2019年7月31日水曜日

西側はなぜ中国の成功を無視しようとするのか

この投稿の表題が示す内容は西側のメディアにとっては触れたくはないテーマのひとつであろう。

この記事の著者はアンドレ・ヴルチェクである(注1)。アンドレ・ヴルチェクはこのブログではすでに何度か登場していただいている。たとえば、2016年7月11日には「日本のメディアが誰にも喋って欲しくはないこと」と題する投稿を掲載した。2018年1月9日に掲載した「戦場の特派員からの新年のメッセージならびに警告」という投稿ではこの著名なジャーナリスト・哲学者・作家・記録映画製作者としての信条を詳しく学ぶことができた。すでにお気付きのこととは思うが、これらの論評には歯に衣を着せない著者の姿勢が色濃く出ている。

私は彼の率直に意見を述べる姿勢や洞察力の深さが好きだ。建前論ではなく、物事の本質に迫ろうとする姿に敬意を表したい。真実を報告されることによって不都合に感じる政治家や政治団体が出てくるだろうが、好むと好まないとにかかわらず、それは政治にとってより本質的な視点を見い出すために必要なひとつのプロセスである。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

中国が今までに達成した事柄をべースにして著者は中国が近い将来何処へ行き着くのかを読み取ろうとしている。彼の主張は多くの識者が支持するであろうが、その一方では、恐らく、多くの政治家や政治集団は不都合な真実に当惑することであろう。

<引用開始>

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今までは漫画的でさえあったが、今や、決してそうではない。突然、状況が変わったのである。過去においては、盲目的な嫌悪感が中国についての無知を招き、少なくとも、西側のプロパガンダやマスメディアによる洗脳をもたらした。

しかし、今はどうか?中国が達成した大躍進、素晴らしい人道的な社会政策、決然と庶民に焦点を当てた科学研究を行い、いわゆる「生態学的文明」を目指して行進する中国の様子は詳しく文書に記録されており、そのことを本当に知りたいと思うならば、中国の本当の姿を学ぶのに誰でもが数多くの機会に恵まれることであろう。

しかし、本当に学ぼうとする者は少ないようだ。少なくとも西側では極めて少ない。

西側各国およびその衛星国においてはほとんどすべての国で中国は否定的に捉えられている。その一方で、アフリカで実施された調査によると、アフリカでは中国が称賛され、好まれていることは明白である。これは、ヨーロッパや北米からのマスターに対する依存性を断ち切るために中国がアフリカで支援の手を差し伸べていることを考えると頷けることだ。

昨年(2018年)、影響力のあるピュー・リサーチ・センターが行った調査によれば、中国は非西側諸国のほとんどの国によって好意的に評価されている。たとえば、中国がインフラの整備や社会的プロジェクトに従事しているケニアでは67パーセントが、アフリカで最大の人口を抱えるナイジェリアでは61パーセントが、アラブ人国家であるチュニジアでは70パーセントが、南シナ海における島々を巡る紛争では西側が火に油を注いで来たにもかかわらずフィリピンでは53パーセントが、今や中国にもっとも近しい同盟国となったロシアでは65パーセントの人々が好意を抱いている。

英国では49パーセントが、オーストラリアでは48パーセントが中国を好意的に捉えている。中国に好感を抱くドイツ人はたったの39パーセントで、米国では38パーセントだ。

しかしながら、本当に衝撃的な点は中国的な特徴を備えた真の社会主義に向けて中国を引っ張っている習主席に対する西側の態度にある。彼は極貧を撲滅し(2020年を目標に中国全土から極貧を駆逐する)、文化や生活の質、生態系、中国人民の健康や福祉を経済指標以上に押し上げようとしているにもかかわらずである。

保守的で反共産主義的なポーランドがこの集団の先頭をきっている。同国では習主席の指導力に「信任」を置く市民はたったの9パーセントである。ギリシャでは11パーセント、イタリアでは14パーセント、スペインでは15パーセントだ。これはヨーロッパの実情を伝えている。カナダでは42パーセント、米国では39パーセントである。

この実態は単に無知のせいであろうか? 

中国のメディアからインタビューを受ける時、多くの場合、私は同じ質問に遭遇する:「われわれは規則にしたがって行動し、地球環境を改善するために最善を尽くそうとしているのに、西側ではどうして何時も批判されるのだろうか?」

答は明白である: 「まさにそのこと自体が理由なのだ。」 

***

20年程前、中国とその社会主義プロジェクトは依然として「未完の段階」にあった。東部の都市地帯と地方との間には生活水準に大きな違いがあり、歴然としていた。輸送インフラは不適切であった。工業都市の汚染はひどいものであった。何百万人もが職を求め、より快適な生活を求めて、地方から都市へ移動しようとしていた。これは中国の社会システムに大きな歪をもたらした。

中国を嫌う人たちは当時の中国政府を批判した。攻撃するための「実弾」は豊富にあった。中国は発展していたが、国家を優福にし、清潔で健康な社会を築くという仕事は果てしもなく続く無駄な仕事であるかのようにさえ見えた。

その後の展開はまさに奇跡である。人類の歴史には前例がない。第二次世界大戦前のソ連邦だけが高度成長と国民の生活水準の改善において中国が過去20年間に達成したレベルを越していただけである。

中国では何もかもが変わった。都市は綺麗になり、緑化され、生態学的に整備され、公園が多くなって、大人や子供たちのために運動器具が設置されている。都市の中心部には第一級の(生態学的にも優れた)公共交通手段が整備され、立派な博物館やコンサートホール、素晴らしい大学、医療センターが設けられている。超高速列車が国中の大都市間を結び、運賃は政府からの補助によって支援されている。共産主義国家である中国では政府と共産党がすべてを計画し、民間は国家に仕えるためにある。その逆ではない。この構造はうまく動いている。目覚ましいほど立派に動いている。自分たちの国家を如何に統御するべきかに関して中国の市民は西側の市民よりも発言力がある。

都市は清潔で、効率が良く、まさに市民のために構築されている。乞食は見当たらなく、スラム街もない。悲惨さはない。状況はますます良くなっている。

中国を初めて訪問する外国人は衝撃を受ける。つまり、中国は米国や英国よりも遥かに裕福に見えるのだ。街の通りや空港、地下鉄、超高速鉄道、劇場、歩道、公園を見ると、ニューヨークやパリの住人に恥じらいを感じさせるほどだ。

しかしながら、中国は金持ちではない。現実に、金持ちとは程遠い!中国の人口当たりの国内総生産は依然として相対的に低いが、そのことが「中国的な特徴を持った共産主義」を強く印象付け、帝国主義によって動機付けられた西側の資本主義に勝るのである。国家が繁栄を極め、国民が今まで以上に立派な人生を送り、環境を維持し、偉大な文化を推進するために人口当たりで5万ドルを超すような平均収入は中国では必要ではない。

まさに、これこそが西側が恐れ慄いている理由なのではないか? 

経済成長がすべてである西側では、将来を楽観視する代わりに、恒常的に恐れを抱くのである。毎年何兆ドル、何兆ユーロもが浪費されている西側では、超エリートは不条理なほどに優雅な生活を送り、理由もなく不必要な過剰生産や武器の蓄積を指揮し続ける。これらは大多数の国民の福利厚生には何の役にも立たない。

中国とその中央官庁の計画が自国の市民や世界のためにより好ましい、より論理的なシステムを提供している。

中国の科学はそのほとんどが地球上の生活を如何に改善するかにその焦点が当てられており、冷酷な利益を追求するためではない。 

習主席の申し子である一帯一路(BRI)は世界中で何億人をも貧困から救済し、世界を分断するのではなく、世界を連携するよう意図されている。 

どうして習主席はヨーロッパでこれほどまでに嫌われているのか? 

それは、まさに、中国がとてつもない大成功を収めているからではないか? 

***

前の論点へ戻ろう: 20年ほど前、中国は社会や環境に関して大きな問題を抱えていた。どんな形であろうとも共産主義を嫌う西側の連中は中国へやって来て、こう指摘したものだ: 「上海や深圳は今や繁栄を極めている。だが、沿岸にある他の都市を見たまえ。違いが見えるかい?」 

その後、沿岸のすべての都市も改善し始めた。公園を設け、大学を設立し、地下鉄を開通させ、美しい街並みを作り始めたのである。

西側の批判は続いた: 「沿岸地帯を離れて、西部へ入って見たまえ。中国はひどく不平等であることが分かるだろう!」 

そうこうしているうちに、中国西部も大きく改善した。これらの西部の都市と沿岸部の都市との間には生活の質について言えば実質的な違いはなくなった。

「すべてがすこぶる皮肉だ」と大言壮語氏は続け、こう言った。「都市部と田舎との違いはとてつもなく大きく、農民は自分たちの集落から離れ、都市部で職を探している。」 

習主席の指導下で、田舎はどこでもが徹底的な改善や見直しを受けた。交通機関や医療サービス、教育機関、求職、等が著しく改善されたことから、2018年には、現代史上で初めて、人々は都市部から田舎へ移動し始めた。

さて、今は何が問題であろうか?次の課題は?「人権かい?」 目を開いて良く見れば、もはや、けなす材料なんて見当たらない程だ。

しかし、中国が立派になればなるほど、中国が自国民や世界中の人々について面倒を見れば見るほど、中国はさらに厳しい攻撃を受ける。

西側の政府や大手メディアからは「ワーオ!」という感嘆詞は一言も発せられない。「環境問題や社会システム、科学、公的な物事については何であっても中国は今や世界の指導者だ」という言葉は一言もないのである。

なぜか? 

