2018年6月19日火曜日

シリア政府軍の沈黙した英雄の前でプライベート・ライアンが恥じる時


映画の世界と現実の世界を比較することはリンゴとオレンジを比較するようなものではないかという議論があることは誰にもよく分かる。しかしながら、現状を知らない人たちを相手に現実の世界を論じる際には、多くの人に観られており、その内容がよく知られている映画と比較をする手法は現実を明確に浮き彫りにするには非常に有効だ。

そうした事例がシリアに関する最近の記事 [注1] に見てとれる。

この記事は「シリア政府軍の沈黙した英雄の前でプライベート・ライアンが恥じる時」と題されている。著者はバネッサ・ビーリー。彼女は著名な、独立した調査報道ジャーナリストであって、写真家でもある。「21st Century Wire」の共同編集者だ。

念のために21st Century Wireのウェブサイトで彼女に関する情報を調べてみると、下記のような記述が見られる:

バネッサはもっとも権威のあるジャーナリズム関連の賞のひとつ、2017年の「マーサ・ゲルホーン」ジャーナリズム特別賞で最終選考に残ったひとりである。この賞の受賞者には、例えば、2017年にはロバート・パリーがいる。過去にはパトリック・コックバーン(2004年)、ロバート・フィスク(2002年)、ニック・デイヴィーズ(1999年)やBureau for Investigative Journalismのチーム(2013年)が受賞している。

バネッサ・ビーリーの言: 私は独立した研究者で、執筆をし、写真家でもあります。必要な経費は100パーセント自己負担です。資金提供者の意図によって影響を受けやすい多数の大手メディアや国家の支援を受ける独立メディアとは違って、私の場合は、そうすることによって私自身の独立性を可能にしているのです。私は平和活動にも焦点を当て、国外からの干渉や独立国家の内政に介入することもなく、国家主権や市民自らの決断を防護します。

本日はこのバネッサ・ビーリーの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

独立した調査報道の在り方を詳細に学ぶことによって、多くの大手メディアに見られるジャーナリズムの危機を浮き彫りにしよう。

われわれ一般庶民が調査報道ジャーナリストに期待できる最大の利点は本人が現地入りして、現地の人たちと接触し、彼らの話を直接聞き出すことによって入手した情報に基づいて現地の状況を知ることができることにある。多くの場合、調査報道ジャーナリストから得られる情報は政治的な意図の下に喧伝されるプロパガンダ情報とはまったく異なる。大手メディアが流すプロパガンダ情報とは正反対であったり、まったく新たな情報であったりすることが常だ。

シリア紛争においては大手メディアの報道に頼っている一般読者や視聴者を洗脳しようとする情報操作が頻繁に行われた。例えば、その責任をシリア政府軍になすり付け、シリア政府ばかりではなく、シリア政府を後押しするロシアやイランの信頼性を毀損するために反政府武装勢力やホワイトヘルメッツが巧妙に行った自作自演の化学兵器攻撃が典型的な例だ。

注: 私はアラビア語をまったく知らないので、この記事に出て来る人名や地名についてはカタカナ表記に間違いがあることは容易に予測できます。そのような間違いについてはご容赦願います。



<引用開始>




Photo-1: シリア陸軍の兵士として殉教した二人の息子、アフメドとフサインの写真の側に佇むモハメド・ガバシ・アル・ハミド氏と奥さんのファティマさん © Vanessa Beeley

ハリウッド映画に頻繁に見られる戦場での勇敢な行為についてのストーリーやスクリーンいっぱいに大写しにされ、一歩も退かずに向こう見ずに行動する米兵の映像はこれらの兵士を「世界を救済する」熱狂的な人物像に仕立て上げてしまう。

米国の一般庶民を戦争の恐怖から引き離しているのはいったい何かと言うと、それは幻想の世界が現実の世界を凌駕してしまったからに他ならないのだ。

米国本土が戦場となったことはなく、戦争は遠く離れた国で行われて来た。そして、戦争は常に「国家の安全保障上の利害関係」という枠内で議論され、遂行される。これらの戦争については恐怖感や安全保障の欠如を意図的に作り出すことによって、さらには、米国市民に害を及ぼすテロの脅威を必要以上に増幅させることによって、これらの脅威は武力介入によって「脅威の源」を想定範囲内に抑え込むことができるとする合意が形成される。

米国がシリアに対して実行した空爆については、米英仏の3カ国が非合法なシリアに対する攻撃を行った後にトランプ大統領は議会で「米国の国家安全保障や対外政策にとっては決定的に重要である」と
述べた。この化学兵器攻撃はシリア政府軍(SAA)が行ったものであるとのでっち上げが喧伝され、サウジが資金を供給し、英国が後押しをする過激派「ジャイシュ・アル・イスラム」の支配下からドウーマ地区を解放する最後の段階に行われた。



Photo-2: 「われわれがやって来ると聞いて、テロリストは逃げて行く」と、ISISを掃討するシリア政府軍がRTに喋ってくれた 

映画は現実逃避のための空想である。ハリウッドは事実を歪曲する企業メディアの専門家によってすっかり騙されている一般庶民の気持ちを紛らわせ、恐怖を植え付け、外交政策の照準に合わされている最新の敵国から人間性を奪うことにかけては実に長じている。 

「プライベート・ライアンを救え」の映画では、戦闘の恐怖がサラウンド・サウンドの音響効果によって嫌と言う程に伝わって来る。肉に食い込む銃弾の叫びのような音、死につつある兵士の呻き声、等、想像を絶するすべての状況が描かれている。完璧な前線映画である。

歩兵のライアンの3人の兄弟が戦闘で死亡してしまったことを知ったマーシャル将軍はライアンを何とか彼の母親の元へ返すために米兵たちをフランスへ送り込んだ。その詳細がこの映画に描かれている。観客は「ママ・ライアン」の悲しみを鎮めることが米国にとっては喫緊の重要性を持っているんだということを信じ込むようになる。この映画は全米向けの良く知られている映画「勇気ある追跡」に見られるいい気分にさせる要素を含んでおり、世界や彼ら自身の魂を救済するために闘う「本物の男たち」の勇気を思う存分描写する。映画の最後に現れる言葉はこう言っている。「先の大戦における最後の偉大な侵攻での8人の男たちの挑戦・・・・それはひとりの兵士を救うことだった」と。 

米国主導の同盟軍が行った空爆によって引き起こされたラッカの全面的な惨状を
説明する際に米国防長官のジェームズ・マチスは最近こう言った。「われわれは善良な人間であり、戦場における一般庶民はこの違いを良く分かっている。」 しかし、同盟軍の「精密」爆弾によって狙われ、絶望的な立場に置かれた「無辜の市民」がこの言葉に同意するなんて私には思えない。対テロ戦争の相手は、この場合、イスラム国(つまり、IS。以前の名称はISIS/ISIL)のことであるが、相も変わらず一般庶民の大量殺害が起こる。彼らのズタズタにされた死骸は「国家の安全保障」を守る米国の作戦行動で起こった「巻き添え被害」として片付けられてしまう。

米国の安全保障には何らの脅威をも与えたこともない国家の上空や地上で非合法な作戦行動が行われているのだ。シリアは、紆余曲折に満ちた7年間にもわたる長い間、米国やEUの「安全保障」を効果的に防護して来た。シリア政府の転覆を成し遂げようとして、さまざな呼称を持つ過激派集団がわれわれの政府や湾岸地帯の同盟国によって武装され、資金を提供され、装備が施されて来たが、自分たちの責任を消し去るために用いられる彼らの美辞麗句からはその事実を知る術はないであろう。

シリアはテロリストの流れをその領内に食い止めており、シリア政府軍はこの脅威を封じ込めるために闘い、戦死者を出している。同盟国であるロシア、イラン、ヒズボラと共に、シリアは致命的な病原菌が広がることを抑えるためにあらゆる事柄を犠牲にしている。この病原菌は道義的な優位性を主張する国々によって作り出されて、シリアへ持ち込まれた。彼らが通り過ぎた跡には流血沙汰が残され、その事実を突き付けられると彼らの主張は空疎に響くだけであった。

シリア政府軍は西側のメディアによって人間性を奪われ、犯罪者扱いにされ、「アサドの軍隊」とか「シーア民警」と呼ばれ、「宗派意識が強い、殺人者の集まり」として描写される。本当の姿からこれ以上かけ離れた描写は在り得ないのではないか。自分たちの国土や同胞、自分たちの名誉、自分たちの生活を守るために殉教した数多くの兵士たちの家族と私は会った。「崩壊した建物は修復することが可能だが、破壊された国土は永遠に失われてしまう」ことから、それを避けるために彼らは闘うのである。




Photo-3:  ISISの戦闘員が居る場所から1キロにも満たない距離にあるタルダラの自宅の前に佇むオム・アル・フォウズ © Vanessa Beeley

シリアには、言い尽くせない喪失感に見舞われたにもかかわらず、確固たる信念を持ち続け、自分たちの子供が演じた役割を誇りに思う、勇敢で、恐れを知らない女性、いわゆる「ママ・ライアン」が何千人もいる。サラミヤーに近いタルダラに住むオム・アル・フォウズは「対テロ戦争」で5人の息子を失った。

「最初の息子を失った時、私は背骨を折られたかのように感じたわ。そのたった15日後、二番目の息子を失い、私は心臓がすっかりだめになるかと思ったわ。それから、三番目、四番目、五番目と息子を亡くして、その都度私は強くなって来たのよ。」 

さらに、オム・アル・フォウズは私にこう話してくれた。「私には25人もの男の子の孫がいるの。この闘いに全員を出してもいいわよ。その覚悟はある。わたしたちは皆が殉教する用意が出来ているのだから。何と言っても、ここは私たちの祖国であり、自分たちの尊厳や名誉、道義心の拠り所なんです。私たちがこの国を離れて、何処かへ行くなんてことは絶対にあり得ないわよ。」 

サラミヤーで、2018年の1月、私はハラと遭遇した。ハラは若くて美しい女性だ。彼女の夫は彼女の町や彼女の国家を守るためにシリア政府軍の一員として戦闘に加わり、戦死した。サラミヤーでの他の数多くの家族と同じように、ハラは自分の夫の殉教を誇りに思うと言った。しかしながら、彼女の目は愛する夫と子供の父親を失ったことの隠しようもない悲しみをたたえており、私にすべてを物語っていた。

彼女の夫、ファディ・アフィフ・アル・カシルはヌスラ・フロントの攻撃からサラミヤーの西部を守る戦闘の最中に戦死した。彼は31歳だった。ハラは自分たちの結婚式の写真を誇らしげに見せてくれた。そこには驚くほどに若々しいカップルがいた。数え切れない程多くの希望や夢に溢れ、結婚生活を始めたばかりであった。

ハラは私にこう言った。「祖国の防衛のために彼が呼ばれた時、自分の祖国を守るために、自分の価値観を守るために、シリアの声がすべての国々に聞こえるように、シリアの平和が辺りを支配することが出来るように、平和は私たちのためだけではなく、すべての国々にもやって来るようにと願って、彼は直ちに家から飛び出して行ったわ。この国にのり込んで来て、私たちが今闘っている相手はシリアの国外へも出て行くかも知れない。もしもシリアの国外に出て行ったとしたら、すべての人々が破壊されることになるわ。私の夫、ファディ・アフィフ・アル・カシルは祖国を取り戻すために自分の魂を捧げ、愛を捧げ、自分の血さえも捧げたのだわ。」 




Photo-4: 殉教した息子の写真を持つハンナ・アル・アイエク。一緒に居るのは兄のモハンメド、夫のアショウル、ふたりの娘サリーとイスラ。© Vanessa Beeley

サラミヤーでは2018年の始めにハンナ・アル・アイエクと彼女の家族と会った。彼女の息子、サエド・ニザルは22歳足らずの年齢で戦死した。サエドはシリア政府軍のヘリコプター技術者だった。彼は2013年1月22日に死亡した。家族の話によると、彼が乗っていたヘリコプターは物資を基地へ輸送している際に自由シリア軍の対戦車ミサイルの攻撃を受けて墜落したのだ。

ハンナはこう喋ってくれた。「あなたがここへやって来て、私の息子のことについてお喋りをしてくれたお蔭で私たちにも元気が出て来たわ。お願いだから、私たちの声を出来る限り遠くまで伝えて欲しい。私の息子やわれわれの殉教者たちは世界のために皆が自分の命を捧げたのよ。シリアのためだけではないわ。皆が同じ顔をしている訳ではないけれども、多分、皆が同じ魂を持っているに違いないと思うの。」 





Photo-5: 殉教した息子モハンメドの写真を抱くアフメド・ジャブルと彼の家族。サラミヤーにて。© Vanessa Beeley

私が会って、インタビューを試みた家族は皆が同じことを言っていた。アフメド・ジャブルは2013年3月4日に23歳の息子、モハンメドを亡くした。彼はシリア政府軍の一員としてカリアタインでイスラム国の武装勢力と闘っていたのだ。

アフメドは私にこう言った。「われわれは偉大な軍隊を持ち、われわれが軍隊を代表しているんだ。軍隊はわれわれを代表し、軍隊は大きな犠牲を払ったが、神には感謝したい。われわれの側が勝利しているからだ。奴らは世界中のテロリストを我が国へ投入して来た。われわれのところへテロリストを投入しているのは西側諸国だ。でも、われわれは誰もが同じ志を抱いてわれわれの軍隊を応援している。神に感謝したい。われわれの軍隊はアラブ世界全体を、さらには、世界全体をテロリストから防衛しているんだ。さもなければ、このテロはシリアから全世界に広がっていくことだろう。」 

シリア政府軍は徴兵制で成り立っている。ほとんどの場合、ごく普通の若い男女が武器を取り上げ、郷土の防衛に当たった。サラミヤーでは四方からイスラム国、ヌスラ・フロント、アーラル・アル・シャムやその他いくつもの過激派の分派に囲まれていた。これらの兵士は軍の戦略や戦闘にはほとんどが未経験であった。奴らはプロの軍人で、豊富な戦闘経験を持った雇い兵だ。西側や湾岸諸国からの支援の下でより高度な兵器や装置を使用している。




Photo-6: シリアの都市や町、集落では何処でも殉教者たちの写真が掲載されている。彼らは住民を守るために命を捧げたのだ。サラミヤーにて。© Vanessa Beeley

西側に住むわれわれはわれわれ自身の帝国主義国家によって支援されたテロリストがさらに生まれて来ることに抵抗し続けてきたこれらの男女の若者に対しては返しようもないような、限りなく大きな借りを負っている。彼らの勇気や流血を描写した「プライベート・ライアン」という映画は制作されることはないだろう。彼らの犠牲に対して名誉の言葉を贈るためにワシントンやロンドンに記念の彫像が建立されることはないだろう。彼らの団結や彼らの尊厳が西側のメディアで取り上げられることもないだろう。

これらの英雄、つまり、人間性を防護した若者たちに対して敬意を表さなければならないのはわれわれ一般庶民である。われわれが苦悩に満ちた毎日を生きることがないようにするために彼らは闘い、自分の命を捧げたのだ。これは複雑なニュアンスに満ちた世界や切り口が幾通りもある真理をロマンチックに描写しようとするものではない。これは、仮にイラク政府軍の活動が無かったとしたら、ユーフラテス川から始まってテームズ川に至るまでわれわれは何処ででも過激主義に翻弄されたかも知れないという現実を認識することである。ハリウッドによって作り上げられた戦闘場面の大騒ぎや不協和音とはまったく違って、これらの兵士は沈黙した英雄である。今、彼らは否定のしようもない形で「帰郷する権利」を手にしたのだ。

<引用終了>


これで全文の仮訳は終了した。

このシリアの現地からの報告を読むと、シリア紛争が個々の住民に与えている影響の大きさがひしひしと伝わってくる。もちろん、バネッサ・ビーリーがここに伝えることが出来た事例は非常に僅かだ。ママ・ライアンの総数は何千人にもなると言う。シリア紛争での戦死者総数にktらべたら、ほんの氷山の一角に過ぎない。しかしながら、米帝国主義が独立心の旺盛な国家を相手に振るう暴力の異常振りは依然として有り余る程伝わって来る。正直言って、この仮訳を作成している間に私は泣かされてしまった。

しかしながら、大手メディアは報道しようとはしない。これでは、新聞の購読数やテレビのニュース報道の視聴者数が減少するのが当たり前ではないか。

最近、ニューヨークタイムズ紙の値引き広告をしばしば目にする。これは2016年の米大統領選を通じてフェークニュースを余りにも頻繁に報道した結果、読者に飽きられてしまったからではないのか?さもありなんという感じがする。それとも、これは私の勝手な「早とちり」に過ぎないのであろうか?

