2019年3月15日金曜日

OPCWのシリア報告書は西側の「化学兵器攻撃」という筋書きを不能にする


ここに「OPCWのシリア報告書は西側の「化学兵器攻撃」という筋書きを不能にする」と題された最新の記事がある(注1)。
ところで、OPCWとは化学兵器禁止機関のことだ。これは化学兵器禁止条約(CWC)の実施のために加盟国への査察を行う国際機関であって、1997年に発足した。外務省のホームページによると、現在のCWCの締約国は193か国・地域。本部をオランダのハーグに置く。
なぜこの記事に注目するのかと言うと、西側がシリアで行って来た軍事的侵攻を正当化するために化学兵器攻撃は西側によって繰り返し利用されてきたからだ。
反政府側は化学兵器攻撃を自作自演し、アサドが率いる政府軍が化学兵器攻撃を行ったのだと喧伝。この手法が反政府派武装勢力と西側の定番となった。このプロパガンダでは悪名高いホワイトヘルメットが活動の中心となり、自作自演の様子をビデオに収め、それをソーシャルメディアに掲載し、アサド政権を非難する。西側の大手メディアはそれを現地からの報告として国内向けに流す。現地のことは何も知らない一般読者はこれらの報道を鵜呑みにする。こうして、西側はシリアに対するミサイル攻撃を正当なものに見せかけて来たのである。シリア紛争の歴史はこれの繰り返しだ。
化学兵器攻撃に関して西側の大手メディアが流して来た作り話が崩れると、シリア政府軍と戦う反政府派武装勢力の主張は大きく揺らぐ。ということで、国際機関であるOPCWの報告書が伝える内容は政治的には非常に重要な意味を持つことになる。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。地政学的な分析では定評が高いトニー・カルタルッチの見解をおさらいしておこう。

<引用開始>

Photo-1
OPCWはシリアのドーマにおいて201847日に起こった化学兵器攻撃に関して最終報告書を提示した。西側のメディアはこの報告書はシリア政府がドーマで化学兵器を使用した証拠になるとして歓迎していたが、この報告書はその種のことは一切報告していない。
実際には、本報告書は化学兵器攻撃によって死亡したとされる43人の誰をも攻撃現場で発見された塩素と関連付けることはできなかったのである。
攻撃があったとする主張は米国が支援する反政府派武装勢力によって彼らが敗退する前夜に流布された。翌日、シリア政府軍がドーマを奪回した。最初の主張は2本の黄色いガスボンベを改造し爆弾に仕立てたものを使って、サリンまたは塩素がばら撒かれたというものであった。
しかし、OPCWの検査官はサリンを検出することはできなかった。
本報告書によると、これらの2本の黄色い改造ガスボンベが攻撃に使用され、2カ所の建物(落下地点2および4)に落下し、OPCWの検査官はこれらのガスボンベとほとんど同様のガスボンベ(1本)を武装勢力が武器を作るために使用していた作業所でも発見した。
彼らが主張する「化学兵器」攻撃は、2018414日、米英仏によるシリアに対するミサイル報復攻撃をもたらした。これは化学兵器攻撃があったとされる現場へOPCWからの第1陣の検査官が到着した421日よりもずっと前のことであった。

塩素と被害者との間に関連性がない:
OPCWとしては、化学兵器に暴露されたと反政府派が主張する被害者に関する動画や写真は、OPCWの検査官が発見した微量の塩素も含めて、具体的な化学物質と関連付けることはできないという事実を言及することができる筈だ。報告書は下記のように具体的に主張することができるだろう(訳注:しかしながら、実際にはそう明白には述べていない):
医療関係者や目撃者、(目撃者によって提供された複数の動画に現れる人たちも含めて)犠牲者が報告した兆候や症状、それらの急速な発症、影響を受けた被害者の数、等は吸入した物質が不快感を起こし、何らかの毒性を持っていることを示している。しかしながら、精査した情報に基づいて言えば、死体からの生物医学的なサンプルは採取されていないことや死体解剖の記録もないことから、それらの兆候や症状の原因を具体的な化学物質と結びつけることは現時点では不可能である。
他にも、OPCWの報告書は、想定されている攻撃の犠牲者を診療した医療スタッフを含めて、化学物質の存在については真っ向から不信を表明した目撃者を引用することも可能だ。
本報告書は下記のような内容を報告することができよう(訳注:しかしながら、実際には言及してはいない): 
47日に緊急治療室に勤務をしていた何人かの医療関係者は患者からの報告は化学兵器攻撃を受けた場合に見られる症状とは辻褄が合わなかったことをインタビューで強調した。また、彼らは化学兵器による被害者に対する処置は行われなかったとも報告した。インタビューを受けた何人かは被害者からは何の異臭も発せられてはいなかったと言い、他の目撃者は被害者の衣服からは煙の臭いがしたと言う。 
OPCWが精査した他の説明内容も数多くの犠牲者は通常爆撃によって起こった煙や埃を吸い込んだことに起因するものであることを示唆している。
本報告書は下記のように具体的に述べることが可能だ(訳注:しかしながら、実際にはそうしてはいない): 
ある目撃者は47日には執拗な爆撃によって、あるいは、煙や埃を吸い込んだことによって病院で数多くの人たちが亡くなったと言った。緊急治療室の床には何十もの死体が横たわっており、埋葬待ちとなっていた。他の目撃者は47日のドーマの病院では死者は無く、あの日はどこからも死体が運び込まれてはいなかったと言った。
目撃者間には互いに矛盾する報告が目立ち、47日の出来事ではたった1件の死者についてさえも塩素と関連付ける証拠には欠けているのである。さらには、一貫性に欠け、矛盾だらけのこれらの状況はシリア政府がドーマにおける勝利の前夜に致死的な化学兵器攻撃を行ったとする主張の「証拠」としてこの報告書を用いることは不可能である。

武装勢力の作業所でよく似たガスボンベを発見: 
西側のメディアは塩素が発見され、現場におけるふたつの建物に落下した2個のガスボンベから発せられたとする本報告書の結論に焦点を当てているが、他の重要な知見は、予期されたことではあるが、いい加減に扱われた。OPCWの検査官が調査した武装勢力の武器の作業所には爆発物を作るために必要な化学品が大量に蓄えられていたことが明らかとなった。爆発物を製造するための一連の化学品や機材と並んで、1個の黄色いガスボンベも発見された。
本報告書は下記の事柄を認めるべきであろう(訳注:しかしながら、実際には認めようとはしない):
検査チームは倉庫に黄色のガスボンベが存在していることを確認し、シリア共和国の口上書(添付文書10、第2項)ではこれが塩素ボンベであるとして報告されているが、安全性の観点(ボンベのバルブをいじることに伴う危険性。図A.8.2を参照)から、内容物のサンプルを入手する、あるいは、確認することはできなかった。落下場所2および4で目撃されたボンベと比較すると、このガスボンベには相違点がある。このガスボンベはオリジナルの状態のままであって、まだ改造されてはいない点に注意されたい。
武装勢力の支配下にあった武器を製造する作業所でガスボンベが発見されたことが何を意味するかは明らかであるにもかかわらず、OPCWがこのガスボンベに興味を示さないことは監査官の勤勉さや意図に改めて疑念を投げかけることに繋がる。
このガスボンベには相違点があるが、これは落下地点2および4で発見されたボンベは爆弾に改造されていたという事実から来ることであり、明らかに、武装勢力の作業所で発見されたボンベはまだ改造されてはいなかった。
武装勢力が武器を製造するために使用していた作業所でほとんど同一のボンベが発見されたことが何を意味するかと言うと、落下地点2および4で発見された2個の改造ガスボンベは武装勢力によって改造されたという公算が高まる。OPCWの検査官はこの作業所で他にも改造された武器を発見した。たとえば、20リットル容量の数多くの金属製ドラムが発見され、いくつかはコード型のフューズが取り付けられていた。これらにはプラスチック製の爆発物が装填され、自家製の爆発物として使われていたようである。
西側のメディアは作業所で見つかったガスボンベの存在を捨て去ろうとした。そのガスボンベはシリア政府軍がでっち上げたものであると仄めかしたのである。
英国のハフィングトンポスト紙の上級編集者であるクリス・ヨークは問題の作業所に関して下記のような記述をする始末であった: 
反政府派の爆発物作業所はシリア政府軍によって数日前に確保され、彼らはやっきとなってこの作業所を化学兵器用の作業所に見せかけようとした。
実際には、OPCW自身はその種のことを提示しようとはせず、作業所で発見された装置は武器の製造所のそれとよく一致すると述べている。OPCWは、ガスボンベも含めて、何かが改造されたとは報告書の如何なる部分でも述べてはいない。このことに関しては、OPCWは「何等の改造もされてはいなかった」と具体的に述べている。
落下地点2および4にて発見されたボンベと非常によく似ているガスボンベが武装勢力の武器の製造所で見つかったということは、化学兵器攻撃を行ったのはシリア政府側だと主張しているけれども、西側のメディアが落下地点2および4で発見されたボンベは、少なくとも、武装勢力が化学兵器攻撃をでっち上げたという証拠を提供するものだ。
落下地点2および4で発見されたボンベはいったい誰が製造したのか、いったい誰がそれらを投下したのか、あるいは、それらの特定の場所に至った真の状況に関しては決定的な証拠が欠けていることから、より中心的な問いかけとしては、それらのボンベがいったい「どうして」これらの場所に到達することになったのかという点を究明することが必要となろう。