答は明確だ。不幸なことには気が滅入るほどだ: 何故かと言えば、西側は中国、あるいは、中国の指導者が成功することを望んではいないのだ。もしも成功すれば、彼らは沈黙するしかない。ふたつのシステムは大きく異なり、中国のシステムが正解だとすれば、西側のシステムは間違いだと言うことになるのだ。

そして、西側は世界にとっていいことだと言えるような概念なんて模索しようともしない。自分自身の概念が生き残り、地球上のすべての国家を凌駕することだけを望んでいる。それだけだ。

このことこそが自国民を窮乏から救済し、新たな、より立派な社会を構築しようとする国家の間では中国がもてはやされる理由なのである。これが、西側や西欧人の子孫がマスメディアを支配し、コントロール下に置いている国々(たとえば、アルゼンチン)においては、中国が徹底して中傷され、嫌われ、さらには嫌悪される理由なのである。

好意的な指摘について一言だけ付け加えておこう。西側において、ならびに、西側によってマスメディアがコントロールされている地域においては揺るぎのない、悪質なプロパガンダが絶え間なく展開されているにもかかわらず、今まで以上に多くの人々が習主席に信頼感を置いており、それは米国のドナルド・トランプ大統領を凌ぐ勢いである。トランプ大統領によって元気づけられると感じる人々は世界中で27パーセントにしかならない。

著者のプロフィール: アンドレ・ヴルチェクは哲学者であり、小説家、記録映画製作者、調査報道ジャーナリストでもある。彼は「Vltchek’s World in Word and Images」を(インターネット上に)構築し、「China and Ecological Civilization」を含め、何冊もの本を書いている。また、オンライン・マガジンの「New Eastern Outlook」にて独占的な執筆を続けている。 

<引用終了>

これで全文の仮訳は終了した。

「どうして習主席はヨーロッパでこれほどまでに嫌われているのか? それは、まさに、中国がとてつもない大成功を収めているからではないか?」という指摘は秀逸である。著者は言いにくいことをズバリと指摘している。

読者の皆さんはすでにお気付きのことと思うが、アンドレ・ヴルチェクの基本的な姿勢は米国が過去数十年間推進して来た持てる国、覇権国としての米国の対外政策には疑問を抱いており、持たざる国とその国の一般庶民を何とか防護しようとすることにある。たとえば、持たざる国での仕事を終えて、米国の空港に到着した時、一種異様な空気を感じると彼は自分の体験を他の記事で語っている。米国社会は持たざる国の一般庶民の現実とはかけ離れ、苦い錠剤の外側を口当たりのいい物質で覆った糖衣錠のようなものだと言う。彼はこのような状況を「疑似的現実」と称している。現実が呈する苦い味は美辞麗句に飾られたプロパガンダによって化粧され、本当の味は巧妙に隠されてしまう。外観的には決して見えない。この疑似的現実は長年にわたるプロパガンダの産物であり、マスメディアによって喧伝されてきた洗脳の成果である。

私が言わんとしていることに関して幅広く理解したい方には、そのスターターとして2018年1月9日の投稿、「戦場の特派員からの新年のメッセージならびに警告」を読んでいただきたいと思う。


参照:

注1:Reason Why the West is Determined to Ignore China’s Success: By Andre Vltchek, NEO, Jul/17/2019






2019年7月23日火曜日

世界は米ドルの軛から脱しようとしている

脱ドル化に関しては最近の投稿(78日の「米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった」)で「米国の覇権が低下すればするほど、日米安保条約の存在の意味は薄れ、米ドルの強さは低下する。日本国内での日常生活ではそのことを実感する機会は決して多くはないけれども、少なくとも、国際政治の論議においては脱ドル化が何らかの形で論じられることがない日なんて一日もない程だ。今や、これが昨今の現実なのである」と書いたばかりである。本日もこのテーマをさらに掘り下げてみたいと思う。
何と言っても、脱ドル化は戦後70数年にわたって世界を席捲して来た米ドルが国際貿易の決済通貨や一国の準備通貨の役割から降りるという話であるから、国際社会にとってはこれは非常に大きな変化となるに違いない。
ここに、「世界は米ドルから脱しようとしている」と題された最新の記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したい。

<引用開始>
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明日にでも、米国を除いて、誰も米ドルを使わなくなるとしたらどうだろうか?各国は自国通貨、つまり、自国経済に根ざした兌換通貨を国内および国際貿易に使うことになろう。その通貨は伝統的な通貨であるかも知れないし、あるいは、政府の管理下で新たに設けられた通貨であるかも知れない。何れにしても、その国が独立国であることを象徴する通貨である。もはや、米ドルは使用されない。米ドルの申し子であるユーロも然りである。米銀ならびに国際送金システムであるSWIFTのコントロール下に置かれた国際通貨決済も行われない。このSWIFTシステムこそが米国によるあらゆる種類の融資あるいは経済制裁を可能にし、促進して来た手段なのである。つまり、外国の資産を差し押さえ、国家間の通商を停止させ、服従を潔しとはしない国家を脅迫する、等々。いったい何が起こるのであろうか?もっとも端的な答えはわれわれは米国の(金融上の)覇権から脱して、世界は平和になり、それぞれの国家は自国の主権を回復し、世界はより平等な地政学的構造に一歩近づくことになろう。

われわれはまだそこには到着していない。しかしながら、落書きが壁いっぱいに書き込まれ、われわれは今急速にその方向へ移動していることを告げている。そして、トランプはそのことを知っており、彼を操る側近たちもそのことを十分に知っている。このことこそが金融犯罪や経済制裁、貿易戦争、外国の資産や準備金の差し押さえ、等のすべてを「米国をふたたび偉大にする」という名目の下で行っている理由なのだ。そして、これらの行為は指数的に増加しており、何のお咎めもない。もっとも大きな驚きはアングロ・サクソンの覇者はこれらの脅かし、つまり、経済制裁や通商障壁は米国の偉大さを構築するのに役立つとする考えとはまったく正反対の結果をもたらすことには気が付いていないようだ。たとえそれがどのような形態であっても、世界が貿易や準備金のための通貨として米ドルを使用している限り、経済制裁は効力を発揮する。

世界中がワシントン政府のグロテスクな横暴振りや米国の専横的なルールに従わない国家に課す制裁には辟易となり、飽き飽きしてしまったら、各国は我先にと他のボートに乗り換え、米ドルを放り出し、自国通貨に価値を見い出すことになろう。これはお互いの通商には自国通貨を使うことを意味する。ひとつの国から他の国への送金がSWIFTを通じて行われる限りは米国の銀行システムは地方通貨を用いた通商を依然としてコントロール下に置くことが可能ではあったが、これは米国の銀行システムの枠外で決済される。

多くの国々は自国経済の価値が米ドルによってますます頻繁に操作されるようになったと感じている。米ドルは非兌換紙幣ではあるが、その膨大な量によって一国の経済を引き上げたり、引き下げたりする。どちらへ動かすは覇権国がその国家をどちらへ追いやりたいか次第である。馬鹿馬鹿しい現状ではあるが、この現象を大局的な視点から眺めてみよう。

今日、米ドルは上昇気流に乗っているわけではなく、むしろ、印刷された紙切れそのものの価値よりも低い。(世界銀行の推定によると)米国のGDP21.1兆ドルで、現在の借金総額は22.0兆ドル、あるいは、GDP105パーセントに相当する。フォーブスによると、「未積立負債」(将来支払いが予定されているが積立を行ってはいない借金、主として、社会保障や医療費補助制度のための支払い、および、借金の利息)は約210兆ドルとなり、米国のGDPの約10倍となる。借金の金利が加わることから、この数値は膨らみ続け、ビジネス用語では「債務元利払い」(金利と借金の償却)と称されるが、決して「返済」は行われない。これに加えて、世界中で発行されているデリバティブと称される商品が(誰も詳しい数値をつかんではいないが)1,000兆~2,000兆ドルも存在する。デリバティブは原資産の投機的な変化から価値を生み出す金融商品であって、通常はほとんどが銀行間で取引されたり、株式取引所で取引され、「先物取引」や「オプション」、「先渡契約」、「スワップ」といった種類がある。

この巨大な魔物となった借金は世界各国で米財務省証券の形で外貨準備として保有されている。その一部は米国自身によっても保有されるが、支払いを行う計画はなく、さらに紙幣を発行し、借金を続けている。こうして、米国は休む間もなく戦争を続け、武器を製造するために予算を使い、このゲームの一員として参画することを促すプロパガンダの継続に没頭している。

これが米ドルをベースとした巨大なピラミッドを構成しているのだ。たとえば、(ウオールストリートの)ひとつの、あるいは、いくつかの巨大銀行が破産間際であることからも、この借金の構造が崩壊する場合を想定してみよう。皆が彼らの発行済みのデリバティブやペーパーゴールド(これはIMFからの特別引出権の俗称で、銀行業が生み出したもうひとつのナンセンス)、小銀行からのその他の借金、等々について支払いを請求する。これが連鎖反応を引き起こし、米ドルに依存する世界経済を崩壊させることになろう。「2008年のリーマンブラザーズ危機」を世界規模で引き起こすことになるかも知れないのだ。

トランプカードで作った家のように極めて不安定な経済がもたらす現実の脅威について世界は以前にも増して認識を深めており、各国はこの落とし穴から抜け出し、米ドルの牙から逃れようとしている。ドル建ての準備金や世界中に投資された資産の取り扱いは容易ではない。ひとつの解決策はそれら(米ドルの流通性や投資)を徐々に処分し、米ドル以外の通貨、つまり、中国のユアンやロシアのルーブル、あるいは、米ドルや米国の国際支払いシステム(SWIFT)からは切り離されている通貨バスケットに乗り換えることだ。ところで、ユーロは米ドルの申し子であることに十分に留意されたい!

