2018年4月26日木曜日

かっては真実が重要であった

最近の米国の世相を見て、米国の現状を憂える人たちがたくさんいる。貧富の差の拡大、人種差別、失業者数の拡大、医療保険制度の不平等、奨学金の返済に苦しむ大卒、警察国家、等、国内問題が山積みになっているにも関わらず、政治家や軍産複合体が推進し、国家予算を浪費する対外政策については不満を抱く人たちが多い。

さまざまな見解がある中で、率直に意見を述べることでは定評のあるポール・クレイグ・ロバーツ氏の記事が非常に興味深い [注1]。

「警察国家」とか「情報統制」といった言葉で代表される社会が米国に到来したことを鋭く指摘する内容となっている。

この記事が公表されたのは4月16日だ。つまり、米英仏が14日にシリアに対してミサイル攻撃を行った日から2日後のことである。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

米国人だけではなく、他の国の人々の間ではいったいどれ程多くの人たちが米国は今や20世紀の反ユートピア社会を描いた小説の世界に変わった、あるいは、「マトリックス」や「Vフォー・ベンデッタ」といった映画よりも自由が遥かに制限され、現状には非常に疎い社会に変わってしまったと結論するのであろうか?(決して多くはないだろう。)反ユートピア社会の人たちは自分たちの本当の状態については何も知らない。それと同様に、米国人で自分たちの現状を理解している人はほとんどいない。

21世紀になってから米国は7ヵ国で何百万人もの住民を殺害し、不具者にし、孤児にし、故郷から追い出し、国家を破壊、あるいは、ほとんどそれに近い状態にしてしまった。米国が犯したこれらの戦争犯罪のことについてわれわれはいったいどのように判断しているのであろうか?例えば、ワシントン政府が最近犯した戦争犯罪、つまり、シリアに対する非合法的なミサイル攻撃のことを考えてみて欲しい。この非合法性に関して抗議するのではなく、米国のメディアは差し迫った死や破壊を応援し、この非合法的な行為を扇動したのである。

ワシントンの唯一の同盟国であるイスラエルは(ワシントンの帝国に従属するヨーロッパやカナダ、オーストラリア、および、日本とは対照的に)21世紀になってからと言うもの継続的にパレスチナ人大量虐殺政策に関してワシントン政府の支持を得、政策を防護して貰い、支援を受け続けて来た。本質的には、パレスチナ人に残されたものは「ガザ地区」として知られている強制収容所がすべてであって、この地域はイスラエルによって日常的に爆撃を受ける。この爆撃はワシントン政府から提供された武器と資金によって行われている。ガザ地区の爆撃が報じられると、「選良の民」たちは庭園用の椅子を持ち出して、ガザ地区を見下ろせる丘の上でピクニックを行い、イスラエル軍が女性や子供たちを殺害するのを見て拍手を送る。これが米国が持つ唯一の同盟国の姿である。 

米国とイスラエルが犯している犯罪は重い。しかしながら、反論を受けることはない。ところが、それとは対照的に、70人のシリア人が殺害されたとして報じれられた化学兵器攻撃はシリアに対するミサイル攻撃の口実として用いられた。これはまったく言語道断である。イスラエルは日常的にシリアの目標を攻撃し、シリア人を殺害し、米国はアサドを政権の座から追い出すためにオバマ政権が送り込んだ「反政府派」を武装し、資金を提供する。その結果、数多くのシリア人が殺害されている。これらの70人のシリア人の死がワシントン政府にとっていったいどうしてこうも突然に重要になったのであろうか? 

ワシントン政府の高官やプレスティチュートが流す彼らの声明に関する報道によると、2-3ヵ所の化学兵器の施設がワシントン政府のミサイル攻撃によって破壊された。この件についてちょっと考えてみよう。もしもワシントン政府が化学兵器施設に対してミサイル攻撃を仕掛けたとすれば、莫大な量の致死的なガスが放出されたことであろう。一般市民の殺害が何の証拠もなしにアサドが犯したものとして断定され、シリアへのミサイル攻撃の口実とされたが、これらの施設に実際に化学兵器が貯蔵されていたとすれば、被害者数は70人の死者数よりも何倍も多くなったことであろう。しかし、被害が出たという証拠は見られない。

もしも被害者が出たならば、ワシントン政府が自分たちの犯罪行為のための口実として使った化学兵器攻撃よりも遥かに深刻な戦争犯罪となっていたに違いない。しかしながら、米国のプレスティチュートは米国がシリアやロシアに教えてやった教訓に大喜びしている有様だ。明らかに、米国のメディアは倫理観には乏しく、金目当てで働く馬鹿な連中で構成されている。もしも実際にそのような施設が存在していたとすれば、シリアの化学兵器工場に対するミサイル攻撃は実質的にはシリアに対して化学兵器攻撃を行ったことと同等だということを彼らは理解できないでいるのだ。

昨日私が書いているように、かって私がウオールストリートジャーナルで編集者として働いていた頃は、例えば、ある国家が化学兵器を使ったことを罰するためにワシントン政府がその国の化学兵器工場を爆撃したと公表したならば、同ジャーナルの特派員は実に聡明であるから、ワシントン政府がその国に対して行った化学兵器攻撃によってどれだけの被害者が出ているのかと問い質していることであろう。「ワシントン政府の攻撃によって放出された毒ガスによって何千人もの死者が出ているのではないか?」と。「病院は被害者でごった返しているのではないか?」と。

もしも担当記者が何の記事も提出しないで、明らかに起こりそうにもないことを報じているワシントン政府の発表内容だけを伝えて来たとするならば、われわれはその記者に対して「現場へ戻って、明らかに重要な質問をして来い」と求めていることだろう。ところが、今日、ニューヨークタイムズやワシントンポストは第1面に何の裏付けもない報告を掲載しているのだ。

今日、記者たちはもはや情報源を確認しようとはしない。米国にはジャーナリズム精神はもう存在しないからだ。クリントン夫妻を超富豪にしてくれたディープステ―ツの意向にしたがって、クリントン政権は独立心が旺盛で、かつ、幅広い意見を持った米国のメディアの90パーセントを6社の政治的な企業系列に統合することを認めた。この時、米国のジャーナリズム精神は姿を消した。現在われわれに残されているのは生きるためには嘘をつく宣伝省だけである。米国のジャーナリズムにおいては真実を語ろうとする者は誰でも速やかに解雇される。フォックス・ニュースのタッカー・カールセンの場合、フォックス社は外部のプレスティチュートたちから彼を解雇するよう圧力を受けている。「私はタッカー・カールセンによって性的暴力を受けた」と主張する女性が現れるまでに如何ほどの時間もかからないのではないかと私は心配している。

私が理解している限りでは、米国は今や警察国家である。すべての情報がコントロール下に置かれ、国民はプロパガンダを信じるように訓練されている。さもなければ、愛国心が足りないとか、テロリストやロシア人の仲間ではないかとして批判される始末だ。 

<引用終了>


これで、この記事の全文の仮訳が終了した。

著者は「私が理解している限りでは、米国は今や警察国家である。すべての情報がコントロール下に置かれ、国民はプロパガンダを信じるように訓練されている。さもなければ、愛国心が足りないとか、テロリストやロシア人の仲間ではないかとして批判される始末だ」と述べている部分は非常に正確な描写であると思う。

思うに、これは著者の個人的な体験を綴った言葉ではないのだろうか?時には大統領さえもが暗殺の対象となる国のことであるから、現状をあからさまに伝えようとするポール・クレイグ・ロバーツ氏にさまざまな形で圧力がかかって来ていても不思議ではない。

さらには、ジャーナリズム精神の欠如に関してこうも述べている。「もしも被害者が出たならば、ワシントン政府が自分たちの犯罪行為のための口実として使った化学兵器攻撃よりも遥かに深刻な戦争犯罪となっていたことであろう。しかしながら、米国のプレスティチュートは米国がシリアやロシアに教えてやった教訓に大喜びしている有様だ。明らかに、米国のメディアは倫理観に乏しく、金目当てで働く馬鹿な連中で構成されており、シリアの化学兵器工場に対する攻撃は、もしも実際にそのような施設があったとすれば、シリアに対して化学兵器攻撃を行ったことに匹敵するということを理解できないでいるのだ。」

最近の数年間、好むと好まざるとにかかわらず、私は「芳ちゃんのブログ」を通じて米国の対外政策や国内問題を扱った記事をいくつも仮訳して、読者の皆さんと共有して来た。さまざまな意見や解説、洞察に満ちた見解に出会うことができた。その結果、私なりに今日の米国社会を一言で描写するとすれば、それは「フェークニュースの蔓延」である。2016年秋の大統領選以降の最近の1年半はまさにこの一言に集約することが可能だ。そして、その功労者としてアカデミー賞を贈呈したい主演者はディープステ―ツの意向を忖度し、白を黒だと言って一般大衆の洗脳に従事してきたニューヨークタイムズやワシントンポスト、CNN、BBC、等で代表される企業メディアだ。

米国の現状は私たちが中学生から高校生の頃、つまり、ベトナム戦争前の古き良き時代に、米国映画やテレビ番組を見て、ナイーブにも勝手に理解をしていた頃の米国社会とは雲泥の差だ。歴史的に見ると、これは比較的短期間に起こった実に大きな変貌であると言えよう。




参照:

注1: Once Upon A Time Long Ago Truth Was Important: By Paul Craig Roberts, Apr/16/2018,
www.paulcraigroberts.org/.../upon-time-long-ago-truth-...









