2014年6月21日土曜日

「米国の核戦力の優位性」は単なる誤謬に過ぎない


こんなことをあれこれと考えなければならいとは嫌な時勢になったものだが、米ロ間において核戦争が起こる可能性を考えてみよう。
多くの識者によって指摘されているように、ウクライナ紛争はウクライナの国内問題であると同時に米ロ間の地政学的な綱引きでもある。このテーマを少しでも冷静に考えてみたいと思う。
米国は先制攻撃によってロシアを叩きのめすことができると言っている。これは2006/2007年に遡る。
先制攻撃の有効性は、理論的には、ロシアの大陸間弾道ミサイルのサイロ(固定式)や移動式ミサイル発射装置のすべてを先制攻撃によって破壊することによって初めて100%成立する。たとえ1個か2個のロシアの大陸間弾道ミサイルのサイロ(固定式)あるいは移動式核ミサイル発射装置が無傷のままで残っていたら、米国は深刻な反撃を受けることになる。この場合、今や多弾頭核ミサイルの時代であることから、先制攻撃を開始した米国が無傷の勝者として残り得る可能性は極端に低下する。
勝者がいないこの状況は「相互確証破壊」と言われている。米ロ間ではすでに相互確証破壊が成立している。先制攻撃は自殺行為に等しいということだ。それが故に、冷戦時代には米ロ間では軍事的直接対決は起こらなかった。
一方、米中間では相互確証破壊が成立しているのだろうか?ウィキペデアによると、「中国は核戦力の近代化により相互確証破壊の成立を目指しており、2020年代には相互確証破壊が成立すると予測されている」 早ければ今後10年足らずの話だ。
日中の場合はどうか。かって、自衛隊は日本が核武装をするべきかどうかを詳細に分析したことがある。その結果はどうだったか?中国は広大な大陸国家であって、その懐は非常に深い。日本が先制攻撃を行うことによって中国のすべての核ミサイルを破壊することは困難。したがって、日本は報復攻撃を受ける。その結果、1発か2発の核ミサイル攻撃で日本は戦争遂行能力を失うとの結論であった。たとえ日本が核ミサイルを持ったとしても、日中間では相互確証破壊とはならず、国土が小さい日本は壊滅的な破壊を受ける。
今日、移動式核ミサイル発射装置や潜水艦はGPSによって自身の位置を正確に割り出すことが出来るようになった。標的を正確に狙い得るという意味では、GPSの重要さは今まで以上に増しているのではないだろうか。今や、固定式の大陸間弾道ミサイルに大きく依存していた冷戦時代とは様子がまったく違う。GPSが軍事的に重要な位置を占めているという事実は、ロシアが今年のウクライナ紛争によって米国・EUNATOからの攻勢に遭い、同国が最近衛星航法システムに関して中国と技術協力を結ぶことを決定したことに色濃く反映されている。米国が運営するGPSに頼っていてはロシアとしては自国の安全保障を維持できないと考えたからだ。 

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冷戦が終結してから20数年となる。2014年はウクライナ紛争で始まった。この紛争がウクライナ国内の単なる紛争ではなく、米ロ間の戦争に発展する危険性を孕んでいることが多くの識者によって指摘されている。
今、核戦争による相互確証破壊は米ロ間ではどのように認識されているのだろうか?
この問いに対する答えが2007年の記事 [1] に見つかった。これは「米国の核戦力の優位性」に対するロシア側の反論である。
この2014年の夏、米ロにおける政策決定者たちは何を考えているのかが非常に気になる。
それでは、この記事を仮訳して、皆さんと共に理解を深めたいと思う。 