ブロックチェ-ン技術については今まで以上にさまざまな選択肢がある(訳注: ウィキペディアによると、ブロックチェーンは「ブロック」と呼ばれるデータの単位を生成し、鎖(チェーン)のように連結していくことによりデータを保管するデータベースである。これはビットコインのような仮想通貨で使用されている)。中国やロシア、イラン、ベネズエラは制裁を避ける意味で米ドルの枠外で支払いや送金を行える新システムを構築するためにすでに政府の監督下で仮想通貨の実験を行っている。インドがこのクラブに入会するかどうかは分からない。すべてはモディ政権が東西のどちらを選ぶのか次第だ。論理的に言えば、インドは広大なユーラシア経済圏に属し、ユーラシア大陸の一部であることからも、インドは東方へ傾斜しようとするであろう。

インドはすでに上海協力機構(SCO)のメンバーである。SCOは通商や通貨の安全および国防に関して平和的な戦略を標榜する機構であって、中国、ロシア、インド、パキスタン、中央アジア各国で構成されている。イランは正会員になるべく目下待機中だ。SCOは世界人口の半分を網羅し、世界の経済生産の三分の一を占める。東側は生存のために西側を必要とする訳ではない。西側のメディアはSCOについて報道することはほとんどなく、西側の一般庶民はSCOとは何を意味するのかについては何の理解もなく、どの国がメンバーであるのかについてもまったく知らない。

米国の威圧的な金融パワーに抗し、経済制裁に耐え忍ぶには、政府の監督下にありその規制を受けるブロックチェーン技術は重要な策となるのかも知れない。この新同盟の機構へはどの国の参加であっても歓迎され、通商のための代替策としては新しいとは言え、急速に拡大している。そこでは、参加国は国家政策や金融面で自国の主権を取り戻せるのである。

インド式の「物々交換銀行」は脱米ドルとまったく同じ文脈にある。たとえば、これらの銀行はインド産のお茶をイラン産の原油と交換する。イラン産の原油に対してインドの産物と交換する業務はインドの「物々交換銀行」が取り扱い、両国の通貨、つまり、イランのリアル通貨とインドのルピー通貨が同銀行で処理される。この物々交換ではイランの炭化水素製品に対してはインドの貿易品目の中でも金額的にもっとも大きい品目が選ばれる。たとえば、イランからインドに輸入される品目で大きなものはお茶だ。インド外部では金銭的な決済は何も行われない。こうして、米国による経済制裁は回避される。米銀や米財務省はこの種の二国間の経済活動に関しては何等の干渉もすることはできないからだ。

***

米国およびEUによる経済制裁が課されているにもかかわらず、ドイツのロシアへの投資はこの2019年には過去10年来の新記録を更新した。ドイツの業界は2019年の最初の3か月間に17憶ドル以上をロシア経済に注入した。ロシア・ドイツ商工会議所によると、ドイツ企業によるロシアへの投資は前年度比で33パーセント増、4億ドル増を示した。総投資額は32億ドルに達し、2008年以降で最大規模になった。同商工会議所に登録され、調査を受けた140社のドイツ企業は経済制裁によって約10億ドルの被害を被り、西側による反ロ圧力が高まったにもかかわらず、ロシア・ドイツ間の貿易は2018年に8.4パーセント増加し、約620憶ドルの規模に達した。

加えるに、米国からの反論や経済制裁による脅威があったにもかかわらず、モスクワとベルリンの両政府は天然ガスを輸送する「ノルドストリーム2」のプロジェクトを継続した。このプロジェクトは2019年末には完成の予定である。ドイツやヨーロッパにとってはロシア産天然ガスは自国の近くで入手が可能であって、非常に自然で論理的な供給源である。また、そればかりではなく、ロシア産天然ガスは米国の強圧的な売り込みを回避し、米国から独立することが可能となるのだ。そして、支払いは米ドルでは行われない。長期的に見ると、ドイツ・ロシア間のビジネスや経済関係の利益は非合法的な米国による経済制裁がもたらす損害を遥かに上回るであろう。この種の理解が浸透した暁には、ロシア・ドイツ間のビジネス関係が開花するのを止める術はなく、他のEU諸国とロシアとのビジネス関係をも誘い込み、それらはすべてがドル建ての金融・送金システムの枠外で行われる。

トランプ大統領による中国との貿易戦争は中国がアジアやアジア・太平洋地域およびヨーロッパで他の貿易相手国を見い出すことを促す。結局のところ、これは脱米ドルの効果をもたらす。これらの国々や地域については中国はドル建て契約やSWIFT送金システムの枠外で貿易を行う。たとえば、中国国際支払いシステム(CIPS)を活用する。この中国のシステムは如何なる国家に対しても国際貿易のために門戸が解放されている。

これは中国からの輸出品に対する厳しい関税を回避するばかりではなく(中国製品を求める米国の顧客にとっては中国製品が適度な価格では入手できなくなることを意味することから、あるいは、まったく入手することができなくなることから、これらの顧客を激怒させ)、この戦略は国際市場では中国ユアンを強化し、中国ユアンを信頼できる準備通貨としてもてはやすであろう。やがては米ドルを凌ぐことになろう。事実、ドル建ての資産は20年前には90パーセント以上を占めていたが、今や60パーセント弱に減少している。そして、ワシントン政府による威圧的な金融政策が継続する限り、この数値はさらに低下する。ドル建ての準備金は急速にユアンや金に置き換えられよう。オーストラリアのような強情な西側支持国においてさえも然りだ。

ワシントン政府はトルコに対しても非建設的な金融政策を開始した。これはトルコがロシアやイラン、中国との間で友好的な関係を築こうとしているからである。何よりもまず、NATOでは重要な地位を持つトルコがロシアから最先端技術のS-400対空ミサイルシステムを調達しようとしているからだ。米国としてはトルコ・ロシア間の新たな軍事的同盟関係を受け入れることはできないのだ。その結果、米国はトルコ通貨に対して邪魔立てをし、リラ通貨は20181月以降で40パーセントも下落した。

トルコは米ドルの抑圧や通貨に対する制裁からは何としてでも逃れようとしてあらゆる策をつくすことだろう。そして、さらに東側との同盟を求めるであろう。これは米国にとっては二重の失敗となる。トルコは米ドルによる貿易を放り出し、たとえば、自国の通貨を中国のユアンやロシアのルーブルと連携させ、トルコはNATOを離脱するかも知れない。大西洋同盟にとっては痛手となるに違いない。トルコは戦略的に重要であり、NATO29ヵ国の加盟国の間では、米国を除くと、NATOの軍事力としては最強メンバーのひとつであると見なされていることからも、NATOからの離脱は米国にとっては大失敗となる。

もしもトルコがNATOから離脱するとすれば、ヨーロッパのNATO同盟全体が影響を受け、NATOの存在が問い質されることであろう。長い間警戒心を抱き続け、NATOの核兵器を国内に貯蔵する国々、特に、イタリアとドイツはNATOからの離脱を試みるかも知れない。ドイツとイタリアでは、一般市民の過半数がNATOに反対であり、特に、ドイツやイタリアの国内にあるNATO基地から発進し、戦争を遂行するペンタゴンのやり方に反対をしている。

この潮流を阻止するために、前ドイツ連邦国防相であって、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)のウルズラ・フォン・デア・ライエンがジャン・クロード・ユンケルの後継者として欧州委員長の座に就く準備が進められている。ユンケル氏は2014年から委員長の座にあった。フォン・デア・ライエン氏は今晩717日に9票差で選出された。彼女は頑迷なNATO支持者である。彼女の役目はEUからは不可分なNATOを維持することにある。今日のNATOを見ると、NATOは、事実、EUを動かしている。しかしながら、一般市民はNATOに反対し、米国の衛星国の立場にいることを反対し、ブリュッセルの指導層に反対している。自分たちの市民国家の民主的権利を要求して一般市民が立ち上がった暁にはNATOの現状は大きく変化することだろう。

ペンタゴンが開始し、ワシントン政府に同調するヨーロッパの操り人形的な同盟国によっても支持されている現行の戦争や紛争は核戦争に発展する可能性があることをヨーロッパ市民は感じ取っているのだ。自分たちの国内にあるNATOの基地は最初の攻撃目標となって、ヨーロッパをこの100年間で三回目の世界大戦の戦場に化してしまう恐れがある。しかしながら、三回目の大戦は核戦争であることから、そのような大惨事の被害や破壊の程度を知る術はなく、可能でもない。母なる大地は核戦争の被害から回復する時間さえも与えられないであろう。

トルコがNATOから離脱することを期待しようではないか。これはトルコの通貨に対してワシントン政府が課す脅迫や邪魔立てに対抗するものであって、平和で健全な対応を求める大きな第一歩となるであろう。米国によるトルコ通貨に対する制裁は、長期的に見ると、神の恵みでさえある。トルコにとっては米ドルを破棄し、東側の通貨、主として中国のユアンに徐々に移行する。これは米ドルの棺に打ち込まれるもう一本の釘となる。

ところで、ワシントン政府にとってもっとも耐え難い打撃はトルコがNATOを離脱する時であろう。フォン・デア・ライエンがNATOのために執拗に闘ったとしても、この動きは遅かれ早かれやって来る。NATOの崩壊はヨーロッパだけではなく、800カ所以上の米軍基地が存在する全世界においても西側の権力構造を破壊することだろう。その一方で、NATOの解体は世界の、特に、ヨーロッパの安全保障を改善し、それはこのようなNATOからの離脱がもたらす悪影響のすべてを相殺して、さらに余りがあるだろう。NATOからの脱退、ならびに、米ドルの軌道から抜け出すことは脱米ドルのための重要な一歩であり、これは米国の金融および軍事上の覇権に大打撃を与えるだろう。

最後に、中国の一帯一路(BRI)、あるいは、新シルクロードの政策に向けた投資はほとんどがユアン建てとなり、ひとつあるいはいくつもの地域や海域にまたがる当事国の現地通貨で行われ、これはやがて全世界に広がって行く。いくつかの米ドルによる投資は中国が保有する2兆ドル近くの準備金についてドル売りを行う道具として中国の中央銀行である中国人民銀行のために仕えることになろう。

BRIは次世代型の経済革命、つまり、今後数十年間、多分、今後一世紀間にも及ぶ非米ドルによる経済開発構想を約束し、各国の人々や数多くの国々を連携させ、文化や研究、教育は均等性を強制せず、むしろ、文化の多様性や人間性の平等を推進する。そして、それらはすべてが米ドル王国の枠外で行われ、悪名高い米ドルの覇権を崩壊させる。

