2022年8月20日土曜日

ヨーロッパはロシアに仕掛けた罠に自ら陥ってしまった

 

ロシア・ウクライナ戦争はまさに玉ねぎのようである。皮を一枚剝ぐと、ロシア・EU戦争が表面化して来る。もう一皮剥ぐと、ロシア・NATO戦争だ。さらにもう一枚皮を剥ぐと、米ロ戦争が現れる。最初の皮はロシアによる特別軍事作戦が開始されてから実質的には710日間しか続かなかった。つまり、ウクライナ側は戦争遂行能力として重要な制空権を短期間のうちに失った。それ以降は作戦費用や武器支援を見ると二枚目の皮であり、三枚目の皮、あるいは、四枚目の皮だ。もうひとつある。3枚目半には日本を含むG7が顔を出す。こうして、現在に至っている。

西側からの支援にただ乗りし続けようとするウクライナ政権、ロシア産の安価なエネルギーに依存して繁栄して来たEU圏ではあるが、雲の上のボスの命令は無視することはできず、その命令を忠実に実行しようとしているEUのエリート政治家たち、東方への拡大を継続するNATO、そして、米国の最強の同盟国であるEU圏の経済を犠牲にしてまでもロシアの台頭を阻止しようとする覇権国。NATOG7を大雑把に米国の一部として見ると、これらはそれぞれがロシアに対して、ならびに、米国に対して三者三様の利害関係や思惑を持っている。

ところで、ここに「ヨーロッパはロシアに仕掛けた罠に自ら陥ってしまった」と題された記事がある(注1)。

皮肉たっぷりの表題ではあるが、現実をうまく言い表していると思う。この種の見解はさまざまな識者が述べているのであって、決して目新しいものではない。だが、冬の到来を真近に控えてその結果もたらされるであろうさまざまな悪影響はもはや避けられないことが明白になって来た今日、このテーマに正面から取り組んでみようと思う次第だ。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したい。

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かなり下品な話ではあるが、安息日におけるユダヤ人は反ユダヤ主義の新聞を読むかどうかを議論している時、この会話の参加者の一人がこう言った。「一日の始まりには私たちを憎むという意味においては最も動物的とさえ言えるような新聞を読むに限る。私たちが世界を支配し、政権を打倒し、われわれの代理人をさまざまな州や地域の最も重要なポストに任命する手法はいったいどこで、どうやって知ることができるのか?われわれは強力で、絶対に無敵だ。この認識と毅然とした態度がありさえすれば、この世界は何度でもひっくり返すことが可能だ。」

昨今のヨーロッパの新聞を読む際にもほぼ同じ感じだ。もちろん、そこでは、私たちの国は「悪と地獄の中心」でなければならないが、その一方で、ひとつのフレーズがある。(そう、ひとつのフレーズがあるのだ。ひとつの言葉がある。それはモスクワだ。) そして、これらすべての取引所、これらすべての市場、そして、これらすべてのロンドン、パリジャン、シカゴ、ニューヨーク(そう、小文字で表す。これらは長い間家族の名前だったのだから)が「カリンカマリンカ」を踊り始める。

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ロシアの曲とロシアのバラライカのリズムに合わせようとするクレイジーな振り付けの理由は簡単である。つまり、それは多数の政治家のすべてとそれに劣らず多数の国家職員たちが見い出しているようにだ。EUはヨーロッパにとってはどう見ても可能とは思われない「ロシア産天然ガスなしでやろう」という政策を採用した。

より厳密に言えば、ヨーロッパはそれなしでもやって行くことは可能だ。だが、それは体を洗うことやいつもトイレで水を流すことは止める。それだけではなく、とても現代的な生産活動さえをも止めなければならない(すべてのデザインや最新の科学技術による生産を含めて)。そして、暖房は諦める。照明や給湯も。

