2020年1月24日金曜日

米国はユーラシアの統合を邪魔するためにロシア・中国・イランに対して世紀の戦いを仕掛ける - 状況はもっと悪くなる

1月3日の朝、イラン国内では二番目の指導者として尊敬を集め、イラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊の司令官でもあるソレイマニ将軍がバグダッド国際空港貨物ターミナルの近くで米軍の無人機からミサイル攻撃を受けて、暗殺された。

同将軍はサウジアラビアとの和平を話し合うために外交官パスポートでイラクを訪問し、空港を出る直前であった。将軍らが乗った二台の車両が攻撃を受けたのである。合計で8人が犠牲となり、その中にはイラクの民兵部隊を率いるアブ・マフディ・アル・ムハンディス司令官も含まれていた。

法的な議論をする専門家は、まずイランと米国はお互いに戦争をしている訳ではないことから、米国によるこのような暗殺行為は国際法上では戦争犯罪になると指摘している。

イラン国内では非常に人気が高い将軍に対して展開された暗殺事件は将来の世界にとって果たしてどんな意味合いを持っているのだろうか?

具体的な答えは質問をする相手によってさまざまに分かれる。

そのひとつはソレイマニ将軍が今までに見せた軍事的な能力と外交手腕はイスラム世界におけるスンニ派とシーア派との間の紛争を解決するかも知れないという予感だ。そのような期待が強まっていた。イスラム世界において宗派間の紛争が和らぐと、イスラエルが自国の敵と考えているイランが中東地域でその指導力を大きく伸ばすことに繋がる。周囲のイスラム世界を分断しておきたいイスラエルにとっては非常に不都合な展開である。

もうひとつの答えは著名な経済学者で、ミズーリ大学の名誉教授のマイケル・ハドソンの考え方だ。同教授は米国の対外政策は米国の覇権国としての基盤である米ドルの優位性を何としてでも維持し、防衛することと大きな関係を持っていると述べている。その要旨を簡単に下記に引用しておこう:

ソレイマニ将軍の暗殺はイラクの石油資源を米国のコントロール下に置くためにイラクにおける米軍の存在を拡大し、サウジアラビアのワハビ軍団(イラクにおけるISISやアルカエダ、アルヌスラ、ならびに、実質的には米国の外国人部隊である他のさまざまな武装集団)を支える目的で立案された。この行動は米ドルの重要な擁壁として機能している中東原油を米国のコントロール下に維持しておくためである。これが暗殺という政策を理解する上で重要な鍵となり、現在の状況は拡大一途の過程にあり、一向に衰えを見せないことを説明する大きな理由である。(原典: It's Not Just the Jews, Another Reason for the US's Endless Wars: Without Them, the $US Would CollapseBy Tyler Durden, Mises Institute, Jan/20/2020

ここに「米国はユーラシアの統合を邪魔するためにロシア・中国・イランに対して世紀の戦いを仕掛ける - 状況はもっと悪くなる」と題された記事(注1)がある。この記事はもっと遥かに広大なユーラシア大陸全体を視野に入れて論じようとしたもので、著者は地政学的な分析では定評のあるジャーナリスト、ペペ・エスコバーだ。

本日はこの記事(注1)を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

副題:次の10年間、米国は「新シルクロード」の建設を標榜するロシア、中国、イランと戦う

怒涛のような2020年代はカセム・ソレイマニ将軍の暗殺で幕開けとなった。

しかしながら、これからの10年間にはこれよりも大きな出来事がわれわれを待ち受けているであろう。ユーラシア大陸の「新グレート・ゲーム」では多種多様な衰退が起こり、この状況は米国をユーラシアの統合では三つの中核的な存在であるロシアや中国およびイランと戦わせることになる。地政学や地理経済学において形勢を一変させるような出来事はすべてこの壮大な衝突と関連して分析を行わなければならない。

ディープステーツと米国の根幹的な領域における指導層は中国が経済の領域では今や「不可欠な国家」を自負する米国を追い抜き、ロシアは軍事領域で米国を凌いでしまったことに脅威を感じている。ペンタゴンはこれらのユーラシア三国は「脅威」であるとして公に認めている

昼夜を分かたず毎日のように敵を悪魔視し続けるハイブリッド戦争のテクニックは、中国の「脅威」、ロシアの「侵攻」、ならびに、イランによる「テロリズムの支援」を封じ込めるために、急速に普及することであろう。「自由市場」の神話は「新たな通商ルール」と婉曲的に定義される非合法な経済制裁を次々と発動することによってかき消されてしまうであろう。

しかし、これは中ロ間の戦略的パートナーの関係を脱線させるのに十分であるとは言えそうにもない。このパートナー関係が持つより深い意味を解きほぐすには北京政府がこの関係を「新時代」に向かう展開であると定義していることを理解しておく必要がある。これは戦略的な長期計画を意味する。その鍵となる年は「新中国」の百周年を祝う2049年だ。

中国主導の「新シルクロード」と定義される「一帯一路」の複数のプロジェクトが示す地平線は確かに2040年代にあって、北京政府はその頃にはユーラシアならびにその先に存在する主権国家やパートナー国家との多極的な新しい枠組みを完全に織り成しており、すべての国家は蜘蛛の巣状に連結しているであろうと予測する。

「グレーターユーラシア」と称されるロシアのプロジェクトは何処となく「一帯一路」を鏡のように反映し、何れは後者と統合されるだろう。「一帯一路」、「ユーラシア経済連合」、「上海協力機構」および「アジアインフラ投資銀行」のすべては同一の構想に集約される。 

現実的政治

この「新時代」は、中国が定義しているように、すべての領域における中ロ間の緊密な協力関係に依存する。「中国製造2025」は一連の科学技術の革新を描いている。それと同時に、ロシアは中国がまねをすることができない武器や関連システムの分野で比類のないテクノロジーに満ちた資源国家に脱皮することに成功した。

最近ブラジリアで開催されたBRICSサミットで習近平主席はウラジミール・プーチンにこう言った。「政情不安や不確実性を伴う今日の国際的な現状を見ると、中国とロシアはより戦略的な協力関係を確立するよう求められている。」これを受けて、プーチンは「現状では両国は緊密で戦略的なコミュニケーションを引き続き維持しなければならない」と言った。

