2015年7月10日金曜日

対ロ戦において米海軍は何日持ちこたえられるか?



海軍の存在、特に空母の存在は米国の軍事力の中心的な存在であると信じられてきた。少なくとも我々素人にとっては、米海軍の華々しい存在感、特に、空母に搭載された航空機による制空権の確保を見ていると別様の考えは思いも寄らない程だ。

しかしながら、「対ロ戦において米海軍は何日持ちこたえられるか?」との表題を持つこの記事 [1] によると、まったく別の姿が現れて来る。

今何が起こっているのかと言うと、それは技術革新(特に、潜水艦)によって米空母の脆弱性が表面化してきたということだ。

列強が戦艦の建造を競争していた大鑑巨砲時代は、真珠湾の攻撃に見られるように、太平洋戦争の始めに日本人の手によって葬り去られた。日本の航空戦力は戦艦に対する航空機の威力を全世界に示したのである。そして、皮肉なことに、後に日本海軍を壊滅させたのは同じく航空戦力であった。不沈戦艦「大和」は航空機の攻撃を生き抜くことはできなかった。

今、現代の空母に関してもそれと同じような状況が起こっていると指摘されている。この記事を注意深く読むと、我々素人(少なくとも、私自身)はいとも簡単に主流メデアに洗脳されてしまい、疑問を持とうともしないでいたことに気づかされる。

この記事を仮訳して、その内容を皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>


Photo-1: 空母は、今日、空からでも、陸上からでも、あるいは海上からでも撃沈される可能性がある

米国は自らを世界の海洋に君臨する支配者であると見なしている。各国の軍事費ランキングを見ると、米国は後続の9カ国の合計金額よりも10倍も大きな軍事費を使い、米国はもっとも大きな海軍を擁している。ベトナム戦争後、米国は軍事的に弱い国だけを相手にしてきた。彼らは非常に自信が強く、どのような敵でも破壊することができると信じている。米国の若者が「米海軍 - 海は我々のもの」といったロゴ・マークを染め抜いたテイーシャツを身に付けていても、それは驚きではない。

多分、我々はこの誇りと傲慢さを米海軍の数量的な優位性によって満足しななければならない。米国は合計で10艘の空母(2艘は予備)を持っており、ロシアと中国はそれぞれ1艘だけである。

空母は米海軍の偉大な誇りであり、海の支配者であることを明確に示してくれることから視覚的にも完璧なツールである。したがって、大統領が国民に向かってこの偉大な帝国がまたもや英雄的な勝利を収めたという演説を行う時が到来すると、空母は決まったように演説の場となった。歴代の大統領は空母を好んで使った。

ジョージWブッシュ大統領が空母「エイブラハム・リンカーン」のジェット戦闘機に乗り込んで(いや、パイロットとしてではない)、「任務完了!」、「良くやった!」と述べて、国民に向かってイラク戦争が終わったことを宣言した時、彼の言葉は何と感動的だっただろうか。われわれ皆が良くわきまえているように、「イラクの自由作戦」という名の下に米国がイラクを破壊した。我々は今でもあの作戦が「自由」とどのように関わっていたのかと自問するが、それは別の問題だ。

演説家のためには格好の場であることに加えて、もちろん、空母は軍事目的を達成するためのものだ。空母は海上に浮かぶ空港であって、百機ものジェット戦闘機を戦闘の場所へ輸送する。これらの空母には最高の武器やレーダーおよび防衛システムが装備されており、今までのところ、脅威を経験したことはない。特に、今までは米海軍は自衛能力を持たない砂漠国家を相手にして、沖合に陣取っていたからだ。

しかし、米海軍がライバルの海軍と遭遇した場合はどうなるのだろうか?この寄稿の表題がすでに答を示唆している。つまり、それほど都合のよい状況になるとは限らない。愛国心が旺盛な米海軍のフンは自分のテイーシャツを急いでタンスの中に隠すことになるかも知れない。

70年代のこと、「核戦力化した海軍の父」と称されたリックオーバー提督は米上院での質問にこう答えた。「ロシア海軍との戦闘で我が国の空母は何日持ちこたえられるか?」との質問に彼は答えたのだが、彼の言葉は皆を幻想から目覚めさせるには十分であった。「空母が沈むまでに2-3日。軍港に係留されている場合は多分1週間。」 

