台湾有事については私は7月29日に「日本は台湾のために戦う積りはなく、他の米同盟国もまったく同じだ」と題した記事を投稿したばかりである。その記事では、日本の世論としては台湾のために戦うつもりはないことが指摘されている。そして、それが中心的な報告となっている。
ここに「日本は台湾を防衛するべきか?」と題されたもうひとつの記事がある(注1)。前の投稿では日本は台湾を防衛する義務はないとした。この記事は極めて根本的な問いかけをしており、さらなる議論を喚起している。前回の投稿の続編として覗いていただきたい。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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副題:答えは台湾を巡る米中戦争が実際にどのように展開するのか次第だ。
ウクライナ戦争が勃発してから1年以上が経過。「次は台湾だ」という声が高まっている。
ジョー・バイデン米大統領は、中国による攻撃が始まった場合、米国は台湾を守ると繰り返し述べている。バイデンの言葉が額面通りに受け取られた場合、日本は実際に紛争が発生した場合に重要な決断をしなければならない。日本の立場、特に、米国が日本の基地を使用できるかどうかによってこの戦争の結果は大きく影響されることになろう。
しかしながら、米国が軍事介入を行った場合、日本が自動的に中国と戦うことを期待するのは余りにもナイーブだ。
日本にはふたつの選択肢:
一部の政治家や当局者がタカ派的なコメントを公に発したにもかかわらず、日本には台湾を単独で防衛する能力や意志はない。東京政府の課題は台湾紛争が発生し、米国が中国との戦争を開始することを決断した時に現れる。
簡単に言うと、日本にはふたつの選択肢がある。ひとつは米国とともに中国と戦うこと。もうひとつは中立性を選ぶことだ。論理的に言えば、ウクライナ・モデルとでも呼べる三番目の選択肢が存在する可能性もある。日本と米国は、中国と直接交戦する代わりに、台湾に軍事支援を提供し、西側諸国を結集して中国にさまざまな制裁を課すことが可能だ。しかし、台湾はウクライナの約1/16の大きさしかない島国であり、島全体が戦争地帯になった時、空路または海路で台湾に武器や弾薬を届けることを中国が黙認する可能性は極めて低い。
最終的に、この選択肢は中国と戦うことと大差がない。
対中戦争:日本は台湾の防衛を支援することができるが、非常に深刻な犠牲が伴う:
米国と共に戦うことによって日本は重要な役割を果たすことができる。自衛隊の参加はきっと助けになるであろう。しかし、最も重要な貢献は米軍が在日米軍基地からだけではなく、自衛隊基地や民間港や飛行場などの他のインフラからも活動できるようにすることだ。これは中国軍にとっては手ごわい脅威となるであろう。
ワシントンDCに本拠を置く「戦略国際問題研究所」(CSIS)が最近実施した戦争ゲームは、米国が在日米軍基地にアクセスできない場合、台湾をめぐる紛争に負けることを示唆している。
一方、対中戦争を開始することは莫大な費用を伴う。米空軍が日本から出撃することを日本政府が許可した場合、北京が台北を降伏させることはほとんど不可能であろう。米軍の能力を低下させるために、中国軍は在日米軍基地やその他の軍事インフラを攻撃せざるを得ない。
CSISの戦争ゲームはそのようなシナリオは自衛隊を含むすべての当事者に壊滅的な損害をもたらすと結論した。しかし、日本の被害には民間部門の被害も含まれる可能性が高い。通常兵器で米国本土を攻撃する中国の能力は限定的であるが、近隣の日本を攻撃する場合はミサイル兵器を中心とする十分な戦力投射能力を有している。日本の民間人の死傷者は米国が被る死傷者数よりも遥かに大きくなるであろう。
日本は必然的に戦場の一部になるので、日本経済は苦難を強いられる。このような戦争が長引けば長引くほど、そしてそれがエスカレートすればするほど、日本が被る破壊の程度は大きくなる。
ウクライナ戦争においては、米国とロシアのふたつの核保有国は戦場を主にウクライナ国内に限定して、これまでのところ直接の交戦を避けてきた。それは米国が核戦争の危険を冒したくはないからだ。しかし、台湾をめぐる戦争では、ふたつの核保有国を直接対決させることになる。グアムや日本の米軍基地が中国に攻撃されたり、台湾に対する攻撃が熾烈になった場合、米国が中国本土を攻撃する可能性は否定できない。
