2022年5月30日月曜日

西側はキエフ政府を見限る用意をしている

 

ロシア・ウクライナ戦争に関する見方に最近著しい変化が現れているようだ。その最たるものはこの戦争を背後から操って来た米国においてである。

米民主党を支える中心的な存在として自他ともに認めるニューヨークタイムズ紙は、ウクライナは領土を割譲して、ロシアとの和平を図るべきだと言った。元国務長官のヘンリー・キッシンジャーは最近のダボスサミットで領土面での譲歩を行い、戦争を終わらせるようウクライナに推奨した。要するに、米国内にはこの戦争が米ロ間の核戦争に発展する危険性を孕んでおり、その危険がますます身近に迫って来ているという認識がある。だが、バイデン政権は具体的にどのように停戦に持ち込み、和平するかに関しての具体策がない。今年11月の中間選挙では民主党が敗退する可能性が高まる中、選挙に悪影響を与えずにウクライナで矛を収める最強の筋書きを模索中のようだ。自分たちが8年をかけて開始したこの戦争を国内では面子を保ち、かつ、民主党の有権者に失望を与えずにこの戦争を収束させることは至難の技であるに違いない。

この種の態度の変化は、最近、英国や欧州にも見られるという。

ここに、「西側はキエフ政府を見限る用意をしている」と題された最新の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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最も頑強なウクライナ・ナチスがアゾフスタル製鉄所で降伏したことはウクライナ軍のやる気を予測通りに弱体化させた。将兵は退却し、脱走し、降伏し、まだ動員されていない者は召喚状を受け取ることから逃げようとしている。ウクライナ人は何かを自覚し始めたようだ。

しかしながら、彼らの友人である西側の好戦派の闘争心はウクライナ人以上に顕著に萎縮した。マリウポリが解放された直後、ウクライナのマリウポリはアングロサクソンの主要メディアの第一面から姿を消した。「戦争の88日目、戦争の89日目...」といった見出しを持った戦闘記事はどこかへ行ってしまったのである。

英国のプロパガンダ(ウクライナのマリウポリに代わって)ジョニー・デップとアンバー・ヒアードとの訴訟事件げている (「証人はデップ路上排尿した時、デップのペニスをたのか?」、「デップぺニスたらえていると・・・」といった具合だ)。その一方で、米国の各紙は11月の中間選挙の準備に集中している。

米国における情報の領域では常識的な声が最初は臆病に、その後は大声で聞こえるようになった。「ウクライナでの戦争はますます激しくなっている、米国よ、私はこれに対して準備ができていない!」これは、何処かの名もない新聞の社説ではなく、こともあろうに民主党の主要メディアであるニューヨークタイムズの社説なのである。NYT編集者は「ウクライナの指導者たちは妥協に達する過程で必要とされる痛みを伴う領土に関する決断をすぐにでも下すべきだ」と推奨している。まあ、簡単に言えば、ウクライナの領土をロシアに割譲しなさいと言っている。

「ウクライナ紛争については真剣な議論が必要だ!」このような発言はかなり急速な変化である。 しかも、これは米軍の広報紙の役を務めているワシントンタイムズの弁だ。世界的な核による対決を防ぐためにウクライナの状況を観察するようにと呼びかけている彼らの姿を同紙のページで目にするのは実に奇妙である。私に言わせれば、「あんた方は以前はいったい何処にいたの?」と聞いてみたくなる程だ。

このような立ち位置の修正は99歳の国際政治の重鎮の手によって行われた。ヘンリー・キッシンジャーである。ダボス会議の式典についてはあまり誉めそやすことはしなかったものの、彼はキエフ政府はできるだけ早く降伏するようにと助言した。つまり、モスクワとの和平交渉を始めることだと。

興味深いことに、著名な保守派の広報家であるパトリック・ブキャナンは「もしもこの戦争がなかったとしたら」というテーマを展開した。特別軍事作戦の当初から、彼は同胞たちに軍国主義的な怒りには陥ることなく、ロシアとの対立についてはそのリスクと利益を賢明に評価するよう強く促していたのだ。今、この紛争を長引かせることに関してブキャナンは何の利益も見出せないでいる。見えて来るのは核戦争と相互破壊のリスクだけだ。

