2020年1月14日火曜日

トランプ政権がソレイマニを罠にかけた

イランのソレイマニ将軍は外交官パスポートを携えてイラクを訪問し、バグダッドの国際空港を車で出る際に無人機によるミサイル攻撃を受けて殺害された。周到に準備された暗殺である。13日のことであった。

米国のトランプ大統領は、201858日、2015年に米英独仏中ロとイランとの間で合意されたイラン核合意から脱退すると宣言した。それ以降、米・イラン関係は悪化する一方であった。

ソレイマニ将軍の暗殺を受けて、イラン革命防衛隊は8日の午前1時半頃にイラクにある米軍基地に向けてミサイル攻撃を行った。イラン軍による報復攻撃を受けたふたつの基地はアル・アサド基地とアルビル基地。前者の駐屯基地では約1500人の米軍と多国籍軍とが宿泊していた。また、後者の基地ではイラク軍部隊の訓練が行われており、13カ国の軍関係者と民間人の合計3600人が宿泊していたとのこと。しかし、米国側の発表によると、この攻撃で死者は出なかった。

8日のミサイル攻撃によって、米国の狙い通りに戦争が始まると大部分の人たちは思った。しかしながら、幸いなことにはそうは展開しなかった。世界で最強の軍隊を持つと豪語するトランプ米大統領は「死者はひとりも出なかった」と言って、イランを深追いすることを控えた。

米議会の下院では、ソレイマニ将軍の暗殺後、9日、大統領による対イラン軍事攻撃実施に制約を加える決議案が賛成多数で可決されたばかりである。この下院の新たな動きを反映して、トランプ政権としては対イラン戦争の拡大を抑える必要があったのかも知れない。あるいは、今年11月の大統領選での再選を狙って、厭戦気分が高まる有権者からの賛成を確保するための動きであるのかも知れない。それとも、まったく別の理由からかも。今後さまざまな分析や説明がなされることだろう。

ここに、「トランプ政権がソレイマニに罠をかけた」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>

ソレイマニ将軍はイラン・サウジアラビア間の和平について話し合うために外交使節の身分でイラクを訪問したところであった。この話し合いはトランプ政権が求めていたものである。

 
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当面は中東地域における緊張が急拡大することは回避できたとして、われわれは誰もが溜息をもらしていることであろうが、イランのガセム・ソレイマニ将軍の暗殺に関してはいくつかの事柄について簡単な問いかけをしてみることがすこぶる重要であろう

ぺぺ・エスコバーは地政学的な出来事に関して執筆し、広く名声を博している。彼は下記のように述べている(16日):

「バグダッドの特別国会で、この日曜日(15日)、イラクのアディル・アブドル・マハディ暫定首相は驚くべき事実を明らかにした。ガセム・ソレイマニ将軍は外交官旅券を携行して、ごく普通の定期便でバグダッド入りした。彼はテヘラン政府によってバグダッドへ派遣され、中東地域の和平に関するリヤドからのメッセージに対するイラン側の回答を携えていた。これらの交渉はトランプ政権によって求められていたものである。」[1]

エスコバーはさらに説明を続けた。

「つまり、バグダッド政府はトランプからの依頼を受けて、テヘラン政府とリヤド政府との間を公式に仲介していたのだ。そして、ソレイマニはメッセンジャーであった。アディル・アブドル・マハディは先週金曜日(13日)の午前8時半にソレイマニと会見する予定であった。しかし、約束の会見時間の23時間前にソレイマニはバグダッド空港の近辺で暗殺の対象として狙われ、殺害された。このことは21世紀の外交史に明確に刻んでおこうではないか。」[2]

ソレイマニはイランとサウジアラビアとの和平を話し合うための外交使節としてイラクを訪れていた。この話し合いはトランプ政権から求められていたものであった。彼は、イラク民兵団の指揮官を勤めるアブ・マハディ・アル・ムハンディス共々、13日、夜明け前の米国による空爆によって殺害された。

エスコバーは下記の点を強調している。

「事実関係を整理すると、米国政府は他国の地で、そこではお客さんの身分でありながらも、米国政府自身が求めていた話し合いのためにやって来たイランからの外交使節を暗殺したのである。」[3]

「ワールド・ソーシャリスト・ウェッブ・サイト」のアンドレ・デーモンとデイビッド・ノースによると(17日)、イラクのアブドル・マハディ首相はイラク議会で次のように述べている。

「トランプは彼の外交手腕について個人的に彼に謝意を表明し、ソレイマニは危害に見舞われることはないという印象を与えていた。ところが、数時間の内にもイランの将軍は殺害された。アブドル・マハディ首相はこれはイラクの主権をひどく脅かすものであるとして強く非難した。 [4]

イラクでソレイマニを暗殺するためにトランプ政権は彼を罠にかけたとする結論に到達せざるを得ない。事実、サウス・フロントというニュースサイトが「米国は予定されていた和平会議を機会にイランの軍事司令官に罠をかけ、彼を暗殺した」と15日にあからさまに報じたが、これは実に厳しい現実である。デモ参加者がバグダッドの米国大使館を襲った後、「1231日、トランプは差し迫った和平の話し合いに関してイラクの首相に謝意を伝える電話をした。」[5]

金融上の核兵器的な選択肢がトランプの原油戦争に決着をつけるだろう:

(訳注:ぺぺ・エスコバーはイランが追い詰められた時に最後の手段として実施するかも知れないホルムズ海峡の封鎖を「核兵器に匹敵する選択肢」と呼んでいる - 原典Financial N-option will settle Trump’s oil war: By Pepe Escobar, ASIA TIMES, Jan/06/2020.  ホルムズ海峡が封鎖された暁には世界の原油供給量の22パーセントが市場から消えてしまう。その結果、世界経済は大打撃を受け、1933年のドイツにおける景気の悪化よりもさらに酷い状況が現出するだろう。覚めた頭脳を持った将軍らは米海軍はホルムズ海峡を開いておく能力を持ってはいないと述べている。)

この課題に取り組むよりも、トランプ政権はむしろさまざまな手法を使ってこの課題を避けようとした。たとえば、米国防長官のマーク・エスパーはCNNにこう言った(17日)。「ソレイマニは現場を押さえられている・・・ テロリスト組織の指導者がもうひとりのテロリスト指導者と会って、米国人の外交官や軍人または施設に対する攻撃を同期させ、更なる攻撃を加えようと計画している。」[6]

奇しくも、ソレイマニをイラクへ送り込んだ会合は和平に焦点を当てようとするものであったが、このような偏った解釈は特に悪意に満ちていると言わざるを得ない。しかし、エスパーはさらにCNNに次のように述べて、自分自身が喋った偏った解釈よりもさらに上を行った。

「われわれが期待しているのは状況が落ち着きを取り戻し、テヘラン政府がわれわれと同じ席に着いて将来のより良好な方向について議論を開始することだ。」[7]

18日、「Truthout」がノーム・チョムスキー、リチャード・フォーク、ダニエル・エルスバーグの3人による論説カラムを掲載した。その論説で彼らはソレイマニの暗殺は「非合法的で、挑発的である」と批判した。[8]

しかしながら、彼らの論説は次のような文章も含んでいた。

「われわれが現在知っている限りでは、ソレイマニ将軍は隠密行動ではなく定期便でイラクへやって来た。彼はバグダッド政府の招待で和平を話し合う外交使節としてイラクへ到着し、翌日には首相との会談を行うことも予定されていたが、これらの行動はイランとサウジアラビアとの間の緊張を和らげるためのものであった。イラクの主権を侵されたことに反発して、イラク議会は米軍を同国から撤退させることを決議した。地域的なイニシアチブを取り付ける代わりに、ソレイマニ将軍の暗殺は地域紛争の悪化をもたらした・・・」[9]

何故チョムスキーとフォークおよびエルスバーグは米国によって罠が仕掛けられたという報道済みの事柄に言及しなかったのだろうか?もしもイラク首相が既報の如くイラク議会で述べたことが彼らには信じられないと言うのであれば、彼らはそのことを述べ、どうして信じられないのかを説明するべきであった。

そうする代わりに、たとえ彼らがその合法性に疑問を示し、この出来事が巻き起こす反響を遺憾に思ったとしても、彼らはこの暗殺に関してトランプ政権が抱く偏った見方に同意しているかのように受け取られるのが落ちだ。

議論の余地はあるだろうが、誰もが一発触発を警戒している中、今はより徹底した正直さが求められる時であり、決してそれを疎かにしてはならない。結局のところ、トランプ政権によって敵国と名指しされた国の間ではいったい何処の国が、暗殺のために狙い撃ちされるかも知れないということが分かっていながらも交渉団を何処かの国へ派遣しようと思うのだろうか? 

