2020年7月3日金曜日

MH17便撃墜事件に関する裁判 - 西側司法システムのごまかしを露呈


マレーシア航空のMH17便がウクライナ上空で撃墜され、298人の乗客・乗員が殺害されてからこの717日で満6年となる。
この6年間にこの悲惨な事故の原因が事実に基づいて解明されたのかと言うと、この事故で亡くなった298人ばかりではなく全世界にとって極めて不幸なことには、事故原因は正当に解明されはしなかった。事故原因の正当な解明に代わって、オランダ政府の安全委員会が主導する共同調査団(JIT)は結論を下したものの、その結論は米国が後押しする米ロ間の地政学的綱引きによって全面的にハイジャックされてしまった。つまり、共同調査団が下した結論はある特定の政治的思惑を満たすだけのものであって、入手した事実に基づいて公正に推論されたものではないのである。
読者の皆さんもこのことはすでに十分にお気付きであると思う。
ここに「MH17便撃墜事件に関する裁判 - 西側司法システムのごまかしを露呈」と題された記事がある(原題:The MH17 Trial Makes a Mockery of the Western Legal System: By James Oneill, NEO, June/03/2020)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。



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2014717日にオランダを発って、マレーシアの首都クアラルンプールへ向かうマレーシア航空のMH17便はウクライナ上空で撃墜された。196人を占めるオランダ人乗客と38人のオーストラリア人の乗客の他には、マレーシア航空の乗務員を除いては幾つかの国々からの少数の乗客が含まれていた。
この旅客機はウクライナの上空で撃墜され、乗務員と乗客の全員が殺害された。この悲劇が起こった現場はウクライナのドンバス地域であって、住民の大多数はロシア語を日常言語としている。選挙によって民主的に選出されていた当時のウクライナ大統領に対して、米国の後押しを受け、米国から活動資金を供給されたクーデターが暫く前に、つまり、あの年の2月に起こっていた。こうして、米国が後押しをするキエフ政府とロシア語を喋り、ロシアからの後押しを受けるドンバス地方との間に内戦が勃発した。この内戦はMH17便撃墜事件が起こった当時も延々と続いていた(そして、今も続いている)。
キエフで起こった政変やそれに続いて勃発した東部での内戦を受けて、あの時点で極めて関連性の高かった事項としてはクリミア地域の住民がウクライナとは決別すると宣言したことだ。クリミアは住民投票を実施し、彼らの圧倒的多数がロシアへの復帰に賛成票を投じた。この地域がウクライナの一部になった歴史的経緯を含めて、同地域の歴史が非常に関連深い事実であることからも、「復帰」という言葉が慎重に用いられている。ところが、西側のメディアは関連性のある歴史に関しては誤った解釈をしている。ここで、大雑把な歴史的概要を再確認しておく必要があろう。
クリミアはオスマン帝国から割譲され、18世紀にロシア領となった。1950年、ソ連邦の指導者であるニキータ・フルシチョフ(彼はウクライナ出身であった)がソ連邦議会やウクライナ住民への相談もせずにクリミアをウクライナへ贈呈した。当時は広大なソ連邦内の一部であり、同盟関係にあったことからも、このことによって実質的な悪影響が現れることはなかった。
ソ連邦は1991年に崩壊した。この出来事がもたらした歴史的負担の一部はウクライナ東部では大多数がロシア語を喋っていることであった。もちろん、かってはロシア領の一部であったクリミアも同じことだ。ウクライナ語を喋るウクライナ西部と、クリミアを含めて、ロシア語を喋るウクライナ東部との間の関係は好意的に見てもそう単純ではなかった。2014年のクーデターはそう単純ではない関係にある種の終わりを告げた。
この関連性のある歴史的事実は西側のメディアやウクライナの現状に関する記述や議論からはほぼ全面的に欠落している。MH17便撃墜事件はその最たるものである。その代わりに、西側のメディアはこれらの歴史的事実を無視し、あるいは、歪曲して、ロシアによるクリミアの「併合」という言葉を用いることが多い。
MH17便の撃墜はこの文脈の真っただ中で起こったのである。またしても、あの悲劇の後遺症の中でもっとも重要な点は、不幸にも、西側のメディアによって徹底的に無視されるか、歪曲された。しかしながら、マレーシア政府の努力の結果、彼らが事故直後に調査チームを事故現場へ派遣し、ドンバスの反政府派勢力の支援を受けて、MH17便のブラックボックスを見つけ出し、分析を行うためにマレーシアへ持ち帰った事実を、今のわれわれは知っている。