ロシアは西側諸国が現実的政治を標榜する国家を、たとえそれがどのような形であったとしても、如何に尊重するかを中国に示し、北京政府はついに自分流のスタイルを使い始めつつある。その結果、古代のシルクロードを荒廃させることに繋がった5世紀間にも及んだ西側による統治の後、ユーラシアの中核地域は今華々しく復帰し、その優位性を主張し始めている。

個人的には、私の最近の二年間の旅行は西アジアから中央アジアにまで及んだ。特に、最近の二ヵ月間はカザフスタンの首都であるヌルスルタンやモスクワ、イタリアで分析専門家たちと喋りあった私の会話は鋭い精神が二重螺旋と定義した複雑さの中へ入り込み、奥深くまでのめり込んで行った。われわれは誰もが巨大な挑戦が待ち受けていることに気づいている。何と言っても、中核地域の台頭を時々刻々と追跡することは至難の業である。

ソフトパワーの面においてロシア外交が持つ優れた役割はシベリアのトゥバ人出身であるセルゲイ・ショイグに率いられた国防省、ならびに、インド・パキスタン、南北朝鮮、イラン・サウジアラビア、アフガニスタンの誰とでも建設的な会話を展開することができる諜報部門からの支えを得て、さらに磨きがかけられることであろう。

これらの部門は北京政府にとっては依然として理解することができないスタイルで複雑な地政学的案件に円滑に対処している。それと並行して、地中海東部からインド洋に至るまでのアジア太平洋の実質的にすべての地域は、今、中国とロシアが米海軍と金融の影響圏に対抗することができる新勢力であると見ている。

南西アジアの利害関係

ソレイマニを狙った暗殺は、あの出来事が与える長期的な影響はどうかと言えば、南西アジアのチェス盤上における単なるひとつの動きでしかない。最終的に問題となるのはマクロ的な地理経済学上の成果である。つまり、それはペルシャ湾から地中海東部を繋ぐ陸上の架け橋のことだ。

昨年の夏、イラン・イラク・シリアの三ヵ国は「イラン・イラク・シリア間の道路や輸送回廊をシルクロードを復活させるための広域計画の一部とすることを交渉の目標とする」と位置づけた。それだけではなく、南北間を結ぶ国際的な輸送回廊と連結することが可能であって、これ以上に戦略的な接続性を持った回廊は他にはないであろう。イラン・中央アジア・中国間の接続性は太平洋にまで達し、さらには、ラタキアは地中海から大西洋に至る接続性をもたらす。

水平線上に見えてくるのは、実際には、南西アジアにおける一帯一路の地方版である。イランは一帯一路の重要な中心点となる。つまり、中国はシリアの再建に大きく関与するだろう。北京とバグダッドの両政府は複数の取引に署名し、「イラク・中国再建基金」(中国の企業がイラクのインフラを再構築する代償として日量30万バーレルの原油から得られる収入を充てる)を設立した。

地図を眺めて見ると、イラクの議会や首相が要求している米軍の撤退について米国が拒否する理由を説明する「秘密」が見えてくる。つまり、それは如何なる手段に訴えてでもこの種の回廊の出現を阻むことなのだ。特に、中国が中央アジアの全域で建設している道路網を見ると、なおさらのことだ。私は11月から12月にいくつもの道路を走った。これらは、最終的に、中国をイランと接続させる。

最終目的:上海を地中海東部と結ぶことにある。ユーラシアを横切り、陸路を介した接続である

アラビア海に面するグワーダル港は、「マラッカ海峡を回避する」という中国の多面的戦略の一部を成すこともあって、中国・パキスタンの経済回廊にとっては基本的に重要な役割を持っている。それと同様に、インドもイランがオマーン湾に面するチャーバハール港をグワーダル港と釣り合わせるように求めている。

北京政府がこの経済回廊を通じてアラビア海と新彊とを結ぶことを望んでいるのと同じように、インドはイランを介してアフガニスタンや中央アジアとの接続を望んでいる。

しかしながら、インドのチャーバハール港に対する投資は無に終わるかも知れない。ニューデリー政府は、依然として、テヘランを破棄することを意味する米国提案の「インド・太平洋」戦略に参画するかどうかを検討している最中であるからだ。

昨年の12月に行われたロシア・中国・イラン海軍の合同演習はまさにこのチャーバハール港で開始され、この演習は絶好のタイミングでニューデリー政府の目を覚まさせることに成功した。端的に言って、インドがイランを無視することは不可能だ。そんなことをすれば、インドにとって非常に重要な接続性の拠点であるチャ-バハール港を失うことになってしまう。

変えようのない事実:誰もがイランとの接続性を必要とし、確立したいと思っている。その明白な理由はペルシャ帝国の当時以降からイランは中央アジアの交易ルートでは特権的なハブの役目を果たしてきたことにある。

それに加えて、イランは中国にとっては国家的な安全保障に関わる性格を持っている。中国はイランのエネルギー産業に多くの投資を行っている。両国間の貿易は、米ドルを介さず、ユアンまたは通貨バスケットで決済されている。

米国のネオコンは、当面、チェイニー政権が目指していたことを過去の10年間にも依然として夢に見続けてきた。つまり、それはイランにおける政権交代である。それが可能であれば、米国はカスピ海地域に君臨し、中央アジアへの踏み台を確保することに繋がるのだ。まさに、新彊への到達や反中国政府意識を扇動する一歩手前だ。新シルクロードは、逆に、中国の将来像を損なう場面を見せることになるのかも知れない。

世紀の戦い

「中国の一帯一路構想の衝撃」と題されたプラハの経済大学のジェレミー・ガーリックの新著は「一帯一路構想を意味のあるものにすることは非常に難しい」と認めることにはひとつの長所があると論じている。

これは一帯一路構想が持っているとてつもない複雑さを理論的に捉えようとする極めて真剣な取り組みである。特に、政策立案に当たって中国が見せる柔軟で、融合した取り組み方は西側の人々にとっては途方に暮れるような代物である。自からの目標を達成するために、ガーリックは Tang Shiping唐世平)の社会進化論に分け入り、新機能主義による覇権を掘り下げて考え、「攻撃的重商主義」の概念を解剖しようとする。これらはすべてが「複雑な折衷主義」への取組みの一部なのである。