2018年4月21日土曜日

米国のディープステ―ツはシリア戦争に終止符を打ちたくはない


米国を始めとして各国政府によってテロ組織として見なされているアルカイダのいくつかの下部組織はシリアにおいて何年にもわたって反政府派武装集団として活動をしてきた。

シリアの反政府派武装集団は米国やNATOの軍事専門家による訓練を受け、大量の武器を供給され、潤沢な資金の提供を受け、アサド政権の転覆を目指して来た。

この過程においては、これを滑稽だと形容することが憚れるならば、非常に不可思議だと言える場面が何度か起こった。米国が称する「穏健な反政府派」に軍事訓練を施し、武装し、トヨタの4輪駆動軽トラックに乗せてシリア国内へ送り込むと、彼らは決まったようにアルカイダの下部組織による襲撃を受け、すべての武器・弾薬や車両を取り上げられてしまう。まさに、これは過激派へ武器を送り届けるひとつの便法となっていたかのようだ。

また、反政府派の諸々の活動の中には化学兵器攻撃による自作自演作戦がある。何度も繰り返されて来た。自作自演を周到に演出し、あたかもシリア政府軍が自国民に向けて化学兵器攻撃を行ったかのように見せかけ、「ホワイトヘルメット」が動画を作成し、それをインターネットへ掲載。さらには、西側の企業メディアが総動員されてプロパガンダを繰り返すことによって、国際世論を味方にしようとする。そうすることによって、アサド大統領を非難し、中傷することが狙いである。大手メディアによって喧伝されたこの自作自演作戦を最大の理由として、米国やNATOの同盟諸国はシリアに対する空爆に踏み切るのだ。

4月14日に行われた空爆では、2か所のシリア空軍基地の他に化学兵器を製造・貯蔵していると見なされた民間企業(一部は大学施設)がクルーズミサイル攻撃を受けた。当日、西側のテレビ局も含めて、メディアの一団がこの空爆を受けたダマスカス近郊の工場を見学する機会があった。同企業のエンジニアで、このメディアの一団を案内してくれた人物は下記のように言ったそうだ:

「もしもここに化学兵器が貯蔵されていたとするならば、本日未明にクルーズミサイル攻撃を受けた後、今朝からずっとここに居た私は今頃どうなっていただろうか?」と。

米政府は国内に向けて、あるいは、国際社会に向けて軍事力を誇示しようとする。そのメカニズムあるいは背景を正しく推理する上で有効であろうと思われるひとつのエピソードがある。

59機のトマホーク・クルーズミサイル(報告によっては数が異なるが、他にも空対地ミサイルが使用され、合計で103機のミサイルが発射された)を使った攻撃が実施されたと報じられた途端に、米国の株式市場ではこのトマホーク・ミサイルのメーカーの株式が急騰した。時価総額が50億ドルも跳ね上がった。しかしながら、大半のミサイルが迎撃されたという事実が報じられていたならば、急騰に代わって同規模の暴落に終わっていたであろう。(出典: MAJOR FAIL: Why Most of Those Tomahawks Never Hit Their Targets in Syria: By
Joe Quinn, Apr/17/2018) 

英国ではキャピタル・グループの株価が急騰した。今回のシリア空爆では米国のトマホーク・ミサイルと共にBAE製のミサイルも使用された。英国のテレサ・メイ首相の夫であるフィリップ・メイの会社、キャピタル・グループはBAEシステムズの筆頭株主である。(出典: 6.3m pounds worth of BAE missiles were fired in Syria. British PM Theresa May’s husband’s company, Capital Group is the largest shareholder in BAE: By UWB,
Apr/17/2018

戦争は昔から金儲けの手段なのだ!戦争では一企業の株価の高騰とは比べることが出来ないほどの莫大な額になる略奪が約束されている。

シリアにおける反政府派の自作自演作戦については、最近、懐疑的な意見を述べ、真っ向から反論する見解があちらこちらから出て来ている。概して、これらの反論の基本的な背景は下記の点に集約される:

反政府派武装組織とシリア政府軍との間の戦いはほぼ政府軍側の勝利になったという見方が圧倒的である。政府軍の勝利が濃厚となり、ダマスカス近郊の最後の拠点から反政府派を駆逐することに成功した政府軍側にとっては、今さら国際世論を一気に敵に廻すような化学兵器攻撃を実施しなければならない合理的な理由は見当たらない。また、かって備蓄していた化学兵器は国際的な合意の下にすべてが処分された。この処分作業はOPCW(化学兵器禁止機関)の検査官が詳しく確認を行い、この作業が完了したことはOPCWの公式報告書で報告されている。

この論理には非の打ちどころがない。どう見ても常識に適っていると思う。そういった客観的な見方があるにもかかわらず、シリア政府に対する西側の攻勢は衰える様子さえも見せない。つまり、西側の行動には大きな矛盾が含まれているようだ。何故だろうか?

この疑問に答えてくれる見解が最近の記事に見つかった。「米国のディープステ―ツはシリア戦争に終止符を打ちたくはない」と題された記事である [注1]。

トランプ大統領は以前から米軍をシリアから撤退させると言って来たが、なかなか実現しない。その理由は米国政府の外交政策を裏から操っている「ディープステ―ツ」にあるようだ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。



<引用開始>
















Photo-1

イスラム国(IS)はシリアで敗戦してしまったが、シリア戦争はまだ終わってはいない。この戦争は米国の戦争マシーンが直接あるいは間接的にシリアを叩き続ける限りは終わりそうもない。米国の戦争マシーンがこの戦争に関与しており、シリアから撤退する気配を見せないところを見ると、この戦争は単にテロリズムを排除することが目的ではなく、中東地域における地政学と大きく関係していることが分かる。シリア危機に関係する最近のほとんどの出来事は地政学、ならびに、米国をシリアに半永久的に関与させてロシアおよびイランを封じ込めることがもっとも基本的な要素であることに改めて気付かされる。この動きを通じて、西側の主要な企業メディアとの同盟関係を維持し、ホワイトハウス内にも同盟者を有する米国の戦争マシーンはアサド大統領を「悪魔」と見なし続け、ロシアはこの「悪魔」を支援し防護しているとしてロシアに対する非難を可能にしているのだ。

今日、明らかに、西側世界は一様にシリアのアサドが自国の国民に対して使ったと言われている化学兵器攻撃の「恐ろしさ」に震撼している。しばしば言われているように、この自作自演の攻撃に関する西側の狂気にはひとつの定型がある。もっとも重要な点は、米国の戦争経済を浮揚させ、特定地域が紛争にどっぷりと漬かったままにしておくために、米国の戦争マシーンは「戦争の恐ろしさ」を指揮し、振り付けを行っていることを今回の化学兵器攻撃が見事に映し出したことにある。

こうして、ドナルド・トランプ米大統領がシリアから米軍を撤退させると語り始めた時に化学兵器攻撃のニュースが彼の「善意」を直撃し、アサドに対して強硬な軍事的対応を約束するように仕向けたのである。しかしながら、トランプがシリアからの撤兵について真剣であったとしても、このような撤兵は実際には実現したことがないことを考慮すると、これはそう単純ではない。大統領と将軍たちとの間には勝利とは何を意味するのかという点で大きな違いが存在する。

トランプが撤兵しようとする中で、西側のメデイアが伝えているように、ペンタゴンは実際にはシリアへ軍隊を増派しようとして準備を進めていたが、トランプの声明によって虚を突かれてしまった。そして、今や、大統領から指導権を奪い、シリア危機を蘇らせようとして、化学兵器攻撃を仕掛けたのである。ペンタゴンは米国の「ディープステ―ツ」の筋書きを明らかに代表しており、そうすることにまんまと成功したのだ。 

