2012年11月21日水曜日

TPPのISD条項に関する韓国最高裁の見解


野田首相が衆議院の解散、総選挙を宣言した。そして、この1216日に実施される総選挙における中心的な争点はTPP(環太平洋経済協定)への参加だと。
私はTPPには反対の立場であり、幾つかのブログを書いて、私見を述べてきた。

2012112日:TPPISD条項はどんな悪さをもたらすか?
2012117日:TPPが納得できないいくつかの理由
2012630日:TPPISD条項を拒否するオーストラリア政府

特にISD投資家対国家間の紛)条項は日本の国益を大きく損なうものであって、「環太平洋貿易協定」という美名の下で米国が日本の富を吸い上げるための道具だと思っている。何故か?それは、北米自由貿易協定(NAFTA)の事例を見れば明白であるとブログに書いた。また、TPPについて言えば、日本が参考すべきはオーストラリア政府がとった立場だと思う。そのことも630日の「TPPISD条項を拒否したオーストラリア政府」と題するブログに書いた。
TPPを目玉とする総選挙が1216日に行われることが確かとなった今、もういちどTPP問題を再訪してみたい。今日のテーマはお隣の韓国が舞台だ。
米韓自由貿易協定(米韓FTA)は今年の315日に発効した。それを受けて、日本では、「日本がTPPに参加しないと乗り遅れる」と言い、大手の新聞による大合唱となった。つまり、メデアはTPPに賛成するよう扇動したのである。
しかしながら、韓国の最高裁はこの米韓FTAの中のISD条項に関しては再交渉するよう最高裁の意見として数年も前に韓国政府に推奨していたのだ。その事実が今年の426日に韓国の日刊紙によって報道されている[1]
(ところで、この情報はほぼ7ヶ月前のものであるにもかかわらず、日本では取り上げられてはいないようだ。インターネットでは日本語での検索にまったくひっかからない。これには驚いた。メデアが無視したということだろう。)
この記事の仮訳を下記に示したい。これは法律文書であることから、素人である小生が試みた翻訳には曖昧さがあるかも知れないが、ご容赦願いたいと思う。
 

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韓国最高裁がISD条項を再交渉するよう推奨

(最高裁による文書の表題:米韓自由貿易協定の投資家対国家間の紛争を
解決する手続についての調査と意見)

