2018年12月29日土曜日

ロシアゲート推進派は対ロ戦争を避けるよりも、むしろ、トランプを罷免したいのか?


米国の対外政策、特に、対ロ政策は今まで以上に歪んでしまっている。2016年の大統領選以降、トランプ政権を批判する民主党や大手メディアの論調はすでに正気の沙汰を越していると私には思える。民主党で代表される反トランプ派はあまりにも党利党略にこだわっていることから、真の意味での米国の国益を見失い、米国市民の安全安心を損ないかねない状況にある。そして、全世界の安全安心もだ。

米国や西側諸国にはそのような現状を憂える正統派の論客が何人もいる。たとえば、ポール・クレイグ・ロバーツやスティーブン・F・コーエン、アンドレ・ヴルチュク、ジョン・ピルジャー、クレイグ・マレー、グレン・E・グリーンワルド、ぺぺ・エスコバー、等。他にも数多くの名前が浮かんでくる。

しかしながら、彼らの意見や見解はトランプが選挙運動中に公約した対ロ関係の改善を論じると、その途端にこれらの論客は「ロシアの手先」としてレッテルを貼られ、彼らの主張や見解が大手メディアによって取り上げられることは極めて少ない。大手メディアは自分たちが流すフェークニュースによって自らが洗脳され、重度のフェークニュース依存症に陥っている。巨額の軍事費を予算化する正当性を維持するために(つまり、都合よく嘘をつくために)ロシア・中国は敵であるとする筋書きに固執し、ジャーナリストとしての使命はとっくの昔にゴミ箱へ投げ入れ、「ロシア叩き」の大合唱に興じているのが現状である。この一連の「ロシア叩き」は「ロシアゲート」とも称される。

スティーブン・F・コーエンはプリンストン大学とニューヨーク大学の名誉教授であって、ロシア学を専門とする学者である。彼の学問的な業績はロシア革命以降のロシア現代史ならびに同国の米国との関係に関する分野に見られる。米国においてはロシア学の最高峰である。米ロ関係を論じる場合、彼ほど適している人物は見当たらない。

トランプ大統領がロシアとの間で締結されているINF(中距離核兵器制限)条約を破棄すると宣言した(1019日のニューヨークタイムズの報道)ことから、この条約の舞台であるヨーロッパは米ロ間の軍拡競争の犠牲となりそうな気配だ。即ち、ヨーロッパは米ロ間の核戦争の戦場になる危険性が一段と高まっているのである。

この米国の発表を受けて、EUを率いるドイツのハイコ・マース外相は、1226日、「ヨーロッパは(米ロ間の)軍拡競争のためのプラットホームとなるべきではない。新たな中距離核ミサイルの配備はドイツでは大規模な反対に見舞われるだろう」と表明している。

最近、コーエン教授が「ロシアゲート推進派は対ロ戦争を避けるよりも、むしろ、トランプを罷免したいのか?」と題する記事を発表した [1]。非常に興味深い内容である。それと同時に、われわれ一般庶民の感覚にも共鳴し、極めて常識的な問い掛けであると私は思う。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。



<引用開始>

旧冷戦は40年間続いた。新冷戦は全世界が何とか生き延びることができた旧冷戦の単なる複製ではない。極めて重要な面において新冷戦はよりももっと危険である。2018年のさまざまな出来事が示唆するように実際の戦争の危険性を伴う。実例を挙げてみよう。

新冷戦は、今、軍事化への傾斜が目覚ましい。バルト諸国やウクライナおよびシリアでは米ロ間の直接武力対決、あるいは、代理勢力による抗争が推進され、より「使用が簡単な」武器を求めて米ロ両国は新たな核戦力の開発競争に入りつつあり、アトランティック・カウンシルといった大きな影響力を持つ冷戦推進派は「ロシアは欧州への進攻を企てている」という根も葉もない主張を流布している。さらには、モスクワ政府内の「タカ派」の影響力も高まっている。旧冷戦でも軍事化が著しかったけれども、新冷戦のようにロシアの国境に直接迫るようなことは無かった。東欧の小国からウクライナに至るまで、2018年にこれらの一連の動きが展開された。

ロシアゲートとはトランプ大統領がクレムリン政府の著しい影響を受けている、あるいは、その支配下にあるという主張である。しかながら、この主張はそれを裏付ける実際の証拠が何もないまま展開され、新冷戦においては非常に危険で、前例のない要素となった。クレムリンが2016年の大統領選に介入したのではないかという推測から始まったこの主張は主流派による当てこすりへと発展し、クレムリンがトランプをホワイトハウスに据えたのだという確信にまで成長して行った。その結果、危機の打開に向けてロシアのプーチン大統領と交渉をしようとするトランプの足を引っ張っている。こうして、ヘルシンキで開催されたプーチンとの会談では、トランプがその際に自分自身が大統領に選出されたことの正当性を防衛しようとしたことから、彼は「反逆罪」を犯したとして米国の大手メディアや政治家から広く避難を浴びた。その後2度にわたって、トランプは予定されていたプーチンとの会談をすっぽかした。アイゼンハワー以降代々の大統領が行ってきた指導者外交を今厳しく非難している政治家やジャーナリストならびに諸々の団体はロシアとの戦争を避けるよりも、むしろ、トランプを罷免しようとしているのか、と米国市民が問いただすことは非常に妥当な行動であると言える。

旧冷戦の後半には妥当なレベルでの均衡を実現し、事実に基づいた報道や解説を行っていたものであるが、今やそうした態度を実質的に放り出してしまった大手メディアに対してもまったく同じ問い掛けをすることが可能だ。たとえば、2018年には、プーチンが率いるロシアは「2016年に米国の民主主義を破壊しようとした」との彼らの主張は彼らが推進するロシアゲートや新冷戦の中心的な教義となり、回転軸とさえなっている。また、旧冷戦の頃とは違って、彼らは反対意見や代替意見となり得る報告や視点あるいは意見を排除し続けた。さらには、これらの大手メディアは多くの場合かって諜報部門を率いていた人物を情報源とし、解説者としているが、これらの人物たちこそがロシアゲートという筋書きを作り出した張本人であることは、今や、明白である。メディアによる過誤の好例はアゾフ海と黒海との間にあるケルチ海峡で起こった海上での抗争に関する報道にも見られる。これは、1125日、ウクライナとロシアの砲艦の間に起こった出来事だ。経験的事実はすべてが入手可能である。また、ウクライナのポロシェンコ大統領は20193月に予定されている大統領選で再選のチャンスを何としてでも高める必要があり、これらの状況から判断すると、これはキエフ政府による挑発であったことが歴然としている。しかしながら、それに代わって、米国の大手メディアはこの事件をまたもや「プーチンの攻撃」であると描写した。こうして、これは極めて危険な米ロ間の代理戦争であり、基本的に、米国の一般大衆は事実が完全に歪曲された報道に曝されているのである。

多くはこのような大手メディアの過誤によるものであり、米ロ関係においてはさまざまな危険が拡大しつつあるにもかかわらず、引き続き2018年にも新冷戦に反対する動きは見られなかった。議会における主流の政治そのものにも、二大政党にも、シンクタンクにも、大学のキャンパスにも見られず、ごくわずかの個人的な反対者が観察されただけであった。こうして、ロシアとの和解政策、または、トランプが何度も提唱していた「ロシアとの協力」は未だに主流の政治においては著名な支持者を見い出してはいない。この政策はかっては共和党の他の大統領、つまり、アイゼンハワーやニクソンおよびリーガンの政策であったにもかかわらずである。トランプはそうすることを試みたが、彼の意図は2018年にまたもや排除されてしまった。

ところで、「米国の民主主義を攻撃」し、今後もそうするだろうというロシアに対する言いがかりはロシアゲート推進派たち自身についてこそお誂え向きである。彼らの主張は制度としての大統領制を台無しにし、米国の選挙制度に疑問を投げかけた。「ロシアとの接触」や「より良好な関係」に関する提言を犯罪視することによって、さらには、米国のメディアにおいて大きな勢力を占め、曖昧模糊とした「虚偽情報」を流す組織を排除すると脅かしを掛けることによって、彼らは言論の自由や自由な発想によって高く評価されて来た米国社会をひどく損なってしまった。さらには、伝統的な政治的正義の概念は今やますます脅かされており、少なくともロシアに関して分かっていることから判断すると、それはマイケル・フリン将軍やソビエト流の扱いを受けたマリア・ブティナの事件で誤用された。この若いロシア人女性は、最悪の場合でも、「より良好な関係」の未明の(率直に言って極めて開放的な)擁護者であり、自国に関しても熱心な支持者であった。このことはロシアにおいても若い米国人によって長い間熱心に追求されてきたが、彼女は自白するまでの間、つまり、司法取引に応じるまで何か月にもわたって独房に監禁され続けた。そして、これが海外で公に「促進」されてきた民主主義国家の実態である。

最終的に、ロシアゲートの実態にはロシアの存在ががますます希薄となっている。それに代わって、「脱税ゲート」あるいは「セックスゲート」へと姿を変貌しつつある。米国の政治家やメディアのエリートたちがロシアゲートの虚構に憑りつかれている間に、彼らが口にする内容とはまったく異なり、彼らに注目されることは極めて稀な三つの最近の文献(訳注:1Outfoxed by The Bear? America’s Losing Game Against Russia in the Near East: By Michael A. Reinolds, Apr/25/20182Isolation and Reconquista: Russia’s Toolkit as a Constrained Great Power: By Marlene Laruelle, Dec/12/20183How the New Silk Roads are merging into Greater Eurasia: By Pepe Escobar, Dec/13/2018)に記されているように、ロシアは東方の外交大国へと成長している(訳注:ロシアの外交大国への成長とは何を指しているのだろうか。そのひとつはシリア紛争がロシアの支援によって収束しつつあることであろう。もうひとつは、11月にタリバンとアフガニスタン政府とがモスクワに招かれ、将来のアフガニスタンについてお互いに直接話し合いを行う機会が準備された。119日のことだった。報道によると、この話し合いは成功裏に終わった)。そうこうしている内に、世界規模の外交においてはワシントン政府の主たる盟友であるEUは自ら招いた、混迷するばかりの危機に陥りつつある。

著者のプロフィール: スティーブン・F・コーエンはプリンストン大学とニューヨーク大学の名誉教授で政治学とロシア学を専門とする。ジョン・バチェラーが毎週コーエン教授との間で米ロ間の新冷戦に関して議論する対談番組は5年目の記念日を迎えている。(これ迄の放送分はTheNation.comにて視聴可) 

本稿はまずThe Nationにて出版された。


<引用終了>



これで引用記事の全文の仮訳が終了した。

米国の軍・安全保障複合体が求めているのは大きく膨れ上がった軍事費を正当化することが可能な「大きな敵国の存在」である。911同時多発テロを受けて、米国がすかさず対テロ戦争を宣言したのもこの流れの中にある。あの同時多発テロは対テロ戦争を開始するための引き金であったという指摘もある。いわゆる、自作自演である。

