西側世界はロシアや中国といった新興勢力の台頭を抑え、米国による単独覇権を少しでも長く継続させるべく全力投球をしている。最近ロシアを訪問し、プーチン大統領と会談を持った習近平中国主席が主張したことがいったい何を意味するのかについては西側のメディアは総じて過小評価した。つまり、中ロをけん制するプロパガンダは続いているのである。いつもの通りだ。
しかしながら、もしもこれが西側の実質的な意思決定者であるデイープステーツによる一般庶民に対する洗脳作戦であって、実際には現実の世界から乖離する一方であるとしたらどうであろうか?
それを示唆するかのような派手な出来事が最近起こったことは記憶に新しい。
第二次世界大戦で敗戦国となった日本やドイツは戦後70年余り米国追従路線を継続して来た。そのことの好ましい面は経済的に発展することができた点にあった。だが、この米国追従路線は東西冷戦時代を経て、良いにつけ悪いにつけ現在に至るまでしっかりと続いている。そして、旧ソ連邦が崩壊してすでに30年が経過した今でさえも、冷戦時代の精神構造はその軌跡から一歩も逸れてはいない。西側の政治路線から逸脱すると、関連する政策や人物は覆され、消されてしまう。中国への接近を深めて行った安倍晋三元首相は暗殺され、ドイツのみならずEU圏全体にとっては主要なエネルギー供給の手段であるノルドストリーム・パイプラインは破壊工作によって破壊され、EU圏全体にエネルギー危機とインフレをもたらした。
西側の一般大衆の間では集団的な世界観が形成される。主流メディアによって毎日のように繰り返されるプロパガンダは政治路線の方向性を維持することに余念がない。西側のプロパガンダ・マシーンの影響力は実に強力である。
その一方で、代替メディアの世界では上記に代表される西側の主流メディアのプロパガンダとは異なった努力が続けられ、現実に目を据えた報道を行おうとしている。たとえば、習近平の最近のモスクワ訪問に関する報道は近い将来の世界政治に大きな影響力を持っていると代替メディアは報じている。また、中国は近年国交を断絶していたサウジアラビアとイラン両国の外交を再開させることに成功した。米国はこの動きを阻止することはできなかった。代替メディアは詳しく報道した。これを見て、米国による覇権を嫌い、自国の主権を確保したい非米諸国はこの動きを強力な追い風と感じたに違いない。
ここに、「米国とEUはウクライナで対ロ代理戦争を長く続ける余裕はない」と題された記事がある(注1)。これはウクライナ情勢の現実を伝えようとするものであって、西側のプロパガンダの方向性とは真逆だ。短期的にはウクライナの戦場には何の違いも現れないかも知れないが、この記事の見方は中期的な将来を占う際には重要な要素となるのではないかと思う。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は西側各国はウクライナでの継続的な紛争に備え、キエフ政権を武装させるためには最低でも2%のGDP防衛費を予算化することに同意すべきだと主張している。
「西側は長期にわたる戦争を望み、西側がそれを望んではいるのだが、現時点ではウクライナにおける対ロ代理戦争でNATO側の敗北が避けられそうにもないかのように見え、西側は敗北を恐れている」とベオグラードにある「ヨーロッパ研究所」の研究員であるステヴァン・ガジック教授はスプートニク紙に語った。
「西側諸国は彼らの産業にもっと投資をしなければならないであろう。だが、それは彼らが自国の産業を海外に移転し、特に、中国や他のアジア諸国に送り出してしまったことから、西側諸国の多くにおいては産業が空洞化しているので、今は特に難しい課題である。思うに、すでに存在している株式、つまり、ビジネスが最初にそのような状況に入って行く。だから、西側諸国の産業はますます空洞化するだろう」と彼は続けた。
3月21日、ストルテンベルグはブリュッセルでの記者会見で2022年の年次報告書を発表した。NATO事務総長は「本同盟は少なくとも冷戦の終結以降、より以上に統一されている」と述べ、ロシアとの紛争でキエフを支援し続ける準備ができていると主張した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「より小さなNATO」を望んでいたが、フィンランドとスウェーデンの本同盟への加盟を考えると、彼はすぐにも自国の玄関口に「より大きなNATO」を見ることになるだろうとストルテンベルグが述べた。NATO事務総長の言葉から判断すると、本同盟は長い間ロシアとの紛争に備えて来た:
「NATOは一世代のうちに最大規模の集団防衛の強化を実施した」とストルテンベルグは言った。「こうして、ロシアの戦車がウクライナに転がり込んで来た時に備えてわれわれは準備ができていた。数時間以内にバルト海から黒海へ至る防衛計画を発動した。」
彼は、キエフに対する西側集団による多額の軍事支援を称賛し、同軍事同盟はロシアとの紛争において「戦闘に決定的となる弾薬の生産のために新たな能力目標について合意し、ウクライナを支援するために生産を増強するべく業界と連携する過程にある」ことを明らかにした。
ストルテンベルグは、ウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦の中で多くのNATO同盟国が自国の国防費を増やすことを約束したと述べた:「国防費がわれわれのすべての行動を支えていることから、これらの誓約は、今、実際の現金や契約、具体的な武器にその姿を変えなければならない」と彼は言った。
以前、EUは12か月以内にウクライナに100万発の弾薬を送り込むことに合意した。この計画では、EU各国は自国の備蓄から弾薬を寄付し、ウクライナのために新しい砲弾を共同で購入する予定である。
米国やEUはどちらも在庫が減少する弾薬を迅速に補充することはできない:
しかしながら、現実はNATO事務総長が描いたほどにバラ色ではないとガジックは指摘している。
「NATOと米国は[可能]でありさえすれば何処からでも武器を見つけようとしていることはすでにお分かりのことと思う」とセルビアの研究者は述べた。「オラフ・ショルツはまさにそのようなビジネスを行うために南米諸国に旅行したが、ほとんど、あるいは、まったくうまくは行かなかった。彼らはアフリカやアジア全域で同じことをしようとしている。これまでのところ、彼らはパキスタンからの砲弾についてのみ成功を収めたが、これは多くの点で米国によって引き起こされた同国内の混乱のせいでうまく行ったようなものだ。私が思うには韓国と日本は兵器の提供に関心があるのかも知れない。」
ガジック教授によると、米国の軍産複合体はまだ完全な戦時対応モードになってはいない。
「EUは砲弾を購入すると言っているが、いったいどこから購入するのであろうか?」と、元英保守党の国会議員であって、英国防衛アカデミーの上級研究員であるマシュー・ゴードン・バンクスは問う。「消耗品は購入するために存在するわけではない。」
ウクライナは米国やNATO諸国が生産できるよりも速く弾薬を消耗していると西側のメディアは繰り返して警告してきた。米国のメディアによれば、キエフ政権に弾薬を提供し続け、自国の備蓄を再建するためにペンタゴンは弾薬の生産を大幅に増強し、技術的に言えば戦時ではないにもかかわらず、米国の防衛産業の一部を「戦時体制に置く」ことを計画している。
特に、米陸軍は砲弾の生産を月間15,000発から70,000発へと500%増やすことを計画していると、陸軍の調達責任者であるダグ・ブッシュは先月米国のメディアに語った。
「現在の生産レベルでは米国が消費された在庫を置き換えるには10年はかかるだろう」と元英国議員は強調している。
ゴードン・バンクスによると、ロシア軍は攻撃を続けており、アルチェモフスクとしても知られているバクムットを包囲しているため、キエフ側にとって状況はますます絶望的になっている。
「ウクライナは人的資源が不足しており、弾薬が不足している。特に砲弾が不足している」と彼は言う。「天候と地面の状態が改善する頃にはEUや米国、または、他の国の何処かがロシアの大規模な攻撃が開始される前にこれらの砲弾の不足を置き換えることができるという考えはナンセンスだ。この紛争で五体満足なウクライナ人のすべてを動員するという米国の主張は不埒そのものだ。」
米国とEUの経済は弱体:
「一般的に言うと、世界の支配、オイルダラーの蒸発、その他の重要な地殻変動に関して米国は極めて悪い状況にある。これらは習主席がロシア訪問の終わりに発表したものだ」と、習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領との最近の会談に言及して、ガジックが述べている。「長期的には、米国における唯一の真の受益者は軍産複合体であろう。多分、これはすべてがウォール街にとっては悪いニュースであるのだが、儲かる取引を行っている軍産複合体にとっては明らかに悪いニュースではない。」