著者のプロフィール: ピーター・ケーニッヒは経済学や地政学的な分析を専門とする。世界銀行にて30年間仕事をした後に、実務経験に根ざした経済に関するスリラー「インプロ―ジョン」を出版。オンラインマガジン「New Eastern Outlook」に独占的に投稿している。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

著者のプロフィールに記載されている書籍「インプロ―ジョン」を検索してみると、そのキンドル版を垣間見ることが可能だ。

著者は途上国の経済開発を取り扱う「開発経済学」に終生を捧げてきた。世界銀行に勤務して、貧困や飢餓、失業、教育、環境、飲料水、等の問題に取り組み、世界を駆け巡った。世界銀行やIMF、その他の経済発展を推進する諸々の組織が繰り広げる業務を通じて彼らが展開する仮面舞踏会の真の姿を見い出した時の感慨が著者の記述からありありと実感される。察するに、その時の印象は人間味を感じさせない、寒々とした風景であったに違いない。

たとえば、世界銀行やIMFは貧困国へ向けて過去に何兆ドルもの融資を行って来たが、何の役にも立たなかったと彼は言う。貧困を和らげる代わりに、この膨大な額の資金の流入はかえって債務を増加させ、貧困をさらに悪化させるだけに終わった。たとえば、アフリカ諸国の平均的な福利厚生は1970年代初頭のレベルに置き去りにされたままである。世界銀行の基本的行動理念はワシントンDCにあるきらびやかな本社の入口に掲示されているが、それは「我々の夢は世界の貧困を撲滅すること」と唄っている。

こうした現状を念頭に置いて引用記事を読んでみると、米国とその同盟国との関係が如何に一方的であり、不条理なものとなり易いかを理解することができる。「偉大な米国を取り戻す」と言って、2016年の大統領選で選出されたトランプ大統領は対外政策ではあらゆる機会に米国の一方的な利益を追求しようとする。そこには、EUや日本といった同盟国を相手にしてさえも、自国の利益のために難題を吹っかけて来る強引な姿勢があり、はた目には見苦しいほどだ。

引用記事の著者が声援を送っているトルコのNATOからの脱退に目を向けてみよう。1991年のソ連邦の崩壊によって東西の冷戦は終った。あれからすでに28年、NATOはとっくの昔に本来の存在理由を失った。その代わりに、NATOは米国の軍産複合体の利益代弁者となった。世界中の人々にとっては大きな不幸であるが、米国による絶え間のない戦争が米国の経済を支えている。何という皮肉であろうか。確かに、NATOが解体すれば、著者が展望する近未来小説の舞台はどの国にとっても遥かに住みやすい世界となることだろう。

賞味期限がとっくに過ぎてしまった米国を何時までも「偉大な米国」に維持しようとすると、必然的にその代価は大きくなるばかりであり、米国以外の国々がその多くを負担しなければならない。この構図はトランプ政権になってからはっきりとしてきた。日本は経済力が大きいが故に米国の期待も大きい。中国もドイツも然りだ。ロシアについては同国が保有する天然資源をただ同然で入手しようと、米国の地政学的な攻撃目標となっている。はた迷惑な話である。

ところで、722日のニューヨークタイムズ紙に異変が起こったと報じられている。RTの「極寒の日々は過ぎ去ったか?ニューヨークタイムズは対ロ関係を改善し、トランプを祝福したい」と題された記事(注2)によると、今までの2年間反ロ政策を喧伝し、トランプ大統領を敵のように批判してきた同紙は、722日、急遽方向転換をした。何のためか?これは中国の進出を阻止するためだ。米国としてはロシアと中国という二正面作戦から中国だけに焦点を絞ろうという戦略だ。これは攪乱のための一時的な動きであるのか、あるいは、新たな戦略なのかは時間が経たないと分からない。

すでに同盟関係が深化している中国とロシアの関係に風穴を開けることができるかどうかは不明だ。米国が抱える弱点や山積する国内問題に目を向ければ、中国一国を相手にしたとしても、疲弊した米国経済にとっては、依然として、負担が大き過ぎるのではないか・・・。米国は対外政策のために軍事予算(つまり、税金)を浪費するのではなく、今や国内問題の解決に向けて国家予算を戦略的に投入するべき時だ。

78日付けの投稿「米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった」の最後に記述しておいたように、米国人が米国を自分の故郷として誇れるようなごく普通の国家に早くなって欲しいものだ。



参照:

2019年7月15日月曜日

あなたが食べている食品には想像以上に多くのプラスチックが混入しているかも


6月28~29日に大阪で開催されたG20サミット首脳会議ではその共同声明で海洋プラスチックごみに対する取り組みが取り上げられた。『我々、G20メンバーは、既存の取組を強化しつつ、海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックを中心とする海洋ごみ問題に地球規模で対応する緊急性が増していることを認識(recognize)する。この点において、我々は、国連環境総会(UNEA)における「海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックに関する決議(UNEP/EA.4/L.7) 」及び「使い捨てプラスチック汚染対策に関する決議(UNEP/EA.4/L.10)」を認め(acknowledge)、第14回バーゼル条約締約国会議での廃プラスチックを条約の対象とする決議に留意(note)する。』と宣言した。

プラスチックごみには大きさで見ると粗大なプラスチック製の容器や包装材、シート、漁網、等があり、これらは肉眼で容易に観察することができる。海岸に打ち上げられたプラスチックごみの惨状は誰もが心を痛める今日的な難題だ。これは先進国あるいは発展途上国といった経済の進展の度合いには関係なく、今や、各国が悩まされている共通の課題である。

それに加えて、サイズが5ミリ以下のプラスチックごみは「マイクロプラスチック」として定義される。これらの極小サイズのプラスチックごみ、特に、ミクロン・サイズのプラスチックごみはその大部分が肉眼では観察できない。したがって、人々の関心からは逸れてしまう。現実の話として、あなたや私が毎日飲んでいる飲料水やビール、お酒、ならびに、ありとあらゆる食品に微小なプラスチックごみが多数混入していることが分かったとしたら、どう感じるだろうか。サイズによっては血流にさえも入り込む。プラスチックの製造の過程では可塑剤としてさまざまな化学品が添加される。これらの中には内分泌かく乱物質(環境ホルモン)として人体に作用することが知られている物質もある。また、添加されるのは化学品だけではなく金属もある。

総じて、人体に入り込むマイクロプラスチックの安全性は現時点では解明されてはいない。

ここに「あなたが食べている食品には想像以上に多くのプラスチックが混入しているかも」と題された記事がある(注1)。

海洋が想像以上に汚染されている現実を考えると、海洋産物を愛好する日本人の食生活は想像を絶するようなリスクに曝されているのかも知れない。世界中で健康的な食生活の代名詞にさえなっている日本の食文化を代表する「刺身」や「寿司」が海洋のマイクロプラスチック汚染の蔓延によって敬遠される事態に見舞われる可能性がある。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>




















Photo-1:ブリテイッシュ・コロンビア州のヴィクトリア大学の研究者によると、プラスチック製のボトルやストローは時間の経過と共に分解され、それらの破片はわれわれの食物へ入り込んでくる。 (Lindsey Moore/KQED)

プラスチックごみによる汚染は街の通りや河川を汚し、海洋を漂い、対岸にまで達する。この事実はもはや秘密でも何でもない。

そして、今や、人体にさえも達している。

ブリテイッシュ・コロンビア州のヴィクトリア大学の海洋生物学の研究者が発表した最近の研究によると、米国の平均的な市民が毎日食べる食品、彼らが摂取する飲み物、彼らが呼吸する空気を通じて、年間当たり74,000~121,000個のプラスチックの小片を体内に取り込んでいるという。

大人は子供よりも多く取り込み、男性は女性よりも多く取り込むと研究者は言う。

「プラスチックはあらゆる所に存在する」と、この論文の共著者のひとりであるガース・カバーントンが言った。「われわれはプラスチックとの関係を共同体として考え直す必要がある。われわれは過去70年間にわたって無責任にプラスチックを使用して来た。われわれのプラスチック生産は毎年指数的に増加している。」 

2年前に出版されたカリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究によると、今までに存在したプラスチックの半量は最近の13年間に生産されたものであるという。

先週「Environmental Science & Technology」誌に発表された新たな研究報告によると、ある推算結果が報告されている。この推算は人々が消費する食品中に存在するプラスチックを調査した26個の研究論文を支える合計で402カ所のデータポイントに根ざしている。

これらの研究が示すところによると、微小なプラスチック片はマイクロプラスチックと称され、周囲の大気や塩、砂糖、ボトル入りの水、蜂蜜、海産物、水道水、等に含まれている。ある研究はビールの中にさえもその存在が突き止められている。科学者らは大きさが5ミリ以下の小片をマイクロプラスチックと呼ぶ。それらの多くは非常に微小で肉眼では見えない。

人体への取り込みを推算するに当たって、カバーントンは食品中に存在するマイクロプラスチックと米国人が摂取する米保険福祉省によって決められた推奨食品の摂取量との関係を調べた。

これらは故意に低く見積もった数値であると彼は言う。(訳注:つまり、実際にはもっと多くの量が体内に取り込まれている可能性が高い。)

肉や鶏肉、穀類、乳製品、果物、野菜にどれだけの量が含まれていたら人体に危険であるのかについては、科学者らにとっては当面不明である。カバーントンの推算は平均的な市民が摂取する熱量の15パーセントを占めるだけである。実際の量は遥かに大量になるだろうと彼は言う。

「環境と食品を汚染するプラスチックを引き続き生産し続けるのかどうかについてわれわれは今再考する必要がある」とカバーントンが述べている。

この研究結果は平均的な米国人がどれだけの量のプラスチックを体内に取り込むかを合理的に推算したものだとノースウェスターン大学の化学エンジニアであるジョン・トーケルソンは評価する。彼自身はこの研究には関与してはいない。「彼らは社会に貢献してくれた。」 