脚注:

[1] Pepe Escobar, “The Economic Risks of Trump’s Reckless Assassination,” Asia Times, January 6, 2020; republished in Consortium News, January 6, 2020.

[2] Ibid.

[3] Ibid.

[4] Andre Damon and David North, “The US propaganda machine justifies the assassination of Qassem Suleimani,” World Socialist Web Site, January 7, 2020.

[5] “Was Soleimani Framed by Trump? In Baghdad to Receive US Supported ‘De-escalation Proposal’ from Saudi Arabia,” South Front, January 5, 2020; republished in Global Research, January 6, 2020.

[6] Quoted in Zachary Cohan, “Esper says US isn’t looking ‘to start a war with Iran, but we are prepared to finish one’,” CNN, January 7, 2020.

[7] Quoted in Julian Borger and Patrick Wintour, “Iran crisis: missiles launched against US airbases in Iraq,” The Guardian, January 8, 2020.

[8] Noam Chomsky, Richard Falk and Daniel Ellsberg, “Congress Must Forcibly Limit Trump’s Power to Attack Iran,” Truthout, January 8, 2020.

[9] Ibid.
初出: Global Research
Copyright © Joyce Nelson, Global Research, 2020

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

ソレイマニ将軍の暗殺は米・イラン関係を決定的に悪化させたように思う。何処の国でも、どんな文化や歴史をもった国であっても、個人の尊厳や国家の主権を脅かされると強烈に反発する。そのような反応が今イランとイラクで起こっている。

その一方で、この暗殺の直後にあからさまに米国に拍手を送ったのはイスラエルであった。多くの国の一般庶民は第三次世界大戦が迫っているという懸念を大きくした。今数多くの解説記事が氾濫しているが、その中には米国はイスラエルからの要求に応じてこの暗殺を遂行したという報道がある(原典:Trump, at Israel’s Request, Assassinated the General Most Responsible for Destroying ISISBy Eric Zuesse, Jan/08/2020。当初のイスラエルの反応を見ると「さもありなん」という感じがする。


参照:

1Trump Administration had Set a Trap for Soleimani: By Joyce Nelson, Global Research, Jan/10/2020

 

 
 

2020年1月10日金曜日

人気ブランドのビールやワインにも除草剤のグリホサートが含有されている


(注:この投稿の初出は2019年12月20日に発行された長野高校生物班OB会誌「うばたまむし」12号。誤字の訂正や表現の修正を加えて、このブログにも掲載しようと思う。なお、この原稿の作成日は約3ヶ月前の2019年10月13日。ご了承ください。)

21世紀の消費者を取り巻く環境は決してバラ色ではない。

毎日口にする食品が農薬による汚染を受けており、長期的には人の健康に害を及ぼすことがすでに判明している。しかし、そのことが報告されていながらも、農薬業界の圧力に負けて、行政側は遅れをとり、理に適った対策が間に合っていないとしたらどうであろうか?

米国の大規模農業では遺伝子組み換え作物が多用され、それと抱き合わせに雑草管理には除草剤が用いられる。もっとも多用されているモンサント社(現在は企業買収を経て、ドイツのバイエル社の傘下)の遺伝子組み換え作物には除草剤として「ラウンドアップ」が用いられる。ラウンドアップの主成分は「グリホサート」と称される化学物質。それに加えて、最近は遺伝子組み換え作物だけではなく、一般作物にもラウンドアップが用いられるようになって来た。収穫の直前にラウンドアップを散布し、作物を枯らして、収穫作業に移行する。この手法は農家にとっては作業管理上都合のいい機能であるようだ。その反面、収穫された作物に含まれるグリホサートの残留物は増加する。

ところで、日米貿易協定については日本政府がその条文を知らされないまま、国会での審議を得ないままに日米政府間ですでに署名したという。10月8日のことだった。今後(10月13日現在)閣議決定を経て、国会の承認を得るのだそうだ。つまり、国会の承認は事後承認でしかない。好むと好まざるとにかかわらず、ここには主権を失った日本の姿がありありと見える。米国側としては日本に米国産農産物を大量に輸入してもらうことが、いや、もっと有り体に言えば、日本に大量に消費させることが最大の関心事である。こうして、日本政府に圧力をかける。このプロセスを政府やマスコミは「日米貿易交渉」と名付けている。

不幸なことには、日本の消費者は大量に輸入された農薬漬けの米国産農産物を消費する。大分以前から問題視されていた日本の食糧自給率はさらに低下し、ほぼ全面的に輸入食品に頼ることになる。つまり、日本で毎日食卓に上がる食品に含まれる農薬残留物の脅威は増大するばかりとなる。

こうして、日本の消費者が食品の農薬汚染から自分の健康を守るには、まずは米国における汚染の実態を理解することから始めなければならない。これは毎日の生活を左右する課題である。それと並んでもっと重要な点は、後述するように、われわれは次世代の健康も併せて守らなければならない。

ここに「人気ブランドのビールやワインにも除草剤のグリホサートが含有されている」と題された記事がある(注1)。今年の2月26日の記事であって、米国市場で多くの消費者によって愛飲されているビールやワインを調査した結果だ。この記事の全文を仮訳して、下記に引用する。グリホサートに汚染されている米国の食品の実態を少しでも理解しておきたいと思う次第だ。

<引用開始>

「CALPIRG教育ファンド」による最近の報告によると、米国で販売されている数多くのビールやワインにはラウンドアップ除草剤の主要成分であるグリホサートが残留している。この「
Glyphosate Pesticide in Beer and Wine」と題された報告書によると、有機栽培原料を使ったブランドも含めて、20種のビールやワインおよびサイダーについてグリホサートの分析が実施され、1例を除いて、すべてのブランドで有害物質であるグリホサートが検出された。


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この報告は、奇しくも、モンサント製のラウンドアップ除草剤が癌をひき起こすのかどうかに関して連邦裁判所で始めて争われている訴訟を巡っての公判がサンフランシスコの裁判所で開始される日と重なった。

地ビールやワインを楽しんでいる際、最後の最後に考えておきたいことはこのビールやワインには潜在的に危険な除草剤が含まれている」という点だ、とCALPIRG教育ファンドのローラ・ディーハンが述べている。「ビール会社やワイン生産業者が如何なる努力をしたとしても、問題を引き起こす現実を完全に回避することは実に難しい。消費者は友人たちと楽しみを分かち合う度に、あるいは、裏庭でバーベキュー・パーティ―を開く度にグリホサートも飲み込むことになる。これは米国の何処ででも起こり得ることだ。」

この引用記事を掲載しているウェブサイトの「Sustainable Pulse」からの注釈: この調査ではCALPIRGは分析手法としてELISA法を用いた。このELISA法は必ずしも「究極の判断基準」を提供するものではない。したがって、ここに報告された残留物の含有レベルについては取り扱いに注意を要する。しかしながら、残留物が検出されたという事実そのものは変わりようがなく、疑う余地はない。グリホサートの試験方法に関してさらに知りたい方は当サイトで情報検索されたい。