ーマにおける化学兵器攻撃 - いったい誰が得をするのか? 
主要な軍事的侵攻の最中であって、完璧な勝利を収めるであろう当日の前夜に、いったいどうしてシリア政府側は43人を殺害するために限定的な量の化学品が充填された2個のボンベを投下する必要があったと言うのであろうか?もっと単純に行える砲撃でその程度の数の住民を殺害することができるというのに。場合によっては、もっと多くの殺害も可能だ。
化学兵器の使用は、たとえもっと大規模に使用したとしても、通常兵器よりも効果が低いことは歴史的に証明されている。ドーマで使用されたと言われている塩素の使用は、そのような小規模では、思い当たるような目的が見えては来ない。少なくとも、シリア政府軍側にとっては・・・ 
他の如何なる主張が行われようとも、反政府派武装勢力や西側の資金提供国がシリア紛争の間中主張して来たようにシリア政府が化学兵器攻撃の後押しをすることからはシリア政府は何の利益も得ないのである。
ーマにおける化学兵器攻撃がシリア政府軍によって行われたと想定してみよう。しかしながら、これは戦術的にも、戦略的にも、政治的にも何の目的も果たさないのだ。
逆に、そのようなことを行った暁には、シリア政府側はその稀に見る行動によってシリア政府軍に対する西側からの大規模攻撃を正当化させてしまうのが落ちだ。
事実、化学兵器攻撃があったとされた日から1週間後、ガーディアン紙の報道によると、その報復として米英仏は100発ものミサイルをシリアにぶち込んだ。
その一方、ドーマを占領して来た武装勢力にはこの種の化学兵器攻撃をでっち上げるのに十分過ぎる程の理由が存在する。
彼らが敗走する前夜に化学兵器攻撃をでっち上げ、人々が苦しんでいる場面、特に、子供たちが苦しんでいる生々しい場面を作り出すことによって、武装勢力は世界中の一般庶民の間に懸念や同情、あるいは、彼らの理由付けを守れと要求する世間の激しい声を導く格好のプロパガンダを手にした。これは、彼らが所有し、世界中に広がるメディアを活用して、西側の資金提供国が熱心に増幅しようとしたプロパガンダである。
単に化学兵器を所有しているという間違った批判に基づいて米国が戦争を仕掛けようとした前例を受けて、武装勢力は、彼らのでっち上げの化学兵器攻撃の流れに乗って、米国はこれをシリアに対する軍事行動を起こすきっかけとして使うだろうと推察した。さらには、多分、彼らを救出してくれることだろうと。
米国は今日でも依然として「化学兵器」のことを言及する。具体的には、201847日のドーマでの出来事についてだ。これはシリア領土を非合法的に占領し続け、シリア政府を転覆しようとする武装勢力を支援するための口実の一部に他ならない。
喧伝されているシリア政府による「化学兵器」の使用は西側のメディアが反戦の政治家や評論家、解説者を攻撃する際の中心的な議論として決まったように使われている。
OPCWの報告書の結論は何らかの結論を導くには余りにも曖昧である。化学兵器攻撃に使われたとする手作り爆弾と酷似しているガスボンベが武装勢力の作業所で見つかったことは深刻な論議をもたらし、それが意味することはあの攻撃はでっち上げであったという見方である。この議論については適切に調査を行い、事実に基づいた答を見つけなければならない。
シリア政府はこの化学兵器攻撃からは何の利益も得ないし、政治的にも戦略的にも大失態となるだけであるという点に関してもシリア政府の動機については深刻な論議を呼ぶことだろう。結論を導く前にシリア政府の動機についても答を見い出さなければならない。
しかし、彼らが以前から何度も自ら示して来たように、西側のメディアは薄っぺらな証拠に基づいて、場合によっては何の証拠も無しに、まったく非論理的な嘘をつくことに長けている。そして、以前嘘をついたことをあからさまに見つかった後でさえもそういった嘘を繰り返すのである。
シリアのドーマに関するOPCWの最近の報告書に関しては西側のメディアがあれこれと「解釈」をすることであろうが、隣国のイラクで大嘘をついたことがバレてしまった後でさえも、西側のメディアは依然としてシリアに関して大量破壊兵器の筋書きを売り込もうとしている点については、これを一般大衆が抱く世界観の最先端に据えて、注意深く観察するべきであろう。
著者のプロフィール:トニー・カルタルッチはバンコックに本拠を置く地政学研究者であり、作家でもある。「New Eastern Outlook」のオンライン・マガジンに寄稿している。  
<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。
この記事でもっとも重要だと思われる点は、著者が指摘しているように、西側のメディアはこの報告書はシリア政府がドーマで化学兵器を使用した証拠になるとして歓迎していたが、この報告書はその種のことは一切報告していない。実際には、本報告書は化学兵器攻撃によって死亡したとされる43人の誰をも攻撃現場で発見された塩素と関連付けることはできなかったのであるという点だ。
しかしながら、OPCWの最終報告書には曖昧さが多く、今後西側のメディアが自分たちの主張に都合のいいように「解釈」するであろうという懸念が残る。
OPCWの最終報告書に見られるさまざまな問題点に関して、著者は現場で発見された事実に基づいてOPCWはこう言うべきであったとして、具体的な文言を提案している。要するに、著者はOPCWの言葉不足を指摘し、現地で起こった事柄を第三者的な検査官の立場で報告しようとした場合どのような内容の報告書になるのかを具体的に示してくれたのである。貴重な試みであると思う。と同時に、分かりやすい。
OPCWの最終報告書に関する著者の具体的な不満は、たとえば、次のような指摘となっている:
「武装勢力の支配下にあった武器を製造する作業所でガスボンベが発見されたことが何を意味するかは明らかであるにもかかわらず、OPCWがこのガスボンベに興味を示さないことは監査官の勤勉さや意図に改めて疑念を投げかけることに繋がる。
OPCWの最終報告書の曖昧さはいったい何処から来たのであろうか?
ここに、「圧力を受けて、OPCWはドーマに関して米国と矛盾を来すことに懸念 - ロシア代表の言」と題された最新の記事がある(注2)。
オランダのOPCWの本拠には各国から代表が送り込まれている。日本からも代表が詰めている。この最新記事(注2)はシリアに関してOPCWの一連の行動を真近に観察して来たロシア代表からの報告である。彼に言わせると、ドーマに関するOPCWの最終報告書は米国の顔色をうかがったものであって、中立的な報告書ではないという。ロシア代表が記者会見で述べた要旨を記録として下記に残そう:
あの攻撃がでっち上げであったと認めることは米国のシリアに対する爆撃を非合法的なものにしてしまうことから、OPCW2018年にドーマで起こったとされる化学兵器攻撃に関して偏見のない報告書を提出することはできなかった、とOPCWに派遣されているロシア代表がRTに語った。
月曜日(311日)に、ロシアの専門家らは記者会見を行い、本報告書について語った。モスクワ政府からOPCWへ常任委員として派遣されているアレクサンダー・シュルギンは会見後にRTに次のように述べている。化学兵器監視機関の指摘事項は「ギャップだらけで、矛盾が多く、一貫性がない」と。 
私の印象では、OPCWの技術事務局の専門家らは、単純に言って、米国代表が提案した文案に反論しようとはしなかった。米国代表は臆面もなくシリア政府が主犯だと言った。
事実調査団からの本報告書はドーマにおける化学兵器攻撃は誰の仕業であったのかに関しては何も述べてはいない。その仕事はこれから始まる別のチームの仕事であるからだ。
シュルギンは彼自身の見解を述べてくれた。「責任の帰属を究明するチームは米国側が必要とする結論を導くことだろう。そして、その結論は米国とその同盟国がシリア政府に対して新たに一方的な行動をとるための理由として使われるだろう。」 
この「注2」の記事が伝えている内容はOPCW内でどんな議論が行われ、OPCWの最終報告書がどのようにして最終結論に到達したのかを部分的に垣間見せている。これはOPCWの動きをすべて目撃して来たロシアからのOPCW常任委員によって語られた内容であり、内部情報である。この報告は非常に重要だ。
そして、国際政治の不条理をよく理解している皆さんは「・・・OPCWの技術事務局の専門家らは、単純に言って、米国人が提案した文案に反論しようとはしなかった。米国人は臆面もなくシリア政府が主犯だと言ったとの文言を目にして、米国の相も変らぬ傲慢さに辟易としているのではないだろうか。
OPCWという化学兵器を監視する役割を持つ国際機関が事実調査団を現地へ送り込んで調査を行ったとは言え、その調査が偏見のない、中立的な立場で調査を行うことを最初から放棄してしまい、米国の顔色ばかりをうかがっていたとしたら、その最終報告書がどのような内容になるのかは大よその見当がつく。
今回のOPCWの最終報告書はマレーシア航空MH-17便撃墜事件に関するオランダ政府を中心とした国際調査団の報告書が如何に偏見に満ちた結論を導いたかを彷彿とさせてくれる。これらのふたつの報告書の共通項は「偏見に満ちた報告書」にある。