米経済は依然としてインフレに巻き込まれており、国際的な観察者らが警告しているように、本格的な銀行危機がまもなく国内で展開する可能性がある。米国は多面的な経済危機に直面しており、すでにより高いインフレに苦しんでいるヨーロッパは米銀の混乱がEU経済に波及することに備えようとしている。
生活水準の急落やウクライナにおける西側の対ロ代理戦争へのさらなる支出に対する抗議は過去数か月にわたって旧欧州大陸全域で展開されてきた。
ゴードン・バンクスによれば、ヨーロッパの人々は生活水準の低下と安価なエネルギー供給の不足にうんざりしているのだが、彼らの指導者たちは進行中のウクライナ紛争ではキエフを支持し続けている。
事実、EUがキエフ地域を支援し続けているのはヨーロッパの政治家がウクライナでの欧米の対ロ代理戦争で「政治的側面」に賭けているからだ、とガジックは述べた。キエフが敗北することは避けられないとこのセルビアの学者は予測しているが、キエフが敗北した暁には、これらの当局者たちは誰もが「政治的敗者」となる。
「したがって、彼らは最後の最後までこの議題を後押しすることに固執するであろう。それこそが彼らが本件に個人的な関心を寄せる理由なのである。客観的に言えば、これは自国の利益に完全に反している」とガジックは結論付けている。
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これで全文の仮訳が終了した。
ベオグラードにある「ヨーロッパ研究所」の研究員を務めるステヴァン・ガジック教授の分析は極めて現実的だと私には思える。西側の最高意思決定者であるデイープステーツに忖度して、事実を歪曲しようといった思惑は彼にはまったくないようだ。
この引用記事に見られるようなウクライナにおけるロシア・ウクライナ戦争の実態は西側の主流メディアが伝える内容とは異なるが、今や、このような現実世界に根ざした報道が決して少なくはない。
ここで、他のふたつの情報についてもご紹介しておこう。
3月25日の報道(注2)によると、ゼレンスキーは最近こう述べたそうだ。「われわらは反撃を始めることができない。戦車や大砲、ハイマ―ス(訳注:自走型のロケット・ミサイル発射装置)無しには勇敢な兵士を最前線に送り込むことはできない。」ゼレンスキー大統領は西側諸国から如何に多くの武器の支援を取り付けるかに奔走し、このロシア・ウクライナ戦争においてはロシア側が先に疲労困憊するだろうと信じているかのようだ。だが、戦争で一番大きな損害を被る一般庶民の実態は日本ではどのように報道されているのだろうか?たとえば、16歳の少年兵や20歳そこそこの女性兵士を前線に送り込むウクライナの異常さについては報じられているのだろうか?
また、3月25日の天木直人メールマガジンは「ウクライナ絶賛を8ページにわたって特集した読売の異常さ」と題して、配信された。「読売新聞は、その8ページにも及ぶインタビュー記事の最後に、ゼレンスキー大統領の切実な訴えにわれわれ日本は誠実に応えようと社説で提唱しているのだ。きょうの読売はあまりにも異常だ」と困惑気味に批判している。それだけではなく、「そして、その読売に負けないほど異常なのがNHKだ。NHKは毎朝のニュース番組で、一通りニュースを流した後で、必ずといっていいほど戦争被害に苦しむウクライナ人に関するメロドラマ仕立てのエピソードを流し続けている」と付け加えている。
日本で最大の発行部数を誇る読売と国営放送であるNHKは日本国民に対して洗脳作戦を毎日展開しているのだと言えよう!
参照:
注1:US and EU Can‘t Afford NATO’s Long Proxy War
Against Russia in Ukraine: By Ekaterina Blinova, Sputnik, Mar/23/2023
注2:Zelensky said that there is no possibility of the
Armed Forces of Ukraine to go on a counteroffensive: By Andrey Morozov, Gazeta.ru, Mar/25/2023
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