ロシア海軍との戦闘の場合米空母がこのように非常に短時間のうちに破壊されるかも知れない理由は水面下での脅威、つまり、近代的な潜水艦による脅威によるものである。特に、ロシアの潜水艦は非常に強力であって、彼らの位置を特定することはそう容易くはないことから、彼らは巨大な戦艦や空母を一瞬のうちに撃沈することが可能だ。したがって、海面下で制海権を有する敵と渡り合う際には、米海軍の弱みがその脆弱性となる。もちろん、米国の軍事アナリストはこの弱みを理解してはいるが、米海軍は依然として空母や巨大な戦艦を有しており、「大きければ大きいほどいい」とのドクトリンをどうして維持し続けるのだろうかと誰もが不審に思うのではないか。

戦闘で勲章を授与されたベテランであり、何冊もの著書を書き、博士号を有し、軍事アナリストでもあるダグラス・マクレガー大佐はこう説明する。「戦略的にはまったくナンセンスだが、巨艦の建造は大量の雇用を産んでくれる。」 

ロシアの潜水艦や魚雷ならびに対艦ミサイルの脅威は米国人はよくわきまえている。これはロジャー・トンプソンの著書「Lessons Not Learned: The U.S. Navy’s Status Quo Culture」も指摘している事実である。その要約を下記に示してみよう。

ハワード・ブルームおよびダイアン・スター・ペトリク・ブルームが2003年に忠告しているように、ロシアと中国は今や両者とも破壊的なSS-N-22サンバーン・ミサイルを配備している。この強力な長距離ミサイルは核または通常の弾頭を搭載することが可能で、それを探査し、破壊することは非常に難しい。ジェーン年鑑の情報グループによると、同ミサイルはいかなる米国の空母を相手にしても、それを破壊するに十分な能力を有している。さらに詳しく言うと、テンプレーク(海軍アカデミー卒)およびトリプレットは、このサンバーン・ミサイルは単一目的のために設計されていると警告する。つまり、その目的は米国の空母やイージス巡洋艦を撃沈することにある。

SS-N-22ミサイルは海面すれすれに飛び、目標に達するまでは音速の2.5倍の速度で飛行し、 目標の近傍で高度を上げ、目標艦の甲板に向けて急降下する。米海軍はこのミサイル・システムに対抗する防衛手段を持ってはいない。退役したエリック・マクヴェイドン提督はこう言う。「米第7艦隊を2回も撃沈する能力をもっている。」

この基本的な理解と関連して、巨艦が持つほとんど不可避的な弱点に加えて、米海軍と陸軍には一般にもうひとつの脆弱性が存在する。それは彼らに特有な傲岸さであり、それが故に敵の能力を過小評価する傾向である。自分の敵を過小評価する者は誰もが軽率になりがちで、不意に襲撃を受けた場合は自分の手の内が決して良くないことに気づかされる。このような状況が実際に2000年に起った。米海軍のキテ・ホークは不都合にもロシア軍に捕捉された。

ジョン・ダガーテーの記事「ロシア海軍が突如上空を飛行」(World Net Daily)によると、下記のような具合だった。

2機のロシアの軍用機が10月に日本海上にあった米空母の上空を高速で少なくとも3回も飛行した。これはペンタゴンが自認する以上に深刻な脅威であった。もしも敵対行動を起こす意思があったとしたら、彼らはこの空母を破壊することができる状況にあった、と海軍の職員は言う。

報告によると、ロシア空軍のSu-24 「フェンサー」とSu-27 「フランカー」は、109日、給油中であった米空母「キテ―・ホーク」の上空を飛行した。

ロシアの戦闘機と偵察機が119日に2回目の空母への接近を試みた際には、ペンタゴンおよび船上の目撃者たちは米空母は十分に準備が出来ていたと説明した。しかし、これは10月に起こった最初の出来事がすでに警告を与えてくれていたからこそであったに過ぎない。 

ペンタゴンの報道官であるケネス・ベーコンは、1130日の定例記者会見で、高速で接近するロシアの戦闘機はレーダーで事前に捉えられていたと述べた。空母に乗艦していた海軍の将官は、名前を伏せることを条件に、その通りだったと述べている。