議論を呼ぶ米韓FTAの条項は「法的な混乱」をひき起こす
かも知れない、と法務省トップが言及

著者:Jung Eun-joo, 常勤の執筆者

韓国最高裁は米韓FTA中のISD条項は「極端な法的混乱をひき起こすかも知れない」との意見を政府宛てに2006年に送付していた。
最高裁が引き合いに出した理由は仲裁の対象の中に司法裁定が含まれている点であって、これに基づいて米国の投資家からは数多くの仲裁の要請が予想されると懸念しての意見である。
この意見は、法務省の要請に基づいて、米韓FTAの交渉が行われていた20066月に最高裁が草案を作成したものであった。しかし、過去5年間というもの公表されてはいなかった。
6年もしくはそれ以上の保管期間がまだ経過してはいないにもかかわらず、件の文書が保管されてはいないとの理由で国会文書の公開請求が拒否されたことから、何人かが法廷文書の管理規則に対する侵害だと申し立てた。
最高裁の法廷管理事務所は「米韓自由貿易協定の投資家対国家間の紛争を解決する手続についての調査と意見」と題したこの文書を民主統合党の国会議員であり、国会の外交通商委員会の委員でもあるPark Joo-sunに送付した。
本文書は「米国の投資家からは多数の仲裁が要求されると予想されることから、訴訟への対応を含めて、これらの条項は韓国側にとっては非常に大きな負担になると懸念され、さらには、副作用として、司法機関による裁判が仲裁要求から排除できないならば司法上の大混乱がひき起こされるだろう。」と述べている。
さらに、最高裁は「投資家対国家間の紛に関する条項を導入するかどうかは韓国国民から広く意見を募ってから決定すべきものだ。我々は、特に仲裁要求から司法裁定を排除することによって仲裁要求の対象や条件を明確化し、これらの条項の解釈に不一致が生じないよう対処すべきである」と述べている。
8頁にわたる本文書の半分はISDの制度の強さに着目しており、他の3頁ではその問題点が吟味されている。最初に提起された問題点は国家主権の侵害である。最高裁の見方は、この条項の導入は韓国政府の政策や規制に対して侵害をひき起こし、そのような紛争に対して司法が介入する余地は殆ど無く、結果として国家主権または司法権の侵害となる、というものだ。
さらに、最高裁は、この制度は米国の投資家が韓国政府に対して直接的な仲裁を要求することを許し、彼らは韓国の市民と比較して多大な権利を享受することにつながるだろうとの懸念を示した。
確かに、市民に対する逆差別は多くの先進国で普通に見られる苦情となってきている。2002年、米国議会は「貿易促進権限法」を通過させ、この法律によって企業の役員たちに権限を付与し、外国人が米国人以上の権利を持つことがないように投資交渉を行うこととした。
二番目の問題点としては、最高裁は、仲裁要求の対象に司法裁定が介入することは法の不安定性や不確実性を呼ぶことになりかねないと指摘した。最高裁はローウェンの訴訟例を取り上げているが、その事例では仲裁パネルが米国の訴訟手続および裁定を再検討した。
ローウェンはカナダの巨大な葬儀場ビジネスであって、同社は1995年にミシシッピ州の裁判所の陪審員の評決として5億ドルの損害賠償を支払えとの命令を受け取った。それに応えて、同社はISD訴訟を起こし、この命令は北米自由貿易協定(NAFTA)を侵害するものだと主張した。仲裁パネルは最終的にローウェンの申し立てを却下したが、この訴訟は司法裁定が仲裁の対象であることが明白であることを示した。
付け加えておきたい貴重な情報がある。201215日の韓国紙の記事である[2]
この記事の要旨はこうだ。韓国の米韓FTAの反対派はISD条項を問題視している。ISD条項の存在は韓国と米国の利害を平等に扱うことはないだろうと。エール大学法学校が2008年に出版した「国際投資の仲裁における理由要件 ― 重要案件の研究」と題された一連の論文にも示されているように、ISD条項には厄介な手続がある。米国のある連邦判事が上記のローウェンの訴訟で3人の仲裁パネルの一人に選ばれた。他のふたりはオーストラリアと英国の出身だ。彼の述懐によると、当時、「米国政府を相手に始めて行われたこの訴訟で米国が敗訴する訳には行かない。米国が敗訴したら、NAFTAが葬られることになってしまう」と言って、米国政府は彼に圧力をかけてきたとのことだ。当初は他の二人はローウェン社に同情的であった。連邦判事は米国政府の肩を持って反論した。他のふたりが判断をひるがえし、最終的に、仲裁パネルはこのローウェンの訴訟を却下した。仲裁者の説明責任の欠如はこのISD制度に内在する手続上の欠陥である。通常、パネルの3人の調停者の多くは本職の判事ではなく、多国籍企業を代表する弁護士であったり、政府や官庁のOBであったりする。彼らは国際調停の場で原告の弁護士であったり、調停役であったりする。攻守の両方の役をたらいまわしという現状があるのだ。しかも、裁定が下されると上告は出来ない。一回の裁定ですべてが終わる。中立性や独立性は確保できないのだ。ISD条項に基づいて米国政府が告訴されたケースは15件あるという。しかし、米国政府が敗訴になったケースは1件もないのだ。
韓国の最高裁が指摘した他の問題点は国の公共政策を潜在的に歪めるとの懸念だ。ここに表明された心配とは公共政策の努力が損なわれこと、その結果、国家政策を評価し吟味する行政機関からは国家レベルでの混乱状態が派生するかも知れないという点だ。
最後に、仲裁手続における透明性について言及している。米韓FTANAFTAに比較してより立派な透明性と公正さを維持するだろうと述べている。何故かと言うと、米韓FTAには第三者に法的な意見を提出する権利を与えること、ならびに、3年以内に上訴機関を設置することについての協議を行うと規定しているからだ。
Park Joo-sunはこう述べた。「2007年に米韓FTAを署名した際には、最高裁の意見書は正確には反映されてはいなかった。それ故、昨年の12月には166人もの判事たちが米韓FTAは司法権を侵害するとの懸念をあらためて表明した。
「我々は確かに最高裁の意見を6月に予定されている投資家対国家の紛争に関する制度の再交渉に含める必要がある」とParkは言う。
韓国政府は315日の発効日から90日以内に米韓FTAISD条項について米国と再交渉を行うと公表した。政府はこの3月から再交渉の草案を作成する特別委員会に作業を継続させている。
 