米国の「分析専門家」から出て来る一帯一路を悪魔視するありきたりの筋書きとは対照的で、嫌という程目につく。本書は一帯一路の地方間主義が持つ多面性を詳細に吟味し、それを進化した有機的なプロセスであると見ている。

帝国の政策立案者は、一帯一路が如何にして新しい世界規模の枠組みを設定しようとしているのかを理解せず、それを設定する理由についても理解しようとはしない。先月ロンドンで開催されたNATOサミットでは二つ三つの助言が提案された。NATOは何の批判もなしに米国の三つの優先事項を採用した。つまり、それはロシアに対してはさらに厳しい政策を展開すること、(軍事的査察を含めて)中国を封じ込めること、そして、全域における優位性を唄った2002年のドクトリンの申し子として宇宙を軍事化することの3点だ。

こうして、NATOは「インド・太平洋」に引き込まれて行くことになる。これは中国の封じ込めを意味するものだ。そして、NATOEUの軍事部門であることから、ヨーロッパが中国との間でどのようにビジネスを進めるかは常に米国によって干渉されることを意味する。まさにすべてのレベルにおいての話だ。

退役した米陸軍大佐であるローレンス・ウィルカーソンは2001年から2005年までコリン・パウェル国務長官の主席補佐官を務めたが、ずばりと要点だけを喋る。つまり、彼はこう言った。「米国は、今日、戦争のために存在する。そうではないとするならば、19年間も続けて戦争をし、その終わりが見えては来ないことをいったいどうやって説明するのか?戦争をすることはわれわれ自身の一部であり、米帝国とは何なのかを説明するものでもある。われわれは嘘をつき、誤魔化し、略奪する。まさにポンぺオが今やっているように。まさにトランプがやっているように。まさにエスパーがやっているように。まさに私の政党である共和党のメンバーたちが一群となって今やっているようにだ。この戦争マシーンを継続するためには、それが何であろうとも、われわれは嘘をつき、誤魔化し、略奪する。これが米国の真実だ。そして、米国の苦痛でもある。」

モスクワ、北京、テヘランの各政府はこれらの利害関係には十分に気が付いている。外交官や分析専門家らは、経済制裁を含めて、それぞれの国家に向けて発動されるハイブリッド戦争のあらゆる局面に備えて協力し合い、相互に防衛し、これらの三ヵ国が進展させなければならない方向性に関して作業を進めている。

米国にとっては、これはまさに生死を決する戦いである。これはユーラシアの統合、新シルクロード、ロシア・中国の戦略的パートナー関係、柔軟な外交術と組み合わせたロシアの極超音速兵器、米国の政策に関してグローバル・サウス諸国に蔓延する嫌悪感と反対、回避することがほとんど不可能な米ドルの崩壊、等々に対する戦いである。はっきりしていることは帝国は静かに夜を迎えようとはしないということだ。われわれは誰もが世紀の戦いに備えておかなければならない。

原典: Asia Times

<引用終了>

これで引用記事の仮訳が終了した。

ぺぺ・エスコバーは今後10年間の世界は現在のそれよりもさらに悪化すると見ている。米国による単独覇権体制から多極型覇権体制への移行をくい止めるために帝国はあらゆる手段を用いるであろうと推測している。

ところで、覇権の移行プロセスは通常そうはっきりとした形では起こらないらしい。たとえば、英国の歴史を見ると、英国人の大部分は覇権が英国から米国へと移行した後になってさえも、実際にそれを自覚したのは何十年も後であったという。

そういう意味では、単独覇権から多極的覇権への移行はすでに始まったとも言えるのではないか。この引用記事で議論されている要素のひとつにアジアインフラ投資銀行がある。この銀行は中国政府の肝入りで設立され、2016年に開業となった。英国を始めとしてヨーロッパ諸国が設立メンバーに名を連ねた時、私は「オヤッ」と思った。米帝国の腹心である筈の英国が我先にと創設メンバーとして名乗りを上げたのである。この銀行への加盟国は現在100ヵ国となり、日米が推進してきたアジア開発銀行に参加する67ヵ国をあっけなく越してしまった。アジアインフラ投資銀行を巡るこのような現状はアジア地域における中国の台頭とそれを認める周囲各国の見方を象徴的に示しているようである。

今後もさまざまな要素が同様の軌跡を描いてそれぞれの目標に到達し、さらなる改善努力が推進されて行くことであろう。このプロセスは、ペペ・エスコバーが言うように、次の10年間で大きく進行し、北京政府が2049年に新中国の百年祭を祝う頃にはこの壮大なプロセスがすでに完成しているのかも知れないが、私には分からない。次世代の人たちに見届けて貰おう。

幸か不幸か、米国は今までの歴史に根差した展開を見せ続けることであろう。それはローレンス・ウィルカーソンの言葉に集約されている。

美辞麗句を並べて見せたくはない真意を隠そうとしても、イチジクの葉はそれ程大きくはない。せいぜい秋までは使えるとしても冬の寒風に曝されると、一晩のうちに吹き飛ばされてしまうのが落ちだ。世界の檜舞台に立ったことのある名優は舞台から完全に姿を消すまで名優としての節度と自尊心を示して欲しいものだ。完璧な大根役者であったとしたら、何をかいわんやではあるのだが・・・

参照:

1The US Is in a 'Battle for the Ages' Against Russia/China to Stop Eurasian Integration - It's Going to Get Much Worse: By Pepe Escobar. Russia Insider, Jan/17/2020



2020年1月19日日曜日

イランでのウクライナ旅客機の墜落はまったく辻褄が合わない

18日の夜明け前にテヘラン空港を飛び立ったウクライナの旅客機(PS752便)が離陸後間もなく墜落した。

事故の直後、イランからの報道は航空機自身の何らかの故障が墜落の原因でると伝えた。それと同時に、事故後のかなり早い段階でトランプ米大統領は「誰かがヘマをやらかした」と述べた。このトランプの発言はその真意が不明瞭で、私には気にかかっていた。

そうこうしている内にブラックボックスが見つかり、イラン側はこの事故によって死者を出した国は何れも事故を解明する委員会に参画することができると表明した。事故調査を開始したイラン側は「イランの対空防衛システムが人為的な間違いによって旅客機を撃墜してしまった。撃墜事故の責任はわれわれにある」と言って、事態の収拾に向けて動き始めた。