この種の指摘は、201444日付けの「軍事予算を確保するために大きな敵を探そうとしている米国」と題した私の投稿でもご紹介したことがある。その投稿では、政治分析を専門とするパトリック・ヘニッグセンの言葉として、「米国の年間国防予算が1兆ドルにも達し、ボーイング社のような超ド級の防衛関連企業のロビー活動が高まる中、これだけの大金の出費に関しては米国は世界中で新たな敵を具体的に作り出さなければならない」という指摘をご紹介した。 

あれから4年半が経った。米国は、今や、ロシアと中国を大っぴらに敵として位置付けている。貿易戦争、経済戦争、金融戦争、情報戦争、ハイブリッド戦争、等は激しくなるばかりだ。そして、通常兵器による代理戦争は後を絶たない。今や、米国では「永遠の戦争」という言葉さえもがメディアで使用されている。

イラクやシリアならびにイエメンでの事例で明白になっているように、戦争がもたらす最大の問題は必ずしも将兵の死亡ではなく、それは何百万人もの一般市民が巻き添えとなって生命を失うことだ。それに加えて、さらに何百万人もの市民が故郷から追い出され、難民化することだ。これ程の不幸の責任はいったい誰がとるのだろうか。

米ロ戦争の場合、通常兵器による戦争が何時の間にか核戦争に切り替わる可能性があり、これが最大の懸念だ。米ロ両国には地球上の人類を10回も絶滅させるに十分な量の核兵器が備蓄されている。そして、数多くの専門家が指摘するように、米国が志向する先制攻撃はロシアの核兵器を一掃することは不可能で、必ず報復攻撃を受ける。この報復攻撃は次の連鎖をもたらす。両国の将兵は最後の一発まで核ミサイルを相手側に発射しようとすることだろう。

米国の一般市民や政治家、ジャーナリストらが現行の対ロ戦略は大きな間違いであることに気づかない限り、人類は皆が蒸発してしまうことになる。

核戦争を回避するという政治課題は他の如何なるテーマよりも重要である。米国の国内政治がトランプ大統領の罷免を目指し、その過程で何の根拠もなくロシアを敵扱いし続け、軍事演習を行い、ロシアを挑発することの危険性は甚大である。引用記事にも述べられているように、旧冷戦では米ロ両国にはまだ節度があった。しかしながら、新冷戦では米国側はロシアとの外交的対話を放棄してしまったようだ。トランプ大統領は国内の反対派からの圧力を受けて、プーチンとの会談を最近二回もドタキャンした。

こうして見ると、コーエン教授が示した対ロ戦争を回避することは現実に最大級の課題であり、これに勝るものは何もない。実に正当な見解であると私は思う。

2019年には米ロ間に何らかのマジックが起こって欲しい。核戦争の回避に向けた具体的なロードマップを見たいものである。





参照:

1Do Russiagate Promoters Prefer Impeaching Trump to Avoiding War With Russia?: By Stephen F. Cohen, The Nation/Information Clearing House, Dec/24/2018








2018年12月22日土曜日

トランプは軍・安全保障複合体によって潰された


トランプ米大統領の今後の政策が怪しくなってきた。少なくとも、最近の記事 [注1] によると、トランプはついに軍・安全保障複合体によって潰されたとのことだ。

この記事が言うようにトランプが軍・安全保障複合体によって潰され、ネオコンや好戦派の言いなりになってしまったとすれば、今後のトランプ政権の対外政策は大きく変わることだろう。

彼が2年前の大統領選で公約した「対ロ関係の改善」は限りなく遠のくこととなる。

「対ロ関係の改善」を促進する代わりに、新冷戦の構図を維持し、世論を誘導するために、大手メディアは、2016年の大統領選で起こったと彼らが主張するロシアの干渉は実証できなかったものの、またもや「ロシア人がやって来る」と大合唱を再開することだろう。在りもしないロシアの脅威を絶え間なく喧伝することによって、日本を始めとする米国の同盟国は不要な米国製武器を大量に購入させられ、年中行事化した合同軍事演習のために莫大な費用を拠出させられる。こうして、米国の軍需産業だけは短期間の内に大きな利益をあげることが可能となる。

これこそがディープステーツの狙いだ。世界平和は彼らの最大の敵なのだ。

ロシア、中国、その他の反米諸国は米国とその同盟国に対峙することになる。米国の最終的な目標はロシアや中国が地域覇権国として存在し、さまざまな天然資源を有するユーラシア大陸を自分たちの影響圏に含めることである。覇権国としての米国の世界観は国連憲章や国際法を遵守し、外交努力を優先する合理的な世界とはまったく異なる。それは軍事力とプロパガンダとがすべてを優先する世界だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

軍・安全保障複合体から自分の身を守るために、トランプ大統領はロシアと和解するという選挙民との公約を投げ出した。まさにネオコンのイデオロギーが米国の覇権を必要とするように、軍・安全保障複合体は1兆ドルにも達する年間予算を正当化するためには敵の存在を必要とするのだ。クリントンやジョージ・W・ブッシュならびにオバマの政権がロシアを敵に仕立て上げたのである。トランプはこれを変えようとしたが、彼の意図は葬り去られた。

ロシアゲートはトランプ大統領を屈服させるために組織化されたものだ。スティーブン・コーエンや私も含めて何人かが主張しているように、ロシアに対する組織化された対峙がもたらす核戦争のリスクは、今や、冷戦時のそれ以上に危険な状況を呈している。冷戦時には、ワシントン政府とモスクワ政府は少なくとも両国間の緊張を和らげ、相互の信頼を構築しようとする政治的意思があった。しかし、21世紀の今、ワシントン政府は信頼感をぶち壊してしまったのである。

ロシア側は非常に忍耐強く、ワシントン政府の侮辱や挑発に対しては喧嘩腰の態度を取らず、それを避けて来た。しかしながら、彼らは、今や、「ロシア側の忍耐は限界に達した」と言い始めている。

アンドレイ・コルトウノフはトランプ大統領を非難しているが、最大の問題はネオコンや軍・安全保障複合体、プレスティチュートのメディアであり、それらの組み合わせである。この組み合わせは全体としてひとりの大統領にとっては途方もなく大きな力を見せた。民主党およびリベラル派・進歩派・左派はこの悲劇の共謀者である。彼らは自分たちの嫌悪感が合理的な判断を損なうのを見ながらも、それを矯正しようとはせず、その結果、核戦争が再び地球上の生命を脅かす状況をもたらしている。

著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士は経済政策を担当する財務省補佐官を務め、ウオール・ストリート・ジャーナル紙の副編集長を務めた。また、彼はビジネス・ウィークやスクリップス・ハワード・ニュース・サービス、クリエイターズ・シンジケートへ寄稿した。数多くの大学から指名を受けている。インターネット上の彼のコラムは世界中で注目を集めている。近著: The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the WestHow America Was LostThe Neoconservative Threat to World Order、等。


参考記事: 「よせばいいのに又もや冷遇: クレムリンは忍耐の限界に達し、トランプに愛想をつかす」(原題:One Snub Too Many: Kremlin Ready to Turn Against Trump as Patience Coming to an End)。タイラー・ダンカン著。Information Clearing House. 2018年12月9日。

(訳注: この参考記事の全文が下記に掲載されています。)

「ロシア側の忍耐は限界に達した」と、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトウノフ議長はブルームバーグに述べている。トランプ政権が発足して2年、米ロ両国の関係は劣化するばかりの今、異例なことではあるけれども、実際にはこれはロシア側の国益を分析する試みである。ロシアゲートで始まり、いわゆる四次元的意思決定という幻想的なシナリオによってトランプの反ロ政策 [訳注:「反ロ」ではなく、「親ロ」ではないかと推測されます] にけりをつけることで終わるというごく一般的に見られる大手メディアの分析と比べると、これは実に対照的だ。

コルトウノフはさらに「この人物と取引をするのは難しく、彼をパートナーとして信頼することはできず、パートナーには向いていないことを示している」と述べている。

氏名は伏せられているが、クレムリン内部の何人かの高官とのインタビューの後、ブルームバーグはロシア側の欲求不満は限界に達していると結論付けた。その報告は「ドナルド・トランプは1カ月足らずの間に2回もプーチンの期待を裏切っている。よせばいいのに又もや、プーチンをすっぽかしてしまいそうだ」と書いている。

最初の出来事は休戦記念日の百年祭を祝う11月11日の週末で、舞台はパリだったが、 ブルームバーグによると、もっと大きな衝撃をもたらしたのはアルゼンチンで開催されたG20のサミットだった。

トランプは2016年の大統領選で選出された後、ロシアの議員たちからは拍手喝采やシャンペーンによる敬意を表されたけれども、トランプの気まぐれな意思決定はモスクワでは日増しに重荷として見なされるようになった。先週、トランプが直前になってG20のサミットでのプーチンとの会合をツイッターでドタキャンした時、ロシアの高官らはあっけに取られたものだ。これは実に醜悪な決断だ、と高官のひとりが述べている。4人の高官(内部事情を喋っていることを認識されることがないように、彼らは名前を伏せるよう求めてきた)によれば、それ以来、ロシア側の欲求不満は募る一方である。

MSNBC流のクレムリン・ホワイトハウス間での秘密の操り人形をあれこれと操作する巧妙な術についてはこれぐらいにしておこうと思うけれども、われわれはそのような退屈なコメントが間もなく和らぐであろうと期待しているわけではない。

同じテーブルにつくことは極めて困難である、あるいは、不可能であると両大国が認めたのだ。これはいったい何を意味するのだろうか?ここにますます危険な兆候を示す得点表があるが、これは世界の安定や平和にとって吉兆であると言えるような代物ではない。ブルームバーグの知見によれば、地政学的な緊張が高まる中で、これは対立する二人の指導者を超すものである。

新たな軍拡競争: 歴史的な中距離核戦力条約を破棄するとのトランプの脅かしによってもたらされる新たな軍拡競争に関してプーチンが警告を発しているように、米国の要求に対抗する備えを固めること以外に、クレムリンにとっては代替策は何も残されてはいない。

制裁: プーチンは前に課された罰に対しては対応策を取ることを控えたが、もしも将来米国が新たな制裁を課した場合には、ロシアは報復措置を採るかも知れない・・・ ロシアが行ったとされる選挙に対する介入に関して米国が新たな制裁を課せば、何か月にもわたって緊張は一気に高まるであろう。

ウクライナ、シリア、イラン: 軍縮、ウクライナやシリアにける紛争、ならびに、イランとの核合意といった厄介な争点に関する米国との話し合いにおいてはロシアは強硬路線を採る。

黒海における軍事的緊張: 安保理の臨時会合においては駐国連米国大使のニッキー・ヘイリーはウクライナの艦船に対する攻撃を「無謀で」、「違法な」行為だとまくしたてた。マイケル・ポンぺオ国務長官は同行為を「危険な展開であり、国際法の違反だ」と述べた。

欧州の安全保障に対する脅威: この地域の軍事的最前線については、もしもトランプが中距離核戦力制限条約から脱退した後に欧州が米国のミサイルを配備した場合、ロシアはそれらの国を目標とすると述べ、すでに脅しをかけている。「ロシアと話をする際には戦力的な立場から話をするな」と、議員のクリンツエヴィッチが警告している。「あんた方はどんな攻撃を受けるかについては何にも分からず、厳しい頭痛に見舞われることだろう。」