シリアにおける戦争を終結させ、ロシアのウラジミール・プーチン大統領をホワイトハウスへ招待するというトランプの極めて前向きな提案に対して「ディープステ―ツ」はそれほど簡単に歩み寄れるものであろうか?そのような会談が行われると、シリアに関する米ロ間の和平の可能性を生き返らせ、さらには、ドナルド・トランプはロシア・イラン・トルコ主導の和平プロセスに向けて盛大な祝賀会を挙行することさえもあり得よう。しかし、そのような動きは戦争を継続することをまったく意味のないものとし、米軍の存在を強化するというペンタゴンの企てを非生産的なものにすることであろう。こうして、ペンタゴンの意図を生産的なものにし、戦争を長びかせるために、
ホワイトヘルメットの活用が「人道的サービス」によるプロパガンダ戦争の最近の出来事としてまたもや投入されたのである。

ロシアとの同盟を組み直すことによってシリアにおける米国の地位を修復することが出来るとトランプは感じていたようではあるが、彼を取り巻く将軍らはそのような戦略は米国の目標を失敗させることになると考えた。将軍らは「真の勝利」とは米軍がゲームの中に留まることにあると考えており、多くの将軍らがそのような考えを何度か示していた。したがって、彼らにとっては、トランプが考える米軍の撤退は米国に明確な勝利をもたらすことにはならないのだ。

事実、このことこそが米軍の戦争遂行ドクトリンが勝利をどのように定義しているのかを示していると言えよう。文書を見ると、米軍にとっての本当の勝利は決定的な勝利ではなく、「状況を継続すること」、つまり、戦いを長引かせ、終わりのない戦争を直接あるいは間接的に遂行することだ。

この文脈からシリアの現状を見ると、これは米国の戦争マシーンがシリアで再度実行したことに他ならない。奇しくも米大統領が交渉によるシリア危機の終結の可能性を仄めかしている時に、化学兵器攻撃のニュースが報じられ、戦争継続の理由が新たに注入された。その挙句に、
大統領による軍事行動の警告にまで発展し、地上には深刻な被害をもたらした。

しかし、米国の「ディープステ―ツ」はトランプがロシアとの会談に積極的であること自体を心配しているわけではない。米国の本当の心配の種はロシア・イラン・トルコの三カ国同盟がこの戦争のいくつかの点に関して三ヵ国の国益を同期させることによってシリアにおける地位を強化させようとすればお互いの意見の相違が表面化するであろうと西側は期待していたにもかかわらず、実際には成功を収めていることにあるのだ。

次の点を考えてみよう: 最近行われたアスターナ・サミットは本サミットへの参加国は何れの国家もシリアを分断することによって自国の利益を追求することには関心がなく、米国やその同盟国が同様の行為をすることは許容できないことを明確にした。米国のことを仄めかしつつ、本声明は「テロとの戦いを理由にして地上に新たな現実を作り出す行為はすべてに対して」反対し、本同盟国はそれらの行為を排除すると述べている。また、この反対声明は同三ヵ国同盟は米軍の駐留についても、シリアにおける駐留に期限があろうが無かろうが、等しく反対の立場を示している。

さて、撤兵を模索し、「ディープステ―ツ」のためには他国に残った仕事をやらせてもいいというトランプの潜在的な意向はシリアについてロシアとその同盟国に降参し、自分たちの敗戦を認めることに繋がる。これは米国の将軍たちや戦争好きの連中にとっては決して受け入れられないことだ。彼らは、上述のように、米国が関与している戦争を引き延ばすことに最大の関心を抱いているのである。

これは三ヵ国同盟は米軍の駐留に期限があろうが無かろうがその駐留には等しく反対することを意味している。

化学兵器攻撃に関する(フェーク)ニュースが起こした潜在的で、かつ、劇的な衝撃は米大統領は今やプーチンをホワイトハウスへ招待することから遠ざかって、ロシアと直接的に対峙することに一歩近付いた点に見られる。「ディープステ―ツ」にとってはこれ以上の満足感をもたらすことは無かったであろう。シリア戦争を終結させるという米ロ間の協力関係を完全に潰したとは言えないまでも、大きく遅延させることには成功したのである。

著者のプロフィール: サルマン・ラフィ・シェイクは国際関係やパキスタンの内政・外交を研究・分析する。オンラインの“
New Eastern Outlook”誌に専属し、寄稿している。
https://journal-neo.org/2018/04/16/the-us-deep-state-doesn-t-want-an-end-to-syria-war/

<引用終了>



これで引用記事の全文の仮訳を終了した。

この記事では米国政府の対外政策、特に、戦争を操り、振り付けを行う「ディープステ―ツ」の姿が鮮明に描写されている点が非常に興味深い。

著者は「・・・しばしば言われているように、この自作自演の攻撃に関する西側の狂気にはひとつの定型がある。もっとも重要な点は、米国の戦争経済を浮揚させ、特定地域が紛争にどっぷりと漬かったままにしておくために、米国の戦争マシーンは「戦争の恐ろしさ」を指揮し、振り付けを行っていることを今回の化学兵器攻撃が見事に映し出したことにある・・・」と指摘している。

米国の大統領は絶大な権限を持っていると一般的には信じられているけれども、実際には、政府内の大きな部分は必ずしも大統領のために仕事をするのではなく、「ディープステ―ツ」のために仕事をすると述べている。ペンタゴンがいい例だ!

著者はこう解説している。

「トランプが撤兵しようとする中で、西側のメデイアが伝えているように、ペンタゴンは実際にはシリアへ軍隊を増派しようとして準備を進めていたが、トランプの声明によって虚を突かれてしまった。そして、今や、大統領から指導権を奪い、シリア危機を蘇らせようとして、化学兵器攻撃を仕掛けたのである。ペンタゴンは米国の「ディープステ―ツ」の筋書きを明らかに代表しており、そうすることにまんまと成功したのだ。」

通常、このような解説は主流の企業メディアからの報道には現れにくい。われわれ一般大衆にはなかなか届かない。

一般庶民はフェークニュースで形作られた擬似的現実と本当の現実とがごっちゃまぜになった世界に置かれたままであって、すべては実に不透明だ。どこからが本当で、どこからが嘘であるのかを峻別することは非常に難しい。この記事を読んで、われわれ一般庶民はそのような社会に住んでいることを改めて実感させられる思いがする。

これは米国や欧州の社会についてだけではなく、日本でもまったく同じことであろう。



参照:

注1: The US Deep State Doesn’t Want an End to Syria War: By Salman Rafi Sheikh, NEO, Apr/14/2018

 










2018年4月16日月曜日

ロシア恐怖症の扇動は米国とヨーロッパの衰退を隠すための隠れ蓑

われわれが住んでいる世界はいつの間にか「新冷戦」に突入してしまった。

前の冷戦中起こった米ロ間の最大級の政治・軍事的な緊張はキューバ危機(1962年)であった。両国間の軍事的緊張は、当時、全面核戦争の一歩手前にまで迫っていたと伝えられている。

それでは、キューバ危機の半世紀後の現在(2018年)進行している「新冷戦」はどうなのであろうか?