しかしながら、この研究の結論の中には過剰な反応であると思われるものもあるとトーケルソンは言う。彼は今「持続性・エネルギー研究所」(
Institute for Sustainability and Energy)でプラスチックと公衆衛生に関する新たな研究プログラムに従事している。

たとえば、この論文で推奨されているプラスチック生産や使用を減少させることよりも、むしろ、もっと良好にリサイクルを実施するプログラムを採用することこそが人が体内に取り込むプラスチックの量を軽減させるのには遥かに有効であると考えられる。

トーケルソンは太平洋の大汚染地域では一般使用に供されるプラスチックが問題となっている訳ではなく、「フィリピンやインドネシア、中国、ベトナム、バングラデシュにおいては廃品の取り扱い方が問題なのだ」と提言している。

海洋プラスチックごみは大問題であることを認めているが、トーケルソンはもっと多くの研究を行うことが必要だと言う。

カリフォルニアの海洋生物学者らは、先週、モンテレー湾がマイクロプラスチックでいっぱいであることを報告し、地球上では最大級の生物生息域である海洋が今や地球上で最大のプラスチック片処分場と化してしまったと述べている。

2017年、「サンフランシスコ河口研究所」(San Francisco Estuary Institute)のマイクロプラスチック・プロジェクトは排水処理施設が毎日7百万個のプラスチック片をサンフランシスコ湾へ放出していることを究明した。多分、これは米国内の主な水域の中では何れの事例よりも大量の放出であろうと推測される。

海洋中のプラスチックごみは非常に特殊な問題である。これらの小片はムラサキイガイや海綿ならびに他の濾過摂食生物によって体内に取り込まれるからだ。これらの海洋生物は通常摂食する食物片からプラスチックの小片を区別することはできない。

そこから始まって、プラスチック片はさらに大きな食物連鎖へと入って行く。2014年には、ある研究によると、大西洋産のカキの場合平均的な一人分の分量には約50個のプラスチック片が含まれており、ドイツの養殖ムラサキイガイには90個が含まれているとの報告があった。

カバーントンの論文は米国人の食事に焦点を当てているが、何処の国であっても人々がプラスチックを体内に取り込む主要な供給源は海産物であると指摘している。

「これは海産物が食物の主要な地位を占めている国々、たとえば、日本やアジアの国々ではより大きな影響があり得ることを意味するものだ」とトーケルソンが言った。 

だが、プラスチックはどんな種類でも人に有害なのであろうか?カバーントンはその点に関してはもっと多くの研究が必要だと言う。 

「われわれはプラスチックについて十分に理解している訳ではない」と彼は言う。「人の健康に対するリスクに関しては研究が始まったばかりだ。」 

KQEDのジャスミン・メヒア・ムノスが本報告を寄稿(訳注: KQEDはサンフランシスコを本拠とするラジオ・テレビ局で、北カリフォルニアをサービス圏としている)。 

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

プラスチックと一言で言っても、さまざまな種類がある。原料が異なり、可塑剤が異なり、最終製品の機能や用途はそれぞれ異なる。可塑剤が人体に害を及ぼすかも知れないとの懸念があるが、現時点では必ずしも十分に究明されているわけではない。したがって、最終的な対応策の議論が可能となるのは先の話である。人の健康被害が論じられているプラスチックの典型的な例は「ビスフェノールA」である。世界中で問題視されており、日本の厚生労働省もウェブサイトで情報を流している。

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インターネット上で入手可能なビスフェノールAに関する情報を下記に纏めておこう。関心をお持ちの方はさらに詳しい情報を収集し、ご本人だけではなく次世代の健康のために役立たせて欲しい。プラスチックごみの健康被害には内分泌かく乱作用が含まれていることから、妊娠中のお母さん方や子育て中のご家庭にとっては今すぐにでも対応を迫られる非常に重要な問題である。警戒をし過ぎるということはないのだ。

◆ ビスフェノールAという化学物質は一部の食品用の容器等の原料に使用されている。樹脂に可塑剤(ビスフェノールA)を加え、成型が行われるが、その際に未反応のまま残っている一部の可塑剤が容器の使用中に溶出する。これが飲食物に移行する。食品に移行したビスフェノールAによる健康への悪影響を防止するために、これまでの各種の毒性試験に基づいてヒトに毒性が現れないと考えられる量を基に、ポリカーボネート製容器等について2.5ppm以下という溶出試験規格が設けられた。また関係事業者においても、ビスフェノールAの溶出をさらに低減させるための製品改良が進んでいる。

◆ ポリカーボネート製プラスチックは何に使われているのか?ポリカ―ボネートは衝撃に強く、高温や低温に耐え、透明であり、変形しにくいといった特徴を有していることから、家電製品で広く使われている。また、食品と直接接する容器・食器類にも使用されている。哺乳瓶もそのひとつだ。

◆ ビスフェノールAはエポキシ樹脂の原料でもある。エポキシ樹脂の典型的な使用例は金属の防蝕塗装、電気・電子部品、土木・接着材として使用される。食品との接触の観点からは、缶詰の内表面の防錆塗装が主な使用例である。

◆ 内分泌かく乱物質(環境ホルモン)は1996年にシーア・コルボーンが著した書籍「失われし未来」(原題:Our Stolen Future)に端を発する。当時、一大センセーションを巻き起こした名著だ。環境省は1998年に内分泌かく乱物質をリストアップし、67物質が疑わしいとされた。その内で食品と接する物質は13物質。11物質がプラスチック添加剤で、2物質がプラスチックの原料であった。

◆ 添加剤の代表的なものがフタル酸エステル類である。11物質のプラスチック添加剤の内で8物質がフタル酸エステル類で占められている。これらは主に塩化ビニールやポリ塩化ビニリデンの可塑剤として用いられる。もっとも多く使用されているのはフタル酸ジー2ーエチルヘキシル(DEHP)で、フタル酸エステル類の60パーセント以上を占める。可塑剤が食品衛生上問題となる理由は可塑剤の添加量が多いことから来る。硬質プラスチックでは添加剤が数パーセント添加され、軟質プラスチックでは20~30パーセントも添加される。フタル酸エステル類は肝臓や腎臓に対して毒性を示し、生殖毒性を引き起こす。添加剤がどのようにして人体に取り込まれるのかについては非常に興味深い調査結果がある。市販弁当中のDEHP濃度はレストランの定食に比べて著しく高かった。追跡した結果、その理由は弁当工場で使われていた使い捨てのビニール製手袋からの溶出にあった。再現実験を行ってみた。手袋をはめた状態で弁当を詰めたところ、詰める前(166ng/g)と後(8,990ng/g)ではDEHP濃度が50倍も高くなった。2000年、厚生労働省はDEHPを含有するポリ塩化ビニール製の手袋を使わないように通知を出した。

◆ 内分泌かく乱物質として疑われた13物質の内でプラスチック原料が2種類あった。その内のひとつがビスフェノールAである。ビスフェノールAはポリカーボネートやエポキシ樹脂の原料である。ポリカーボネートは熱に強く、強度もあり、軽くて美しい樹脂であることから、哺乳瓶や学校給食用食器として広く使用されていた。しかしながら、ビスフェノールAは内分泌かく乱作用を有することが疑われ、哺乳瓶はガラス製に置き換えられ、学校給食用食器は他の材質に変える自治体が相次いだ。規制が厳しいEUでは、内分泌かく乱物質の問題のひとつとされている低用量効果が未解決であることから、2002年にビスフェノールAのTDI(1日当たりの許容摂取量)を0.05mg/㎏体重/日から0.01 mg/㎏体重/日に引き下げた。これに基づいて、EUでの溶出基準は0.6μg/mlとなっている。日本では食品衛生法によるビスフェノールAの規格基準値はフェノールおよびp-tert-ブチルフェノールを含めて2.5μg/ml。

◆ ビスフェノールAが原料として用いられるエポキシ樹脂は缶詰の内表面の防錆塗料として用いられる。食品への移行量は比較的高く、コーヒーや紅茶などの缶飲料からは0.003~0.21μg/mlが検出されていたが、その後エポキシ樹脂中のビスフェノールAの残存モノマーを減らす努力をした結果、溶出量は0.005μg/mlと問題のないレベルに低減されている。

(注: ここまでは主として「生活衛生」誌Vol.50、 No.5、p365~371(2006)に掲載されている尾崎麻子(大阪市立環境科学研究所)著の論文 「器具・容器包装と食品衛生」からの抜粋である。)

◆ ビスフェノールAの当面の関心事は毒性を示す濃度よりもかなり低い濃度で起こる内分泌かく乱作用がどの程度の濃度にあるのかという点だ。厚生労働省は内分泌かく乱化学物質ホームページで「ビスフェノールAの低用量影響について」と題して関連情報を提供している。関連情報の一番目の項目は「
ビスフェノールAの低用量影響に関する文献の概要一覧(2012~1997)」。これはMedline等の公開情報において、「Bisphenol A」を検索単語とし、2012年から1997年までの約5500の文献から、1日の体重当たりの投与量単位がマイクログラム及びそれ以下の領域で実施された実験を抽出し、内容を吟味の上選択した約120個の文献について、動物種、投与時期、投与経路、投与量、影響などの情報を整理し、表にまとめたものである。10数年間にまたがるこれらの文献を見ると、ビスフェノールAを試験動物に給餌し、健康被害の発生を確認しようとしたさまざな研究が網羅されている。発癌性や生殖機能、体重の増加、免疫機能、性腺刺激ホルモン分泌細胞、胚細胞、精巣、乳腺、脳の認識機能、挙動、等を含む実に多岐にわたるテーマが報告されている。