20147月にウクライナの上空で起こったマレーシア航空の旅客機の撃墜では事故原因の解明に米ロ間の新冷戦の構造が上乗せされ、オランダの安全委員会が主導する国際調査団は事故報告書を提出したが、その報告内容は不完全で、事実の究明とは程遠い感があった。あの事故から6年以上も経過しているにもかかわらず、事実を解明するという事故調査団の基本的な責務は地政学的な思惑によって大きく捻じ曲げられて、いくつもの重要な点が答えを見ないままに残されている。少なくとも私にはそう感じられる。

今回の事故ではイラン政府が撃墜事故の責任を認めたことによって早々と幕が降ろされた。もっと正確に言うと、思いがけない程素迅速に幕が降ろされたという印象だ。

ここにふたつの記事がある。そのひとつは13日の記事で「イランでの旅客機の墜落は罠にはめられたのではないか?」と題され(注1)、ふたつ目は14日の記事で「イランでのウクライナ旅客機の墜落はまったく辻褄が合わない」と題されている(注2)。本日はこれらの二つの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

これらの記事は一件落着したかに見える PS752便の事故についてわれわれ素人には思いも寄らない側面に光を当てようとしている。さまざまな利害が交錯する新冷戦の構造の中、この旅客機の墜落については必然的に数多くの疑問が表面化して来たとも言える。そして、今後も継続することだろう。イランの公式調査の結果は、好むと好まざるとにかかわらず、それらの疑問に答えることができるかどうかが試される。

まずは注1の記事を覗いてみよう。

<引用開始>

先週、ニューヨークタイムズが19秒間の短い動画を公開したが、これはイランのミサイルが旅客機を撃墜した瞬間を示すものであり、ソーシャルメディアでは数多くの懐疑的な反応が巻き起こった。

最大の疑問点は旅客機が撃墜された瞬間を録画したというタイミングはそう簡単には起こり得そうもなく、録画中の撮影者の挙動も不自然である。

同紙はウクライナの旅客機がテヘランの近郊で撃墜された日の翌日である19日にこの人目につきやすい記事を流した。その表題は「ウクライナ機がイランで撃墜されたことを動画が示している」としている。搭乗員と乗客の総勢176人が死亡した。2日後、イラン軍は対空防衛部隊のひとつが同旅客機を進入してきた敵のクルーズミサイルと勘違いし、誤って撃墜してしまったことを認めた。

「決定的な証拠だ」と言って、ニューヨークタイムズのジャーナリストであるクリスチャン・ツリーバートはツイッターでこの動画を評価した。ツリーバートは視覚調査チームで働いている。同ツイートで彼は同社にこの動画を提供したナリマン・ガリブという名前のイラン人に感謝した。つまり、公に感謝の意を表明したのだ。その一方、実際に撮影を行った当事者は匿名を選んだ。

この匿名の動画撮影者こそがPS752便がテヘランのイマーム・ホメイ二空港から615分頃に離陸した直後にミサイル攻撃を受けた様子を19秒間の動画に収めた本人である。この人物は撮影中静かにしており、タバコを吸っている(タバコの煙が短時間ながらも映像に現れている)。彼はパランドの郊外で北西に向かって立っている。彼が立っていた場所は衛星データを用いてニューヨークタイムズ紙によって確認された。同紙の技術部門が総動員され、その迅速な仕事振りには嫌でも好奇心が高められてしまう。偶然に撮影されたこの動画はいったいどうしてそのような驚く程に几帳面な関心を呼んだのであろうか。

しかしながら、ソーシャルメディアで数多くの人たちが抱いた最大の疑問点は次の点だ。この「動画撮影者」は早朝の6時頃(訳注:日の出の約1時間前)の空の下で特定の方角にモーバイルフォーンカメラを向けて、テヘラン郊外の荒廃した産業地帯にどうして立っていたのだろうか?航空機はほとんど見えてはいないのに、この空を眺めている人物はカメラの向きを整え、航空機が見える数秒前にはもっとも劇的な一瞬を動画に収める準備ができていた。これは事前に何かを知っていたことを強烈に示唆する。 

悲惨な出来事を目撃したばかりであるというのに、カメラを持った人物はもの静かなままで、動揺した様子は微塵も見せないという状況は不思議でさえある。ショックを受けたような言動や不安な様子は何も聞こえてこないのだ。

この動画を受け取り、それをニューヨークタイムズに持ち込んだ人物として同紙が認めているナリマン・ガリブはイラン政府については声高な発言をする反政府派であり、イランに居住してはいないことが判明した。彼はソーシャルメディアへの投稿を通じて執拗にイラン政府の交代を主張している。

ニューヨークタイムズのクリスチャン・ツリーバートは動画の専門家であって、墜落事故後の数時間内に記事を流すためにガリブと緊密な連絡を保った。彼は以前にべリングキャットで上級調査専門家として働いていた。べリングキャットは自分たちのことを独立したオンラインの調査報道ジャーナリストであると言うが、数多くの批評家らは彼らは西側の軍事諜報部門のためのメディア界の付録のような存在であると見ている。べリングキャットは2014年にウクライナで撃墜されたMH17便やシリアでの化学兵器攻撃においてはロシアやシリアの両政府に汚名を着せようとするメディア側の筋書を後押しする有力な協力者であった。

テヘランの上空で撃墜された最近の出来事においては不可解な形で地上に張り付けられた匿名の動画撮影者と国外に居住する反体制活動家のイラン人との間には緊密な連絡が保たれ、その後、後者はニューヨークタイムズから迅速、かつ、ふんだんな支援を受けた。これは組織だったレベルの行動であって、偶発的な出来事だとして我々が簡単に信じ込めるように誘導できるような代物ではない。不幸にも多数の死者を出したこの事故は仕組まれたものである。

18日の早朝にこの大惨事は起こるべくして起こったと言っても過言ではない。この撃墜事件はイランがイラク国内にある二か所の米軍基地を攻撃した時点からたった4時間後に起こった。これらの攻撃は1月3日にイランの軍人指導者トップであるガセム・ソレイマニ将軍が米国の無人機によって暗殺されたことに対する報復であった。