あなたがお読みのコラムでは、ブキャナンは、20世紀には米指導部は繰り返してヨーロッパで紛争を引き起こそうとし、ソ連の指導者に対しては情報戦争を演出し、その状況を世界大戦の瀬戸際にまでも追いやり、それから、素早く逆転して和平交渉に持ち込んだこと、等を読者に思い出させている。前日はお互いに罵声を浴びせ合っていた超大国の指導者たちはカメラに向かって会合し、抱擁し合い、微笑んだ。これを見て、世界は息を呑んだものである。

「アイク(ドワイト・アイゼンハワー大統領の親しみ易さを示して、ブキャナンは元大統領をこう呼んだ)は「ブダペストの虐殺者」と称されていたニキータ・フルシチョフを12日間の米国ツアーに招待した。ニクソンはレオニード・ブレジネフと共に1968年にワルシャワ条約機構軍を出兵し、プラハの春を粉砕するよう指示した。そろそろ然るべき時間となったのではないか?今は冷戦2を始めるのではなく、米ロはあらたに緊張緩和を開始するべきではないのか?」と著者は問いかけている。

米ソ間の緊張緩和が進行したあの当時に弟子たちが経験したことは誰にとっても想像するに難くない。プラハやブダペストにおけるワシントン。おそらく、まったく同じことをゼレンスキーと彼の仲間たちは、今日、感じているのではないだろうか?

ニュースのテーマに転換点が現れたことについて言えば、ゼレンスキーに対するアングロサクソン系メディアの態度ほど鋭く感じられるものはない。いや、キエフ政権の代表者は依然として頻繁に引用されてはいるのだが、そのトーンがどのように変化したのか、そして、プレゼンテーションはどのように変って来たのかがここでは非常に重要なのだ。

ゼレンスキーはダボスフォーラムで熱烈なスピーチを行った。しかし、彼の最も印象的な発言はメディアでは引用されていない。ニュースの見出しは意図的に退屈で、標準的にしか見えない。つまり、「ゼレンスキーはロシアに対する経済制裁を要求」とか「ロシアに対する最大限の経済制裁」といった具合だ。「ゼレンスキーは支援や投資を要求」、そして、再び「支援を求め」、「国際社会に助けを求める。」まるで地方からやって来た貧しい親戚、つまり、ジトミルからラリオシクがやって来て、何かを懇願し、尋ね、ドアの下で泣き叫んでいるかのような感じだ。そして、彼を蹴り出してしまうことは余りにも気恥ずかしく、ひどく困惑するのである。私はこの状況を排除したいのではあるが、面目を失わずにこれをうまく実行する方法は明確ではないのだ。

同じダボス会議では伝説的な91歳の新興財閥だけがロシアとの戦争での勝利を目標にしてキャンペーンを行った。ジョージ・ソロスである。しかしながら、彼は単に撃墜されたパイロットのような役割を演じているだけのようだ。一部の金融専門家たちは依然として自分たちの計画を彼に発表して貰うことを信じてやまない。ところが、その実現の可能性がないことについては大声で不満を述べている。彼の暴言はすべてが長く、現実からは絶望的な程に遊離している。同じ演説の中でソロスは中国経済が崩壊し、個人的には習近平が崩壊すると約束した。しかし、彼は毎年このような約束をしているのだ。だから、どうだって言うのか?

Photo-6: 26 May, 2022, 08:00 „Kissinger vs. Soros: Realists vs. Globalists

ウクライナでの特別作戦の成功は軍事的勝利にあるというよりはロシアに加わる必要性が理解されたことを反映している。何十万人、何百万人もの人々がそれを同時に理解したことだ。国民の意志におけるこの転換点はもちろん歴史的瞬間である。そして、この時点でワシントンの政治家たちはここから離脱した方が良いと推測し始めている。よく言われているように、「矢の下には立つな」ということだ。

さらには、ロシアに対する超現実的な経済制裁は米国を新たな大恐慌に追いやっている。これらすべての事柄を緊急に押し戻してやらなければ、11月の中間選挙で民主党が勝利するチャンスはない。そして、現状を押し戻すにはウクライナを統合する必要がある。これは個人的なものではなく、ビジネスそのものだ。

もう一つの課題は面子を失うことなくこれを実施する方法である。ワシントン政権はロシアとの和平交渉への願望をいったいどうやって自国の聴衆に売り込めるのだろうか? 結局のところ、民主党は米国人の間に完璧に不健康とも言える軍国主義的な癇癪を解き放ってしまった。ニューヨーク・タイムズ紙の平和主義的な本記事に対するコメントからは「バイデンがリークした!」という呻き声が絶え間なく聞こえて来る。

「ウクライナを裏切ることがどうしてできると言うのか!」と読者は憤慨している。そう、これはNATOや米国自身のイメージにいったいどのような悪影響を与えるのだろうか?ヨーロッパの衛星国、つまり、NATOの同盟諸国は我々をいったいどう思うだろうか?