幸運なことには、調査報道ジャーナリストの活躍は至るところで観察されるようになって来た。しばらく前にはニクソン大統領の失脚に繋がったウオーターゲート事件やリーガン政権時代のイラン・コントラ事件がある。イラン・コントラ事件ではロバート・パリーが詳しい調査報道を行って、大活躍をした。ロバート・パリーは上述のように2017年の「マーサ・ゲルホーン」ジャーナリズム特別賞を受賞している。

最近の出来事ではマレーシア航空17便撃墜事件、シリア紛争、ウクライナ・クリミア情勢、スクリパル親子毒殺未遂事件、等で調査報道ジャーナリストやブロガーからの報告がプロパガンダ情報とは違って、実際には何が起こったのかを知る上で欠かせない存在となった。商業メディアがジャーナリズム本来の責務を放棄してしまったことから、調査報道ジャーナリストやブロガーの努力を抜きにしては今日の国際政治を正確に掴むことはできないのである。

ただし、一般庶民の立場から見ると、しっかりした流通網を持つ大手メディアの場合とは違って、調査報道ジャーナリストやブロガーの情報は代替メディアで報じられているに過ぎず、それが故に、読者の側から情報を積極的に検索し、これだと思う情報を入手しなければならないという厄介な作業が付きまとう。時間もかかる。通常、この点が最大の難関となる。これらの情報は英語で報じられているので、日本の読者にとっては言語の壁も加わってくることが多い。

しかし、これは解決できない問題という訳ではない。このブログがご紹介できる英文記事は1ヵ月当たりせいぜい4本か5本程度であるが、これを踏み台として読者の皆さんにももう1本、2本と直接検索し、読んでいただけたらと思う次第だ。ご自分が興味を感じるテーマについて半年か1年も続けることができれば、この作業は当初とは違ってすっかり易しいものとなって来るので、おおいに頑張っていただきたいと思う。



参照:

注1:When Private Ryan is shamed by quiet heroes in the Syrian Arab Army: By RT, Jun/08/2018,
https://on.rt.com/975c

 



2018年6月12日火曜日

平和は常套句 - 西側が反論も受けずに世界を支配することができなくなった時、それは戦争を意味する

戦争が起こるメカニズムはどのようなものかについてはさまざな議論がある。例えば、歴史的に繰り返して観察されてきたひとつの要因は国内政治がうまく行かない時に外部の仮想敵に関心を向けようと権力側が意図した場合だ。

これは一昨年の米大統領選で負けたヒラリー・クリントンが自分の非を認めず、「ロシアが選挙に介入したからだ、プーチンはけしからん」と言って、ロシアゲートを巻き起こして、大混乱を引きおこした心理状況と驚くほど酷似している。あの当時の様子を簡単に要約すると、下記のような具合だ [注1]:

あれは民主党全国大会が開催される予定の6週間前、2016年6月12日のことだった。アサンジが今までは棚上げにしていた「ヒラリー・クリントン関連の電子メール」を公開すると言った。これがクリントン候補の選挙陣をパニックに陥れた。これらの電子メールはクリントン候補に好意的な内容であって、同じ民主党候補のバーニー・サンダースを落選させようとする非常に偏った状況を記録していたからだ。電子メールが7月22日に公開されると、選挙団は私が言うところの「偉大なる転換」を創出する事に決めた。つまり、この窮地から脱出するために、周囲の関心を電子メールの内容にではなく、ロシアを非難することに引き寄せようと決断したのである。

新冷戦は今や前回の冷戦以上に深刻な段階に至っているという指摘がある。それだけに、核大国の米ロ両国間の対決が全面的な核戦争に発展するような事態は決して許してはならない。ところが、西側の政治家の発言や大手メディアの論調は戦争を回避するどころか、戦争を引き起こそうとしているのではないかと思わせる状況が数多く観察される。

すでに7年も続いているシリア紛争では化学兵器攻撃が何回も引き起こされ、数多くの市民が殺害された。西側の大手メディアはその度にシリア政府軍をその実行犯と見なして、シリア政府を支援するロシアの信頼性を削ごうとするための大騒ぎを繰り返して来た。証拠として提示された情報は西側が資金を提供している反政府派武装勢力や非営利団体の「ホワイトヘルメッツ」が作り上げたものであって、彼らの自作自演に基づくものであった。

2014年のウクライナ革命は今まで喧伝されていたような民衆による革命ではなく、実際には武力クーデターであったとの指摘がされている。膨大な量の情報を詳しく調査した学術的な調査 [注3] によると、ヤヌコヴィッチ前政権が崩壊することになった直接の引き金は反政府派による自作自演の発砲事件であった。つまり、2014年2月20日に50名もの死者を出した反政府デモであった。大混乱に紛れて、反政府派はデモ参加者に向けて発砲をしたのはヤヌコヴィッチ大統領の命令を受けた秘密警察だと主張し、西側のメディアがそれをオウム返しに喧伝した。しかし、時間の経過とともにこの主張は脆くも崩れた。

オランダが主催する国際調査団(JIT)が最近発表した2014年のマレーシア航空17便撃墜事件に関する調査報告書はロシアを犯人とすることが最初から決まっていたかのようで、長い時間をかけていったい何を調査して来たのかと思わせるほど偏った内容である。具体的な証拠に欠けており、客観性に乏しい。

今年の4月、英国のソールズベリーで起こったスクリパル親子の毒殺未遂事件もロシアを犯人にしたい英国政府の自作自演であった可能性は高まる一方である。すでに捜査期間が3カ月にもなった今でさえも、ドイツ政府はロシアが犯人だとする証拠は英国政府から何も受け取ってはいないと述べている [注2]。

5月29日、ウクライナのキエフでウクライナに亡命中のロシア人ジャーナリストが暗殺されたとの報道があった。これはロシア政府の仕業だとする見方が全世界を駆け巡った。このジャーナリストは母国のロシアではロシア政府を批判する急先鋒であって、昨年からウクライナへ亡命していた。ところが、暗殺の翌日、殺害された筈のアルカジー・バブチェンコが記者会見に現れ、皆をアッと言わせた。彼の奥さんはジェットコースターよりも遥かに激しい感情の起伏に見舞われたに違いない。なぜこのような茶番劇を行ったのかについてのウクライナ政府側の説明は暗殺容疑者を捕まえるためだったとしている。その準備には1ヵ月もかかったが、本人は他に選択肢がなかったと言う。しかしながら、この茶番劇の最大の目的はロシア政府を非難し、ロシアの信用を落とすことに狙いがあったと指摘する専門家が多い。ウクライナ政府ならびにウクライナを支援する米国にとっては非常に都合のいいシナリオであったことだろう。

これらの出来事を個々に見ることも大事なことではあるが、大きな地政学的な構図の中ですべての出来事を総括的に俯瞰することもまた重要だ。そこにはロシア経済の弱体化やロシア政府の信用を低下させるといった西側のディープステ―ツ好みの大目標が共通して見えて来る。米国の軍産複合体やネオコンが考えそうなテーマである。事実、彼らはさまざまな形でこの目標を表明して来た。

米国がロシアに課した経済制裁や米国のイラン核合意からの脱退もこの大きな構図を支える重要な要素として加わって来た。

もうじき始まる2018FIFAワールドカップのロシア大会では何かが起るかも知れない。要するに、西側の諜報機関や軍産複合体にとっては騒ぎを引き起こし、ロシアに辛い思いをさせる絶好の機会となるのではないか。もちろん、ロシア側は万全の備えをしている筈だ。

米ロ戦争は当面情報戦争の段階にあると言われているが、上述のさまざまな出来事を見るとこの情報戦争は徐々に拡大し、深化している。すでにその頂点に達しているのではないだろうか。

米国がロシアとの戦争を準備する中、その同盟国は米国の意向に沿った動きをする。最近の具体例を見ると、上述のようなさまざまな状況や出来事がわれわれの目の前で展開されて来た。英国で、シリアで、オランダで、ウクライナで、そして、イランに敵対するイスラエルで。もっとも驚くべき点は、どの出来事を取り上げても、西側諸国の説明はその信憑性が頗る低く、信頼できる証拠が欠如していることだ。古くから言われているように、21世紀の今日でも、戦争で真先に犠牲になるのは真実である。

国際政治の背景を説く記事として、特に、戦争に至るメカニズムを説明するものとして、「平和は常套句 - 西側が反論も受けずに世界を支配することができなくなった時、それは戦争を意味する」と題された記事がある [注4]。

本日はこの記事 [注4] を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。



<引用開始>




Photo-1:  アフガニスタンのカブールにおける薬の常用者たち。穴蔵で生活している。米国による占領が始まってからすでに16年だ。 © Andre Vltchek

西側は自分たちのことを「世界でもっとも平和を愛する国だ」と見なすのが大好きだ。でも、本当にそうだろうか?このような言葉は何処ででも耳にする。ヨーロッパから北米、そして、オーストラリアで、さらには、ヨーロッパへと戻ってくる。「平和、平和、平和!」  

これは常套句となった。うたい文句であって、資金や同情、支援を間違いなく受けるための処方箋でもある。平和を唱えれば、うまく行かない筈がない。あなたは思いやりがあり、しかも合理的な人間であるという風に受け止められるのだ。

平和が崇められている場所や平和が求められている場所で、毎年、「平和会議」が開催される。私は、最近、デンマークの西海岸で平和会議に出席し、そこで基調演説を行った。

私のような戦場にどっぷりと漬かっている特派員が出席すると、皆がショックを受ける。通常議論されている内容はごく表面的なものであり、受けのいいテーマばかりだからである。




Photo-2:  二重基準: 米英仏はイエメンではサウジ側に立っているが、シリアでは道徳を守る守護神を装っている。

せいぜい「資本主義は如何に悪いか」とか、「すべては原油と絡んでいる」といった類の議論である。西側の大量殺戮の文化についてはまったく触れることはない。長い間継続され、何世紀にもわたって略奪をし、西側の住民のすべてがそこから享受し続けて来た利益に関しては全然触れようともしない。

最悪の例は「世界は如何に悪いか」というテーマである。これは「人間は何処の国でもまったく同じだ」といった常套句で終わる。そして、ますます顕著になって来ているのは中国やロシアに対する異様で、かつ、無知な感情のほとばしりである。多くの場合、西側のネオコンは「脅威」とか「強力なライバル」という言葉で両国を形容する。

これらの会議の参加者は「平和は善」とか「戦争は悪」に関して誰もが同意する。これは総立ちの大喝采となり、お互いが相手の背中を叩くことになる。だが、感涙にむせぶようなことはほとんどない。

しかしながら、これ見よがしの振る舞いの裏に秘められている理由が問い質されることはごく稀だ。結局のところ、戦争を求めるのはいったい誰なのだろうか?いったい誰が暴力や痛ましい負傷、死を切望するのであろうか?いったい誰がすっかり破壊され焼け焦げた街並みや見捨てられて泣き叫んでいる幼児を見たいと思うのだろうか?すべては非常に単純で、非常に論理的であるように見える。

徹底的に打ちのめされ、事実上依然として植民地化されているアフリカや中東の国々からわれわれがこの「平和のスピーチ」を頻繁に聞くことがないという事実はいったいなぜだろうか?彼らが一番苦境に苛まれているのではないのか?彼らこそが平和を夢見てるいるのではないのか?それとも、われわれは皆が議論の的を外してしまっているのだろうか? 

私の友人、インドの作家で偉大な思索家でもあるアルンダティ・ロイは2001年に西側が開始しようとしていた「対テロ戦争」に関してこう書いている。『ジョージ・ブッシュ大統領が空爆を行うと公表した時、彼は「われわれは平和的な国家だ」と言った。米国のお気に入りの大使であるトニー・ブレアー(彼は英国の首相でもあるが・・・)はブッシュの言い草を受けて、こう言った。「我々は平和を愛好する国民だ。」 ということで、はっきりと分かったことがひとつある。豚は馬、女の子は男の子、そして、戦争は平和だ。』

平和という言葉を西側の人物が口にした時、その「平和」は本当に平和なのだろうか?その「戦争」は本当に戦争なのだろうか?

「自由で民主的な西側」においては一般市民はこのような質問を投げかけることが依然として許されているのだろうか?戦争と平和という考えは質問をすることが許されない教義の一部であって、西側の文化や法律によってしっかりと「守られている」のではないか?