報復攻撃の後、米軍による反撃の可能性に備えてイランの対空防衛部隊は厳戒態勢を敷いていた。幾つかの報告によると、イランの防衛システムは、1月8日の早朝、侵入してくる敵の航空機と巡行ミサイルに関する警戒信号を見出していた。ところで、その時間帯にイラン当局がテヘランから飛び立つ旅客機をどうして待機させなかったのかは実に不思議である。恐らくは、通常、商業用航空機はレーダーによって識別することが可能であり、軍用機は別の信号を使うからであろう。

しかしながら、米国が近年開発した電子戦(EW)のテクノロジーを使って敵のレーダー上で在りもしない機影に「なりすます」ことが可能だ。ペンタゴンが開発したその種のEWテクノロジーのひとつは「小型空中発射デコイ」(MALD)と称され、侵入してくる弾頭を示す偽の信号を敵のレーダー上に形成することが可能だ。

われわれが強く主張したい点はこうだ。米国側は戦争の瀬戸際という状況を作り出し、これによってイランの防空部隊は一触即発の状態になるだろうと予期した。このような緊張状態に加えて、電子戦によってイランの軍事用レーダーを襲撃し、民間航空機のデータを侵入して来る敵の目標物のデータに変換することは、やろうと思えば、技術的に可能だ。イランの軍部は旅客機の撃墜は人為的ミスであると言った。すでに存在する最新のEWテクノロジーを考慮すると、ペンタゴンがこの手法を使ったと見るのが妥当であろう。

テヘランから出発する飛行ルートは米国の悪意に満ちた電子戦攻撃によって非常に危険な状況に曝されたと断言することは、悪辣ではあろうが、非常に公平な見方である。テヘランから飛び立つ飛行ルートに照準を合わせて、地上で待機する人物にとっては飛行機が現れる時刻は公開されている出発時刻から推測ずることが可能で、間違って発射されたミサイル攻撃を動画に捉えることは容易であったに違いない。

撃墜が設定されていたからこそ、航空機の技術的な要因が原因であるとイラン側が主張したにもかかわらず、西側の諜報当局は迅速に、しかも、確信を持って何が起こったのかを断言することができたのである。

この惨事は国内だけではなく国外においてもテヘラン政府の評判を大きく低下せしめた。政府や革命防衛隊は墜落の当初嘘をついたとして、イランでは両者を批判する反政府デモが起こった。176人の犠牲者のほとんどはイラン人であった。街頭における怒りは、たとえば、ドナルド・トランプといった西側の指導者が公に発したコメントによって火に油が注がれている。彼らは街頭の抗議の声や非難をイランの政権交代を目指す絶好の機会と捉えている。

この記事の初出は「スプートニク」。

<引用終了>

これで注1の記事の仮訳は終了した。


***


次に、注2の記事を下記にご紹介しよう;

<引用開始>

テヘランの近郊で202018日に撃墜されたウクライナの旅客機に関しては幾つもの疑問が残り、妥当な説明が待たれている。イラン当局は撃墜の責任を公式に認めたが、実際に撃墜したことの責任とは別に彼らには何らかの理由があるのかも知れない。私は幾つかの理由を推測することができるが、二つ三つの理由をここにご紹介しよう。ひとつだけ確かなことがあり、立派な理由がある。誰がそう言おうと、どんな理由でそう言おうと、「事故」説はたわ言だ。彼らはそう言う立派な理由があるのかも知れないが、それは嘘だ。そう言わなければならない立派な理由があっても、それを信じる理由はまったくない。

SA-15対空防衛システムについてまず理解すべき最初の事項は同システムにはそのレーダー機能に敵味方を識別する(IFF)呼び掛け装置が組み込まれているという点だ。呼び掛け装置はパルス信号を数秒毎に発信し、民間機側の呼び掛け装置を自動的に探索し、識別する。ボーイング737型機にはIFF呼び掛け装置が2台装着されており、これらは離陸の直前にスイッチを入れる。航空機は一台だけの呼び掛け装置を稼働させて離陸することが許されているが、たった一台の呼び掛け装置が故障する可能性がある。あるいは、操縦士(および副操縦士、さらには、航空管制官)が離陸前に装置の稼働を確認することを失念することもあり得る。私の友人のひとりは民間機の操縦士であるが、彼はこう説明してくれた。もしも旅客機が離陸しようとしており、呼び掛け装置が稼働している気配を管制官がレーダー上で確認できない場合は、彼は操縦士にそのことを伝え、操縦士は離陸の前に同装置を稼働させる。さらに、私の友人はこう付け加えた。操縦士、副操縦士あるいは管制官、もしくは、皆が揃いも揃って呼び掛け装置のことを忘れてしまったり、離陸前の稼働確認を怠ってしまうことさえもが起こり得る。つまり、呼び掛け装置が稼働してはいないままに旅客機が離陸する可能性はあるのだ。幾つかの国境を横切り、紛争地帯を飛行する場合、この敵味方識別装置はその便の安全性を支えるもっとも重要、かつ、唯一の装置である。これはPS-752便についても言えることだ。

そうそう、ひとつの事柄を除けば、皆が皆見落としてしまったという可能性がある。しかしながら、皆が忘れてしまった訳ではないことはわれわれには分かっている。このPS-752便はFLIGHTRADAR24.COM上にも記録されており、呼び掛け装置が稼働していたことを示しているからだ。呼び掛け装置のスイッチが入れられ、稼働しており、SA-15のレーダー上には定期便である民間機特有のフライトコードが観察されていた筈だ。これは識別範囲内にあるすべての防空レーダーや民間ならびに軍の他のレーダーにとっても同じことだ。

たとえIFF呼び掛け装置からの応答が無くても、SA-15/TOR M-1レーダーは次のような情報を提供する。位置や方位、速度およびサイズ(振幅)。これが何を意味するのかと言うと、IFF信号が無くても(実際には信号があったことは我々には分かっているが。念のため)、スクリーン上のレーダー信号の点滅からオペレータは上記の情報、つまり、位置や方位、速度およびサイズを知ることができる。問題の飛行物体は軍の基地からは180度も離れて飛行し、テヘランからは90度も離れ(PS-752は最初のミサイル攻撃を受けてから進路を右側に切った)、トマホーク巡航ミサイルの約半分の速度で飛行し(275ノットに対して480ノット)、応答信号の振幅は巡行ミサイルや他の如何なる軍用機のそれとは違って、まさにボーイング737のプロフィールを示していた。