<引用開始>
米国とロシアが核戦争に突入した場合両国はお互いに生き残ることはあり得ないことから、核戦争は断じて始めてはならないということを永久に肝に銘じておくことが大切である。
「フォーリン・アフェアーズ」誌の20063月・4月号はリーバーおよびプレスの共著による「米国による核戦力の優位性が始まった」と題するを記事を掲載した。それによると、「間もなく、米国はロシアや中国の長距離核ミサイルを先制攻撃によって破壊することができるようになる」と述べた。著者らは「相互確証破壊の時代は間もなく終わる」と結論付けた。
この記事が対外問題評議会によって発行されたことから、ブッシュ政権の公式見解であると見なされている。それ以降、ロシアでは鋭い批判が広く寄せられている。
こういった反応は米国とロシア両国間の関係の悪化に繋がるとわれわれは思う。特に、核兵器管理の分野ではことさらにそうだと言える。「核戦力の優位性」は誤謬に満ちた論理と問題視される手法との産物であることから、これは不幸でもあり、まったく不必要でもある。
ロシアに対する米国の「核戦力の優位性」に関するリーバーとプレスの結論ならびに表の中に示された計算結果には誤りがある。彼らが設定した初期値は豊富に採用され正確ではあるのだが、最終結果を評価するモデルと方法は正しくはない。ロシアに対する米国の「核戦力の優位性」といった現象に関してはわれわれは懸念を隠すことは出来ないが、そういった状況は存在してはおらず、将来もあり得ないとわれわれは信じている。
われわれの論点を下記に示そう。
大規模な核攻撃がもたらす戦略的戦果を評価するに当たっては、そのような攻撃が引き起こす生態学的な影響について初歩的な評価を行うべきである。何故ならば、核爆発による影響は攻撃者ばかりではなく世界全体にとっても受け入れることができないほどに深刻であるからだ。しかしながら、リーバーとプレスはこの点をまったく無視している。
生態学的な詳細調査にはこの種の攻撃がもたらすすべての面を網羅しなければならない。たとえば、ロシアの領土内で炸裂する何百個もの米国の核弾頭がもたらす影響、何千個ものロシアの核弾頭の破壊、ならびに、それによって起こる二次的な影響、ロシアの反撃に対する米国の弾道ミサイル防衛(BMD)システムによる迎撃、もしBMDが機能しなかった場合は米国領土内でのロシアの核ミサイルが爆発する、等。これらの予測結果を受け入れることができるかどうかを最終的に判断するのは一握りの軍の高官ではなく市民たちであることから、何れにしても、この種の予測結果は一般に公開しなければならない。
リーバーとプレスはたったひとつのシナリオを調査しただけだ。それは「平和時の奇襲攻撃」(SAPTA)というシナリオだ。彼らはこのシナリオは「あり得ない」としているものの、この特異なシナリオを自分たちが導いたこの上なく重大なすべての結論の基礎として用いている。われわれはモラルや倫理的な理由をここで論じようとする積りはなく、むしろ、この手法が機能不全を導く政治的ならびに軍事・技術的な諸問題点に焦点を当ててみたいと思う。 
第一に、SAPTAを実行するためには、国家指揮最高部(NCA)は本行動を起こすための特殊条件を明確にし、保持していなければならない。これらの条件は議会による承認が必要となる。しかし、そうした条件は存在してはいない。
第二に、NCAは第一撃を実行するに先立って、この深刻な意思決定を市民に伝える義務がある。時間的な余裕を与えることによって、攻撃がもたらすかも知れない悲劇的な影響から市民たちが逃れ、防護策を取れるようにしなければならない。
第三に、第一撃を加えるに当たっては、戦略的核戦力の枠内ではいくつかの組織的および技術的な手順を実行する必要がある。平和時には、人的な過ちや事故または妨害工作を避けるために設けらている数多くの手順や技術的な障害が存在するからである。最初の核攻撃を与える前の予備段階としてそういった障害を取り除くためには、それぞれ異なる組織の階層で仕事をしている非常に多くの人員が参画することを必要とするだろう。
「奇襲攻撃」のための準備として必要な上述のような状況を実施しようとすると、それを隠し続けることは技術的には不可能だ。したがって、相手側にはある程度の時間的余裕が与えられ、相手側は戦略的核戦力の戦闘即応性を高めることが可能となる。ロシアがそうしたならば、リーバーとプレスが自認しているように、ロシアからの核による反撃は不可避となる。
また、リーバーとプレスは、ロシアの早期警戒システム(EWS)はロシアのすべての核ミサイルを破壊するような米国からの大量攻撃を完璧に見い出すことはできないと想定している。「米国からの攻撃の結果起こるロシア側の深刻な問題はEWSを活用して反撃に出ることができるかどうかだ(と彼らは言う)。つまり、ロシアの核戦力が破壊される前に素早く反撃をすることができるかどうかだ。ロシアがこれを首尾よく実行できるとは思えない。」 
「…とは思えない」といった単なる表明ではなく、このような重大な結論を下す際はもっと真面目な計算を要するとわれわれは信じている。ロシアのEWSロシア側のすべての核ミサイルを破壊するような米国からの大量攻撃を完璧に見い出すことはできないということを証明することが必要であろう。
ご指摘の通り、ロシアのEWSは今日弱体化している。しかしながら、米国の攻撃のほんの小さな一部であってもそれを検知することが可能であれば、ロシア側が「警報による発射」(LoW)の方針を活用して反撃に転ずる可能性はもはや排除することはできない。すなわち、核爆発が起こってから米国からの攻撃を確認するのではなく、核爆発が起こる前に反撃のミサイルが発射されることになる。ロシア側がLoWによる反撃を行う場合、その核弾頭の数は、「攻撃を受けてからの発射」(LuA)の場合と比較すると、遥かに多くなる。
こうして、核攻撃の生態学的な許容性、奇襲攻撃の命令を下しそれを実行する際の手順上および技術面での複雑さ、ならびに、ロシアのEWSはまったく使い物にはならないという想定のすべてがひとつの行動を支えることとなり、そこでは余りにも多くの仮定を必要とする。もっともらしく定義された「核戦力の優位性」はそういった仮定の上に成り立っている。
「フォーリン・アフェアーズ」誌の記事の詳細は「International Security」誌の2006年春号に掲載されている(タイトル:“The End of MAD? The Nuclear Dimension of U.S. Nuclear Primacy”を参照)。しかし、彼らのこのもっと長文の記事においても、リーバーとプレスが採用した手法の特性がそのまま見られる。
たとえば、彼らはこう記述している。「ロシアの早期警報システムはロシアの指導部に反撃に必要となる十分な時間を与えることは多分ないだろう。事実、同システムが何らかの警報を与えてくれるかどうかは疑問だ。ステルス性の高いB-2爆撃機は発見されることもなくロシアの領空へ侵入することができるだろうと思われる。さらには、低空を飛行しステルス性の高いB-2爆撃機はロシアの領空の外側からステルス性の高い核クルーズミサイルを発射することができるだろう。これらのミサイルは小型で、レーダー電波を吸収し、低空を飛翔することから、爆発を起こす前に検知されることはないだろうと思われる。」 [訳注:原文では著者が強調したい言葉は大文字で記載されている。著者の意図を反映するために強調されている言葉の訳語には下線を施した。] これはもう真面目な証拠を論じる言語ではない。特に、非常に重要なテーマを扱う記事においてはなおさらのことだ。
リーバーとプレスは「われわれのモデルはロシアに対して彼らの核戦力を成功裏に無効にすることができることを証明するものではない。このモデルは米国が核による先制攻撃を仕掛けることを想定するものでもない。米国の指導者が成功に高い自信を持っているとしても、ロシアからの反撃は甚大なリスクとコストをもたらすことだろう」と述べている。われわれは次のような問い掛けをしなければならない。「もしそうならば、平和時の奇襲攻撃が妥当な確率で成功をもたらすという彼らの考えは一体どのように展開されたのだろうか?」 と。
International Security誌にはこのモデルの詳細が掲載されているが、それに関するわれわれ自身の評価を下記に示そう。