このような質問が西側で発せられた場合、これらはほとんど間違いなく「暴力的」で「非合法的」に響くことであろう。それが原因で、グアンタナモ、あるいは、「CIAの秘密の刑務所」に収容されることになるかも知れない。2~3週間前、私はケニアのベネズエラ大使館で若者たち、つまり、左翼系の東アフリカ野党の指導者らと直接議論をした。確かに、彼らは煮えたぎり、激怒し、強固な決意をしており、覚悟ができていた。




Photo-3:  ベネズエラ大使館で左翼系の東アフリカ野党の連中に演説を行った。その後の記念撮影。 © Andre Vltchek

アフリカ大陸の現状を知らない読者に向けて一言付け加えておこう。ケニアは何年も、何十年もの間、英国や米国の、さらには、イスラエルさえをも含む帝国主義の東アフリカにおける前哨基地であった。それは冷戦の最中に西ドイツが演じた役目と同じである。豪華な商品やサービスを物色することができる天国であった。かって、ケニアはニエレレの指導の下で社会主義の実験を推進していたタンザニアの存在を実に小さく見せていたものだ。

今日、ケニアの人々の
60パーセントはスラム街に住んでいる。これはアフリカではもっとも酷い状況である。あるスラムでは、例えば、マサレやキベラは少なくとも約100万人を擁するが、これらのスラムは類を見ないような卑劣で、恐ろしい状況に晒されている。4年前に私は南米のTeleSUR ネットワークのために記録映画を作ったが、その際にこれらのスラム街を訪れたことがある。私は次のように書いた: 

「・・・公式にはケニアは平和だ。何十年もの間、西側に従属する国家として機能してきた。残忍な市場としての政治形態を実行し、外国のための軍事基地を受け入れて来た。この国に何億ドルもの金をもたらした。しかしながら、この国の悲惨さに比べると、より酷い国なんて何処にも見当たらない。

さらにその2年前、キスム市の近くで私の「トウマイニ」を撮影している間に、集落全体が幽霊のように佇んでいる無数の空き家を目撃した。住民はエイズと飢餓のせいで消えてしまったのだ。ところが、あたりは依然として平和であると言われていた。

シテ・ソレイユで絶望的なほどに貧困で、病気に苦しんでいるハイチ人を米国の軍医が屋外で手術をしていた時、それは平和であった。急ごしらえの手術台の上で局部麻酔だけで腫瘍の摘出手術を受けている女性を見て、私は彼女を撮影した。北米からやって来た医師に私は質問した。「どうしてこんなやり方で手術をするんですか?」と。そこからたった2マイル程の場所には最高の設備を持った軍の施設があることを私は知っていたからだ。




Photo-4:  ナイロビのキベラ・スラム街。住民の数は約100万を超す。 © Andre Vltchek

「このやり方が実際の戦闘状況にもっとも近いからさ」と、その軍医は率直に答えた。「われわれにとっては、これが最高の訓練だ。」 

手術が終わってから、その女性は起き上がって、彼女の怯え切った夫に助けられながらも、バス停の方へ去って行った。

そうなんだ。これらのすべての状況は公式には平和なんだ。




Photo-5:  ハイチでは米軍医による実験が続く。 © Andre Vltchek

世界中の悲惨な国々では私が作業をしていたあらゆる場所で、上記に引用した事例よりもさらに悲惨な状況を目撃した。私は、恐らく、余りにも数多くの悲惨な例を見過ぎてしまったのではないかと思う。でも、それらの状況は平和であると言われている。四肢をもぎ取られた犠牲者、焼け落ちた住宅、泣きわめく女性、病気や飢餓のせいでティーンエイジャーにもなれずに死亡する子供たち・・・ 

私がやっていることをあなたがやろうとする時、あなたは医者のようになる。つまり、あなたが出来ることはそういった恐怖や辛苦に耐えるだけとなる。何故ならば、あなたの務めは人々を助け、現実をさらけ出し、世界に恥を知って貰うことだ。あなたは自分自身が腐敗したり、崩壊したり、倒壊したり、泣き叫んだりする権利は持ってはいないのだ。




Photo-6:  癌を患うイラクの3歳の子供、モハメッド君。ギリシャのコス島にて。© Andre Vltchek 
しかし、あなたにとって耐えきれないのは偽善だ。偽善は「防弾」のためだ。偽善行為については適切な議論によって、論理によって、あるいは、例証を挙げることによって人を啓蒙することはできない。西側における偽善者は多くの場合無知であるが、ほとんどの場合利己的である。

ヨーロッパや北米の人々にとって平和とはいったい何だろうか?その答えは簡単だ。それは死亡したり、負傷する市民が出来る限り少なくなるような状況のことだ。貧困に喘ぎ、略奪に晒され、植民地化された国々からヨーロッパや北米に諸々の資源が滞りなく流れて来る状況のことだ。

そのような平和の代価は?このような世界を設定した結果、アフリカや南米、アジアではいったいどれだけ多くの人々が死亡したのであろうか?あるいは、さらに死亡するのであろうか? 

平和とは、何百万人もの非白人がその過程で消え去ってしまったとしても、西側のビジネスの利害関係が何の危険に晒されないことだ。

平和とは、西側が、反対されることもなしに、世界を政治的に、経済的に、イデオロギー的に、そして、「文化的に」支配することができる状態を言う。

「戦争」とは反乱が起こった時を言う。戦争は略奪を受けている国の人々が「ノー!」と言った時に起こる。戦争は彼らがレイプされ、はく奪され、洗脳され、殺害されることを拒否した時に起こるのである。

そういったシナリオが起こった時に西側がとる緊急の策は自国の市民の面倒を見ようとする中央政府を崩壊させることによって「平和を回復する」ことだ。学校や病院を爆撃し、飲料水や電力の供給網を破壊し、何百万人もの人々を悲惨で苦悩に満ちた状況に放り込むのである。 




Photo-7:  公式には戦争ではない - ガザにおける住民蜂起。 © Andre Vltchek 

北朝鮮やキューバ、ベネズエラ、イランに対して西側が迅速に行うことが出来る策として、いくつかの国々は、当面、経済制裁や外国から資金を得ている「野党」からの攻勢によって苦労を強いらている。西側が使う語彙においては、「平和」は「服従」の同義語である。全面的な、無条件の服従。それ以外の状況は戦争である。あるいは、戦争を招来させるであろう。

アフリカ諸国を含めて、抑圧され、悲惨な目に遭っている国々にとっては、抵抗を求めることは、少なくとも西側の語彙においては「暴力を求める」ことと同義であると見なされ、これは非合法的な行為である。第二次世界大戦中にナチドイツに占領されていた国々では抵抗を求めることは「非合法」であったが、それと同様に「非合法」である。したがって、西側の手口や心情は「原理主義者的」であって、非常に攻撃的だ。

私の友人である哲学者のジョン・コッブ・ジュニアに捧ぐ。

著者のプロフィール: アンドレ・ヴルチェクは哲学者であり、小説家、記録映画作家、調査報道ジャーナリストでもある。彼は数多くの国々で戦争や紛争を取材している。彼の最近の3冊の著作としては革命に関する小説「オーロラ」や政治に関するノンフィクションでベストセラーとなったふたつの著書、「帝国の大嘘を暴く」(Exposing Lies Of The Empire)と「西側の帝国と闘う」(Fighting Against Western Imperialism)とが挙げられる。他の著作についてはこちらをご覧ください。彼はteleSUR やAl-Mayadeenのために記録映画を作成している。南米やアフリカ、オセアニアに住んだ後、現在は東アジアや中東に居住。世界を股にかけて仕事を継続している。彼とはウェブサイトまたはツイッターで接触することが可能。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

この著者の平易な解説の仕方が大好きだ。言いたいことを的確に伝えてくれる。

下記に示す著者の主張は非常に分かりやすい。見事でさえある:

平和とは、何百万人もの非白人がその過程で消え去ってしまったとしても、西側のビジネスの利害関係が何の危険にも晒されないことだ。

平和とは、西側が、反対されることもなしに、世界を政治的に、経済的に、イデオロギー的に、そして、「文化的に」支配することができる状態を言う。

「戦争」とは反乱が起こった時を言う。戦争は略奪を受けている国の人々が「ノー!」と言った時に起こる。戦争は彼らがレイプされ、はく奪され、洗脳され、殺害されることを拒否した時に起こるのである。


戦争が起こるメカニズムに関してアンドレ・ヴルチェクが要約したこれらの言葉を自分の心に収めて、新冷戦やアフガン戦争、イラク戦争、シリア紛争、ウクライナ紛争、イエメン、パレスチナの実態をもう一度じっくりと考えてみようではないか。今までとは違った理解に到達することができるかも知れない。いや、間違いなく新しい自分を発見することだろうと思う。

6月12日、シンガポールで米朝首脳会談が開催され、両首脳は朝鮮半島の非核化と安定した政治体制の確保を謳った合意文書に署名をした。具体的な内容は間もなく公開されることだろう。当面の報道によると、両首脳は思った以上に積極的にこの会談に取り組んでいるようだ。朝鮮戦争に終止符が打たれ、当事国間の停戦協定が平和条約に格上げされるならば、これはまったく新たな1章が始まることを意味する。

これは、世論調査に示されているように、戦争を嫌う米国の一般市民が明らかに覚醒したことを意味する。そして、この新しい国際政治の趨勢が核大国である米ロ両国間の協力体制に少しでもプラスになるとすれば、その先に待っているのは朝鮮半島の非核化だけではない。それは東アジアの非核化、欧州の非核化、さらには、全世界の非核化である。われわれの世代から次の世代に贈ることができる最高の贈り物の姿が具体的に見えて来る。これから展開される交渉がいくら長くても、いくら困難であっても、次世代に対するかけがえのない贈り物を実現して欲しいものである。実現に向けて後押しをする最強の援軍は、実質的にわれわれ一般庶民の明確な理解と確固たる決意であろう。

米朝両首脳が本日、6月12日の会談をきっかけにして朝鮮半島の非核化に成功した暁には、それは現行の新冷戦の方向性を180度転換させるような歴史的な出来事へと発展する可能性を秘めている。そうなって欲しいものである。




参照:

注1: Still Waiting for Evidence of a Russian Hack: By Ray McGovern, Information Clearance House, June/08/2018

注2: Berlin still has no evidence from UK that Moscow is behind Skripal poisoning – reports: By RT, June/07/2018,
https://on.rt.com/9729

注3: The Snipers Massacre on the Maidan in Ukraine: By ORIENTAL REVIEW, Sep/11/2015

注4: Peace is a cliché: When the West cannot control the world unopposed, it means war: By Andre Vltchek, RT, June/02/2018, https://on.rt.com/96nn





 

2018年6月5日火曜日

現地のシリア人が化学兵器攻撃の大嘘を暴く

シリアの首都ダマスカスの近郊のドーマという町で、4月7日、化学兵器攻撃があった。70人もの住民が殺害され、それはアサド大統領が命じたからだと報じられた。

しかしながら、西側の大手メディアを除いては、国際世論はこの報道を信じなかった。偽情報であることが見え透いていたからだ。その論理としては、アサド大統領が自国民に向けて、しかも、政府軍側の勝利がほとんど確定的になっているこの時期になってから世界中の世論を敵に廻すような化学兵器攻撃を行う理由は見当たらないのだ。

当時を振り返ってみると、例えば、米国に追従するフランスのマクロン大統領は「われわれは化学兵器、少なくとも塩素が使われたことの証拠を握っている。これはバシャール・アル・アサド政権によるものだ」と臆面もなく述べていた。4月12日の報道だ。シリアに対する武力介入を喧伝し、シリア政府に対する圧力が急上昇している最中であった。

4月14日、米英仏はシリアに対してミサイル攻撃を行った。化学兵器を生産し、貯蔵していると言われていた施設が攻撃を受けた。これは民間の施設であって、抗がん剤の開発を行ったり、他の薬剤を生産していた。経済制裁を受け、輸入が思うようには出来ないシリアでは民生用の貴重な施設であった。ミサイル攻撃の翌日、攻撃を受けた場所を取材するために西側のメディアが招かれた。もしも西側が主張していたように、この施設で化学兵器が本当に製造されていたとしたら、この攻撃によって化学兵器が漏れ出して、何千人もの巻き添えの死者や負傷者が出ていたことであろう。西側の主張はすべてが見え透いた大嘘であった。

反政府勢力に武器を与え、資金を提供し、外国から多数の過激派武装集団を送り込み、アサド大統領を失脚させることによって地政学的な利益を手中に収めようと試みた西側は、結局、その戦略や戦術に稚拙さを露呈した。シリアでは7年間にもわたって内戦が進行しているとして見せかけて来たものは、実際には、西側の資金力にものを言わせた代理戦争である。

シリア政府側に濡れ衣を着せて、反政府武装勢力に騒乱を起こさせ、アサド政権を失脚させるという西側の戦略が失敗した理由のひとつには「現地の実情を知りたい、それを西側の一般市民に伝えたい」とするジャーナリストの疲れを知らない努力がある。西側の商業的な大手メディアがとっくに捨ててしまったジャーナリスト精神が、幸いにも、フリーランスのジャーナリストたちによって実践されたのだ。

大手メディアに完全に欠如するジャーナリスト精神がどうしてフリーランスのジャーナリストによってこうも見事に実現されるのかという点については多くの議論がある。それは別の機会にして、話を本題に戻すことにしよう。

ここに、「現地のシリア人が化学兵器攻撃の大嘘を暴く」と題された記事 [注1] がある。著者はシリアやガザの一般住民の窮状を現地から報告することで知られているエヴァ・バートレットというフリーランスのジャーナリストである。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

ところで、シリアの地名や人名をカタカナ表記することはアラビア語を知らない私にとってはとんでもなく大きな挑戦です。表記の仕方が間違いだらけであると思いますが、ご容赦願います。

<引用開始>




Photo-1:   ホワイトヘルメッツはドーマで起こった化学兵器攻撃の様子を伝えるビデオを作製した。そのビデオに撮影されていた少年が、2018年4月26日、オランダのハーグで行われた記者会見で当時の様子を喋った。© Michael Kooren / Reuters

西側のメディアはシリアのドーマで起こったとされる化学兵器攻撃をそのまま引用し続けているが、彼らとしては最近までジャイシュ・アル・イスラムによって支配されていた町でちっぽけな証拠を用意しなければならなかった。 

ところが、ホワイトヘルメッツと称される西側のプロパガンダの構図から発せられたこのビデオは実証されてはいない。証拠に基づいて作成されたものではなく、トルコで撮影されたものか、それとも、テロリスト集団によって支配されているシリアのイドリブで撮影されたものかはまったく分からない。

その一方、彼らの主張とは相反する主張が数多くある。例えば、ハーグの化学兵器禁止機関(OPCW)の本拠で4月26日に証言をすることになったドーマからやって来た17人だ。彼らは化学兵器攻撃はなかったと証言したのである。 



Photo-2:  ホワイトヘルメッツ: 世界中で一番写真うつりが良いこの救助隊にとって一般市民のことなどはどうでもいいのだろうか?  