また、マレーシアはMH17便の撃墜に関して調査を行う4カ国の調査団からは除外された。たとえ中立的な立場でコメントをするにしても、この調査団には当該旅客機を撃墜した張本人の可能性を持つウクライナさえもが含まれていた。これは大きな驚きであった。続いて起こった諸々の出来事の観点から言えば、ウクライナを調査団に含めたという事実はもはや驚くには値しなくなって行った。と言うのは、この悲劇的な事故の理由を調査する上で要求される正直で、かつ、透明性のある姿勢からは程遠く、ごまかしを実行するすべての理由は一般論的にはウクライナの分離派勢力に責任を負わせることであり、さらに具体的に言えば、ロシアの責任を追求することにあるという背景が速やかに露呈したからである。
今や、あの悲劇からすでに6年になろうとしている。「事故調査」の目的のすべてはあからさまにロシアを攻撃することにあって、それ以外の何物でもないという仮説に対する反論は西側の大手メディアからは何も現れなかった。この論点に対して合理的な疑いを掛けることができないことは極めて単純ないくつかの要素を取り上げてみると実に明白である。 
当時の米国務長官であったジョン・ケリーは直ちに次のように公言した。「ちょうどあの時米国の偵察衛星がウクライナ上空にあったので、米国は何が起こったのかを熟知している。」 そういった説明を行う価値のある事柄を精査しなければならない現実の事故調査において同衛星の証拠を活用しようと思えば十分に活用できた筈である。そうすれば、あらゆる方面から沸き起こるさまざまな代替理論は何でも沈静化することが可能となる。しかしながら、今までの6年間、米国は衛生データの活用に関しては拒否し続けてきた。彼らが拒否する理由は何ら提示されてはいない。 
あの当時極めて重要と見られた二番目の要素として、MH17便が通過した時刻と位置に二機のウクライナ空軍機を見たと言う複数の民間人の証言がある。この事実の証言に関しては、ウクライナ政府があの日はウクライナ空軍機は一機も飛んではいなかったとして民間人の証言を否定したことから、この事実の重要性はことさらに浮き彫りにされた。ここでも、もしもそんなことはなかったと何の罪の意識もなく、単純に説明できるものであったならば、複数の民間人が証言した事実についてどうして嘘をつかなければならなかったのだろうか? 
基本的に重要な関連性を持つ三番目の要素は機体が受けた損傷がどのような特徴を持っていたのかという点だ。地対空ミサイルが引き起こす損傷とジェット戦闘機の機銃による連続射撃が引き起こす損傷との間には特別の差異は見当たらない。この点においても、証拠は圧倒的である。MH17便はジェット戦闘機に据えられている機銃によって破壊されたのである。一言で言えば、MH17便は戦闘機からの射撃によって撃墜されたのだ。あの時点に近傍の空域に居たのはウクライナの空軍機である。
実際の出来事が次々と暴露されたことから、これらの出来事に注目していた人たちにとっては上記に述べた内容は必ずしも新事実という訳ではないであろう。民間旅客機を撃墜し、その後6年間も嘘をつき続ける動機を抱いてきた複数の組織あるいは団体はロシア政府の信用を失墜させ、台無しにすることに異常なほどに強い関心を持っていたいくつかの政府や組織である。
オランダおよびオーストラリアを含む調査団の参加国による「NH17便撃墜事件の調査という茶番劇」は終わったわけではない。この原稿を書いている時点でも、「司法システムの茶番劇」とでも称すべき事態がアムステルダムの裁判所で進行している。三人のロシア人と一人のウクライナ人がMH17便を撃墜し、その結果、乗員と乗客を殺害した廉で訴えられているのだ。
オーストラリアの国籍を有し、モスクワに在住する調査報道ジャーナリストのジョン・ヘルマーはこの悲劇を追跡し、いわゆる「事故調査」に見受けられた複数の過ちを暴露した数少ないジャーナリストの一人である。
アムステルダムの裁判所で進行しているごまかしの裁判が何の罪も犯してはいなかったMH17便の犠牲者のために正義と呼べるような成果を挙げてくれるという保証は何もない。それに代わって、彼らは目下繰り広げられている広大な地政学的ゲームでの単なる歩の役目に甘んじている。
司法の初歩的な原則である公平な裁判および証拠に基づいた判決はすべてが遥かに広大な地政学的ゲームの前に犠牲となった。このごまかしのせいでわれわれは誰もが人間的により貧しくなる。
著者のプロフィール:ジェームズ・オニールはオーストラリアを本拠にした弁護士であって、「New Eastern Outlook」のオンライン誌にて健筆を振るっている。


