2018年12月2日日曜日

ネオコン、好戦派のアトランティック・カウンシルがウクライナにおける対ロ紛争の拡大を求める - 重砲、艦船、経済制裁

先日の日曜日(1125日)、クリミア半島とロシア本土との間に位置するケルチ海峡にてウクライナ・ロシア間で領海を巡るイザコザが起こった。

その焦点はウクライナの小砲艦であって、漁船ではない。ロシア側は領海を守るためにロシアの領海を不法に通過しようとした小砲艦に停止を命じた。しかし、ウクライナの艦船はロシア側の停止命令を聞き入れなかった。止むを得ず、ロシアの沿岸警備隊はこれらの艦船に対して射撃を行った。

このイザコザはすべてがウクライナの小砲艦2隻 (注:排水量54トン、最高速度28ノット、乗組員5名)とタグボート1隻がロシアへの事前連絡もなしに、さらには、何度となく発せられた停止命令も聞かずにロシアの領海であるケルチ海峡を通過しようとしたことから始まった。これらの小砲艦はクリミア半島の西側に位置するオデッサ港を出港し、途中で一行に加わったタグボートを含めて、クリミア半島の東側にあるアゾフ海のベルディアンスク港に向かおうとしたが、極秘で通過しようとしたケルチ海峡でロシアの沿岸警備隊に発見され、拿捕された。この出来事によって2人のウクライナ人乗組員が負傷したと報じられている。しかし、生命にかかわるような負傷ではなかった。

法的な取り扱いに関しては、この種の紛争においては常にそうであるが、さまざまな意見(多くは情報の歪曲を目的としている)が述べられており、どれが正論であるのかを正しく判断し、識別しなければならない。素人のわれわれには難しいことだ。

今までの経緯を見ると、この夏、ウクライナ海軍の2隻の艦艇はケルチ海峡の通過にあたっては事前にロシア側に連絡をし、水先案内人を乗船させ、ロシア側はこれらの艦艇の通航を了承した [1]

今回、ウクライナ側は何らかの理由でこの手続きを履行しなかったのだ。

さっそく、この出来事を巡ってウクライナとロシアとの間で激しい舌戦が始まった。ウクライナを支援する米国とその同盟国の大手メディアは、マレーシア航空のMH17便撃墜事件の際と同様に、あるいは、スクリッパル父娘毒殺未遂事件の時のように、ロシアを非難する大合唱を速やかに開始した。事前に計画されていたかのような感がある。

事実、1128日の報道 [2] によると、ウクライナ海軍がこの作戦で用いたチェックリストがすでに英文に翻訳されて、インターネット上で報じられている。それによると、ウクライナ海軍のこれらの艦艇は極秘にケルチ海峡を通過し、アゾフ海のベルディアンスク港にその本拠を移設するように命じられていたことが判明している。興味深いことには、「極秘にケルチ海峡に接近し、通過する」ことが非常に重要な任務であったらしく、このチェックリストに繰り返して記されている。

ウクライナのポロシェンコ大統領が何故このような命令をこの時期に下したのかに関しては、専門家らはさまざまな見解を提示している。やはり、ウクライナ政府が単独で実行したものではなく、これは米国の対外政策、特に対ロ政策を反映したものであって、米国の後押しあるいは指導があったという推測がもっとも妥当なようである。

ここに1129日付けの記事 [3] がある。「ネオコン、好戦派のアトランティック・カウンシルがウクライナにおける対ロ紛争の拡大を求める - 重砲、艦船、経済制裁」と題されている。

(注:アトランティック・カウンシルは1961年にワシントンDCに設立されたシンクタンク。このシンクタンクは国際的な安全保障や経済発展を専門の分野とし、NATOを支える大元の組織であるAtlantic Treaty Associationの一員である。つまり、アトランティック・カウンシルはNATOのためのシンクタンクである。この背景から判断すると、アトランティック・カウンシルの言動がウクライナ政府に対して如何に影響を与えているのかが明瞭に見えて来る。)

本日はこの記事 [3] を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>
最近、ウクライナの艦艇が黒海からケルチ海峡を無断で通過し、アゾフ海に入ろうとしたことがニュースとなり、世界中を駆け巡った。大きな危機として報じられ、いとも簡単に戦争に拡大していったかも知れない。予想に違わず、米ディープステーツの重要なメンバーであるアトランティック・カウンシルはこの出来事について意見を発し、介入して来た。