そして、状況がさらにエスカレートした場合、核兵器の使用も排除することはできない。昨年の夏、「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)が実施した戦争ゲームでは、中国チームのプレーヤーがハワイ上空での核攻撃を命じた。このゲームはその時点で終了したが、日本自体が核の標的になる可能性がある。米国と中国の間で核兵器の応酬が見られるかも知れない。
中立:日本は被害を被らないが、台湾とその同盟国は戦争に敗れる:
日本が中立的な立場をとり、米軍が日本国内の基地を使用することを拒否した場合、日本の賛否両論は基本的に逆転する。このような状況下では、北京は日本を攻撃する理由はないであろう。実際、日本に対する攻撃はほぼ確実に東京を米国側に引き込んでしまう。自衛隊や民間人の両者における日本側の損害はごくわずかとなる。明らかに、この点が中立性を選択することの最大の利点だ。
しかし、日本の基地を使用できないとすると、米国と台湾は中国との戦争でひどく苦しむことになる。いかなる軍事介入についてもワシントン政府は熟考しなければならないであろう。
いずれにせよ、日本の中立的な立場は、中国が台湾を乗っ取り、中国共産党による支配を確立する可能性を大幅に高めるであろう。そのようなシナリオでは、日米の同盟関係はかなり悪化し、おそらくは、両国の安全保障条約の廃止をもたらすであろう。そして、戦後、日本は米国との緊密な関係なしに攻撃的な中国に対処しなければならないかも知れない。
正しい答えはない:
確かに、台湾の民主主義を守ることは重要ではある。だが、それがすべてではない。もしも別の国の民主主義を守ることが外交政策を決定する上で絶対的な基準であるとするならば、米国とその同盟国は今頃ウクライナに代わって直接ロシアと戦っていることであろう。しかし、米国を含むNATO諸国は、核戦争のハルマゲドンを含めて、そのようなシナリオのリスクを明確に比較検討し、その結果、ウクライナに対する支援に制限を設けた。これが正しいアプローチだ。
岸田文雄首相は、この1月13日、ワシントンの「高等国際問題研究院」で行った演説でロシアのウクライナ侵略を振り返り、「この挑戦に立ち向かわなければならないのは日本であり、われわれの自由と民主主義を守るために行動を起こさなければならない」と述べた。中国について議論する際、彼は「武力で一方的に現状を変更しようとするいかなる試みも決して許さない」と誓った。
しかし、台湾をめぐる紛争が現実となった場合、日本の指導者たちは各選択肢のコストと利益を慎重に比較検討しなければならない。米国は日本が単にワシントンの欲望や期待に従順に従うのを当然のこととして考えるべきではない。
とはいえ、中立性を選択することも明白な答えではない。日本は自国の安全と領土の保全を守るために多大な犠牲を払う。また、日本が中立的な立場をとれば、中国は台湾を支配下に置くという目標を実現するために軍事力の行使を奨励されたと受け取るかも知れない。
実際、台湾をめぐる軍事紛争に対する日本の対応は、最終的には、いったい何が北京の武力行使を引き起こしたかに依存する。例えば、台北が一方的に独立を宣言した場合、日本が台湾を守るために戦争による壊滅的な結果を受け入れるリスクを取ることさえも厭わないと想像することは実に困難だ。
一方、北京政府が台湾を統一するために一方的に武力行使に訴えたとすれば、「次は日本」の議論は遥かに説得力のあるものとなるであろう。いずれにしても、日本は戦争が本当に不可避になった時にのみ最終決断を下すべきである。
われわれは東アジアで戦争を誘発しているのではないか?:
戦争に参加するか、中立的な立場をとるかにはかかわらず、これらのふたつの選択肢の間の選択はふたつの悪の間の選択となる。どちらかの選択を迫られた場合、日本も米国も莫大なリスクと甚大なコストに直面することになる。
究極的には、日本の最優先課題は戦争を未然に防ぐことである。日米両国は、台湾と共に、そのための軍事的抑止力を強化することに懸命に努力している。それと同時に、ワシントンは台湾を北京との戦略的競争の重要な試金石として、そして、非常に可燃性の高い試金石として活用しようとしているようだ。日本も中国を批判し、台湾への支持を表明している。これは、ガソリンを注いで火災保険の補償範囲を増やすこととよく似ている。
日米台がどんなに抑止力を高めたとしても、台北が独立に向けて果敢に動いており、ワシントンと東京がその動きを支援していることを北京が認識すれば、もはや中国を抑止することはできない。