◆ ビスフェノールAが引き起こす健康影響に関しては、他の文献(Bisphenol A: An endocrine disruptor: By J Talpade, K Shrman, RK Sharma, V Gutham, RP Singh and NS Meena, Journal of Entomology and Zoology Studies 2018; 6(3): 394-397)からも補っておこう。ErlerとNovakはビスフェノールAは脳に大きな影響を与えることを認めた(たとえば、多動性障害、学習障害、過度な攻撃性、薬物依存に走り易くなる、等)(2010)。Zhou他はビスフェノールAによって引き起こされる健康被害を研究し、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)がもっとも多く観察される内分泌障害であるとして指摘し、再生産年齢にある牛、山羊、犬および女性の4~8パーセントに影響を与えていると報告した(2008)。Gao他はビスフェノールAへの暴露はホルモン性の癌を引き起こすと報告した(2015)。たとえば、乳癌や前立せん癌、卵巣癌、子宮内膜癌が挙げられる。ErlerおよびNovakの研究はホルモンの生産をかく乱し、受胎能力に影響を与え、男性および女性の両方に若い年齢で性的に成熟させることを指摘した(2010)。

もちろん、他にもさまざまな報告がされているが、それらすべてをここに列記することは不可能に近く、そうすることはこのブログの目的ではない。

◆ ヨーロッパではEUがビスフェノールAを内分泌かく乱物質として認定した(EU recognises bisphenol A as an endocrine disruptor: By Manon Flausch, EURACTIV.fr, Jun/22/2017)。

◆ ビスフェノールAに対する暴露を低減するには、まず、食品をマイクロウェーブで温める際にはプラスチック製容器を使用しないことがもっとも大切だ。また、プラスチック製ボトルに入った飲料は冷たいままで飲むことが必要だ。プラスチック製の容器や食器を洗う際には低濃度の洗剤を用いる。再使用が可能なマイバッグを使って、プラスチック製のショッピングバッグの使用は出来るだけ避ける。プラスチック製の容器は古くなるにつれてその化学物質が周囲や食品中へ溶出するので、プラスチック製容器は出来る限りガラス製の容器に置き換える。缶入りのペットフードは使わず、新鮮な食品をペット動物にも与える。

♞  ♞  ♞

われわれは今プラスチック王国に住んでいる。日常的なプラスチックの使用を避けることは現実にはもはや不可能である。工業的に生産される製品はほとんどすべてがプラスチックで包装される。不幸なことには、プラスチックのある種の構成材料、たとえば、ビスフェノールAは周囲や食品中に溶出する。ビスフェノールAは世界中で生産され、プラスチックの生産量では最大級であり、食品や飲料から日常的に人の体内に取り込まれている。そして、ビスフェノールAは内分泌かく乱作用を引き起こす物質であることは周知の事実である。

上記でも論じているように数多くの研究が行われているとは言え、人に内分泌かく乱作用を引き起こすビスフェノールAの濃度についてはまだ科学的なコンセンサスは得られてはいないようだ。この現状は何故だろうかと考えると、それはプラスチックを生産する業界からの圧力が大きいからに他ならないと考えるのは私だけであろうか?この図式はグリフォサート除草剤がもたらす発癌性を知りながらも、モンサント社が使用者の健康被害を防止する積極策を講じるという企業側の責任を取らなかった事例を彷彿とさせる。



参照:

注1:
There May Be Way More Plastic in Your Diet Than You Thought - KQED: By Kevin Stark, Jun/11/2019







 


 

2019年7月8日月曜日

米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった

あるニューズレターの最近号に大手メディアでは報じられないような秘話が含まれていた。

「板門店で電撃の米朝首脳会談」と題されたその記事
(http://tanakanews.com/190629korea.htm、2019年6月29日)は国際政治は今大きく舵を切っているんだなあ・・・と実感させるのに十分な内容であった。そこに含まれていたふたつの秘話をここに簡単にご紹介しておこう:

(1)日中関係: 日米安保の代わりとして、中国は昨秋、安倍の訪中時に、日本と安保協定を結びたいと提案していたと、先日、暴露された。こんな暴露が今の時期に行われた点も興味深い。

(2)日韓関係: ハブ&スポーク的な日韓別々の対米従属を維持するための、子供じみた日韓の相互敵視も、米国の覇権低下とともに下火になり、日韓も安保協定を結ぶ。日本の対米従属の終わりが、すぐそこまできている。

日本の対米従属の終わりが本当にすぐそこまで来ているのかどうかは私には分からない。そのようなことは日頃のマスコミ情報からはこれっぽっちも感じられない。また、日米安保条約の代わりに日中安保条約が締結される日が来るのかどうかも私には分からない。しかしながら、国際政治の趨勢を読み取ろうとする専門家は多くの関連情報を収集し、それらの情報の全てを俯瞰し、それらが何を意味するのかを読み取ろうとする。こうして出来上がったジグソーパズルから見えて来る将来像には、おそらく、かなりの信憑性が秘められているのではないか。少なくとも可能性のひとつとして、あるいは、方向性のひとつとして自分の思考過程に放り込むことは意義深いと思う次第だ。

日本での毎日の生活の場を考えてみよう。これらの情報が存在していることも知らずに毎日NHKの報道を視聴している場合とたとえその情報量が小さなものであったとしても外部に存在するさまざまな情報を理解した上でNHKのニュースを視聴する場合とを比較すると、そこには大きな違いがあると言わざるを得ない。多くの場合、その違いはべらぼうに大きい。

米国による覇権を維持する道具のひとつとして国際通貨として何十年間も使用されてきた米ドルに目を向けると、近年、脱ドル化が急速に進行したことが分かる。たとえば、中国は「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立し、アジア地域における米ドルによるインフラ投資を避けるためのシステムを構築した。2016年1月、同銀行の開業式典が行われた。57ヵ国が創設メンバーとして加わり、2019年4月の時点では97カ国・地域が加盟しているという。また、世界最大の原油輸入国である中国は、2018年3月、上海の先物市場でユアン建ての原油取引を開始した。原油の価格形成は従来米欧の独占であったが、ここに世界最大の原油輸入国である中国がこのプロセスに参入し、その影響力を構築し始めたのである。何時の日にかオイルダラーがオイルユアンに取って代られるのかも知れない。

米国の覇権が低下すればするほど、日米安保条約の存在の意味は薄れ、米ドルの強さは低下する。日本国内での日常生活ではそのことを実感する機会は決して多くはないけれども、少なくとも、国際政治の論議においては脱ドル化が何らかの形で論じられることがない日なんて一日もない程だ。今や、これが昨今の現実なのである。

ここに、「米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

この表題から感じられるのは「米ドルと喧嘩別れはしたくはない。あくまでも友達として別れようではないか」という紳士的な姿勢だ。思うに、経済制裁や気に入らない政府の転覆、空母の派遣、軍事演習の実施、国際法の無視、条約からの離脱といった諸々の米国の行動を見て、この紳士的な姿勢は米国に対する忠告の言葉である。これは現実の政治とは違った、単なる理想の追求でしかないのではないかと誰かが言うかも知れないが、米国の同盟国の一員である日本に住むわれわれとしては、凋落が始まっている米国との同盟関係を解消する時が来た際にどのようにお別れをするべきかを考えると、これは実に現実的な局面を想定しているとも言える。

<引用開始>

過去の2年間にわたって、ホワイトハウスは貿易論争を引き起こし、同盟国を敵国同様に侮辱し、多国間の条約や合意から脱退したり、批准を拒んだりしてきた。米政府は一方的な規則の適用を広め、米国の要求を他国が受け入れるよう強いた。そうしなければ経済制裁を課すぞ、と脅しをかけた。トランプ政権は米国にとってもっと有利な環境を新たに作ろうと意図したが、結果はその意図とはまったく違って、「ワシントン政府は不安定で、パートナーとしては頼りにならない、信頼することもできない」という共通の認識が国際的に広まって行った。そして、この感情は各国政府間に如何にして米銀を回避するかという議論をもたらした。米銀は、爆弾を投下することを除けば、ワシントン政府にとっては他国を自分たちの命令に従わせるもっとも攻撃的な武器であるのだ。

結果的には、「米国を再び偉大な国に」するというキャンペーンはとてつもなく大きく、否定的な反応をもたらした。裏を返せば、米国の「偉大さ」は他国を偉大な存在ではなくなるように仕向けることによって実現されるのである。米国に好意を抱いている唯一の国家はイスラエルであるが、トランプ政権が与える寛大さを考慮すると、同国にはそう考える理由が間違いなく存在する。イスラエルを除くと、どの国も米国の影響下から離脱することに熱心である。

窮鼠猫を噛むという状況がついにやって来たのだ。ドイツの無関心なアンゲラ・メルケルでさえも、今や、米国がとんでもない要求をして来た時には国益を最優先すべきだということを理解している。東京(訳注:これは間違いで、開催地は大阪)で開催された最近のG20サミットでは英国、フランス、ドイツは今まで取り組んできた「貿易取引支援機関」(INSTEX)が完成し、稼働を始めたと発表した。 これはヨーロッパの企業が、貿易をSWIFTシステムの枠外で進めることによって、米国からの経済制裁を受けずに、イランのような国家ともビジネス関係を築くことを可能とするものである。SWIFTシステムでは米ドルが圧倒的に多く使用され、同システムは米財務省の実質的なコントロール下に置かれている。

このヨーロッパの動きが何を意味するのかという点は決して軽視するべきではない。世界貿易の決済用としての通貨や準備通貨としてのドルの優位性から離脱するという観点からは、これは実に大きな第一歩であるからだ。多くの場合がそうであるように、米国の国益が被るであろう損害は自ら招いたものだ。米ドルを介さない貿易メカニズムの設定は何年も前から論じられてきたが、トランプ政権が1年前に突然イランとの「包括的共同行動計画」(JCPOA)から離脱すると宣言するまでは何の進展もなかった。

JCPOAには他にも締約国があるが、何れの国もホワイトハウスの動きには激怒した。何故かと言うと、このイランとの合意はイランの核兵器開発を防止し、中東地域での緊張を和らげる上では立派なものであると誰もが信じていたからだ。ヨーロッパの大国であるドイツ、フランス、英国はロシアや中国と並ぶ締約国であり、この合意は国連安保理によっても承認されていた。したがって、「行動計画」を潰そうとする米国の離脱は他のすべての締約国には非常に否定的に受け止められ、ワシントン政府がイランに対して再度経済制裁を課すこと、ならびに、イランとの交易に関する制約に準拠しない第三国に対しても二次的な経済制裁を課すことを宣言した時、これらの締約国の怒りはさらに高まった。