参照:
1OPCW Syria Report Cripples Western ‘Chemical Weapons’ Narrative: By Tony Cartalucci, NEO, Mar/04/2019
2‘Pressured’ chemical watchdog afraid to contradict US on Douma chemical incident - Russian envoy: By RT, Mar/12/2019, https://on.rt.com/9pzi








2019年3月8日金曜日

このままでは欠かすことができない昆虫さえもが絶滅してしまう

農業における殺虫剤の使用は有益な昆虫をも絶滅に追いやってしまうという懸念が今や高まるばかりである。
もっとも身近な例はミツバチの個体数の激減に見られ、果樹園での受粉作業さえもが影響を受けている。いくつもの推論があるが、それらの中で殺虫剤が主な要因であるとする説が有力視されている。ミツバチの個体数の激減はすでに各地で報告されている。
ネオニコチノイド系殺虫剤とミツバチの個体数の激減との関連性を論じた2016年の報告書(注1)はその要旨で次のように述べている:
野生のハナバチ(ミツバチやマルハナバチ、等)の減少は部分的にネオニコチノイド系殺虫剤に起因しているとされてきた。商業的に育成された種類、主として、ミツバチとマルハナバチに関する研究室における短期的な研究によると、亜致死的影響が特定されてはいるものの、これらの殺虫剤と野生のハナバチの個体数の減少との間には強い関係はないとされている。われわれは18年間におよぶ英国における62種の野生ハナバチの分布データと菜種に使用されたネオニコチノイドの量との関連性に着目する。多種間の動的ベイジアン占有分析を駆使して、われわれは菜種の種子処理に使用されたネオニコチノイドに応じてハナバチ集団が絶滅する率が増加する証拠を見い出す。菜種畑で採食するハナバチはこの作物が広大な面積で栽培されていることから恩恵を受けるが、それと同時に、ネオニコチノイドに対する暴露によって作物からの採食をしないハナバチに比べて3倍もの負の影響を受ける。われわれが見出した結論はネオニコチノイドの亜致死性がハナバチの生物多様性の喪失をもたらす原因となり得ることを示している点にある。ネオニコチノイドの使用を規制することによってハナバチの個体数の減少を抑えることが可能だ。
上記の要旨に述べられているごとく、著者らは数理統計学を駆使した調査によってハナバチの個体数の減少と菜種の種子処理で用いられたネオニコチノイドの残留物質との間に関連性があることを突き止めたのである。
ハナバチの生物多様性が失われた暁には、作物や果樹の受粉が行われず、食糧生産に甚大な悪影響を招くであろう。
前置きが長くなったが、ここに、「このままでは欠かすことができない昆虫さえもが絶滅してしまう」と題された最近の記事がある(注2)。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>
Photo-1

農薬業界からは独立した最近の研究報告によると、われわれは、ハナバチを含めて、農業用殺虫剤の使用によって世界中の欠かすことができない昆虫類の集団を絶滅させるという脅威を産み出している。われわれの殆どにとってハエやカまたはカリバチは迷惑であって、それらは避けたい存在である。しかしながら、最近の研究が何を示唆しているのかと言うと、自然界の均衡を維持している欠くことができない有益な昆虫を大量に駆逐してしまう危険を招くかも知れないのだ。地球上の生命に及ぼす影響に関する真剣な討議を、今になってようやく、始めようとしているところである。

最近、昆虫の種類や個体数の減少に関して初の世界規模の調査結果が「Biological Conservation」誌にて発表された(訳注:これは20194月号のことであるから、ごく最新の報告である。19ページもの長論文)。その結論は警告以上の存在である。もっとも中心的な結論は40パーセント以上もの昆虫の種が絶滅に瀕しているという現実にある。 

この調査は種の激減をもたらした主要因は、グリフォサートやネオニコチノイドおよびその他の殺虫剤、等による農薬汚染と並んで、昆虫の生息地が農業のために開発されてしまったことにあると報告している。「本稿では、われわれは世界中で発表された73個の歴史的な報告書を総合的に吟味した結果を提示し、基本的な要因を組織的に評価したい。我々の研究は驚異的な絶滅率を見い出した。今後2030年間に世界中の昆虫の40パーセントが絶滅するかも知れない」と著者らは説明する。

本調査は、最近の分析の結果、膨大な量の殺虫剤の使用が草原の鳥類や流れの中に生息する魚や蛙といった水棲生物の減少をもたらした主な要因であることを指摘している。 

本研究が言及する他の論点のひとつとしては、27年間に及ぶドイツでのいくつかの自然保護地区における昆虫の個体数に関する研究が挙げられ、次のように報告している。「驚くべきことには、これらのドイツの保護地域のいくつかにおいては飛翔昆虫が76パーセントも減少したことだ。これらの地域は人による害が比較的低いレベルにありながらも、これは年率で2.8パーセントもの減少に匹敵する。気がかりなことには、本調査はほぼ30年間にわたって恒常的な減少を示している。プエルトリコの熱帯雨林における研究によると、36年の期間に地上で捕食する節足動物や樹冠に生息する節足動物は78から98パーセントも減少した。これと並行して、同地域では鳥や蛙およびトカゲも減少している・・・」 

ハナバチの個体数の減少に注目しなければならない。特に、マルハナバチだ。1980年以降、英国における野生ハナバチは52パーセントも減少し、オランダでは67パーセントも減少した。第二次世界大戦後、大規模なアグリビジネスを展開し、農薬の使用を推進して来た米国では、2008年から2013年までの期間だけでも野生ハナバチが23パーセントもの減少を示した。主として、中西部、大草原地帯、および、ミシシッピ川流域で減少した。これらの地域では穀類の生産が盛んで、特に、バイオ燃料の生産に使われる遺伝子組み換え(GMO)トウモロコシが多く栽培される。GMOトウモロコシの栽培にはグリフォサートや他の農薬が広く使用される。1947年には米国全体で6百万ものミツバチの集団があったものだが、今日、その数は半数以下の250万に減少した。個体数の減少は有機塩素化合物であるDDTが農薬として使用されると共に始まった。米国では1972年にDDTの使用が禁じられたが、その後もDDTはグリフォサートをベースとした代替物質や他の農薬によって取って代わられ、個体数の減少は衰えることもなく、継続している。

不可逆的な減少か? 