米英仏の指導者と彼らの愛玩動物であるメディアは、当然ながら、シリア人の主張は「節度を欠いたもの」であり、「見せかけ」だとして一蹴した。ところが、その同じメディアが解放前のアレッポ市の東部に住む当時7歳の女の子のバナ・アル・アベドの言葉は信用できるとしていた。企業メディアや西側の指導者らはバナが信用できるかどうかについては何の疑義も挟まなかった。バナの住居の周辺だけであっても、当時、25か所ものテロリストの小集団によって囲まれていたにもかかわらずである。しかしながら、ドーマの住民の主張は「節度を欠いたもの」となるのだ。 

西側の非難とは矛盾する一般人の主張は他にもある。彼らの主張はドウーマへわざわざ出向いて住民の話を直接聞こうとしたロバート・フィスクやドイツの第二ドイツテレビ(ZDF)、ワン・アメリカ・ニュース、ヴァネッサ・ビーリー、等によって伝えられた。

事実、OPCW に調査を行うように呼びかけたのはシリアとロシアの政府である。その一方、非合法にもシリアに103発のミサイルを発射したのは米英仏であった。その内の76発はOPCW の検査官が調査を開始する直前にダマスカスに向けて発射された。

彼らの非難はどれも「検証」することが出来なかった。OPCW は遅かれ早かれ報告書を発行することになるが、OPCWの報告書に関しては思い起こしておきたいことがある。イドリブ県のカーン・シェイクーンにおける化学兵器攻撃に関する昨年の報告書には、控えめに言ってさえも、「不規則な点」が観察された。紛れもないもっとも大きな不規則性は57人の「犠牲者」の入院である。この入院はいわゆる化学兵器攻撃が実際に起こる前のことであったのだ。他には、ある被害者の尿検査でサリンの痕跡が見つかったが、同じ被害者からの血液サンプルからは検出されなかったという不規則性が観察されている。

ーマの住民が化学兵器攻撃に関する非難が嘘であることを暴露: 

4月の終わりごろ、私は一人の通訳と一緒にタクシーでドーマへ出向いた。そこで2-3時間を過ごして、ジャイシュ・アル・イスラムのテロリスト・グループの支配下で酷く苦しめられていた住民らと話をした。住民の多くは自分たちの生活が地獄のようであったという事実を訴えようとした。しかし、まず私は問題の病院へ出かけた。

化学兵器攻撃を受けたとされるが、今は歩行者や車両で混雑を極める「殉教者の広場」を通り過ぎて、地下病院は何百メートルか先にあった。私は中に入って、化学兵器攻撃があったとされる4月7日に病院にいた医学生とのインタビューを記録した。




Photo-3:  「攻撃は無く、犠牲者も出なかった。化学兵器の使用は無かった」: ハーグのOPCW で記者会見をするドーマからの証言者たち (VIDEO) 

マルワン・ジャベルによると、やって来た患者たちは通常の砲撃による傷の手当を受けた。あるいは、塵埃や安全のために長期間地下に潜んでいたことに起因する呼吸困難に対する治療を受けた。

ジャベルは私にこう言った。病院の職員が変わり映えのしない砲撃による傷の手当てや呼吸困難に対する治療を行っている間に、「部外者」が入って来て、化学兵器攻撃だと叫んで、皆に水をかけ始めた。病院の職員はこの混乱状態を鎮静化して、「変わり映えのしない」砲撃による傷の治療に戻ることにした。患者たちは化学兵器攻撃に晒された兆候をまったく示してはいなかったからだ。

患者の症状は「化学兵器攻撃に特有な症状とは一致しなかった。瞳孔の収縮もなければ、死を招く気管支収縮もなかった」と当時を思い出して、ジャベルが言った。「われわれが受け入れた患者の症状は皆窒息の症状であって、これは煙によるものだった。あるいは、普通に見られる戦場での負傷だった。患者たちはここへやって来て、われわれが治療を施し、彼らを帰宅させた」とジャベルが説明してくれた。そして、「誰も死ななかった」と付け足した。 

もしも化学兵器攻撃があったとしたら何らかの影響が起こったかも知れないと誰もが推測することだろうが、病院の職員の間でそのような影響は受けた者はいなかった。ホワイトヘルメッツが作ったビデオで観察されるように、病院の職員は有毒な化学兵器の汚染を取り扱う場合に必要な防護服は誰も付けてはいない。

マルワン・ジャベルの意見によれば、叫び声を上げながら病院へ押し入って来た連中は医学については何の訓練も受けてはいなかった。高校を終了しているかどうかさえも怪しいと彼は言う。

病院の下を通じるトンネル網は側壁が強化されており、その規模は大きく、車両が通れるほど幅が広い。ジャイシュ・アル・イスラムがドウーマの町を支配下に置いている間、彼らは自由に移動することが出来た。

2018年および2013年に起こったとされる化学兵器攻撃を受けたグータの住民: 

ーマの街を歩きながら、私は町の住民に生活の様子を訊ねた。特に、自分たちの町で化学兵器攻撃があったのかどうかについて聞いてみた。幾人かは化学兵器攻撃があったなんて気付かなかったと言った。しかし、大部分の住民は「何も無かった」ときっぱりと返事をした。




Photo-4:  「シリア政府が2013年以降化学兵器を所有していた」と主張するフランスの報告についてモスクワ政府は問題として取り上げる

野菜や果物を販売するスタンドでタウフィーク・ザーランはこう答えた。ジャイシュ・アル・イスラムは彼らに恐怖感を与え、シリア軍やシリア政府を恐れさせるために叫んだのだと思う・・・と。彼の周りにいる者たちも同感だと頷いていた。ジャイシュ・アル・イスラムの支配下では皆が飢えていたことやテロリストグループが日常的なやっていた刀を使った処刑についても喋ってくれた。

焼き菓子を売っている若者のグループが手を振って私を招き、菓子をくれた。彼らも化学兵器攻撃のことは何も知らないと答えた。彼らがもっとも心配していたことはジャイシュ・アル・イスラムの下では焼菓子に必要な小麦粉を十分に入手できないことであった。また、生活に必要な食物がひどく不足することだった。これは私が会った人たちの誰にも共通する話題であった。つまり、誰もがジャイシュ・アル・イスラムの支配下で飢えとテロに悩まされていたのである。

2013年、西側とそのメディアは東グータにおける化学兵器攻撃についてシリア政府を非難した(不思議なことには、それよりも前の事件を調査するためにOPCWの検査官がシリア国内に滞在している最中であった)。これらの非難は調査報道専門のジャーナリストたち、特に、セイモア・ハーシュの報告によって論破された。セイモア・ハーシュはテロリストがサリンやロケットを製造する作業所を所有していると結論した。確かに、東グータのサクバでは臼砲やロケットの作業所のひとつを見学した。作業所の内部にはさまざまなサイズの未使用のミサイルが大量に残されていた。

2018年の4月、化学兵器攻撃を2日間非難した後、米国駐在サウジアラビア大使のカリド・ビン・サルマンはツイッターでシリア政府の「野蛮な」行為を非難した。野蛮なジャイシュ・アル・イスラムをサウジが支援していることは別としても、ミントプレスニュースによると、サウジアラビアは2013年のグータでの攻撃のためにテロリストらに化学兵器を提供したという事実があり、これは実に皮肉である。 [訳注: ミントプレスニュースは2011年にムナール・ムハウェシュによって米国のミネソタ州に設立された。]

ミントプレスの記事は反政府勢力の言葉を引用していた。彼ら曰く、使い方がまったく分からない化学兵器を提供された。そして、供給源としてサウジのプリンス・バンダルの名前を挙げた。




Photo-5:  ドーマでの化学兵器攻撃の失敗を受けて、米国はホワイトヘルメッツに対する資金提供を中断 

ミントプレスの記事を書いた共同執筆者たちは同記事を撤回するよう執拗な圧力を受けた。ミントの最高責任者で編集者でもあるムナール・ムハウェシュの声明によると、著者らは圧力の源はサウジの諜報部門を率いるプリンス・バンダルではないかと疑っている。ひとりの著者は「サウジアラビア大使館が彼に接触し、化学兵器攻撃のことを調査し続けるならば彼を職場から追放してやると脅しをかけて来た」と述べている。

5月の始めに私はカフル・バトナへ出かけた。この町には結核専門病院があって、2013年の8月には何百人もの人たちがここで治療を受けた。

病院長のモハメド・アル・アガワニは私にこう喋ってくれた: 

「化学兵器攻撃なんて無かった。あの晩、私は病院には居なかったが、私の部下が何が起こったのかを報告してくれた。夜中の2時頃、突然、騒音が起こり、叫び声や病院に到着する車の音が聞こえて来た。市民を運んできたのだ。何人かの武装した男たちが化学兵器攻撃があったと言った。中には外国人特有の訛りがあった。運んで来た人たちの衣服を剥ぎ取り、彼らに水をかけ始めた。午前7時頃まで次々と人が運び込まれて来た。約千人となった。ほとんどが子供たちで、生きていた。近くのエイン・テルマやヘッゼ、ザマルカの集落からだった。多数の親たちが子供たちは帰って来なかったと後に報告している。」

詳しく分析をしてみると、あの夜の録画は犠牲者の中には喉を切られている者さえも含まれていた。もしも「神経剤」で殺害されたのだとするならば、実に奇怪なことである。

カフル・バトナの中央広場に面したアイスクリーム店で私は従業員のアブドラー・ダルボウに2013年に起こったとされる事件に関して何か知っていることはないかと訊ねてみた。

「確かに、われわれはそのことを聞いたことがある。でも、あれは何も起こらなかったんだ。シリア政府が我々に対して化学兵器攻撃をしたと彼らが主張した。しかし、攻撃は無かった。当時、僕は近くのジスリーンに住んでいたが、もう7年も生活をしているよ。政府軍はわれわれに対する攻撃なんてしなかった。」 




Photo-6:  シリアの化学兵器攻撃は米国による空爆を仕掛けるために行われ、ロンドン政府が犯人をそそのかした、とロシアの国防省は言う。

タクシーを拾って、ダマスカスの南東部に位置する避難民のためのホルジレー・センターに向かった。そこではカフル・バトナから来たマルワン・クレイシェーと出会った。2013年の事件について、彼はジャイシュ・アル・イスラムとファイラク・アル・ラーマンの間の戦いを思い起こしてくれた。「両者を合わせて500人もが殺害された。連中は地上に彼らを並べて、催涙ガスみたいなものを放出した。政府がこの地域に化学兵器を使ったと言って、撮影し始めた」と言った。

ホルジレー・センターではドーマからやって来たマモオウド・ソウリマン・カレドにも出会った。彼は自分の姪のことを喋ってくれた。「ベイト・サワに住んでいる私の妹は子供を連れてわれわれの家へやって来ることにした。彼らが街を歩いている際中に大きな爆発音がして、異常な匂いがした。彼女の娘が路上に倒れた。娘を近くの病院へ運び込んだが、娘は窒息し、死亡した。彼女の口は開いたままで、唇は青みを帯びており、窒息死したことが明白であった。」

カレドはその後の様子についても話してくれた。死んだ子供たちをテロリストがどのように活用したのかについてだ。「彼女の写真を撮り、彼らはその写真をソーシャルメディアやウェブサイトに掲載した。この女児は政府による化学兵器攻撃で殺害されたのだと彼らは言った。しかし、彼女はテロリストらが作った化学品で窒息死したんだ。連中こそが彼女を殺したんだ。」 

他の作り話: 

シリア政府が自国民に対して化学兵器あるいは神経剤を使用したのかどうかについてだけではなく、ジャイシュ・アル・イスラムの支配下では恐ろしい境遇の中で生活を強いられてきたことに関してもドーマやカフル・バトナ、ホルジレーの一般市民らとたくさん話をした。その結果、私が到達した個人的な見解はドウーマで化学兵器攻撃があったと主張するビデオは作り話であるという点だ。彼らが非難する内容とはまったく違った状況を伝える話や報告が十分にあり、彼らの主張はそれを支える証拠がまったく欠如している。シリアとロシアの両国を罪人扱いするために、テロリストや西側のプロパガンダ集団であるホワイトヘルメッツがビデオを作成し、いかさまの非難を行ったものだと推測される。 

シリアとロシアの両国にはシリアの一般市民を相手に化学兵器攻撃を行う利点はまったくゼロに等しい。それは道徳上の理由から言えることでもあり、化学兵器攻撃を行い、その結果予測される軍事的な袋叩きに遭いたくはないという合理的な理由からでもある。それとは対照的に、シリアに対する汚い戦争を長引かせるために、米英仏と湾岸諸国ならびにイスラエルはシリアにおける化学兵器攻撃のシナリオを望む理由を山ほど持っている。

メディアが「節度を欠いたもの」とか「見せかけ」といった言葉を使うこと自体は正当ではあるが、その正当性はドーマでの出来事に関する公式見解においてだけだ。企業メディアはホワイトヘルメッツの信用できそうもないもうひとつのビデオを楽しんでおり、彼らはドーマや東グータの一帯を支配していたテロリストらの残虐性や野蛮さは隠蔽したのである。 

著者のプロフィール: エヴァ・バートレットはフリーランスのジャーナリストで、ガザやシリアでは広範な経験を持った人権問題の活動家でもある。彼女の著作については彼女のブログ「In Gaza」にて探してみてください。


<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

シリアを巡る地政学的な争いはシリア政府軍の勝利であることが明らかになりつつある。

トランプ大統領が米軍の撤退を示唆したにもかかわらず、ペンタゴンは今もシリア東部に米軍を配置している。ペンタゴンがホワイトハウスになったかのようである。米国の政治の不可思議な点である。米政府は常に右へ行ったり、左へ行ったりを繰り返しているように見える。効率が悪いばかりではなく、偽善的だ。

総じて、引用記事からも明らかなように、シリアで推進されて来た代理戦争の本当の姿が一般大衆にも理解され始めたという事実は歓迎すべきであろう。

9/11同時多発テロ以降、米国は対テロ戦争を推進して来たが、10数年を経て、その結果を見ると、非常に困惑させられる。何故かと言うと、「対テロ戦争」という見出し語は現実を物語ってはおらず、米国の本当の目論見は中東の資源の確保であったことが明白だ。政治に特有な詭弁、嘘、情報操作、偽善、等のあらゆる悪徳振りが毎日のようにテレビで放映され、紙面を飾って来た。

しかし、われわれ一般大衆の好むところはそういうものではない。政治の世界にも如何ほどかの節度や真実、誠実さがあって然るべきだ。事実、米国の大衆は戦争を望んではいない。

今年の4月、米国のメディアに大異変が起こった。ある記事 [注2] が次のように伝えている:

タッカー・カールソンの昨夜の独白はケーブルニュースの歴史においてはもっとも画期的な出来事のひとつだ。カールソンとトーマス・マッシーの二人が唱えたシリア空爆に対する反論がどうしてそんなに重要であるかと言うと、彼らは戦争は米国の関心事ではないと指摘し、シリアで起こっていることに関する「公的な」筋書きを大っぴらに質したからである。彼がフォックスのチームに参加して以来軍事的な節度を求める代表的な声であったことを考慮すると、マックス・ブートのようなネオコンの連中にとっては大打撃となることは明らかで、カールソンの立場は驚くには値しないが、彼の行為は依然として勇気を必要とする。ロン・ポールや他の反戦の主唱者が知っているように、権力者の筋書きを質すことほど彼らを激怒させるものはない・・・

ここに引用したふたつの記事はそれぞれが米国の戦争を推進する勢力に何らかのブレーキをかけてくれたことと思う。このような動きが一般大衆の支持を得て、米国政府が9/11同時多発テロ以降シリア紛争に至るまで膨大な戦費をかけて、しゃにむに推進して来た不条理な戦争には一日でも早く終止符を打って欲しいものだ。なぜ何百万人もの無辜の市民を殺害しなければならなかったのか、なぜ何百万人もの市民を故郷から追い出し、難民を作り出さなければならなかったのかについて、米市民は真摯に再検討するべきであると思う。言うまでもなく、この米国の戦争に賛意を示した欧州や日本も例外ではない。



参照:

注1: Syrian civilians from ground zero expose chemical hoax: By Eva Barlett, RT, Jun/01/2018,
https://on.rt.com/96n6

注2: Why Tucker Carlson’s Monologue About Syria is So Important: By Tho Bishop, Mises Institute, Apr/10/2018







2018年5月28日月曜日

原油が「米国の世紀」を終焉させる?