しかしながら、空母の戦闘情報センターが空母の司令官であるアレン・G・マイアー艦長にロシアの戦闘機がこちらへ向かっていることを警告した際、空母の戦闘機は一機も空中にはなかった。海軍のデータによると、同空母には85機の航空機があり、5,500名が乗艦していた。 
目撃者たちはマイアーが直ちに戦闘機の発進を命令したが、空母の当直戦闘部隊は「戦闘準備―30」の態勢にあった。この段階の準備態勢はパイロットらは準備室に待機してはいるものの、発進するのには最低でも30分を要する。パイロットがコックピットに座って発進を待っている状態ではなかった。

ベーコンは記者らに対して仰撃機を空中へ送り出すのに「やや遅れをとった」とだけ語ったが、キテ―・ホークは給油中であり、戦闘機を発進させるのに十分な速度で航行していたわけではなかった。

同空母に乗艦していたある将官は「司令官が警告を発した40分後、ロシア軍の航空機は500ノット(926キロ/時)の速度で空母の艦橋の上空200フィート(60メートル)を飛行した」と、述べた。

キテ―・ホークが最初の一機を空中に送り出すまでに、ロシアの戦闘機はさらに二回も上空飛行を繰り返した。さらに悪いことには、空母のデッキから発進した最初の航空機はEA-6Bプラウラーであった。これは敵のレーダーや対空防衛に電波障害を与える航空機であって、敵機を仰撃することができる戦闘機ではなかった。

EA-6Bは「空母の目の前でフランカーと11で渡り合うはめに陥った」と、目撃者は語る。「フランカーは米航空機の周囲を… F/A-18ホーネットが我々の姉妹部隊から発進し仰撃した時には、彼はすでに大声をあげて、助けを求めていた。余りにも遅かった。」 

「ロシア機に対する我々の貧弱な対応をロシア機が嘲っている中、空母の乗組員は全員が上空を眺めていた」と海軍の職員は言った。 

クリントン政権はこの出来事を実際よりも軽く取り扱った。しかしながら、ロシアのジェット機から撮影された写真を見ると、ロシア機が空母の上空を飛行した時艦内はパニック状態にあったことは明白である、とBBCは述べている。

米国の読者はここで、多分、このいかにも屈辱的な出来事は今から15年も前のことであり、今日、このような出来事は起こり得ない、と議論することであろう。しかし、「Russia Insider」の大部分の読者は2014年の4月に起こった別の出来事を思い出すのではないか。超近代的な米駆逐艦「ドナルド・クック」はたった1機のSU-24によって麻痺されてしまったのだ。

不幸にもその話を見逃してしまった読者には、ここで説明を加えておこう。昨年4月の始め、米国はトルコの許可を取り付けて、ロシアによるクリミアの併合に抗議して、さらには、自分たちの軍事力を誇示するために、駆逐艦「ドナルド・クック」を黒海へ送り込んだ。この駆逐艦はもっとも高度なイージス戦闘システムを装備していた。このシステムは複数の目標を同時に探査し、追跡し、破壊することができる海軍の武器システムである。加えるに、駆逐艦「ドナルド・クック」は四つの大型レーダーを搭載し、その威力は何基分ものレーダー基地に匹敵するものであった。防衛に関しては、何種類もの対空ミサイルを50個以上も装備している。 

「モントルー条約」によると、黒海の沿岸国以外の国の軍艦は21日間を越さない限り黒海に滞在することが許される。米国は、もちろん、この規則を無視した。ロシアはその規則違反に対して1機のSU-24を送り込んだ。このスホイ機には武器は何も搭載されてはおらず、「キビニー」と称される最新の電子戦装置を搭載していただけであった。

このSU-24が駆逐艦に近づいた時、 駆逐艦「ドナルド・クック」のすべてのレーダー、制御システム、情報伝達システム、等がこの「キビニー」によって突然麻痺状態にされてしまった。換言すると、より高度なシステムである筈のイージス・システムが完全にダウンしたのである。あたかもリモート・コントロールを使ってテレビのスイッチを切るみたいに… 

その後、実質的にめくらになり、つんぼになってしまった駆逐艦「ドナルド・クック」に対してスホイ機は12回ものミサイル攻撃のシミュレーションを行った。SU-24の二人のパイロットはさぞかし楽しい時を過ごしたのではないかと想像する。その時駆逐艦上には、残念なことに、ジョン・マケイン上院議員やNATO司令官のフィリップ・ブリードラブは乗艦してはいなかった。間違いなく、お二人はこの示威行為から得た長く記憶に残る印象について何らかの形で報告を受けているに違いない。

