策であろうともウクライナに平和を呼び込めるかどうか、たとえそれが単なるきっかけであるとしても何らかの成果が得られるかどうかが当面の最大の関心事である。

さらに、今回の引用記事との関連でもう一件。読者の皆さんは「フェースブックが真実を認める ― ファクトチェックは実際には単なる(左翼の)意見に過ぎない」と題された記事をご存じだろうか(原題:Facebook admits the truth: Fact checks are really just (lefty) opinion: By New York Post, Dec/14/2021)。新型コロナの渦中ではさまざまな意見や情報が飛び交っていたが、フェースブックは「ファクトチェック」という機能を働かせて情報検閲を行い、彼らに都合が悪い情報をソーシャルネットワークから締め出すことに余念がなかった。その結果、情報の消費者であるわれわれ一般大衆はエリートたちが流布したいと思う情報にだけ接することが可能で、反論となるような批判的な情報には接することができなくなった。このフェースブックによる恣意的な情報操作によって、球形の地球があたかも平らな地球に戻ってしまったかのような感じであった。しかしながら、ジャーナリストのジョン・ストッセルがフェースブックを起訴したことによって、左翼による偽情報との闘いはとんでもない茶番劇であることを露呈してしまったのである。


参照:

1Response to the US Department of States fact sheet: Facts vs. Fiction: Russian Disinformation on Ukraine: By The Saker, Jan/22/2022

 




2 件のコメント:

  1. И.Симомураです.じっくりと読もうと思っていた記事です.いつものように,分かりやすい翻訳に感謝申し上げます.あのユーゴスラヴィア連邦の解体をもたらしたNATOによるセルビア空爆は,ロシア解体を目標にしたNATOの予行演習だったように思えます.当時はエリツィンが大統領でしたが,彼もそれを察知したのだと私は考えます.プーチンを後継者に指名したことは,彼の最大の功績です.この度の所謂「最後通牒」は,指名された年以来ロシア民族らしい入念で最悪の事態を常に念頭に置いた対応を考えた戦略なのでしょう.米国のおろおろした対応は,同盟諸国の離反を惹起しました.泥船から逃れる鼠の如しです.私はポーランド市民なので,第二の祖国であるこの国が心配です.ウクライナ紛争に関与していることが報じられると,国内ネットではこのような「火遊び」を批判する記事が多数見られましたが,主流メディアには(旧社会主義系のメディア以外)報じられることが無かった.旧「連帯」の幹部であったアダム・ミフニックが編集長を務めるタブロイド新聞「選挙新聞」などは,プーチン氏のKGB要員であった経歴を,恥ずかしく下品な調子で書いておりまし(ポーランド人は少なからず旧内務省保安委員会により,逮捕,拷問,流刑,矯正-この言葉冷笑主義そのもの-収容所での奴隷労働,虐待に苦しんだので,私にはこの心理を理解できます).ポーランド人はロシア人に比べて,遥かに常識の通用する人々です.1985年当時各市民は兵役年齢を除き,旅券が発給されました.ソ連ではポーランド留学生と結婚するのが,この憂鬱な国から脱出する方法でした.ワルシャワ機構の一員であり,兄弟民族でもあるということから,国際結婚に対する規制は緩やかであり,ソ連市民配偶者には,国外旅券が発給されました.二人はポーランドに入国し,裁判所に離婚手続きを申し立て,判決により離婚します.そしてソ連市民は最終目的地を目指します.面白い体験をしました.ソ連軍の駐屯基地の近くには決まって歯医者が開業しているのです.ソ連軍兵士は,ポーランドではドルやマルクなどの外貨が入手できることを先輩から教わっており,ポーランド行きが決まると,歯を金歯にするのです.ソ連では金歯は実に安い.ポーランド着任となると,近くの歯医者に行き,金歯を外して,ボンという名の一種の金券に替えるのです.ボンの交換レートは毎日の新聞のある欄にさりげなく表示されます.ボンは国内で通用するだけで,国外では無価値です.それで外貨が必要な国外旅行などの際には,私のような在住の外国人から,安いレートでドルやマルクに交換してもらうわけです.当時ワルシャワ大学新入生だった家内は,百ドルあれば学寮で一年間安楽に暮らせたといいます.

    返信削除
    返信
    1. シモムラさま
      コメントをお寄せいただき、有難うございます。
      1970年代、1980年代の東欧は何処も同じような側面を持っていましたよね。私はル-マニアで二回仕事をし、合計で7年を過ごしましたから、それぞれの国によって多少の違いがあるものの、当時の東欧圏での生活には共通する側面が感じ取れます。
      ユーゴスラビアに対するNATOの空爆は「NATOは自衛のための組織だ」と言い張るNATOにとっては最大の汚点だと思います。政治的には説明のしようがない大失策!
      エリツィンがプーチンを後継者に選んだことは彼の最大の功績であったと言えるでしょうね。どう見ても異論はありません。そして、米国が国際政治で失敗を続け、世界の指導権を失いかけている今、世界政治を牽引しているのは米国ではなく、むしろロシアではないのかとさえ思わせるような状況が今現れています。軍事的には米国は中東での覇権を失い、アフガニスタンではベトナムからの敗走を髣髴とさせる程の場面を露呈しました。そして、国内では前トランプ大統領に対抗する米民主党左翼はバイデン大統領の下で過激な政策を推し進め、特に新型コロナ対策では多くの州で米国民に過酷な苦難を強いたことからも、国内は二分していると伝えられています。米国は今国内と国外の両領域で最大級の試練にさらされています。そんな米国を尻目にプーチンは着々と業績を挙げています。しかしながら、私は懸念を抱いています。プーチンの後継者は育っているのだろうかと。一時期大統領になったメドベージェフはプーチンの後継者ではないと言われていますし、素人のわれわれには答えが見えては来ないのです。
      要するに、ウクライナで、あるいは、黒海で、さらには、西(中央)アジアでロシアとNATOが軍事衝突を引き起こすような状況を手際よく避けるだけの器量や政治的洞察力を持った人物が後継者として現れてほしいものです。

      削除