私自身を含めて、多くの素人にとっては経済や財政を論じるのはかなりハードルが高い。しかしながら、大きく動こうとしている世界の政治情勢を少しでも正しく読み取りたいと思うと、この苦手な分野についてさえも少しは頭を突っ込まざるを得ないのが最近のご時世だ。

米ドルは現在世界各国が保有する外貨準備の総額の64パーセントを占めているという [注1]。圧倒的に大きなシェアーである。

二番目に大きな外貨はユーロ(20パーセント)であるが、トランプ政権による保護主義を受けて、ドルを売って、ユーロへ移行する動きが伝えられている。

さらには、上海の原油先物市場では、3月26日、中国通貨(ユアン)による取引が開始された。「ペトロユアン」という新語が使われ始めた。何と言っても、中国は世界の原油市場では最大の輸入国である。好むと好まざるとにかかわらず、中国の動きは世界経済に大きな影響を与える。中国が輸入するサウジアラビア原油も何れはユアン決済になるのかも知れない。

こうして、世界各国の外貨準備の戦略は米ドルの独壇場から多様化へ移行しようとしている。数十年にわたって世界の原油取引の決済に君臨して来た「ペトロダラー」が「ペトロユアン」によって脇役に押しやられる日が来るのかも知れないのだ。

そんな現状を伝える記事がある [注2]。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>


Photo-1

「米国の世紀」は1941年にライフ誌の論説で米権力層の一員であるヘンリー・ルースによって声高らかに唱えられた。この状態は原油のコントロールと世界中の原油をコントロールするために終わることのない戦争を遂行することによって築き上げられた。今、皮肉にも、米国の大統領がイラン核合意から非合法的に、かつ、一方的に撤退したことから、原油は「米国の世紀」と称される世界規模の覇権を崩壊させる重要な役割を担うことになるかも知れない。

さまざまな国が米ドルへの依存から脱却しようとしている。しかし、最近の動きやその多様化する手段に見られる個々の要素はそれ自体としては米ドルの君臨、すなわち、ワシントン政府が他の国々に対して米ドルのみを使って原油の売買を強制する能力を終わらせるにはまだ十分ではない。ワシントン政府による一方的な挑発や制裁行為は他国が何らかの解決策を見い出すことを強要する。たった4年前にはこんなことが可能であるとは思えなかったし、現実的でさえもなかった。 

第四次中東戦争に次いで起こった1973年のオイルショック以降、ワシントン政府とウオールストリートはサウジアラビアを始めとするOPEC諸国は米ドルのみで原油を売ることを求めた。これこそが米国通貨の需要は米経済や米政府の借金あるいは負債といった内政問題とはほとんど無関係となることを保証したのである。このシステムは、当時、ヘンリー・キッシンジャーや他の連中によって「ペトロダラー」と呼ばれ、米国による決定的な世界的影響力の土台となった。それと同時に、米国の大企業には中国やメキシコ、アイルランド、さらには、ロシアからの外部委託を構築するプロセスにおいては国内の税金や投資からの責任を逃れることさえをも可能とした。今の時点でかなり多くの国々が米ドルを放り出し、他国の通貨に切り替え、あるいは、バーター取引を開始するとなると、さまざまな出来事が連鎖的に反応しかねない。これは米国の金利を急上昇させ、10年前の経済危機を遥かに凌ぐような財政危機を新たにもたらすであろう。

米国の経済制裁マニア: 

2001年9月11日以降、米政府はかってはアルカエダのようなテロリスト集団に対して活用していた資金調達に対する制裁措置を米国通貨を守るための手段として用いることに変換した。ロシアに対して経済制裁を課している米財務省が行ったもっとも最近の決定は米国人が行うビジネスが対象となるだけではなく、非米国人が行うビジネスに関してさえも制裁を課すことができるとしている。今、これに続いて、イランに対して過酷な経済制裁が新たに課されようとしている。

トランプ政権は一方的に包括的共同作業計画(JCPOA)、いわゆる、イラン核合意から撤退することを宣言し、イラン原油の取引を行っている他の国々も11月までにはイランとのビジネスから撤退するよう求めている。もしも撤退しない場合には、彼らに対しても経済制裁、つまり、二次的経済制裁を課すと宣言した。米財務省はイラン原油の交易にかかわる国際的な再保険会社や外国の銀行にも矛先を向けている。最近の対イラン経済制裁では2012年の「国防権限法」(NDAA)の1245条がその正当化の理由として用いられている。 

この米国の不当な動きこそが、現実には、中国やロシア、イランといった主要国、さらには、EUさえもが米ドルから距離を置くことに拍車をかけている。かってはなかったことだ。

中国ユアンによる原油取引: 

今年の3月、中国は自国通貨のユアンを使った原油の先物取引を開始した。先物取引は今日の国際的な原油取引においては主要な要素である。米ドル以外の通貨で行われる先物取引としては、これは初めてのものだ。中国の動きが真面目に受け止められるようになるまでには何年もかかるだろうと見られ、この新たな対イラン経済制裁が浮上するまでは、ワシントン政府は中国の動きを単に目障り的なものとして見ていただけであった。しかし、今や、イランが自国の原油取引を米ドルで行うことを禁じようとする米国の制裁措置は上海の原油先物取引に大きなブームを引き起こし、市場におけるペトロユアンの受け入れを早めることになるかも知れない。

中国は当面イラン原油の最大の顧客であり、イランが一日当たり約250万バーレルを輸出する中で、約65万バーレルを中国が輸入している。インドの輸入が2番目で、約50万バーレル。ブルームバーグの報告によると、それに続くのは韓国の31万3千バーレル、トルコの16万5千バーレルとなる。イランは最近米ドルからの独立を表明しており、中国への原油輸出を中国ユアンで行う公算が非常に高い。もしも中国がイランからの原油輸入をユアンで決済することを条件にすると、米ドルとの為替手数料を節約し、国際貿易においては米ドルを犠牲にして、中国通貨のユアンを使用する機会がぐんと増えることになるであろう。

イランは中国の何兆ドルにも達するユーラシアにおけるインフラ・プロジェクトとしての「一帯一路」政策においては戦略的にも重要なパートナーである。最近公表された米国による経済制裁を受けて、フランスの大手企業のトータル社はイランの巨大なサウス・パーズ天然ガス油田の持ち株を売却せざるを得ないと述べた。この報告に関して、中国の巨大企業であるCNPC グループがフランス企業の持ち株を取得する準備をしていると中国の国営エネルギー産業の消息筋が伝えた。現在、トータルが50.1パーセント、CNPCが30パーセント、イランの国営石油会社が19.9パーセントを保有している。トランプの安全保障を担当する補佐官で、長年にわたってネオコンの強硬派として知られているジョン・ボルトンはイランとの戦争を喧伝し、EUの企業はイラン政府との仕事を続ける限りは米国の経済制裁に直面するであろうと述べている。

中国とイランとの間の経済連携を示すものとして、5月10日、中国は内蒙古のバヤンヌールからカザフスタンとトルクメニスタンを経由して、8,000キロも離れたテヘランに直接通じる鉄道の運転を開始した。貨物輸送の時間は14日間と推算されており、これは海上輸送に比して約20日間もの短縮を実現するものだ。

ロシアの動き: 

イランにとって二番目に重要なビジネス相手はロシアである。ロシアは米国による経済制裁に苦しめられているが、2014年にイランとの核合意が締結され、イランに対する経済制裁が解除されてからというもの、数多くのビジネスに関与して来た。ロシアのプーチンは経済制裁に晒されるという安全保障上の理由からロシアは米ドルから独立したいと明確に言明している。その点に関して補足すると、ロシア・イラン間の相互貿易は、2017年11月以降、数多くの商品について米ドルを介さない物々交換方式で行なわれている。

さらには、イランのムハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相は、5月14日、モスクワでロシアのラヴロフ外相とロシア製原発のプロジェクトについて語り合い、両者は経済協力の継続を約束した。ロシアの原油関連企業は数社がすでにイランとのプロジェクトに関わっている。

ロシアと中国との間の交易においては、米国がイラン核合意からの撤退を宣言する前から、米ドルからの離脱をしようとしていた。現在、中国はロシアの最大の交易相手であり、17パーセントを占める。2番手にあるロシア・ドイツ間の交易の2倍となる。ロ中の二国間では米ドルベースの貿易がさらに減少するだろう。4月25日、ヴァルダイ国際討論クラブが上海で開催され、在ロシア中国企業連合の議長を務めるZhou Liqun 氏はこれらのユーラシアのふたつの国家は両国間の貿易から米ドルを排除するべきだと主張した。彼はこう言った。「これらふたつの国家の指導者は関係を改善することを考え、特に、資金面での協力に取り組むべきだ。なぜ外国の通貨を使って支払いをするのか?なぜ米ドルなのか?なぜユーロなのか?これらの決済は直接ユアンやルーブルで行うことが可能だ」とロシアの国営テレビで述べている。

ロシアとイランに対する米国による最近の経済制裁の前にさえも、ロシアと中国は二国間の貿易においてはドル決済から慎重に逃れて来た。ロシアは、2016年の末、サンクトペテルスブルグ証券取引所(SPBEX)でロシア産ウラル原油の先物取引をルーブルで行い始めた。これは上海でのペトロユアンによる先物取引と双璧を成すものだ。

中国とロシア間の本年の相互貿易は、2017年に31パーセントの増加を見た後、100兆ドルに達すると予測されている。ユーラシアの二大強国の銀行や企業は米ドルからの独立を目指して注意深くその基礎を築き上げようとしている。そうすることによって、世界中で準備通貨として使われている米ドルの極悪非道な優位性、つまり、米ドルに基づく経済制裁に対する脆弱性から脱却しようとしているのである。

2017年のロシアから中国への輸出総額の9パーセントはすでにルーブルで決済され、ロシア企業は中国からの輸入の15パーセントをレンミンビで決済した。これらのルーブルとレンミンビによる直接の支払いによって、NATO 諸国による経済制裁の要因が増加する中で米ドルやユーロ通貨によるリスクを避けることができる。これらのユーラシアのふたつの国家は米国による金融戦争や経済制裁からの絶縁をさらに確実にするべく、これらの支払いはEUのSWIFT銀行間決済システムからは独立した形で、すでに設立されている人民元国際決済システム(CIPS)を通じて決済することができる。ロシアではすでに170社を超す銀行やブローカーがモスクワ証券取引所でユアンの取引を行っている。モスクワ証券取引所では中国の国営大銀行、たとえば、中国銀行、ICBC、中国建設銀行、中国農業銀行、等が営業をしている。ルーブル・ユアン間の為替レートは米ドルの参画が無しに計算される。

EUはこれに続くだろうか? 

最近では、欧州連合はイラン原油の取引においては今まで行って来た米ドル決済ではなく、ユーロによる決済の可能性を模索していると報じられている。彼らはトランプの一方的なイラン核合意からの撤退を非難し、米国によって脅かされているイラン原油の取引ならびに航空機に関する大型商談やその他の技術契約を何とか維持する策を見出そうとしている。EUの外交政策を担当するフェデリカ・モゲリーニは英・仏・独・イランの外相が今後2-3週間内にワシントン政府の動きに対抗する実際的な解決策を練り上げると記者たちに語った。彼らは、原油や天然ガスの供給も含めて、イランとの経済的連携を既報のごとくさらに深める計画だ。

もしもEUがそのような動きをしたならば、それは米ドル・システムの基盤を揺り動かし、それだけではなく、米国の影響力さえをも揺り動かすであろう。今すぐには起こりそうもないが、ワシントン政府が2014年以降ロシアに課して来た経済制裁のように、EU経済の関心事にワシントン政府が害を与えると、地政学的同盟においてさえも巨大な地殻変動が起こり、この同盟が大西洋地域から姿を消してしまうような事態がより現実的なものとして想像可能となって来る。

世界の主たる準備通貨としての米ドルの役割は、軍事力と並んで、ワシントン政府がその影響力を行使する上では非常に重要な基盤である。もしもそれが著しい衰退に見舞われるならば、それは他国の資源を用いて超大国の優位性を継続するために必要となるペンタゴンの戦争遂行能力を弱体化することであろう。抑えがきかなくなった米財務省の経済制裁そのものが中国やイラン、ロシア、さらにはEU に米ドルに対する依存性を減少せしめるに連れて、ワシントン政府の他国に対する優越性は低減する。前世紀における過程のど真ん中には原油のコントロールとそのコントロールのために必要な米ドルの役割が健在していた。

著者のプロフィール: F・ウィリアム・エングダールは戦略リスクに関するコンサルタントであって、講演者でもある。プリンストン大学で政治学の学位を取得し、原油、地政学に関する著作が売れており、New Eastern Outlookのオンライン・マガジンに独占的に寄稿している。
“New Eastern Outlook.”https://journal-neo.org/2018/05/19/will-oil-end-the-american-century/

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

ディープステ―ツが他国の経済や安定性を実際にどのように考えているのかはまったく知る由もないが、外部から観察する限りでは、米国自身は現在の経済的繁栄と国際政治における優位性を維持するためならば、同盟国も含めて、他国の経済や市民生活の安定性、等は自分たちの関心事ではないと言えよう。

イランとの核合意からの脱退時に米国政府が打ち出した経済制裁は米国以外の企業に対しても課すと言って、脅かしをかけている。これがいい例だ。上述のように、フランスのトータル社はイランとのエネルギー開発事業からの撤退を強いられている。これに続くものとして、エアーバスが契約している多数の旅客機がある。

米国政府は今までは考えられなかったような政策を打ちだすようになった。これは4年前から始まった。2014年の対ロ経済制裁ではロシアからの報復としてEUからの食品輸入に関する禁輸措置に見舞われて、EU各国の経済は大きな打撃を受けた。一言で言えば、米国は同盟国の利益を考える余裕を失ってしまったかの如くである。米国はすでにそこまで追い詰められているということだ。