この紛争の舞台となった地域の地図をここに示す。中央にはクリミア半島、アゾフ海が中央から右上に広がり、アゾフ海の東側はロシア本土。アゾフ海の北側はウクライナ領東部。 


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次の写真は36.9憶ドルを投下して最近建設されたばかりのケルチ海峡ブリッジの745フィート(227メートル)の橋桁を封鎖する貨物船を示す。ケルチ海峡ブリッジはロシア本土とクリミア半島を結んでいる。


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次の写真はロシアがケルチ海峡を封鎖したために起こった商船の渋滞振りを示す。 クリミア半島は今やロシア領であり、ロシアの領海をコントロールするための封鎖であった。


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ここで、この強まるばかりの嵐についてアトランティック・カウンシルがいったい何を言いたいのかを検証しておきたい:

「アゾフ海ではロシアとウクライナとの間で緊張が高まっている。これは2008年の夏に起こったジョージアとの戦争を引き起こしたロシア側の挑発を思い起させる。ウクライナ東部の港を封じ込め、クリミア半島に対するモスクワ政府の支配を強化するために、ロシアは何カ月にもわたってアゾフ海をロシアの内水にしようとしてきた」と、アトランティック・カウンシルの副理事長であるデイモン・ウィルソンは言う。

「モスクワの積み上げ方式的なやり方は2008年にわれわれがジョージアで観察した通りであって、個々の動きは劇的ではないかも知れないが、総合的に見るとロシアは戦略的な成果を挙げることが多い。本日、ロシアはウクライナに脅しをかけ、ウクライナの船舶が国際的な海域を航行し、自国の港へ入港することを諦めさせようとした」と、彼はさらに付け加えた。 


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ウクライナ・ロシア間の緊張は1125日に劇的に高まった。キエフ政府はロシアの沿岸警備艇がアゾフ海でウクライナ海軍のタグボートに衝突し、モスクワ政府はウクライナの艦船が事前の許可もなしにこの海域を通過することを阻止したと言った。ロシアは、すでに報じられている通り、3艘のウクライナ海軍の船舶を拿捕した。ウクライナ政府はロシア軍はこれらの艦艇に向けて射撃し、6人の乗組員が負傷したと言った。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は、この状況に鑑みて、ウクライナ議会が戒厳令を敷くよう提言したいと述べた。

「クレムリンの隣国に対する政策を監視している者たちにとっては、この動きは危険極まりなく、しかも、周知の状況である」と、アトランティック・カウンシルのユーラシア支部の理事であるジョン・E・ハーブストが述べている。 

「モスクワは何年間もジョージアに対して挑発をした。たとえば、軍用機による領空侵犯、ジョージア領内へのミサイルの発射、ロシア軍(訳注:ロシアから派遣されていた平和維持軍のことを擁している地域とそれ以外のジョージア領とを区別する境界線を越しての砲撃、等。南オセチアからのこういった砲撃が2008年のジョージアとロシアとの間の戦争をもたらした」と、彼は説明する。 

アトランティック・カウンシルのユーラシア支部で非居住者の上席研究員を務めるマイケル・カーペンターは「黒海とアゾフ海を繋ぐケルチ海峡でのロシアによるウクライナ艦艇の拿捕はアゾフ海でのコントロールを確保し、ケルチ海峡を出入りするウクライナの商船を封じ込めようとするロシア側のより大きな戦略の一部だ」と述べている。  

「この動きは国際法の侵犯であり、ウクライナに対する4年半に及ぶロシアの戦争に新たな要素を加えることになった」と、彼は付け加えた。 

「米国は直ちにこれに対応し、ウクライナ政府に商船の状況を熟知するためのレーダー網を与え、陸上発射型の対艦ミサイルを備えて、同国のアゾフ海沿岸を防衛させるべきだ」と、カーペンターは言った。 

「また、米国はスベルバンク、VTB、ガズプロムバンクといったロシアの大手銀行のひとつに関して資産を凍結するべきだ。ロシア側がわれわれの要求に対応することを怠るならば、ロシアの銀行に対する制裁の解除はロシア側がウクライナ船の自国の港への入港を再開できるようにし、ドンバス地区からはロシア軍を撤退させることを条件とするべきだ。これらが実行されるまでは、クレムリン側のコストはさらに膨らむことだろう」と、彼は補足した。