ロシアとの対立の激しさを弱めようとしているバイデン政権が来たる選挙で民主党を救おうとしているのはどこか滑稽だ。あらんことか、民主党の最も熱心な支持者たちはこれを裏切り行為と認識し、もしもバイデン政権がキエフを見捨てるならば、民主党には反対票を投じるといった脅しをかけている。

また、 東欧圏のタカ派もかなり動揺している。もしもそうではないとしたら、それはどんな状況であろうか?ロシアに対する前哨地帯としての彼らが存在する意味はすべてが我々の目の前で失われようとしている。彼らは個人的な意見としてのキッシンジャーの調停を非難し、ワシントン政府はウクライナに武器を注ぎ込み、ロシアとの戦いを続けるよう要求している。

悲しいかな、ウクライナは私たちの目の前で終わりに近づいている。クリミアに続いて、ドネツクとルガンスクの両共和国がウクライナから離脱し、アゾフ海沿岸はウクライナから離れ、黒海沿岸地帯の運命は霧で覆われている。オデッサとニコラエフのことである。ドゥダ大統領が自国の部隊を送り込んでウクライナへ介入しようとしている西部地域ではいったい何が起こるのかは不明だ。ところで、彼の地では多くの人々には「ポーランドのカード」が長い間意識にあって、自分たち自身は「文明化されたコミュニティ」である欧州連合の一員であると自負しており、彼らはこの地域は「東部境界線」地帯の一部であると見ている。

ウクライナ人戦うことを予定されていたが、今や、それも終わりに近づいている。彼らは前線に出かけ、みっつの約束をしたがそれらをいつでも放り出して、ロンドンに向けて飛んで行ってしまうような大統領のために死ぬことにいったいどんな意味があるのか?

西側のパートナーはもう飽き飽きしている。ウクライナ人は自分たちの関心を再び見失ってしまった。ついに、ゼレンスキー自身も話題に尽きて、ダボスでは西側の新興財閥にウクライナの復興に「投資」すること、即座に損失額を0.5兆ドルとすること ― ロシア国民の魂は広大である  ― を提案した。ああ、いや、そんなお金はないぞ!ああ、すべてにうんざりだ!ジョニー・デップとアンバー・ヒアードはどうなったのだ?

現時点では、モスクワ政府が検討用として提案した和平条約草案は異常な程に無意味に見える。先に述べたキッシンジャーはロシアとウクライナは現状に戻ること、つまり、224日の国境線に戻ることを提案している。イタリアの指導部は、大雑把に言うと、ドンバスとクリミアには自治権を与えるようウクライナに勧告した。まあ、それは、ドミトリー・メドベージェフが言ったように、「ロシアに対してはあからさまに失礼なことだ。」

しかし、「戦争さえなかったならば」という最近の傾向から判断すると、ある時点において合理的な妥協点に辿り着くことは可能である。だが、他にも膠着状態がある。ウクライナがどのよな領土の喪失に終わったとしても、それはウクライナに残される領土について拘泥し続ける愛国者たちを激怒させることであろう。その一方、モスクワ側の譲歩はいかなるものであってもロシアの愛国者を激怒させることであろう。とすると、いったいどのように交渉を進めることができるのであろうか?

全体として、それはすべてが非常に長い話のように見える。ロシアとの紛争における悲惨な特徴に関する認識は徐々にウクライナを支援する西側の支配者達にも届いている。まあ、われわれは戦争を続けなければならないのかも。ここでわれわれはメドベージェフを再び引用する喜びを隠す積りはない。「彼ら(平和条約の執筆者たち)をある方向に向けて送り出すことだ。そして、特別軍事作戦の目標を達成するためにはさらに努力を続けることだ。」