著者らは解析的な種類のモデルを使用した。そのモデルで検討されたプロセスは数式を用いて再現されている。しかしながら、解析モデルを通じて核戦争を多少なりとも正確に記述する作業は絶望的であることが専門家の間ではよく知られている。
非常に多くの要因を考慮に入れなければならない。たとえ誰かがこれらの要因のそれぞれに関して数式を提供することができたとしても、それらを統合して複雑なプロセスの枠内でひとつの作戦とすることは不可能だ。
如何なる場合においても、「ひとかたまりとなった解析」を正確に評価することは想像以上に困難である。われわれはそのような研究には解析的模倣モデル(SIM)が好ましいと考える。
リーバーとプレスはこの困難さを十分に認識していたという事実は彼らの計算にはたったふたつの簡単な数式が用いられているだけであることからも明らかだ。そのひとつはロシアの任意の標的に与えられる「致死距離」を算出する数式で、もうひとつは米国の選ばれた弾頭に関する「一発だけで破壊する確率」を計算する数式である。彼らはロシアの目標を即時に破壊するプロセスをモデル化しており、具体的に一対の「核弾頭目標」となるような種類に関してだけである。著者らは次のような人工的な図式を提案している。つまり、米国の弾頭はロシアの目標に近い位置に「存在」し、時刻「X」の時点にすべての弾頭が同時に爆発するとしている。個々の評価結果がどのようにしてロシアの全核戦力に関する結果を示す表に集約されるのかは彼らの説明からは明らかではない。
したがって、ひとつ言えることは著者らは核戦争という巨大な過程の中の最後の小さな部分について模擬試験をしようとしたに過ぎない。他の多くの非常に深刻な要素は彼らの研究の範囲外に残されたままだ。したがって、下記の事項が間違いなく遂行されるという可能性が100%もあるとは誰しも想定するべきではない。
a) 当直の米軍兵士全員が先制核攻撃の組織的構造(引用した文書にはこの組織構造は明らかにされてはいない)にしたがって発射命令を厳密に実施することは可能か。すなわち、米国の先制攻撃という現実の作戦では人的な要因が決定的に重要となる。当直の米軍兵士全員が一点の曇りもない平和な日に果たしてロシアに対して核ミサイルの発射ボタンを押すことができるのだろうか?
b) ロシア側はLoWまたはLuAの反撃の何れについても実行することができない。先制攻撃の変形は幾通りもあり得るが、それぞれに関してこのようなシナリオが妥当かどうかを考慮しなければならない。たとえば、米国のすべての核弾頭が同時に発射された場合は、それらが攻撃目標に到達する時間はまちまちだ。そうすると、ロシアは核爆発があったという情報を反撃のために用いることが可能となる。それどころか、もし先制攻撃の核弾頭がそれぞれの目標に到達する時刻が同一時刻であるとすると、米国の核弾頭に必要な全飛翔時間は十分に長くなり、これはロシア側が米国からの最初の発射を探知する上でより大きな可能性を与えてくれることになる。
c) ロシアの核戦力は皆が惰眠を貪っている。先にわれわれが述べたように、米国が先制核攻撃の準備をしていることがほんの少しでも検知されると、ロシアの戦略核戦力の一部は速やかに戦闘即応性を高める作業に入る。こうして、ロシア側の核戦力が無傷のまま残る可能性はリーバーとプレスが想定したレベルよりも遥かに高くなる。
d) ロシアの核戦力司令部(C3)の破壊。著者らは同司令部は完璧に破壊されるとしている。しかしながら、ロシアのC3のある部分は米国の先制攻撃の後でも無傷で残っている核ミサイルのすべてを用いて反撃することが可能だ。
リーバーとプレスが用いている先制攻撃の結果に関する「固定された」評価は根本的に不正確であることに留意することが非常に重要である。彼らの論拠には自分たちが言っていることとの矛盾がある。一方では、これらの試算は全てが95%の信頼区間に収まっていると彼らは言う。そして、他方では、残る5%の区間に残っている「非典型的な」結末に関しては彼らは何も論じてはいない。しかしながら、これらの「非典型的な」結末こそが、表4(モデルの評価結果)および図1-3に示された他の結末に比して、先制攻撃のリスクを評価する上ではより重要となる。
偶発的な性格を帯びる過程についての普通の研究では、通常、もっともあり得そうな結果を評価のために供することは正しい。また、非典型的な結果は無視する。リーバーとプレスはこれを核戦争のモデルに用いた。方法論上、これは深刻な間違いである。
核戦争がもたらす他には比べようもない結末はまったく反対の取り組みが必要となる。われわれは、たとえそれが非典型的なものであろうとも、もっとも在りそうもない結果を基にリスクの評価を行う義務がある。リーバーとプレスはまずはこの5%の部分を究明しなければならない。ところが、彼らはこの部分を無視してしまった!この計算には何百万人もの生命が含まれ、文明が滅びてしまう確率は非常に高い。このことを軽々しく扱うことはできない。
彼らはこう書いている。「核による反撃の可能性が100%を遥かに下回る場合、反撃が予測されるほとんどの国は反撃を思いとどまることだろう。しかしながら、批評家たちは第一撃には不確実性が付いてまわり、いかなる程度の不確実性であってもそれ自体が強力な抑止効果を持つと想定することによって、彼らは判断を誤る。敵国の地上核戦力を成功裏に破壊する可能性が95%もある国が成功率が10%しかない国と同じように用心深く行動するだろうと信じるに足る演繹的な根拠は存在しない。」
われわれの見解では、これはリーバーとプレスの見解の中では最大級の間違いである。決定的な要因は反撃によって引き起こされる受け入れることができない結果、すなわち、攻撃国自身が生存できるかどうかの問題である。これは確率や規模とは無縁だ。これは、モデル化で予想されるすべての結果の中で受け入れることが出来ない結末の確率は必ずしも決定的な役目を演じないからである。核戦争が実際に起こってしまうと、計算された結果のどれもが計算通りの結果を引き起こす。それは1回だけのことであって、複数回起こることはない。実際の核戦争が起こるのは一回だけであるからだ。
1987年に、米国の専門家がこう述べている。劇的に大きく異なるような結末は断じてあり得ないが、予測される結末以下の事象は起こり得る。予測される結末がもっとも起こり得ると考えられるだろうが、もっとも不吉なことにはそれらは起こらないかも知れない… しかし、ほとんど確実に起こり得そうなことは作戦企画担当者が気付いてはいないような「まったく未知の事象」が起こる。(出典:Managing Nuclear Operations, by A.Carter, J.Steinbruner and C.Zraket, 1987, p.612
最後に、リーバーとプレスは自分たちの結論が正しいことを確認するために頻繁過ぎるほどに歴史を引用している。彼らが提唱しているように、彼らは「冷戦」の経験から「米国の核攻撃の可能性は完全に捨てることはできない」と信じるようになった。しかしながら、歴史に類似点を見出そうとすることは常に危険を伴うとわれわれは思う。この議論においては、まったく許容できない。少なくとも、そのような結論は科学的な論拠を述べる基礎としては用いるべきではない。
われわれの結論:
数学的モデルやモデル評価の取り組みに見られる欠点から判断して、われわれはリーバーとプレスが導き出した主要な結論は正しくはないと思う。米国は、自国にとって受け入れることができないような損害をもたらすこともなしにロシアの核戦力だけを破壊することは不可能だ。われわれは自信をもって言いたい。米国もロシアも将来相手国に対して「核戦力の優位性」を確立することは決してない。
しかしながら、この究極の課題を適切に解決するためには、米国とロシアの専門家で構成された共同作業部会を設け、核戦争に関して現在および将来考え得るシナリオをモデル化する任に当たらせるべきである。こういった作業部会は、両国の安全保証に害を与えることもなく、既知のデータやさまざまな条件についてのデータの助けを借りて、運営することが可能である。そして、この共同作業の結果は一般に公開しなければならない。
米国とロシアが核戦争に突入した場合両国はお互いに生き残ることはあり得ないことから、核戦争は断じて始めてはならないということを永久に肝に銘じておくことが大切だ。
<引用終了> 