外交の扉は閉ざされつつある: 米国議会が(ロシアによる)選挙介入に関して調査を行う中で、トランプが直面する政治的困難についてはロシアの高官は以前は「理解」を示していたものだが、今やトランプに対して大っぴらに疑問を呈するようになった。トランプ大統領はクリミア半島の近海でロシア海軍がウクライナと紛争を起こしたことを非難し、両大統領の会談を中止した。彼の決断は彼の個人弁護士であるマイケル・コーエンがモスクワにおけるトランプの不動産投資の計画に関して議会で偽証をしたことを認めてから数時間後に公表された。

最近、トランプがロシアを冷遇する状況が顕著となっている。クレムリンの報道官を務めるドミトリー・ぺスコフは両大統領のヘルシンキでの会談の際に提案されたプーチンのワシントン訪問は、今や、完全に「問題外だ」と述べている。これが意味するところは来年6月に日本で開催されるG20のサミットの前に両者が会談を持つチャンスはまったく無くなったということだ。G20のサミットの場でさえも怪しい程だ。

参考記事: スティーブン・F・コーエンが言うには「ミュラー特別検察官の捜査に伴って引き起こされた興奮状態はトランプがロシア側と会談を持つことを妨げる。これは国家の安全保障を危険に陥れかねない」 https://t.co/ANv5o6zhmU — RCP Video (@rcpvideo) Dec/04/2018 

ロシア側の政府高官やシンクタンク関係者らの間で重要なテーマは、ロシアはワシントン政府との関係を改善するためには「何かを提供する」ように何時も求められるが、その見返りとしてはその過程でよそよそしい態度に見舞われ、イライラさせられるだけだという点だ。

国内メディアから始まって政府高官に至るまで、ロシア全土の楽観主義は今や衰退しつつある・・・ 

もしも民主党のヒラリー・クリントン候補が大統領に就任していたら現行の衝突は回避されていたかも知れないという考えはプーチンがきっぱりと退けてしまったが、与党であるユナイテッドロシア党の中枢の党員らはトランプが勝利を収めたことを残念に思っている。

「クリントンの場合に比べて、状況は遥かに悪い」と、ユナイテッドロシア党の運営委員会を率いるフランツ・クリンツエヴィッチ上院議員が述べている。「彼女は経験豊かな政治家であって、彼女の行動はすべてが論理や議論された内容に基づいている。ところが、トランプの場合はあちらこちらへと大きく揺らぐ。」 - ブルームバーグ

前駐米ロシア大使を務め、現在はロシア議会の代議士であるウラジミール・ルーキンはブルームバーグに対してロシア人の見方を「われわれはギブ・アンド・テイクに応じることはできるが、ギブ・アンド・ギブには応じられない」と述べている。

本稿は最初に「Zero Hedge」に掲載された。


注: この記事に表明されている見解はあくまでも著者の見解であって、Information Clearing Houseの意見を代表するものではありません。

<引用終了>


これで引用記事全文の仮訳が終了した。

トランプはわが身の安全が心配になって来たようだ。トランプが政治的信条を変えて、ネオコンや好戦派の圧力に屈したと判断する観測筋は少なくない。事実、トランプの家族の安全を脅かすメッセージが寄せられたとも報じられている。

この引用記事を読んで、少なくともひとつだけはっきりとしている点がある。不幸なことには、世界はさらに混乱の度を高めている。米国の軍・安全保障・大手メディア複合体がこの混乱を推進していることは明白だ。これが現実なのである。この混乱の延長線上には核大国間の核戦争が待ち構えている。嫌な世の中になって来たものだ。

トランプは奥の手が尽きてしまったのだろうか?彼特有の意表を突いた政治的行動によって、米国政界における対ロ関係の綱引きを関係改善に向けて引き戻せないものであろうか?

12月19日、トランプ大統領はISISの討伐が終了したので、米軍をシリアから撤退させると宣言した。もちろん、ネオコンや軍・安全保障複合体、ならびに、アラブ世界の混乱を恒常化させたい親イスラエル派は大反対である。これがすんなりと実行されるのかどうかは現時点では不透明だ。

トランプ大統領は表面的には軍部に対する統制力を失ったかのように見えるが、彼は今でもこのような決断ができるのだ。11月の中間選挙の結果、下院での過半数体制は失ったものの上院では与党が過半数を維持したことから、トランプ大統領は中間選挙は大成功だったと評した。上院の支持さえ取り付けられれば、トランプは歴史的な快挙を実行できる筈だ。今年の前半に行われた北朝鮮との交渉では彼特有の離れ業を見せて、トランプが軍部の上手を取ったことは記憶に新しい。対ロ関係の改善でもこのような動きが可能なのかどうか、注視して行きたいと思う。この文脈においては、シリアからの米軍の撤退は少なくとも歓迎すべき兆候だ。


参照:

注1: Trump Has Been Broken by the Military/Security Complex: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Dec/09/2018










2018年12月10日月曜日

人身売買のために連れ出された子供を保護することはその子の人生を救ってやるようなものだ

インドでは幼い子供たちが「親切な叔父さん」に連れ出されて、大都市の工場で安い労働力として働かされたり、売春婦として売りとばされることが後を絶たない。子供たちの家庭が貧困から抜け出せず、一時的な報酬につられて子供たちを手放す親が少なくないからだ。

日本でも貧困は大きな試練であった。連続テレビ小説に登場する「おしん」は貧困の中でも逞しく生き、周囲から学び、成長して行った。そんなひとりの女性の姿が共感を呼んで、このテレビドラマは68ヵ国・地域で放映されたという。子供たちを襲う貧困は、時に、とんでもない結果をもたらし、その子が歩む人生を誤らせてしまうことが多い。

インドでは今日でも貧困が暗い影を落としている。ここに、「人身売買のために連れ出された子供を保護することはその子の人生を救ってやるようなものだ」と題された記事がある [注1]。子供の人身売買はインドにおける極めて今日的な社会問題のひとつである。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

なお、人名の読み方については間違いがたくさんあるだろうと推測しています。ご容赦ください。


<引用開始>

人身売買のために連れ出され、オールドデリー駅を通過するおびただしい数の子供たちを識別し、保護してやれる機会は一瞬のうちに遠のいてしまう。けれども、インド政府がこの取り組みを強化するに連れて、本格的な成果が観察できるようになった。


Photo-1: オールドデリー鉄道駅に設置されたチャイルドライン・キオスク。鉄道の職員やポーターがここのメンバーだ。写真提供:Amrit Dylan 

毎日約50万人がこのオールドデリー駅を通過する。同駅のアーチ型の正面玄関から出て来る人々の中には子供たちがいる。彼らを率いる大人の付添人は彼らを劣悪な条件で働かせる工場や売春宿へと売り飛ばす。列車が到着すると、プラットホームでは毎日250人ものそういった類の子供たちが無数の一般乗降客に紛れて、この駅を通過する。アジシュにとっては、連れ出されてきた子供たちが駅を離れ、外部の雑踏の中に紛れ込んでしまう前の数分間が勝負どころだ。

驚いたことには、このほんの僅かな時間だけがチャイルドライン・インディア基金で全力を奮っている彼自身と彼のチームが活用できる唯一の機会なのである。毎月、90人から100人もの子供たちが人身売買業者の軛から解放されている。

この日、アジシュは11番線に入って来るカルカッタからの「カールカーメール」に狙いを定めた。その列車からひとりの乗客がチャイルドラインに電話し、彼の客室に同乗している4人の男の子たちは場違いな感じで、えらく不幸せな様子だと伝えてきた。到着駅に本拠を置くチャイルドラインのチームがその列車に乗り込んで、子供たちを見定め、彼らと一緒に旅行をしてきた「叔父さん」に近づくと、その「叔父さん」は人込みをかき分けて、逃げてしまった。

アジシュは子供たちを一番線のホームにあるチャイルドラインのオフィスに連れて行き、座らせ、ゆっくりとお茶やビスケットを与えた。 

「叔父さんは僕がいい仕事にありついて、ジーンズを無料で貰えるようになると両親に言っていた」と10歳のアニル・パスワンが言った。「そして、毎月両親に送金するのに十分な給料を稼げる。僕の両親はその金で弟や妹たちのために食糧を買えるんだ。」  

アジシュは、毎日、これと同じような話を聞いている。現実には、「叔父さん」は男の子を雇用主に売り飛ばし、この男の子は道路脇の食料品の露店または工場で、あるいは、低賃金で衣料品を製造する業者の汚らしい作業場で毎日12~14時間も奴隷のようにこき使われるのだ。

インド鉄道は毎日2千5百万人を輸送する。しかし、同鉄道は人身売買のために用いられている中核的な舞台でもある。

3年前に婦人・子供省の肝いりでチャイルドライン基金が設立され、同基金は移動中の子供たちを保護することを目的にインド鉄道と協力することになった。このプロジェクトは鉄道の職員を訓練することから始まった。彼らは誰よりも早く子供たちに関心を払い、何かおかしなことがないかどうかを見極めることができるのだ。

「われわれは全鉄道網を対象に訓練を行っている。(列車が停止してから列車に乗り込む)ポーター、検札係や食事を配給する係員、プラットホームの職員、プラットホーム上の売子、清掃員、等を含めて、皆を訓練した。誰もが警戒態勢を取り、何らかの予兆を見逃さないようにした。これこそが機を逸することなく、移動中の子供たちを保護する唯一の方法だ」と、同基金の理事長を務めるアンジャイアー・パンディリ博士は説明する。


Photo-2: フェースブック/ツイッター/ピンタレスト。オールドデリー駅に設置されたチャイルドライン・インディアのオフィスにおけるアジシュ。写真提供:Amrit Dhillon

鉄道職員は意気消沈し混乱しきった子供たちや彼らに付き添っている大人とは違ってえらくみすぼらしい衣服を身に着けた子供たち、あるいは、かなり違った方言を喋っている子供たち、何処へ行くのかという質問に対して非常に限定的な答えしかできず、それを繰り返したり、曖昧な返事しかできない子供たちを特定し、一行の大人と子供たちとの間に観察される不釣り合いな様子を報告するよう訓練を受ける。


Photo-3: ソサイエティ・ウィークリーをどうぞ。これは公共サービス担当職員のためのニューズレター。

ニーラジ・カポーアは1番線ホームでキオスクを運営し、本や新聞を売っている。彼が電話をしてきた。「いったん兆候を理解しさえすれば、人身売買のために連れ出された子供たちを見い出すことはそれ程難しいことじゃない。以前は関心を払っていなかっただけだ。前はこの問題がこんなにも深刻であるとはまったく考えもしなかった」と、彼は言う。 

国立刑事犯罪記録所によると、2016年にはインド国内で8,132件の人身売買が報告された。これは2015年の6,877件から18パーセントもの増加であった。

職員は別としても、一般大衆もこの問題に関心を示した。列車やプラットホームには20万枚ものポスターが掲載され、チャイルドライン・ヘルプラインの電話番号が示されている。さらに、鉄道当局は飲料水のボトルや使い捨てのお茶のカップにも電話番号を記載した。主要な列車内や駅では拡声装置を用いて誘拐された子供たちや連れ出された子供たちに気を配るよう呼び掛けている。