一般大衆のほとんどは自然の生態や種の保全のために昆虫が演じている役割に関しては十分な理解をしてはいない。本報告書が報告しているように、「トガリネズミやモグラ、ヤマアラシ、アリクイ、トカゲ、両生類、コウモリのほとんど、数多くの鳥や魚は昆虫を捕食し、子育てでは昆虫に依存する。減少の途上にある昆虫は他の種類の昆虫によって置き換えられるとしても、昆虫全体のバイオマスの減少に対していったいどんな策を講じることができるのか?具体策を提案することは極めて困難である。」 酔いも覚めるような指摘をいくつもしている中で、本研究は「農地への除草・殺虫剤の散布は、他のどんな農法と比較しても、地上や水生の植物ならびに昆虫の生物多様性に対して遥かに否定的な影響を与えている」と結論付けている。今日、世界中でもっとも多く使用されている除草剤はグリフォサートであり、それをベースとしたモンサントのラウンドアップである。 

カリフォルニアの「無脊椎動物を保全するザークシーズ・ソサイエティ」(Xerces Society for Invertebrate Conservation)が行った最近の研究はカリフォルニアのオオカバマダラ蝶の個体数が史上で最低のレベルにあることを報告した。調査が開始された1980年代から2017年までの期間にオオカバマダラは97パーセントが消滅した。その後、2017年から今日までの期間に85パーセントもの減少が記録された。科学者らは殺虫剤や除草剤の大規模な使用が主要因であると主張している。

テキサス大学の科学者は議論が絶えることがないモンサント製ラウンドアップ除草剤に使用されているグリフォサートはミツバチが成長し、病原体に抵抗するのに必要な微生物叢に害を与えているとの事実を実験によって突き止めた。ニコチノイド系殺虫剤がミツバチの死と関連性があることをしばらく前に指摘した別の研究と組み合わせると、これを要するに、これは農作物に広く散布されている毒性物質に関する早急な精査を求めるものである。注目すべきは、ネオニコチノイド系殺虫剤とグリフォサートをベースにしたラウンドアップの世界最大の提供者はモンサントを吸収したバイエル社である。

これらの研究はどちらもが今まで多くの場合に無視されていた農薬の影響に焦点を当てている。世界中の生態系の多くにとって、昆虫はその基幹的な構造や機能の一部を成している。鳥やミツバチがいない世界はこの地球上の全生命に対して壊滅的な影響を及ぼすであろう。昆虫無しでは、生態系全体が崩壊してしまう。アグリビジネス業界は「世界の飢餓を解決する」と好んで主張するが、彼らが推進するグリフォサートのような特定の殺虫剤・除草剤はむしろ食糧システムに崩壊の脅威を与えている。正常な精神状態においてはわれわれは誰だってそのようなことをしたいとは思わないだろう。あなたはどうお思いだろうか?

著者のプロフィール: F・ウィリアム・エングダールは戦略的リスクに関してコンサルタント役を務め、講演を行う。プリンストン大学で政治学の学位を取得し、原油と地政学に関して最も良く売れている書籍を送り出し、オンライン・マガジンである「New Eastern Outlook」のために独占的に執筆している。


<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

レイチェル・カーソン著の「沈黙の春」という書籍があった。それは一般大衆の関心を呼び、かって農薬として世界中で広く使用されていたDDTを使用禁止へと導いた。また、シーア・コルボーン著の「奪われし未来」という書籍が環境ホルモンに関する一般大衆の理解を深めることに大きな役割を果たした。

これらの事実や他の多くの事例を歴史的な枠組みで眺めてみると、社会の不条理を是正する上でわれわれ一般大衆の理解が基本的にはもっとも重要であることを示していると言える。

除草剤や殺虫剤が生態系に及ぼしている悪影響は、この引用記事が主張しているように、今や地球上の生態系全体が存続できるのかどうかを危ぶませるような段階に到達している。この事実はもはや議論の対象ではなく、むしろ、不可逆的な地球規模の大惨事を起こさないためにも、われわれの世代、つまり、あなたや私の世代は具体的な施策を真剣に追求しなければならない。



参照:

1Impacts of neonicotinoid use on long-term population changes in wild bees in England: By Ben A. Woodcock, et al, Nature Communications volume 7, Aug/16/2016
2We’re Killing Off Our Vital Insects Too: By F. William Engdahl, NEO, Mar/02/2019





2019年3月3日日曜日

節度を欠いたBBCの仮面舞踏会 - 病院での自作自演の場面を化学兵器攻撃の証拠として使用

BBCと言えば、世界を代表する報道機関のひとつとして押しも押されもしない存在であった。フェークニュースに身をやつし、ジャーナリズムの使命を忘れてしまった米国の大手メディアもまったく同様だ。今や、定評のあったこれら西側のメディアは歴史上の伝説と化してしまったかの感が強い。

その典型的な行動は事実を究明するという基本的な役割から逸脱し、さまざまな形で戦争を後押しするかのように振舞っている大手メディアの報道姿勢に見られる。新聞の販売部数やテレビの視聴率を伸ばすために扇動的な情報を流すことが行動規範となって久しい。悲しい現実である。

しかしながら、世間には大手メディアには属さず、事実を掘り起し、真実を伝えようとする調査報道に熱心なフリーランス・ジャーナリストが少なからず存在する。シリア紛争の例でも実証されているように、もしもあなたがシリア紛争の現場で何が起こっているのかを知ろうと思ったら、西側の大手メディアに頼ることは無意味だし、頼るべきではない。フェークニュースやでっちあげ記事によってうまうまと洗脳されるのが落ちだ。しかし、もっとも大きな脅威はあなたは偽りの報道を読んでいることにそう簡単には気付かないという現実である。少なくとも、私は自分の経験からそう断言することができる。膨大な資金を抱え、数多くの人材を組織化することが可能な大手メディアの報道は心憎いばかりに巧妙である。
このような疑似的現実を見るにつけ、フリーランス・ジャーナリストの存在が如何に重要であるかを改めて主張しなければならないと感じる。

「節度を欠いたBBCの仮面舞踏会 - 病院での自作自演の場面を化学兵器攻撃の証拠として使用」と題された最近の記事(注1)はジャーナリズム精神を実践しようとするフリーランス・ジャーナリストの活躍振りを詳細に伝えている。西側の大手メディアが紙屑同然になってしまった今、この記事にはわれわれ一般大衆が学ぶべき点がたくさん含まれている。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

途方もなく節度に欠けた仮面舞踏会であった。BBCが如何にして病院での場面をドーマでの化学兵器攻撃の証拠として描写したかを今一度ここでおさらいをしておこう。

Photo-1: 著者のヴァネッサ・ビーリーは独立した調査報道ジャーナリストである。彼女は「21st Century Wire」の副編集長を務めている。


Photo-2: 「化学兵器攻撃」があったとされ、ドーマの病院でその犠牲者が「処置」を受けている。© HO / Douma City Coordination Committee / AFP

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状況が展開する中、企業メディアが国家の外交政策の延長線上で行動している事実が暴露された。しかも、大手メディアという今日的な陰謀集団のメンバーのひとりによって暴露されたのである。彼らは、またもや、シリアの政権交代に対する賛意の醸成を演出しようとした。 

リアム・ダラティはベイルートにあるBBCの製作チームに所属する。ツイッター上ではBBCの中東特派員として著名なクンティン・サマーヴィルの「名誉ある同僚」であると自己紹介をしていた。自分が所属する英国政府にべったりのメディア集団とは異なり、ダラティはツイッター上で「約6か月間の調査の結果、ーマの病院での場面は疑いもなく演出だ」と言明した 

rt.comの関連記事: 2018年のドウーマでの「化学兵器攻撃」後の病院での場面はでっち上げだとBBCのプロューサーが述べる (BBC producer says hospital scenes after 2018 Douma ‘chemical attack’ were staged)

問題の場面は人道主義に徹した集団であると自称するホワイトヘルメットが作成したものであり、201847日に起こったとされる化学兵器攻撃の際にーマ地域を支配していたジャイシュ・アル・イスラムという武装過激派グループとも関わり合う行動であった。「化学兵器攻撃」の後に病院でホースで水を掛けられている子供たちの場面は信用できるものとして直ちに受け入れられ、BBCCNNおよびチャンネル4を含む西側のメディアによって扇動的な表題と並べて報じられた。ガーディアン紙のサイモン・ティスドールは「ドーマでの攻撃を受けた今、シリア政府に対する西側の反応は軍事的なものでなければならない」との表題を付して、自分の意見を表明した。これはドーマ事件のたった2日後のことであって、実質的に全面的な戦争を呼びかけるものであった。

ダラティのツイートは明らかに指導者階級の何人かの著名人には苦痛を与えただろうが、ダラティはこういった議論にまったく縁がなかったという訳ではない。ーマで起こったとされる事件の直後、彼は「活動家や反政府派は子供の死骸を使って、西側での情報の開示のために扇動的な場面を演出した」と述べて、個人的な不快感をツイートしていた。ダラティのツイートには感情的な言葉使いが見られるが、彼は「出来事をあれこれと操作することには辟易としていた。死体が散らばる戦場では子供が小道具として使われることはこれが初めてという訳でない。これは自国民をガスで毒殺したとして非難されているアサドを糾弾するにはシリアに対する軍事的介入を強化しなければならないとする筋書きに沿って、直ぐにでも必要な人道的支援を行うかのような装いを施しながら、一般大衆の賛意を引き出そうとするものである」ことを示唆した。