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アトランティック・カウンシルのユーラシア支部において居住者であり上席研究者でもあるアンデルス・アスルンドは次のように述べている。「NATOと米国はアゾフ海に海軍艦艇を送り込み、アゾフ海で船舶の国際的な航行が自由に行われることを保証するべきだ。」 

『これらの行動は1982年の「海洋法に関する国際連合条約」や1936年の「モントルー条約」にも準拠するであろう』と、アスルンドは言う。

アゾフ海は、2014年にロシアがクリミアを併合してからというもの、モスクワ政府とキエフ政府との間での争点となっていた。

「ロシアが2014年にクリミアを併合してからというもの、ロシアは国際的なアゾフ海をロシアの内水にしようとしてきた。彼らはウクライナ沿岸の多くの部分、ならびに、マリウポルやベルディアンスクといった大きな商港を封鎖してきた」と、アスルンドは言う。

アトランティック・カウンシルの目的は極めて明白であって、それは対艦ミサイルや米海軍を導入することによって、さらには、対ロ経済制裁を課し、ロシアはこの地域で新たな戦争を引き起こそうとしていると非難することによって、この地での紛争をさらに拡大させることにある。

あなたがもしもお忘れだったならば、ここにアトランティック・カウンシルのために寄付を行った主だった人物や組織(つまり、アトランティック・カウンシルに大きな影響力を持っている人物や組織)の表があるのでご覧いただきたい。


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下記の主だった寄付者のことを記憶しておこう:
  • 英外務省
  • 米国務省
  • ジェネラルアトミックス
  • ユナイテッドテクノロジー
  • ロッキードマーチン
  • レイセオン
  • タレス(フランスの航空宇宙防衛関連企業)
  • 米空軍アカデミー
  • ボーイング
  • テクストロン
  • ウクライナ系カナダ人議会
  • 米空軍
  • NATO米代表部
影響力とは良く言ったものだ。まさにその通りだ。アトランティック・カウンシルは、ケルチ海峡での出来事を巡って対ロ軍事行動を拡大するよう推奨することにより、主だった寄付者たちの思惑 [訳注:つまり、政府からの軍需品の注文を急増させること] に応えようとしているのだ。

記憶しておきたい重要な事柄がもうひとつある。20185月、フェースブックはアトランティック・カウンシルおよびその傘下にあるデジタル・フォレンシック・リサーチ・ラブ(デジタル・シャーロックスとも称する)との連携を開始した。この連携の目的は愚かにもロシアに基盤を置いたプロパガンダと米国に基盤を置いたプロパガンダとをはっきりと識別できないでいるわれわれを防護することにある。これは例の悪辣なイラン関連プロパガンダからわれわれを守ろうとしているグループと同一の組織だ。(訳注:「この連携の目的は・・・」の文章はかなり皮肉を込めた言い回しになっている。「はっきりと識別できないでいるわれわれを防護することにある」とは「はっきりと識別できないでいるわれわれが目を覚ますこともなく、いまのままで居続けるようにすることにある」といった意味であると私は解釈した。)

海洋法に関する国際連合条約からの抜粋を下記に示して、この論考を終ることにしよう:訳注:この条約の和訳文はウィキペディアにて入手可能であるので、そこから引用する。抜粋されている条項は「第19条無害通航の意味」からのものである。

1. 通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。

2. 外国船舶の通航は、当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる。

(a) 武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
(b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
(c) 沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
(d) 沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
(e) 航空機の発着又は積込み
(f) 軍事機器の発着又は積込み
(g) 沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通貨又は人の積込み又は積卸し
(h) この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為
(i) 漁獲活動
(j) 調査活動又は測量活動の実施
(k) 沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
(l) 通航に直接の関係を有しないその他の活動」 