「反応は驚くほどであった。何か怪しいと感じた乗客から毎日のように何百回もの電話があった。また、人身売買のギャング組織のメンバーからで、報酬を払って貰えなかったことに対して恨みを抱くメンバーからの電話もあった。つまり、他のメンバーについてのたれ込みである」と、チャイルドラインの地方組織を率いるヒーヌ・シンは言う。

場所柄から見てリスクが高い83カ所の駅にチャイルドライン・キオスクが設置された。毎日24時間にわたって運営し、何人もの職員を配置した。発見されることを避けるために人身売買業者は夜行列車を多用し始めた。3月までには、さらに75の駅でチャイルドライン・キオスクが開設される予定だ。 

「われわれのプロジェクトはまだ先が長い。駅の総数は8,000もあって、その中で約1,000の駅が高リスクだ。つまり、それらは子供たちを送り込もうとする大都市に繋がる主要な接続駅だ。われわれにはどの駅が人身売買用の回廊となっているかほぼ分かっている」と、パンディリは言う。

当面の成果に彼は満足している。2015年以降、総勢で48,000人以上もの子供たちを保護したのである。カルカッタのハウラー駅だけでも、月に150人もの子供たちが保護されている。チャイルドラインの推測によると、これらの子供たちの約40パーセントは人身売買のために連れ出されたもので、残りは父親がアルコール中毒であるとか、関心を寄せてくれない継母といった家庭内の問題からの逃避が原因である。あるいは、子供たちのふざけた行為が悪い結果をもたらしたというケースもある。しかし、後者の場合であっても、すっかり途方に暮れ、迷子になっていると見なされると、彼らは鋭い顔つきのギャングや人身売買業者の餌食となって、家へ帰って来ることはなくなってしまうだろう。

アジシュの仕事のひとつは鉄道駅で子供たちをどのように扱うべきかについて鉄道会社の職員を訓練することである。決して焦らず、優しく、きめ細やかな扱いをすることが必要だ。本当の状況を把握するには探偵のような技を必要とする。そればかりではなく、子供自身が安心して本当のことを話してくれるまでじっと待ってやる辛抱強さも必要である、とアジシュは言う。

「子供たちが喋る嘘は丁寧により分けなければならない。叔父さんは自分自身に関しては子供たちや両親を助けてやることができる善良な人間だと子供たちに言い含めている。そこへわれわれが現れ、君たちの叔父さんは悪い人間だとわれわれが言う。子供たちにとってはわれわれを信じ始めるまでには何日もかかるのだ」と、彼は言う。 

2~3日前、立派な電気屋さんになれるように訓練を受けると言われていた6人の子供たちがチャイルドラインのオフィスで座っていた。彼らは放心したような表情で、ソフトドリンクを飲もうとはせず、ビスケットを食べようともしなかった。涙がこぼれるのをじっと堪えているかのようであった。アジシュがデリーから2,000キロも離れているグワハティからのアヴァド・アッサム急行に乗り込み、彼らを連れ出した人物を逮捕した。

子供たちのひとりが泣いているのをポーターが発見して、彼はアジシュへ電話をした。鉄道警備隊にはプラットホームで待機するように告げ、アジシュと彼のチームは大急ぎで列車に乗り込んだ。彼らはチャイルドラインによって訓練を受けているとは言え、彼らが身に着けている制服は子供たちを怖がらせることが多い。

アジシュは年齢が13歳前後の少女に手こずらされた思い出がある。その少女は職業紹介所で女中として働くか、場合によっては売春宿へ売られるところであった。彼女は3日間にもわたって自分の名前や年齢を偽っていた。人身売買屋はもしも彼女が誰かに本当のことを喋ったりしたら彼女の両親は拷問を受け、彼女自身も刑務所へ送り込まれるぞ、と脅しをかけていたのだ。

「中には連れ出されるまえに拷問を受けて、彼らを連れ出した人物は本当の叔父さんだと言い張る子供もいる。また、驚きのあまりすっかり混乱してしまう子供もいる。タジマハールはまったく別の都市にあることも知らずに、タジマハールを見学しに来たという子供もいれば、まったく季節外れであることも知らないで、ディーワリーのお祭りにやって来たと言う子供もいる」と、アジシュが現状を説明してくれた。

駅から出た後にたっぷりと食事を取り、安心していられる周囲の様子を眺めて、すでに保護された他の子供たちが丁寧に扱われているのを実際に見て、子供たちは警戒心を弱め始める。その後、子供たちは近くにある収容施設へ案内される。「通常、年長の子供がわれわれを信じ、われわれに本当の話をしようと決心すると、他の子供たちもそうしてもいいんだ、そうしても安心なんだと自分自身に言い聞かせるようになる」と、彼は言う。 


Photo-4:  フェースブック/ツイッター/ピンタレスト。 オールドデリー駅のプラットホームで子供たちを調べているアジシュ。写真提供:Amrit Dhillon

収容施設に到着すると、次の行動を決めるために政府の福祉委員会が子供を評価する。多くの場合、第一の目標は彼らを自分たちの家族と合流させることにある。両親が貧困のあまりに子供を人身売買業者に売り飛ばした場合には、その地域のNGOを介して子供をその家庭に送り届け、再会を果たした後も様子を観察し続ける。彼らがどうして悪い行いをしたのかについて両親の相談に乗り、再びこのような事態を引き起こした場合には罰せられることになると警告をする。

最近人身売買業者が始めた計略を予測して、チャイルドライン・チームは彼らの一歩先へ進まなければならない。たとえば、捕らえられるのを回避するために、彼らはオールドデリーの手前の小さな駅で列車を降り、そこからはバスを使い始めたのである。


Photo-5: インド鉄道の駅から拉致され、消息不明となった子供たち

「以前、彼らは自分の身分証明書を検札係に提示することが求められない一般客用の客室を使っていたものだ。明らかに、そこはわれわれにとっては見逃せない場所だ。しかし、今は、彼らは疑いをかけられないようにもっと高額の客室を使っている」と、検札係を務めるバグワト・プラサド・シャーマは言う。

アジシュにとっては、彼らの仕事がもたらす成果は数字になってはっきりと現れて来ている。2015年以前は、鉄道警備隊はオールドデリー駅で月に2~3人の子供を保護していた。今は、その数値は約100人にもなっている。

「彼らを保護してやれると、彼らの全生涯を救ってやったような気分になる。彼らの教育や健康、家庭生活、そして、もちろん、彼らの子供時代のすべてをだ」と彼は言う。 

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

どこの社会にも暗黒部分はある。子供の人身売買は家庭の貧困に端を発しており、これを絶滅するには長期間の忍耐深い取り組みが必要であることは明らかだ。

大学の医学部に掲示されている人骨の標本は大人もあれば子供もある。ある国の話であるが、貧困のあまりに子供を人骨標本のために売ってしまった親のことを読んだことがある。しかも、結構最近の話だ。このようなとんでもないことをしてしまう親は決して許せるものではないが、この悲惨な出来事の背景には子供の人骨を密売するネットワークが存在している。これは上記のインド鉄道を使って大都市に子供を連れ出し、人身売買をする業者とまったく同じ構図である。悲しい現実である。

高リスクの駅が1,000カ所もあって、キオスクが設置された駅はまだ83カ所とのこと。このプロジェクトはまだ始まったばかりだと言える。子供たちを待ち受ける悲惨な現実を解決しようとして、チャイルドラインのプロジェクトを立ち上げたインド社会に賛意を送りたい。子供たちの人生そのものを救うためにも、より以上の成果を上げて貰いたいものだ。




参照:

注1: 'When you rescue a trafficked child, it’s like saving a life': By Amrit Dhillon in New Delhy, HUMANITY UNITED, Nov/26/2018  












2018年12月2日日曜日

ネオコン、好戦派のアトランティック・カウンシルがウクライナにおける対ロ紛争の拡大を求める - 重砲、艦船、経済制裁

先日の日曜日(1125日)、クリミア半島とロシア本土との間に位置するケルチ海峡にてウクライナ・ロシア間で領海を巡るイザコザが起こった。

その焦点はウクライナの小砲艦であって、漁船ではない。ロシア側は領海を守るためにロシアの領海を不法に通過しようとした小砲艦に停止を命じた。しかし、ウクライナの艦船はロシア側の停止命令を聞き入れなかった。止むを得ず、ロシアの沿岸警備隊はこれらの艦船に対して射撃を行った。

このイザコザはすべてがウクライナの小砲艦2隻 (注:排水量54トン、最高速度28ノット、乗組員5名)とタグボート1隻がロシアへの事前連絡もなしに、さらには、何度となく発せられた停止命令も聞かずにロシアの領海であるケルチ海峡を通過しようとしたことから始まった。これらの小砲艦はクリミア半島の西側に位置するオデッサ港を出港し、途中で一行に加わったタグボートを含めて、クリミア半島の東側にあるアゾフ海のベルディアンスク港に向かおうとしたが、極秘で通過しようとしたケルチ海峡でロシアの沿岸警備隊に発見され、拿捕された。この出来事によって2人のウクライナ人乗組員が負傷したと報じられている。しかし、生命にかかわるような負傷ではなかった。

法的な取り扱いに関しては、この種の紛争においては常にそうであるが、さまざまな意見(多くは情報の歪曲を目的としている)が述べられており、どれが正論であるのかを正しく判断し、識別しなければならない。素人のわれわれには難しいことだ。

今までの経緯を見ると、この夏、ウクライナ海軍の2隻の艦艇はケルチ海峡の通過にあたっては事前にロシア側に連絡をし、水先案内人を乗船させ、ロシア側はこれらの艦艇の通航を了承した [1]

今回、ウクライナ側は何らかの理由でこの手続きを履行しなかったのだ。

さっそく、この出来事を巡ってウクライナとロシアとの間で激しい舌戦が始まった。ウクライナを支援する米国とその同盟国の大手メディアは、マレーシア航空のMH17便撃墜事件の際と同様に、あるいは、スクリッパル父娘毒殺未遂事件の時のように、ロシアを非難する大合唱を速やかに開始した。事前に計画されていたかのような感がある。

事実、1128日の報道 [2] によると、ウクライナ海軍がこの作戦で用いたチェックリストがすでに英文に翻訳されて、インターネット上で報じられている。それによると、ウクライナ海軍のこれらの艦艇は極秘にケルチ海峡を通過し、アゾフ海のベルディアンスク港にその本拠を移設するように命じられていたことが判明している。興味深いことには、「極秘にケルチ海峡に接近し、通過する」ことが非常に重要な任務であったらしく、このチェックリストに繰り返して記されている。

ウクライナのポロシェンコ大統領が何故このような命令をこの時期に下したのかに関しては、専門家らはさまざまな見解を提示している。やはり、ウクライナ政府が単独で実行したものではなく、これは米国の対外政策、特に対ロ政策を反映したものであって、米国の後押しあるいは指導があったという推測がもっとも妥当なようである。

ここに1129日付けの記事 [3] がある。「ネオコン、好戦派のアトランティック・カウンシルがウクライナにおける対ロ紛争の拡大を求める - 重砲、艦船、経済制裁」と題されている。

(注:アトランティック・カウンシルは1961年にワシントンDCに設立されたシンクタンク。このシンクタンクは国際的な安全保障や経済発展を専門の分野とし、NATOを支える大元の組織であるAtlantic Treaty Associationの一員である。つまり、アトランティック・カウンシルはNATOのためのシンクタンクである。この背景から判断すると、アトランティック・カウンシルの言動がウクライナ政府に対して如何に影響を与えているのかが明瞭に見えて来る。)