CALPIRGはこの調査でワインについては5個のブランド、ビーでは14個のブランド、そして、サイダーでは1個のブランドを分析した。ワインのブランドにはベアーフット、ベリンジャー、フレイ(オーガニック)、インカリ・エステーツ(オーガニック)、ならびに、サッター・ホームが含まれる。ビールについては、バドワイザー、クアーズ、コロナ、ギネス、ハイネッケン、ミラー、ピーク(オーガニック)、サム・アダムス、サミュエル・スミス(オーガニック)、シエラ・ネヴァダ、ステラ・アートワー、チンタオ、および、ニュー・ベルジウムが含まれ、サイダーとしてはエース・ペリー・ハード・サイダーが分析に供された。

特筆しておきたい点がある。この調査では意外なことが判明した。有機農法で栽培されるビールやワイン用の原料作物にはラウンドアップのような除草剤は用いてはならないことになっている。しかしながら、オーガニックと称されている四つのブランドの内三つでグリホサートが検出された。

小規模の独立した地ビールの製造業者について認証を行う「醸造者協会」は声明文でこう述べている。「われわれ醸造業者は大麦やその他の醸造用原料の栽培にグリホサートを使用して貰いたくはない。大麦の生産者組合はグリホサートには強力に反対すべきである。」 

これらのサンプルから検出されたグリホサートの量は、最大値がサッター・ホームのワインで51ppbを示し、バドワイザーやクアーズ、コロナ、ミラーおよびチンタオの非オーガニック系ビールでは25ppb以上を示した。オーガニック製品では最高で5.2ppbを示した。これらの数値はEPAの飲料に関する許容値よりも低いが、少なくとも、新たに公表されている科学的研究によると、たとえグリホサートの量が1ppt (pptはppbの千分の一)と極めて低い場合であっても、乳がん細胞の成長を刺激し、内分泌系をかく乱することが分かっている。

「われわれ地ビールの生産者は顧客のために最高品質の製品を生産していることを誇りに思っている。そういった製品を生産するには最高の品質で、もっとも安全な原料を使う必要がある」と、オレゴン州のポートランド市に本拠を置くコアリション・ブリュアーズ社の共同経営者であるエラン・ワルスキーは言う。「卓越した水準を維持することはわれわれのビールやわれわれ自身の健康のために重要である。また、そればかりではなく、われわれのためにホップや大麦を生産する農家から始まって、われわれのビールを楽しんで貰う顧客に至るまで、当地の地域共同体にとっては非常に重要なことだ。」 

店頭で販売されているビールやワインがグリホサートによって広く汚染されていることを伝え、本報告書は、数多くの健康に対する脅威が存在し、その上に食品や水、アルコール類にグリホサートが広く検出されている事実から、この報告とは異なる知見が実証されることがない限り、米国市場では本除草剤の販売を禁止するよう推奨している。

「連邦裁判所がラウンドアップと癌との関連性に注意を払っている折からも、今はグリホサートに光を当てるいい機会であると思う」とディーハンは言う。「この化学品が非常に多くの米国人にとって健康に対する大きな脅威となり、この化学品がいたる所で検出され、自分たちが愛好する飲料からも検出されていることを米市民は率直に認識するべきだ。」 

<引用終了>

これで引用記事の仮訳が終わった。

ところで、ビールやワインばかりではなく、米国市場に出回っている食品は、加工食品を含めて、ほとんどがグリホサートで汚染されていると考えた方が無難だ。その上、この汚染の趨勢は衰えることがなく、さらに悪化する一方である。

この記事が伝えているように、グリホサートの含有量が1pptと非常に微量であっても、ヒトの細胞に影響を与えることが最近分かって来た。1ppbの千分の一のレベルであっても、グリホサートは卵胞ホルモン受容体を介して卵胞ホルモン様の作用を引き起こし、乳癌細胞の成長を促すという。グリホサートはまさに内分泌かく乱物質である。

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さて、ここからはグリホサートによる農薬汚染と深く関わっているいくつかの重要な話題を俯瞰し、われわれ自身の脳細胞にも刺激を与えてみようかと思う。さまざまな角度から農薬汚染について考えてみたい。

◆グリホサートには「おそらく発癌性がある」:

このことを指摘したのはWHOの国際がん研究機関(IARC)だ。2015年3月のことであった。これは実に興味深い指摘で、この情報は一気に世界中に広がった。

国立癌研究所の名誉研究員であり本調査結果に関する主要な著者でもあるアーロン・ブレア―は
ロイターに対して次のように言った:「動物試験では十分な証拠をつかみ、人の臨床試験でも限定的な証拠をつかんでいる。また、DNAの突然変異や染色体の損傷を示す強力な証拠も揃っている。」 WHOの国際がん研究機関(IARC)は世界中で広く使用されているこの除草薬が非ホジキンリンパ腫を誘発することを見い出し、グリフォサートに関する研究成果を2015年3月20日に公表した。

このIARCからの報告は専門誌「ランセット腫瘍学」に
発表され、有機リン酸系の除草剤や殺虫剤の評価結果を詳細に論じている。この報告書は「人に非ホジキンリンパ腫を引き起こす発がん性について限られた証拠が見つかっている」と結論付けた。この結論は2001年以降米国やカナダおよびスウェーデンで当該化学物質への暴露について行われた研究から導かれたもの。 (さらなる情報については、「芳ちゃんのブログ」への2015年6月15日の投稿「モンサントの除草剤と発がん性との関連性 - WHOは公表した調査結果を撤回しそうもない」 をご覧ください。)

これを受けて、米国では多数の損害賠償訴訟が提起され、さまざまな議論が沸き起こっている。不幸にも健康を損なった被害者を始めとして、関連企業や業界、学者・研究者、関連官庁、国家、国家集団が自分たちの利益やメンツを保つために喧々諤々の論争を演じている。

◆環境汚染の悪化:

グリホサート汚染がさらに悪化する理由は次のような背景に見られる。

米国ではラウンドアップに耐性を有する遺伝子組み換え作物が開発され、市場に投入されてから、ラウンドアップの使用は最近の20年間に急速に拡大した。その後、一般作物(小麦、大麦、ライ麦、大豆)の収穫前にこの除草剤を散布し、作物を一様に枯らして収穫を早期に行うという手法が新たに加わり、ラウンドアップの使用は拡大するばかりとなった。

カリフォルニア大学が行ったバイオモニタリングの調査によると、南カリフォルニア在住の1000人超の高年齢の成人の場合、2014年から2017年にかけて、参加者の少なくとも70%の体内に検出可能な量のグリホサートが確認された。20数年前の1993年および1996年の調査では参加者の12%に検出されていただけであった。非営利団体の「環境作業部会」(Environment Working Group)は以上の知見を米疾病対策センター(CDC)宛ての書簡(2019年6月26日付け)で述べている。(原典:Environmental Working Group Calls on US CDC to Monitor Americans’ Exposure to Glyphosate: By Sustainable Pulse, Jun/26/2019)

さらに、同書簡は特に若い子供たちのグリホサートへの暴露に関するバイオモニタリングが欠如している現状についてCDCはもっと注意を払うべきだと述べて、環境作業部会は厳しい指摘を行っている。

◆世代を超えて、第三・第四世代に影響が現れる:

研究者らはグリホサートが世代を越して健康被害をもたらすことを発見した。今までに聞いたことがないような報告だ。この最近の研究論文についても触れておきたい。

この論文は2019年4月23日に
Michael K. Skinner他によってオンライン誌の「Scientific Reports」にて「Assessment of Glyphosate Induced Epigenetic Transgenerational Inheritance of Pathologies and Sperm Epimutations: Generational Toxicology」と題して発表された。同誌の9巻、文献番号 6372(2019)。 これは何世代か後に非遺伝的に作用するグリホサートの毒性について論じたものである。