組み込まれているIFF呼び掛け装置やKバンド・ドップラーレーダーの他に、SA-15システムはもうひとつの探索・識別・標的システムを持っており、これは自動的に全天候下で昼夜を問わずに使うことが可能なNV/IR電子光学標的システム(EOTS)であって、迎撃や火器コントロールに用いられる。使用範囲は20キロメートル。9M330シリーズのロケットの最大迎撃距離は15キロメートルであって、このロケットで攻撃することができたということは彼らは旅客機を目視することができた筈だ。そして、彼らがEOTSのスクリーンで見るのはまさにこのようなものである。実際に、「間違って撃墜した」というストーリーは嘘であるということを理解するのにあなたが自分の目で見なければならないものはこれがすべてだ。IFF呼び掛け装置が応答しなかった場合は、レーダーの反射信号によるプロフィールがボーイング737であって、それ以外のものではないことを100%教えてくれる。レーダーが稼働しなかった場合は、EOTSが一瞥の下でボーイング737であって、巡行ミサイルやF-35ではないことを教えてくれる。

上記のすべての装置が稼働しなかった場合は、SA-15/TOR M-1システムからミサイルを一機も、ましてや二機のミサイルをも発射することは不可能であって、旅客機を撃墜することなんてできなかった筈だ。

12キロの距離があっても有能な人物であれば誰でもが肉眼でPS-752は民間旅客機であること、少なくとも、民間機であることが分かる・・・ 飛行中の737型機には7種類の照明灯が常時灯っている。赤と緑のふたつのナビゲーションライト、主翼の先端にはふたつの白色照明灯、機体の上下にはふたつの衝突防止灯。さらには、地上走行中は消灯するふたつの白色照明灯は機首のノーズから45度前方を照らし、ノーズ下にある地上走行用照明灯、ならびに、主翼の前方端には四つの非常に強力な着陸用白色灯がある。また、垂直尾翼の両面に表示されている航空会社のロゴマークを照らすふたつの照明灯がある。注:737型機の離陸中には操縦士は地上走行中には消灯する照明灯、地上走行用照明灯、ロゴ用照明灯、着陸照明灯を点灯し、1万フィート以上の上空に達するまでは点灯し続けるのが標準的な操縦要領である。つまり、PS-752便には15個のそれぞれ違った照明灯があって、常時照明するものやストロボ型の照明灯、あるいは、非常に強力な照明灯もある。同便が8000フィート上空で撃墜された時、これらはすべてが使用されていた。同機が民間機であることは10キロ以上の距離からでも肉眼で識別できた筈だ。

私がここで言いたいことは何か?何事が起こったとしても、誰が撃墜したのか、どんな理由から撃墜したのかにはかかわらず、「事故」説は大嘘だと私は言っているのだ。また、誰がそう言ったとしても、それが誰であろうとも、大嘘だ。長年の経験からあなたも知っているし、私も知っていることではあるが、あなたや私が嘘をつくのは何かの間違いを仕出かした時か、誰かを騙そうとする時かのどちらかだ。常にそうだとは言わないが、ほとんどの場合はそうだ。他にどんな理由があるのだろうか?あなたの国家や全世界に向けて嘘をつく正当な理由とはいったい何だろうか?何かがあるのかも知れない。あるいは、何もない。

私は最近私の賢明なる同志であるСуть времени (Essence of Time)の推論を読んだ。彼らの推論は私が聞きたいと思っていたたものではなく、ましてや、期待していたものではなかったが、その論理はあり得ることであって、棄却する前に熟考すべき内容であった。次のことを良く考えて貰いたい。イランの指導者は米国からの圧力や覇権に服従するための取引をし、イラクやシリア、レバノン、パレスチナを裏切っただけではなく、自分たちの国家をも裏切った。しかしながら、シャヒード・ソレイマニとIRGCはこれに賛成しようとはしなかった。こうして、ガセムは殺害され、IRGCはまんまと罠に嵌められて、IRGCの名声や名誉が攻撃に曝された。取引があったのか?私には分からない。そうではないことを期待したい。状況を観察しよう。

われわれは状況を観察する。

一方では、米国/NATO/モサド/ISIS/ウクライナの極右派がイランに対する国際世論を扇動するために偽旗作戦を行い、旅客機を撃墜したのかも知れない。イラン側は自分たちが撃墜したという非難を否定するであろうと予測し、感情的で長続きのする善玉・悪玉ドラマを作り出し、それを推し進めようとした。しかしながら、イランが撃墜の責任をあっさりと認めたことによって、プロパガンダ作戦はそれが始まる前に中断されてしまった。彼らが実際に撃墜したのかどうかは、責任を認めたことによって、筋書のすべてのことが静まり返って、このテーマについては幕が引かれてしまった。見事な動きである。

これは相手の感覚を狂わせようとする古典的な手法である。もしも誰もが嘘をついているとしたら、いったいどのようにして真実を伝えることができるのだろうか?200人近くの人たちの虐殺は重犯罪であり、悲劇ではあるが、現実に対する攻撃やそのことを理解する人々の能力は遥かに心もとない。PS-752便の撃墜はケネディの暗殺やノースウッド作戦、トンキン湾事件、オクト-バー・サプライズ、イラン・コントラ、クエートでの保育器事件、セルビアへの武力侵攻、9/11、イラクの大量破壊兵器、リビア紛争に対する保護の責任、マイダン革命、ロシアによるクリミアの併合とドンバスの占領、等と並んで同一のファイルに属するものだ。換言すると、完璧な大嘘だ。撃墜が起こったことはわれわれが知っている。しかし、われわれは撃墜の真犯人が誰で、どうして撃墜をしたのかに関しては本当のことを知ることができるのだろうか?私はそうは思わない。しかしながら、少なくともわれわれはこれが事故ではなかったことを知っている。

