2022年8月23日火曜日

トラファルガー広場よ、さようなら ― 欧州の自由を祝福

 

某国のなりふり構わない金儲け主義や植民地主義、白人至上主義によって辟易とさせられている国際政治環境の中で人々はいったいどんな未来を待ち望んでいるのであろうか。

日本では安倍晋三元首相の暗殺事件が起こってからというもの、日本社会の右傾化が指摘されている。状況によっては一気に右傾化するのかも知れない。それは雲の上のボスからの命令が余りにも極端な形で、しかも、ボロを出さない極めて周到なやりかたで日本へ届けられたからではないか。この出来事は欧州の指導者たちにも相当な影響力を及ぼすのではないかと思う。表面には決して出ては来ないだろうけれども、この話はどこか深層で欧州の政治的趨勢にも影響力を持っているように見える。自分自身が暗殺の対象になるような言動や行動は如何なる政治家も避けようとするに違いないからだ。この種のテロ行為が公然と起こる可能性が決してゼロではないことが明白となった今、西側の指導者らは多くがこのメッセージを受け入れるしかないのではないか。

だが、一般庶民の世界はそういった政治家の世界とは異なる。少なくとも私はそう思う。なぜならば、一般庶民には雲の上のボスの意向に忠実に、かつ、直接的に従う必然性はないからである。

ここに、「トラファルガー広場よ、さようなら ― 欧州の自由を祝福」と題された記事がある(注1)。

13年後の英国を舞台にした近未来を描いたエッセイである。言うまでもなく、この著者が描く近未来の英国は現在の混沌とした現実を色濃く反映し、現状とは完全に対極に位置した国家を英国の将来像としている。ひとつの夢物語である。しかしながら、単なる夢物語として切り捨てることは躊躇したくなるような魅力も持っていることをここで強調しておきたい。このエッセイは将来像を描くと同時に、英国は過去の200年間植民地主義に邁進して来たという歴史的事実を余すことなく伝えてくれている。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

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副題:期待を込めて2035年を待つ

英国:

2034年の英国の崩壊と、20年近くの政治的混乱の後、大衆がミレニアル世代の権力層を打倒した後、英国は前進の一途にある。先週、ブレア(セルビア、アフガニスタン。イラク)、キャメロン(リビア、シリア、イエメン)、ジョンソン(ウクライナ)といった高齢になった戦争犯罪人を拘留するとして、新人民政府によって国際逮捕状が発行された。

英国の首都の内部についての変更に関しては、ちょうど今日、首都ロンドンの人民政府によって、「英国の再イングランド化」計画の一環として「脱英国化」としても知られている構想が公表された。

イングランド広場:

ロンドンの「トラファルガー広場」はスペインの岬であるアラビア語の名称「トラファルガー」の名前を与えられてからちょうど200年となったが、この広場は、今日、「イングランド広場」と改名される。そこに立つネルソン提督記念塔のネルソンの像は、「イングランドの最愛の人」、「真実の語り手」、あるいは、「立法者」として知られているイングランドの実質的な創始者であるアルフレッド大王の像に置き換えられることになった。こうして、この塔は「アルフレッド記念塔」として知られるようになる。人民政府の広報官は戦術的天才や個人的な勇敢さについては疑う余地のないネルソン提督を侮辱することを決して望んではいないが、非軍事化は「脱大英帝国化」の中核的な部分であると述べた。この像はかっては「大英博物館」と呼ばれていた「英国博物館」に収納される。18世紀以来、主に大英帝国主義者によって世界中から略奪されて来た工芸品の多くが、それらの出身国へ返還されたので、この博物館は、今や、十分な空きスペースを持っている。

それと同時に、ネルソン提督記念塔の基礎の周囲にあった4頭のライオンも、非軍事化の政策の一環として、すなわち、帝国主義・軍国主義の攻撃的なシンボルを取り除く政策の一環として英国博物館に収納される。これらは4人の女性像に置き換えられ、母性、平和、正義、自由を象徴するものとなる。イングランド広場の彫像のための4つの台座は、現在、ドイツ王ジョージ4世と帝国主義・軍国主義者であるネーピアとハブロックの3人の彫像(4番目の台座は空)によって占められているが、これらも英国博物館に運び込まれる。彼らは「4人のウィリアム」として知られる英国史における文学的および社会的天才たちの彫像に置き換えられる。つまり、ウィリアム・ラングランド(1332-1386)、ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)、ウィリアム・ブレイク(1757-1827)、ウィリアム・コベット(1763-1835)の4人だ。