この出来事の後、駆逐艦「ドナルド・クック」は直ちに、そして、全速力でル-マニアの港に向かった。軍港へ到着すると、ショックを受けた27人の乗組員が退艦願いを提出した程だ。

この話は、我々米国人は依然として自分たちの武力を過信し、ロシアの軍事力はさまざまな分野で米国のそれを上回っていることを認めようともしないことを如実に示している。ロシアは短期間のうちに米側がそのギャップを埋めることはできないという大きな優位性を持っている。

ロシアの一機のジェット戦闘機が最新式の早期警戒システムおよび火器制御システムを搭載した米駆逐艦を一つのボタンを押すだけで麻痺させることができる限り、「対ロ戦で米海軍は何日間持ちこたえることができるか」という問いに対する答えは、今日でも、あの古い冷戦時代の答えとまったく同じである。

<引用終了>


米駆逐艦「ドナルド・クック」に関する詳細なストーリーについては、昨年1121日に掲載した小生のブログ、「手も足も出なかった! 黒海で米ミサイル駆逐艦ドナルド・クックを恐怖に陥れたのは何だったのか?」を参照されたい。

本日のブログで引用した記事は歴史的観点からの考察も行い、米海軍だけではなく米陸軍についても言及し、幅広い視点から論を進めている点が記事全体を分かり易いものにしている。特に、リックオーバー提督が米上院で質問に応えて述べたとされる「空母が沈むまでに2-3日。軍港に係留されている場合は多分1週間」という言葉には率直さが感じられ、この引用記事が伝える情報の質は完璧だとも言える。

また、米軍の傲岸さが弱点となっていると指摘し、ロシアを過小評価し過ぎるとして客観的に批判をしようとする著者の姿勢には好感が持てる。

日本の海上自衛隊にもイージス駆逐艦が配備されてはいるが、米駆逐艦「ドナルド・クック」と同様に、ロシアのSU-24に搭載された電子戦装置には対抗できないのではないか。テレビを消すように、ボタンひとつで、これらのイージス艦の制御システムや通信システムも麻痺状態に陥ってしまうのではないだろうか。

また、日本の防衛戦略は米軍の機動性や物量に依存しているが、その依存そのものが我々日本人の単なる幻想から始まっているのかも知れない。米第7艦隊は日米同盟を支える中心的な戦力あるいは抑止力であると見られるが、ここに引用した記事は同艦隊を全面的に頼ることが戦略としては如何にリスクが大きいかを物語ってもいるようだ。我々が持つ幻想を冷静に評価するべき時がやって来た。


参照:

1How Long Would the US Navy Survive in a Shooting War? : By Marc Hopf, RUSSIA INSIDER, Apr/01/2015, russia-insider.com > ... > Military


2015年7月7日火曜日

またもや、プーチンに技あり! - ドイツへの天然ガス供給能力を二倍に



最近、ロシアはドイツへ天然ガスを供給するパイプラインの増設を発表した。

EUとロシアとの間では経済戦争が進行する中、EUは対ロ経済制裁をさらに半年延長することを決めたばかりである。そんな折も折、EUの中心的な勢力であるドイツに向けて天然ガスの供給量を倍増する計画がドイツとロシアの間で合意したのである。驚きである。

ノルド・ストリームはロシア西部からバルト海を横切ってドイツ北部へと接続するパイプラインであって、ウクライナは通過しない。このパイプラインはウクライナで今進行中の内戦の影響を直接受けることはないことから、ドイツやヨーロッパ西部の国々にとってはエネルギーを安定的に確保する意味では戦略的に非常に重要である。

増設される新しいパイプラインが持つ意味は何か?

誰もが抱く疑問について解説する恰好のブログが最近現れた [1]。今日はこの記事を仮訳して、それが国際政治に与える影響について皆さんと共に理解を深めたいと思う。


<引用開始>

Photo-1: プーチンは間抜けな連中とチェスをすることに飽き飽きしている!