本日はこの記事 [3] を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>
最近、ウクライナの艦艇が黒海からケルチ海峡を無断で通過し、アゾフ海に入ろうとしたことがニュースとなり、世界中を駆け巡った。大きな危機として報じられ、いとも簡単に戦争に拡大していったかも知れない。予想に違わず、米ディープステーツの重要なメンバーであるアトランティック・カウンシルはこの出来事について意見を発し、介入して来た。

この紛争の舞台となった地域の地図をここに示す。中央にはクリミア半島、アゾフ海が中央から右上に広がり、アゾフ海の東側はロシア本土。アゾフ海の北側はウクライナ領東部。 


Photo-1

次の写真は36.9憶ドルを投下して最近建設されたばかりのケルチ海峡ブリッジの745フィート(227メートル)の橋桁を封鎖する貨物船を示す。ケルチ海峡ブリッジはロシア本土とクリミア半島を結んでいる。


Photo-2

次の写真はロシアがケルチ海峡を封鎖したために起こった商船の渋滞振りを示す。 クリミア半島は今やロシア領であり、ロシアの領海をコントロールするための封鎖であった。


Photo-3

ここで、この強まるばかりの嵐についてアトランティック・カウンシルがいったい何を言いたいのかを検証しておきたい:

「アゾフ海ではロシアとウクライナとの間で緊張が高まっている。これは2008年の夏に起こったジョージアとの戦争を引き起こしたロシア側の挑発を思い起させる。ウクライナ東部の港を封じ込め、クリミア半島に対するモスクワ政府の支配を強化するために、ロシアは何カ月にもわたってアゾフ海をロシアの内水にしようとしてきた」と、アトランティック・カウンシルの副理事長であるデイモン・ウィルソンは言う。

「モスクワの積み上げ方式的なやり方は2008年にわれわれがジョージアで観察した通りであって、個々の動きは劇的ではないかも知れないが、総合的に見るとロシアは戦略的な成果を挙げることが多い。本日、ロシアはウクライナに脅しをかけ、ウクライナの船舶が国際的な海域を航行し、自国の港へ入港することを諦めさせようとした」と、彼はさらに付け加えた。 


Photo-4

ウクライナ・ロシア間の緊張は1125日に劇的に高まった。キエフ政府はロシアの沿岸警備艇がアゾフ海でウクライナ海軍のタグボートに衝突し、モスクワ政府はウクライナの艦船が事前の許可もなしにこの海域を通過することを阻止したと言った。ロシアは、すでに報じられている通り、3艘のウクライナ海軍の船舶を拿捕した。ウクライナ政府はロシア軍はこれらの艦艇に向けて射撃し、6人の乗組員が負傷したと言った。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は、この状況に鑑みて、ウクライナ議会が戒厳令を敷くよう提言したいと述べた。

「クレムリンの隣国に対する政策を監視している者たちにとっては、この動きは危険極まりなく、しかも、周知の状況である」と、アトランティック・カウンシルのユーラシア支部の理事であるジョン・E・ハーブストが述べている。 

「モスクワは何年間もジョージアに対して挑発をした。たとえば、軍用機による領空侵犯、ジョージア領内へのミサイルの発射、ロシア軍(訳注:ロシアから派遣されていた平和維持軍のことを擁している地域とそれ以外のジョージア領とを区別する境界線を越しての砲撃、等。南オセチアからのこういった砲撃が2008年のジョージアとロシアとの間の戦争をもたらした」と、彼は説明する。 

アトランティック・カウンシルのユーラシア支部で非居住者の上席研究員を務めるマイケル・カーペンターは「黒海とアゾフ海を繋ぐケルチ海峡でのロシアによるウクライナ艦艇の拿捕はアゾフ海でのコントロールを確保し、ケルチ海峡を出入りするウクライナの商船を封じ込めようとするロシア側のより大きな戦略の一部だ」と述べている。  

「この動きは国際法の侵犯であり、ウクライナに対する4年半に及ぶロシアの戦争に新たな要素を加えることになった」と、彼は付け加えた。 

「米国は直ちにこれに対応し、ウクライナ政府に商船の状況を熟知するためのレーダー網を与え、陸上発射型の対艦ミサイルを備えて、同国のアゾフ海沿岸を防衛させるべきだ」と、カーペンターは言った。 

「また、米国はスベルバンク、VTB、ガズプロムバンクといったロシアの大手銀行のひとつに関して資産を凍結するべきだ。ロシア側がわれわれの要求に対応することを怠るならば、ロシアの銀行に対する制裁の解除はロシア側がウクライナ船の自国の港への入港を再開できるようにし、ドンバス地区からはロシア軍を撤退させることを条件とするべきだ。これらが実行されるまでは、クレムリン側のコストはさらに膨らむことだろう」と、彼は補足した。


Photo-5

アトランティック・カウンシルのユーラシア支部において居住者であり上席研究者でもあるアンデルス・アスルンドは次のように述べている。「NATOと米国はアゾフ海に海軍艦艇を送り込み、アゾフ海で船舶の国際的な航行が自由に行われることを保証するべきだ。」 

『これらの行動は1982年の「海洋法に関する国際連合条約」や1936年の「モントルー条約」にも準拠するであろう』と、アスルンドは言う。

アゾフ海は、2014年にロシアがクリミアを併合してからというもの、モスクワ政府とキエフ政府との間での争点となっていた。

「ロシアが2014年にクリミアを併合してからというもの、ロシアは国際的なアゾフ海をロシアの内水にしようとしてきた。彼らはウクライナ沿岸の多くの部分、ならびに、マリウポルやベルディアンスクといった大きな商港を封鎖してきた」と、アスルンドは言う。

アトランティック・カウンシルの目的は極めて明白であって、それは対艦ミサイルや米海軍を導入することによって、さらには、対ロ経済制裁を課し、ロシアはこの地域で新たな戦争を引き起こそうとしていると非難することによって、この地での紛争をさらに拡大させることにある。

あなたがもしもお忘れだったならば、ここにアトランティック・カウンシルのために寄付を行った主だった人物や組織(つまり、アトランティック・カウンシルに大きな影響力を持っている人物や組織)の表があるのでご覧いただきたい。


Photo-6

下記の主だった寄付者のことを記憶しておこう:
  • 英外務省
  • 米国務省
  • ジェネラルアトミックス
  • ユナイテッドテクノロジー
  • ロッキードマーチン
  • レイセオン
  • タレス(フランスの航空宇宙防衛関連企業)
  • 米空軍アカデミー
  • ボーイング
  • テクストロン
  • ウクライナ系カナダ人議会
  • 米空軍
  • NATO米代表部
影響力とは良く言ったものだ。まさにその通りだ。アトランティック・カウンシルは、ケルチ海峡での出来事を巡って対ロ軍事行動を拡大するよう推奨することにより、主だった寄付者たちの思惑 [訳注:つまり、政府からの軍需品の注文を急増させること] に応えようとしているのだ。

記憶しておきたい重要な事柄がもうひとつある。20185月、フェースブックはアトランティック・カウンシルおよびその傘下にあるデジタル・フォレンシック・リサーチ・ラブ(デジタル・シャーロックスとも称する)との連携を開始した。この連携の目的は愚かにもロシアに基盤を置いたプロパガンダと米国に基盤を置いたプロパガンダとをはっきりと識別できないでいるわれわれを防護することにある。これは例の悪辣なイラン関連プロパガンダからわれわれを守ろうとしているグループと同一の組織だ。(訳注:「この連携の目的は・・・」の文章はかなり皮肉を込めた言い回しになっている。「はっきりと識別できないでいるわれわれを防護することにある」とは「はっきりと識別できないでいるわれわれが目を覚ますこともなく、いまのままで居続けるようにすることにある」といった意味であると私は解釈した。)

海洋法に関する国際連合条約からの抜粋を下記に示して、この論考を終ることにしよう:訳注:この条約の和訳文はウィキペディアにて入手可能であるので、そこから引用する。抜粋されている条項は「第19条無害通航の意味」からのものである。

1. 通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。

2. 外国船舶の通航は、当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる。

(a) 武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
(b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
(c) 沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
(d) 沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
(e) 航空機の発着又は積込み
(f) 軍事機器の発着又は積込み
(g) 沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通貨又は人の積込み又は積卸し
(h) この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為
(i) 漁獲活動
(j) 調査活動又は測量活動の実施
(k) 沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
(l) 通航に直接の関係を有しないその他の活動」 

誰もが少なくともウクライナ海軍がとった行動の動機は何であったのかを質すべきだ。特に、上記の国連海洋法条約からの抜粋の中では(d)項に関して質すべきである。

この論考からも垣間見ることができるように、米国に本拠を置いた、選挙で選出されたわけでもなく、完璧なまでに好戦的な組織がわれわれをロシアとの戦争に限りなく近づけようとして全力を奮っているのだ。彼らの軍産複合体・議会からの後援者の利益のために、この強力なアトランティック・カウンシルが最善をつくすべく行動していることは明白である。われわれのすべてにとって悲しいことには、ワシントンの悪評の高い暗部に住むメンバーらは彼ら自身が戦争の最前線に立っていることを決して自覚することがないのである。



原典: Viable Opposition

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

この引用記事で学んだもっとも重要なことは、またもや、米国のネオコンがロシア国境の近くで新たな軍事紛争を起こし、拡大しようとしている現実であろう。何のためか?

海洋法の観点からは、ウクライナ側が海洋法に関する国際連合条約に違反したことはほぼ確実である。

また、このブログを読んでいただき、さらに多くの追加的な情報を読んでいただいている読者の方々はウクライナ政府を支援する西側の大手メディアが流布する情報には歪曲や偽情報が少なからず存在していることにお気付きだと思う。このケルチ海峡紛争に関する報道もまったく同じ状況にある。アトランティック・カウンシルのお偉方の発言はその最たるものだ。

ある批評家の指摘によると、G20サミットでトランプとプーチンとの会談が予定されていたが、つい最近起こったケルチ海峡でのイザコザの目的はこのトランプ・プーチン会談を潰すことにあったのではないかと言う。 1130日の報道によると、トランプ大統領はプーチン大統領との会談をキャンセルした。

しかしながら、121日、両大統領はG20サミットで非公式な会話を持ったとのことだ。米ロ両国ともこの事実を認めている。

状況がめまぐるしく変化した。トランプ大統領にとっては国内向けに、特に軍産複合体向けにはサミットの直前にプーチンとの会談をキャンセルしたが、今思うに、これは単なる目潰しであって、トランプ大統領はプーチンとの会談を何らかの形で行うことに決めていたのではないかと推測される。二転三転した状況はすべてがトランプ派と反トランプ派との間の政治的綱引きの結果である。

ところで、核大国である米国とロシアとの間の武力紛争は最終的には核戦争になってしまう可能性が実に高い。そうなったら、文明の終焉である。石器時代に戻る程度で核戦争が終わるならば、それは想定し得る中では最良のシナリオであろう。全世界の人類を蒸発させるのに必要な量の原爆の10倍もの核兵器を備えている核大国は最後の最後まで相手を攻撃し、攻撃された側は報復攻撃を行うことであろう。軍人にとってはそうすることが究極の任務であるからだ。こうして、人類はあっけなく消滅してしまう。

米国の経済はすっかり軍事経済になっている。米国経済を成長させるために、米国は冷戦時代からもう何十年間にもわたって仮想敵国の存在が必要であった。全世界の市民にとって不幸なことには、今、戦争に依存する米経済の体質はかってない程に亢進している。

米ロ両国の一般大衆は自分たちの運命を投げ出し、好戦的な一部の集団に自分たちのすべての権利と運命を与えてもいいと考えているのであろうか?一刻も早く目を覚まして欲しいものだ!