***

これで全文の仮訳が終了した。

著者は通常兵器によるロシア・ウクライナ戦争は米ロ両国にとっては国際政治上の必要悪であると見ているようだ。

ところで、米ロ両国は、当然ながら、核戦争を是が非でも回避したい意向である。

ロシアは機会がある毎に「ウクライナでは核兵器を使わない」と繰り返して宣言している。

その一方で、「米政府はポーランドが自国の兵力をウクライナへ送り込むことは許さない」と報じられている。これは528日にロシア連邦軍の元空軍司令官であったシュパク上級大将が述べたもの。ポーランドはNATO加盟国である。NATO側からたとえ1個の弾丸でもロシアに向けて発射されると、それは第三次世界大戦の始まりとなる。これは誰にも分かっていることだ。ワルシャワ政府はワシントン政府から「決して始めるなよ!」という非常に明快な命令を受け取った。第三次世界大戦の口火を切ることは誰も望んではいない。なぜならば、どちらも勝者として残ることはないという予測が明確であるからだ。(原典:Ex-commander of the Airborne Forces revealed the US instruction to the Polish authorities: By iz.ru, May/29/2022

こうして見ると、米ロ両政府は核大国としての最終的なリスクをはっきりと認識していると言えよう。残された最大の懸念は好戦派や軍産複合体、対ロ嫌悪感情に支配され、冷静な情勢分析ができなくなった一部の政治家や西側のメディア、あるいは、ネオナチを支援し、正気を失っている超お金持ちの連中が引き起こしかねない気まぐれな行動であろうか。

すべてがうまく行けば、つまり、西側の指導的な政治家が目を覚ましさえすれば、ロシア・ウクライナ戦争は近い将来に停戦に漕ぎ着け、和平交渉が始まることになる。キッシンジャーが世界経済フォーラムで推奨したように、2か月以内に西側がウクライナを説得して、ウクライナの和平交渉が始まるならば、今年の夏は久しぶりに眩いばかりの季節を満喫することが可能となる。あるいは、今の混沌とした世界に明るい将来が見えては来ない場合は、われわれを取り巻く異常な集団心理状態にどっぷりと浸り切って、不眠を訴え、理由が不明なイライラ感に苛まれた日々を送ることになるのだろうか?

ロシア・ウクライナ戦争は一日でも早く終わって欲しい!


参照:

注1:The West is preparing to betray Kiev: By Victoria Nikiforova, RIA Novosti, May/27/2022

 

 

 

8 件のコメント:

  1. дорогой друг спасибо большое за красивый перевод хорошей статьи я перееду в дом с 1го июля но там вайфай работает с июля поэтому у меня будет от интернета пока все исао симомура

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    1. Господин Шимомура, большое спасибо за это послание! Я понял его, и я надеюсь, что мы снова будем поддерживать связь. Йочан

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  2. 「ロシア・ウクライナ戦争は一日でも早く終わって欲しい」ですけれど、彼らは、終わったとしても別の形で続けたい人たちですから「あんた方は以前はいったい何をおしゃべりしてたの?」と言いたいところです。
    https://quietsphere.info/the-tide-has-changed/

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    1. kiyoさま、
      まったくその通りです!
      マイダン革命では反政府勢力のスナイパーによって警官やデモ参加者が50数人も射殺され、あの年、数か月後にはオデッサで40数人が焼き殺された。間もなく、東部のロシア語を喋るドネツクやルガンスクの地域にたいして政府軍は爆撃や砲撃を開始した。民間人の間に累計で13,000~14,000人もの死者が出た。それでも、西側は目を覚まさなかった。「これらの8年間いったい何をしていたの?」と言いたいです!
      西側という集団には良心が機能せず、メデイアが喧伝する根も葉もないロシア嫌悪が大多数の市民を盲目にしてしまったとしか言いようがない。情けない話です!それと同時に、一般大衆はこのまま「シープル」で終わってしまうのか、と将来が心配です!

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    2. 「西側世界」の住人は、問題意識というか、何を考えるべきなのか、どう考えるべきなのかという根本のところで、大きく狂わされてしまっているという気がします。
      ご存知かもしれませんが、こちらに記事も素晴らしいです。
      https://ameblo.jp/wake-up-japan/entry-12745586277.html

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    3. kiyoさま、
      いい記事ですよね。ご紹介有難うございました。

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  3. この動画たくさんの人に見て頂きたいです。
    https://www.youtube.com/watch?v=4liaJP0apE0

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    1. kiyoさま、客観的な、いい動画です!一人でも多くの人に見ていただきたいですね!

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