ダラティが言及したのはふたりの子供の死体をあたかも「最後のハグ」をしているかのように演出している様子であった。この写真は支配下にあるシリア人市民を拷問し、弄んだジャイシュ・アル・イスラム武装集団と協力する活動家らによってソーシャルメディア上に投稿され、大きな反響を呼んでいた。

ダラティが明らかに感情を爆発させた事実は、恐らく、彼が2013年の9月にBBCの「シリアの子供らを救う」と題されたパノラマ・ドキュメンタリーの製作に参画したことによっても説明することができよう。独立した研究者であるロバート・シチュアートは自分の生涯をかけた仕事をした。彼は「近所の学校に対する焼夷弾攻撃を示そうとしたBBCの職員や他の連中が2013826日に撮影したアタレブ病院やアレッポでの出来事を時間的な順序にしたがって並べてみると、すべてがそうだとは言えないが、そのほとんどは演出である」と述べ、説得力のある議論を行っている。ダラティは、多分、シリアにおける米ロ間の戦争へと発展したかも知れない余りにも多くの演出された出来事を目撃して来たに違いない。

ダラティが感じた憤りの理由が何であったにしても、骨抜きにされたバージョンが現れる前に彼のツイートは削除された。ダラティはこの変更の背後には「編集方針の侵害や前後関係に欠如があった」と述べている。明らかに、BBCの従業員はもっと数多くの子供たちの殺害が避けようもない戦争を後押しするためには、死んだふたりの子供たちの活用に「辟易としている」余裕なんて許されないのである。と同時に、ダラティのツイッター・アカウントには制限が施され、承認されたフォロワーだけが彼のツイートを見ることができるように変更された。

今までのところふたつの重要な機会があった。ダラティにはシリアのロードマップに関するBBCの筋書きからは逸脱しようとした節が見られる。しかしながら、ーマでの出来事が起こった時、彼が属する企業メディアは「化学兵器攻撃」に関して疑問を表明したジャーナリストや学者にリンチを加え、「陰謀論を標榜する理論家」であるとして彼らを退けようとしていたが、ダラティはその行動に加わっていた。これらの「陰謀論を標榜する理論家」には定評のあるジャーナリストであるロバート・フィスクやドイツの公共メディアであるZDFの経験豊富な戦場特派員であるウリ・ガック、等が含まれる。独立したジャーナリストであるエヴァ・バートレットやワン・アメリカン・ニュース・ネットワークのピアーソン・シャープも演出の証拠を示して、ーマでの出来事が大手メディアによって歪曲されていることを報告した。

攻撃があったとされた後に私はドーマを訪れ、化学兵器攻撃は何もなかったと断固として言い張る医療関係者や市民らにインタビューを行った。医師や看護師で、ちょうどその夜勤務に就いていた医療関係者は大人や子供らが煙を吸い込み、その影響に苦しんでいたと言った。彼らは活動家やホワイトヘルメットの工作員らが病院へやって来てパニックを引き起こす様子を描写してくれた。彼らは「化学兵器攻撃だ」と叫び、それにすっかり怯えてしまった患者らにホースで水をかけたのである。20歳のスレイマン・サオウールは私にこう言った。「午後の7時、われわれは一日中負傷者を受け入れていた。7時に誰かが男の子を連れてやって来た。彼はその子供をベッドの上に寝かせ、この子は化学兵器攻撃を受けたと言った。基本的には私がその子を診察した。その子は煙を吸い込んだせいで苦しんでいた。彼の顔を洗ってやり、スプレイとヴェントリンを投与した。後に、男の子が喘息持ちであることを発見したが、彼の喘息は煙のせいで悪化していた。」


「シリア、プロパガンダおよびメディアに関する作業グループ」の他のメンバーがそうであったように、学者であり教授でもあるピアース・ジョンソンとティム・ハワードは組織だった攻撃を受けた。それはこれらの学者が諸々の出来事を分析し、化学兵器攻撃があったとする主張に疑念を挟んだからであった。英国では、タイムズ紙が私や他の「ごろつき」学者らに「アサドの有用な愚か者」というレッテルを貼り、少なくとも4本の記事を流した。それはちょうど英米仏がシリアに対する非合法的な爆撃を行った日であり、この爆撃は西側の企業メディアが不名誉な程に慌てふためいて誤判断をした結果であった。

「陰謀を標榜する理論家」の名誉を傷つけたとして彼が批判していた相手と同じ結論にダラティ自身が到達するのに6カ月を要したことから、われわれは彼が突然その結論を公開するに至った動機を探ってみなければならない。シリア駐在の元英国大使であったピーター・フォードが私にダラティが行った暴露について自分の意見を伝えて来た。英国はシリアへの爆撃に関してトランプとマクロンに賛同した。彼らはBBCが嫌になるほど報道していた動画に爆撃の根拠を置いた。しかし、シリアに駐在するBBCのプロデューサーはその動画は演出されたものであって、彼はその証拠を持っていると言う。BBCは声明を発表したが、彼の主張を否定してはいない。これはいったい何を意味するのかと言うと、非常に衝撃的である。まず第一に、この国営放送は世論を操作することを文字通り黙認した。そして、二番目に、英国政府はシリアに対する攻撃を偽の情報や作り話に基づいて開始したという事実だ。これは公式調査の対象となる。」

フォードの声明はダラティが言ったことは非常に深刻な問題を提起していることを明らかにしてくれた。つまり、以前の「化学兵器攻撃」の筋書きでも情報が操作され、演出され、作り話であった可能性が高いのだ。「人権のためのスウェーデンの医師たち」が2015年にサルミンで起こった塩素ガス攻撃を調査した結果、その現場で行われた治療は非常に疑わしいものであったことを突き止めている。

スウェーデン人で小児科医のレイフ・エリンダー博士は「動画を詳細に調べた結果、何人かは死んだような様子で、子供たちに施された処置は奇妙であり、非医学的で、命を救おうとするものではなく、子供たちの生命を救うのには何の役にも立たない代物である」ことを発見した。この動画はホワイトヘルメットのメンバーとシリア・アメリカ医学界(Syrian American Medical SocietySAMS)での彼らの同僚によって作成され、飛行禁止区域を推進しようとする国連安保理での「非公開の会議」で提示されたものであった。この動きは米国およびその同盟軍が支援するシリアの地上におけるテロリスト部隊を防護しようとするものであると解釈される。

BBCのプロデューサーがドーマ「攻撃」における病院での場面は演出されていると公に喋ったことから、BBCはこれは従業員の個人的な見解であって、攻撃がなかったというわけではないと述べて、BBC自身を核心から遠のかせようとした。20187月のOPCWの中間報告は西側諸国のメディアの報告は扇動主義的であることをすでに記述している。「有機リン系神経剤またはその誘導物質は環境にも被害者とされる人たちの血清サンプルからも発見されなかった」と報告書は言う。サリンは発見されなかったのである。

rt.comの参考情報:イドリブでの「化学兵器攻撃」を演出するために、ホワイトヘルメットが子供らを拉致 (White Helmets stealing children for 'chemical attack' theater in Idlib)

OPCWによる「事実を究明するミッション」(FFM)はドーマで化学兵器攻撃が起こったという結論にはまだ至ってはいない。環境からのサンプルはトリクロル酢酸や抱水クロラールを含んでいると報告された。これらの物質は塩素消毒が施された飲料水から由来したものであるかも知れない。こうした断定的には言えない状況が存在しているにもかかわらず、BBCは、当初、ドーマでは「塩素が使用された」という表題を用い、後に、それを「ドーマでの攻撃では塩素が用いられた可能性がある」という表題に変更した。彼らはまたもや間違えたのだろうか?それとも、これはシリアにおける政権変更という外務・英連邦省による筋書きの方向へと世論を誘導し、それを補強しようとする懸命な試みであったのであろうか?