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米韓FTA315日の発効日からすでに8ヶ月が過ぎた。しかし、最高裁が推奨した再交渉はまだ行われてはいない。
韓国では大統領選が真近に迫っている。1219日が投票日だ。1018日付けの新聞報道[3]によると、野党の大統領候補であるMoon Jae-in氏は米韓FTAISD条項について再交渉を行うと主張している。この再交渉は大統領選では与野党の候補の間での最大の争点のひとつだ。
オーストラリアがISD条項を拒否していることは先に小生のブログにも掲載した(630日)。TPP交渉の秘密文書の漏洩があった後、その詳しい内容を吟味する機会があったことからさまざまな反応が起こっている。817日の報道[4]によると、TPPへの参加を予定していたマレーシアはTPPへの参加によって国内の医療費が高騰するとしてこの条約への参加を見送りたいとのことだ。
ニュージーランドでは貿易交渉担当大臣が交渉の内容は公開しないと言明している。秘密交渉の悪い面が表面化している。しかしながら、新聞報道[5]によると、TPPの秘密交渉の文書の一部が漏洩した後、国家主権の侵害についての議論が再び活発化しているとのことだ。これは韓国と同様の議論だ。オーストラリアの拒否の対象もISD条項についてである。
 

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政府とは別に民間団体からの主張もある。TPP交渉に参加する三カ国(ニュージーランド、オーストラリア、カナダ)の緑の党が共同声明[6]を発表している。その記事の冒頭の部分を下記に転載したい。
TPP交渉の渦中にある3カ国で活動する緑の党は,根源的に非民主的で不透明なTPP協定に対して重大な懸念を表明すべく、ここに共同声明を発表する。投資の章の文書が漏洩して以来、我々は、このTPP協定が効果的に国を治める自国政府の権能を損ねる恐れがあると認識し、非常に憂慮してい る。TPP協定の諸条項によって、安全で、安価な価格の医薬品が入手しづらくなり、メディア(※映画やテレビ番組等の)に対する現地調達規制は軟化し、ハイテク技術の革新は阻害され、さらに、将来、政府が公衆衛生や環境のために立法措置をとる権能さえ制約される可能性がある。
また我々は、交渉過程の透明性が確保されるべきだと確信している。本協定は民主社会では容認できないほど機密性が高く、交渉は閉ざされた扉の向こうで進んでいる。

ここでも予測される国家主権の侵害が議論されている。韓国の最高裁が指摘した内容とまったく同じだ。
さらには、緑の党が指摘した項目の中に「自由なインターネットの終焉」がある。これは見逃してはならない点だ。それを下記に転載する。