上記に引用したロシア側の反論を見ると、頷ける点がいくつもある。つまり、米国側の論理上の欠点が詳しく述べられており、両国が全面的な米ロ間の核戦争をそれぞれどのように捉えているかをかなり正確に理解することができる。特に、生態学的な考察ではロシアが示した論拠はわれわれ素人が知っている「核の冬」で表現されている相互確証破壊が明確に取り上げられている。
米国が言う「一方的に相手を叩く」というシナリオは一握りの軍人たち、あるいは、軍産複合体の夢想でしかないのではないか?特に、この論拠がブッシュ政権の頃に発表された事実を考えると、「米国の核戦力の優位性」の著者らは軍産複合体とブッシュ政権のために記述したものだと言えるような気がする。
2006/2007年のこれらのやり取りが米ロ間で行われた後さらなる論争の展開はあったのだろうか?
米ロ両国は相互確証破壊を正しく認識して欲しいものだ。政策立案者である議員や政治家は特にそうだ。また、われわれ一般庶民も本件を良く理解して、一部の政治家やメデアによる宣伝に惑わされることがないようにしなければならない。
「無知な政治家によって主導される無知な庶民」という構図はあってはならない! 

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617日、「米国のミサイル防衛システムは400億ドルもかけたというのに無用の長物だ」と題された記事が現れた。
要するに、これは今まで10年もかけて何回となく実射試験を行い、何回も失敗してきたが、またもや失敗したことについての報告である。通常、実射試験というものはうまく事が運ぶように準備される。それでも失敗が繰り返されているのだ。
この詳細については別途報告をしたいと思う。
 

参照:
1Nuclear “Primacy” is a Fallacy: By Valery Yarynich and Steven Starr, Global Research, Mar/04/2007

 

2014年6月13日金曜日

遺伝子組み換え食品による著しい炎症反応 - 豚を使った試験で


最近、「豚を使った大規模な研究によると、遺伝子組み換え食品によって著しい炎症反応が起こる」と題した記事 [1] が目についた。
この研究を行った研究者は、遺伝子組み換え食品の安全性に関して研究を行う場合、遺伝子組み換え種子を生産する企業の思惑から完全に独立して研究を始めることが結構大変であると報告している。どうしてか?それは、遺伝子組み換え種子を入手することがそう簡単にはできないからだ。バイオテク産業は自衛のために、どちらかと言うと、外部に対しては非常に高度で巧妙な制御機構を設けており、これによって彼らの製品が独立した研究に供されることがないように備えている。
研究者の立場から彼女は下記のように言っている。
『農家の人たちが作付けのために必要な種子を購入する場合、購入者は「技術使用者合意書」に署名しなければなりません。購入した種子に関して購入者が何らかの研究をすることは許されず、研究のために他人へ譲ることも許されないのです。基本的には、何か別の合法的な方法を模索する必要があります。私たちはそうしました。でも、かなりの時間が必要となりました。種子の入手の進め方としては、業界へ出向いて、「種子を少し分けていただけませんか?」と依頼する必要があります。私たちもそうしてみました。しかし、種子を入手したい私たちに提示された条件を見ると、ほとんどの場合、企業から公正に種子を入手できるような条件ではなかったのです。』
著者の言によると、「種子を入手するために企業側が私たちに提示した条件は、ほとんどの場合、企業から公正に種子を入手できるような条件ではなかった」という。著者は「公正に」と表現しているが、これは実際には何を意味するのかと言うと、「種子を生産する企業から独立した研究を行い、それをは発表する」ことが著者の最大の目標であることを考えると、研究結果を専門誌上で報告する段階で企業側から何らかの干渉があるかも知れないということだ。たとえば、遺伝子組み換え(GE)種子の企業にとって不都合な結果が出た場合、科学的な試験結果さえもが改ざんされる懸念がつきまとう… 著者は、そういった状況を避けながら研究用の種子を入手することは現実にはなかなか困難だと言っているのだ。 

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多国籍企業を相手にして、この研究者は頑張って研究を継続した。彼女の努力に関してその詳細を読むと、われわれのような部外者にとってはまさに目を見張るばかりである。この記事はこの研究者の体験や意見をふんだんに紹介している。
それでは、この記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。現在の種子産業を取り巻く現状を学んでみようではないか。
 