この寄稿は最初に [訳注:629日に] CounterPunch に掲載された。
 



ここにスクープ情報がある。米国の国防長官が得点をあげようとして肩をそびやかしてドイツを訪問する二日前、ロシアのガスプロム社は巨大な商談が大詰めを迎えているこを公表した。それはロシアの天然ガスをドイツへ送り込む2本目のノルドストリーム・パイプラインのことだ。

この衝撃的な情報によって、何の手掛かりをも持ち合わせてはいないカーター国防長官は何が起こっているのか、あるいは、ロシアを孤立させる努力が大失敗に終わってしまったことについてまったく何も知らないかのようだった。ここで誤解をしないで欲しい。この商談は巨大だ。この地域全体の地政学的な計算をすっかり書き換えてしまうほどにどでかいのだ。いったい今何が起こっているのかについて、ロバート・モーリイがTheTrumpet.com上の記事で次のように説明している。

「このパイプラインが完成した暁には、ほとんどの東欧諸国は天然ガスの地勢図から抹消されてしまうだろう。もはや、ウクライナ、ポーランド、ルーマニア、ベラルーシ、ハンガリーあるいはスロヴァキアを通過して天然ガスを供給する必要はなくなるからだ。」 (TheTranpet.comGazprom’s Dangerous New Nord Stream Gas Pipeline to Germanyから引用) 

その通り!ウクライナははじき出され、それに代わってドイツが登場する。これはワシントン政府がロシアとヨーロッパとの間に楔を打ち込むことによって米国の覇権を拡大し、確固たるものにするするという計画が完全におじゃんになったことを意味する。 

柔道の達人であるプーチンに、またもや、「技あり!」だ。つまり、彼は11時になるまでじっと待って、威嚇するかのようにうるさく話をするカーターの足の下にあるカーペットをグイッと引っ張り、自分は椅子にゆったりと座り込んで展開しつつあるショウを楽しんでいるという格好だ。カーターが自分の髪の毛に火の粉がかかっているにもかかわらず、ヨーロッパ中を駆け回っているのは何とも滑稽ではないか?上述の記事からもう少し引用してみよう。

「この商談がロシアに如何に大きな影響力をもたらすかについて考えてみよう。ドイツは天然資源には恵まれてはいないが、ロシアからの支援によってヨーロッパのエネルギー・ハブになることができるのだ!

オランダやベルギー、フランスおよび英国といった国々へガスが供給される前に、天然ガスはまずはドイツを経由する。その量が2倍にも増加される。こうして、ドイツはロシアの影響力をさじ加減することができるようになる。また、西欧諸国は天然ガスの供給をドイツに依存することにもなる。

今起こりつつあることを現行のウクライナ紛争の陰に隠してはならない。大見出しに示される紛争がまったく別の姿を示している時でさえもドイツとロシアとの間には秘密協定の歴史がある。ウクライナにおけるロシアの行為に抗議して西側が対ロ経済制裁を課している最中にドイツとロシアがこのような商談を取り纏めようとしていたこと自体が多くを物語っているとも言える。(TheTranpet.comGazprom’s Dangerous New Nord Stream Gas Pipeline to Germanyから引用) 

これは負け惜しみだ!この記事の著者はあなた方にはヨーロッパにおける米国の動機は雪のように純粋であると思って欲しいかのようであるが、果たして本当にそうだろうか?ワシントン政府は「ロシアの侵攻」を頻繁に口にするが、本当にロシアの侵攻を恐れているのだろうか?彼らはドイツとロシアとを互いに引き離すことによって米国による単極支配を何としてでも維持したいのではないか?それこそが対ロ経済制裁の真の目的ではないのか?ストラトフォーのCEOであるジョージ・フリードマンはシカゴ外交問題評議会で行った演説で下記のように述べている。 

「第一次、第二次世界大戦ならびに冷戦等の戦争を通じて闘ってきた米国の基本的な関心事はドイツとロシアとの間の関係であった。何故かと言うと、これらふたつの国が連携すると、我々に脅威を与えることができる唯一の集団となるからだ。そのようなことは起らないようにしなければならない。」

その通り!一言で言えば、これこそがワシントンの戦略である。ドイツの産業がロシアの無尽蔵の天然資源と結びつくことを阻止することだ。そのような結びつきは致命的となる。米国のGDPを凌駕するようなユーラシアを統合した一大自由貿易連合が出現し、帝国の終焉をもたらすだろう。「ロシアの侵略」などというたわ言は信じないで貰いたい。ワシントンが本当に懸念するのは米国を追い抜くことができるような経済大国の出現である。ドイツがロシアの最大級のガス・ステーションの役割を持った時、まさにそのような事態が到来する。 