私の個人的な印象では、このところ第三次世界大戦の勃発や核大国間での核戦争を懸念する声が非常に高まっている。そして、その頻度が急激に増えている。今や大戦前夜になったとでも言うべきなのかも知れない。不気味である。
ニューヨークタイムズやBBCといった西側の主流メディアは英国のソールズベリーで起こったスクリパル親子毒殺未遂事件で大騒ぎを引き起こし、英国政府はNATO加盟国諸国に対して「連帯」を呼びかけ、まともな証拠も示さずに、この事件はロシア政府が起こしたものだとして、ロシア大使館の職員多数を国外へ退去させた。

ミズーリ大学のマイケル・ハドソン経済学教授は、スクリパル毒殺未遂事件について独自のユニークな解釈を紹介している。(記事の表題:「The Economics Behind the Skripal Poisoning」: By The Hudson Report, Apr/06/2018 )。米国側の思惑は「ロシア恐怖症」を煽ることによってヨーロッパのNATO加盟国に軍産複合体からたくさんの武器を買い付けさせることにある。EU政府はEU各国の赤字予算を野放しにはしない。トランプ米大統領の主張にしたがってEU各国がGDP2パーセントを軍事費に支出しようとすると、社会保障への支出を抑え、軍事支出を増やさなければならない。
人々は考え始める。「待てよ、EU圏の予算は赤字予算を抑制している。もしもわれわれの社会福祉に対する支出を削減する以上にNATOのために軍事費を増大させるとすると・・・ われわれが銃とバターの両方を手にすることは無理だ・・・」 つまり、スクリパル事件はヨーロッパの世論を軟化させ、彼らを恐怖に陥れて、「銃に金を使った方がいい。バターなしでもわれわれは何とかやって行ける」と思わせたいのだ。ヨーロッパは、今、1960年代のベトナム戦争の際に米国で起こった論争とまったく同じ状況を経験しようとしている

何時ものことながら、ハドソン教授の説明は非常に興味深い。戦争を遂行したい勢力は何と執拗なのだろうか?現在の世界における軍事的緊張は多くが米国の軍産複合体の思惑から始まっていると言っても過言ではない。この自覚を再確認することは非常に大事だ。
シリアでは化学兵器が一般市民に対して使用されたとして、西側はまたもやアサド政権を非難し、ついに、414日の未明、米英仏の三カ国はシリアに対してミサイル攻撃を行った。国連安保理の決議案も無しに、アサド政権が化学兵器を使ったという証拠さえも示さず、米国はシリアを空爆する計画であったようだ。

幸いなことに、今回の米英仏によるミサイル攻撃はシリア政府の要請を受けて同国に駐留するロシア軍の海軍基地や空軍基地を守る対空防衛地域には入らなかったことから、ロシア軍との直接の軍事衝突には発展しなかった。トランプ大統領はロシアやイランの拠点をも空爆したかったようであるが、マチス国防長官が大統領を説得して、ロシア軍の拠点に対する爆撃は止めて、シリア空軍基地の2か所と化学兵器の製造を行っているとされる民間施設とを空爆することになったと報じられている。
ロシア政府はかねてからシリアに駐留するロシア軍に攻撃があった場合には、速やかに報復すると宣言していた。

私の意見では、このロシア軍の事前の宣言が奏功して、米英仏三カ国はロシア軍との直接の衝突を避けたことが明白に伺える。空爆の判断に責任を持つ将軍らは自分の部下や同僚を無駄に死なせる訳にはいかない。つまり、シリア政府の要請を受けてシリア国内でシリア政府軍を支援し、反政府武装勢力との戦いを遂行してきたロシア空軍や海軍の能力については西側の軍部は十分に理解しているのだ。
また、化学兵器の生産や貯蔵に用いられているとして攻撃目標となった建物は物的な損害を受けただけで終わった。化学兵器がまき散らされて近隣の住民が呼吸困難に陥るといった症状はまったく起こらなかったという。空爆があった日、いくつかの外国からのニュース・メディアが空爆を受けた民間企業の工場に招待され、現地の取材を行った。

こうして、シリアにおける米ロ間の代理戦争は、今回、新たな局面を露呈した。ロシア軍と直接戦う決意は米軍には最初からなかったのではないかと思わせるものがある。ベトナム戦争のように、嘘から始まった武力行使である。米軍トップの思考過程に優柔不断な部分があったとしても不思議ではない。
こうした状況はいったい何を意味するのであろうか?その背景にはどんな要素があるのだろうか?

われわれ一般大衆は主流メディアによってすっかり洗脳されてしまっている。必ずしも現実を理解してはいない。つまり、われわれが理解している現実の世界は真の現実とメディアによって喧伝された擬似的現実とがごっちゃまぜになった世界だ。
何か非常に根源的で、大局的で、深層に隠れている重要な要素を見落としてしまっている可能性は十分にあるだろう。それが故に、われわれ素人は全体像を理解するのに何時も苦労している。

スクリパル親子の毒殺未遂事件や米英仏によるシリア空爆の出来事があったばかりで、その余韻が今でも強烈に残っていることから、前置きがえらく長くなってしまったが、ここにアイルランド出身のジャーナリスト、フィニアン・カニンガムが書いた記事 [1] がある。その表題は「ロシア恐怖症は米国とヨーロッパの衰退を隠すための隠れ蓑」と題されている。興味をそそられる題名である。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

 
<引用開始>
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Photo-1: © Getty Images

外敵または外部からの脅威を喧伝することによって国内の団結を図ろうとする手法は古い時代から用いられて来た国政術である。ソ連邦時代の冷戦の頃がそうであったように、またしても、ロシアは西側にとって大嫌いな存在となっている。

しかし、本当のことを言うと、西側各国自身は、今、内政問題によって厳しい挑戦に晒されているのが現実である。 
皮肉なことには、自分たち自身の内政問題から受ける挑戦を否定しようとすればするほど、西側の指導者は自分たちの制度的崩壊を早めることになる。

ロシア恐怖症、つまり、どんな問題に関してでも「ロシアのせいだとして非難する」ことは、関連情報に明るく、憤慨し切っている西側の市民らが自分たちの苦情に対して民主的な対応を正当に求めようとしている時に、最後の審判の日を回避しようとするようなものであって、これは実に近視眼的で、無駄な策だ。 
もっとも支配的な「公式」見解は、米国からヨーロッパに至るまで、「悪意に満ちた」ロシアは「われわれを分断するために種を蒔いている」、「民主制度を崩壊させようとしている」、あるいは、「統治システムや権力の座にある政党ならびにメディアに対する一般庶民の信頼を台無しにしようとしている」と主張している。

この筋書きは2016年にドナルド・トランプが大統領に選出され、ホワイトハウス入りしてからというもの、その論調は強硬になるばかりだ。彼をホワイトハイスへ送り込むためにクレムリンは「影響力のある介入」を行ったとして、非難されているのである。この奇妙な作り話は常識を否定するものだ。作り話を紡ぎ続けるには糸が底をついてしまうだろう。
逆説的な話ではあるが、「ロシアゲート」と称され、内政干渉だと言う馬鹿馬鹿しい主張に関しては、トランプ大統領は「フェークニュース」であるとしてこれを正当に拒絶したが、他の機会には彼は「米国やヨーロッパの同盟国を転覆させる」キャンペーンをモスクワが計画しているとの主張を支持して、自分自身を傷付けることになった。例を挙げるとすれば、12月に彼が署名した国家安全保障戦略を参照して貰いたい。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

特に、「腹黒いロシア人」が居て、「偽情報を駆使」し、RTやスプ―トニクというロシアのメディアを通して「フェークニュース」を広げることによって西側の民主主義を「破壊」しようとしているという主張が西側の政治家の間に叩き込まれているのだ。
状況は極めて全体主義的であって、政治家やメディアの専門家の間には理性的な異議を差し挟もうとしても、そんな余裕はまったくないようだ。

英国のテレサ・メイ首相は「分断の種を蒔いている」としてモスクワを非難した オランダの諜報部門はロシアは米大統領選を不安定化したと主張し、EUの安全保障の担当理事であるジュリアン・キング卿はロシアのニュース・メディアは28か国のブロックを不安定化させようとする「クレムリンによって指揮された情報操作装置」だとして毎日のように厳しく風刺する。マイク・ポンペオCIA長官はロシアは今年末に行われる米中間選挙を干渉する取り組みを強化しようとしていると述べて、最近、警告を発した。
西側諸国は、本質的には、西側を崩壊させようとする極悪非道なロシアによる攻撃に晒された犠牲者であると位置付けたいようで、この種の筋書きが続いているのである。

こういった言葉の綾を用いた特別に教育的な提言は「コメンタリー」に掲載されたテキサス選出のウィル・ハード民主党議員の論評によって代表される。「ロシアはわれわれの敵」と題した記事の中で、彼は「ロシアは我が国を分断することによってわれわれの民主主義を侵食させている。我が国を救うには、米国人は団結して行動しなければならない」と主張する。 
ハード議員はこう言う。「ロシアの目標はひとつだ。我が国の制度に対する信頼を蝕むことだ・・・ 東欧や中欧において何十年にもわたってこの目標を達成するためにロシアは情報操作を兵器として来た。2016年には米国と西欧とがこの攻撃の目標となった」と。

嘆かわしいことには、上記のすべての主張が検証可能な証拠によって成り立っているわけではない。単純に言って、大嘘を執拗に繰り返すことによってそれを「真実」に変身させようとする魂胆だ。
ハード議員の思考の過程をさらに辿ってみることは非常に教育的であろう。