TPPは、国内法では認められないような、インターネット利用に関する広範で厳しい法律で加盟国を拘束する手段をなんとか導入するために利用されているのではないか、と我々は確信している。例えば、些細な非営利目的の著作権侵害に対する厳罰、著作権侵害にあたるホームページやコンテンツを「まず停止させてから、尋問する」という方法、インターネットプロバイダーがプライバシー保護の予防手段を講じることなく(※著作権侵害をしていると言い立てられたユーザーの)個人情報を当局に開示する可能性、などが含まれている。欧州議会は、同様の狙いをもつACTA(※模倣品・ 海賊版拡散防止条約)を圧倒的多数で否決した。(※日本の参議院ではほとんど審議もせず、圧倒的多数で可決)そしていま、同じ類の規制がTPPによって課せられようとしている。
この主張についてはこれから注意深く検証してみたいと思う。ここには注釈として、「模倣品・ 海賊版拡散防止条約」は日本の参議院ではほとんど審議もせず、圧倒的多数で可決されたと記述されている。これも検証してみたい内容だ。
このブログでは日本国内の議論だけを追うのではなく、海外ではどのような議論がなされ、現状はどうかという観点から情報を収集してきた。
私の意見としては日本にとって最大の問題点は、やはり、投資家(これはほとんど「米国のグローバル企業」と同義語)の権利を参加国の国内法を超越する形で過剰に認め、不透明な仲裁裁判所で裁定をし、上告は認めないという非常に非民主的な制度にあると思う。上記にも述べたように、NAFTAの例では米国政府が告訴されたケースは15件もあるのに、敗訴になった事例は1件もないのだ。これこそが私の言う「日本の富を収奪する米国のシステム」そのものだ。
今から18年前に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)において米国企業の訴えによってカナダやメキシコが実際にどれだけの被害を受けたかを理解して欲しいと思う。詳細については2012112日付けの「TPPISD条項はどんな悪さをもたらすか?」を参照されたい。
また、韓国ではすでにISD条項に基づく米国の企業からの訴訟にさらされつつあることをここで確かめておきたい。
最初の事例は投資ファンドのローン・スターという米国テキサス州の企業。その詳細が「米韓FTA ISD条項で初訴訟か」というブログ[7]に紹介されているので、是非読んでみていただきたい。
次に問題になりそうな事例はやはり米国の小売企業のコスコ社の事例[8]であって、これは韓国紙で報道されている。同社はソウル市の条令に逆らって、日曜日にも開店している。市が条令に基づいてコスコを日曜日には閉店するように指導すれば、同社は間違いなくISD条項に基づいて損害賠償を求めて訴訟に踏み切るのではないかと懸念されている。
 

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日本の法務省や最高裁はTPPISD条項についてどのような見解を持っているのだろうか。法的な解釈や国内法との問題点を取り上げるとすれば、多分、韓国の最高裁が到達した結論と殆ど同じ見解が出て来るのではないかと想像する。法律の基本的な体系や論理は国が違ってもそれほど大きくは異ならないのではないかと思うからだ。
12月の衆院選の前に勉強しておかなければならない事項はたくさんありそうだ。このTPPISD条項についてもさらにおさらいを続けて行きたいと思う。

 

参照

1Supreme Court recommends renegotiation of ISD clause The Hankyoreh, Apr/26/2012
2Unearthed documents illustrate pitfalls of Investor State Dispute clause: The Hankyoreh, Jan/05/2012
3Moon Jae-in vows to renegotiate US FTAThe Korea Times, Oct/18/2012
4: Malaysia Says No To The Trans-Pacific Partnership. Meanwhile, The Agreement Causes Political Conflict In Australia: Legal P2P News & Issues, Aug/17/2012, www.p2pon.com/.../malaysia-says-no-to-the-trans-pacifi... - United States
5Fur flies in NZ over secret trade negotiations: The New Zealand Herald, Jun/14/12
6環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に関する緑の党三カ国による共同声明: 2012819日、antitpp.at.webry.info/201208/article_10.html
7米韓FTA ISD条項で初訴訟か: 農と島のありんくりん、2012613日、arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post.html

8Seoul yet to get its ISD act together: By Lee Jeong-hun, staff reporter, The Hankyoreh, Oct/05/2012

 

 

2012年11月18日日曜日

二期目に入るオバマ大統領


200945日、就任早々のオバマ大統領はチェコ共和国の首都、プラハで演説を行った。それは核兵器を撤廃しようと言う画期的な演説であった。この演説を聞いて、驚きや賞賛あるいは平和への期待はプラハの広場に集まる聴衆をとらえて離さず、あの心地よい新鮮な驚きと期待感は世界中に広がった。