次に何が起こるのかについて予測することは可能だ。彼らが言うことには何の関心も払わないことだ。誰もが嘘をついていることは明白であるからだ。彼らが何をするのかだけを観察しよう。われわれはシャヒード・ガセム・ソレイマニの死を見た。これは本当に起こったことだ。そう感じたし、今もそう感じている。アレキサンダー・ザハルチェンコが殺害された時と同じくらい強烈にだ。アブ・マハディ・アル・ムハンディス司令官を失ったイラクの人民動員隊やレバノンのヒズボラー、フーシ派、シリアアラブ軍および全シーア派、ならびに、世界中の善意ある人たちはマハディとガセムのふたり、ならびに、彼らの随員が殺害されたことについて何かを言いたいことであろう。彼らは何かを言うだろうと私は確信している。彼らがそうする時、彼らは真実を話してくれるだろうと私は信じている。彼らが行動を起こすまで、われわれは、皆がそうするように、毎日信じていよう。

われわれの行動だけが真実を語ってくれる。われわれの言葉が何を意味しようとも何の関係もなしに・・・。

この記事の初出は「Fort-Russ」。

<引用終了>

これで注2の記事の仮訳が終了した。

これらのふたつの記事はそれぞれが目を見張らせるような内容であり、説得力のある指摘である。今の段階ではどのシナリオが真相により近いのかはわれわれには言えない。著者の一人が言っているように、新たな情報が現れるまで当面は待つしかないだろう。



参照:

1Iran Jet Disaster A Setup?: By Soraya Sepahpour-Ulrich, Finian Cunningham, Information Clearing House, Jan/13/2020

2Iranian Flight Crash Facts Not Adding Up: By Russell Bentley, Information Clearing House, Jan/14/2020







2020年1月14日火曜日

トランプ政権がソレイマニを罠にかけた

イランのソレイマニ将軍は外交官パスポートを携えてイラクを訪問し、バグダッドの国際空港を車で出る際に無人機によるミサイル攻撃を受けて殺害された。周到に準備された暗殺である。13日のことであった。

米国のトランプ大統領は、201858日、2015年に米英独仏中ロとイランとの間で合意されたイラン核合意から脱退すると宣言した。それ以降、米・イラン関係は悪化する一方であった。

ソレイマニ将軍の暗殺を受けて、イラン革命防衛隊は8日の午前1時半頃にイラクにある米軍基地に向けてミサイル攻撃を行った。イラン軍による報復攻撃を受けたふたつの基地はアル・アサド基地とアルビル基地。前者の駐屯基地では約1500人の米軍と多国籍軍とが宿泊していた。また、後者の基地ではイラク軍部隊の訓練が行われており、13カ国の軍関係者と民間人の合計3600人が宿泊していたとのこと。しかし、米国側の発表によると、この攻撃で死者は出なかった。

8日のミサイル攻撃によって、米国の狙い通りに戦争が始まると大部分の人たちは思った。しかしながら、幸いなことにはそうは展開しなかった。世界で最強の軍隊を持つと豪語するトランプ米大統領は「死者はひとりも出なかった」と言って、イランを深追いすることを控えた。

米議会の下院では、ソレイマニ将軍の暗殺後、9日、大統領による対イラン軍事攻撃実施に制約を加える決議案が賛成多数で可決されたばかりである。この下院の新たな動きを反映して、トランプ政権としては対イラン戦争の拡大を抑える必要があったのかも知れない。あるいは、今年11月の大統領選での再選を狙って、厭戦気分が高まる有権者からの賛成を確保するための動きであるのかも知れない。それとも、まったく別の理由からかも。今後さまざまな分析や説明がなされることだろう。

ここに、「トランプ政権がソレイマニに罠をかけた」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>

ソレイマニ将軍はイラン・サウジアラビア間の和平について話し合うために外交使節の身分でイラクを訪問したところであった。この話し合いはトランプ政権が求めていたものである。

 
Photo-1

当面は中東地域における緊張が急拡大することは回避できたとして、われわれは誰もが溜息をもらしていることであろうが、イランのガセム・ソレイマニ将軍の暗殺に関してはいくつかの事柄について簡単な問いかけをしてみることがすこぶる重要であろう

ぺぺ・エスコバーは地政学的な出来事に関して執筆し、広く名声を博している。彼は下記のように述べている(16日):

「バグダッドの特別国会で、この日曜日(15日)、イラクのアディル・アブドル・マハディ暫定首相は驚くべき事実を明らかにした。ガセム・ソレイマニ将軍は外交官旅券を携行して、ごく普通の定期便でバグダッド入りした。彼はテヘラン政府によってバグダッドへ派遣され、中東地域の和平に関するリヤドからのメッセージに対するイラン側の回答を携えていた。これらの交渉はトランプ政権によって求められていたものである。」[1]

エスコバーはさらに説明を続けた。

「つまり、バグダッド政府はトランプからの依頼を受けて、テヘラン政府とリヤド政府との間を公式に仲介していたのだ。そして、ソレイマニはメッセンジャーであった。アディル・アブドル・マハディは先週金曜日(13日)の午前8時半にソレイマニと会見する予定であった。しかし、約束の会見時間の23時間前にソレイマニはバグダッド空港の近辺で暗殺の対象として狙われ、殺害された。このことは21世紀の外交史に明確に刻んでおこうではないか。」[2]

ソレイマニはイランとサウジアラビアとの和平を話し合うための外交使節としてイラクを訪れていた。この話し合いはトランプ政権から求められていたものであった。彼は、イラク民兵団の指揮官を勤めるアブ・マハディ・アル・ムハンディス共々、13日、夜明け前の米国による空爆によって殺害された。

エスコバーは下記の点を強調している。

「事実関係を整理すると、米国政府は他国の地で、そこではお客さんの身分でありながらも、米国政府自身が求めていた話し合いのためにやって来たイランからの外交使節を暗殺したのである。」[3]

「ワールド・ソーシャリスト・ウェッブ・サイト」のアンドレ・デーモンとデイビッド・ノースによると(17日)、イラクのアブドル・マハディ首相はイラク議会で次のように述べている。

「トランプは彼の外交手腕について個人的に彼に謝意を表明し、ソレイマニは危害に見舞われることはないという印象を与えていた。ところが、数時間の内にもイランの将軍は殺害された。アブドル・マハディ首相はこれはイラクの主権をひどく脅かすものであるとして強く非難した。 [4]