<引用開始>
もしあなたが私と同様の立場にあったならば、多分、あなたも友人や親戚の人たちから「どうしてGE食品は安全ではないと考えるのか?」と度々質問されているのではないだろうか。ジュデ・カルマン博士はこいった質問を注意深く、そして、独立した立場で評価を行った、世界でも非常に数少ない研究者のひとりである。あなたの友人や親戚の人たちに対して返事をする際、彼女の報告は大きな手助けになることだろう。 
カルマン博士は疫学と医学のふたつの分野で学位を持ち、特に栄養学的な生化学や代謝調節と癌との関連性を専門としている。GE食品に関する彼女の研究によると、自分自身の健康を重要視し、子供さんたちの健康を守りたいとするならば、GE食品を避けることが非常に重要だ。そのことを示す証拠が見つかったのだ。
彼女の専門的な背景には癌の研究が含まれ、オーストラリア政府では上級疫学者として勤務し、伝染病の発生に関する調査にも携わった。現在、彼女は南オーストラリア州のフリンダース大学の准教授であり、健康と環境に関する研究所(IHER)の所長を務めている。
遺伝子組み換え生物(GMO)に関して独立した研究を行おうとする研究者には数多くの難題が…
GMOの影響を研究する研究者のひとりとして、カルマン博士はこの種の研究にまつわる数多くの難題について、「我関せず」として自分を素通りさせてしまうことはできなかった。バイオテク産業は自衛のために、どちらかと言うと、外部に対して非常に高度で巧妙な制御機構を設けて、これによって彼らの製品が独立した研究にさらされることがないようにしている。
「その通りです。研究をしようとする人にとってはさまざまな困難がつきまといます」と彼女は言う。「通常は、研究を実施するための資金の確保に集中します。でも、試験の対象である材料を確保しなければなりません。この場合は、遺伝子組み換え種子となりますが、試験用のGE種子を入手すること自体が結構難しいのです。」 
『農家の人たちが作付けのために必要な種子を購入したい場合、「技術使用者合意書」に署名しなければなりません。購入した種子に関して署名者が何らかの研究をすることは許されず、研究のために他人へ譲ることも許されないのです。』 
『基本的には、何か別の合法的な方法を模索する必要があります。私たちはそうしましたが、かなりの時間が必要となりました。他の手法としては、業界へ出向いて、「種子を少し分けていただけませんか?」と依頼する必要があります。私たちもそうしてみました。しかし、種子を入手するために私たちに提示された条件は、ほとんどの場合、企業から公正に種子を入手できるような条件ではありませんでした。』
研究対象のGE種子は特許法によって固く守られていることからハードルが非常に高いことに加えて、GMOの研究を目指す研究者はその研究領域で個人的、ならびに、専門的にさらされるかも知れない信用の失墜や嫌がらせに対して十分に備えておかなければならない。 
偽りなく、この種の研究を行う人は聖人に近いに違いないと思う。と言うのは、GMOについて否定的な研究結果を公表することは、現実には、自分たちの研究結果にわざと「汚名を着せる」ようなものだ。 ほとんどの場合、研究者は個人攻撃や中傷に耐えなければならなくなる。また、このような過程で自分の専門的職業をはく奪された研究者が多く存在する。
たとえば、カルマン博士は、過去6年間に、大学での地位をはく奪されそうになったことが6回もあるという。このインタビュウで彼女が後に述べているように、彼女はこの研究ではこういったことが起こるかも知れないということを知っていたからこそ、自分の身を守ることができたのだ。彼女は給料を貰うことを辞退し、その研究に対して助成金を受けることを辞退したほどだ。
研究のための資金を得ることは大きな難題だ。これらの研究を行う農業大学の多くはよりによって種子を生産する企業から研究資金を得ている。大学側にとっては産業界との間にある資金を潤沢に入手できるこの関係を台無しにしてしまうような研究にはおよそ興味が沸いてはこない。カルマン博士の場合、幸せなことには、彼女のチームには南オーストラリア州政府から研究資金を取得することができた。
どうして業界の安全性評価では本当のことを見出すことができないのか?
米国の養豚場で育てられている豚は、今日、多くの場合はGE飼料が給餌される。典型的には、GE大豆とGEトウモロコシの混合物である。この研究論文の共著者であるハワード・ヴリージャーはGE飼料で育てられた豚には、非GE飼料で育てられた豚と比べて、違いがあることを認めていた。こうして、彼はこの研究を熱心に推奨するひとりとなった。カルマン博士はどうしてこの研究を始めることになったのかを下記のように説明している。 
「彼はふたつのことを発見していました。GE飼料を給餌された豚は腸に問題を引き起こします。特に、胃にひどい炎症を引き起こしていました。また、腸管の壁が薄くなって、大腸からの出血を起こして15分程度で失血してしまうのです。
彼のもうひとつの発見はGE飼料を給餌された雌豚は受胎率が低下し、流産の率が増加するという点です。今でも雌豚にイノシシを交雑させている米国の養豚産業の地域においては生まれてくる子豚の数が減少していることを彼は発見していたのです。」
彼らはこうした現象についてもっと詳しく観察することにした。カルマン博士はGE食品の安全性に関してGE 食品業界が行う試験方法については卓越した批評家でもあることから、彼女は自分が行う試験の方法も非常に慎重に扱った。
一般的に、業界が行う安全性試験はふたつのグル-プに大別される。
1.  カルマン博士によると、業界が言うところの「安全性の評価」とは家畜の生産性を研究するだけであって、それ以上のものではない。かなり多くの家畜を用いて、彼らはひとつのグループにはGE飼料を給餌し、他のグループには非GE飼料を給餌する。
しかし、業界の研究者が求めようとする試験の結果は典型的には人の健康とは無関係である。これらの研究は、基本的に、このGE飼料を家畜に給餌した場合家畜を市場へ送り出すまでの長い期間を家畜が生存し、立派な成果を上げるということを畜産農家のために立証しようとするものだ。
2.  2番目のタイプの研究は畜産物製品が人の健康に悪影響をあたえるかどうかを見る動物試験である。GMO業界においてはこの種の研究が行われることは非常に稀である。通常、この種の研究に供される家畜の数は少なく、GE飼料が給餌される。時には、研究対象であるGE飼料を給餌しないこともある。その代わりに、「有効成分」が用いられる。そのような場合には、そのGE飼料に組み込まれている特定のタンパク質が用いられる。
たとえば、少数の動物にGEタンパク質が与えられ、一回の投与によって7日間とか14日間の間にどのような影響が生じるかを記録する。その動物(通常はネズミ)が死亡しない場合はすべて良しとする。これでは余りにもひどいと思うかも知れないが、時にはこういった手法が業界が実施する安全性評価の試験であったりする。さらに驚くべきことがある。試験に供されるたんぱく質は実際のGE作物から得たものではなく、同たんぱく質を生産するバクテリアから得たものであったりする。カルマン博士が特記しているように、このような試験では何年にもわたって、あるいは、生涯にわたってGE作物を摂取した場合の長期的な健康影響を見出すことは不可能だ。
統計的な有意性を求めて
カルマン博士のチームはネズミの代わりに豚を用いることにした。GE飼料を給餌された豚にはすでに悪影響が認められていた。そして、豚の消化器系は人の消化器系と非常によく似ているのだ。実際に悪影響があるとすればそれらが見つかるようにと十分に長い期間にわたって給餌することにした。子豚が乳離れした時点から、子豚を無差別にふたつのグループに分けた。ひとつのグループにはGE飼料が給餌され、他のグループには非GE飼料が給餌された。これらの豚には同一の飼料が商業的な寿命期間(約5か月)の間ずっと給餌された。
豚がすっかり成長し切った時点で、業界基準にしたがって食肉処理された。本研究に従事する人たちは、最後の段階で解剖を行う獣医も含めて、全員が目隠し処理を受けた。つまり、どの豚がどちらの飼料を給餌されたのかは誰にも分からない様にして、すべての作業が進められた。2年前に、全寿命期間にわたってGEトウモロコシ飼料を給餌するこの動物試験が実施されたが、それによると、乳腺腫瘍、腎臓や肝臓の損傷、早期死亡、等を含む深刻な健康障害が起こることが判明した。

ギレス・エリック・セラリーニによって率いられた例の研究はグリホサートの影響を分離して抽出しようとした。そうするために、ひとつのグループのネズミにはグリホサートを噴霧してはいないGEトウモロコシを与え、他のグループにはグリホサートを噴霧したGEトウモロコシを与えた。そして、もうひとつのグループにはグリホサートの水溶液を与え、GE飼料は与えなかった。すべてのグループに深刻な健康障害が発生したが、グリホサートとGEトウモロコシとの組み合わせが最悪の結果を示した。 