その要旨だけを仮訳し、下記に示そう。

<引用開始>

祖先が幾種類かの要因や毒物の環境に暴露された場合、成人発症疾患の後成的(エピジェネティック)で継代的な遺伝を促進することが示されている。世界でもっとも多用されている農業用除草剤のひとつであるグリホサート(N-(phosphonomethyl) glycine)は、通常、ラウンドアップと称される。グリホサートに直接暴露した場合の毒性(リスク)に関してはますます多くの矛盾する報告が成されているが、多世代に対する毒性に関しては徹底した調査は行われてはいなかった。本研究によると、F0世代の妊娠している雌のラットに対する暴露はF0世代自身およびその子供であるF1世代に対する影響は無視できる程度であることが分かった。ところが、それとは対照的に、孫(F2世代)やひ孫(F3世代)では病変が飛躍的に増加することが観察された。観察された継代的な病変には前立腺疾患や肥満、腎臓病、卵巣疾患、先天異常が含まれる。F1、F2、F3世代の精子の後成的分析を行ったところ、DNAメチル化領域(DMR)の変化が認められた。数多くのDMRに関連する遺伝子が特定され、すでに病変に関与していることを示していた。したがって、グリホサートは世代を超えた病変の遺伝や生殖細胞系列(精子)のエピ変異を引き起こすことをわれわれはここに報告する。われわれの観察によると、グリホサートの世代間の毒性は将来世代の病気を原因論的に説明しなければならないことを示唆している。

<引用終了>

要旨の仮訳はこれで終了した。

ついでに、この研究で用いられた動物試験における給餌方法についても簡単に仮訳をし、この投稿に収めておきたいと思う。グリホサートの投与量に注目したい。

<引用開始>

既に報告されているように、70~100日齢の非近交系血統の雌雄のHsdスプラーグドーリー®™SD®™ (Harlan)系ラットに標準的なラット用餌と水道水を不断給餌した。タイミングを合わせて妊娠させ、妊娠後8日から14日の雌に毎日注射針を用いて腹腔内にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(ペンシルバニア州ウェストチェスターに所在するChem Service社製)、または、ジメチル・スルホキシド(DMSO)で希釈したグリホサートを、毎日、体重当たりで25mg/kgを注入した。25mg/kgのグリホサートは経口投与によるラットの50%致死量(LD50)の0.4%、もしくは、無毒性量(NOAEL)の50%に相当し、グリホサートの速い代謝作用を考慮すると、一日当たり3~5mg/kg/の職場環境での暴露の約2倍に相当する。

<引用終了>

これで給餌方法についての仮訳が終了した。

非常に興味深い内容である。この報告によると、たとえグリホサートが毒性を示さないとされている無毒性量の半分のレベルの投与量であっても、孫やひ孫の代に継代的な病変として前立腺疾患や肥満、腎臓病、卵巣疾患、先天異常が観察されたと報告している。

この動物試験では、毎日、体重当たり25mg/kgのグリホサートがラットの腹腔内に投与された。この投与量は、後述するように、日本の食品安全委員会が報告した「各試験で得られた無毒性量のうち最小値は、ウサギを用いた発生毒性試験の75mg/kg 体重/日であった」という無毒性量の33%に相当する。ところで、これらの数値によると、日本の無毒性量は米国のそれよりも50%も高い。このような違いがどうして起こったのかは私には分からない。

食品の安全性は、通常、動物試験によって確認される。催奇形性試験では実験動物の妊娠中の母体に食品を与え、胎児の発生や生育におよぼす影響を調べる。繁殖試験では二世代にわたって食品を与え、生殖機能や新生児の生育におよぼす影響を調べる。これらふたつの動物試験では二世代にまたがって、子供の代の健康被害も含めて安全性を確認する。発癌性試験では実験動物の全生涯にわたって食品を与え、一世代だけの病変を調査する。これらが従来の動物試験の手法である。

ここに引用した研究成果によると、第一世代や第二世代の病変に注目するだけではグリホサートの健康影響を論じるには無意味であり、第三・第四世代に至るまで健康影響を調べなければならない。これは実に貴重な知見である。

◆米国における市民団体「アメリカ中の母親たち」(Moms Across America):

「私たちが望むのは健康的な食品と正直なラベル表示だ。今すぐに!グリホサート/ラウンドアップを今すぐにでも禁止して欲しい。私たちは有害な除草剤や殺虫剤が使用されてはいない生活環境を望んでいる」とこの団体は言う。「グリホサートの影響でアレルギーや自閉症、注意欠陥多動性障害、等、子供の体に異変が起きている」と感じる母親は決して少なくはない。子どもの食事から遺伝子組み換え食品やグリホサートによる汚染を排除するために、この団体は市場には数多くの選択肢があることからグリホサートの代替品を使用することを勧め、有機食材を選ぼうと呼びかけている。

ラウンドアップ除草剤に不用意にも暴露し、非ホジキンリンパ腫を発症し、法廷でモンサント社に対して損害賠償訴訟を求めている被害者にとっては、ラウンドアップ除草剤には発癌性の危険性を示すラベル表示がなかったという事実は非常に重要な争点である。正直なラベル表示を訴えているアメリカ中の母親たちには説得力があると言えよう。

◆米国における損害賠償訴訟:

米国ではラウンドアップ除草剤への暴露が癌を引き起こしたとして製造者のモンサント社に損害賠償を求める訴訟が始まっている。すでに3件について賠償金額が言い渡された。モンサントは上告すると言うが、その後の進展は今後耳にすることになる。同社に対するラウンドアップ除草剤に関わる訴訟の数は2019年8月中旬現在で18,400件。

モンサントを相手にした訴訟では新たな事実が判明している。たとえば、モンサント社内の電子メールが公開されたのである。「機密の裁判所文書においてモンサント社は安全性試験が未完了のラウンドアップ除草剤には発癌性があることを認めている」(原題:Monsanto Admits Untested Roundup Herbicide Could Cause Cancer in Secret Cout Documents)と題された2017年8月9日のSustainable Pulseの記事はその冒頭で次のように述べている:

「米国の法律事務所によって先週開示されたモンサントの機密文書によると、モンサントの科学者らは同社一番の製品であるグリホサートを主成分とするラウンドアップ除草剤には、恐らく、発癌性や遺伝毒性があることに気付いていたことが判明した。」

◆各国の対応:

ヨーロッパではラウンドアップ除草剤を禁止するべきだとの政治的な動きが活発化している。130万人もの市民が反対の陳情書に署名をした。フランスのマクロン大統領は代替品を開発し、3年後にはラウンドアップを使用禁止にすると公言し、イタリアのマウリツィオ・マルティナ農相も3年以内にこの除草剤を禁止すると述べている。

ところが、多くのEU参加国がラウンドアップ除草剤の使用を廃止すべきだと訴えているEUで2年前に椿事が起こった。2017年11月、欧州委員会は、投票の結果、議論が絶えないこの除草剤の使用期限をさらに5年間延長すると決めた。この会議でフランスやイタリア、オーストリア、ベルギーが反対する中、ドイツのクリスチャン・シュミット農相はドイツ本国政府の反対を押し切って一存で賛成票を投じた。こうして、EU圏では最大の人口を誇るドイツの賛成票によって、EU圏でのラウンドアップ除草剤の使用期限は5年間延長されることになった。

何処でどのような駆け引きがあったのかは知る由もないが、非常に異例なことが起こったことは確かである。クリスチャン・シュミット農相は買収されていたのだろうか?EU圏で5年間の使用延長を認められた場合、誰が一番得をするのか?明らかに、それはモンサントだ。

◆逆行する日本:

日本では、2016年7月12日、食品安全委員会が「食品健康影響評価の結果の通知について」と題した報告書を当時の塩崎農林水産大臣宛てに提出した。この文書を見ると、「グリホサートの一日摂取許容量を1㎎/㎏体重/日と設定する」と報告している。

そして、さらにこの文書の添付書類を覗いてみると、次のような詳細な内容が報告されている:

<引用開始>

2.グリホサート①の評価の要約

「グリホサート」(CAS No. 1071-83-6)[グリホサートアンモニウム塩(CAS No. 40465-66-5)、グリホサートイソプロピルアミン塩(CAS No. 38641-94-0)及びグリホサートカリウム塩(CAS No. 70901-12-1)]について、各種資料を用いて食品健康影響評価を実施した。評価に用いた試験成績は、動物体内運命(ラット及びウサギ)、植物体内運命(だいず、ぶどう等)、作物残留、亜急性毒性(ラット、マウス及びイヌ)、慢性毒性(イヌ)、慢性毒性/発がん性併合(ラット)、発がん性(マウス)、2 世代繁殖(ラット)、発生毒性(ラット及びウサギ)、遺伝毒性等の試験成績である。

各種毒性試験結果から、グリホサート投与による影響は、主に消化管(下痢、軟便等)及び体重(増加抑制)に認められた。発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった。

各種試験結果から、農産物中の暴露評価対象物質をグリホサート(親化合物のみ)と設定した。

各試験で得られた無毒性量のうち最小値は、ウサギを用いた発生毒性試験の75mg/kg 体重/日であったことから、これを根拠として、安全係数100 で除した0.75mg/kg 体重/日を一日摂取許容量(ADI)と設定した。

また、グリホサートの単回経口投与等により生ずる可能性のある毒性影響に対する無毒性量のうち最小値は、マウスを用いた急性毒性試験で得られた1,000 mg/kg体重であり、カットオフ値(500 mg/kg 体重)以上であったことから、急性参照用量(ARfD)は設定する必要がないと判断した。

<引用終了>

この食品安全委員会の文書には「オヤッ」と思わせることがひとつある。報告書の表書きでは「グリホサートの一日摂取許容量を1㎎/㎏体重/日と設定する」と大臣宛に報告している。しかし、技術的な内容を伝える添付文書には「一日摂取許容量を0.75㎎/㎏体重/日と設定した」と記述されている。大臣宛の報告では無毒性量を安全係数の100で除して一日摂取許容量を決めるという技術面でのルールから逸脱して、一日摂取許容量を1㎎/㎏体重/日と報告している。0.75を1に丸めることは食品の安全性を設定する際に許していいのだろうか?

ここに挙げられている動物試験でもっとも長期間にわたって行われる試験は2 世代繁殖(ラット)と発生毒性(ラット及びウサギ)および遺伝毒性の3種であろうと推測される。もちろん、4世代にまたがる後成的(エピジェネティック)な動物試験は含まれていない。

グリホサートの発癌性や毒性については新たな科学的知見が次々と公表されている。他の多くの国々は中期・長期的にはグリホサートを規制する動きにある。それにもかかわらず、日本政府は驚くほどに独断的だ。厚労省はグリホサートの残留基準値を大幅に緩和したのである(2017年12月5日)。

これは業界の一部から依頼があったことがきっかけであったと言われている。つまり、米国の農産物を輸入する日本は米国内の残留基準値を踏襲して、農薬漬けの食料を大量に輸入するための準備をしてあげたということになる。

生食発1225第5号(2017年12月25日):大臣官房生活衛生・食品安全審議官発、各検疫所長宛ての「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」と題された文書から一部を抜粋すると、主だった食品の緩和前後のグリホサートの残留基準値は下表の如くである:



Photo-2

この緩和の程度は並ではない。小麦の場合、改正前の残留基準値5ppmに対して、改正後は30ppmに、つまり、6倍も緩和された。最大級の緩和はヒマワリの種子に見られ、0.1ppmから40ppmへと400倍に緩和されている。

「先ずは商売ありき」という感じで、消費者の安全性に関する配慮は二の次だ。政府の政策にはそういった取り組み方が色濃く反映されていると私には思えてならない。

◆ラウンドアップ製剤の毒性は主要成分であるグリホサートの毒性よりも強い:

ここまでの議論のほとんどは除草剤ラウンドアップの主成分であるグリホサートだけの毒性に関するものである。しかしながら、ラウンドアップ製剤には主要成分のグリホサートと並んで補助剤としてPOE-15と称される界面活性剤が配合されており、実際には製剤が農作物に散布され、農薬を使う農家が暴露されるのはこの製剤の方である。フランスのカーン大学のギレス・エリック・セラリーニ教授他は、補助財を含んでいるラウンドアップ製剤の毒性は主要成分のグリホサート単独の毒性よりも強いと報告した。私の知る限りでは、この種の指摘を行ったのはギレス・エリック・セラリーニ教授他が始めてであった(2013年2月)。画期的な研究成果だ。(出典:
Roundup is more toxic than declared proves new Séralini study: By CRIIGEN press release, Feb/21/2013)

その1年後、同教授らは3種類のヒトの細胞に対する毒性を調査した。「特に重要な点は、調査に供した9種類の製剤のうちで8種類の製剤はその毒性が主要成分の毒性よりも千倍も高いことだ。われわれが得た結果は当農薬の一日あたりの許容摂取量の妥当性に挑戦するものとなる。なぜならば、現行の許容値は主要成分だけの毒性値に基づいているからだ」と報告した。(出典:Major Pesticides Are More Toxic to Human Cells Than Their Declared Active Principles: By
Gilles-Eric Séralini et al., Biomed Res Int. Published online Feb/26/2014)

もちろん、モンサントから研究資金を入手している学者らからはセラリーニ教授の研究に対して反論の声があがった。

その後、2018年5月、米政府の動きを伝える報道があった。それによると、「米政府の研究者はいくつかの人気の高い除草剤、たとえば、ラウンドアップはヒトの細胞に対して主要成分そのものの毒性よりも強い可能性があるという証拠を公開した。この
試験は「米国家毒性学プログラム」(NTP)の一環として行なわれたもので、グリホサートを主成分とする除草剤製剤を始めて調査するものだ。規制当局は今まではグリホサート単独での毒性を調査することばかりに注力し、政府の学者らは消費者や農家、その他に販売される製剤としての毒性については全面的な吟味を行ってきたとは言えない。」 (出典:After more than 40 years of widespread use, new scientific tests show formulated weedkillers have higher rates of toxicity to human cells: By Carey Gillam, May/08/2018)

この米政府の研究機関の動きは2013年に発表されたセラリーニ教授の研究成果を追認するものとなるのか、それとも、反論するものとなるのかはこの段階では分からない。政府の研究者らは当面は研究の最初のステップを公開しただけだと述べているからだ。

◆結論:

日本においてはグリホサートがもたらす発癌性、内分泌かく乱作用、世代を越して第3・第4世代に出現する健康影響、等は農薬を巡る政策にはまったく反映されていない。不幸なことには、現状のままでは最近の科学的な知見やヨーロッパ各国の取り組みに比べて大きく逆行していると言っても過言ではない。何時の日にかそのとばっちりを食うのはわれわれ消費者だ。

あなたや私の孫・ひ孫の健康を確保するためには、誰もがグリホサートの毒性やグリホサートと関連する病変、食品や飲み物の汚染、環境汚染、等にもっと真剣な関心を寄せることが求められる。

水道水から検出される環境汚染は内分泌かく乱作用をひきおこすのに十分なのではないか。あるいは、すでに「遅きに失した」と言えるのかも知れない。ミネソタ州の事例では、1993年以降、公共飲料水がグリホサートによって汚染された事例は4件あって、1.1ųg/l (ppb)から39ųg/l (ppb)を示した。

1ppbの千分の一である1pptのレベルのグリホサートであってさえも第三・第四世代に内分泌かく乱作用を引き起こすことが動物試験で確認されたという事実は画期的である。超微量の汚染であっても将来世代に悪影響を及ぼす。内分泌かく乱作用以外の病変については、食卓からグリホサート汚染を排除することによってグリホサートが引き起こすかもしれない病変は見違えるように軽減できるのではないか。子供たちをアレルギー症や自閉症、注意欠陥多動性障害、等から守ってあげなければならない。

また、ラウンドアップ製剤の毒性は主要成分であるグリホサート単独での毒性よりも高いことが今後の長期にわたる動物試験によって確定されるのかも知れない。明らかに、これは今までの数十年間にモンサントによって都合よく醸成された常識や安全神話、あるいは、洗脳情報を覆すものとなるだろう。

