2022年8月28日日曜日

6カ月後、地政学的な地殻変動が起こっている

 

ロシアがウクライナに対する特別軍事作戦を開始すると宣言したのは今年の224日。6カ月前のことであった。

この軍事作戦は、実際には「ロシアが悪い」と喧伝する西側のプロパガンダマシーンの一方的な主張とは違って、2014年のマイダン革命以降某国が行って来たウクライナの軍国化とロシアに対する嫌悪感の醸成を基盤としたロシア潰しであることは明白であった。それはウクライナ政府軍がドンバス地域で執拗に行って来た民間人に対する無差別砲撃を見ると誰の目からも隠しようがなかった。その現実を理解するのは容易であって、高等教育を受ける必要なんてまったくなかった!当時から現在に至るまで国際政治のあらゆる背景の中でそう判断する以外の視点はいささかもあり得なかった。

ペペ・エスコバーは国際問題に関して深層を少しでも正確に、そして、少しでも幅広く理解しようとする際に私が最も信頼するジャーナリストのひとりである。ここに「6カ月後、地政学的な地殻変動が起こっている」と題された彼の最新の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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ウクライナでロシアによる特別軍事作戦(SMO)が開始されてから6カ月経った今、21世紀の地政学的構造の諸々のプレートは驚くべきスピードと深さでそれらの位置を変え、計り知れない程の歴史的影響がすでに身近に感じ取れる。T.S.エリオットの文言を借用するまでもなく、これこそが(新しい)世界の始まり方であり、ブツブツと言っているのではなく、まさに断固とした形で始まっているのである。

ダリヤ・ドゥギナの悲惨な暗殺 ― モスクワの入り口で引き起こされた事実上のテロ行為 - はこの6カ月目の交差点と運命的に重なっているのかも知れないが、それは現在進行している歴史的衝撃における動的な影響を大きく変えることはないであろう。

ロシア連邦保安庁(FSB)は、犯人をウクライナ保安庁(SBU)の手先であるネオナチ・アゾフ工作員として断定し、CIA/MI6のコンビによって事実上支配されているキエフ政府はこれらの諜報機関の単なる道具に過ぎないと見て、24時間強でこの事件の真相を解明した。

アゾフ工作員はただの手先に過ぎない。いったい誰が命令を出したのかについての蓄積された情報やそれらがどのように扱われるのかに関してはFSBは決して公表することはないだろう。

ウクライナ市民権を与えられている小者の反クレムリン活動家、イリヤ・ポノマリョフはドゥーギン家への攻撃を準備した一団と接触していたと自慢した。だが、誰も彼を真剣に受け止めようとはしなかった。

明らかに深刻な点は、新興財閥と結びついた組織犯罪グループが、彼らによれば、クレムリン政府がその軸足をアジアへ移行することに影響を与えることになったとして知られているキリスト教正統派の民族主義哲学者ドゥーギン(訳注:ダリアの父親。この事件の際にダリアが運転していた車両は父親の所有であった)を排除するという動機をいったいどのようにして抱くに至ったかということにある(彼自身は排除されなかった)。

しかし、何よりも、これらの組織犯罪グループはユダヤ人新興財閥がロシアにおいて築いた不釣り合いな程の権力に対してクレムリン政府と協調してドゥーギンが行っていた攻撃について非難していた。だから、これらの連中はこの種のクーデターを仕掛ける動機を抱き、地元に基盤を築き上げ、関連情報を所有していたに違いない。

もしもここでモサドの作戦を詳しく説明することが妥当であるとするならば、それは多くの面でCIA/MI6よりも確固とした命題であろう。確かなことは、FSBは自分たちのカードを彼らの胸の内に保ちながら、彼らの報復が迅速、かつ、正確であって、傍目には決して見えないように努めるであろうという点だ。

ラクダの背を折ったわら:

SMOの動的な特性に関してロシア政府に対して深刻な打撃をお見舞いする代わりに、ダリヤ・ドゥギナの暗殺は加害者を愚かな殺人グループの巧妙な工作員として暴露しただけであった。

簡易爆発物は哲学者やその娘を殺すことはできない。本格的なエッセイの中でドゥーギン自身は戦争の本質 ― 米国が率いる集団的西側諸国に対するロシアの戦い ― がいかに思想上の戦争であるのかを説明している。そして、これは国家の存亡を掛けた戦争でもある。

正確に言うと、ドゥーギンはアメリカを「制海権を有する国家」、つまり、「海洋を支配する大英帝国」の後継者であると定義している。しかし、今や、地政学的な地殻構造プレートは新しい秩序を綴ろうとしている。「ハートランドの復活」である。

プーチン自身は2007年のミュンヘン安全保障会議で初めてこれを説明した。習近平は2013年に新シルクロードを立ち上げ、それを実現させ始めた。帝国は2014年にマイダン革命を推進し、ロシアに反撃した。ロシアは、2015年、シリアを支援することで帝国に報復した。

