2023年8月24日木曜日

ドイツ経済の栄光の日々は過ぎ去ったと感じられる

 

ロシア・ウクライナ戦争は長期的な米ロ間の武力抗争の観を呈している。米ロ両国は相手側が経済的に疲弊するのを待っている。米国とその同盟国にとってはこの紛争は西側が単独覇権を維持することができるかどうかを占うものであり、ロシアと非米諸国にとっては多極化世界の到来を実現するという悲願がかかっている。

この米ロ間の覇権争いには極めて重要な側面が含まれている。それはどちらが資源に恵まれているのかという極めて基本的なものであって、一国の、あるいは、特定のグループの潜在的な対応力を評価する上で見落とすことができない要素である。親米諸国は天然資源には恵まれておらず、原油や天然ガスといったエネルギー資源ならびに鉱物資源は中ロを中心とした非米諸国側に偏在している。たとえば、非米側のロシア、サウジアラビア、イラン、ベネズエラといった国々はトップレベルの産油国だ。つまり、米ロ間の武力抗争が長期化した場合、経済的な打撃を真っ先に感じるのはエネルギー資源に貧する親米諸国になるであろうという推測は容易に頷ける。

ロシア・ウクライナ戦争の最中、ロシア産天然ガスをドイツへ輸送するパイプラインが破壊工作を受けた。この破壊工作によって、安価で安定した供給が約束されていたロシア産天然ガスはヨーロッパ市場から排除された。そればかりではなく、天然ガスに続いてロシア産原油の輸入についても制裁が課された。それ以降、ドイツおよび欧州諸国はエネルギー価格の急騰やインフレによって経済的打撃を受けている。

ドイツ経済ははたして過去の栄光を取り戻すことができるのであろうか?

この疑問に答えるかのように、「日米韓豪の中国敵視は茶番から自滅に」と題された田中宇の国際ニュース解説(無料版)(https://tanakanews.com/)の822日号がある。著者の田中宇はその中で次のように指摘している。西側においては言いにくいことをさらりと述べているのだ。
「ロシアとの経済関係を断絶させられ、石油ガスが不足して経済破綻が続いているドイツなど欧州は、米国との同盟関係を続けていると経済を自滅させられる先例を示した。今後は、日韓豪などアジア側の同盟諸国が、中国を相手に同じような目にあわされていく。中国もロシアも、米同盟諸国にとって脅威といえるほどの存在でないのだが、脅威の分析からして米同盟諸国の専門家たちは米国から洗脳歪曲させられ、まっとうな判断ができなくなっている。脅威でないものを脅威だと言って敵視する大間違いの連続をやらされ、細かく管理されて自滅させられていく。米国の隠れ多極主義が巧妙に機能している。」

ここに「ドイツ経済の栄光の日々は過ぎ去ったと感じられる」と題された最近の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1: © AFP 2023 / THOMAS KIENZLE

ヨーロッパにおける産業の巨人ドイツはウクライナで軍事作戦を展開したロシアを「罰する」という西側の試みによって最も大きな打撃を受けた国のひとつである。工業生産は低迷し、安価で信頼できるロシア産炭化水素の供給へのアクセスを失った後、今年初めにドイツは不況に陥った。

ドイツのビジネスや行政、政府の指導者たちは、政府のエネルギーや経済政策に対して広範な不満を表明し、この中央ヨーロッパの産業大国の経済は「頂点を過ぎた」のではないかという懸念を表明している。

ドイツのメディアのために「アレンスバッハ世論調査研究所」が484人の企業の取締役や最高経営責任者、政府閣僚、その他の上級意思決定者を対象に行った調査によると、同国の管理職クラスのわずか24%だけがロベルト・ハベック経済気候大臣の職務遂行能力に満足しており、たった1年前の91%から大きく減少している。

調査対象者の4分の1未満が今後6か月で状況は改善すると予想し、3分の2は同国が失った国際競争力を回復する「可能性はほとんどない」と述べ、76%はハベック経済相がドイツ企業の利益を十分に念頭に置いているとは思えないと答えた。

ドイツの競争力を低下させている様々な要素の中でトップファイブの課題として、同 国の管理職クラスの人たちは高いエネルギーコスト(77%)、熟練労働力の不足(70%)、過度の政府規制(68%)、やり残しのままのデジタル化プログラム(65%)、老朽化したインフラ(61%)を挙げている。

調査対象者の58%はドイツは経済的に「頂点を過ぎた」ようだと述べ、経済が再び回復するであろうと予想したのはわずか22%であった。

回答者の約4分の3はオラフ・ショルツ首相が率いる「交通標識のような」連立政権(ショルツの社会民主党、ハベックとアナレナ・ベアボック外相が代表する緑の党、および、自由民主党による連立)に対して批判を表明した。連立政権に対する満足度は2022年の62%から現在は21%に低下しており、調査対象者の65%は連立政権の政策が「国を弱体化させている」と指摘している。