ガスプロムに関するニュースは自然な成り行きとしてカーター国務長官をいささか気難しくさせたことだろうが、彼はEU各国を次々と訪問し、プーチンに向けては簡潔に警告の言葉を吐いた。その一方で、NATO諸国に対してはもっと多くの武器や兵員を送ると約束し、もっと多くの合同演習を実施し、もっと多くのミサイルを設置すると約束した。で、これはいったい何のためか?コサック兵が草原を横切り、バルト諸国へ侵入するのを防ぐためか?真面目になって貰いたい!プーチンはヨーロッパへ侵入する気なんてさらさらない。彼は自分たちの商売が欲しいだけだ。それだけだ。我々が最初の段階から言っていたように、プーチンは金をいくらか稼ぎたいだけだ。彼は自国の経済を不景気から回復させたいのだ。その通りだ。ガスプロムの利益を拡大したいのだ。このことについて何か問題があるとでも思うのかい? 

問題なんて何もない!実際には、そういったやり方こそが今までの米国の振舞い方だった。ところが、最近は米国は物事を台無しにし、略奪できる物は何でも略奪しようとする。

ところで、プーチンについてことごとく愚痴を言うのは馬鹿らしいとは思わないかい?彼はヨーロッパに向けて天然ガスを売る。だからって、何だと言うんだ?それを乗り越えて行こうじゃないか。愚痴る奴なんて皆から嫌われるだけだ。

サウス・ストリームを阻止しようとして米国は手の内にある策は何でも採用し、ついにはあのプロジェクトを葬ってしまった。米国チームが1点を獲得!しかし、米国チームはその得点のままで試合が終わるとでも思ったのだろうか?プーチンがただ単に自分のテントをたたんで、家へ帰てから思いっきり泣くとでも思ったのだろうか?彼は自分の最大の顧客を諦めて、その代わりに中国へ乗り移るとでも思ったのだろうか? 

もちろん、そうではない。誰もがこのような状況がいずれはやって来ることを見通していた筈だ。ペンタゴンはどうして不意をつかれたのだろうか?この種の問題を見通すことができる専門家はいないとでも言うのか?それとも、連中は戦争ゲームに熱中していて、そんな暇はなかったとでも?米国の通商代表部が契約を結ぶための筋道を模索しなければならない時に、どうしてカーター国防長官はタンクやミサイル防衛システムの話をしていたのだろうか? 資本主義はまさにそういう風に機能する筈ではなかったのか?それとも、米国は競争が出来なくなった相手は誰彼かまわずに焼き殺してしまおうと考えるまでに堕落してしまったのだろうか?惨めな話だ!ヨーロッパ訪問中のカーター国防長官の言葉を下記に引用してみよう。

「プーチンが述べる世界観のひとつは過去への憧れであって、それに関しては我々は違った世界観を持っている。ましてやロシアの将来に関しても然りだ」とカーター国防長官は言った。「我々は自分たちが前進する姿を見たいし、ヨーロッパも同じことだ。しかし、彼の見方には前進するという考えは見当たらない。」 

冗談じゃないよ、カーター長官。男として毅然とした態度をとることができないのかい?米国はもう競争することはできない。その代わり、戦争に訴えると決心したと認める積りかい?そう言い切ることがそんなに難しいのかい? 

もちろん、カーター国防長官はガスプロムの話はすべてをカーペットの下へ掃きこみ、何事も起こらなかったかのように振るまうべく、あらゆる努力をした。しかし、これらのことに関心を抱く人たちは誰だって真相を見つけ出すことができる。事実、彼はプーチンに自分の時計をきれいにして貰っている。しかも、一度だけではないのだ。この水曜日には寝耳に水の話が新たに舞い込んで来たが、これは美味しいケーキにちょっぴり氷を添えたかのようだった。OilPrice.comは下記のように報じている。

「ロシアの国営企業であるガスプロムはターキッシュ・ストリーム・パイプラインの建設に向けて一歩踏み出した。つまり、このプロジェクトの黒海を通過する部分について関連海域の調査を開始する許可をアンカラ政府に求めた」と、ロシア・エネルギー省のアレクサンダー・ノヴァク大臣が述べた。同大臣はアンカラとモスクワの両政府が6月末までにはターキッシュ・ストリームの建設に合意する見込みであると言った。(Controversial Gazprom Pipeline Clears Hurdle, OilPrice.Comを参照)

二重の大失敗だ!これで、プーチンはヨーロッパに向けて二方向から天然ガスを供給することになり、米国は寒い屋外に締め出された形だ。これらのロシアからの挟み撃ち攻撃がヨーロッパを締め付け始めるとあなた方自身も感じるのではないか?これで、何故にカーター国防長官が必要以上に取り乱してヨーロッパを駆け巡っていたかを理解することができよう。栄光の分割統治政策が彼の面前ではじけてしまったからだ。彼に残された選択肢は当初の計画を諦めて、製図版のもとへ戻ることだけである。忌々しい程の大失敗だ!