しかし、現実には、核兵器の撤廃は、オバマ大統領自身がその演説の中でも述べているように、我々の世代中には実現できないのかも知れない。

オバマ大統領の一期目は国際政治の面で大きな成果があったのかというと、必ずしも無条件には肯定できないのではないか。殆どが前任の大統領の政策や方向性を受け継いだものだったような気がする。オバマ大統領がプラハで見せた国際関係の将来への期待はどこへ行ってしまったのか。

イスラエルとイランやパレスチナとの間の緊張は高まりこそすれ、和らぐことはなかった。


今、ガザ地区でのイスラエルの侵攻はその極に達しようとさえしている有様だ。事実、最近開始されたガザ地区に対するイスラエルの攻撃(「ピラー・オブ・クラウド」作戦)による死者や負傷者の報告がBBCRTCNN、その他のメデアのトップを飾っている。現地入りしたジャーナリストからの報告は悲惨を極めている。

この11月の米国の大統領選でオバマ大統領は共和党のロムニー候補を破って、二期目の大統領として選ばれた。

今日のブログではこの大統領選で表面化した米国選挙民の新しい動きについておさらいをしておきたい。

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イスラエルの英字新聞[1]によると、今回の米国の大統領選を次のように総括している。

米国の大統領選挙を通じて判明した最も懸念すべき点は米国のユダヤ系選挙民がイスラエルに対して興味を失ってしまったことだ。親イスラエル・親和平を標榜するイスラエル・ロビーの「Jストリート」が実施した最近の出口調査によると、米国のユダヤ系選挙民の10%はイスラエルの優先度が最も高いと答えている。しかし、残りの10人中の9人にとっては雇用率や厚生、健康保険といった内政問題が最大の関心事だ。

ここに引用したイスラエルのハアレツ紙の記事は、上記の冒頭の部分以外は有料会員向けにのみオンラインで公開されており、私はアクセスすることができなかった。しかし、その2日後、他の情報源[2]からこの続きを入手することができた。続きはこうだ。

共和党員やユダヤ系の活動家の多くがベンジャミン・ネタニヤフ首相を支持してはいるのだが、彼らが何度もバラク・オバマはイスラエルをイランの狼どものもとへ投げやるだろうとの恐ろしい予測を正面に掲げてキャンペーンを行って来たにもかかわらず、これが実際に得た結果だった。

この統計はニューヨーク市立大学准教授であり政治評論家でもあるピーター・ベイナートの分析結果とも一致する。彼は、イスラエルによる占領の継続や人種差別の実態こそが米国のユダヤ系選挙民をイスラエルから遠ざけ、ユダヤ主義者の狙いからも遠ざけてしまったと論じている。

この二番目の情報源は今回の米大統領選での選挙民の行動についてさらに次のように記述している。

さらには、こういう統計もある。カリフォルニア州立大学とヒーブルー・ユニオン・カレッジとが最近行った共同調査によると、「イスラエルが破壊された場合、個人的には悲惨だと受け止めるか」との質問に対して、50%は「そうは思わない」と回答した。(訳注:一方、65歳以上のユダヤ系米国人、つまり、若い世代の親たちあるいは祖父母たちの80%は「そう思う」と回答。)

ジューイッシュ・レジャー紙のコネチカット版ではこの調査結果について解説を掲載しているが、それによると、エリック・マンデル(「イスラエルは正か悪か」の支持者)が「米国の若いユダヤ人はどうしてイスラエルとのつながりを感じないのだろうか」との質問に対して次のように述べている。

ひとつの説明としては、米国の若いユダヤ人はユダヤ主義は自分たちの自由主義的な価値観とは相容れないと感じている。普遍性を理想として育ち、大学ではポスト・ナショナリストの思想にさらされて来た若い世代は特定の人たちによる特定の人たちのための国家が如何に定義上は人種差別的ではないと言っても、それをそのまま受け入れることはできない。