「一般大衆がメディアに対する信用を失った時、ロシア人の勝ちとなる。メディアが議会に対して極端に批判的になった時、ロシア人の勝ちとなる。議会と一般大衆の意見が一致しない時、ロシア人の勝ちとなる。議会と政府(大統領)との間で摩擦が生じ、その結果、われわれの民主的な制度への信頼がさらに失われた時、ロシア人の勝ちとなる」と、彼は頑固に主張を繰り返す。
想定される解決策として、ハード議員はロシアの「影響力作戦」に対抗して「情報操作に対処するための国家戦略」を呼びかけ、「米国人は政治環境がこれ以上悪化することを許してはならない」と付け加えている。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

後半は思想統一を模索することを擁護するものであって、これは反対意見や批判を「思想犯罪」と見なして排除する警察国家とまったく同じだ。
しかしながら、これは西側の政治家が従順なメディアの支援を受け、彼らに扇動されて、如何に反民主的で被害妄想的な思考を持っているのかを示すものであり、民主制度は内部から崩壊することになるだろう。想定上の外敵のせいで崩壊するわけではない。

崩壊の本物の理由を無視し、それを否定したとしても、西側諸国の間では権威や合法性の崩壊を示す不吉な兆候が明らかとなる。統治システムや大部分の政治家、著名な企業メディア、ならびに、諜報サービスは一般大衆にますます軽蔑され、信用を失なっていく。
政治および倫理上の権威を失ったのはいったい誰のせいだろうか?西側の政府や機関は鏡の中の自分の姿を眺めてみる必要がある。

過去20年間にわたって米国およびヨーロッパのNATO加盟国が押し進めて来た、終わりが見えない、犯罪的な戦争こそが民主主義および国際法を順守するという大げさな公式見解に一般大衆がもはや信頼を置かなくなった理由である。これは非常に説得力のある理由だ。
米国およびヨーロッパのメディアは自分たちの政府の好戦的な陰謀に関して一般大衆に正確に報じる義務を放棄してしまった。これは非難に値することだ。シリアを例に挙げてみよう。テロリスト集団を戦争遂行の道具として武装し、資金を提供することによって米国とNATO加盟国は秘密裏にシリアを荒らし回って来た事実について、西側の平均的な市民はいったい何時になったらその事実を企業メディアの記事で読むことができるのであろうか? 

さらには、的確な情報を入手している市民らはいったいどのようにしてそういった犯罪的な政府の政策や政府の犯罪を隠蔽しようとするメディアの共謀に尊敬を払うだろうと期待し得るのであろうか?
政府や政治家およびメディアに対する西側の一般大衆の不満は社会的不平等や貧困にも起因している。これらの現状は富者をさらに富ませ、大部分の市民を容赦のない耐乏生活に追いやっている。

重圧感を与える経済環境が社会にもたらしている不安定化は政治家クラスが奇妙にも主張する「ロシアの介入」以上に大きな不満の源泉となっているのである。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ところが、西側のメディアは一般市民が直面する社会的問題を取り上げる代わりに「ロシアゲート」という何とも見事な現実逃避に耽溺している。このようなメディアが軽蔑の念や不信感をもって見られているのは無理もない。いやはや、踏んだり蹴ったりだ。これらのメディアは一般大衆にはロシアが敵であると思い込んで欲しいのであろうか? 
経済的不安や教育、医療サービス、次世代の働く場の欠如、生態学的逆境の到来、国際法や外交を放棄してしまった西側によって引き起こされる戦争、等において市民が直面する脅威を認識し、その問題に対処することに代わって、侮辱的にも、西側の市民はロシアの「悪意に満ちた影響力」や「民主主義に対する攻撃」といった実につまらない話にうつつを抜かしている。

ロシアゲートのスキャンダルに昨年中費やされた膨大な量のメディア側の関心や一般大衆が費やした時間とエネルギーについて少しでも考えてみて欲しい。そして、今、本物のスキャンダルが徐々に表面化しようとしている。それは米国のFBIは、恐らく、オバマ政権と共謀してトランプに対して民主的プロセスを買収しようとしたことだ。
今まで嘘をつき放題にして、愚か者たちの代表を務めて来た「当局」に対して一般大衆が純粋な気持ちから軽蔑や不信の念を持ったとしても、それは何の驚きでもないのではないか? 

西側の民主主義が崩壊する状況はロシアとは何の関係もない。西側の制度の崩壊に関してロシアを責めようとする「ロシア恐怖症」は西側の政府やメディアのような企業が直面する本質的な問題を隠すための身代わりを提示しようとするものだ。反民主的な運営を慢性的に行なっていることや国際法に組織的に違反していること、犯罪的な戦争や政権の転覆のための口実を追及していること、等から判断すると、これらの問題は内在的なものであって、全面的に政府の所有物である。

注: この記事に表明されている見解や意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。

著者のプロフィール: フィニアン・カニンガム(1963年生まれ)は国際問題に関して幅広く執筆し、彼の記事はいくつもの外国語で出版されている。北アイルランドのベルファーストの出身で、農芸化学の修士課程を卒業し、英国のケンブリッジにある英国王立化学協会の科学編集者として勤務した。後に、新聞報道に身を転じた。ミラーやアイリッシュ・タイムズ、インデペンデント紙を含めて、20年以上にわたって主要メディアの編集者ならびに執筆者として働いた。現在はフリーランスのジャーナリストとして東アフリカに本拠を置く。彼の記事はRTやスプ―トニク、ストラテジック・カルチャー・ファウンデーション、プレスTVにて出版されている。

<引用終了>
 

これでこの記事全文の仮訳が終了した。
彼の結論は西側の民主主義が崩壊する状況はロシアとは何の関係もない。西側の制度の崩壊に関してロシアを責めようとする「ロシア恐怖症」は西側の政府やメディアのような企業が直面する本物の問題を隠すための身代わりを提示しようとするものだにある。

つまり、フェークニュースを流し、ロシアゲートを喧伝し、新聞の購読数を増やし、テレビの視聴率を上げ、軍産複合体が潤沢な国家予算を確保し続けることはどう見ても永久には続かない。どこかで破綻する。米国にはそれが明白に分かっていながらも、昨日の悪癖を今日も繰り返さなければならないのだ。何という寒々しい現状であろうか!
世界の覇権の構造が一極支配から多極構造に急速に変化しようとしている中、米国が少なくとも自国民を食べさせて行こうとするならば、今まで踏襲して来た他国から搾取する政策は止めて、米国は他国との協調に舵を切らなければならないだろう。それを実現しようとすれば、米国は国際法の順守を主張するロシアや経済大国として台頭してきた中国との関係を徐々に改善するしかないのではないか。

しかし、間違いなく、かなり長い時間を要することだろう。

***

アルバート・アインシュタインの言葉: 「無限に続く事象としてはふたつが存在する。そのひとつは宇宙で、もうひとつは人間の馬鹿さ加減だ。しかし、私にとっては宇宙は必ずしもそうではない。」
これを敢えて敷衍すれば、人間の馬鹿さ加減は無限に続くが、帝国はいつの日にか崩壊する。

 

参照:
1Russophobia a futile bid to conceal US, European decline: By Finian Cunningham, RT, Feb/13/2018, https://on.rt.com/8z27

 

 

 

2018年4月11日水曜日

西側はどうしてロシア人には我慢ならないのか


米ロ間の「新冷戦」はすでに始まっている。
米国は自国の外交政策に面と向かって反対するロシアや中国を敵視している。特に、ウクライナやシリアでのロシアの外交攻勢に関しては米国は神経過敏となっており、その状況はすでに数年も続いている。米国政府を忖度する米国の主流メディアはフェークニュースを流し、何も知らない、あるいは、知ろうともしない一般大衆を自分たちの筋書きに沿って洗脳することに余念がない。

どうして米国はロシアを嫌うのかという問い掛けに対してはいくつもの答えがありそうだ。その代表的なものは、軍産複合体やNATOが組織として持っている自己保存本能である。つまり、彼らは莫大な防衛予算を確保するためには米国の安全保障に脅威となる何かが存在しなければならないと考える。先の冷戦が終わった1990年代には軍産複合体は不況となり、NATOは存在理由を見失った。彼らにとっては、たとえそれが作り話であっても、外部からの脅威は大きければ大きいほどいい。9-11同時多発テロ後に開始された国際的な対テロ戦争はすでに峠を越した。シリア戦争はどう見てもシリア政府軍側の勝ちである。