「私の考えでは、統計的な有意性を見い出すためには彼はもっと多くの動物を使うべきでした。」と、カルマン博士は言う。「その点こそが私たちの豚の研究で実行したことなんです。数多くの豚を使えるように私たちは手配しました。もし生物学的に有意な何らかの事象が起こった場合、その事象を統計学的に抽出できるようにしたのです。全部で168頭の乳離れしたばかりの子豚を準備しました。それらの子豚をふたつのグループに分け、ひとつのグループにはGE飼料を給餌し、他のグループには非GE飼料を給餌しました。各グループは84頭です。これによって、大きな違いが現れました。より複雑な統計処理を実施することが可能となったのです。事実、われわれが使った統計処理の枠内でいくつかの仮定をさらに掘り下げることができた次第です。」
消化器系の炎症が有意に生じることが豚を使った動物試験によって判明
嘆かわしいことには、現実に豚に給餌されるGE飼料は一種類だけではない。すでに述べたように、典型的にはGE大豆とGEトウモロコシの組み合わせである。カルマン博士は、ふたつの互いに違うGEトウモロコシの他に、ラウンドアップ耐性大豆(ラウンドアップという除草剤に耐性を持つGE大豆。これを作付すると、除草剤は周囲の雑草のみを退治し、このGE大豆には影響を与えない)を飼料として準備した。「私たちは3種類のGE遺伝子を給餌し、それらのたんぱく質を含む飼料を同時に与えたことになります。」と、彼女は説明した。
この組み合わせは、伝統的な養豚場では何種類かのGE飼料が用いられていることから、一種類だけのGE飼料を用いるのではなく、米国で通常用いられている給餌法をモデル化するためのものでもあった。GE飼料としては「ラウンドアップ耐性」や「Btバチルス・チューリンゲンシ)」といったそれぞれ異なる種類があることに加えて、米国ではGE飼料の37%は「二種類以上の遺伝子」が同時に組み込まれている。これらにはラウンドアップの耐性だけではなく、さらにもうひとつ、あるいは、ふたつのBt遺伝子が組み込まれている。つまり、米国における典型的な飼料においては、2種類あるいは3種類の遺伝子が組み込まれた飼料を給餌することは極めて当たり前のことだ。
「これらの豚はラウンドアップ耐性遺伝子とそのタンパク質製品、および、2種類のバチルス・チューリンゲンシス遺伝子とそれらのたんぱく質製品を食べたのです。後者は殺虫効果を持ったたんぱく質を生産することを目的としたものです。強度な消化器系の炎症が生じることを発見しましたが、これはこれらの動物が食べたタンパク質の間に生じた相互作用のせいではないかと考えていますと、彼女は述べた。 
本研究の結果、カルマン博士のチームはGE飼料を給餌された豚の胃には深刻な炎症が有意に増加することを発見した。全体としては、GE飼料を給餌された豚では炎症の発生が2.6倍も高まり、雄豚は雌豚よりも炎症の発生率がより高かった。雌豚の場合はGE飼料を与えると深刻な胃の炎症は2.2倍となり、雄豚の場合は胃の炎症は4倍にもなった。
『私が「深刻な」という言葉を使う場合、この言葉は、胃が腫れあがって、胃の表面全体がサクランボのように真っ赤になった状態を指しています。このような胃の状態は私にとっても、あなたにとっても、決して望むべきものではありません』と、彼女は言う。
ご自分でこの研究結果を詳しく覗いてみたい方はGMOJudyCarman.orgへアクセスして欲しい。GE飼料を給餌された雌豚の子宮は25%も重量が増加していた。これらのふたつの発見事項はそれぞれが生物学的にも統計学的にも有意である。カルマン博士らは論文中でこの種の子宮の肥大が示唆する病状に関して論じている。  

「私たちが注目していたふたつの事項がここに報告されています。また、ハワード・ヴリージャーが問題として提起した家畜に関するふたつの事柄は、特に、豚に関してですが、統計的には有意であることが分かりました。(1)消化器系の問題、特に胃の炎症、ならびに、(2)生殖能力に関してです。今回の研究では、子宮の肥大が観察されました」と、彼女は言う。  

一旦商業化されたGE作物はもう中止することができないのか? 

人々がGE食品を長期にわたって摂取した場合、健康障害が劇的に増加するのではないかと私は思う。私自身が努力して達成したいことは何としてでも被害者の数を減少させることだ。私が推奨したいことは明白である。GE食品を避けることに尽きる。GE食品のラベル表示が行われてはいない国では、GE食品を避けるためには証明書付きのオーガニック食品を購入することだ。ラベル表示がない国では、あなたの選択肢として残されているのはそうすることだけで、他にはない。  

カルマン博士が記述しているように、化学業界はGE製品を食品として供給する前に安全性に関して十分に立派な仕事をして来たとはとても言えない。不幸なことには、何億人もの人たちがすでにリスクにさらされている。また、そのリスクを認識することもなく、安全性に関しては非常に疑わしいGE食品を毎日のように子供たちに与えているのが現状だ。多分、すでに何年にもなっている。 

米国では、慢性疾患の増加に対して、特に、子供たちの慢性疾患の増加に対してGE食品が貢献しているのではないだろうか?業界は「ノー」と言うが、さまざまな証拠を見ると、それらはまったく別のことを語っている。人の寿命は約80年だ。GE食品というこの巨大な実験が始まったのは20年前のことである。GE作物が加工食品にふんだんに使用されるようになった時期から数え始めるとこの期間はもっと短くなる。被害者の数を表にして掲げることができるようになるまでには今後何十年も必要となるだろう。このことこそが安全性の評価のためには長期にわたる動物試験を是非とも行なわなければならない理由である。人の寿命に比べて、ネズミや豚の寿命ははるかに短い。  

科学的な反論を否定 

セラリーニ博士ならびにカルマン博士の研究は、われわれは予防原則を実践し、GE食品を避けなければならないことを示唆している。言うまでもなく、これらの作物を開発した化学会社はビジネスを保護し拡大しようとしており、自主的に自分たちのビジネスを閉鎖しようとはしない。利益を守るためには彼らはどんな苦労も惜しまないということがすでに証明済みだ。一介の研究者の名声や生計を破壊することなどはモンサントのような多国籍企業にとっては巨大な計画を実行する上で何の苦痛にもならない。 