カーター国防長官のヨーロッパ旅行中にもうひとつのストーリーが現れた。これはブルームバーグからの報告である。

「ウクライナは7月の国債の支払いが出来そうにはない。ゴールドマン・サックスによると、債権者との対立から債務の帳消しの兆しは見えない。したがって、190億ドルの債務で不履行に陥ることになりそうだ。 

619日に債権者と行われた話し合いの内容に詳しい消息筋によると、ウクライナは債権者に数週間の猶予を与え、債務の支払い停止を宣言する前に元本の40%を帳消しにする案を示し、債権者側がこれを呑むよう要求している。

「ウクライナは724日の国債の支払いを履行することはできず、その結果、その時点で債務不履行となる」と、あり得そうな成り行きのひとつとしてアナリストのマセニーは報告書の中で述べている。「ウクライナが最近示した提案を特別委員会が認めるとは我々は思ってはいない。」 (ブルームバーグのGoldman Sees Ukraine Default in July as Debt Standoff Holdsから引用)

ウクライナは破産した。この私をからかう積りかい? プーチンをベトナム戦争のような泥沼へ誘い込もうとしていた米国にとってはウクライナはべらぼうに重要であった筈だ、しかし、今や、破産しようとしている?政府を転覆し、ナチに武器を供与し、内戦を助長し、オデッサでは市民を建物ごと焼き殺し、民間旅客機を撃墜し、ウクライナ国家をソマリアのような無秩序のどん底に突き落とした。でも、これらはすべてが何のためにもならなかったのか?すべてが巨大な誤算、あるいは大間違いであったとでも?

米国は「世界的な安全保障の守護神」としてはまったく信用できないんだということを理解できるかい?ワシントンは手に触れる物は次から次と、建物を打ち壊す鉄球のように、外交政策によって破壊してしまう。アフガニスタン、イラク、リビア、シリアを見たかい?そして、今はウクライナだ。次はいったい何処だろう? 

プーチンはワシントンの計画を妨害することによって拡大し過ぎた帝国が寛大にも速やかに終焉することに力を貸しており、我々に膨大な恩恵を与えている。我々は誰もが彼に感謝の念を示さなければならない。

その方向だ。どんどんと先へ進んでくれ、ウラジーミル。

<引用終了>


西側の主流メデイアだけを読んでいるとまったく見えては来ない風景がこのブログによって霧の中に隠されていた全景が見事に見え始めてくる。これが私の印象だ!

フランスで製作が完了していたミストラル級ヘリ空母のロシアへの引き渡しは対ロ経済制裁のあおりを食って頓挫した。今回のノルド・ストリームの増設は軍事の範ちゅうには入らないだろうが、「帝国」が進めている対ロ政策への政治的影響を考えると、これは上述の軍艦の引き渡しと同じくらいのインパクトを持っているのではないかと思われる。今後の展開はどうなるのか予断を許さない。

現行のウクライナ危機をめぐる対ロ経済制裁を展望するに当たっては、Saker [注:ウェブサイトとしてはthesaker.is/latest-articles/ にアクセスしてみて下さい。数多くの記事が掲載されています…] というブロガーが示した興味深い見方を念頭に置きたいと思う。同ブロガーは情報戦争が80%、経済戦争が15%、最後の5%が武力による戦争だと言う。米ロ間は、今、情報戦争+経済戦争の真っ只中にある。しかし、最大の懸念は、ロシア国境で行っているNATOの武力誇示が誤算や偶発的な接触によって武力衝突に発展する危険性がいや増しに高まっていることにある。

歴史を見ると、多くの戦争は自作自演によって始まった。一握りの戦争屋が戦争を望んでいるからだ。まさにイラク戦争が始まった時のように!何と愚かなことであろうか!


参照:

1Putin’s Nord Stream Move Gobsmacks Uncle Sam – Again: By Mile Whitney, CounterPunch, Jul/03/2015, www.counterpunch.org/.../putin-gobsmacks-uncle-sam-again/