2016年の米大統領選に干渉したとして非難されたロシアに関しては、20175月にロバート・ミュラー特別検察官が率いる調査委員会が設立され、長い時間と労力をかけて調査を行ってきた。しかし、ロシア政府が関与したという具体的な証拠を見いだせないままで終わりそうだ。

米国のディープステ―ツの意向(新冷戦をさらに押し進め、ロシアを国際的な政治経済の舞台から引きずる下す)を忖度して、英国はスクリパル事件を対ロ情報戦争に展開しようとし、NATO加盟各国に「団結」を促し、ロシア人外交官の追放騒ぎを引き起こした。しかし、英国、ポートン・ダウンにある軍用の研究所の所長がスクリパル事件に使用された神経剤がロシアで生産されたという裏付けを実証することはできなかったと表明したことから、ロシア政府をスクリパル親子の毒殺未遂事件の真犯人とする英国政府の試みは不発で終わりそうである。

このような国際環境において、「西側はどうしてロシア人には我慢ならないのか」という非常に興味深い表題を持った記事に遭遇した [1]1か月ほど前のことだった。鋭い分析で定評のあるアンドレ・ヴルチェクの論評である。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

西側はどうしてロシア人には我慢ならないのか?
『西欧人の目にはロシア人は「裏切り者」として映る。略奪者の側に加わろうとはせず、彼らは「世界の悲惨な人々」の側に立とうとして来たし、今もそうしようとしている。彼らは自分たちの国土を売ることは拒んでいるし、自分たちの民衆を奴隷のように扱おうとはしなかった。彼らの政府はロシアを自給自足経済にしようとし、完全な独立化を図り、裕福で、誇り高い、自由な国家にしようとしている。』 

ロシアまたはソ連邦のこととなると、報告書や歴史的説明はあいまいになる。西側においては、まさにそうなる。その結果、米国の同盟国ではどこでも同じことだ。
作り話が世界の何億という人たちの潜在意識の中に巧妙に叩き込まれて、お伽話は現実と混ざり合っていく。ロシアは広大な国家である。事実、領土に関して言えばロシアは世界でもっとも大きい。人口密度は非常に低い。奥が深く、かっては次のように書かれていたものだ。「ロシアを頭で理解することは不可能だ。信じるしかない。」 

西側特有の考え方においては、一般的に言って、未知で、精神的で、複雑な事柄は好みではない。昔から、特に、十字軍や悪魔的な植民地主義者が世界の各地で行った遠征の頃から、西側の人々は略奪の対象となった土地において行われた「崇高な振る舞い」に関するお伽話を聞かされてきた。すべては簡単明瞭でなければならなかった。つまり、「徳が高いヨーロッパ人は野蛮人を文明化し、そうすることによって、暗闇の中にいる貧しく、原始的な精神を救済してやっているのだ」と。 
もちろん、何千万人もの人たちがその過程で殺害され、何千万人もの人たちが奴隷として新世界に連れて来られた。金や銀、その他の略奪品が、奴隷の労働力とともに、ヨーロッパの王宮、鉄道、大学、劇場のための費用を賄った。しかしながら、そのことは問題とはならなかった。流血沙汰はほとんどの場合抽象的であって、西側の一般大衆の鋭敏な目からは遠く離れた土地で起こった出来事なのだ。

西欧人は単純さを好む。特に、「善と悪」の倫理的な定義の話になるとことさらにそうだ。もしも真実が組織的に「マッサージを受けた」場合は、あるいは、現実が完全に作り話である場合でさえも、それは問題ではない。大事なことは深い罪悪感に襲われたり、内省する必要がないことである。西欧の指導者や世論形成者は自分たちの市民(彼らの臣民)のことを完全に知り尽くしており、多くの場合市民らが求める物を彼らに提供する。支配者と臣民とは一般的に言って共生している。彼らは互いに不平を言うが、ほとんどの場合彼らは同一の目標を抱いている。それは心地のいい生活をすることだ。極めて心地のいい生活だ。相手がそのために代償を払っている限りにおいては、心地のいい生活を送り続ける。富や労働力を提供し、しばしば自分たちの血を提供することさえも要求される。

文化的には、ヨーロッパや北米の市民は自分たちの贅沢な生活のために支払いをすることを嫌う。自分たちの生活が「贅沢」だと認めることを忌み嫌う。彼らは自分たちは犠牲者であると感じたいのだ。自分たちは「活用されている」と感じていたい。自分たちは全世界のために犠牲になっていると想像したいのだ。
そして、結局のところ、彼らは真の犠牲者を憎む。何十年も、何世紀にもわたって殺人やレイプを犯し、略奪し、軽蔑して来た相手を憎むのである。

最近起こった「難民危機」はヨーロッパ人が自分たちの獲物について抱いている悪意を表面化させた。彼らを裕福にし、その過程ですべてを失うことになった連中は不満を覚え、絶望感を味わい、軽蔑された。アフガニスタン人、あるいは、アフリカ人、あるいは、中東から、あるいは、南アジアからの難民であるにせよ同じことだ。あるいは、ロシア人であるにせよ。その一方で、ロシア人は彼ら自身に特有なひとつの範疇に収められるのである。

***
ロシア人の多くは白人に見える。かれらのほとんどはナイフとフォークを使って食事をし、お酒を飲み、西側のクラシック音楽や詩、文学、科学や哲学に秀でている。

西欧人の目には彼らは「正常」に映るが、実際にはそうではない。
ロシア人は何時も「何か別のもの」を求め、彼らは西欧人のルールに従って行動することは拒む。

彼らは西欧人とは違うことを頑なに求め、そっとしておいて欲しいのである。
戦いが引き起こされ、攻撃されると、彼らは応戦する。

彼らの方から戦いを仕掛けることは稀で、ほとんどの場合他国を侵略することはない。

しかし、脅かしを受け、攻撃を受けると、彼らは確固たる決意と戦力の下で応戦し、決して敗戦することはない。集落や都市は侵略者たちの墓場と化す。自分たちの母なる大地を防衛するために何百万人もの人たちが死亡するが、国家は生き延びる。そして、このような状況は何度も、何度も切り返されて来た。西側は何世紀にもわたってロシアの地を攻撃し、焼き払った。西側は教訓を学び取ることは決してない。誇りが高く、断固たる意志を持っている強力な国家を征服し、支配下に収めようとする自分たちの邪悪な夢を諦めることはないのである。
西側は、自分たちの力で防戦し、侵略に立ち向かい、特に、勝利を収めてしまう彼らのことは好きになれないのである。

***
そして、事態はそれよりも遥かに悪くなる。 

ロシアは次に示すような悪い習慣を持っている・・・ ロシアは自衛し、自国の市民を防護するだけではなく、植民地とされ、略奪されている国家、あるいは、不当にも攻撃されている国家を防護しようとして他国のためにも戦おうとする。

ロシアはナチズムから世界を救った。その代償として25百万人もの男女や子供たちの命を失ったが、ロシアは世界を救ったのである。勇敢にも、誇りを持って、利他的にそうしたのである。西側はソ連邦によるこの英雄的な勝利を許そうとはしない。何故ならば、その勝利は決して利己的ではなく、自分たちの犠牲の上に立っているからであって、彼ら自身の原理とは直接矛盾し、それが故に、「極めて危険でさえある」のだ。 
ロシア人は立ち上がった。1917年の革命で闘い、勝利を収めた。これは歴史上見たこともないほどに西側を震え上がらせた。完全に平等で、階級が存在せず、人種偏見のない社会を作ろうとしたからである。この出来事は国際共産主義を誕生させた。私は最近この出来事に関してThe Great October Socialist Revolution: Impact on the World and the Birth of Internationalismと題して本を書いた。

ソ連邦の国際主義は、第二次世界大戦の直後、すべての大陸で何十もの国々を直接的に、あるいは、間接的に支援し、ヨーロッパによる植民地主義や米国による帝国主義に対して立ち上がらせ、立ち向かわせた。西側は、特に、ヨーロッパは自分たちの奴隷を解放したソ連の人々を、特に、ロシア人を決して許そうとはしなかった。
それは人類の歴史の中でもっとも大規模なプロパガンダの波が実際にうねりを見せ始めた頃であった。ロンドンからニューヨークへ、パリからトロントへと、反ソビエトの網の目が構築され、大っぴらに反ロ・ヒステリーが悪魔のような破壊的な力で展開したのである。何万人ものジャーナリストや諜報機関の工作員、心理学者、歴史家、ならびに、科学者らが動員された。ソビエト的なものやロシア的なもの(多くは作り話であったが、栄光を持って迎えられたロシアからの反体制派を除いて)はすべて見逃されることはなかった。