皆が地動説を受け入れるようになる日は遠いのか、それとも、近いのか、今後の動きに注目して行きたい。


 

参照:

注1:Popular Brands of Beer and Wine Found to Contain Glyphosate Weedkiller: By Sustainable Pulse, Feb/26/2019





 

2020年1月7日火曜日

新年早々のトランプによるソレイマニの殺害はついにロシアゲートという偽りの筋書きを木端微塵に

イラクの首都バグダットでは新年早々とんでもないことが起こった。

イラン革命防衛隊のコッズ精鋭部隊の司令官であるガセム・ソレイマニ将軍が米軍の手で暗殺された。同司令官は、3日、イラクのバグダッド国際空港から出る路上で乗っていた車ごとミサイルでピンポイント攻撃されたのだ。二台の車が空爆を受けて、10人が殺害され、その中にはイラクのイスラム教シーア派武装勢力の人民動員隊を指揮するアブ・マフディ・ムハンディス副司令官も含まれている。AFPの報道によれば、4日の二人の司令官の葬列には数多くの市民が参加し、イラクのアデル・アブドルマハディ現首相やヌーリ・マリキ元首相も姿を見せたという。この事件は単なる軍の首脳の暗殺ではなく、スレイマニ将軍はイランではNo.2と見られる程のカリスマ性を持っていたことからその反響は予想以上に大きい。イラン政府は国を上げて三日間の喪に服すると宣言した。

軍事的エスカレーションは避けられない模様である。軍事的には、この暗殺事件は米国がイランに対して宣戦布告を行ったに等しい。あるいは、これは米国に特有の戦争を挑発するための作戦であったのかも知れない。

今回のスレイマニ将軍の暗殺は数日前にイラク北部のキルクークの米軍基地がロケット弾攻撃を受けて、米国からの民間人一人が死亡し、数人が負傷するという事件が起こり、エスパー米国防長官は「情勢は一変した」と述べていた矢先であった。イランはすかさず報復を宣言。イランと緊密な協力関係にあるレバノンのイスラム教シーア派の武装組織「ヒズボラ」は、ソレイマニ司令官殺害の責任を負う者に対する処罰は「世界中のすべてのレジスタンス戦士の任務」となると表明した。報復に対する報復である。軍事行動は級数的に拡大する。

こうして、米・イラン間は一発触発の状況になった。米国と同盟関係にあるイスラエルは今回の暗殺事件を歓迎している。この暗殺劇の裏にはイスラエルの姿が見え隠れする。つまり、米・イラン・イスラエル戦争となりかねない。中東全体が戦場と化すであろう。

ここに「新年早々のトランプによるソレイマニの殺害はついにロシアゲートという偽りの筋書きを木端微塵に」と題された記事がある(注1)。その記事はもうひとつの重要な側面を指摘している。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

 
<引用開始>

 
Photo-1: ファイル・フォト: 202013日、ガセム・スレイマニ将軍の殺害に抗議してイランのテヘランで米英の国旗を燃やすデモ参加者たち。 © Reuters / WANA / Nazanin Tabatabaee

イラン革命防衛隊のコッズ精鋭部隊の司令官であるガセム・ソレイマニ将軍に対するトランプによる暗殺遂行命令はイランとの緊張を危険なレベルに高めるだけではなく、ロシアが彼をコントロールしているというフィクションに終わりを告げることにもなる。ちょっと想像して欲しい・・・ 仮にカナダで空港に向かって移動中の米統合参謀本部議長のマーク・ミレー将軍をドローンを使って暗殺することをイランのロウハニ大統領が命令したとしたらどうであろうか。
 
この攻撃は「自衛」のためのものであったと誰かが言い出すのだろうか?まさにそのような説明がガセム・ソレイマニの殺害について行われている。


否定のしようがない信実がある。死後、彼は地上最悪の人物だとネオコンに言わているが、この白髪のソレイマニは中東における野蛮極まりないISISやアルカイダを掃討する上で非常に重要な役割を演じてきた。彼は宗派には拘らず、キリスト教徒を守ろうとするシリア政府を世界最強国家による攻撃から守り抜くよう指導し、予想に反してそれに成功したのである。西側諸国はムスリム聖戦士の混成部隊や暗殺集団を繰り出して、暴力沙汰で「政権交代」を実現しようとした。9112015年にチュニジアで起こった英国からの旅行者に対する襲撃を含めて、世界中で西側の一般市民を攻撃目標としていたこれらの集団と戦ったソレイマニに対する褒美は2020年の始めに吹き飛ばされることになった。いったい誰がテロリストであるのかを改めて教えて貰いたいものだ。
テレビやラジオではイランとの戦争の話で持ちきりであるが、実際には敵意は以前からすでに見え見えであった。トランプは挑発的にもイラン核合意から脱退し、彼が発動した対イラン経済制裁は「一国に対して課した制裁ではもっとも厳しいものである」と誇らしげに言った。そして、イランでは、今や、もっとも大きな権力を握っていると多くの人たちによって見なされている人物を殺害するよう命じたのである。この暗殺を正当化するために、われわれはソレイマニはイラクに駐留する米軍に脅威を与えているとの説明を受けた。しかし、まず始めに明確にしておきたいことがある。米軍はイラクでいったい何をしているのか?米軍は2003年に非合法的にイラクへ侵攻し、在りもしないイラクの大量破壊兵器を処分するのだとわれわれは告げられた。しかしながら、そのことは今や忘れるようにと言われた。米国とその同盟国はどんな権利があって17年前にイラクへ侵攻したのだろうか?国際法上では如何なる根拠もない。しかし、イラクの大量破壊兵器は単なる虚偽であったというだけではなかった。それには程遠い。

われわれは過去の23年間こう聞かされてきた。まさに嫌になるほど・・・ 「ドナルト・トランプはプーチンのコントロール下にある」と。「彼は事実上ロシアのエージェントである」と。「モスクワ政府の操り人形である」と・・・
少なくとも今は、この地球上でもっとも騙されやすい人物であってもそんな言い分を信じるような人はいないだろう。ロシアにとってイランは中東における重要な盟友であり、戦略的にも重要なパートナーでさえある。ソレイマニを暗殺し、われわれをテヘランとの軍事的衝突のコースに置くことによって、トランプはイランに害を及ぼすだけではなく、彼はロシアの「熊」の胸や背中、顔を突こうとしている。依然として不審を抱いていた人たちに対しては、本日の出来事は米国の政治に最大級の影響力を持っているのはロシアではなく、本当はイスラエル(そして、それに続くのはサウジアラビア)であることを示している。


ソレイマニの殺害事件や米国の攻撃目標に対するイランによる報復攻撃の可能性の高まりは米国の観点からは必ずしも大きな意味を成さなくても、イスラエルの観点からは実に大きな意味を成すのである。このイラン人の将軍は長い間テルアビブ政府によってマークされていた。エルサレム・ポストはこう指摘している。 このコッズ精鋭部隊の司令官は「2006年の対イスラエル戦争におけるレバノンではヒズボラに対するイランからの支援で非常に重要な役割を演じた。」 また、彼はイランは継続してパレスチナ人を支援するとも強調していた。

もしもあなたが頑固なシオニストであるならば、世界広しと言えども、ソレイマニ程消してしまいたいと思う敵は存在しないのではないか。しかし、ここには米英の一般庶民の間で議論されることは極めて稀な真実が隠されている。つまり、それはイスラエルの優先事項(イラン・シリア・ヒズボラの枢軸を潰し、それらの国々の動きにおける指導的な人物を排除すること)は、実際には、急進化したテロリストのグループと戦う広域活動を弱体化してしまうであろうという点だ。もしも「対テロ戦争」が本来の意味で戦われていたならば、ISISやアルカイダを壊滅することでもっとも大きな貢献をした人物に対してドローン攻撃を仕掛けるようなことはあり得ない。ね、そうだろう? しかし、それこそがドナルド・トランプが仕出かしたことだ。リベラル派はいつも決まったように在りもしない「ロシアの干渉」の議論に磨きをかけ、イスラエルとそのロビー活動家らはISISやアルカイダにとってはその地域で最強の敵であるイランに対して厳しい姿勢を推進しようとする
2011年の11月、トランプはツイッター上でオバマ大統領は再選を勝ち取るためにイランとの戦争を開始するだろうという「予測」を流した。