誰もが少なくともウクライナ海軍がとった行動の動機は何であったのかを質すべきだ。特に、上記の国連海洋法条約からの抜粋の中では(d)項に関して質すべきである。

この論考からも垣間見ることができるように、米国に本拠を置いた、選挙で選出されたわけでもなく、完璧なまでに好戦的な組織がわれわれをロシアとの戦争に限りなく近づけようとして全力を奮っているのだ。彼らの軍産複合体・議会からの後援者の利益のために、この強力なアトランティック・カウンシルが最善をつくすべく行動していることは明白である。われわれのすべてにとって悲しいことには、ワシントンの悪評の高い暗部に住むメンバーらは彼ら自身が戦争の最前線に立っていることを決して自覚することがないのである。



原典: Viable Opposition

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

この引用記事で学んだもっとも重要なことは、またもや、米国のネオコンがロシア国境の近くで新たな軍事紛争を起こし、拡大しようとしている現実であろう。何のためか?

海洋法の観点からは、ウクライナ側が海洋法に関する国際連合条約に違反したことはほぼ確実である。

また、このブログを読んでいただき、さらに多くの追加的な情報を読んでいただいている読者の方々はウクライナ政府を支援する西側の大手メディアが流布する情報には歪曲や偽情報が少なからず存在していることにお気付きだと思う。このケルチ海峡紛争に関する報道もまったく同じ状況にある。アトランティック・カウンシルのお偉方の発言はその最たるものだ。

ある批評家の指摘によると、G20サミットでトランプとプーチンとの会談が予定されていたが、つい最近起こったケルチ海峡でのイザコザの目的はこのトランプ・プーチン会談を潰すことにあったのではないかと言う。 1130日の報道によると、トランプ大統領はプーチン大統領との会談をキャンセルした。

しかしながら、121日、両大統領はG20サミットで非公式な会話を持ったとのことだ。米ロ両国ともこの事実を認めている。

状況がめまぐるしく変化した。トランプ大統領にとっては国内向けに、特に軍産複合体向けにはサミットの直前にプーチンとの会談をキャンセルしたが、今思うに、これは単なる目潰しであって、トランプ大統領はプーチンとの会談を何らかの形で行うことに決めていたのではないかと推測される。二転三転した状況はすべてがトランプ派と反トランプ派との間の政治的綱引きの結果である。

ところで、核大国である米国とロシアとの間の武力紛争は最終的には核戦争になってしまう可能性が実に高い。そうなったら、文明の終焉である。石器時代に戻る程度で核戦争が終わるならば、それは想定し得る中では最良のシナリオであろう。全世界の人類を蒸発させるのに必要な量の原爆の10倍もの核兵器を備えている核大国は最後の最後まで相手を攻撃し、攻撃された側は報復攻撃を行うことであろう。軍人にとってはそうすることが究極の任務であるからだ。こうして、人類はあっけなく消滅してしまう。

米国の経済はすっかり軍事経済になっている。米国経済を成長させるために、米国は冷戦時代からもう何十年間にもわたって仮想敵国の存在が必要であった。全世界の市民にとって不幸なことには、今、戦争に依存する米経済の体質はかってない程に亢進している。

米ロ両国の一般大衆は自分たちの運命を投げ出し、好戦的な一部の集団に自分たちのすべての権利と運命を与えてもいいと考えているのであろうか?一刻も早く目を覚まして欲しいものだ!

また、ヨーロッパ市民も目を覚ましてほしい!米国がINF(中距離核戦力全廃)条約から脱退し、米ロ武力対決が始まると、ヨーロッパは間違いなく対ロ戦争の主要な戦場と化すことになる。それでもいいのか?

米ロ武力対決の一歩手前にまで漕ぎつけてしまった今、シリア紛争にせよ、ウクライナ東部のドンバス地区の独立要求にせよ、さらには、最近のケルチ海峡紛争にせよ、全世界の政治家は東西間の武力緊張を緩和する方向で思考し、行動しなければならない。政治家にとっても、われわれ一般庶民にとってもこれ以上に重要な政治課題はない!



参照:

1The Context to Understand the Russian-Ukrainian Naval Clash at Kerch Strait: By Rostislav Ishchenko, RUSSIA INSIDER, Nov/26/2018

2Proof that Ukrainian crews were given the order to try to “covertly” cross the Kerch strait: By The Saker, Nov/28/2018

3Neocon, War-Loving, Atlantic Council Calls for Escalation Against Russia in Ukraine – Guns, Ships, Sanctions: By A Political Junkie, RUSSIA INSIDER, Nov/29/2018









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