今回のイランに対する経済制裁においては、仏・独・英のヨーロッパ諸国は米国の対外政策からの独立を図るべく独自の解決策を模索してる。公式な発表はまだだ。悲観的な観測もあるが、実効性がある策を講じることができるのかどうかが注目の的になっている。

歴史的な教訓としては、覇権国は遅かれ早かれその地位を失う。その過程ではさまざなな要因が現れ、さまざまな出来事に見舞われる。外部的要因も大きく作用するが、内部から現れる要因も決して無視することはできない。米国もこの歴史的必然を避けることは出来ないだろう。



参照:

注1: 'Big Consequences’: World Central Banks May Defy Dollar – Reports: By Sputniknews, Mar/27/2018

注2: Will Oil End the American Century?: By F. William Engdahl, NEO, May/19/2018 



 




 

2018年5月21日月曜日

北朝鮮はボルトンのばかばかしい要求に対して米朝会談をキャンセルするかも


トランプ政権内ではもっとも強硬派で安全保障担当のボルトン大統領補佐官が発した言動が順調に進行しつつあった朝鮮半島の和平プロセスに激震を引き起こした。

その発端はボルトンが北朝鮮の非核化のプロセスをリビア方式で進めたいと言ったことにあった。リビアで何が起こったのかを考えると、激震の理由は明白だ。最終的には、カダフィは政権の座から放り出され、反政府派によって殺害された。この悲劇的な最期を誰もが思い出す。つまり、ボルトンの主張は北朝鮮にとっては彼らが前から言っていた政権の安定を真っ向から否定するものと映る。

西側のメディアからは北朝鮮の指導者はすぐに気が変わるから信用できないといった論調が出ていた。しかしながら、今回の動きを詳しく眺めてみると、米国政府の側にこそ根本的な問題が潜んでいることを示しているようだ。

そういった背景を伝える記事に出遭った [注1]。かなり詳細な情報であるので、現状を理解する上で役に立つのではないかと思う。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

トランプ政権は北朝鮮との交渉は容易いと考えていた。北朝鮮が3人の米国人抑留者を解放した時、トランプは
悦に入っていた。 そして、金正恩との会談は6月12日に行い、場所はシンガポールだと誇り高そうに発表した。 この会談で北朝鮮は核兵器のすべてと核兵器開発計画とを諦めることに同意することであろう。トランプはノーベル平和賞を手にし、すべてが丸く収まるのだ。

しかし、これは理解不足に起因する深刻な計算違いであった。米国は北朝鮮が発した声明のすべてを誤解したのである。トランプ政権には韓国駐在大使がいない。国務省で北朝鮮を専門としていた大使はうんざりして任地を離れてしまった。米国の国家安全保障会議は北朝鮮との間の合意に妨害工作をした連中によって運営されており、彼らは
またもや妨害しようとしている。

北朝鮮の全般的な目標は軍事費を削減し、その資源を経済発展に使うために十分な安全保障を確保することにある。米国との間で和平を達成する手段は核兵器計画の推進であった。核兵器計画でひとつの段階が達成される度に北朝鮮は韓国および米国との会談を模索した。北朝鮮は核弾頭やミサイルの開発を停止するか、または、開発速度を緩めるかといった何らかの譲歩を提示し、その代償として和平の合意と経済支援を求めた。原油を供給するという約束は実行されず、米国が約束した民生用原子炉は建設されなかった。合意事項が米国によって破棄される度に、北朝鮮は核兵器計画の次の段階を開始し、次の目標を目指した。

昨年、ついに、
頂点に達した。 北朝鮮は核融合兵器の試験を行い、最終的な破壊兵器に到達した。彼らは大陸部の米国に到達することが可能な大陸間を飛行するミサイルの発射実験を行った。北朝鮮は今や全面的に核保有国である。この達成後、北朝鮮は再び交渉の座につく用意が整ったのだ。

ドナルド・トランプが政権に就いた時、彼は米国を脅かすような核兵器をもつ北朝鮮は決して
容赦しないと約束した。彼は北朝鮮の核兵器を取り上げるために「最大級の圧力」をかける動きを開始した。国連安保理は北朝鮮に対して強烈な経済制裁を課した。

北朝鮮はすでに交渉の準備ができている。北朝鮮を交渉のテーブルに付けたのは経済制裁ではない。そうさせたのは新たに獲得した核保有国としての地位である。このことに関してはトランプ政権はついぞ理解しなかった。彼らは自分たちが課した「最大級の圧力」が北朝鮮をして「完全な非核化」を提案せしめたのだと
信じている。北朝鮮はそのような言葉遣いをしたが、その目的は全世界の強い願望のためのものであって、新たに入手した軍事能力を一方的に破棄するためではない。

トランプ政権はそれを理解しなかった。理解しようともしなかった。これは、ひとつには馬鹿さ加減に起因するものであり、知識の欠如のせいでもあった。また、それはある意味で有害でもあった:

金正恩は北朝鮮の指導者の誰もが述べて来たことから外れるようなことは一言も喋ってはいない。それにもかかわらず、トランプや他の高官らはこのプロセスを北朝鮮の軍縮をもたらす道筋として説明している。そして、われわれの集団的自己欺瞞においては、われわれは驚くべきチアーリーダーを抱えている。それは安全保障担当補佐官の
ジョン・ボルトンだ。

ボルトンがインタビューに応じて、数か月もすれば起こり得る北朝鮮の核兵器の完全排除を取り上げることにどうしてこんなに多忙を極めているのかを質してみる価値があろう。彼は繰り返して「リビア方式」を求めている。この方式では、米国がやって来て、核兵器やそれを可能にする付帯設備をすべてかき集めるのだ。
・・・
これは狂気の沙汰だ。このような手法に金正恩が同意すると考える理由はまったくない。

・・・
ボルトンが突然ナイーブになった訳ではない。彼は守護神役を演じている。そして、この守護神はほとんど間違いなく大統領の期待に合いそうにはない。ボルトンは反対することによって外交をぶち壊そうとしている訳ではない。むしろ、彼は完璧主義を善の敵にすることによってぶち壊そうとしているのだ。つまり、リビア方式の降伏を持ち出すことによって、金正恩が提案しているより穏当な解決策は相対的に嘆かわしいものとして見えるのだ。

これはボルトンと彼の仲間が演じている、相手を小馬鹿にした、危険なゲームである。

「最強の圧力」が北朝鮮に対して機能したとする間違った考えの副作用はトランプ政権がこれと同じ手法がイランに対しても奏功するだろうと考えている点に見られる。これが同政権がイランとの核合意を反故にした
成り行きである

強力な圧力をかけるキャンペーンの結果、トランプ政権は核合意のための好機がやって来たと思い込んでいる。「彼らはこれを北朝鮮シナリオと名付けている」とヨーロッパの高官が言った。「北朝鮮に強要し、イランにも強要する・・・ 金正恩に対しても彼らは同じことを強いる・・・ 降伏を。」 

今や国務長官となったポンペオがまだCIA長官であった頃、彼は交渉の準備のために5月10日に北朝鮮へやって来た。北朝鮮側はワシントン政府の考え方は間違っているとして
警告を与えた: 

到着後、ポンペオはキム・ヨンチョルと約1時間も会って、トランプ・金会談やポンペオ自身の予定について話をした。その後、金正恩がホテルの39階での昼食会に臨み、米国人一行を公式に歓迎した。 
・・・ 
金正恩は米国人に向かってこう言った。「われわれは核能力を完璧なものにした。この会談は外部から課された経済制裁の結果もたらされたものではではない。」 

この交渉サイクルの当初北朝鮮が求めていたひとつの条件は、北朝鮮が核兵器やミサイルの実験を凍結する見返りとして韓国と米国による「戦略的」な軍事演習を凍結することであった。このことは両者によって認められた。この条件はしばらくの間維持されてはいたが、2-3日前、米国と韓国は新たな軍事演習について
公表した

ソウル発、5月10日(ヨンハップ) --当地の高官が木曜日に述べたところによると、韓国と米国は大規模な空軍の演習を開始する。明らかに、これは北朝鮮との非核化に関する会談を前にして手の内を強化しようとする動きである。

「マックス・サンダー」と称される2週間にわたる軍事演習は金曜日(5月11日)に開始され、約100機の空軍機やレーダーを回避することができる8機のF-22戦闘機、機数が不明なB-52爆撃機、および、F-15Kジェット機が参画すると高官が述べている。

両同盟国が統合軍事演習に8機のF-22 を参画させることにしたのは今回が初めてである。強力な空軍力を見せつけることは北朝鮮が核兵器に関する野望を諦めるように圧力をかけることにあると観測筋は言う。

F-22ステルス戦闘機やB-52爆撃機は核兵器を搭載することが可能であることから、これらは戦略的な資産である。軍事演習にこれらの航空機を投入することは前に取り交わされている同意を破ることになる。この軍事演習の予告に対して、北朝鮮は韓国との高官レベルの会合を
キャンセルした: 

北の朝鮮中央通信社(KCNA)は韓国と米国の空軍によって行われる「マックス・サンダー」軍事演習は北朝鮮に対する侵略のための予行演習であり、南北の連携を進める最中の挑発であると述べた。
・・・ 
「この軍事演習は我々に向かって行われており、韓国全土で展開されていることから、これは板門店宣言の違反である。そして、朝鮮半島問題の積極的な政治解決に逆流する国際的な軍事的挑発である」とKCNA リポートが報じた。「また、韓国政府と共に合同で行われているこの挑発的な軍事的大騒動に踏まえて、計画されている米朝首脳会談の運命について米国は注意深く熟考しなければならない。」
国務省ならびにペンタゴンはこのような結果を招くとは気が付かなかったようだ。

北朝鮮は脅威を感じている。ミサイルと核兵器の実験を中断した。核兵器用の「北部試験場」を撤去する予定だ。3人の囚人に恩赦を与え、彼らを米国に向けて出国させた。韓国や米国との間で希望に満ちた会合を何回も行った。そのような北朝鮮が今になって何故にさらなる圧力に耐え忍ばなければならないのか?軍事演習の凍結と引き換えに北朝鮮は米国と韓国とが核実験の凍結に関する合意を破ることをなぜ許容しなければならないのか?

トランプはすでに勝ったと思っていた。しかし、ついに、北朝鮮はトランプを矯正した。北朝鮮は脅威に晒されてもけっして
核兵器を諦めない。諦めたとしたら、北朝鮮はそのような間違いが元で他国が経験したように潰されるだけとなる:

平壌の国営通信社KCNA によると、キム・ケグワン(Kim Kye-gwan)外務副大臣が核兵器を諦めることを強要されるような会談には共産党政権はまったく興味を持たないと明確に述べている。
・・・ 
同副大臣はリビアで以前用いられた非核化の前例を持ちだした米国に不快の念を示した。

その
声明は全文が「不快な」ジョン・ボルトンを非難の的にしている:

安全保障担当大統領補佐官のボルトンを含めて、ホワイトハウスの高官や外務省は非核化に関しては、先ずは核兵器を破棄し、その後で補償を行うことについて議論をする中、「完全で、検証可能な、不可逆的な非核化」、「核兵器、ミサイル、生物兵器の全面的な破棄」、等、所謂「リビア方式」の採用を好きなように主張している。

これでは話し合いを通じて問題を解決しようとする意志の表明にはならない。
・・・ 
核兵器国家となった北朝鮮を核開発においてはごく初期の段階にあったリビアと比較することは極めてばかばかしいことだ。

過去に浸っているばかりのボルトンの人柄に光を当て、われわれは彼に対する強い嫌悪感を隠す積りはない。

もしもボルトンのような人物による曲解や挫折を経験しなければならなかった過去の米朝会談からトランプ政権がいくばくかの教訓さえをも学ぶことがないとするならば、さらには、リビア方式やそれに類する策を主張する擬似的な「愛国者」の警告に耳を傾け続けるとするならば、迫りくる米朝会談ならびに米朝関係の展望は誰が見ても見え透いたものとなるだろう。

われわれは朝鮮半島の非核化に関するわれわれの意図をすでに述べており、非核化の前提条件は米国が北朝鮮に対する反感に満ちた政策や核兵器による脅かし、脅迫、等に終止符を打つことだと数回にわたって明確にして来た。

トランプのノーベル平和賞は何処かへ流れ去ろうとしている・・・ 

トランプがシンガポールにおける6月12日の金正恩との会談を心から望み、合意を得たいとするならば、彼はボルトンに対して余りにも包括的な要求はするなと制止しなければならないだろう。ポンペオ国務長官は調停のために何らかの声明を用意しなければならないであろう。韓国における自分たちの地位を下げることにつながる和平会談を嫌っているペンタゴンは挑戦的で「戦略的な」作戦行動を控えなければならないだろう。

さらなる会談に向けた軍事的代替案は何ら存在しない。核装備をした北朝鮮は核装備をしている中国と
同盟関係を持っている。北朝鮮に対する攻撃はワシントンDCの上空にきのこ雲を立ち上がらせるかも知れない。そのようなリスクを冒すことは無責任極まりない。

 ---
最新情報: 

北朝鮮の反対は二つの点で役に立っている。米軍の軍事演習は元に戻され、ホワイトハウスは米朝会談を邪魔するためにボルトンが持ち出したリビア方式による核武装解除案を撤回した。トランプはノーベル賞が欲しいのだ。

北朝鮮が不平をもらした「戦略的な資産」、即ち、核兵器を搭載することが可能な爆撃機は今や米韓合同軍事演習からは
除外された: 

オリジナルの計画とは違って、核の搭載可能なB-52爆撃機は現行の米韓軍事演習には参加しないと軍の消息筋が水曜日に述べている。

金曜日に始まった「マックスサンダー」軍事演習においては米国のF-22 ステルス戦闘機がすでに参加しているが、B-52はこれからの参加が予定されていたところであった」と、身分を明かさないことを条件に消息通が述べた。「B-52は5月25日まで続くこの演習には参加しない。」 
・・・ 
韓国国防省もB-52が演習には投入されないことを公に確認した。

関連のある動きにおいて、文在寅大統領の安全保障担当の文正仁特別顧問は議会での演説の中でこの決断は宋永武国防相と在韓米軍のヴィンセント・ブルックス指揮官との緊急会合の結果もたらされたものだと述べている。

核搭載爆撃機が北朝鮮にとって脅威であることは明らかであり、爆撃機の参加は北朝鮮による核兵器実験の凍結は韓国と米軍が戦略的軍事行動を凍結することによって
高く評価される との合意を破ったことになる。

北朝鮮の二つ目の批判はジョン・ボルトンの速やかで全面的な核武装解除の要求に関するものであった。

今朝、ホワイトハウスはボルトンが日曜日のトークショーで推進しようとしたリビア方式の核武装解除のシナリオを
重要視しなかった: 

リビアとの比較を引用して、ホワイトハウスのセイラ・サンダース報道官は水曜日に彼女は議論の一部としてそのような発言には遭遇しなかったことから、同発言がわれわれが用いる手法になるとは思わないと述べた。 