しかし、オバマはそうしなかった。それだけではなく、オバマ政権はソレイマニの殺害を実行する機会があったイスラエルを二度にわたって制止した疑いもなく、トランプは親イスラエル派としては米国最強の大統領である。それは、中東における戦争を止めるという選挙前の美辞麗句で飾られた約束とは裏腹に、2020年には大規模な戦争が突発する可能性が増大することを意味している。

著者のプロフィール:ニール・クラークはジャーナリストであり、作家、アナウンサー、ブロガーでもある。受賞した彼のブログはwww.neilclark66.blogspot.comでご一覧願いたい。彼は政治や国際関係について@NeilClark66にてツイートしている。

注:この記事の内容や見解、意見はあくまでも著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。

<引用終了>

 

これで全文の仮訳が終了した。

2020年はついに激動の時を迎えたような気がする。

イランでは、昨日(6日)、ソレイマニ将軍の葬儀が行われ、イランの国営テレビは将軍の死を悼む黒服の市民で埋めつくされたテヘランの街の様子を伝えた。弔問者たちは「アメリカに死を!」と叫び、イランの最高指導者であるハメネイ師は弔文を読みながら涙を流した。この暗殺事件を受けて、米軍をテロリスト集団として認定する議案が全会一致でイラン議会で可決された。イランは厳しい報復を行うと宣言している。言うまでもなく、一般庶民のほとんどはこの暗殺事件はイランに対する米国の宣戦布告であると感じている。 

イラクではイラク軍の重要な一部として機能していた民兵組織が米軍とその同盟軍からの攻撃を受けて米軍とイラク軍との間には緊張が高まっていた折から、イラク議会は今回の暗殺事件はイラクの主権を踏みにじるものであるとして、5日、米軍の撤退を議決し、イラク政府に提言した。

6日には米統合参謀本部議長の言葉として「米軍はイラクから撤退する」との報道があった。しかしながら、翌朝の7日(ルーマニア時間)、統合参謀本部議長が自ら前言を否定した。ペンタゴンも米軍は撤退しないと追認。ペンタゴン内部はかなり混乱しているようである。何時ものことながら、米国内ではイランとの戦争を回避したいグループと戦争を推進するグループとが暗闘しているようだ。

今年の11月の大統領選では再選を確実にしたいトランプ大統領は軍部をさんざんにびびらせて、最後の土壇場には一般大衆受けのするイラクからの米軍の撤退へと大きく舵を切るのではないだろうか。

 

参照:
1Trump’s New Year killing of Soleimani finally blows up the fake Russiagate narrative: By Neil Clark, RT, Jan/03/2020, https://on.rt.com/a8d1

 

 

 

2019年12月27日金曜日

街頭には数多くのデモ参加者がいるのに、大手メディアは香港のデモだけに焦点を当てている


1220日に掲載した「ジャーナリストの言: ニューズウィークはOPCWのスキャンダルに関する私の記事を没にし、告訴を仄めかして私を脅迫しようとした」と題する投稿では、私は大手商業メディアが真実の情報を無視し、ディープステーツの筋書きに沿って偏った情報を流すことによって一般庶民を洗脳しようとしている一例をご紹介した。そこでは国連の下部機関である化学兵器禁止機関(OPCW)の上層部も米国の意向に応じるために情報操作に不当に行っていたことが内部告発によって判明した。これはOPCWを巡る大きなスキャンダルに発展した。
そもそも、OPCWは化学兵器の製造や使用および貯蔵に関して専門家としての調査を行い、第三者の立場から客観的な意見を述べることが基本原則であった。それにもかかわらず、OPCWのお偉方は恥も外聞もなく前回の投稿で紹介されているような不祥事を引き起こした。

地政学的な分断を推し進め、一般大衆を洗脳しようとするこうした風潮についてはその深層をできるだけ多く学んでおく必要がある。素人ながらも、国際政治をまともに理解したいからだ。世界中の一般大衆の国際政治に関する理解の深さ(もっと辛辣に言えば、浅さ)やその方向性を牛耳ろうとする大手メディアの思惑や「新聞が売れればいい」とか、「テレビの視聴者が増えればいい」といったその場凌ぎの商業主義には注意深く監視し、不祥事が起こった場合は変革を求めなければならない。

ここに「街頭には数多くのデモ参加者がいるのに、大手メディアは香港のデモだけに焦点を当てている」と題された記事がある(注1)。ハイチとかペルー、エクアドルでは数多くのデモ参加者が街頭を埋め尽くした。しかも、死者さえもが出た。ところが、香港では取締り当局の暴力による犠牲者はゼロである。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。香港デモを巡る西側大手メディアの問題点をおさらいしておこう。



<引用開始>

Photo-1: 火炎瓶を持った香港のデモ参加者を報じるニューヨークタイムズに掲載された写真(11/17/19)  

Photo-2: 米国に依存する国家における反政府デモとは違って、香港の反政府デモの参加者については「民主主義を求める」という形容詞が頻繁に使われた。(CNN8/30/19の記事)。

2019年は反政府行動の年として記憶されるかも知れない。デモの参加者が世界を満たしたからだ。フランスにおける「黄色いベスト」運動から始まって、レバノンやガザ、チリ、エクアドルおよびハイチに至るまで、変革を求める抗議運動が世界中の街路を埋め尽くした。しかしながら、米国の企業メディアは不釣り合いにも香港におけるデモだけに興味を示した。

先にFAIRが論じたように(FAIR.org, 10/26/19)、大手メディアの報道におけるこの不均衡はいったい誰が抗議をしているのか、そして、何について抗議をしているのかを理解することによってほとんど説明がつきそうである。香港における抗議行動は香港と中国本国政府および台湾との間における送還条約が提言された3月に起こった。この条約については数多くの香港市民が懸念を抱き、北京の権力者が中国政府に反対する市民を逮捕し、起訴するのではないかという恐れを感じた。ところで、香港における抗議行動の対象となったのは米国が公言するところの敵国である。このことから、この反政府運動は広がりを見せ、好感をもって迎えられた。
FAIRは世界における四つの重要な抗議行動に関してニューヨークタイムズとCNNの報道に関して調査を行った。つまり、香港、エクアドル、ハイチおよびチリの四カ国について調査を行った。新聞やテレビ報道においてもっとも重要なテーマは何か、何をニュースとして取り上げるべきかの判断に対する影響力や名声をベースに、これらのメディア企業が選ばれた。サンプリングされたすべての記事へのリンクを含め、すべての情報が文書化され、それらはこちらでアクセスが可能だ。これら二社のウェブサイトにて「country+protests」で検出可能な各抗議行動に関する記事のすべてをその初日から収録した。ただし、明らかに再掲載であると判断されるものは除外した。香港デモの初日は315日、エクアドルのデモは103日、チリは1014日、ハイチは201877日だ。本調査の最終日は20191122日。

Photo-3: ニューヨークタイムズとCNNによる反政府デモに関する記事。20191122日までの記事を収録。
二社の合計では香港の抗議デモは737件、エクアドルは12件、ハイチは28件、チリは36件を数えた。グラフに見られるように、タイムズとCNNの各社の報道割合はほぼ同様のパターンを示している。