ダラティが言った内容は前後関係にしたがって判断しなければならない。彼の文言は企業メディア界の同僚でありジャーナリストでもあるガーデイアン紙のジェームズ・ハーキンが行き着いたものと同様な結論に到着した。ハーキンはドーマに関してザ・インターセプト(訳注:米国のインターネット・メディアのひとつ)にて長い調査結果を掲載していた。また、ハーキンはドーマの病院の場面は演出だったのではないかと言い、サリンが使用されたという作り話は役立たずであったことを認めている。

BBCの反論にもかかわらず、BBCの上層部からの承認もなしにダラティが自分の主張を公開するというリスクを負うとは考えられない。特に、BBCは現実には洗練された国営放送であることからも、植民地主義的なメディアを暴露する可能性がある出来事を吟味する際にはそのタイミングが常に非常に重要である。

われわれはOPCWが十分な情報や歴史的な前後関係を踏まえて諸々の出来事を理知的に解釈し、ドーマにおける攻撃について最終結論を下すであろうと推測する。BBCがドーマでの事実を偽り、歪曲したことを全面的に暴露する可能性をもった報告書、あるいは、企業メディアの報道について彼らにとっては不愉快極まりない質問を投げかけるような報告書となるのかも。これは、特に、シリアでの8年間の紛争の間シリア政府が化学兵器を用いたという彼らの主張にかかわるものだ。ダラティの衝撃的な情報公開は単にBBCが被害を最小限に抑えることでしかなかったのであろうか、それとも、ダラティは真理を報じようとした純然たる告発者だったのであろうか?この疑問は時間が解決してくれることであろう。

ダラティが行ったことは西側のメディアや政府高官らの偽善性や偏見に光を当てることである。ハーグにあるOPCWの本拠において証人たち(訳注:ドーマからやって来た6人の一般市民)がドーマでの化学兵器攻撃を否認した事実はロシアが「仕向けた」ものだとするBBCの報道は、とりもなおさず、この出来事を告訴することについて拒否した米英仏による「卑劣な行為」であるとして退けなければならないことを強調するものである。駐オランダ仏大使はシリアからやって来た証人たちが述べた証言を「節度を欠いた仮面舞踏会」であると評した。ガーディアン紙はこの言い回しを見出しに用い、ドーマでの攻撃について何らかの明快な説明をもたらそうとするロシアの真面目な試みを「推定された証人」をお披露目しただけだと揶揄した。これは自分たちのお気に入りの筋書きを脱線させかねないロシア側の試みについてその信用を落とそうとする試みであった。

真の意味で節度を欠いた仮面舞踏会はドーマの病院で起こった。その様子は英国の外務・英連邦省が資金を提供しているホワイトヘルメットによってでっち上げられ、ドーマをジャイシュ・アル・イスラムの手から最終的に救出する試みが急速に迫っている中でシリア政府軍をさらに犯罪者扱いするために、この作り話はBBCや言われたことを福音として書き留めるだけの他の国々によって採用された。そして、まさにこの節度を欠いた仮面舞踏会こそが米英仏による非合法的なシリア空爆をもたらしたのである。ピーター・フォードが言っているように、「この行為は公式調査を求める」ことになろう。

注:この記事に表明されている声明、見解および意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代弁するものではありません。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

この記事の目玉は化学兵器攻撃があったという主張は反政府側による自作自演であったのではないかという点にある。さらには、英国が資金援助をしていた「ホワイトヘルメット」と称される組織が大きな役割を果たしていた。引用記事の著者はシリア政府軍が行ったものではないと言いたいのである。

本記事の著者、バネッサ・ビーリーは独立したジャーナリストとしてシリアに関して現地から何度も報道をして来た。一方、西側の大手メデイアは現地からの報告は、この引用記事でも確認することができるように、西側が資金援助をしているホワイトヘルメットからの報告や動画が主体である。言うまでもなく、これら二つの報道姿勢には大きな隔たりがある。

この記事には著者と同様に調査報道に徹する著名なジャーナリストの氏名が沢山登場する。もちろん、これらのジャーナリスト以外にも献身的な人たちが数多くいる。しかしながら、独立したジャーナリストの数は大手メディアが抱えている無数の従業員やお抱えの評論家の総数に比べたら、ゼロに等しいのではないかと思う。

もしも英国が2018414日の米英仏によるシリア空爆に関して公的調査に乗り出すとすれば、その結果はかなり的確に推測することが可能だ。もっとも確率が高いと予想される結論はシリア空爆の根拠がでっち上げの動画に基づいていたという点であろう。今回のシリア空爆の状況は「大量破壊兵器」の存在をイラク攻撃の正当な理由として用いたかの悪名高い2003年の事例と驚くほどよく似ている。

バネッサ・ビーリーの活躍ぶりを読んで思い出すのはアンドレ・ヴルチェクというジャーナリストだ。彼については201819日に「戦場の特派員からの新年のメッセージならびに警告 - アンドレ・ヴルチェク」と題して掲載した。その投稿を一覧願いたいと思う。彼が描写する「疑似的現実」は今日の世界を理解しようとする時に必ずと言ってもいい程に用いたくなるような重宝な言葉である。一読に値すると付け加えておきたい。



参照:

1Real ‘obscene masquerade’: How BBC depicted staged hospital scenes as proof of Douma chemical attack: By Vanessa Beeley, Feb/16/2019, https://on.rt.com/9oh3 






2019年2月23日土曜日

INF条約の破棄 - ロシアの勝ち、米国の負け


米国が22日に中距離核戦力全廃(INF)条約を破棄したことを受けて、ロシアも同条約を破棄した。これに先立って、米国の声明によると、ロシアがINF条約を順守しさえすれば、米ロ両国は何時でもこの条約に回帰することが可能だと言っていた。

米国が主張するところによると、ロシアのINF条約の違反はロシア製の9M729型ミサイル(NATOによる呼称はSSC-8)にある。

米国の国家安全保障会議の高官であるクリストファー・フォードは20171129日にウィルソンセンターで行ったスピーチでINF条約に違反するロシア製ミサイルはノヴァター9M729であると初めて公表した。この地上発射型クルーズミサイルは射程距離が500㎞から5,500㎞の範囲内にあると考えられ、その射程距離が127日に30歳を迎えるINF条約に違反すると米国側は判断したのである。(原典:Novator 9M729: The Russian Missile that Broke INF Treaty’s Back?By Dave Majumdar, THE NATIONAL INTEREST, Dec/07/2017

しかしながら、問題は米国の判断が正しいのかどうかだ。

ロシア外務省はソ連時代に締結された中距離核兵器廃絶条約についてロシアが違反しているとする米国の批判を退けた。「これらの批判は最近モスクワ政府に対して行われている他の批判とまったく同じで、何の根拠もない」とロシア外務省は声明で反論した。「根拠となる証拠は何ら提示されてはいない」と同声明は言う。

2019123日、ロシア国防省は外国の大使館付き武官に対して9M729クルーズミサイル(NATOの呼称はSSC-8)を初めて展示した。この説明会には20か国以上の代表が集まった。しかしながら、「米国、英国、フランスおよびドイツの大使館付き武官は、招待状を受け取っているにもかかわらず、この説明会に姿を見せなかった」とロシア国防省は強調している。(原典:9M729 - SSC-8: By GlobalSecurity.org. 日付は不詳であるが、内容から察するに、発行日は少なくとも2019123日以降)

状況証拠的に言えば、明らかに、米国は自分たちの主張が間違っていたことを認めたくはなく、ロシア側の招待には応じなかったのだ。逆に言うと、米国は自分たちが言っていたことが間違いであったことを自ら認めたに等しい。

しかし、ここでは米ロのどちらの言い分が正しいのかを究明する意図はない。そういった判断をする前に、少なくとも、現状をより客観的に理解しておくことが先決だと思う。

そういう意味では、ここにある「INF条約の破棄 - ロシアの勝ち、米国の負け」と題された最近の記事が実に興味深い(注1)。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

もちろん、世間にはさまざまな異なる意見や見解が存在する。本件についてもまったく同様だ。そのような現実を十分に承知した上で、この引用記事を読者の皆さんと共有したいと思う次第だ。



<引用開始>

著者のドミトリー・オルロフはロシアや他のテーマについて論じる論客の中ではもっともお気に入りの一人である。彼は子供の頃米国へ移住し、現在ボストン地域に住んでいる。


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ザ・ニューヨーカー誌は2009彼を紹介した記事で彼の世界観を「反ユートピア的社会像」と呼んだが、彼はRUSSIA INSIDER (archive)の常連の寄稿者であるジェームズ・ハワード・カンストラーと共に最もよく知られている思索家のひとりだ。これらの理論家たちは現代社会が不快な、痛みを伴う崩壊に向かっていると考えている。

彼はソ連と米国の崩壊を比較した2011年の著作(米国の崩壊はもっと性質が悪いだろうと彼は述べている)によりもっとも良く知られている。彼は幅広いテーマを扱う多作家であって、アマゾンで彼を検索し、彼の作品を見ることが可能だ。