帝国はウクライナに対する賭け金を積み上げ、NATOはウクライナをマイダン革命後8年間にもわたって武装化に励んだ。2021年末、モスクワは、ヨーロッパにおける「安全保障の不可分性」に関する真剣な対話にワシントンを招待した。だが、ワシントンからは無応答という応答が返って来ただけであった。

三重奏が進行中であることを確認するに当たってモスクワ政府は時間を浪費することはなかった。つまり、ドンバス地域に対するキエフ政府軍による電撃戦が差し迫っていること、ウクライナは核兵器の取得を目論んでいること、そして、米国の生物兵器研究所の存在。これらはまさに新シルクロードのラクダの背を折るわらそのものであった。

ここ数ヶ月にわたるプーチンの公的介入に関する言動について行った分析によれば、クレムリン政府は、安全保障理事会のヨーダ・ニコライ・パトルシェフと同様に、集団的な西側諸国の政治・メディアの悪党やショック部隊がマイケル・ハドソン教授が定義している支配者、すなわち、実質的には銀行マフィア集団であるFIRE(金融化、保険、不動産)システムからどのように指示を受けているのかを十分に理解していたことが明白である。

また、直接的な結果として、集団的な西側諸国の世論は無知そのものであって、プラトンの洞窟の寓話が示すようにFIREの支配者によって完全な囚われの身となっており、代替的な物語についてはまったく容認することができないということを彼らは完全に理解していた。

だから、プーチンやパトルシェフ、メドベージェフにとってはホワイト・ハウスの老人で、テレプロンプターを読み上げるだけの人物やキエフのコカイン中毒者でコメディアンでもある人物が何かを「支配」しているなんて決して思ってはいない。ボンドの悪役を演じ、不吉な「グレート・リセット」を吹聴するクラウス・「ダボス」・シュワブと彼の相棒であって精神病に罹っている歴史家ユヴァル・ハラリの両者は少なくとも彼らの「計画」を詳しく説明しようとしている。つまり、世界規模での人口低減だ。すなわち、薬に溺れて忘却の彼方へ旅立った者たちを相手に。

米国が世界のポップカルチャーを支配している今、彼の内なる「暗黒街の顔役」を導こうとしている平均的な米国人であるウォルター・ホワイト/ハイゼンバーグは犯罪ドラマ「ブレイキング・バッド」で喋っている「私は帝国のビジネスに従事している」という文言を拝借するのが相応しいようだ。そして、帝国のビジネスとはまさに生々しい力を行使することであり、その後はあらゆる手段によって冷酷さを堅持することである。

ロシアは呪文を破った。しかし、モスクワの戦略は極超音速のビジネス用の名刺を使ってキエフを平坦にしてしまう戦略よりも遥かに洗練されており、たとえそれが何時であっても半年前からはあっという間に実行できていた筈だ。

モスクワ政府が今やっていることは事実上グローバル・サウス全体に対して、二国間、あるいは、組織化された国家集団との対話を保ち、世界システムが今我々の目の前でどのように変化しているのかを詳しく説明し、未来の主役はBRISCOEAEUBRICS+、大ユーラシア・パートナーシップであるとして構想を伝えることだ。

そして、私たちが今目にしているのはグローバル・サウスの広大な地域が、つまり、世界人口の85%がゆっくりとではあるもののFIREマフィア集団を彼らの国家の地平線から確実に追放し、最終的に彼らを倒す準備を整えているという点だ。

地上の現実:

間もなく塵埃と化すウクライナの地上に対してはTu-22M3爆撃機またはMig-31迎撃機から発射されるキンザール極超音速ミサイルが引き続き配備される。

HIMARS(高機動性ロケット砲システム)から成るがらくたの山が引き続き捕獲されることであろう。ロシアのTOS 1A重火炎放射器は地獄の門への招待状を送り続ける。クリミアの防空部隊は簡易爆発物が装着されたあらゆる種類の小型無人機を傍受し続けることだろう。こうして、地元におけるウクライナ保安庁の細胞組織によるテロ行為は最終的に粉砕される。

本質的に驚異的な大砲弾幕 ― 安価で大量生産される砲弾 ― を駆使して、ロシアは土地や天然資源、工業力、等の面では完全に整っている、極めて貴重なドンバス地域を併合することになろう。そして、このプロセスはニコラエフ、オデッサ、ハリコフへと続く。

地理経済学的には、ロシアは、戦略的パートナーである中国とインドは言うまでもなく、グローバル・サウスの顧客に対して大割引で原油を販売する余裕さえも持っている。採掘コストは1バレルあたり最大で15ドル、国家予算ではウラル産原油1バレル当たり4045ドルとしている。

ロシアの新ベンチマークが差し迫っている。ルーブル払いの天然ガス輸出が大成功を収めた後、ルーブル払いの石油輸出も今や目の前だ。

ダリヤ・ドゥギナの暗殺はついにクレムリンと国防省の両者が彼ら自身の規律を破ったという果てしない憶測を招くかに見えた。だが、そんなことは起らない。1,800マイルもの長大な前線に沿って軍事的侵攻を進めることは容赦がなく、非常に体系的なものを要求することになるから、それはより大きな戦略的な全体像の一部に挿入するしかない。