イラクでソレイマニを暗殺するためにトランプ政権は彼を罠にかけたとする結論に到達せざるを得ない。事実、サウス・フロントというニュースサイトが「米国は予定されていた和平会議を機会にイランの軍事司令官に罠をかけ、彼を暗殺した」と15日にあからさまに報じたが、これは実に厳しい現実である。デモ参加者がバグダッドの米国大使館を襲った後、「1231日、トランプは差し迫った和平の話し合いに関してイラクの首相に謝意を伝える電話をした。」[5]

金融上の核兵器的な選択肢がトランプの原油戦争に決着をつけるだろう:

(訳注:ぺぺ・エスコバーはイランが追い詰められた時に最後の手段として実施するかも知れないホルムズ海峡の封鎖を「核兵器に匹敵する選択肢」と呼んでいる - 原典Financial N-option will settle Trump’s oil war: By Pepe Escobar, ASIA TIMES, Jan/06/2020.  ホルムズ海峡が封鎖された暁には世界の原油供給量の22パーセントが市場から消えてしまう。その結果、世界経済は大打撃を受け、1933年のドイツにおける景気の悪化よりもさらに酷い状況が現出するだろう。覚めた頭脳を持った将軍らは米海軍はホルムズ海峡を開いておく能力を持ってはいないと述べている。)

この課題に取り組むよりも、トランプ政権はむしろさまざまな手法を使ってこの課題を避けようとした。たとえば、米国防長官のマーク・エスパーはCNNにこう言った(17日)。「ソレイマニは現場を押さえられている・・・ テロリスト組織の指導者がもうひとりのテロリスト指導者と会って、米国人の外交官や軍人または施設に対する攻撃を同期させ、更なる攻撃を加えようと計画している。」[6]

奇しくも、ソレイマニをイラクへ送り込んだ会合は和平に焦点を当てようとするものであったが、このような偏った解釈は特に悪意に満ちていると言わざるを得ない。しかし、エスパーはさらにCNNに次のように述べて、自分自身が喋った偏った解釈よりもさらに上を行った。

「われわれが期待しているのは状況が落ち着きを取り戻し、テヘラン政府がわれわれと同じ席に着いて将来のより良好な方向について議論を開始することだ。」[7]

18日、「Truthout」がノーム・チョムスキー、リチャード・フォーク、ダニエル・エルスバーグの3人による論説カラムを掲載した。その論説で彼らはソレイマニの暗殺は「非合法的で、挑発的である」と批判した。[8]

しかしながら、彼らの論説は次のような文章も含んでいた。

「われわれが現在知っている限りでは、ソレイマニ将軍は隠密行動ではなく定期便でイラクへやって来た。彼はバグダッド政府の招待で和平を話し合う外交使節としてイラクへ到着し、翌日には首相との会談を行うことも予定されていたが、これらの行動はイランとサウジアラビアとの間の緊張を和らげるためのものであった。イラクの主権を侵されたことに反発して、イラク議会は米軍を同国から撤退させることを決議した。地域的なイニシアチブを取り付ける代わりに、ソレイマニ将軍の暗殺は地域紛争の悪化をもたらした・・・」[9]

何故チョムスキーとフォークおよびエルスバーグは米国によって罠が仕掛けられたという報道済みの事柄に言及しなかったのだろうか?もしもイラク首相が既報の如くイラク議会で述べたことが彼らには信じられないと言うのであれば、彼らはそのことを述べ、どうして信じられないのかを説明するべきであった。

そうする代わりに、たとえ彼らがその合法性に疑問を示し、この出来事が巻き起こす反響を遺憾に思ったとしても、彼らはこの暗殺に関してトランプ政権が抱く偏った見方に同意しているかのように受け取られるのが落ちだ。

議論の余地はあるだろうが、誰もが一発触発を警戒している中、今はより徹底した正直さが求められる時であり、決してそれを疎かにしてはならない。結局のところ、トランプ政権によって敵国と名指しされた国の間ではいったい何処の国が、暗殺のために狙い撃ちされるかも知れないということが分かっていながらも交渉団を何処かの国へ派遣しようと思うのだろうか? 

脚注:

[1] Pepe Escobar, “The Economic Risks of Trump’s Reckless Assassination,” Asia Times, January 6, 2020; republished in Consortium News, January 6, 2020.

[2] Ibid.

[3] Ibid.

[4] Andre Damon and David North, “The US propaganda machine justifies the assassination of Qassem Suleimani,” World Socialist Web Site, January 7, 2020.

[5] “Was Soleimani Framed by Trump? In Baghdad to Receive US Supported ‘De-escalation Proposal’ from Saudi Arabia,” South Front, January 5, 2020; republished in Global Research, January 6, 2020.

[6] Quoted in Zachary Cohan, “Esper says US isn’t looking ‘to start a war with Iran, but we are prepared to finish one’,” CNN, January 7, 2020.

[7] Quoted in Julian Borger and Patrick Wintour, “Iran crisis: missiles launched against US airbases in Iraq,” The Guardian, January 8, 2020.

[8] Noam Chomsky, Richard Falk and Daniel Ellsberg, “Congress Must Forcibly Limit Trump’s Power to Attack Iran,” Truthout, January 8, 2020.

[9] Ibid.
初出: Global Research
Copyright © Joyce Nelson, Global Research, 2020

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

ソレイマニ将軍の暗殺は米・イラン関係を決定的に悪化させたように思う。何処の国でも、どんな文化や歴史をもった国であっても、個人の尊厳や国家の主権を脅かされると強烈に反発する。そのような反応が今イランとイラクで起こっている。

その一方で、この暗殺の直後にあからさまに米国に拍手を送ったのはイスラエルであった。多くの国の一般庶民は第三次世界大戦が迫っているという懸念を大きくした。今数多くの解説記事が氾濫しているが、その中には米国はイスラエルからの要求に応じてこの暗殺を遂行したという報道がある(原典:Trump, at Israel’s Request, Assassinated the General Most Responsible for Destroying ISISBy Eric Zuesse, Jan/08/2020。当初のイスラエルの反応を見ると「さもありなん」という感じがする。


参照:

1Trump Administration had Set a Trap for Soleimani: By Joyce Nelson, Global Research, Jan/10/2020