中国の指導部は、台湾の独立を容認した場合、共産党による中国統治の正当性が失われることをもっとも恐れている。抑止の論理が機能する余地はほとんどない心理状態だ。戦争の歴史を見ると、抑止の失敗例でいっぱいである。大日本帝国の指導部は、日本軍が米国との戦争に勝つことができるとは信じてはいなかったにもかかわらず、東アジアでの権力を維持するために真珠湾攻撃を決断した。
ウクライナに侵攻するというプーチンの決断は、少なくとも部分的には、ロシアの生存はNATOの東方への拡大によって決定的に脅かされているという恐れに彼が囚われたことによるものであった。
台湾をめぐる戦争を防ぐには、日米両国が十分な抑止力を追求するだけではなく、台湾の独立という概念を拒否することを中国に合理的に保証することが不可欠だ。そうでなければ、「台湾は次のウクライナになる」という無謀な考え方が自己実現的な予言へと変貌する可能性がある。そして、日本は恐ろしい決断に直面することを余儀なくされることであろう。
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これで全文の仮訳が終了した。
さまざまな議論があるが、著者は「究極的には、日本の最優先課題は戦争を未然に防ぐことである」と述べている。
前回の投稿記事によると、世論調査の結果は下記のような具合だ:
ワシントンDCのシンクタンクは日本の回答者のわずか11%が米国と一緒に中国と戦うことが可能であると考え、27%が米軍とまったく協力すべきではないと答えた最近の世論調査に言及した。紛争が発生した場合、過半数(56%)は米国に後方支援を提供するだけで十分だと回答している。
この世論調査では、「紛争が発生した場合、過半数(56%)は米国に後方支援を提供するだけで十分だと回答した」と言うが、後方支援とは在日米軍基地を米軍が使うことを日本は許容するという意味であろう。だが、自衛隊の参画はないという意味でもある。しかしながら、この選択肢では米軍が出撃する在日米軍基地は中国軍からの反撃の対象となる。台湾有事における米軍に対する後方支援はソマリア沖で米艦船への燃料補給を行った後方支援とは内容がまったく異なる!
「確かに、台湾の民主主義を守ることは重要ではある。だが、それがすべてではない。もしも別の国の民主主義を守ることが外交政策を決定する上で絶対的な基準であるとするならば、米国とその同盟国は今頃ウクライナに代わって直接ロシアと戦っていることであろう」という著者の主張は実に秀逸である。美辞麗句に惑わされ、政治家のプロパガンダに盲従しないことが重要だ!
日本人の大多数は「究極的には、日本の最優先課題は戦争を未然に防ぐことである」という著者の主張に賛同するであろう。核戦争に発展する可能性が高い米中戦争を是が非でも回避するという究極的な目標を達成するには、戦闘能力の増強だけではなく、台湾海峡での武力紛争を確実に回避する外交的な努力を続け、現実的な新しい道筋をつけるしかない。日本は戦後初めて本当の意味での自主的な政治決断をする場面に曝されることになる。
米国は中国に接近し、何十年間にもわたって米政府は「ひとつの中国」政策を後押しして来た。しかしながら、最近になって、バイデン政権は台湾の独立を支援し、台湾と中国の分断を意図する動きを鮮明にした。このことから、中国政府は台湾に対しては武力介入も辞さないという姿勢を見せている。バイデン政権の対中政策はもはや台湾海峡での武力紛争を回避する上で最大の障害物であると言えよう。平和的な道筋をつけるには来年の米大統領選の結果を待つしかないのかも知れない。
そして、来年1月に予定されている台湾総統選挙の結果によっては現状が大きく変化する可能性もある。候補者は三人いる。与党の民新党が勝てば、北京政府に対峙する現行の政策が続くだろう。野党の国民党が勝利すると、台湾がウクライナのような戦場と化すリスク、一般庶民が厳しい苦難に曝されることを嫌って、親中国路線に180度転換する可能性もある。また、論理としては、第三党からの候補者が当選することもあり得る。何故ならば、この第三党からの候補者は人気が高いらしく、伝統的な国民党や民進党から大量の票を奪うであろうと推測されている。果たして、どんな政権が誕生するのであろうか。
参照:
注1:Should Japan Defend Taiwan?: By Kiyoshi Sugawa, rESPONSSIBLE STATECRAFT, May/02/2023
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