これで全文の仮訳が終了した。
この引用記事を読むと、MH17便撃墜事件は何も収束してはいないことが明白だ。
この悲惨な事故に関して国際社会が今求められているもっとも妥当な策は第三国の航空機事故の専門家によって構成された共同調査団による再調査を実施することであろう。しかしながら、現実には真相の究明は未解決のままに放置されることになりそうだ。まさに、911同時多発テロ事件の真相究明が放置されているように・・・  
本日の投稿を補完する意味で、私はMH17便関連で掲載した過去の投稿13点を下記に列記しておこうと思う。このリストによって読者の皆さんが改めて情報検索する際に時間の浪費を少しでも低減できれば幸いだ。特に、昨年88日の投稿はオランダが主導したMH17便撃墜事件に関する裁判が如何に杜撰なものであるか、如何に事実を歪曲したものであるかを具体的に示しているので、本件にご興味がある方々にはお勧めである。


(1)201988日:「MH17便撃墜事件の証拠の隠滅についてマレーシアが暴露 - オランダは偽の録音テープを隠蔽し、ウクライナはレーダー記録を隠蔽」 https://yocchan31.blogspot.com/2019/08/mh17.html


(2)2019624:「MH17便の撃墜はロシア人の仕業ではない」とマレーシアのマハティール首相は言う。米国およびその同盟国はたくさんの事柄について回答しなければならない」 https://yocchan31.blogspot.com/2019/06/mh17.html

(3)2018920日:「MH17便を撃墜したミサイルの製造番号によると、同ミサイルは1986年に製造され、ウクライナ軍の所有であったことが判明」 https://yocchan31.blogspot.com/2018/09/mh171986.html

(4)20151026日:「MH17便の撃墜、答えられてはいない疑問点 - ロバート・パリー」 https://yocchan31.blogspot.com/2015/10/mh17.html

(5)201563日:「MH17便撃墜事件を再訪 - ロシアの軍需産業技術者からの詳細報告書」 https://yocchan31.blogspot.com/2015/06/mh17.html

(6)2014927日:「MH17便に関するオランダの報告書は米国からの情報に欠けている - これはいったい何を意味するのか?」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/09/mh17.html

(7)2014811日:「MH17便はウクライナ軍の戦闘機によって撃墜された」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/08/mh17.html

(8)201489日:「MH17便の撃墜:米国・キエフは失敗した自作自演工作を隠ぺい ― 必読(その4 – 最終章)」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/08/mh17-4.html

(9)201488日:「Mh17便の撃墜:米国・キエフは自作自演工作の隠ぺいに
失敗 ― 必読(その3」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/08/mh17-3.html

(10)201486:「MH17便の撃墜:米国・キエフは失敗した自作自演工作を隠ぺい ― 必読(その2」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/08/mh17-2.html

(11)201484:「MH17便の撃墜:米国・キエフは失敗した自作自演工作を隠ぺい ― 必読(その1」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/08/mh17-1.html