「私はその件が具体的な手法であるとは見なかった。それがどのように機能するかに関して言えば、クッキーを作るような決まった型が存在するわけではない。」 

彼女はさらに続けた。「これはトランプ大統領のモデルだ。大統領は彼にとって最適なやり方でこの件を先へ進めようとする。以前から何度も言っているように、われわれは100パーセントの自信を持っている。皆さんがそのことを十分承知していることは私には分かっているが、彼は最高の交渉の専門家であって、そのことについてはわれわれは強固な自信を持っている。」 

ホワイトハウスは速やかに終わりにした。これは政府が実際に合意を望んでいる兆候であると私には見える。

「気に食わない」ジョン・ボルトンが6月12日の金正恩とドナルド・トランプとの会談には参画しないように北朝鮮は主張するかも知れない。彼が朝鮮半島問題の交渉から外されるならば、確かにそれは役に立つことであろう。

=====
US does the one thing DPRK asked them not to do

https://youtu.be/5QTJsMFGXIM




Photo-1

<引用終了>



これで全文の仮訳が終了した。

ジョン・ボルトン大統領補佐官のやり過ぎの全貌がこの記事ではっきりと分かった。非常に興味深い内容である。ジョン・ボルトンが米朝首脳会談への参加メンバーから外されるならば、朝鮮半島の非核化や南北和平には希望が持てるだろうと述べて、同記事は結ばれている。

果たしてどのような展開が待っているのだろうか?1ヵ月足らずで答えが判明する。



参照:

注1: North Korea May Cancel Summit Over Bolton’s ‘Absurd’ Demands: By Moon Of Alabama, Information Clearing House, May/16/2018



 

2018年5月16日水曜日

トランプがイラン核合意を反故にした本当の理由


5月8日、トランプ米大統領は2015年に署名された「イラン核合意」から離脱するとの公式声明を表明した。

これから180日以内にイランから何らかの譲歩を引き出し、経済制裁を課すことになる。経済制裁を課し、国内経済を低迷させて、国内に反政府勢力を築き、イランを不安定化させることが目的だ。イスラエルやサウジアラビアからの要請を受けて、米政府は中東で台頭しつつあるイランの経済発展を抑え、世論の分断を図ることに専念しようとしている。

これを受けて、ドイツ、フランス、英国といった欧州勢は核合意を維持することで足並みを揃えようとしている。イランは石油や天然ガスといったエネルギー資源を有し、ドイツと肩を比べる程の8000万の人口を擁していることから、大きな消費者市場となる要素を持っている。欧州各国にとってイランとの交易には大きな魅力がある。

しかし、米国がイランを敵視し、イランに対して経済制裁を課すとなると、その先には、遅かれ早かれイラクやリビアが辿った政権の転覆が待っている。すでに、そういった文言があちらこちらで囁かれている。

ここに、「トランプがイラン核合意を反故にした本当の理由」と題された記事がある [注1]。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。われわれ一般庶民が理解している理由とはいったい何がどのように違うのであろうか?


<引用開始>


Photo-1

ドナルド・トランプ米大統領は、2018年5月8日、イランとの間で2015年に締結された包括的共同作業計画(Joint Comprehensive Plan of Action:JCPOA)から離脱することによって選挙で訴えていた公約のひとつを達成した。これはイランと国連安保理の常任理事国5か国にドイツを加えたグループ(いわゆるP5+1)との間で締結された合意であって、少なくとも2028年まではイランが自国産の原爆を開発する可能性を排除しようとするものだ。

しかし、今回のトランプの行動が米国やイスラエルに、あるいは、一般論的に言えば中東全体に安全保障の観点から意味のある改善をもたらすだろうとは思えない。そればかりではなく、イランの戦略的能力に大きな制約を加えることができるとも思えない。

米国がJCPOAからの離脱に関して最終的な決断をするまでの今後の6ヵ月を猶予期間として設けると約束をしたとは言え、トランプ大統領の今回の動きは米国の世界戦略に関わるいくつもの課題を不確実性の領域へ放り込んだも同然である。

この猶予期間は、実際には、彼がイランや北朝鮮、欧州、その他の国々と交渉を行う期間である。このトランプの動きに関わるひとつの側面は北朝鮮の指導者である金正恩との会談における動力学に何らかの変化をもたらすかも知れないということは確かだろう。この会談はトランプが作り出した「混乱の期間」内に予定されている。

イランに関するトランプの決断が迫っていることを知りながら、金正恩は2018年5月8~9日に中国の大連で中国の指導者、習近平国家主席と会談をしたが、これは単なる偶然の一致ではない。両指導者間の今回の会合はこの2か月間で2回目となった。

イランに関して米国が取った処置は北朝鮮が朝鮮半島の「非核化」の合意に関する交渉において取り得る選択肢の中ではもっとも基本的な要素である。北京と平壌は両者とも、トランプが米国・イラン間の2015年の合意を「冗談に」取り上げて、両国がイランとの調整をする(さらには、戦略兵器をイラン国内で凍結保存することの可能性)といった計画に不確定要素を持ち込んで来たことに恐らく気が付いている筈だ。米国のJCPOA からの離脱をトランプが決定したことは北朝鮮と中国に対するひとつのメッセージである。それは、国内や海外からの圧力には関わりなく、米大統領は自分が公約した選挙運動中の約束は守るということだ。さらには、テヘランにもメッセージを送った。つまり、トランプはテヘランとの「交渉のプロセス」を開始したという事実であり、今後6か月の猶予期間は両国間の駆け引きに非常に重要な期間となるだろう。
関連記事: The Truth About Peace On The Korean Peninsula

トランプが行った一方的な決断は非常に重要なプロセスの中のひとつの要素であって、いくつもの領域に分岐する。明確な成果は断言できない。換言すると、多くの関係国にとってリスクが存在する。

JCPOAは米国の観点からは機能しないということをトランプが感じていたことは疑う余地がない。彼はこの合意は修正が必要であるから再交渉を行うこと、あるいは、追加合意を締結することが必要だとする電報をテヘラン政府へ送付していた。テヘランはこの合意を見直す用意はないとして間接的に答えた。ヨーロッパ勢は「迂回」策を充てることができると言っていることから、米大統領を説得してくれるとテヘランは思ったことであろう。

テヘランとの交渉については何の兆しも得られないまま、トランプ大統領の手の内には一枚のカードだけがあった。それはJCPOAからの離脱だ。しかし、これはイランにとっても、他の当事国にとってもすべての選択肢が消えてしまったということではない。

この決断がペルシャ湾における紛争を拡大するという兆しは必ずしも見られない。確かに、今回のトランプの動きは湾岸諸国が再編するための時間を与えてやったことになる。重要な点は現実だ。米国による経済制裁を通じて課されるイランに対する強制策は世界市場に対するイランの原油の販売力に影響を与え、原油価格を高騰させることだろう。これはサウジアラビアに経済的な救済をもたらすであろう。

また、これはロシア経済を積極的に支援することにもつながる。ロシアは原油や天然ガスの輸出に大きく依存していることから世界市場における原油価格には敏感である。

さらには、2018年5月8日にイラン政府の高官が述べているように、米国の新たな経済制裁はイラン経済に深刻な影響を与えることにはならないだろう。しかしながら、公衆の期待感が損なわれるとともに、小さな負の影響がもたらされる。つまり、公衆のムードは影響を受けるだろう。

現実の戦略に対する悪影響としては、欧州の企業は次の6ヵ月間に米国とのビジネスを継続するのか、それとも、イランにおける通商のチャンスを追及するのかを選択しなければならない。EUの企業について言えば、これは主にエアーバス社を直撃することになるが、米国のボーイング社も同様に直撃を受ける。ボーイングは先陣を切ってイラン航空およびアセマン航空に110機の航空機(15機のB.777-9、50機のB.737 MAX 8、15機のB.777-300ER、ならびに、30機のB.737 MAX)を売ることになっていた。そのうちの何機かは2018年の納入である。イラン航空はエアバスから118機の航空機の購入を契約していた。これには12機の広胴型エアバスA380が含まれる。しかし、2018年2月には、イランは、単一通路型のロシア製98席型ツインジェットであるスホイ・スーパージェット100を含めた代替案を模索していた。エアバス製のいくつかの航空機(11機のATRツイン・ターボプロップ)は2017年の末までにすでに納入されている。ロシアおよび中国がイランに航空機を販売する場合、米国の経済制裁による影響は受けないであろう。

ここで重要な点はこの経済制裁は外国企業との間で行われるイランの決済が中国の「ユアン・レンミンビ」建てやロシアの「ルーブル」建ての決済を間違いなく早めることだ。また、サウジアラビアが「レンミンビ」建ての原油輸出を考えていることからも、世界経済において国際準備通貨として半世紀にわたって君臨してきた米ドルによるエネルギー市場での原油のドル建て決済(ペトロダラー)には終焉の時がやって来そうな気配である。短期的には、これが米国に悪影響を与えるとは考えられない。しかし、中国やロシアの経済を強化するであろうし、世界市場に対する米国の影響力にはしだいに衰退が感じられることになるだろう。
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ところで、このトランプの決断が中東の近い将来において紛争の増加を促すという直接の証拠は必ずしも見当たらないが、イランが戦略的な能力を開発する上で、核兵器開発計画についてより大ぴらな姿勢をとることも含めて、より多くの自由裁量を与えることになるであろう。

しかしながら、イランのハサン・ロウハニ大統領は、2018年5月8日、トランプの決断に関してイランはこの合意に関与している他の締約国と共にJCPOAに留まると述べた。問題は米国がJCPOAから離脱し、米国がイランに対して経済制裁を課し、米国外の企業がイランとのビジネスを行おうとすれば、その企業の国内法規やJCPOAの許可にはお構いなく米国はそれらの企業に間違いなく罰を与える立場にあることはいったい何を意味するのかという点である。米国は貿易に関わるほとんどの大企業がイランとの交易を継続するためだけに米国市場でのビジネスを諦めることはないだろうと確信するだけの経済的影響力を十分に持っているのだ。

JCPOAやトランプの決断後の評価の両者に関してこのプロセス全体の現実を理解すると、核兵器の開発からその配備に至るまで、実際には、JCPOAはイランを制約することは何もしなかったのである。

核兵器開発に関するイランの歴史的な開発に関するイスラエルからの諜報を抜きにしても、イランが元ソ連の核兵器を(カザフスタンの貯蔵施設から)入手し、別の核兵器をウクライナや北朝鮮から入手していたこと、そして、ついには北朝鮮と共に独自の設計による核兵器を開発し、試験を行ったことが1990年以降知られていた。

JCPOAは進行していたイラン製の弾道弾ミサイル・システムの開発を排除しなかったし、イランの国家指揮最高部(NCA)の能力も排除しなかった。これらの開発は一貫して行われ、配備された。つまり、JCPOAはイランの現実に制約を与えるようなことは何もしなかったのである。単に、イランに急速に拡大しつつあった核分裂物質の大量生産能力を縮小させただけだ。

ビニヤミン・ネタニヤフが率いるイスラエル政府ならびにサウジアラビア政府はJCPOA から離脱するというトランプの決断を歓迎した。しかし、意味のある表現でこのことを語ろうとすれば、トランプの決断がいったいどのような恩恵をもたらすのかは不確かである。この合意が多分に「合意のための合意」であったことを考えると、この決断が偽善の期間に終止符を打ったことについては疑問の余地がない。しかし、これはイランならびにイランを中傷する連中に対して相互に敵意を抱き続ける期間を終わらせ、真面目な和平への道筋を築くことができる貴重な機会を与えてくれたのである。

米国にとってはイランに対する影響力を再構築する機会にもなり得る。ジミー・カーター米大統領が1978~79年にイランのシャーを放逐した時以降、このような機会はついに無かった。米国とイランの関係を正常化するプロセスを開始することによって、米国はイランにおけるロシア(ならびに、中国)の影響力をある程度相殺する機会がやってきたのである。しかし、米国はそうしなかった。イランの聖職者による政府もこの好機を全面的に活用することはなかった。

ほぼ間違いなく、さらなる触媒が必要であった。しかし、JCPOAはそのような触媒を提供することには失敗したのである。

しかしながら、そうこうしているいちに米国が導入した新たな経済制裁によってもたらされる真空状態を速やかに埋めようとしているのはロシア、中国およびトルコである。サウジアラビアやアラブ首長国連邦は、特に、イランが経済制裁による制約を受けて、中東地域におけるイランの軍事的な動きや代理戦争の遂行は低下するであろうとの希望を抱いており、戦略的な信頼感の再構築を試みるであろう。しかし、米国や西側にとっては好機の恩典は今や失われ、イランに制約を与える理由がより少なくなっているにもかかわらず、彼らはイランがその影響力を拡大すると見るリスクを冒しているのである。 

米国にとっては中東でその影響力や地位を多いに改善するという余地はほとんど無い。

短期的に見れば、どちら側にとっても唯一の戦略的な利点はJCPOAの偽善的な側面を排除することにあろう。この動きがトルコをイランとの協力関係に向けて押しやるだろうということはあり得る。その結果、トルコが戦略的には米国やNATOを敵視し始めたという事実と如何に向き合うかについて米国の政策決定を急がせることになろう。確かに、さまざまな出来事がお互いに不信の念を抱く者同志、つまり、イランとロシアならびにトルコを一緒にさせているのである。しかしながら、米国にとっては何の好機にもならない。

トランプ大統領の主な動機はJCPOAを終わらせるという選挙公約を守ることであり、迫りつつある金正恩との会談での交渉に新たなレベルの影響力を導入することだ。

ロウハニ大統領はトランプの動きに反応して、「米国は約束を守ろうとはしなかった」と述べた。米国の政府は前の政権が約束したことに矛盾する行動を取ることが多い。この歴史を見ると、このコメントにはそれ相当の正当性がある。しかし、トランプは自分の約束を守ることを明確にした。イランの国営テレビはJCPOAからの離脱に関する米大統領の決断は「非合法であり、正当なものではなく、国際的な合意を台無しにしてしまう」と報じた。トランプの決断は国際的合意を損なうであろうが、JCPOAからの離脱が非合法であるという証拠は何もない。 そうは言っても、米国にとっては将来何らかの同盟を構築したり、お互いの信頼を必要とする仕事に着手することはより困難なものとなるであろう。


著者のプロフィール: グレゴリー・R・コプリーは歴史家、著者、戦略分析の専門家であり、一時は産業界にも身を置いた。彼は70歳で、過去40年間世界中でさまざまな政府のために高度な仕事をしてきた。例えば、国家安全保障、諜報、国家運営の課題、等に関して。彼は、2006年の「The Art of Victory」や2012年の「UnCivilization: Urban Geopolitics in a Time of Chaos」を含めて、30冊以上の著作を行っている。オーストラリアの出身で、彼はワシントンDCに本拠を置く「International Strategic Studies Association」の理事長を務め、「Defense & Foreign Affairs」と称する出版企業グループの編集長でもある。これには政府のためだけの諜報サービスや「Global Information System」も含まれる。彼の国際的な貢献について言えば、2007年に女王誕生記念の叙勲でオーストラリア勲章の栄誉に浴した。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