また、ヨーロッパ市民も目を覚ましてほしい!米国がINF(中距離核戦力全廃)条約から脱退し、米ロ武力対決が始まると、ヨーロッパは間違いなく対ロ戦争の主要な戦場と化すことになる。それでもいいのか?

米ロ武力対決の一歩手前にまで漕ぎつけてしまった今、シリア紛争にせよ、ウクライナ東部のドンバス地区の独立要求にせよ、さらには、最近のケルチ海峡紛争にせよ、全世界の政治家は東西間の武力緊張を緩和する方向で思考し、行動しなければならない。政治家にとっても、われわれ一般庶民にとってもこれ以上に重要な政治課題はない!



参照:

1The Context to Understand the Russian-Ukrainian Naval Clash at Kerch Strait: By Rostislav Ishchenko, RUSSIA INSIDER, Nov/26/2018

2Proof that Ukrainian crews were given the order to try to “covertly” cross the Kerch strait: By The Saker, Nov/28/2018

3Neocon, War-Loving, Atlantic Council Calls for Escalation Against Russia in Ukraine – Guns, Ships, Sanctions: By A Political Junkie, RUSSIA INSIDER, Nov/29/2018









2018年11月25日日曜日

対ロ戦争ではNATOの勝ち目はない


しばらく前の投稿(2018年9月15日の「米国の崩壊を見ている思いがする」)では以下のようなことを書いた:

「米国だけが軍事大国であると信じる中、無頓着な米国人が見い出す安全保障の姿はどう見ても無知そのものでしかない。クラリティ・プレスから出版されたアンドレイ・マルティアノフの新刊書は米国はせいぜい二流の軍事大国でしかなく、あの間抜けなNATO加盟諸国と共に、ロシアには意のままに、かつ、徹底的に破壊されてしまうだろうと述べている。NATOの加盟国は個々には軍事的に不能である。ロシアが馬鹿馬鹿しい非難や馬鹿馬鹿しい脅かし、あるいは、自分自身の傲慢さに酔いしれて完全に劣等な軍事力を宣伝する馬鹿馬鹿しさ、等に嫌気をさした暁には、現在の軍事力の相関関係において言えば、たとえ西側世界の1インチ平方の土地を救おうとしても西側は何もすることができないであろう。」

これは米国の著名な論者、ポール・クレイグ・ロバーツの言葉だ。彼は米国の一般大衆が如何に完璧に洗脳されているかを指摘し、現実の理解については非常に無頓着である現状を嘆いている。

米軍が有する軍事力は世界でもダントツであるとされている。少なくとも大手メディアが報じるニュースの端々に現れる米軍を描写する際に使われる形容詞を見る限り、われわれ一般大衆は「その通りだ」と思ってしまう。何故かと言えば、その主張を覆すような見解や意見が報道の檜舞台にはほとんど現れて来ないからだ。

そして、そういった独自の見解(つまり、企業メディアの顧客の利益を忖度することのない見解)は多くの場合代替メディアでしか入手できない。代替メディアで特定の記事を入手するには、読者自身が情報を検索し、選択しなければならないという過程がついてまわる。われわれ一般大衆にとってはこれが大きな障害物になる。

しかしながら、ここに凝り固まった頭をほぐすのにうってつけの記事がある [注1]。

この際、歯に衣を着せずに論じる専門家の見解をおさらいしておこう。より客観的な理解ができるようにわれわれ自身を少しでも多く、そして、少しでも正確に啓蒙することができるのではないか・・・と思う次第だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

このテーマは元々は2015年7月にアンズ・レビュー(Unz Review)にて出版されたものだ。しかし、ここで、もう一度この記事を流そうと思う。過去2週間というもの、ロシアとNATOとの間では酷く困難な状況が表面化しているからだ。何と言っても、「セイカー」はこの種のテーマにおいてはダントツである。[訳注: この記事が流されたのは今年の3月26日である。その3週間余り前の3月1日、プーチン大統領はロシア連邦議会で演説を行い、その際にロシアが開発した最先端ミサイルに言及した。これは対空防衛システムでは対応できない極超音速で飛行するミサイルであって、他国は何処も所有してはいない新兵器であると言明した。言わば、2018年3月は東西の軍事バランスが大きく変貌した時期である。このことを念頭に置いて、本投稿を読み進めていただきたいと思う。]

この記事を書いてからというもの、ロシア軍の能力は強化されるばかりである。最新鋭の武器システム、高揚した戦意、シリアでの実戦経験、等がそうさせているのだ。




Photo-1: ロシア軍空挺部隊 - モスクワ緊急展開部隊

最近のアンズ・レビューの記事で私は「想定可能なあらゆる状況においてロシアは国家としての米国を30分で壊滅させることができる(もちろん、米国もロシアに対してまったく同様の状況をもたらすことができる)。米国の戦争計画者は誰もがロシアに対する軍事的行為は急速に拡大する可能性があることを配慮しなければならないだろう」と書いた。

しかし、両国の何れもが、戦術用核兵器を含めて、核兵器を使用する気はないと想定するならば、この想定はロシアは軍事的には依然として米国に挑戦することができるのではないかという新たな論点をもたらす。何らかのマジックによって、すべての核兵器が消えてなくなったとしよう。その場合、ロシアと米国との間の軍事バランスはいったいどのような状況になるのだろうか? 


数字いじりは何の意味も成さない。それはどうしてか: 

この種の疑問に対する典型的な答えは米国の戦争計画者は「数字いじり」と呼ばれる手法に頼ることになる。典型的には、ジャーナリストは毎年発刊される「IISS軍事バランス」または「グローバル戦力」ならびに両国が公表する兵士、主力戦車、装甲型兵員輸送車、歩兵部隊用戦闘車両、戦闘機、重砲、爆撃機、ミサイル、艦船、潜水艦、等の一覧表を頼りにする。

しかし、現実には、そういった数字いじりはまったく何の用も成さない。単純な事例を取り上げてみよう。中国とロシアとの間で戦争が始まったと仮定してみよう。中国は雲南省に1000台の戦車を有しているとする。これらの戦車はこの戦争には何の意味ももたらさない。何故かと言うと、余りにも遠距離に位置しているからだ。この警告を米ロ間の通常兵器による軍事バランスに当てはめた場合、われわれは直ぐにも下記に示すふたつの基本的な論点に到達することだろう: 

a) 全世界に散らばっている米軍の中ではいったいどの部隊が米国の対ロ戦指揮官に直ぐに入手可能となるのか?

b) この部隊はどれだけの量の補強を必要とするのか?補強の人員や物資はどれだけ迅速に戦場に配備することが可能か?

戦車や爆撃機、兵員、重砲は単独では戦えないことを念頭に置いておこう。つまり、これらは理論的には皆が一緒になって「連合部隊」戦と呼ばれる形で戦う。たとえ米国がXの数量の兵員を地点Aに配することができるとしても、戦闘で彼らを支援してくれる他の連合部隊の構成部門が到着しない限り、彼らは敵の餌食となるだけである。

更には、如何なる戦闘部隊も大規模な兵站・補給の取り組みを必要とする。航空機Xを無事に地点Aに配したとしても、ミサイルやメンテナンス機器、メンテナンス要員が現地にいなければ、その航空機は役に立たない。装甲車両部隊は大量の燃料、オイル、潤滑剤を消耗することで良く知られた存在だ。ある試算によると、1991年、米装甲車両部隊はたった5日間持ちこたえただけであった。 その後は、大規模な補給作戦が必要となった。

最終的に、米国がある戦力を地点Aから地点Bへ移動した場合、その戦力は地点 Aで割り当てられていた通常任務を遂行することができなくなる。「地点A」は中東あるいは極東アジアであるかも知れない。そのことを念頭に置くと、この問題は米指揮官にとっては頗る困難な意思決定となるであろうことはあなたにも容易にお分りいただけるだろう。


「重装備の」戦争行為: 

米国には「砂漠の盾作戦」をどのように戦ったかという好例がある。この大規模作戦ではイラクを攻撃するために必要な兵力を集約するために米国にとっては6か月もの前代未聞の兵站の取り組みが必要となった。

さらには、サウジアラビアは(いわゆるカーター・ドクトリンに準拠するために)そのような大規模部隊を受け入れるための準備を何十年間もかけて行っていた。さらには、米国の取り組みについてはサダム・フセインからの反撃はまったく無かった。ここで、下記の問い掛けをしていただきたい: 

a) ロシアとの戦争の場合、ロシアの周辺国にはサウジアラビアのようにインフラを整え、事前にさまざまな装備を集積し、広大な基地や滑走路、深い港湾、等を有する国がいったいあるだろうか?(答:無い) 

b) ロシアが何の対処もせずに米国に6か月もの戦争準備期間を与えてくれるだろうか?(答:そんなことはあり得ない) 

戦争はすべてが砂漠の嵐作戦のように「重装備の」シナリオで展開するという考えには誰かが反論することだろう。米国が米国自身とNATOの緊急展開部隊だけを使って、非常に「軽装備の」軍事介入を行う場合、その展開は果たしてどうなるであろうか?


軽装備の(または、緊急展開による)戦争行為: 

ここで、私は昨年の12月に書いたことを繰り返しておこうと思う。

ロシア人はNATOが誇示する軍事的な脅かしには何の恐怖感も持たない。最近のNATOの動き(中央ヨーロッパにおける新たな基地や兵力、多額の費用の投入、等)に対して見せる彼らの反応としては、これらの行為を挑発的であるとして非難するが、ロシア政府の要人は誰もがロシアはこの種の軍事的脅威に対応することができると言う。

ロシアのある議員はこう述べている。「五つの緊急展開揺動作戦グループが行動を起こしたとしても、われわれは一発のミサイルで解決することが可能だ。」 非常に単純化されてはいるが、本質的には正しい数式だ。 

前にも私が言ったように、ロシア空軍を倍に拡大し、エリート軍団である第45特殊空挺部隊を旅団サイズに拡張するという決断はすでに実行されている。ロシアは自国の移動可能な(空挺)部隊を36,000人から72,000人に拡張することによって、NATOが10,000人強の部隊を作ることに対して先手を打ったとも言える。

まさにこれは典型的なプーチンの対応だ。NATOがファンファーレを鳴らし、花火を打ち上げて特殊緊急展開部隊の創設を発表する間に、プーチンは静かにロシアの空挺部隊を72,000人に倍増する。 

私が言うことを信じて貰いたいのだが、戦闘慣れしたロシア空挺部隊は、快楽主義的で、戦意が低く、多国籍軍(28ヵ国)で構成される5,000人のユーロ軍団に比べると、その戦闘能力は遥かに高い。ユーロ軍団についてはNATOがひとつの部隊にしようとして懸命に注力している最中だ。 米司令官らはこのことを良く承知している。

言葉を代えて言えば、「軽装備」または「緊急展開」による戦争行為ではロシア軍が秀でており、米軍やNATO軍が優位性を実現できるるような場ではない。それに加えて、もしも「軽装備の戦争行為」が計画よりも長期化し、「重装備」の戦争に切り換えざるを得なくなったとしたら、米国またはロシアのいったいどちらが自分たちの重装備部隊をより近くに持っているのだろうか?