(12)2014728:「キエフ国際空港の管制塔で勤務していたスペイン人航空管制官の言」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/07/blog-post_28.html

(13)2014726:「新たな情報 - マレーシア航空MH17便は空対空ミサイルで撃墜された?」 https://yocchan31.blogspot.com/2014/07/mh17.html




3 件のコメント:

  1. 登録読者のИсао Симомураです.1983年9月1日に,サハリン上空で撃墜された大韓航空機には,同僚の奥様とご子息が搭乗されておりました.小生は当時レニングラードで研究中の身でありましたが,研究所の長から,日本や西側で報道されている記事を翻訳してくれと頼まれ,総領事館の読売新聞の記事を毎日翻訳して差し上げました.その時はお二人の遭難には気づかず,11月になって日本の職場の同僚からの手紙で初めて知ったのです.お二人とは話を交わしたこともあり,衝撃でした.レニングラードでは毎年11月7日にソ連革命記念の行進が行われます.数箇月前からリハーサルが行われ,職場の同僚達も動員されます.祝砲が轟音とともに撃たれます.小生は同僚の一人と橋に立ってそれを見ておりました.1km向こうに砲列が見えます.と,顔がピシャリと張り手を食らったような衝撃を受けました,同僚は「耳を覆え」と怒鳴り,自身も両手で耳を覆ったのです.その直後轟音が耳に到達しました.砲音源の前面には超音速の衝撃波面が形成され,その波面が音源到達前に,わが顔にピシャリという張り手を食らわしたのです.あの大韓機撃墜のときには,空対空ミサイルの破裂音は,地上に強烈な衝撃波と爆発音を浴びせています.朝鮮人の理科教師が今でもこの事件を調査しております.軽量の空対空ミサイルでさえそれ程なのですから,ブクのような地対空ミサイルの衝撃波と爆発音の強烈さは想像がつきます.そうそう,記事の中にはルーマニア軍情報部からのものもあり,「イスラエルで訓練されたポーランド人パイロットがマレーシア機を撃墜した」,としておりました.

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  2. Исао Симомура 2015年6月3日:「MH17便撃墜事件を再訪 - ロシアの軍需産業技術者からの詳細報告書」の翻訳にгермошпангоутомの意味不明とありました. гермоは"気密", шпангоутは[空・海]"竜骨,肋材,リブ,フレーム"とあります. -омは名詞の具格標識で,~の材料で,~の道具によって,または前置詞無しでは,~の場所で,の意味となります.原文を読んでおりませんが,「気密維持用のフレームによって」か「気密維持用フレームの箇所で」の意味になるかと推測いたします. 

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  3. シモムラ様

    コメントをお寄せいただき、有難うございます。

    大韓航空機の撃墜事件では知り合いのご家族が犠牲になったとのこと、そのことを知った際は大変な衝撃であったことと思います。あの事件は冷戦が終結する以前であったことからやむを得ない状況もありましたが、マレーシア航空機の撃墜事件は冷戦が終わって十数年も経過してからの出来事であって、一部の好戦派による恣意性を強く感じさせられた次第です。
    ところで、「イスラエルで訓練されたポーランド人パイロットがマレーシア機を撃墜した」とありますが、このことはまったく知りませんでした。

    そして、アルマズアンテイ社が作成したブクミサイルに関する技術報告書の件ではгермошпангоутомの意味を説明いただき有難うございます。私にはそこまで解析するだけのロシア語の知識はなく、大変貴重なものとなります。インプットしていただき感謝です。

    最近のことですが、オランダの裁判所ではMH17便を撃墜したとされる4人の被告、ロシア人三人とウクライナ人一人に関する裁判で弁護団からの要請を受けて、裁判所は検察側の言い分とは違ったシナリオに関しても注意を払いたいとし、アルマズアンテイ社の報告にも留意したいと表明しています(Dutch MH17 trial: Court to consider report from Russian missile producer that points to Ukraine as culprit: Jul/04/2020, https://on.rt.com/al0m)。これによって、近い将来にアルマズアンテイからの技術的報告が議論の対象になる気配となってきています。今後の動きに注目ですね。

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