偉大な10月ソビエト革命や第二次世界大戦前の時代の現実を遥かに凌ぐ話が組織的に作り出され、誇張され、西側の歴史の教科書やマスメディアの筋書きの中へしっかりと刻み込まれていった。それらの作り話には西側からの悪質な武力侵攻や攻撃はなかったものの、生まれたばかりのボルシェビキ国家を破壊する目的が与えられていた。自然なことではあるが、英国やフランス、米国、チェコ、ポーランド、日本、ドイツ、その他の国々の悪魔的な残虐行為に触れるスペースなどはまったくなかった。 

ソビエト的、そして、ロシア人的な見方は、一枚岩でできており一方だけに傾いている西側のプロパガンダの筋書きの中へ侵入することはとうてい許されなかった。
西側の一般大衆は自分たちに注ぎ込まれた偽情報を従順な羊のように受け入れたのである。そうこうしている内に、西側の植民地や従属国家に住む多くの人たちが同じような行動を取った。植民地化された人々の多くは自分たちが被る悲惨さについて自分自身を責めるように教えられた。

これはもっとも馬鹿げたことではあるのだが、それでも何らかの論理を持つ出来事が現れた。ソ連邦に住んでいる数多くの男女や子供たちが西側のプロパガンダに屈したのである。自分たちを、あるいは、偉大な進歩を遂げている国家が不完全であることを修正しようとする代わりに彼らは諦めてしまい、皮肉を込めて物を見るようになり、酷い「幻滅」を感じ、堕落し、単純ではあるが頑固なほどに親西欧的になっていった。 

***
歴史上初めてのことであり、多分、これが最後となるのであろうが、ロシアは西側に負けた。これは虚偽を介して、恥知らずの嘘を介して、西側のプロパガンダを介して起こったのである。

その次に起こったことは大量虐殺とさえも呼べそうだ。
ソ連邦がアフガニスタンに入った当初は静かではあったが、間もなく、米国との軍拡競争に陥り、最後のプロパガンダの段階には敵対的な西側諸国が支援するラジオ放送が溶岩のように流され、この戦争では瀕死の被害を被った。もちろん、現地の「反政府派」も重要な役割を演じた。

西側の「役に立つ馬鹿」と称されるゴルバチョフの下で、物事は極端な程に奇妙なものとなっていった。自国を破滅させるために彼が買収されていたとはとても思えないが、彼はソ連邦が地に落ちるようなことのすべてを行ったのである。それはワシントン政府が彼にやって欲しいと思ったことそのものでさえあった。そして、全世界の前で、偉大で、誇り高いソビエト社会主義共和国は突然激しい苦痛に身を震わせ、大きな叫び声をあげて、崩壊した。激しい苦痛に苛まれながら、急速に命を落とした。
ターボエンジン付きの新資本主義者であり、山師であり、成金志向の、混乱しきった親西欧派のロシアが誕生した。ロシアはアル中のボリス・イルツィンに率いられていたが、彼はワシントンやロンドンの政府や西側の権力中枢によって好感を抱かれ、支えられた。

それは完全に不自然で、病的なロシアであった。つまり、皮肉っぽく物事を見、思いやりもない誰かよそ者の考えによって構築されたものであった。ラジオ・リバティーやボイス・オブ・アメリカ、BBC、闇市場の山師、振興成金、多国籍企業のためのロシアだった。
今、西側はロシア人がワシントンの何かを干渉したと言おうとしているのかね?連中は気でも狂ったのではないか? 

ワシントン政府や他の西側諸国の政府はロシアを「干渉」したばかりではなく、彼らは大っぴらにソ連を粉々に粉砕し、その挙句に、その時点ではすでに半分死にかけていたソ連を蹴っ飛ばし始めたのである。そのことを完全に忘れてしまったのだろうか?あるいは、西側の一般市民は、またもや、あの頃の暗黒な時期に起こっていたことについては何も「知らなかった」のであろうか?
西側も貧困化し、傷ついた国家には唾を吐きかけ、国際的な合意や条約を順守することを拒んだ。ロシアに何の支援さえも申し出ることはなかった。多国籍企業が自由に放たれ、ロシアの国営企業を「私有化」し始めた。基本的に言って、これはソビエト連邦の労働者が何十年にもわたって血と汗を流して築き上げたものを盗み取る行為であった。

干渉だって? それどころではない。もう一度言っておこう。西側の行為は直接的な介入そのものであって、侵攻でもあり、資源の掴み取りであり、恥をも恐れぬ窃盗だ!このことについては私はたくさん読み、書きたいと思うが、このテーマに関しては今それほど聞こえて来ることはない。そうだろう?
ロシア人は被害妄想だと評されているところを見ると、その大統領も被害妄想となる!率直に言って、西側は大嘘つきだ。ロシアを殺そうなんてしなかった、と彼らは装っている。

あの頃の数年間・・・ 親西欧の数年間はロシアが西側の従属国家になった期間である。もしくは、準植民地であった!慈悲のかけらも見せず、外国からは何の同情も届けられることはなかった。たくさんの愚か者たち、つまり、モスクワや地方で台所にたむろす知識人らは、突然、目を覚ました。しかし、遅過ぎた。多くの連中は、突然、食べる物さえも無くなってしまった。しかし、彼らは今まで教えられて来た物事を入手した。それは「自由と民主主義」であり、西側スタイルの資本主義である。要するに、完璧なまでの崩壊であった。
それが「当時」どのようなものであったのかを私はよく覚えている。恐怖に駆られながらも、私はロシアへ戻り、モスクワやトムスク、ノヴォシビルスク、レニングラードで働いた。ノヴォシビルスクの郊外にあるゴロドク・アカデミーの学者たちはノヴォシビルスクの地下鉄に通じる真っ暗な通路で、酷い寒さの中、図書館の蔵書を売っていた・・・ 蓄えで凌いだ・・・ 年老いた年金生活者らはコンクリート建ての建物の頑丈なドアーの背後で飢えと寒さで死んでいった・・・ 給与の支払いが滞り、ひもじさがつのる炭鉱労働者や教師たち・・・ 

西側による死の抱擁に抱きすくめられたロシアはこれが最初にして最後であって欲しいものだ!ロシア人の平均余命は突如アフリカのサハラ砂漠の南側にある国々のレベルにまで低下した。ロシアは屈辱を覚え、凶暴化し、恐ろしい苦痛の中にあった。

***
しかし、悪夢はそう長くは続かなかった。

短期間であったとは言え、ゴルバチョフとイルツィン政権の下での数年間に実際に起こったことは決して忘れることは出来ないだろうし、決して許せるものでもない。

もうこれ以上して貰いたくないことについてはロシア人は完全にわきまえている!
ロシアは再び立ち上がった。巨大で、憤然とした、断固たる決意をもって自分の命を自分流に生きるのだ。貧困化し、屈辱を覚え、略奪され、西側の従属国となった国家から、この国は進化し、数年のうちに自由で独立したロシアが再度この地球上でもっとも発展し、もっとも力を持った国々の一員となったのである。

ゴルバチョフ政権以前の頃のように、再び、ロシアは不正の下に置かれ、西側の帝国によって悪辣な攻撃を受けている国々を助けることが出来るようになった。
このルネッサンスを指導しているのはウラジミール・プーチン大統領であって、彼は毅然としている。しかし、ロシアは大きな脅威に晒されている。そして、世界もまた同様だ。今は軟弱な政治家の出る幕ではない。

プーチン大統領は完全ではない。(そもそも、完全な人って存在するのか?) しかしながら、彼は本物の愛国者であり、敢えて言えば、国際主義者でもある。
今、西側はまたもやロシアとその指導者を憎んでいる。負けたことがなく、強力で、自由なロシアはワシントン政府やその補佐官が想像することができる中で最悪の敵である。

これこそが西側が感じている事であって、ロシアがそう思っている訳ではない。ロシアに対して行われたさまざまな事柄が存在するにもかかわらず、何千万人もの命が失われたにもかかわらず、ロシアは常に譲歩する用意がある。たとえ忘れることはできなくても、許すことは可能なのだ。

***
西側の精神状態には奥深いところに何か病的な部分がある。100パーセント、かつ、無条件に従属することにはならないような状況は西側としては受け入れることができない。西側は何事についてもコントロールし、それに関与し、それを掌握しなければならない。つまり、自分たちが例外的であることを感じていなければならないのである。たとえ人々を殺害し、世界を破滅させたとしても、世界の何処よりも優れていることを感じ取りたいのである。