興味深い内容である。

例えば、トランプが選挙公約を守るというイメージを確立し、それを引っ提げて北朝鮮との会談に臨もうとしているという解説は面白いと思う。この記事は国際政治の当事者である関係国の指導者が相手の人物や政府の出方を理解する構造をわれわれ一般の読者に伝えようとしているかのように思える。明確な行動原理を相手に示すことが会談の前の重要なプロセスであることがより具体的に理解できる。要するに、会談はすでに始まっているということになる。米朝会談に臨む北朝鮮側ついて言えば、核実験設備を5月23~25日に取り壊すと金正恩が宣言したこと自体も米国への具体的で、強力なメッセージであるに違いない。北朝鮮側が自分たちの具体的な行動を伝えることによって米国のやる気を試しているかのようだ。

イラン核合意についてはヨーロッパ勢は対策を練っている最中である。まだ詳細は公表されてはいないが、イラン市場に展開しているヨーロッパ企業の利益を最大限守るための策である。果たしてどのような対策が提案されるのか、それらが功を奏するのかどうかを近い内に見極めることができるだろう。

ヨーロッパにとっては米国に従属し、米国がイランやロシアに課す経済制裁にお付き合いをし続けることは国益を損なうことにつながることが、今や、明らかである。米国が2014年に発動した対ロ経済制裁ではヨーロッパ各国は米国に追従した。ところが、ロシアによる報復措置、つまり、食料品の禁輸政策に見舞われ、大きな経済的損害を被った。政治家にとっては同じ間違いを繰り返すことは政治的自殺に等しい。

仏・独・英の外相が共同声明を発表した。この合意は核拡散を防止する上で最良の策であるとして、EU はイラン核合意を維持すると述べている [注2]。

また、イラン外相のモハマド・ジャヴァド・ザリーフは最新の情報としてヨーロッパ諸国の外相との話し合いが順調に進んでいると述べた [注3]。

上記にあるように、今後の6か月間、ヨーロッパ勢が米国への従属をどれだけ断ち切れるのかが最大の関心事となろう。 

今後の展開に注目しようと思う。



参照:

注1: The Real Reason Trump Killed The Iran Deal: By Gregory R. Copley, Oilprice.com, May/09/2018

注2: France, UK, Germany to Stick to Iran Deal Irrespective of US Decision: By Sputnikniknews.com, May/07/2018

注3: ‘Good Start’: Iranian FM Cites Progress With EU Leaders on Salvaging Nuke Deal: By Sputniknews.com, May/16/2018



 
 

2018年5月9日水曜日

イランとイスラエルとの間の敵対関係を解決する鍵を握っているのはロシアだ

最近の投稿で「米国がかねてから敵視しているイランに対して果たして開戦を決断するのかどうか、今、世界が注視している。米政府は5月12日には決断しなければならない」と書いたばかりである。

米国とイスラエルの関係をさらに見てみよう。

イランはシリアのアサド大統領からの要請に応えて、シリア国内に戦力を配備している。これはロシアがシリア国内に戦力を配備している状況とまったく同じだ。つまり、国際法に準拠した行為である。

しかしながら、イスラエルの目にはイラン軍がシリアに配備されると、イランの最前線はイスラエルにより近づくことになるから、軍事的な不安感が増大する。このような論理から、イスラエルはイランからシリア国内へ派遣された部隊に対して空爆を繰り返して来た。過去においてはイスラエルの攻撃はレバノン国内のヒズボラ武装勢力に武器を供給するためにイランからシリア国内を通過してレバノンへ向かって武器を搬送する車列が主な攻撃目標であった。ところが、最近の空爆はイラン軍が活用しているシリアのインフラを攻撃目標とし始めている。最近のふたつの空爆はシリア領土の奥深くで行われ、シリア軍とイラン軍の兵士を殺害し、負傷させた。(出典: Israeli Defense Minister Asks Russia to Stand Down Syria Air Defenses or They Will Be Attacked Too: By IWB, May/03/2018)

世界の覇者たる地位を自他ともに認める米国のイランに対する姿勢は同盟国であるイスラエルの意向を多分に反映しているものだと言えよう。つまり、米国はイスラエルによってすっかり言いくるめられているということだ。イスラエルにとっては、以前はシリアが緩衝地帯を形成していたのであるが、シリア国内にイラン軍が配備されたことによって今やイランは国境を挟んでイスラエルと対峙する形となった。

特に、イスラエルの影響力を見ると、米国内での選挙における影響力には想像を絶するものがある。反イスラエルを標榜すると、候補者のほとんどは落選の憂き目を見ることになる。これほどに凄まじい内政干渉があるだろうか?結果として、イスラエルを忖度する政治家は後を絶たない。これはロシアが2016年の米大統領選に干渉したとしてフェークニュースが毎日のように流されたロシアゲートとは質的に大きく違う。

イスラエルの対外政策は敵国を分断することにある。そうすることによってその国の軍事力を弱体化させることが狙いだ。イラク戦争が好例である。当初、イスラエルの戦略はイラクを3分割することが目標であった。シリア戦争においてもシリア国内を分断し、アサド政権を弱体化し、打倒しようと試みたが、これには失敗した。

イランではイスラエルは現政権を排除しようとしている。

中東の状況は刻々と変化している。米国とイランとの関係、その背景にあるイスラエルとイランとの関係について現状を読み解く上で大きな助けになりそうな記事に出遭った [注1]。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。



<引用開始>




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イスラエルとイランの関係に最近急速に現れて来た中東の危機的状況については、ワシントンの政治評論家や政治家らは予測を述べることで今多忙を極めている。この危機では、もしもこれらの二国間に戦争が勃発した暁には米国はどちら側を支持するのかが論じられ、ロシアが決定的な支援を提供する中で裏口での外交もかなり以前から行われている。これは、米国ではなく、ロシアが当地域における緊張の緩和に如何に大きな影響力を持っているのかを示すものであって、中東の地政学的な風景はもはや米国によって定義される訳ではないことを示唆するものだ。ロシアが緊張を段階的に縮小し得る鍵を握っているとする理由はロシアが両国と強い関係を持っている点にある。ふたつのライバル国家に対して均衡のある付き合いを継続しながら外交的成果を達成することはそれ自体が大きな挑戦となるが、ロシアは過去の数年間目覚ましい成果を挙げて来た。特に、シリア危機が始まった頃以降、イスラエルとの間では戦闘を回避することの合意を結ぶ一方で、イランについてはダマスカス政府がイスラムの急進派によって倒されることがないようにするためにシリアにイラン軍を駐留させることで絶妙な均衡を保ってきた。しかし、イスラエルはイランが原爆を製造しようとしている証拠を握っていると主張し、もしもイランがシリアから攻撃を加えるならばイスラエルは報復すると言っている今、ロシアは果たしてこの地域の熱気をうまく冷ますことができるのであろうか?ロシア外交はこの地域で今まで見たこともないような悲惨で、緊張度が高い戦争の勃発を阻止することに全力を注入しているようだ。

イスラエルはロシアと取引をすることを嫌っている訳ではないこと、そして、シリアにおけるロシア軍の駐留に反対している訳でもないこと、さらには、ロシアの国益に相反することをシリアにおいて追及する特別な興味を持っている訳ではないことをすでに匂わせていた。このことはアヴィグドール・リーバーマン国防大臣が先週の金曜日(4月27日)に米国を訪問した際に確認した。「ここで理解しておく重要な点はロシア人は非常に現実的であるということだ」と
リーバーマンが述べている。リーバーマンが中東におけるロシアのイランおよびシリアとの同盟関係について喋っている際にこれらのコメントが表明されたということが重要だ。彼のコメントはロシアの存在には信頼を置いており、ロシアがシリアにおけるイランの活動、例えば、イランが直接または間接的にイスラエルを攻撃することを回避し、管理することができるだろうという点を示している。「結局のところ、彼らは理に適った連中であり、彼らとは合意を結ぶことが可能だ。われわれは彼らの国益が何であるかを理解することができる」と彼は付け加えた。

最近開催されたソチ・コンファレンスにおいてはロシアの外交は積極的であった。この会議ではロシア安全保障委員会の事務局は、イランやイスラエルからの代表を含めて、約40カ国と会合を持った。驚くまでもないが、これらの二つの会合は至る所で大きな見出しとなって報じられることとなった。

ロシア側の高官はロシアがイランとイスラエルとの仲裁役を演ずることはまだ言及してはいない。しかしながら、この種の状況の進展に敏感に反応することは中東におけるロシアの国益の性格そのものを反映したものである。その一方、イランとイスラエルは両国とも同様に攻撃的な衝動を何とか抑えてくれる「バランス役」を必要としていることは否定できない。単純に言って、米国はこの役柄をこなすことはできない。何故ならば、米国はイスラエルがイランを敵視することに反対ではないし、イランとパレスチナに対するイスラエルの「自衛する権利」のすべてを常に支援して来たからである。 

イスラエルとイランは国連安保理(UNSC)に段階的な緊張の緩和を求める積りはなさそうだ。シリア政府が化学兵器を使用して自国民を殺害したとされる件ではロシアと米国の両国は頻繁に衝突しているからである。したがって、UNSCはえらく希薄な存在となっており、たとえそのチャンスがあったとしても、仲裁役を演ずる機会は望み薄だ。

こうして、この役割はロシアに回って来る。結果的に、イスラエルはロシアがシリアで軍事的存在を示すことには何の懸念も表明せず、その軍事的存在が拡大することについても異議を挟まなかった。このことはワシントンでリーバーマンが喋った中で彼によって再度確認されてもいる。彼は「シリアにおけるロシアの存在はわれわれのビジネスではない。われわれはわれわれ自身の安全保障上の利益を守るだけだ」と述べている。

これがシリアで7人のイランの軍事顧問を殺害したイスラエル軍の攻撃を憂慮するモスクワの熱を冷まそうとしているイスラエルだ。この攻撃についてはロシアは強く反論し、イスラエルが実際にはシリアにおけるロシアの役割と利益を勘違いしていることを示したのである。何故ならば、もしもイスラエルとの国境付近でシリア国内においてイラン勢力が拡大することに対してイスラエルがモスクワ政府の保証を求めたいならば、モスクワ側には、この地域全体に不安定化の波を引き起こし、テロを撲滅するために行って来たすべての苦労を水の泡にしてしまうような行動(つまり、大規模な爆撃)は決して起こさないという保証をイスラエル側に求めることもなしに、そのような保証を一方的に与える気は毛頭ないのである。

ロシアはイスラエル側の具体的な利益について気配りを示してもいる。このことは退任が近いイスラエル駐在ロシア大使のアレクサンダー・シェインが明確に確認した。彼は「もちろん、われわれはイスラエルとイランの相互関係、つまり、両国が互いに脅かし、互いを拒絶し合っている現状には懸念を抱いている」と述べた。「また、われわれはシリアにおけるイランの圧力も懸念しなければならない。現状を悪化し、中東全域に戦争の勃発をもたらしかねない。」 これはロシアがイランに対して直接・間接的に、つまり、ヒズボラを通じてイランが演じる役割には限度を設けるよう説得を開始するかも知れないことを示している。イランは、
イランの外相が最近述べているように、 シリア国内に長期的に軍を維持する意図は抱いてはいないようだ。

イランとイスラエルに関する限りでは、両国がますますロシアを当てにする理由は両国はシリアの現実を将来の見通しの中に置く必要があるからだ。シリアはもはやふたつの強国の間に存在する紛争地帯ではない。この状況においては、小国はふたつの強国のひとつにその軸足を置いて、自国の具体的な利益を確保するために自分のカードを巧みに使うことができるだけとなる。米国の大統領がシリアからの戦力の撤退を模索する中、シリアにはロシアだけが残り、中東で新たな危機の勃発を防ぐことが出来るのはロシアだけとなる。イスラエルとイランの両国は「
第一次北部戦争」の勃発を防ぐためには彼ら自身のルールに基づいて動かなければならない。したがって、ロシアは中東の平和の鍵となるのである。

著者のプロフィール: サルマン・ラフィ・シェイクは国際関係およびパキスタンの外交関係や国内政治を分析する「
ニュー・イースタン・アウトルック」オンライン・マガジン専属の研究者である。https://journal-neo.org/2018/05/03/russia-can-be-the-key-to-iran-israel-de-escalation/

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

今後中東に影響力を発揮するのが米国であろうが、ロシアであろうが、中東が不安定化して新たな危機に突入し、またもや新たな武力紛争の場を作って、何百万人もの市民が故郷から脱出せざるを得ないような事態は決して起こしてはならない。中東の安定化は当事国だけの課題ではない。5億人が住むEU全体の課題でもある。そして、過激派によるテロが横行すると、中国やロシアにとっては国内政治上の大きな脅威ともなり得る。ヨーロッパを襲った難民問題は過去の数年間貴重な教訓を残した筈だ。100年前にまで遡るような地政学的な課題が今でさえも如何に大きな影響を及ぼすかについては誰もが多くのことを学んだ筈だ。

米国は昨日(5月8日)イランとの核合意から脱退することを表明した。英独仏は同合意を維持することをすでに表明していた。米国はヨーロッパ勢に翻意するように圧力をかけることであろうが、ヨーロッパ各国は米国が主導した対ロシア経済制裁では非常に損な役回りを演じるという苦い経験を持っているだけに、今回はそう簡単には米国の言いなりにならないのではないか。

経済制裁は相手国に対して必ずしも実効を挙げるとは限らない。このことを考えると、米国がごり押しする国際政治の不毛さを見る思いがする。要するに、他国に対して経済制裁を課すという行為は米国が描くところの世界に対する覇権体制を可視化するためのひとつの道具でしかない。ガキ大将が自分の強さを周りに誇示する様子を皆に見て貰いたいのだ。政治評論家や主流メディアはこれをグロ―バル化とかネオキャピタリズムといった言葉を用いて外観を装おうとするが、実質は大変なまやかしである。

そして、その過程では米国は頻繁に国際法を無視する。例外主義という都合のいい言葉を使い始めた。

今後は、米国がイランに課す経済制裁の内容がどのようなものとなるのか、イランの報復措置がどんな内容となるのかに注目が集まることだろう。そして、ロシアの外交努力が奏功するのかどうかが最大の関心事となる。イラク戦争と同じことを繰り返してはならない。無辜の市民を再び犠牲にするようなことがあってはならない。ロシアの外交専門家やメディアにはイランを巡る戦争を是非とも回避して貰いたいものだ。




参照:

注1: Russia Can be the Key to Iran-Israel De-escalation­: By Salman Rafi Sheikh, NEO, May/03/2018