Photo-4: エクアドルでは8人もの犠牲者が出たにもかかわらず、CNNはエクアドルにおける反政府デモに関しては二つの記事を報じただけである。
このような驚くほどに大きな不均衡は他の要因、たとえば、デモの規模とか重要性によって説明することは不可能で、警備当局が行った取り締りの程度によっても説明することはできない。たった一週間の混乱の後、政府の人権擁護局によるとエクアドルでは死者数が8人にもなった。その一方、ハイチでは42人の犠牲者が出たと国連が報じている。右翼系のセバスチャン・ピニラ大統領が市民に対して文字通りの宣戦布告をしたチリでは街頭に戦車が配備され26人が死亡26,000人以上逮捕された。これとは対照的に、香港ではひとりが建物から落下して死亡さらには、70歳の老人がデモ参加者が投じたレンガに当たって死亡したけれども(これらの事故はデモが何カ月も続いた後の11月の出来事だ)、警備当局の暴力によるデモ参加者の犠牲者はゼロである。

もちろん、チリやエクアドルでのデモは香港のデモよりも遥か後になってから始まったので、記事の総数を直接比較することは賢明ではないだろう。しかしながら、そのことを配慮したとしても、不釣り合いの程度は依然として非常に大きい。エクアドルのデモが最高潮に達した期間(10314日)にニューヨークタイムズが報じた記事の数は6件で、CNN3件。これは同期間に香港について流された記事の数が33件と38件であった事実とは好対照をなすものだと言える。チリでのデモが始まって(1014日)からタイムズが報じた記事の数は14件で、CNN22件。これらの二社がその期間に香港について報じた記事の数はそれぞれ59件と92件にもなる。
ところで、ハイチにおけるデモは香港のデモよりも2倍もの長い期間続いていたが、このカリブ海の島国において多数の死者を出した反政府デモについての報道は香港のそれと比べると遥かに少なく、香港のデモに対してはハイチのそれに比べて50倍も多くの関心が寄せられた。

数値的にはその違いが非常に大きいにもかかわらず、実際には報道の不均衡はさまざまな形で控えめに扱われている。第一に、数多くのエクアドルやチリに関する記事はそれらの国における個々の出来事に焦点を当てたものではなく、単に「世界における反政府行動」という十把一絡げの記事であって、それぞれの出来事についてはたったひとつかふたつの文章で報じられるだけに終っている(たとえば、ニューヨークタイムズの10/23/19の記事 CNN11/3/19の記事)。事実、エクアドルで起こった出来事のみに関する記事としてCNNが流した記事は全部で2本だけだ(10/8/1910/13/19)。これとは対照的に、香港に関する記事のほとんどは島国の都市国家で起こった出来事のみに集中され、抗議行動については報じてはいないけれどもアジアの株式市場の下落について報じた記事、すなわち、CNNの報告(11/13/19)は香港に関する記事の総数には含められてはいない。ところで、CNNのハイチに関する記事の半数(すなわち、2/16/19の記事2/18/19の記事)はこの騒乱によって何らかの影響を被った米国市民に関するものである。

Photo-5: チリにおける反政府デモの参加者は「民主主義を求める」デモ参加者としてではなく、「暴力的な暴徒」として形容された。ニューヨークタイムズの10/19/19の記事
香港のデモ参加者はほとんど何処でも「民主化を求めるデモ参加者」として形容され(たとえば、CNN8/30/19の記事10/15/19の記事、あるいは、ニューヨークタイムズの10/15/19の記事11/21/19の記事)、チリを揺り動かした反政府デモの参加者は「反乱者」として(たとえば、CNN10/19/19の記事)、あるいは、「略奪者や放火犯」として記述された(ニューヨークタイムズの10/19/19の記事)。これと同様に、エクアドルの反政府デモの参加者による暴力は決まって誇大化されて報じられた(たとえば、 ニューヨークタイムズの10/9/19の記事CNN10/8/19の記事)。「労働組合や輸送労組の憤怒」と題するCNNの記事(10/9/19)はわれわれにこう伝えた。つまり、彼らの憤怒は「解き放たれ」、キトーでは「暴力的な抗議デモが猛威を振るい」、デモ参加者らは兵士を人質にした・・・と。

香港のデモ参加者については、たとえこれらの文言を適用することがほぼ間違いなく可能であったとしても、こういった文言が使われることは稀であった。そこいら中で起こった物的損害や、前述のように、投げられたレンガに当たって年金生活者が死亡したことに加えて、最近、デモ参加者らはもう一人の年配者に可燃性の液体を浴びせ、彼に火を放った。これは撮影されていた。彼は10日間以上も昏睡状態のままであった。
デモ参加者が矢を放ち、これが警察官の脚を突き通す出来事があったが、ニューヨークタイムズは(11/17/19の記事)これを受動態を用いて報道した。つまり、「デモ参加者を抑圧する」ための警察の猛攻に対して「活動家らが抵抗」したことにより、「警察官は脚を矢で射られた」 と、同紙は報じている。また、タイムズのリポーターはデモ参加者らが自分たちが使う「何百個、何千個もの爆弾」を作っているところを見て、その様子を報じた。それにもかかわらず、同紙は武装したデモ参加者を依然として「民主化を求める活動家」と形容し続けた。(訳注:英語表現における受動態には能動態に比べて内容をぼやかす効果があるということを念頭に置いてください。つまり、ここではニューヨークタイムズはデモ参加者に対する批判の程度を和らげる効果を期待したと言えそう。)

多分もっとも心配となるのはCNNの記事(11/17/19)であろう。掲載された映像は手作りのガスボンベのサイズの爆発物であって、かなり大きいことを除けば、これはボストンマラソンでジョハル・ツルナエフが使った爆弾とよく似ている。また、CNNはデモ参加者がすでに警察に対してこれらの爆弾を用いたという情報を受け取ったと述べている。仮に「ブラック・ライブズ・マター」や「アンティファ」が通行人を殺害し、警官を殺害し、あるいは、ツルナエフが使ったような爆弾を作ったとしても、CNN(11/22/19の記事)やニューヨークタイムズ(11/22/19の記事)の両社は、香港のデモ参加者らをそう形容して来たように、彼らを依然として「民主化を求めるデモ参加者」と形容するのであろうか?
企業メディアは香港の反政府デモの詳細については多くの詳細を隠してきた。そうすることによってデモ参加者を「民主化を求める香港市民」として大袈裟に賛美し、北京の「共産主義の支配者」と闘っているとするニューヨークタイムズの論説室が描写する非常に単純な筋書き(6/10/19の記事)を彼らは後生大事に維持し続けてきたのである。

香港に関する記事の量は意見の多様性とは反比例する。現実が示す状況は遥かにさまざまなニュアンスを持っている。しかしながら、これらのニュアンスはサンプリングした何百にも上る記事からは欠落している。香港に関しては企業メディア各社はまったく同一の歌を唄い、皆が歩調を合わせ、一心不乱になっている状況を示している。いかなる専制君主的なプロパガンダ体制にとってもこの状況は実に印象的に映るのではないだろうか。
調査活動支援: Matthew Kimball

<引用終了>



これで全文の仮訳が終了した。

すべては非常に明瞭である。この引用記事は香港における反政府デモに関する米国内の具体的な報道を取り上げて、ニューヨークタイムズやCNNがどうやって一般読者を洗脳しようとしてきたのかを具体的に述べている。恣意的に一般大衆を洗脳しようとする姿勢は長く継続され、ありとあらゆる機会が動員される。その結果、米国内の一般庶民の世界観は大手メディアが伝える報道や解説がすべてであるかのように形作られる。

そして、ヨーロッパや日本でもまったく同一内容の報道が繰り返される。なぜならば、世界中の新聞社はほとんどが三つの国際的な通信社(米国のAP、英国のロイター、フランスのAFP)が流すニュースに全面的に依存し、個々のメディアが独自の調査報道を行うことはほとんどないからだ。

好むと好まざるとにかかわらず、本投稿を1220日に当ブログで掲載した「ジャーナリストの言:ニューズウィークはOPCWのスキャンダルに関する私の記事を没にし、告訴を仄めかして私を脅迫しようとした」と併せて読んでいただくと、大手メディアが行っている情報操作の現状を非常に明瞭に理解できるのではないかと思う次第だ。



参照:

1With People in the Streets Worldwide, Media Focus Uniquely on Hong Kong: By Alan MacLeod, Dec/06/2019