「コルベット・リポート」は、産業界が自分たちの決定に対して異論を唱える科学者を黙らせようとして用いるいくつかの不名誉な手法を論じている。特に業界があらかじめ考えた内容と合致しない研究を行った科学者がその対象だ。業界の利益に損害を与えるような研究を発表した研究者は産業界の犠牲となり、そのリストはすでに結構長く、今後もさらに長くなるばかりだろう。
上述したように、セラリーニが試験動物の生涯にわたって給餌を行った研究から得た知見は論文審査が行われているエルゼビア社の専門誌、「Food and Chemical Toxicology」に発表された。これは驚くべき内容であった。この研究はGE食品の毒性を示す強力な証拠であった。また、今でもそうである。セラリーニの研究でもっとも重要な点は実験開始から13ヶ月目になってからさまざまな病気に見舞われるということを発見したことだ。一方、業界が資金を提供した研究では、あまりにも短かい期間での研究であることから問題が表面化することはなかったのだ。次のことを考えて貰いたい。ネズミの寿命は24ヶ月である。これをあなたのお子さんの寿命である80年と比べてみよう。ネズミの13ヶ月はあなたのお子さんの40歳代の始めから中頃に相当する。
業界は直ちに反撃に出た。厄介な研究結果は排除するという意味では、最後の砦とも言える状況が出現した。出版者であるエルゼビア社が論文を撤回したのだ。セラリーニの研究で得られた知見は「決定的ではない」との理由だけだった。知見が決定的ではないというだけでは論文の撤回の理由としては有効ではない。エルゼビア社の行動は大きな反発を引き起こし、「招かれざる」研究結果に対しては検閲をかけるという現実は、少数とは言え、識者の目を見張らせるには十分だった。国立衛生研究所さえもがその「決定的ではない知見:それらを見たが、もう見ることができない!」と題する社説でエルゼビア社を叱りつけた程だ。
嫌がらせ、良くあること
特定の研究者が正常な心の動きを維持できるぎりぎりの限界まで嫌がらせを受けた好例はタイロン・ヘイスでなないだろうか。彼が行ったアトラジンの研究は彼の人生を被害妄想の悪夢に変えてしまった。レイチェル・エイヴィヴが210日発行のニューヨーカー誌の記事で彼の悪夢について報告した。1990年代の後半、ヘイスはある除草剤に関してそのメーカーであるシンジェンタ社のために実験を行った。
エイヴィヴの報告によるとこうだ。
アトラジンはカエルの性的発達を損なうかも知れないということをヘイスが発見した時、彼のシンジェンタとの付き合いはぎくしゃくしたものに変わって行った。2000年の11月、彼は同社との関係を断った。ヘイスは独自にアトラジンの研究を続けた。間もなく、ヘイスはシンジェンタの代理人が国際会議に出席しようとする彼を世界中何処でも追跡していると確信するに至った。自分の名声を破壊しようと同社が行動を起こしたのではないかとして、彼はひどく心配した。
今から2年前、アトラジンに関する彼の研究はシンジェンタ社に対して米国の23の地方自治体が起こしたふたつの集団訴訟において科学的な根拠として採用された。これらの訴訟は同社が「アトラジンが持つ危険性を隠匿した」ことによって飲料水が汚染されたとして訴えを起こしたのである。これらの訴訟手続きの間に、ヘイスが抱いていた心配は事実であることが関連文書によって判明した。確かに、同社の有毒な除草剤を過去15年間にわたって真剣に研究していたヘイスについて、シンジェンタ社も負けず劣らず彼のことをあれこれと調査していたのである。
その後、事態は誰にも耐えることができないような、身の毛がよだつような状況にさえ達した。広く使われている除草剤に関してひとりの科学者が研究を行い、そこで得られた真の情報を皆と共有しようとしていた。何と言っても、この除草剤は強力で、われわれの誰に対してでも、また、生態系に対しても影響を与え得るのだ。
エイヴィヴの報告はこう述べている。
シンジェンタの対外宣伝チームは四つの目標を書き留めていた。まず最初の目標は「ヘイスの信用を崩すこと。シンジェンタの対外報道担当のシェリー・フォードのスパイラルノートに書き留められている内容によると、彼女はヘイスのことを彼のイニシャル(TH)だけで引用し、「彼は信用できないのでTHのデータが参照されることは阻止する」と記している。シンジェンタは「ヘイスの失敗や問題点を悪用する」手立てを探ろうとした。「THが何らかのスキャンダルを起した場合は、世間は彼を見捨てる」とフォードが書いている。ヘイスはノースカロライナで育っているので、「ノースカロライナは彼を受け入れることはないだろう」、「誇大な賞賛が必要」、「眠れない」、「生涯にわたる疵」、等が彼女の記録の中に見られる。「一体何が彼にやる気を起こさせているのか? - これが基本的な問いだ」とも記している。
あなたは誰の言葉を聞くべきか? 大企業?それとも、企業からは独立して自由に研究を行っている研究者が言うこと?
自分の同僚からは疎外され、個人的あるいは職業的な名声に泥を塗るような、あるいは、ことによると将来の家計さえもが破壊されるかも知れない研究であるのに、研究者にとっては一体何が研究に駆り立てているのであろうか?カルマン博士の場合は、それは真実を見出そうとする情熱だ。そして、人間同士に対する深い思いやりだ。これにはあなたご自身の子供たちやまだ目にしたこともない孫たちも含まれる。彼女は自分の収入の道を閉ざし、職場での嫌がらせに耐え、真実を追求した。まさに彼女はわれわれ全員にとって立派な手本となるような存在だ。
そうした研究を行うことにはリスクが付きまとうことを彼女は十分に心得ていた。この専門分野の研究者たちは否定的な知見を公表することになった場合、仕事から追放されることがあることを彼女は認識していた。こういった科学者たちは世間では恥を忍び、失職し、将来の研究からは排除されかねない。この種の可能性を回避するために、カルマン博士は前向きに対処し、何らかの反発があってもそれが彼女の仕事を中断することがないように備えたのである。
「当初は資金がまったく集まらいことは明白でした。この分野では研究を開始するために資金援助をする団体へ出向き、必要な資金を入手することはまず不可能です。人の健康に悪影響を与える可能性があることから、私はそれを心配していました。しかし、どうしてもじっくりと観察する必要があると決心しました。動物に悪影響が認められた場合、そのような知見が人に対しても適用できるかどうかを見極めることが可能な動物実験を実施することが必要でした。」
「それを実現するには給料を貰える雇用関係からは離脱しなければならないと自覚しました。事実、この研究では外部からは資金の提供は受けてはいません。45歳になっており、私には十分な投資利益があり、基本的には無料でこの研究を続けたのです。経費も僅かでした。数年間は貧乏暮らしを続けました。でも、研究は不可避でした。遺伝子組み換え作物は食用に供することができるのかという火急の課題を私は抱いていたのです。
多くの人たちは研究を継続するよりも、むしろ、自分の家族の面倒を見ることを選択することでしょう。この研究を実施するための資金を得ることは困難であるばかりではなく、研究の後にやって来る嫌がらせ対して生き延び、将来の生計に対する脅威に打ち勝たなければならないのです。事実、この分野で研究をしている人たちの多くは賃金を得る雇用関係からは離脱しています。そうすることによって、生計に対する脅威を受けないようにするためです。」 
資金源を追う
20年前にGE種子が導入されてからというもの、これらの化学品依存作物の市場は何十億ドルにも達する産業を生み出した。より多くのGE作物の開発のために必要な資金は主に民間の殺虫剤業界から流れて来た。この15年間、科学の領域における利害の衝突は指数的に増加している。現時点では、どのような研究を行うべきか、どのような情報を公表するべきか、どういった情報は公表しない、といったさまざまな点に関して利害の衝突が起こっており、それらが主役を演じている有様だ。
GE作物に関して実施された研究はすべてが産業界、あるいは、農業大学に対して直接あるいは間接的に与えられた資金によって支えられている科学者たちによって行われている。したがって、結果がどのようなものになるのかは予想可能だ。科学者としての適格性を十分に備え、かつ、「十字架を背負う」覚悟ができている人は現実には非常に少ない。でも、この現実はあなたが独立した研究者としてGE作物を研究する場合、今や、標準的なものであるとも言える。
科学に対する私の賞賛は是非ともカルマン博士にお送りしたい。ここに紹介した非常に重要な研究は彼女の個人的な犠牲を通じて初めて可能となった。この研究が行われなかった場合、これらのGE食品が長期的にはわれわれの健康にどのような影響を及ぼすのかに関してはまったく何も知らされずに、何の手掛かりもなしにGE食品が横行し続けることになる。誰も告げることのなかったこの大規模な人体実験の悪影響に関して、今や、われわれはこの研究成果に基づいて十分に根拠のある推測をすることが可能となった。また、GE食品を受け入れるのかどうかを自分で決定することも可能となった。私の側からのお勧め?もちろん、GE食品は出来るだけ避けたほうがいい。
毎日支払うお金を通じて自分たちの選択をしよう
下図 [訳注:図は割愛しています…] の左側の欄に列記されている食品関連の会社はカリフォルニアとワシントンの両州で行われた「食品ラベル表示」運動に反対して何百万ドルものお金を注ぎ込んだ企業である。つまり、あなた方の食品に何が含まれているのかをあなた方が知ることがないようにと彼らは目論んでそうしたのだ。 [訳注:図中に掲載されている主だった団体や企業を挙げると、アメリカ保存食品製造者協会(GMA)、モンサント、デユポン、バイエル、ダウ・アグロサイエンス、BASFプラントサイエンス、等。] 右側の欄に示す各種のブランドに乗り換えることによって、スコアを平坦にすることが可能だ。 [訳注:現状では、巨大企業側にスコアが偏ってしまっている。] 右側の欄に示す企業は「I-522知る権利」の運動に参画してくれた企業だ。個々の食事毎にあなたのお金を使う相手を選ぶことが重要だ。そうすれば、大きな違いがやがて現れてくる。GMAのメンバーであり反逆者でもあるブランドをボイコットすることによって、生活の場に存在するデコボコを平坦にし、自分たちが食べる食品に関する制御権を自分たちの手に取り戻すことができる。
遺伝子組み換え食品に関しては引き続き自己研鑚をするようお勧めしたい。ご自分が学んだ内容を家族や友人たちと共有して欲しい。あなたが手にする食品が証明書付きのオーガニック食品ではない限り、砂糖大根由来の砂糖が含まれていればその食品にはGE食品が含まれていると想定することが妥当だ。大豆やトウモロコシについても同様である。
<引用終了> 