そして、料理をすることは減らす。また、原則として車の使用をやめる。

大西洋の両岸に住んでいるグローバリストやネオリベラルの連中の固定観念を具現化するために、「ロシア産天然ガス」を放棄したヨーロッパは馬車輸送に切り替え、近くの川(または湖)で洗い物をし、「夜の瓶」を持って風に向かって歩いて行かなければならず、瓶の内容物はその同じ貯水池に開け放たれる(訳注:夜の瓶とは「し尿瓶」を指す)。

あるいは、畑で肥料として使用される。ヨーロッパのグアノやヨーロッパの尿程に環境に優しいものは他にはない。なぜならば、あなたがまだ認識してはいなかったとしたら、ロシア産天然ガスの欠如のせいでヨーロッパでは化学肥料さえもが近い将来にまったく消えて無くなってしまうかも知れないのだから。

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関連記事:August 1, 12:31, The Kremlin commented on the difficulties with gas supplies to Europe(訳注:この表題と非常に近い記事が見つかった。The Kremlin spoke about the difficulties with gas supplies to Europeと題されている。BB-CNTVAug/03/2022。原題はロシア語であろうから、英訳の際に微妙な違いが出てきても不思議ではない。) 

現在の状況、むしろ、現在とは非常に近い差し迫った将来の現実(ご存じのように、秋はもうそれほど遠くはない)は中世のヨーロッパでさえも適切な近似とは言えない。これは自給自足農業の時代のヨーロッパのことであり、あなたが種を蒔き、育て上げたものはあなたのものだ。当時は狩猟で獲ったものを夕食に食べたものだ。

EUは同志各国と共にロシアに対する経済制裁を課し、これらの措置を「地獄的」と称した。そして、それと同時に私たちの国の経済を一挙に予測したシャー(訳注:なぜここにシャーが出て来るのかは私には不明。憶測するしかない。40数年前のイラン革命を現在のロシアと重ねたようだ)と王手(訳注:経済制裁を指す)、ならびに、その結果もたらされる崩壊と破滅は全ロシアのGDPにおけるガス輸出の割合は2%であるという事実を明らかに見落としていた。たったの2パーセント(訳注:数値を拾って、2021年のロシアのGDPに占める天然ガス輸出の割合を求めてみたら、3.2%という数値が出て来た。著者の言う2%は他年度の数値か。あるいは、どの数値を使うのかによって違いが出て来るのかも知れない。何れにせよ、その辺りであろうから、GDPに占める割合はそれ程大きくはない)。影響力のある「フィガロ」紙はこれについて社説で解説を書いている。

ヨーロッパにおけるロシア産天然ガスの供給シェアは、EUの主要かつ最も強力な経済であるドイツで消費される全ブルー燃料の四分の一に達し、ドイツの家庭の約半分はロシア産天然ガスで毎日を暮らし、暖房を行っている。これはドイツ統計局からの公式数値である。

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関連記事:August 1, 15:26, German politician figured out how to reduce dependence on Russian gas

欧州委員会は天然ガス資源を節約し、その使用を削減することによって全欧州の連帯を訴えようとしたが、全会一致の連帯は得られなかった。いくつかの国はブリュッセルの方針に反対したのである。その結果、これらの締約国はどのようにすべきか、何をすべきかについては自分たちが決定するとして、ようやく合意に漕ぎ着けた。

こうして、ラトビアは「バルト海の虎」(この国は友好国からはそう呼ばれている)のひとつではあるが、すでに仲介者を通してロシア産天然ガスの輸入を始めている。

ロシア産天然ガスにはそれ程依存してはいないフランスでは、依然として生活圏を広くして暮らすことに慣れ切っており、最も重要な点としては、秋と冬に暖房を行うのには十分に暖かく、ブルー燃料は高価すぎるので彼らは公共のプールを閉鎖する準備をしている。だが、電力(フランスはEU圏のどこの国にも依存してはいない。原子力エネルギーの開発に賭け、原子力発電所に巨額の資金を投資したドゴールの政策のおかげである)は十分ではないかも知れない。

原子炉は古く、何ヶ月もの保全作業が必要である。新しい原子炉はない。新規建設には誰も投資をしてはいないからだ。

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関連記事:July 31, 12:55, Residents of the Netherlands stock up on firewood for the winter because of gas prices, media write