アレンスバッハ研究所は613日から77日にかけて調査を実施し、大企業の取締役89人、大臣18人、企業の長28人を含む484人のビジネスマンや役人を対象にして調査を行った。

ドイツ経済は2023年の最初の3か月で経済成長が0.3%縮小した後、5月には正式に景気後退に突入した。

ドンバス危機が20222月にウクライナでの本格的なロシア・NATO代理戦争へと展開した後、ドイツは高インフレやエネルギー価格の高騰、等、に見舞われて、ロシアから経済的に切り離すという決定に関連して他の西側諸国が抱えている問題のすべてに直面している。しかしながら、ヨーロッパの主要な産業経済であるドイツの危機は、製品がエネルギー集約的な性質を帯びていることから、米国や中国などの他の世界的な巨人との競争力が失われるかも知れないという懸念を表明している地元企業にとってはさらに大きな苦痛であった。

ワシントン政府は、昨年、特定の「グリーン」産業への連邦補助金を発表した後、痛手を受けたドイツにさらに侮辱を加えるかのように、ヨーロッパの産業に対して減税とより安価なエネルギーを入手するには米国へ移転するようにと効果的な誘惑をしようとした。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、20225月、欧州経済をロシアのエネルギー資源から切り離すことは広範な産業空洞化と競争力の喪失によって地域全体を脅かすであろうと警告した

先月、ドイツのクリスティアン・リンドナー財務相は予算の削減によりベルリン政府は欧州連合の予算への追加拠出を停止せざるを得なくなったと発表した 

「ドイツは他のヨーロッパ諸国にとっては重要な供給国であり、重要な調達国でもある。ドイツ経済の持続的な景気後退はフランスやイタリア、スペイン、ベルギー、オランダに重大な影響を与えることは間違いない」とパリを拠点とするエコノミスト、ジャック・サピルは今月初めにスプートニクに語った。

「この不況が来春まで続くと、言及された国々の経済も不況に陥り、それがドイツ経済にさらに悪影響を与えるだろう」とサピルは予測し、ベルリンとヨーロッパの反ロシア制裁政策を「自殺のひとつの形態」として特徴づけた。

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これで全文の仮訳は終了した。

この引用記事を読むと、ドイツ経済を指導し、意思決定をする方々の悲観的な見方がひしひしと伝わってくる。

ロシア・ウクライナ戦争は米国がロシアに対して長年にわたって仕組んできた作戦であると言われている。その核心はロシアを弱体化し、ロシアが持っている膨大な天然資源をただ同然で入手することにある。そのためにはロシア経済を疲弊させ、国民がプーチン政権に反対し、打倒させることだ。日本ではロシアが昨年2月にウクライナへ武力侵攻したことに関して、日本のメデイアは、西側メデイアのプロパガンダをそのまま受けて、2014年のマイダン革命以降ウクライナ国内に起こった諸々の政治的出来事、つまり、東部のロシア語を喋る住民に対する弾圧、武力行使、等を完全に無視し、「ロシアが悪い」、「プーチンは悪党だ」と喧伝した。私はこのブログでこの事実を指摘し、ロシアを偏見を持って非難することに疑問を呈して来た。長年にわたってドイツ首相を務めてきたメルケル首相は「ミンスク合意」はウクライナ軍にロシアと戦うための軍備を強化させる時間をかせがせることが隠れた目的であったとの爆弾発言を行った。奇しくも、メルケル前首相のこの言葉は西側が喧伝して来たシナリオに水を差すものとなった。

そして、ロシア・ウクライナ戦争の第二章はヨーロッパの経済的巨人であるドイツを弱体化させることであるとも言われている。ノルドストリーム・パイプラインの破壊が具体的な例証であると言えよう。西側の覇権国としての米国の指導者にとっては同盟国であるドイツさえをも衰退させ、ヨーロッパ全体を沈ませることによって衰退しつつある自国の優位性を維持することが最重要であると考えるならば、米指導者らは精神的に病んでいると言えるのではないか。もはや、末期的症状だ!

「今後は、日韓豪などアジア側の同盟諸国が、中国を相手に同じような目にあわされていく」と述べた田中宇氏の見解はわれわれに日本を取り巻く地政学的な将来の展開を予感させるのに十分である。

われわれの次世代のために美しい日本を残すには、まず、われわれ自身が目を覚まさなければならない!

参照:

注1:German Business Fears Best Days Behind It as Economy Crushed by Loss of Russian Energy: By Ilya Tsukanov, Sputnik, Jul/24/2023

 


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