世界は、目下、遺伝子組み換え食品を受け入れるのか、受け入れないのかで大きく二分されている。世界中で約60か国が遺伝子組み換え食品にはラベル表示を義務付けている。中には、遺伝子組み換え食品を禁止している国もある。米国はその何れでもない。この米国の現実がここに引用した記事の著者に米国では「誰も告げることのなかった人体実験」が進行していると言わせた。
日本ではGE食品原料の記載が義務付けられている。しかしながら、産業界からの抵抗圧力が高くなる一方で、このままでは消費者の安全性が無視されてしまうのではないかとする懸念がいや増しに高まっている。
カルマン博士の献身的な研究によって、自分たちが食べるGE食品は長期的には健康障害を起こす可能性が高いことが初めて判明した。これは掛け値なしに画期的な研究であると言えよう。この研究を突破口として、第二、第三の研究が続いて欲しいと思う。
また、GE種子の業界が見せてきた商業的倫理は最悪だ。上述のように、今、その実態がカルマン博士や他の献身的な科学者によって明らかにされ、衆人の目にさらされつつある。
日本の大手メデアでは報道されてはいないかも知れないが、この種の情報はインターネットで容易に入手できる。ただ情報源が英語であるので、翻訳が必要となる。毎日が日曜日である私の出番が回ってきたと自覚した次第だ。 

♞   ♞   ♞
 
日本における遺伝子組み換え食品のラベル表示との関連性をここでちょっと考えてみたい。
環太平洋経済連携協定(TPP)が成立した暁には、米国の企業は下記のように主張するのではないだろうか。
「日本の食品表示に関する法律は米国の企業にとっては非関税障壁となっている。そのせいで自分たちはこれだけの経済的損害を被っている。ついては、TPP条約に規定されているISD条項に基づいて日本政府はこれだけの賠償を支払って欲しい…」といった訴訟が今後現れるかも知れない。
あるいは、日本の国内法規を変更して表示義務をなくすようにと米国は日本政府に圧力をかけてくるのかも知れない。
以前のブログで私の個人的な意見として「米国にとってはTPPとは日本の富を収奪するための手段である」と記した。
食品のラベル表示だけを取り上げても、米国がやろうと思えば何十億円、何百億円もの賠償金額を日本政府から奪い取れるのではないかと推測される。それはあなたや私が収める税金からだ。これで成功した暁には、味をしめて他の分野でもISD条項を適用することによって次々と富の収奪が繰り返されるのではないだろうか。そのような状況が起こることは米国、カナダ、メキシコによる北米自由貿易協定(NAFTA)で証明済みだ。
 

参照:
1: Large Pig Study Reveals Significant Inflammatory Response to Genetically Engineered Foods By Dr. Mercola, May/18/2014, articles.mercola.com/sites/.../gmo-foods-inflammation.aspx