それが何であれ、何の役にも立たず、国庫を犠牲にしてまでも彼らはキーキーと悲鳴をあげ続けるさまざまなNGOを支援し、「原子力発電所は死をもたらす」ので、風力や潮汐のエネルギーに切り替える必要があると国の隅々で叫んでいる。あるいは、バイオエタノールに切り替える。さらには、まったく体を洗わないといった具合だ。

このような希少で、だからこそ、貴重な電力を節約するための選択肢の範囲は広く、見通しは明るい。まさに、虹のスペクトルのようだ。これは現在のEUにとっては同様に重要なシンボルである。だが、この虹は確かに輝いては見えるのだが、体を暖めてはくれない。

ロシアを罰したい、ロシア国家を破壊したいとして彼らの運命が決定された瞬間、そして、同国の運命が歴史的なスケールで投げ捨てられた瞬間にさえも彼らは見事に団結し、真に連帯しているという事実からも、ロシア人に対しては復讐をしたいと考え、EUは対ロ経済制裁を導入した。 公の場でも舞台裏においても彼らは「ロシアは終わりだ」と言って、フレーズ的には正確ではないにしても、それに近い意味を繰り返した。つまり、この経済電撃戦における勝利を先取りして言うとすれば、われわれの国はまさに「粘土の足の上に立っている巨大国家」なのである。

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関連記事:July 31, 07:19, The average price of gas on the stock exchange in Europe in July increased by almost 50 percent

こうして、自分自身は気付くこともなく、EUは自分たちが仕掛けた罠にまんまと陥った。

一ヶ月前、影響力のあるデア・シュピーゲル紙はフォン・デア・ライエンの側近の匿名の情報源を引用して、「経済制裁は非常に効果的であり、その効果は課されてから何年も後に感じられることだろう」と報告した。

今日、IMFは控えめな手書きで、世界的景気後退は仮説から現実になりつつあり、EUのインフレに関しては上述の「バルト海の虎」は2桁の数値を超えていると書いている。

ドイツでは貨幣価値の減価が速く、その速さはガルミッシュ・パルテンキルヒェンの高速滑降競技での速さと競争することができそうでさえある。ところで、このファッショナブルなスポーツだけではなく、スポーツ全般に対してあなたは「さようなら」と言わなければならないだろう。ドイツでは決して最貧都市というわけではないハノーバーでさえも、スポーツクラブや州立あるいは公共の機関ではもうお湯は出ない。そう、冬が来るからだ。そして、今、われわれは天然ガスを節約することが必要なのだ。

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関連記事:July 29, 16:29, "It's an anecdote of sorts." Political scientist about Borrell's words about Russian gas

フランスの大手投資銀行家の一人、フィリップ・ヴィランは「経済制裁の結果はヨーロッパのエネルギー価格が常に他のどこよりもはるかに高くなることであろう。タイタニック号のコストや「欧州委員会の計画」に従った日程計画が私たちの経済に襲いかかって来る可能性が高いことは言うまでもない。われわれは市場の大部分とそれに対応する雇用を失うだろう。・・・さらには、われわれは歴史的な規模の不況に直面することだろう。これらはあまりにも明白なので、もはや誰もこのことについて議論をしようとはしない」と述べた。

しかし、戦闘で爽快感を得る喜びや土壇場における奥深い陰鬱さは、文字通り、ガスや電気がなくては暗く、しかも、寒くて仕方がないので、避けることができたのではないか。

しかしながら、この文言に反論するために彼らは今も努力を続けている。だが、数ヶ月前ほど前程には声高ではなく、断固としているわけでもない。

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関連記事:July 29, 15:23, France plans to fill gas storage facilities one hundred percent by the end of summer