彼のウェブサイトのフォロワーは多数おり、パトレオンにおいても然りだ。Russia InsiderRI)がそうしているように、パトレオンでも彼を支援願いたい。 

彼が目下没頭しているプロジェクトは居住可能な手頃なハウスボートの製作を組織化することである。彼自身ボートに住んでいる。

もしも彼の著作をまだご覧になっていないならば、RIにて彼の記事のアーカイブをご一覧願いたい。彼の記事はまさに宝物の如くである。米国とロシアについてその実態を見抜く力が存分に発揮され、両国が如何に関連しあっているのかに関する洞察は実に見事である。




201831日、ロシアが新技術を駆使して開発した新兵器の存在は全世界に知られることになった。ロシア連邦議会での演説でプーチンがこれらの新兵器がどのようにして出現したのかについて説明したのである。2002年、米国は弾道弾仰撃ミサイル制限条約から脱退した。当時、ロシア側はこれに対応せざるを得ないだろうと述べたが、実質的には、「好き勝手にやってくれ」と言われた。



Photo-2:ライバルよりも頭が切れる

ロシア側は新兵器を開発した。それは弾道弾仰撃ミサイルシステムによって阻止しなければならないと考えることなんてかって一度もなかったような最新の兵器であった。ロシアはまったく好き勝手に開発を進めて来たのである。これらのロシアの新兵器にはすでに実戦に配備されたもの(キンジャール)や大量生産を開始するもの(アヴァンガルド)、目下テスト中のもの(ポセイドン、ブレヴェストニクペレスウェート、サルマート)、等が含まれる。簡単に言うと、これらの新兵器の特徴は下記のような具合だ: 

  • キンジャール: 極超音速の空中発射型クルーズミサイルで、マッハ10(時速7,700マイル)で飛行し、地上施設や船舶を破壊する。
  • アヴァンガルド: マッハ20(時速15,300マイル)で飛行する大陸間弾道弾のための操縦可能で、極超音速で飛ぶ弾頭輸送システム。740マイル(1,184キロ)の射程距離を持ち、最大で300キロトンの核弾頭を搭載することが可能。
  • ポセイドン:核動力の自律型魚雷で、射程距離には限度がなく、3,000フィート(900メートル)の深さで100ノット超の速度を維持する。
  • ブレヴェストニク: 核動力のクルーズミサイルで、時速約270マイル(432キロ)で飛行し、24時間滞空することが可能。射程距離は6,000マイル(9,600キロ)。 
  • ペレスウェート: 移動可能なレーザー兵器で、ドローンや衛星の目をくらませることができる。つまり、宇宙空間や空中における偵察システムを破壊する。
  • サルマート: 新たに開発された大型の大陸間用ミサイルで、任意の弾道飛行コース(たとえば、南極経由で)を飛行し、地上の任意の地点を攻撃することが可能。予想が可能な弾道飛行は行わないので、仰撃のしようがない。

この発表に対する当初の西側の反応は異常とも言えるような沈黙であった。何人かは自分の話を聞いてくれそうな人に対してこれははったりであって、コンピュータで作成したアニメーションに過ぎず、これらの兵器システムは実際には存在しないと述べて、それを信じ込ませようとした。(アニメーションは確かに低品質であって、誰かがこう注釈することだろう。多分、ロシアの典型的な軍人は米国人がお金をたっぷり注ぎ込むような見栄えのする映像がロシアをより安全にしてくれるなんて考えもしなかったであろう・・・) しかし、これらの新兵器システムが稼働していることが示され、米国の諜報部門はこれら新兵器の存在を肯定した。



Photo-3:自信過剰の犠牲者

何らかの反応をせざるを得ないと思い、米国側は後ろに従えるEUと一緒になって関連性のない事柄に関する広報活動で醜聞を引き起こした。たとえば、ウクライナでのクーデターがクリミアをロシアへの併合に追いやった後、マレーシア航空のMH17便事件に関しては感情的で、かつ、悪質な報道が雪崩のようにロシアを襲った。MH17便事件はウクライナ軍の手助けの下で米国が撃墜したものである。

これと同様に、新兵器システムに関するプーチンの発表後、セルゲイ・スクリッパルと彼の娘に対する「ノビチョク」による毒殺未遂事件では上記に述べた事例に負けず劣らずの、息をつかせないようなヒステリー発作が起こった。ご記憶だろうと思うが、二人のロシア人の旅行者がスクリッパルの毒殺を図ったとして非難された。スクリッパルが自宅を出た後でドアのノブに有毒物質を塗って、彼が二度と戻って来ることがないように手筈を整えたのだという。多分、そのような奇抜な行動は誰かを気持ち良くしてくれるのかも知れないが、フェークニュースを作り出し、それを流すことによって最新式の兵器システムに対抗するなんて、どう見ても妥当な反応とは思えない。

米国が弾道弾仰撃ミサイル制限(ABM)条約から脱退した際のロシアの反応についてあなたはどうお思いだろうか?ロシア側の反応は実に適切なものであった。そのような態度をとることの必要性は二つの事実に由来していた。まず、米国は他の国(広島、長崎)へ原爆を投下したことで知られている。米国は自衛のためではなく、抵抗することは無益である(抵抗をしても、まったく無駄な動きだ)というソ連側へのメッセージを伝えるために原爆を投下したのである。二番目に、米国は先制核攻撃を仕掛けてソ連を壊滅させようと何度も試みたことでもよく知られている。しかし、この先制核攻撃は何度か見送られた。最初の見送りは核兵器の数が足りなかったからだ。あるいは、ソ連側も核兵器を開発した。さらには、ソ連が大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)を開発した、等が見送りの理由であった。

ロナルド・リーガンの「スターウ
ーズ」計画はソ連に対する先制核攻撃で勝利を導くためにソ連のICBMを大量に撃墜するシステムを開発しようというものであった。リーガンとゴルバチョフが1987年の12月にABM条約を署名した時、この作業は中断された。しかしながら、2002年にブッシュ・ジュニアーがABM条約から脱退したことから、両国は軍拡へとふたたび向かって行った。昨年、プーチンはロシアの勝利だと宣言した。つまり、米国がロシアを攻撃すれば、その結果、米国は完全に壊滅するということを米国人は今や確実に理解することが可能であって、米国は決してロシアを攻撃しようなんて思わないであろう。こうして、ロシア側は安心していられる。

しかし、それは単なる序章でしかなかった。実際の勝利は201922日に起こった。この日はリスボンからウラジオストークまで、ムルマンスクからムンバイまでの大ユーラシアの争奪戦でロシアが米国を打ち負かした日として記憶されるであろう。

米国はいったい何を望んでいたのだろうか?それに代わって、彼らはいったい何を手にしたのだろうか?彼らはINF条約を再交渉し、条文の一部を変更して中国を巻き込もうとした。米国はINF条約を破棄すると宣言し、トランプは「関係国の代表すべてを大きな、美しい部屋へ招いて、今まで以上に立派な成果を得られる新条約を締結したい」と言った。トランプが言った「関係国の代表すべて」とは、多分、米国、中国、ロシアのことであろう。

彼らはどうしてこうも突然に中国を含めなければならないのであろうか?それは何故かと言うと、中国は一連の5005,500キロの中距離弾道ミサイル(INF条約で禁止されている)を有し、かの地域全域の、つまり、韓国、日本、グアムの米軍基地に向けて配備しているからである。INF条約によって米国はこれらの基地で中国に向けて配備することができるようなミサイルの開発は禁止されているのだ。

ニューヨークの不動産王が得意とする「交渉の妙技」を核大国間で見せ付けようとしたのは、多分、トランプであった。あるいは、多分、帝国の自信過剰が米国のすべての指導者の脳みそを腐らせてしまったのかも知れない。何れにせよ、INF条約を再交渉しようとする計画は下記に想像し得るような筋書きと同じ程度に馬鹿げたものであったと言えよう:

  1. 何の証拠も示さずに、ロシアはINF条約に違反したとして批判する。その批判は出鱈目だと反論するロシア側の言い分は無視する。
  2. INF条約からの脱退を宣言する。
  3. しばらくの間待つ。そして、INF条約は重要であり、中核をなすものであると宣言する。恩着せがましくロシアを許し、新条約に署名するように提案する。しかし、中国を含めるように要求する。
  4. 中国が新条約に参加するようロシアが説得してくれるのを待つ。
  5. トランプの「大きな、美しい部屋」で新条約に署名する。

と、まあ、こんな調子である。この筋書きは実際にはどう進展したのであろうか?ロシアは即座に同国もINF条約を破棄すると言った。プーチンはラブロフ外相に本件に関しては米国との交渉は凍結するように命じた。さらに彼はショイグ国防相にロシアの空中および海上発射型のミサイルシステムについて陸上発射型のプラットフォームを早急に開発するように命じた。しかも、国防予算を増やすこともなしにである。プーチンはさらにこう追加した。新しい地上発射型システムは、米国製中距離ミサイルが配備されたらロシア側も配備する。そうそう、中国はこう宣言している。中国はそのような交渉にはまったく興味がない。今や、彼の「大きな、美しい部屋」はトランプの一人占めになりそうだ。