さらに大事な点としては、多くの若い人たちはパレスチナ人の被害や犠牲に心を痛めている。罪の無い市民が常に弱者の立場に追い込まれるという現実を彼らは学んでおり、それを大切な教訓としてとらえ、迫害者には忠誠を誓うことはできないのだ。数多くの学校で、特に中東を研究する学科では反イスラエル的な偏見がこの否定的な見方をさらに強めており、これはBDS(訳注:Bは「ボイコット」、Dは「投資の撤収」、Sは「制裁」を意味する)のような反イスラエル的な大学の動きとも符合する。イスラエルに対する米国のユダヤ系市民からの支援は当然であるとする考え方はもはやあり得ないとの懸念が高まっているが、それ相当の理由がある。

これが示唆する方向は米国のユダヤ系市民は自分たちの関心事を守りぬくにはユダヤ主義の怪物から遠ざかることだと理解し始めており、その数が増えつつあるというのが現実だ。

今回のオバマ再選の原動力は女性、黒人層や中南米系の少数派、若者の三つの集団の支持によるものだったと言われている。これらの支持者に対して二期目のオバマ大統領はどう応えてくれるのだろうか。この点についても、二番目の情報源が面白い見方を示している。

ギデオン・レヴィが最近の著書の中で記述しているように、イスラエル自身にとっても徹底的に厳しく、かつ、断固とした米国大統領の出現が必要だ。それは何故か?そのような大統領の出現こそがイスラエルが占領地の呪いから自国を解放する最後のチャンスとなり得るからだ。レヴィは二期目のオバマは自信をより深めるだろうし、一期目のオバマとは違って大統領として如何に生き残るかといった配慮は二期目になると必要ないからだ、との注意深い楽観論を表明した。

米国の大統領選では三選は法的に許されていない。だから、二期目は次回の選挙に対する思惑とかが政策に入ってくる余地は殆ど無い。二期目の方が断固たる政策を取りやすい環境にあるのは事実だ。

他にも兆候がある。米国内の動き次第では、二期目のオバマ大統領は米国自身の関心事を前面に押し出し、イスラエルに対しては和平に専念するよう要求して影響力を行使するようになるかも知れないといった方向性をトーマス・フリードマンがニューヨーク・タイムズの最近の記事で論じている。彼の中心的な論点は、大統領は国内問題で多忙を極め、イスラエルを巡る外交問題にさく時間はまったくないだろうというものだ。つまり、「我々はもはやあなた方のお爺さんのアメリカではない」という現実をイスラエル人は理解するべきだと。その理由に関する彼の説明には次のような内容も含まれている。

まず、今米国内に現れつつある政治勢力はビビ(訳注:ネタニヤフ首相のこと)がイスラエルのために示した方向性とは異なっている。イスラエルのコラム執筆者であるアリ・シャヴィトが先週のハアレツ紙で論じたように、過去においては、ユダヤ主義者やイスラエル政府は世界の進歩的な勢力と歩調を合わせることに注意を払っていたものだ。しかし、最近の20年、30年は米国社会の反動勢力に寄り添って来た。彼らに寄り添うのが実に好都合だったからだ。福音伝道者たちは占領地に関して難問を突きつけることはなかったし、テー・パーテーは女性や少数派を除外することについて、イスラエルの入植者による攻撃について、あるいは、パレスチナ人や平和活動家に対する破壊行為については一言も口をはさむことがなかった。共和党の「白人・宗教団体・保守」系の人たちはイスラエルの最高裁が攻撃を受けた際であっても動揺することはなく、イスラエルの法至上主義は踏みにじられた。「我々は米国の過激な右派勢力の擁護の下に、その代価を支払うこともなく、過激右派の政策をとることが出来る」と、イスラエルは想定し続けてきた。しかし、それはもはや許されない。

どうやら、今や「イスラエルは重荷だ!」と見なすユダヤ系米国人が増えているようだ。それだけではなく、まだ少数派であるとは言え、すべての米国人が同じ事を考え始め、その数が増えているようだ。