EUは自分たちが「黄金の十億」に属していると考え、鼻を高くしている国々や社会のエリートらと同様に、動員をかけることや真の連帯を得ることはできないことをすでに見事に実証しており(たとえば、あからさまに投げ捨てられたイタリア。同国はパンデミックで文字通り窒息していた。そして数年前にマスクやその他の個人用保護装置を積み込んだ飛行機が横取りされたことさえもすっかり忘れてしまったすべての人たちを助けるために)、冬を迎える準備をしている。

つまり、ロシアに対して慎重に仕掛けた筈の罠に自分たちがしっかりと陥っているのである。

冬がやって来ることは分かっている。寒くなることも分かっている。

そして、EUが寒さの中、そして、暗闇の中で、天然ガスのない状態でわれわれにとっては実際に何がヨーロッパの本当の価値観であり、人権と個人の自由は本当に何を意味するのかについて積極的に議論することが可能だ。何と言っても、言葉ではなく行動で国家の力と強さがどのように見えるのかについて意見を交わすことだ。

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これで全文の仮訳が終了した。

EUをタイタニック号になぞらえているが、それは考え得る喩えの中ではもっとも悲観的なものであろう。何故かと言うと、21世紀に住むわれわれは誰もがタイタニック号は必ず沈んでしまうことを知っているからだ。中には運よく命拾いをする乗船客もいるが・・・。EUが再度起き上がるために、著者は建設的な提言をしている。「・・・われわれにとっては実際に何がヨーロッパの本当の価値観であり、人権と個人の自由は本当に何を意味するのかについて積極的に議論することが可能だ。何と言っても、言葉ではなく行動で国家の力と強さがどのように見えるのかについて意見を交わすことだ」と。

本記事の著者の表現には時折ひと捻りもふた捻りもされているような部分があって、やや難解な表現がある。だが、EU圏が今置かれている状況が極めて深刻であるということは極めて明白に解説されている。

雲の上のボスの命令を受け入れ、それを忠実に実行するEUのエリート政治家たちは後世の歴史家によって鋭い批判を受けることは間違いないないだろう。ヨーロッパ各国が今置かれている状況はエリート政治家たちが如何に愚かであったかを余すところなく示している。彼らよりも賢明な人材はたくさん居る筈だ!一般大衆がそのことに気付いた時、ヨーロッパは変化を模索し、ヨーロッパの再興が始まるだろう。

参照:

注1:Europe has fallen into the trap it has set for Russia: By Elena Karaeva, RIA Novosti, Aug/02/2022

 


2 件のコメント:

  1. こうやって見ていくと、西側というのは「罰する」のが好きですね。ロシアは悪いと決めつけて罰し、人口が増え過ぎたと言ってコロナとワクチンで罰し、ウイルスを罰し、二酸化炭素を悪者にして罰し、どこかの国が悪いと言って罰し、、、罰することで自らの正当性を誇示しているつもりなのでしょうか? 言いがかりをつけられた側はたまったものではありませんが、当の罰した側は、上手くいかないとますます相手のせいにする。あっさりと負けを認めればいいのに、認められない本当の悪はますます精神を病んでいく。それを庶民に押し付ける。メディアが後押しをする。
    共存するとかともに栄えるとかという発想や意図、行動は政治や経済の分野で見たことがありません。
    「エリート政治家たちが如何に愚かであったかを余すところなく示している」ことによる意識の変化を見ていきたいと思います。

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  2. Kiyoさま
    まったくその通りですね。
    欧米の白人至上主義は、方々で指摘されているように、アングロサクソンの人種差別主義や自己陶酔、利己主義から成り立っています。それはもうどう弁明しようとも、過去の歴史をどのように修正しようとも、詭弁を弄して否定することはできそうにはないです。彼らのもっとも現代的な主義・主張はグローバリズムやネオリベラリズムに現れています。
    ですから、某国と価値観を共有すると言っていた日本の指導的な政治家や彼を支えて来た政党の取り巻きはまさに亡国的な勘違いをしていたということになります。不幸なことには、EUでも日本でもエリート政治家はまったく同じ症候群を示しています。彼らは世界の潮流を認識して、早く目を覚ましてもらいたいものです。

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