INSTEXは実際に送金をすることもなくイランとの貿易を決済するためにヨーロッパの国々が1年前に設立した「特別目的事業体」(SPV)をさらに改良したシステムである。言わば、これは差し引き勘定に基づいて決済する物々交換取引のようなものだ。このINSTEXに関する発表は先週ウィーンで米国を除くJCPOA締約国がイラン政府の広報担当官であるアッバス・ムサビと会合を持った結果であった。ムサビはこの会合を「残された締約国にとっては、一堂に会し、どうしたらイランとの合意を果たすことができるのかを探る最後の機会である」と評した。

この新たな取り組みには批判があり、INSTEXは十分ではないとイラン政府が公言し、イランはウランの増産計画を実行すると述べているが、イランはこの展開を静かに歓迎している。マイク・ポンぺオ国務長官は直ぐに反応し、先週ニューデリーで「もしも紛争が起こり、戦争が起こり、あるいは、物理的な行動が起こったならば、それはイラン側がそのような選択肢を選んだからに他ならない」と言った。そうとは言え、INSTEXはイランがワシントン政府からの妨害も無しに自国の原油を売ることができるひとつのモデルとなるだろう。しかしながら、ホワイトハウスからの鋭い反応に見舞われることは間違いない。INSTEXが開発の段階にあった頃、米国からの会議参加者は実際の貿易を決済する「イランの特別貿易金融商品」にはすでに米国の経済制裁の対象となっている省庁も含まれていると指摘した。そういったことがあり得るということはワシントン政府はヨーロッパ各国に対する二次的な経済制裁に頼ることを意味し、これは間違いなく二国間関係を今よりもさらに厳しい危険に曝す動きとなるであろう。世界貿易戦争が起こる可能性は明らかであって、上記に論じて来たように、国際的な準備通貨として用いられてきた米ドルからの離脱は今までの出来事がもたらす当然の結果であって、起こり得ることだ。

トランプは「イスラム共和国との貿易を米国の経済制裁から防護するためにドイツ、英国、フランスが作り上げた金融手段に対してすでに脅しをかけている。」 テロ・金融諜報担当の財務次官であるイスラエル生まれのサイガル・マンデルカ―は5月7日付けの手紙の中で次のような警告を発した。「あなた方にはINSTEXが経済制裁に曝されるかも知れないことを注意深く考えて貰いたい。米国の経済制裁に抵触するような行動は深刻な結果をもたらし得る。たとえば、米国の金融システムへのアクセスを喪失することになるであろう。」 

実際に、ホワイトハウスはイランに対する制裁をゴリ押しして、ヨーロッパとの経済戦争さえも辞さないかのようである。財務省はマンデルカ―の手紙に関して声明を発表し、「イランとの貿易の決済では、それが如何なる手段であろうとも、当事者は制裁を受けるリスクに曝される。米財務省はその権限を積極的に行使する積りだ」と述べている。また、5月8日のロンドン訪問中にマイク・ポンぺオはこう言った。「・・・どんな決済手段があるかは問題ではない。その決済が制裁の対象に該当するならば、われわれはその案件を評価し、審査し、そうすることが適切であると認められる場合はその決済に関与した当事者に対して制裁を課す。これは実に明快だ。」 

ヨーロッパの連中が成功することを祈りたいと思うが、これは決して不適切ではない。何故ならば、彼らは自由貿易を支持し、ホワイトハウスが金融システムを使って推進する他国への脅かしには反対の立場を表明しているからだ。米ドルが貿易の決済通貨、あるいは、準備通貨としての役割を辞するとしても、だからどうだって言うんだ?それが意味することは財務省が余分なドル札を印刷する必要はなくなるだろうということであり、米国がクレジットカードにおける世界規模の覇権を維持する能力には大きな妨げとなるであろうということだ。これらは、むしろ、好ましい結果である。そればかりではなく、米国は間もなく米国人が自分の故郷であると誇ることができるようなごく普通の国家になって欲しいと誰もが希望することだろう。

著者のプロフィール: フィリップ・ジラルディは博士号を持ち、「Council for the National Interest」の専務理事を務める。以前はCIAの作戦要員や陸軍の諜報将校を務め、ヨーロッパや中東で20年もの海外勤務をし、対テロ作戦に従事した。シカゴ大学で文学士を取得し、ロンドン大学で現代史に関して修士号および博士号を取得。

この記事の初出は「Strategic Culture Foundation

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

この論評を読んだ結果、私は冒頭に列記したふたつの秘話が決して荒唐無稽なものではなく、現実をよく反映していると思えるようになった。もちろん、脱ドル化が何時頃起こるのかということは恐らく誰にも分からないだろうし、定義をすることさえもそう簡単ではないだろう。しかしながら、その方向性は今までの米国の対外政策がもたらした結果であるとする著者の見方は実に明快だと私には思える。現実を踏まえた見解である。

日本を取り巻く政治的環境は決して不動のものではない。当然ながら世界の潮流によって右に左に傾く。米ソ間の東西冷戦はとっくの昔に終わり、1年前から急展開している米中貿易戦争も永遠に続く訳ではない。つまり、現在の日米安保条約を必要とした米国を取り巻く環境は大きく変貌し、さらに変わろうとしている。今や、ポスト日米安保体制を議論する時がやって来たと言える。

私も、米国人が米国を自分の故郷として誇れるようなごく普通の国家に早くなって欲しいと希望したい。


参照:

注1: Goodbye Dollar, It Was Nice Knowing You!: By Philip Giraldi, Information Clearing House, Jul/05/2019










2019年7月1日月曜日

いったい誰が得をするのか - イランにはオマーン湾でオイルタンカーに向けて魚雷攻撃を仕掛けたり、戦争を引き起こしたりする理由がない

6月13日、オマーン湾で2艘のオイルタンカーが何者かによって攻撃され、その内の1艘に火の手が上がった。攻撃された両タンカーの船員は全員がイランの救助艇や韓国の貨物船によって救助され。イランの港へ運ばれた。これらのタンカーはペルシャ湾から出て、オマーン湾上にあり、インド洋に向かうところであった。この事件の1ヶ月前には、他に、このオマーン湾で4艘のオイルタンカーが攻撃を受けていた。

米国のマイク・ポンペオ国務長官はこの攻撃はイランの仕業だと言った。この判断は諜報データに基づいたものだと付け加えたが、証拠は示さなかった。

オイルタンカーが攻撃されたとの報道を受けて、原油の取引価格は4パーセント強急騰したという。しかしながら、マスコミ各社によって騒がれた割には原油の急騰はさらに悪化する気配はなかった。率直に言って、このオイルタンカーの攻撃ではイランの仕業であるとする米国の主張は説得力に欠けており、多くの人たちは「自作自演ではないか」、あるいは、「イランではなく、他の国が関与しているのではないか」という疑念を抱いたものと推測される。

ここに、「いったい誰が得をするのか - イランにはオマーン湾でオイルタンカーに向けて魚雷攻撃を仕掛けたり、戦争を引き起こしたりする理由がない」と題された記事がある(注1)。タンカー攻撃を行った犯人は名乗り出てはいない。誰が犯人であるのかは目下推測の域を出ない。このような状況下では「誰が得をするのか」を分析してみることが常道だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>




Photo-1: 資料写真: 2018年12月21日、ホルムズ海峡を通過するオイルタンカー。© Reuters / Hamad I Mohammed/ File Photo

ワシントン政府からの非難があったにもかかわらず、分析の専門家らはRTに対して「イランにはオマーン湾においてオイルタンカーを攻撃する動機はない」と言う。この不振な事件はテヘラン政府を支援するどころか、逆にテヘランに害を与えたと述べた。

「フロント・アルタイル」と「コクカ・カレイジャス」の2艘のタンカーが木曜日(6月13日)に攻撃を受けた後、イランはこれらのタンカーの乗組員44人を救出した。マイク・ポンペオ米国務長官は、イスラム共和国がワシントン政府の経済制裁に欲求不満を覚え、攻撃をしたのだと主張し、この事故の責任を速やかにイランになすりつけた。

しかしながら、RTと話をした分析専門家らはポンペオの理由付けには疑問を呈している。

「いったいどういう理由でイランは攻撃をするというのか?」

テヘラン政府にとってはオイルタンカーを攻撃して得をすることは何もない、と国防関連の分析を専門とする退役中将のアムラジ・ショアイブが述べている。

「イランはいったいどうしてそんなことをすると言うのか?彼らには戦争を始める理由なんてないし、現状を悪化させる理由もない」と彼は強調する。

この攻撃への関与についてテヘラン政府は断固として否定した。イランのジャヴァド・ザリフ外相はこの事件は非常に不審であると言い、ワシントン政府が証拠も示さずに主張している非難はイラン政府の外交努力を台無しにしようとする魂胆からだと付け足した。

rt.comからの関連記事: ‘Iran written all over it’: Trump accuses Tehran of carrying out tanker attacks 



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また、専門家らはこの攻撃は不可思議なタイミングであるとも指摘している。折りしも、日本の安倍晋三首相がイランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師と会談をしている最中であったからだ。日本の首相がイランを訪問したのは40年振りのことであり、偶然にも、攻撃された2艘のオイルタンカーのひとつは日本企業の所有である。

日本企業の国華産業(株)は金曜日(6月14日)に同社のタンカーは二発の「飛行物体」による攻撃を受けたが、積荷のメタノールには何の影響もなかったと発表した。

弁護士で中東の専門家であるクーロシ・シャムルーはRTに対して次のように述べている。そのような歴史的な会談を文字通り妨害するなんてあり得ないことだ。特に、そのような行為は反イランを標榜するワシントンのタカ派の手中に陥るようなものであるからだ。