もっとも重要な方向性はロシアが集団的西側諸国との情報戦において勝つチャンスがあるのかどうかだ。それはNATO圏では決して起こらないだろう。たとえグローバルサウス全域で数多くの成功を果たし、その動きが拡大していったとしてもだ。

グレン・ディーセンが彼の最新の著書「ロシア嫌悪」で詳細にわたって巧みに実証しているように、集団的西側諸国はロシアが社会的、文化的、歴史的な面でいかに優れているかということについて何らかの物事さえも認めることは本能的に、そして、ほとんど遺伝的にも感覚を持ち合わせてはいないのである。

そして、ウクライナにおいて帝国の代理軍が粉砕され、非軍事化が事実上進行していることが帝国のハンドラーやその傀儡を文字通り発狂させているので、彼らの非合理性は今や成層圏にまでも達していると容易に推測される。

グローバル・サウス諸国は「帝国のビジネス」を見失ってはならない。嘘の帝国は、常に、恐喝、エリートへの賄賂、暗殺、そして、巨大なFIREの財政力によって監督されているすべての事柄によって巧妙に支えられた混乱や略奪をあれこれと生み出すことに極めて優れている。「分割統治」の本に出て来るあらゆるトリックを、特に、その本には記載されていない外部についてさえも予期しておくべきであろう。苦々しく、傷を負った、深く屈辱を受けた、衰退する一方の帝国を決して過小評価してはならない。

ご自分のシートベルトをしっかりと締めて欲しい。2030年代まではずっと緊張した動きが続くことであろう。しかしながら、その前に、望楼に沿って彼の軍団が急速に近づいて来ているので、冬将軍の到来には十分に備えて欲しい。風が吠え始め、FIREマフィアらが葉巻をくゆらす中、ヨーロッパは暗い夜の死の中で凍りつくであろう。

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これで全文の仮訳が終了した。

ぺぺ・エスコバーの歴史的な洞察は秀逸で、実に興味深い。たとえば、「プーチン自身は2007年のミュンヘン安全保障会議で初めてこれを説明した。習近平は2013年に新シルクロードを立ち上げ、それを実現させ始めた。帝国は2014年にマイダン革命を推進し、ロシアに反撃した。ロシアは、2015年、シリアを支援することで帝国に報復した」と述べている部分は、断片的な知識を持っているに過ぎないわれわれ読者に対して、個々の国際政治上の出来事を有機的に結び付けて、全体像を俯瞰し、世界観を構築していく手法を雄弁に披露している。

国連総会で反ロ決議案について投票が行われた。ロシア連邦委員会がこの投票結果について論評をしているのだが(原典:The Federation Council assessed the results of the vote for the anti-Russian resolution in the UN: By Izvestia, Aug/25/2022)、その要点を抜粋すると次のような具合だ。「国連での反ロシア決議案の投票結果は世界で反ロ派が増えているわけではないことを示している。・・・国連加盟国の193カ国の中で54カ国が決議案を支持した。これは世界中の国々の3分の2は親米派諸国による反ロ政策を支持してはいないという事実を示している。賛成票は西側諸国、南米やアジア太平洋地域の一部の国々によって投じられた。・・・これらの国々はウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦を非難する決議案に賛成し、戦闘の即時休止を求めた。・・・ブルームバーグの報道によると、G20諸国の約半数はロシアを国際社会から締め出そうとする米国の意向に賛成ではない。」

この国連での投票結果もペペ・エスコバーが伝えようとしている世界規模での地殻構造の変化を物語っているのではないか。

参照:

1Geopolitical tectonic plates shifting, six months on: by Pepe Escobar, The Saker, Aug/24/2022 

 

 


2 件のコメント:

  1. 素晴らしい記事の翻訳ありがとうございます。
    ソ連邦崩壊で世界の勢力図が変わり、右翼と左翼というイデオロギー上でも対立関係で大きな変化がありました。ロシアという国は地政学とイデオロギーというか意識まで深いところで動かしているのかもしれないなと思ってしまいました。
    ところで、これはご存知ですか?
    多くの方に広めたい内容だと思います。
    https://rumble.com/v1h0ysv-324-wake-up-world-interview-with-willem-engle.html

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  2. Kiyoさま
    コメントをお寄せいただき、有難うございます。
    ご紹介いただいたサイト(https://rumble.com/v1h0ysv-324-wake-up-world-interview-with-willem-engle.html)を覗いてみると、「Club Happy Horse」のサイトが出て来ました。まず、エングル氏が言う「民衆は家畜」という文言は民衆を「sheeple」と呼んできた今までの表現と共通する部分がありますよね。全体的に非常に分かり易いインタビューで、説得力があると思います。さすがに第一線に立っている活動家という感じです。この情報をひとりでも多くの人と共有するために、私もフェースブックへ転載しようかと思います。 

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