衝撃と畏怖:

もちろん、米国の指揮官には他にも可能な戦争モデルがある。つまり、「衝撃と畏怖」作戦だ。これは爆撃機による爆撃で支援されたクルーズミサイル攻撃である。この手法については、私は苦も無く反論を述べることができる。ロシアに対する爆撃はイラクの爆撃とは比べ物にはならない。ロシアの対空防衛能力は地球上でもっとも有能であるからだ。

あるいは、私としてはこうも言える。米国は民間人を爆撃する際には素晴らしい成功の記録を有しているが、コソボにおけるセルビア軍の場合のような軍隊に対する攻撃では惨憺たる失敗に終わっている。

[補足: 米国・NATOが78日間にわたって行った連続攻撃では1,000機を超す航空機が参画し、38,000回以上もの出撃が行われたが、あれはいったい何を達成しようとしたのだろうか? 10機かそこらのセルビア軍の航空機が破壊された(それらのほとんどは地上にあったものだ)。20何台かの装甲型人員輸送車やタンクが破壊され、1,000人超のセルビア兵が殺害され、負傷を負った。

これらは13万人のセルビア兵、80機を超す航空機、1,400台の重砲、1,270台のタンク、825台の装甲型人員輸送車(ウィキペディアから収録)に対する数値だ。第3セルビア軍団はこの大規模な爆撃からはまったく無傷のままで残った。これは空軍の大失敗として歴史に名を残すであろう!]

しかし、たとえ米軍がどうにかこうにか「遠隔地での」戦争行為に成功したと見なしたとしても、その作戦がロシア軍に深刻な影響を与え、ロシア国民の戦意を喪失させることになるとでもお思いだろうか? レニングラードの市民は78日どころか、無限に続きそうな最悪の包囲や爆撃の下で900日間も生きながらえ、降伏なんて考えもしなかった!

現実には、通常兵器による戦争を考えるだけでも、防衛の側に居ること自体がロシアに対米戦略上では極めて大きな利点をもたらす。ウクライナまたはバルト諸国で紛争が起こった場合、地理的に近いことが米国・NATO側からの如何なる攻撃に関してもロシア側に決定的に有利である。米国の指揮官は、たとえまったく違った振る舞いや発言をしていたとしても、誰もがこのことを十分に理解している。

逆に、米国やNATOに対するロシアの攻撃は、端的に言って、まったく同じ理由からあり得ないのだ。ロシアは国境から遠く離れた場所に軍事力を投影することはできない。

事実、ロシア軍の組織や構造、訓練をつぶさに眺めてみると、ロシア軍はロシアの国境で、あるいは、国境から1000キロ以内で敵軍を敗退させるように設計されていることに直ぐに気付くことだろう。

確かに、ロシアの爆撃機や艦船、潜水艦はそれよりも遥かに遠方にまで出撃している様子が観察されようが、これは典型的な「国旗を見せる」行為であって、実戦における軍事的シナリオのための戦闘訓練ではない。

米軍の唯ひとつの真の目的は自衛能力がほとんどないような何処かの小国を叩きのめし、資源を略奪し、世界の覇者たる米国に逆らう政府を転覆させることにある。あるいは、そういった前例を作ることにある。

米軍は軍事的能力が高い敵国に対して大規模な戦争を遂行するように設計されてはいない。ただし、米国の戦略核の戦力だけは他の核大国(ロシアまたは中国)から米国を防護する、あるいは、大戦争を実際に実行する任務を与えられている。

ロシア軍について言えば、ロシア軍は純粋に自衛のために設計されている。ロシア軍にはヨーロッパの如何なる国家に対しても脅威を与えるような能力はなく、ましてや、米国に対してはその可能性はさらに小さくなる。

もちろん、西側の企業メディアは米軍とロシア軍に関しては「数字いじり」を継続することだろう。しかしながら、それは一般大衆に緊急事態の意識を植え付け、恐怖を生じさせるためのものに過ぎない。近い将来に観察される現実としては、通常兵器だけを用いた紛争の場合、米国もロシアも相手を成功裏に攻撃することが可能な手段を持ってはいないのだ。

実際には、残された唯一の危険性は何の準備もなく、如何なる予期もされてはいなかった紛争であろう。それは当事国の何れもが望んでもいないし準備もしてはいないような軍事衝突へと発展する。二つの好例がある。2006年のレバノンに対するイスラエルの攻撃または2008年のロシアの平和維持軍に対するジョージアの攻撃だ。これらは、時には、愚かな政治家が突拍子もないような愚かな決断を下すことがあることを思い起こさせる。

私はプーチンと彼が率いるチームはそのような愚かな決断をすることはないと自信を持って言うことができるが、現在米国の大統領選に出馬しようとしている政治家を見ると、私はどうしようもない恐怖感を覚えてしまう。

あなたはどうお思いだろうか?

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

非常に専門的な解説だ。それだけに、政治の世界における情報操作の妙が見事に浮き彫りされていると私は感じる。われわれが住んでいる西側世界は虚構の上にたった疑似的現実そのものであることを改めて実感させられる。[注:「疑似的現実」という言葉については、今年の1月9日に掲載した「戦場の特派員からの新年のメッセージならびに警告 - アンドレ・ヴルチェク」と題した投稿をご参照ください。]

通常兵器による戦争は当事国やその国民にとっては大きな不幸である。核大国間の核戦争は人類全体の消滅を意味することから、その不幸たるや究極のレベルとなり、もはや比べようもない。

著者の結びの言葉は現代の政治を端的に描写したものである。「現在米国の大統領選に出馬しようとしている政治家を見ると、私はどうしようもない恐怖感を覚えてしまう」と述べている。これは米国の軍産複合体の対外戦略を拒否し、新冷戦を中断するような画期的な政治力を持った候補者が見い出せない政治の現状を憂いたものであって、このまま行くと世界規模の核戦争になってしまうという危機感の表明である。

私はこのブログを通じて何回となく核戦争の回避に関する投稿をして来た。本日の投稿でご紹介した記事には共感する部分が非常に多い。当然のことながらも、核兵器の脅威は通常兵器のそれとは雲泥の差がある。引用記事の著者の言葉を借りれば、一人の愚かな政治家の判断次第でわれわれが住む世界は30分で壊滅してしまう可能性があるのだ。人類にとっての最終的な政治課題は核兵器の廃棄であると言わざるを得ない。



参照:

注1: In a War With Russia NATO Doesn’t Stand a Chance: By The Saker, Mar/26/2018








2018年11月19日月曜日

カショーギの殺害およびイエメンにおけるサウジの戦争犯罪は米国が手助けしたものだ


2001年の911テロ事件によって、米国を中心とした西側諸国は世界規模の対テロ戦争に入った。その最たる戦場はイラクを代表とする中東のイスラム国家である。この戦争の背景には宗教の存在が色濃く反映されている。

イエメンでは内戦が続いている。この内戦はイランを中心とするイスラム教シーア派に対するサウジアラビアが主導するスンニ派の抗争である。この内戦で漁夫の利を占めるのはイスラエルであろう。イスラエル周辺のイスラム諸国が宗派間で内紛を起こし、戦争を継続し、経済的に疲弊すればするほど、イスラエル自身の安全保障は相対的に強化されるのだ。イスラエルにとってはこういった隣国での内戦が長く続いてくれればそれほどいいことはない。イスラエルはイラク戦争においてもイラク内部が分断されることを期待していた。そして、ほぼ希望通りの結果となった。

中東における戦争にはイスラム教の影が濃厚である。政治闘争に宗教的派閥に根ざして国内の団結を促すことによって、戦争と宗教とは切っても切れない関係となっている。換言すると、宗教が戦争のために使われているのである。

日本でも、日清戦争や日露戦争では従軍僧が戦場に派遣された。仏教界はこれらの海外での戦争を布教の機会として捉えた。しかしながら、太平洋戦争での敗戦と共に、仏教の海外における拡大は中断され、従軍僧は帰国した。

ここに日本人として記憶に留めておきたい事実がある。日中戦争の当時、ある住職が「戦争は罪悪である」と発言した。これが理由で、この住職は陸軍の刑法に基づいて有罪と判決された。流言飛語罪で4か月の禁固刑となった。これは真宗大谷派住職の竹中彰元(岐阜県明泉寺)のことだ。法要の際の席に着く順序、つまり、彼の僧侶としての身分は最下位に降格された。結局、彼は「戦争は罪悪である」と言ったことで、国家からも、教団からも制裁を受けたのである。しかしながら、教団側は70年振りに竹中彰元の名誉回復を行ったそうだ。2008年のことだ。こうした反戦僧侶は何人もいる。

私はまったく知らなかったことではあるが、宗教各派ではかっての戦争協力に対する反省が今進められているという。宗教とは何かを問おうとする時、日本の宗教界が具体的にはどのような反省を行おうとしているのか、非常に興味深い。

話を元に戻そう。

イエメンでは飢餓が進行している。サウジの執拗な戦争行為によって、イエメンでは180万人の子供たちが飢餓に曝されている。国連の報道によると、緊急援助活動で持ち込まれる食料品に頼っている民間人の数は8百万人にもなっており、この数は近い内に14百万人に膨れ上がりそうだという。この惨状を伝える記事がニューヨークタイムズに掲載された。すっかり痩せ細った少女の写真は余りにも痛々しく、数多くの読者の心を揺さぶった。この子は7歳で亡くなった [1]


Photo-1: アマル・フサインは7歳で亡くなった。「悲しくてどうしようもない」と彼女の母親は言う。写真提供: ニューヨークタイムズのタイラー・ヒックス


♞  ♞  ♞

先月のことであるが、サウジアラビア人の著名なジャーナリストであって、米国に亡命し、米国での永久居住権を持つジャマル・カショーギは、102日、イスタンブールにあるサウジアラビアの領事館を訪れた。彼は再婚するために必要な書類を入手する目的があったという。しかし、その後彼の姿を見た者は誰もいない。明らかに、これは事件である。

この事件は広く報道されていることから、多くの方々はよくご存じだと思う。しかしながら、その背景や黒幕は誰かといったことになると、情報が錯綜し、極端に少ない。

ここに、「カショーギの殺害およびイエメンにおけるサウジの戦争犯罪は米国が手助けしたものだ」と題された記事がある [2]。現段階ではどこまでが真実で、何処からが推測となるのかについての判断が重要であるが、この記事はこの事件の深層を理解し、真実に迫る上では非常に有用であると思う。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>