例外主義の信仰は西側の本当の宗教であり、キリスト教に比べてもそれ以上の存在であって、西側は何十年にもわたりキリスト教において重要な役割を演じたことはない。例外主義は狂信的で、原理主義的で、かつ、疑問を挟む余地なんてない。

また、西側は自分たちの筋書きは世界中でたったひとつしかあり得ないと言う。西側は道徳上の指導者であり、進歩の光であり、管轄権を持つ唯一の判定者であり、権威者でもあると言う。
嘘の上に嘘が積み上げられていく。すべての宗教においてもそうであるように、擬似的現実が馬鹿らしくなればなるほど、その擬似的現実を支えようとする手段は過酷で極端なものとなる。作り話が滑稽になればなるほど、真実を抑圧するための手段はより強力なものとなる。

今日、何十万人もの「識者」、つまり、教師やジャーナリスト、アーチスト、心理学者、高額の給与が支払われるその他の専門家が世界中で帝国によって雇用され、たったふたつの目標を達成しようとしている。つまり、それは西側の筋書きを栄光で満たすこと、ならびに、その途上に立ちふさがり、西側に挑戦しようとする者については彼らの信用を台無しにすることにある。
ロシアは、ロシアの直ぐ後を追いかけ、ロシアの同盟国でもある中国とともに、西側がもっとも憎んでいる敵国である。

西側によって開始されているプロパガンダ戦争は非常に狂気じみており、酷く強烈であることから、ヨーロッパや北米の何人かの市民らはワシントンやロンドン、ならびに、何処からともなく流されてくる物語に疑問を抱き始めている。
その物語のどのページを開いてみても、まったくの嘘、半分が嘘、あるいは、半分だけが本当の話で満載だ。これは極めて複雑で、航行が不可能な、陰謀説に満ちた沼地そのものである。ロシアは米国の内政に干渉したとして非難されている。さらには、シリアを防護したとして、自衛の手段を持たず、脅迫を受けた国家の味方をしたとして、強力なメディアを持っているからとして、自国の運動選手に非合法な薬物を提供したとして、依然として共産主義者であるからとして、あるいは、今や社会主義者ではないからとして非難されている。要するに、ロシアは想像可能なことや想像が不可能なことのすべてに関して非難されているのだ。

ロシアに対する批判は完璧を極めており、非常に馬鹿げている。誰もが非常に根源的な質問を開始することであろう。たとえば、「過去においてはどうだったのだろうか?ソビエト時代に関する西側の筋書きはどうだったのか、特に、革命直後やふたつの世界大戦の間の時期はどんなだったのか?」 
今日、西側が行っている反ロシアや反中国のプロパガンダを分析すればするほど、ソビエトの歴史に関して西側の筋書きを研究し、それについて書いてみたいという私の決意は強くなる一方だ。私は、将来、こうした事柄について友人たちと一緒に、調査を行う計画だ。これらの友人はロシアやウクライナの歴史家である。 

***
西側の目にはロシア人は「反逆者」であると映る。

略奪者の側に加わろうとはせず、彼らは「世界の悲惨な人々」の側に立とうとして来たし、今もそうしようとしている。彼らは自分たちの国土を売ることは拒んだし、自分たちの民衆を奴隷のように扱おうとはしなかった。彼らの政府はロシアを自給自足経済にしようとし、完全な独立化を図り、裕福で、誇り高く、自由な国家にしようとしている。

「自由」や「民主主義」、その他の文言は世界中のほとんどの地域においてまったく違ったことを意味する。西側で起こっていることはロシアや中国においては決して「自由」と描写されることはない。また、その逆も真なりだ。
不満に苛まれ、崩壊する寸前の、噴霧状態と化した、うぬぼれの強いヨーロッパや北米の社会はもはや自国の市民を動機づけようともしない。毎年、何百万人もの人たちがアジアや南米、アフリカへさえも逃げ出している。空っぽで、意味がない、感情面では非常に冷たい社会からは逃げ出そうとしているのだ。しかし、彼らにどのようにして生きるのか、あるいは、生きないのかなんてことはロシアや中国の知ったことではない! 

そのうちに、ロシアや中国の偉大な文化は自由や民主主義に関して西側にとやかく言って貰う必要がなくなり、言って貰いたいとは思わなくなるであろう。
彼らは西側を攻撃することはないし、そのお返しとして攻撃されたくもないのだ。

何百にもなる大量虐殺に関して責任があり、全世界で何千万人もの人たちを殺害した国家が他国に対してお説教をしようとする姿を見るのは実に気恥ずかしい。

多くの犠牲者は脅威のあまり、口外することさえもできないでいる。
でも、ロシアはそうではない。

必要ならば自国を守るということは冷静な考えであり、優雅でもあるが、完璧な決意を要することでもある。自国だけではなく、この美しいけれども、深い傷を負った地球に住む数多くの人々についても然りだ。
ロシア文化は膨大である。詩や文学から始まって音楽やバレー、哲学に至る・・・ ロシア人の心は柔軟で、愛や親切に遭遇するといとも簡単に融けてしまう。しかし、何百万人もの無実の人々の命が脅威に晒されると、ロシア人の心と筋肉は急速に石や鉄と化す。そのような瞬間においては、勝利だけが世界を救済する場合ロシア人の拳は石のように堅固になり、ロシア国家を防御する手段についてもまったく同じことが言える。

加虐的で卑劣な西側にはロシア人の勇敢さに匹敵するものはない。
希望と将来は両方とも東へ向かって不可逆的に移行しつつある。

そして、それもまたロシアが西側によって徹底して嫌われている理由である。
出典:New Eastern Outlook

<引用終了>

 
これで引用記事の全文の仮訳が終了した。

世界は、ごく単純に描くとすれば、資本家と消費者集団とに分けられ、覇権国とその他のすべての国々とに分けられる。米英両国の主流メディアであるニューヨークタイムズやBBCは資本家の論理でニュースを流す。われわれの多くがすでに知っているように、多くの場合はフェークニュースである。
一方、ここにご紹介した記事の著者は消費者を、あるいは、覇権国によって侵略され、圧倒的な武力で蹂躙されている国々を助けようとする。少なくとも、民衆の側に立って、擬似的現実ではなく、本当の現実を報じようとする。ドキュメンタリー映画を作り、本を書き、代替メディアに寄稿している。まさに、ロシア的な心情の持ち主である。

著者はこう述べている:
西欧人の目にはロシア人は「裏切り者」として映る。略奪者の側に加わろうとはせず、彼らは「世界の悲惨な人々」の側に立とうとして来たし、今もそうしようとしている。彼らは自分たちの国土を売ることは拒んでいるし、自分たちの民衆を奴隷のように扱おうとはしなかった。彼らの政府はロシアを自給自足経済にしようとし、完全な独立化を図り、裕福で、誇り高い、自由な国家にしようとしている。
この部分は実に秀逸である。

さらに、著者は次のようにも述べている:
ロシアはナチズムから世界を救った。その代償として25百万人もの男女や子供たちの命を失ったが、ロシアは世界を救ったのである。勇敢にも、誇りを持って、利他的にそうしたのである。西側はソ連邦によるこの英雄的な勝利を許そうとはしない。何故ならば、その勝利は決して利己的ではなく、自分たちの犠牲の上に立っているからであり、彼ら自身の原理とは直接矛盾し、それが故に、「極めて危険でさえある」のだ。
下記の文言を今日の国際政治に、特に、英国のソールズベリーで起こったスクリパル事件と並列させて全体像を見ようとすると、英国政府がロシアを執拗に敵視する政治姿勢がはっきりと見えて来る。しかも、これは歴史的な背景を見ながらの理解である。スクリパル事件は巨大な氷山の一角に過ぎないが、西側の精神構造、特に、その偏狭さが典型的には資本主義を守ろうとする形で「ロシア嫌い」として表面化しているように思われる。

「西側は、特に、ヨーロッパは自分たちの奴隷を解放したソ連の人々を、特に、ロシア人を決して許そうとはしなかった。」
ロシアを歴史的に、そして、文化的に眺め、西側の政治姿勢や文化との比較を行ったこのアンドレ・ヴルチェクの論評は実に素晴らしい。国際政治に関して毎日流されてくるニュースを少しでも深く理解し、西側の主流メディアの共鳴箱にならないでいようとすれば、彼の物の見方は不可決であると言えよう。

 

参照:
1Why the West Cannot Stomach Russians: By Andre Vltchek, New Eastern Outlook, Mar/09/2018