読者の方々はご存じかと思うが、ラングランは「ピアーズ・プラウマン」と呼ばれる先見の明のある英語の詩と寓話を書いて、中世のカトリック教会の腐敗を非難し、一般庶民の単純な信仰を称賛した。シェイクスピアに関しては、彼は英語の最も優れた詩人であり、非常に知覚的な心理学者でもあり、人間の本質とその動機の善悪を詳細に説明した。ブレイクは彼の時代の恐ろしい搾取に反対し、いわゆる「産業革命」の「暗くて悪魔的な工場」、すなわち産業労働者からの大量搾取を非難する新英国国歌「エルサレム」を書いた先見の明のある詩人であり、芸術家でもあった。コベットは社会正義のために奮闘し、婉曲的に「囲い込み」と呼ばれるイングランドの共有地の集団化、すなわち民営化、すなわち単なる窃盗に対して反対を唱える政治家であった。彼は常に腐敗と貧困に反対し、農村部の繁栄と自由を支援する運動を繰り広げた。

イングランド広場のジェリコー、ビーティ、カニンガムの帝国主義者である3人の提督の胸像は英国博物館に送られ、兵士(ウィルフレッド・オーウェン)、商人の水兵(ジョン・メイズフィールド)、飛行士(ジョン・ガレスピー・マギー、つまり、「ハイ・フライト」の著者)の3人の有名な詩人の胸像に置き換えられる。彼らは過去の英国の帝国主義戦争における普通の人々、すなわち、「ロバに率いられたライオン」の犠牲を記憶している(訳注:「ロバに率いられたライオン」とは第一次世界大戦における英国の歩兵を描写し、彼らを率いた愚かな将軍を非難する際にもっとも一般的に使用された表現である)。イングランド広場の南側にあるチャールズ1世の像は何でも掴み取ろうとする商人らの派閥によって奪い去られ、首を切り落とされたが、そのまま保持される。しかし、ナショナルギャラリーの前にあるスコットランド王ジェームズ2世と奴隷を所有した入植者ジョージ・ワシントンの彫像は英国博物館に送られ、イングランドの2人の守護聖人である聖ジョージと聖エドマンドの彫像に置き換えられる。

人民の広場:

一方、貴族院の廃止以来、「人民の家」と改名された「議会」の外にある彫像、ギルドホールの彫像、そして現在「人民の広場」と改名された国会議事堂広場にある12の彫像にも変更が加えられる。人民の家の外では、クロムウェルの像は残忍な暴漢クロムウェルが虐殺した少なくとも20万人(人口の10%)ものアイルランドの農民の像に置き換えられる。ギルドホールでは、サッチャーの像はヨークシャーの炭鉱労働者の像に置き換えられる。両者の古い彫像は破壊行為から保護するために英国博物館へ持ち込まれる。

人民広場では現在ある12の彫像のうち9個が撤去される予定だ。これらは、反時計回りの順序で言うと、まずはチャーチルの像であり、これは第二次世界大戦で爆撃によって孤児となった英国の子供の像に置き換えられ、デビッド・ロイド・ジョージの像は負傷した第一次世界大戦のウェールズ兵に置き換えられる。南アフリカのスマット首相の像はボーア戦争中に英国の強制収容所に収容されていたボーア人女性に置き換えられる。英帝国主義者であったパーマストン首相の像は英国によるロシアの侵略(いわゆる「クリミア戦争」)時のロシア農民兵士の像に置き換えられ、英帝国主義者のスミス=スタンレー首相(ダービー伯爵)の像は英国が引き起こしたいわゆる「アヘン戦争」(中国での大量虐殺)で苦しめられた中国人女性の像に置き換えられる。英帝国主義者のディズレーリ首相の像はディズレーリが不道徳にも支持したオスマン帝国によって抑圧されたブルガリアの農民女性の像に置き換えられ、英帝国主義者のピール首相の像はアイルランドにおけるジャガイモ飢饉で飢えに苦しんだアイルランド人女性の像に置き換えられる。英帝国主義者のカニング首相の像はいわゆる「ハイランド・クリアランス」政策で自分の土地から力ずくで追い出され、自分の土地を盗まれたスコットランドのクロフターの像に置き換えられる。リンカーンの像はタスマニアの原住民の像に置き換えられ、これは北米、中米、南米の原住民やオーストラリアの原住民、大量虐殺されたタスマニア人やマオリ人の取り扱いを表すものであって、すべてが英国の「植民地化」政策(土地の収奪)の結果として起こったものだ。ネルソン・マンデラやマハトマ・ガンジー、ミリセント・フォーセットの彫像はビクトリア朝による抑圧と権利の剥奪から解放されたアフリカ人やインド人、女性の自由のための努力の象徴としてそのまま残される。

欧州:

新しい比例代表制民主主義の下で有権者の85%以上によって選出された新たな英国人民政府は古い暴君を退陣させ、専制政治の犠牲者たちを祝うことに熱心である。新たに再統一されたアイルランドや新たに独立したスコットランドやウェールズだけではなく、旧EUの新しく解放された国々においても並行してさまざまな出来事が起ころうとしていることを我々は知ることになった。これは先月、ブリュッセルのベルレモン・ビルにあるEU本部が解散されたことに続くものだ。西欧の至る所で自由の旗が反抗的にはためき始めている。

パリでは凱旋門が「L'Arc du Peuple」(「人民の凱旋門」)と改名され、ナポレオンの血なまぐさい戦いを示すレリーフは凱旋門から取り除かれる予定だ。ローマやブリュッセル、ウィーン、ベルリン、マドリード、リスボンでは通りや彫像、記念碑の名称をすべて見直している。英国政府に関しては、すでに新たに設けられた自由欧州諸国連合(CFEN)に加盟しており、この緩やかな連合体は持ち周りで各国の首都で会合を開催する予定である。もともとこれは父方のロシア政府によって提案されたものであって、古い中央集権化されたEUと選挙では選ばれていない官僚や暴君を排除するために結成されたものである。

2035815日の臨時ニュース:

アントニー・ブレアはマイアミ郊外のある農家の近くで地中の穴に隠れているのが発見され、その後、自由アメリカ警察によって逮捕されたことが発表されたばかりだ。ブレアはおなじみの外見よりも長い顎鬚や髪を伸び放題にして写真に写っていた。彼は82歳であるにもかかわらず健康であると警察当局は説明している。ベオグラード、そして、バグダッドで行われる彼に対する二重裁判の詳細はまだ決まってはいない。地元警察は彼らの囚人を「ヴィック」と呼んでおり、これは「超重要犯罪者」の略。当局者はブレアが逮捕された後、彼らに泣き言を言ったと伝えている。「私は無実だ。私は何もしなかった。私はホワイトハウスからの命令に従っていただけだった」と。

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これで全文の仮訳が終了した。

英国が13年後にこのような新国家に変身したとすれば、それ以前に米国はすでに崩壊し、彼らの政治・経済・軍事上の優位性は地上から完全に消え去ってしまった後の出来事であることを意味する。その段階を経ずに英国がこのエッセイのごとく脱帝国主義、脱植民地主義に大変身することはあり得ないだろうと思う。

米国が単独覇権を失い、ごく普通の国家のひとつになったとすれば、それは現行のロシア・ウクライナ戦争においてNATO軍が壊滅し、米英の軍事専門家がウクライナに対する支援を完全に放棄したということだ。ウクライナは成り行き任せとなり、米英のトップの政治家は何の代案も持ち合わせてはおらず、彼らは国内政治に翻弄させられているといった状況であろう。それと同時に、米中戦争においても米国は中国からの攻撃を受けて、空母攻撃軍団のすべてが戦闘能力を失った場合だ。これは西側の軍産複合体が軍事作戦能力を完全に喪失し、国際的な影響力を全面的に失った場合である。つまり、そのような段階を経て、ヨーロッパ各国の首脳はようやく現実に目覚め、一般大衆の関心事に初めて歩調を合わせるという地殻変動的な政策転換を行なわざるを得なくなったということだ。

この引用記事に描かれた英国の13年後の未来像はそんな時にしか、あるいは、そんな経過を辿ってしか起こり得ないのではないか。

なお、同一の著者のもうひとつのエッセイを83日に「キャッスル・ヨーロッパの終焉と自由の始まり」と題してこのブログに掲載している。その投稿も併せて読んでいただければ、著者の思考プロセスや概念をより鮮明に理解できるのではないかと思う。

ところで、この夢物語とは別に、あるいは、少なからず関連しているのかも知れないが、現実の英国を取り巻く政治環境は実に複雑である。昨年の5月に英国は正式にEUから離脱したばかりではあるが、英国ではこれからも英国自身の国内分裂がさらに深化するのではないかと懸念されている。最大級の動きのひとつは北アイルランドがアイルランドに併合され、スコットランドが独立するという動きだ。そうなると、最後にはウェールズも独立することになるだろう。英国としてはイングランドだけが残る。EUに残りたかったスコットランドや他の英国から離脱した国々は待ってましたとばかりにEUに加盟することになるのだろう。対ロ強硬路線では常に米国の覇権を維持する政策の後押しをしてきた英国ではあるが、これらの内部分裂が起こった暁には英国はイングランドだけとなって、国際政治における英国の影響力は衰え、国際舞台からは某国と共に姿を消すことになるのかも知れない。少なくとも、主役を演じ続けることはないであろう。