Photo-2


ジャマル・カショーギはイスタンブールのサウジアラビア大使館で拷問され、殺害された。死体はバラバラにされたと言われている。この事件は米国内では激怒を引き起こし、世界中に波紋が広がった。しかしながら、カショーギの殺害事件では大騒ぎをしていることとは対照的に、多くのメディアや著名人はサウジアラビアが米国の支援を受けてイエメンで犯している戦争犯罪について苦言を呈することは実に少ない。

ワシントンポスト紙のコラムニストを務めていたカショーギは以前サウジアラビア政府やモハメド・ビン・サルマン王子について批判的な記事を書いたことがある。ワシントンポストはモハメド王子が最近カショーギをおびき出して、サウジアラビアへ呼び戻そうとしていたと報告している。これは一個人がある国から連れ出され、尋問のために他の国へ強制的に移送されるもので、司法管轄外の「他国への引き渡し」に等しい。米国はサウジがカショーギを取り押さえるであろうことを予知していた、とブルームバーグが報じている。この計画を話し合っていることを米諜報機関が傍受していたのである。トルコの情報源によると、カショーギの殺害と死体をバラバラにしたのはサウジの工作員であるという。

カショーギが姿を消した時から6日後、ニューヨークタイムズのコラムニストであるトーマス・L・フリードマンは次のような驚くべき主張をした。 

「もしもジャマルがサウジ政府の工作員によって拉致され、殺害されたとするならば、これは人類に求められる節度の規範を脅かすものであって、イエメンにおける戦争に比べると、数の上ではなく、その本質において非常に悪質だ。」 

妥協をしないニュース: 

イエメンではすでに3年間も続いている戦争の結果、民間人の被害者数が6000人にもなった。この大量殺戮の非道さ、ならびに、世界でも最悪の人道的危機が表面化して来た。この現状を過小評価しようとするフリードマンの試みはめったに見られないというわけではない。CIAの弁護士で、米海軍アカデミーで講師を務めたヴィッキ・ディヴォルは2009年にニューヨーカー誌のジェーン・メイヤーに次のように語っている。

「一般市民にとっては喉を掻き切って相手を殺すことよりもドローン機で数多くの市民を殺害することの方が遥かに受け入れやすいと感じられる。」 

サウジはイエメンで戦争犯罪を犯し、米政府は実際に彼らを支援し、教唆さえしている。 

イエメンで野放しとなっているサウジ・米の戦争犯罪: 

イエメン政府からの抑圧に抵抗するフーシ派の反政府武装勢力を駆逐するために、サウジ主導のアラブ連合軍はイエメンを爆撃している。この内戦は政府に対して長い間抱き続けてきた怒りがその頂点に達した結果である。アラブの春がこの地域を席捲した頃、イエメン政府は弱体化した。イエメンはアデン湾と紅海を結ぶ狭い水路に面しており、戦略的な場所に位置している。

この8月、アラブ連合軍はサアダ県のダヒヤンの町の市場へレーザー誘導型MK82爆弾(重量225キロ)を投下し、40人の児童を含めて、51人の民間人を殺害した。この爆弾は米国の防衛産業においては主導的な地位にあるロッキード・マーチン社が製造したものだ。この爆弾の提供は昨年米国・サウジ間で締結された武器取引の一部であった。

米国製の爆弾を用いて行われた8月の爆撃はこの出来事だけで、他にはないというわけではない。2016年にはアラブ連合軍は同様の爆弾を使って、サナーアで葬式のために集まっていた155人もの民間人を殺害した。

米国の指導者らはイエメンでの戦争犯罪を支援し、教唆: 

最近の1013日、ホデイダに対する攻撃から避難して来た民間人のバスの一団がサウジ主導の空爆に曝されて、少なくとも19人が死亡し、30人が負傷した。アラブ同盟軍は2018年だけでも民間人の車両に対して50回以上の空爆を行っている。

民間人を攻撃することは第4ジュネーブ条約の下では戦争犯罪:

戦争犯罪を犯すことに使用されることを知っていながらも爆弾を提供したことによって、米国の指導者らは慣例法による国際法の下で戦争犯罪を支援し、教唆したとして裁きを受けることになるかも知れない。彼らは20188月のバス攻撃に使用された爆弾を供給した。彼らは2016年の葬式に対する空爆で同様の爆弾が使用されたことを知っていた。

トランプ政権は民間人の被害を最小限に抑制することについて議会で嘘をついた: 

9月12日、マイク・ポンぺオ国務長官は議会に対して次のことを保証した。

「サウジアラビア政府とアラブ首長国連合政府は、(イエメンにおける)両政府の軍事行動によって民間人や民間のインフラに被害が生じるリスクを最小限に抑えるために、誰が見ても明白な行動をとっている。」 

しかしながら、ニューヨーク大学教授のモハマド・バッズィは「ネイション」誌で次のように指摘している:

「国連の専門家グループやいくつかの人権擁護団体がサウジ連合は戦争犯罪に問われるかもしれないと報告した。これらの最近の調査を含めて、トランプ政権の保証は実質的に他のすべての独立した戦争監視団の報告とは矛盾するものだ。」

8月28日、国連の人権委員会によって指名された国際的に、あるいは、この地域で著名な専門家で構成されたグループがイエメンにおける戦争当事者によって引き起こされたと思われる戦争犯罪についてひとつの文書を纏めた。この専門家グループの結論によると、民間人の直接的な被害はその大部分がアラブ同盟軍の空爆によって引き起こされている。居住地域が爆撃され、結婚式や葬式、市場、拘置施設、医療施設、ならびに、民間船舶が攻撃された。

アラブ連合側が民間人の被害を最小限に抑えることに関しては、トランプ政権は議会に対して嘘をついている。「民間人の被害を最小限に抑えることについては進歩が見らない」ことから何人もの軍事専門家や国務省の地域専門家の間には反論があった。それにもかかわらず、ポンぺオはサウジと首長国連邦は被害の低減化に準拠することを保証した、とウオールストリートジャーナルは極秘メモを引用して伝えている。

新しい法律が制定され、米政権は6か月毎に議会に対してサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の両国が民間人の被害を最小化することに取り組んでいることを保証しなければならない。もしも最小化を遂行していなければ、米国はイエメン戦争における給油作戦を中断する。極秘メモによれば、ポンぺオが述べた保証は近い将来のサウジとUAEに対する20億ドルの武器の売買をご破算にしたくはないという動機があったからに他ならない。

情報開示要求によってロイター通信社が入手した情報によると、米国の指導者らはイエメンにおける戦争犯罪を支援し、教唆したことの責任を問われる可能性を心に留めている。

サウジアラビアに対する米国の支援について議会がこれを押し戻そうとする動き:

この3月、給油活動や攻撃目標の特定作業を含めて、イエメンにおけるサウジの軍事行動に対する米国の支援活動を中断するという超党派の決議案が提出された。しかし、これは上院で5544の投票結果によって否決された。これと同様の決議案が下院でも否決された。これらの決議案は戦争権限法を思い起こさせた。大統領がこの法律に基づいて敵地へ米軍を送り込むことができるのは議会が宣戦布告をした時、または、「米国に対する攻撃によって、つまり、その領土や所有物、または、その戦力に対する攻撃によって非常事態が発生した時」、あるいは、軍事力の使用が認証されるといった「具体的な法定上の認証が存在する時」だけに限られる。

上院法案の共同提案者であるバーニー・サンダース上院議員(無所属、バーモント州選出)は「今日、議会では、われわれは実際には敵対行動には関与してはいない、われわれ自身が交戦しているわけではないと議論する者がいる。このことをイエメンの人たちに伝えてみたらどうだ。米国製と明記された武器によってイエメンの民間人は住居を破壊され、命を落とし、米軍が再給油を行った爆撃機からの爆弾が投下され、米軍の支援に基づいて選定された目標が爆撃を受けているのである」と述べている。

その一方で、ドナルド・トランプはカショーギの死に関してサウジを責めることを回避するべく二段階の対応をとろうとしている。

しかし、議会はこれを押し戻している。

10月10日、22名の上院議員から成るグループがトランプに書簡を送り、これがグローバル・マグニツキー人権責任法の引き金を引いた。同法は大統領に「ある外国人が表現の自由を行使する個人に関して国際的に認められている人権を著しく侵害し、拷問を加え、超法規的な殺害行為を行ったかどうかを裁定し、120日以内にその裁定を議会に報告し、当該外国人に関して制裁を課すかどうかを決定する」よう求めている。

この書簡はカショーギは「国際的に認められている人権の侵害を被った犠牲者であると言えよう。これには拷問、凶悪で人らしからぬ、品位を落とすような扱いや罰、告訴や裁判も無く長期間に及ぶ拘束、人の拉致、秘密裡に行う人の拘束、人の生命や自由、または、安全を著しく損なうその他の行為が含まれる。」 

これはトランプ大統領に制裁を課すよう求めている。つまり、「カショーギ氏に対する暴力に責任を有する外国人」に対して制裁を課すことであって、この外国人には「サウジアラビアの最高位の高官も含まれる。」 

このスキャンダルは下院の民主党議員にとっては微妙なタイミングである。もしもサウジアラビアがカショーギの殺害に関与している場合には、米国は積極果敢な策をとるよう与党側の何人かの議員が求めているのだ。しかし、116日の中間選挙が3週間弱に迫っている今、彼らがトランプからの距離を大きくするならば、多くの議員は投票者からの跳ね返りに直面する可能性がある。

*

著作権: Truthoutからの許可の下で転載。

著者のプロフィール: マージョリー・コーンはトーマス・ジェファーソン法科大学院の名誉教授で、元全米法律家協会理事長、国際民主法律家協会副事務局長、「平和のための帰還兵」の顧問を務めた。「米国と拷問 - 法的、倫理的、および、地政学的な課題」の編集長や寄稿者でもある。コーンはブッシュ政権の尋問政策について議会で証言を行った。彼女はグローバルリサーチに頻繁に投稿をしている。

Copyright © Prof. Marjorie Cohn, Global Research, 2018

<引用終了>



これで記事[2]全文の仮訳が終了した。

ニューヨークタイムズの1116日の報道 [3] によると、米CIAはカショーギの殺害にはサウジ皇太子のモハメド・ビン・サルマンが命令を下したとの結論に至ったという。目下、トランプ大統領はCIAからの詳細な報告を待っている。

このCIAの判断が正しいとしてトランプ大統領がCIAの報告内容を受け入れた場合、サウジアラビアに対して何らかの制裁を課さざるを得なくなるであろう。その場合、サウジに対する軍事的な支援も影響を被るに違いない。米政府が何とか守ろうとしている大量の武器の売却がご破算となるのかも・・・。

しかしながら、米国の政治を眺めていると、事実に基づいて行動するよりも、政局を乗り切るためには真実を捨てて、事実を歪曲することが驚く程多い。今後、どのような展開になるのか、眼を離せなくなってきたことは確かだ。さらに二転三転する可能性が十分にある。



参照:

1Another Proud Day For Western Civilization - Yemen Girl Who Turned World’s Eyes to Famine Is Dead: By Declan Walsh, The 21st Century, Nov/03/2018

2Khashoggi’s Murder and Saudi War Crimes in Yemen Were Facilitated by US: By Prof. Marjorie Cohn, Global Research, Oct/22/2018

3: CIA Concludes That Saudi Crown Prince Ordered Khashoggi Killed: By Julian E. Barnes, The New York Times, Nov/16/2018