私が最も興味深く思ったのは、この記事の投稿者は二期目のオバマ大統領がイスラエルの影響力から脱却して、米国にとって一番大切な政治的判断をすることになるだろうと期待している点だ。つまり、中東和平の方向へ進むことを期待しているのだ。

イスラエルでは来春総選挙が行われる。ネタニヤフ首相はその選挙後にイランの濃縮ウラン施設を攻撃すると公言している。ある政府高官は戦術核を使うとも言っている。

このような過激な右派的行為を最終的にオバマ大統領の手で阻止することができるのかどうかが見ものだ。
 

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日本国内に目を向けると、イスラエルの日本への影響はどんなだろうか。

最近の「天木直人メールマガジン」[3]によると、

外務省は11月14日次のような発表をしたという。

内戦状態が続くシリアへの制裁措置について協議する国際会議を11月30日に都内で開催すると。

会議には60を超す国や地域の代表が出席する予定であると。

シリア制裁に消極的な国が多いアジア諸国にも参加を呼びかけると。

この会議をシリアの警告を無視してまで何故日本が引き受けなければいけないのか。なぜ日本は他のアジア諸国に参加を働きかけなければならないのか。それはすべて米国の肩代わりだ。

まず、シリア制裁はその延長線上にイスラエルが最も恐れているイランに対する制裁が存在する。

中東では、我々の世代が世界のニュースに関心を持ち出した頃にはすでにイスラエルの軍事的優位性が明白になっていた。

湾岸戦争の際には、日本は自衛隊を参画させる代わりに多国籍軍に対して莫大な額の戦費を拠出した(135億ドル)。この日本の行為については多国籍軍の参加国から非難の声があがった。イラク戦争では航空自衛隊がバグダット空港を拠点として米軍の輸送業務の一部を代行した。この航空自衛隊による輸送業務は延べ28,000人にのぼり、その内7割が米軍兵士だったとのことだ。また陸自は給水、医療、学校の復旧、等に従事した。これらに費やされた金額はどれほどになったのだろうか。アフガン戦争では海上自衛隊による給油活動が行われた。また、戦後復興のために莫大な資金を拠出するとしている。

これらの戦争はすべてがイスラエルの対外戦略に乗った米国の戦争だった。もっとはっきり言うと、一連の戦争は米国・イスラエルの軍産複合体のための戦争だったとも言える。これらの戦争の非合法性が暴かれ、当時の政治的決断の不条理さが今や明白になっている。

湾岸戦争、イラク戦争そしてアフガン戦争を通じて日本が行ってきた協力行為は戦費の拠出から戦闘行為の無い場所でとは言え具体的な自衛隊の派遣へと変わった。米国が関与する紛争地域への自衛隊の派遣は今後どこまで深入りして行くのだろうか。

日本政府は日米安保条約を深化させるとしている。でも、深化させることにどれだけの国益があるのだろうか、私にはまだ分からない。
 

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シリア制裁の国際会議を日本で開催することは、今や全世界にとって悪の枢軸とでも言えそうなイスラエル・米国のために日本がその代理行為をさせられているかのように見える。これが日米安保条約の深化の現実なのである。そして、それはまだ始まったばかりだ。

これらを考えると、二期目に入るオバマ大統領が本気でイスラエルとの縁を切ることができるかどうかが嫌でも今後の最大の関心事となってくる。オバマ大統領にそれが出来た暁には、日本の国際協力も真の意味での国際貢献になってくるのではないだろうか。真の意味での国際貢献こそが日本の国益と一致する。政治的に健全な政策こそが求められているのだ。そんな日が早く来て欲しい。
 

参照:

1American Jews are giving up on Israel: HARRETZ, Nov/12/2012

2Obama: “The Best is Yet to Come.” Really?By Alan Hart, Information Clearing House, Nov/14/2012

3こっそり発表された対シリア制裁国際会議の日本開催:天木直人のメールマガジン、第856号、20121115