その一方で、13年後に高笑いしているのはプーチン大統領であり、ラブロフ外相であろうか。そして、中国の習近平主席と毅外相といった面々だ。ヨーロッパでの核戦争を無事に回避することができたとすれば、いよいよ多極化世界の到来である。誰よりも喝采するのは世界人口の85%を占める非G7国家、あるいは、非アングロサクソン国家の一般大衆であろう。

邪悪の帝国が2035年を越しても覇権を維持し続け、このエッセイが単なる夢物語で終わるのか、それとも、現実となるのかについては誰にも確信はない。

とは言え、「トラファルガー広場よ、さようなら」と皆が言える日を待ちたいと思う。

参照:

1Goodbye, Trafalgar Square: Celebrating Freedom in Europe: by Batiushka for The Saker blog, Aug/16/2022

 




2 件のコメント:

  1. こういう記事が出てくるようになったことに時代の大きな変化が表れていますね。
    Great Britain、何が”Great”だったのか? 大泥棒の”Great”?
    ところで「13年後に高笑いしているのはプーチン大統領」プラウダにこんな記事が。2本です。

    『Kitco:プーチンの新通貨は、米国に問題を引き起こす可能性があります』
    26.08.2022

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がBRICS内で新しい通貨を作ろうとする計画は、世界における脱ドルの崩壊につながると、金融専門家のアンナ・ゴルーボワはKitcoの記事で述べている。
    詳しくはこちら

    欧米がロシアに制裁を加えた後、モスクワは脱ドル化を目指したプロセスを実施するようになった。特に、プーチンは、BRICS諸国がドルへの依存を減らすために、新しい基軸通貨と代替決済システムを開発するつもりであると述べた。

    著者によると、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカはすでに相互の決済に現地通貨を使用している。新しい通貨を作る計画は、国際通貨基金に対する米国の覇権を排除することが目的だ、とゴルボワは言う。世界で最も信頼できる金融資産である金を裏付けとした通貨や、ビットコインのようなデジタル通貨をベースとした通貨も考えられます。

    筆者は、BRICS諸国の脱ドル努力がさらに進むと、国際市場で通貨の影響力を失っていく米国にとって深刻な問題を引き起こす可能性があると考えている。


    『資本金:クレムリンの計画がうまくいけば、ロシアは世界のすべての金を支配することになる』
    26.08.2022

    キャピタルの英国人アナリストは、クレムリンの計画がうまくいけば、ロシアは世界のすべての金を支配することになるだろうと述べた。

    イギリスの出版物の著者は、モスクワが世界の金準備の大部分を支配する可能性があると記事に書いている。少し前に、ロシア財務省が貴金属の国際取引所を創設する意向を明らかにした。同誌の著者によると、これはロンドン地金市場協会(LBMA)の代替となる可能性があるという。

    「過去数ヶ月間、ロシア連邦はLBMAが人工的な活動に従事し、貴金属の市場を操作し、価格を低く抑えていると主張するようになった」と英国版の著者は述べている。

    キャピタルのアナリストは、もしモスクワが独自の取引所を作れば、ロシアは金属の価格をルーブルやBRICS諸国が作ろうとしている新しい金融商品とリンクさせようとするだろう、と書いています。英国の専門家によれば、ロシアは、ペルー、インド、ベネズエラ、中国など、金の主要産地でもあるパートナーから支援を受けることができるという。

    ワールド・ゴールド・カウンシルの報告書によると、ロシアは金、パラジウム、プラチナの最大の生産国の一つである。もしロシアが独自の取引所を作れば、世界の貴金属のかなりの部分を支配することができる、とキャピタルの著者は述べている。

    「ロシアがこの計画にベネズエラやペルーといった他の主要産金国の支持を得ることに成功すれば、この国々が世界の金の約62%を支配することになるだろう」とアナリストは見ている。

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  2. Kiyoさま
    コメントをお寄せいただき、有難うございます。
    これらの2点の記事はプーチンが2007年にミュンヘンでロシアの立場を説明して以来一貫して採用している方向性ですよね。ロシアの強さ、あるいは、プーチンの強さは、政権が代わる度に右から左へと大きく変わる某国とは異なり、こういった基本的な政策を堅持することにあるのだと思います。まさに「継続は力なり」。脱米ドルを成功させ、金資源本位制を国際的なものにすることは多極世界を実現するための手段であり、目標でもあるのでしょう。今や「何」ではなくて、「何時」が関心の的となって来ています。中国やイランも同じ路線を走っています。さらには、国連加盟国の3分の2、あるいは、世界人口の85%が非米政策に関心を抱いているとか。今や、西側世界はロシアや中国から受ける脅威は高まるばかり。しかしながら、山積する国内問題に圧倒されて、党派を超えた一貫性のある対ロ・対中政策は採れないでいるのが現状のようですね。

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