どうしてこんな展開になったのだろうか?ロシアにとってはINF条約のせいで長い間ミサイル群の中に大きな穴があいていた。特に、5005,500キロの射程についてだ。ロシアは空中発射型のX-101/102ミサイルを前から有しており、結局、カリブル・クルーズミサイルを開発した。しかし、自衛のためには十分な航空機や艦艇を所有してはいるものの、NATO軍のすべてを壊滅するにはこれで十分だと保証することはできない。米国の好戦的な態度を常に見せつけられており、ロシアの国家安全保障としてはNATOがロシアとの間で武力紛争を起こした場合にはNATO諸国は徹底的に破壊され、そのような運命を避けるには彼らの対空防衛システムは何の役にもたたないことをよく認識させる必要があった。

地図を見て貰えば、5005,500キロの射程を持つ兵器はこの課題を非常に上手く解決してくれることが分かるだろう。ロシアのカリーニングラードを中心にして5,500キロの円を描いてみよう。NATO諸国のすべてと北アフリカ、および、中東はその円内に入る。INF条約が初めて署名された時でさえも(この条約を署名したゴルバチョフは売国奴であった)、本条約はロシアにとっては必ずしも好ましいものではなく、NATOが東方への拡大を開始すると、これはとてつもなく悪い条約であることが明白となって来た。しかし、敵対もせずにロシアが本条約から脱退することは出来ず、ロシアは軍備を回復するための時間を必要としていた。

プーチンは、2004年、「新世代の兵器や軍事技術を取得するにはロシアには技術革新が必要だ」とすでに述べていた。当時、米国人は彼を無視し、ロシアは何時にでも崩壊するだろう、たとえロシア人が皆息絶えようとも、ロシアの原油や天然ガス、核燃料、その他の戦略的な資源を永久にただで手中に収めることが出来るだろうと思い描いていた。ロシアが抵抗しようとしても、ゴルバチョフやイエルツィンといった幾人かの売国奴を買収すればことが足りると彼らは考えていた。そして、すべてはうまく行くに決まっていると思っていた。

この15年間を早送りしてみよう。今われわれが手にしているのはまさにその通りなのだろうか?ロシアは軍備を更新した。ロシアの輸出産業は原油や天然ガスの輸出を抜きにしてさえも貿易収支をプラス側に維持している。ロシアは三つの巨大な天然ガス輸出用のパイプラインを同時に建設中である。ドイツ、トルコ、および、中国向けだ。ロシアは世界中で原発を建設しており、原子力産業では王者の地位を得ている。ロシアからの核燃料の輸入がなければ、米国はもはや国内の照明を維持することも出来ない。米国はロシアが行った再軍備に対抗するために必要となる新兵器システムを持っていない。そうそう、米国は幾つかの新兵器の開発について議論をしているものの、米国が現時点で持っているのは永遠に金を吸い込む巨大なシステムとパワーポイントで作成された数多くの提案書の山である。もはや米国にはこの仕事をこなす人材がない。時間もないし、金もない。

INF
条約からの脱退に際してプーチンが出した命令のひとつは地上発射型の極超音速ミサイルの開発であった。まったく思いがけない新たな展開である。これらのミサイルは仰撃することが不可能であるだけではなく、もしもNATOがロシアを攻撃すれば、これらのミサイルはNATOの生存余命を分の単位から秒の単位へと短縮してしまうだろう。核エネルギーを動力源とする新兵器のポセイドン魚雷も言及された。たとえロシアに対する攻撃に成功したとしても、それは犠牲が大きくて、まったく引き合わない成功となるに違いない。その攻撃の結果、核爆発によって引き起こされた100フィートにも及ぶ巨大津波が米国の両岸で何百マイルもの内陸にまで達し、実質的に米国の全土を低濃度の放射性を帯びた荒れ地に変えてしまうであろう。

米国は攻撃能力を失ったばかりではなく、脅しを与える能力さえをも失ってしまった。米国が世界中でその驚異的な武力を投影する最強の手段は海軍力であるが、ポセイドン魚雷は米海軍を無用な、ゆっくりと動き回る鉄屑の山に変えてしまう。米空母がどこに配備されていようがそれにはお構いなく米国の戦略的価値をゼロにしてしまうには空母船団のひとつづつに一握りのポセイドンを追尾させるだけで十分だ。

INF
条約という手かせや足かせが無くなって、ロシアはすでに時代遅れで、無用となったNATOを完全に無力化し、ヨーロッパ全域をロシアの安全保障圏に組み入れることが可能となるだろう。ヨーロッパの政治家は非常に柔軟であって、ロシアや中国との友好関係は貴重な財産であるが、米国へ依存しながら先へ進むことは巨大な障害となることに間もなく皆が気付くことであろう。多くの政治家らは風が今どちらに向かって吹いているのかをすでによく理解している。

ヨーロッパの指導者が決断をすることはそれほど困難ではないだろう。天秤の一方の皿には大ユーラシア、つまりリスボンからウラジオストークまで、ムルマンスクからムンバイに至るまで平和と繁栄を約束する将来が乗っかっており、ロシアの核の傘の下で安全を確保し、中国の一帯一路政策とも連携する。

その天秤のもう一方の皿には北米の荒野で迷子になった、曖昧で、かっては植民地であった国家が乗っかっている。この国家は自分たちの例外主義には揺るぎのない忠誠心を植え付けられている。しかし、国家が弱体化するにつれて国内は分断され、無秩序になっている。そうは言っても、依然として危険な存在だ。特に、この国家自身にとって・・・ そして、この国は核兵器条約と不動産の売買との違いをわきまえもせずにとうとうと語る道化師によって率いられている。同国は静粛に、かつ、平和裏に文明からは遠く離れた場所へ、さらには、歴史の余白へと追放しなければならない。

トランプは自分の会社を彼の「大きな、美しい部屋」に確保し、悲惨なほどに馬鹿げたことをすることは何としてでも避けるべきであろう。その一方で、もっと正常な精神の持ち主が名誉ある降伏に向かって静粛に交渉を進めるべきだ。米国が受け入れることが出来る唯一の出口戦略は同国が世界中に有する地位を静粛に、かつ、平和裏に放棄し、同国自身の地理的境界内へ退き、大ユーラシアに対する干渉を止めることに尽きる。



原典: Club Orlov

<引用終了>


これで引用記事の仮訳は終了した。

ドミトリー・オルロフのユーモアを交えたこの論考は秀逸だ。もちろん、大げさに表現している部分が多々あると思うが、この論考の大筋は少なくともわれわれが日頃目にする国際政治から読み取ることができる米国の姿、つまり、進行しつつある米帝国の衰亡とよく符号すると思う。

この著者のユーモアが面白い。たとえば、彼は米国は幾つかの新兵器の開発について議論をしているものの、米国が現時点で持っているのは永遠に金を吸い込む巨大なシステムとパワーポイントで作成された数多くの提案書の山である」と描写した。「パワーポイントで作成された」という言葉には「オヤッ」と思わせるものがあった。通常われわれはビジネスに関する会議で何かを報告する、あるいは、提案する時パワーポイント形式を頻繁に使う。それこそ、毎日のように使っている人も多いのではないだろうか。この「パワーポイントで作成された」という言葉がなくても十分に意味が通じるところへ著者は敢えてその言葉を挿入した。著者の茶目っ気として私には感じられた。

また、著者はMH17便事件はウクライナ軍の手助けの下で米国が撃墜したものである」とも述べている。MH17便が撃墜された時、米国ご自慢の偵察衛星はウクライナの上空に位置していたと言われている。その偵察衛星は豊富な情報を集めていたに相違ない。しかしながら、米国が手持ちのレーダー情報をオランダを中心とした国際調査団には何も提示しなかった。この事実を考慮すると、米国はウクライナと共犯関係にあったのではないかと疑わざるを得ない。引用記事の著者は米国が主犯でウクライナは米国を手助けしただけだと述べている。このはっきりとした物の言い方には今まで読んできた数多くの記事とは断然異なる断定的な姿勢がうかがえることを指摘しておきたい。多分、何らかの根拠があるのだろう。



参照:

1RIP INF Treaty: Russia’s Victory, America’s Waterloo: By Dmitry Orlov, Club Orlov, Feb/11/2019