「私は弁護士だ。この犯罪ではいったい誰が得をするのかを理解しなければならない。われわれはペルシャ湾におけるイランと米国の地政学的な状況を見定めることができる。イランは米国によるイラン攻撃をもたらしかねない船舶攻撃には決して踏み切らないだろう。そのようなことをすれば、米国にイランを攻撃する口実をわざと与えてしまうことになる。つまり、タンカー攻撃を行ったのはイランではない。」

事実、この事件はすでにイランに対して経済的影響を及ぼし始めたとテヘラン大学で政治学教授を務め、カールトン大学の客員教授でもあるハメド・ムサヴィはRTのインタビューで指摘した。

「イラン通貨は今日5パーセントも下落した。これは事態が悪化しているとの言説や戦争が起こる可能性があるからだ。目下イラン政府がもっとも望んでいることは米政府との状況を改善することにあると私は推測する」とムサヴィ教授は言う。 

「主流の陰謀論」: 

大手メディアはポンペオのイランに対する非難については彼の論理について質問するでもなく、証拠を求めるでもなく、ただ彼の非難を忠実に右から左へ流しているだけであって、この事実は驚くには値しないと政治分析の専門家であるシャッビール・ラズヴィが意見を述べた。

「湾岸地域、特に、ペルシャ湾やホルムズ海峡においては、過去数ヶ月間、何かが起こるや否や米国は速やかにイランの責任を追及しようとして来た」と彼は言った。この現象はワシントン政府や無批判なメディアによって推進されている「主流の陰謀論」であると説明を加えた。

rt.comからの関連記事: Sabotage diplomacy: Zarif says no need to be ‘clairvoyant’ to see US ‘plan B’ for Iran 


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ラズヴィは、ワシントン政府やその同盟国が証拠もなしにこの攻撃の犯人が誰であるのかを公言することは非常に無責任だと強調した。しかしながら、軍事行動を起こすために筋書きを作り上げようとする国が少なくともひとつはあるとシャムルーは指摘する。

「突然、何らかの出来事が発生する。米国は犯人はベトナムだ、イラクだ、あるいは、イランだと言い始める。そうすることによって、彼らは自国の軍が攻撃を開始する正当な理由をでっち上げる。」 

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

たとえ米国がイランの犯行説を声高に喋ったとしても、説得力がついて来ない。6月17日のニューズウィークの日本語版は「タンカー攻撃、イラン犯行説にドイツも異議あり」と題して米国の同盟国の間でも足並みが揃ってはいない現状を伝えている。ドイツのハイコ・マース外相は14日、米政府の証拠に疑問を呈した。米国の主張を支持しているのは英国だけである。

「Japanese tanker owner contradicts U.S. officials over explosives used in Gulf of Oman attack」と題された6月14日付けの記事によると、「コクカ・カレイジャス」の所有者である国華産業(株)の社長は、同社のタンカーの乗組員が爆発の寸前に飛行物体を見ていることや損傷を受けた場所が喫水線よりも上側にあって、爆発を起こしたのは魚雷とか水面下に設置される吸着機雷とかのせいではないと報告している。明らかに、米国の説明とは食い違う。

上記の見解や様々な指摘を読むと、このオマーン湾上での2艘のオイルタンカーの攻撃は、米国がどのような発言をしようとも、イランの仕業ではないことがほぼ確実だ。

時間が経過するにつれて、トランプ大統領は国内でも、国際世論においても孤立する可能性が高い。米国の2018年の世論を見ると、大多数が海外で行われている終わりのない米国の戦争を嫌っており、70.8パーセントが海外での武力侵攻を抑制する立法を求めている(原典:A New Poll Shows the Public Is Overwhelmingly Opposed to Endless US Military Interventions: By
James Carden, Jan/09/2018)。

そのような世論の中、トランプ大統領が来年の米大統領選で再選を目指しても、今回の発言は大失敗だったと後悔することになるかも知れない。あるいは、再選を目指して、得意の大英断によってまったく異なる声明を発表して窮地からの脱出にまんまと成功するのかも知れない。

「犯人はイランだ」と述べたトランプ大統領は今後どのように軌道修正をするのであろうか。見ものである。

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そして、もうひとつの出来事が中東を震撼させた。

米軍はイラン国内の攻撃目標に向けて空爆を開始するところであったが、その10分前にトランプ大統領によって中断されたとの報道が1週間弱前に現れた。この攻撃は米軍のスパイドローンがイラン軍によって撃墜されたこと(6月20日)を受けた報復攻撃であると説明された。米国はこのドローンは公海上にあったと言う。だが、イランの高官は反論している。

6月22日、イランのザリフ外相はイランが撃墜したドローンの詳しい飛行経路を示した。撃墜時刻は午前4時5分、撃墜場所は北緯25度59分43秒、 東経57度02分25秒であると発表した。



Photo-4: 青線が撃墜されたドローンの飛行経路。オマーン湾に入ってからどこかでUターンをし、北西から北北西に向けて飛行していたが、最後にイランの領海を示す赤線の内側へ入り込んだ。撃墜場所が赤の四角で示されている。

イラン外相が反論したばかりではなく、6月25日のAFPの報道によると、ロシアの安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記が「テヘラン政府によって撃墜された米国のドローンはイランの領空を侵犯していた」と述べている(原典: Moscow says downed US drone was in Iranian airspace: By afp.com, Jun/25/2019)。このロシアの公式発言は米国にとっては非常に重い。

米国のドローンがイランの領空を侵犯したというイランならびにロシアの主張に対して、その後、米国側からのさらなる反論は無い。通常、直ぐにでも反論して来るのが米国流の外交であり、他国をコントロール下に置く覇権のテクニックだ。米国が沈黙を守っている場合は、米国側には反論のしようがないのか、それとも、次の機会を待っているのかのどちらかであろう。

ペルシャ湾からオマーン湾にかけてのオイルタンカーの航行は非常に頻繁である。その混雑ぶりを示すものとして、やや古いデータではあるが、2012年6月2日のある時点での船舶の航行の状況を見ると、こんな具合だ。



Photo-5: 混雑するホルムズ海峡

現在、原油を積み込んだタンカーは毎日10艘から40艘もホルムズ海峡を通過する。今回の事件、ならびに、5月12日に3艘のタンカーと1艘の燃料補給船に対して行われた攻撃を反映して、用船料は10~20パーセント上昇し、保険料も10~15パーセント上昇したという。こうしてペルシャ湾から運び出される原油はほとんどが東アジア向けである。中国、日本、韓国、シンガポール、インドネシアへと輸送される。この地域で活動する海運関連企業は世界で2000社ほどもあって、今回の事件で用船の予約を即座に止めたのは2社だけであったとのことだ。危険が増してはいるが、海運業は毎日継続されている。

もしもイランが戦争に巻き込まれたならば、中東からの原油輸出は完全に中断されるだろう。日本は万事休すだ。ある報道は下記のように伝えている:

消息筋は次のような内容を確認した。戦争が起こった場合、イランは中東からの原油の輸出を完全にストップさせる。これはオイルタンカーを攻撃することによってではなく、中東各国の原油生産施設を攻撃することによってだ。相手国が同盟国あるいは敵国であるかどうかには関係なくこれを実施する。その目的は中東から世界中に輸出される原油のすべてを中断させるためだ(原典: Iran and Trump on the edge of the abyss: By Elijah J. Magnier, Information Clearing House, Jun/24/2019)。 

トランプは外観だけでもイランとの戦争に勝ちたいと思っている。しかしながら、イラン政権はトランプに対しては何の親切心も示さない。これはトランプがイランに対して親切心を示さないのとまったく同じだ。トランプはイラン原油の輸出を一方的に差し止め、イラン経済を窮地に陥れようとする経済制裁は戦争行為であるという事実を忘れてしまったかのようだ。トランプはすでに宣戦布告をしたに等しい。

ここで、トランプが次回の大統領選のために表面的にでもイランとの戦争に勝とうとしていることを示す格好のエピソードをご紹介しておこう。

消息通によると、イランは米国の諜報部門が示した提案を拒否した。米国側は、第三者を通じて、イラン側にとんでもない提案をしてきた。米軍の空爆目標としてイラン側が1ヵ所、2ヵ所、あるいは3ヵ所を選び、それを米国側に伝え、トランプはそれらの目標を空爆するというものだ。そうすることによって、両国はそれぞれが勝者としてこの戦争を終わらせ、トランプは面子を保つことができる。イランはこの提案を断固として拒否した。「たとえイランの人っ子ひとりもいない砂浜に対する攻撃であっても、湾岸地域の米軍施設に対してミサイルによる報復攻撃を行う」と回答した。(原典:Iran and Trump on the edge of the abyss: By Elijah J. Magnier, Information Clearing House, Jun/24/2019) 

舞台裏ではあきれる程に漫画的なやり取りがあったのだ。

ところで、世界の海運業界は安全を確保するために海軍の出動を議論しているが、米国は今やペルシャ湾沿岸からの原油の輸入がないことから、米海軍がしゃしゃり出る幕ではなく、東アジア諸国が対応するべきだとの姿勢をとっている。

しかしながら、ここでは軍事的対応策を考えるのではなく、本質的な解決策、つまり、政治的な決断を優先することが大事だと私は思う。特に、日本にとってはこれは死活的な大問題である。

そもそも、この問題は米国がイラン合意から離脱すると一方的に宣言したことから始まったことだ。米国がイランを敵視する政策を引っ込めさえすれば、すべてが解決する問題である。米国は国際法や条約を無視する対外政策、ならびに、傲慢な例外主義やグローバリズム、新資本主義、経済制裁といった政策を改めるべきである。世界は好戦派のネオコンとはおさらばしなければならない。

中国、日本、韓国、シンガポール、インドネシア、ならびに、EUは結束して、米国にそう提言するべきだ。


参照:

注1: Cui bono? Iran has ‘no reason’ to torpedo oil tankers in Gulf of Oman and ‘go to war’: By RT, Jun/14/2019,
https://on.rt.com/9wdt