2019年7月15日月曜日

あなたが食べている食品には想像以上に多くのプラスチックが混入しているかも


6月28~29日に大阪で開催されたG20サミット首脳会議ではその共同声明で海洋プラスチックごみに対する取り組みが取り上げられた。『我々、G20メンバーは、既存の取組を強化しつつ、海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックを中心とする海洋ごみ問題に地球規模で対応する緊急性が増していることを認識(recognize)する。この点において、我々は、国連環境総会(UNEA)における「海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックに関する決議(UNEP/EA.4/L.7) 」及び「使い捨てプラスチック汚染対策に関する決議(UNEP/EA.4/L.10)」を認め(acknowledge)、第14回バーゼル条約締約国会議での廃プラスチックを条約の対象とする決議に留意(note)する。』と宣言した。

プラスチックごみには大きさで見ると粗大なプラスチック製の容器や包装材、シート、漁網、等があり、これらは肉眼で容易に観察することができる。海岸に打ち上げられたプラスチックごみの惨状は誰もが心を痛める今日的な難題だ。これは先進国あるいは発展途上国といった経済の進展の度合いには関係なく、今や、各国が悩まされている共通の課題である。

それに加えて、サイズが5ミリ以下のプラスチックごみは「マイクロプラスチック」として定義される。これらの極小サイズのプラスチックごみ、特に、ミクロン・サイズのプラスチックごみはその大部分が肉眼では観察できない。したがって、人々の関心からは逸れてしまう。現実の話として、あなたや私が毎日飲んでいる飲料水やビール、お酒、ならびに、ありとあらゆる食品に微小なプラスチックごみが多数混入していることが分かったとしたら、どう感じるだろうか。サイズによっては血流にさえも入り込む。プラスチックの製造の過程では可塑剤としてさまざまな化学品が添加される。これらの中には内分泌かく乱物質(環境ホルモン)として人体に作用することが知られている物質もある。また、添加されるのは化学品だけではなく金属もある。

総じて、人体に入り込むマイクロプラスチックの安全性は現時点では解明されてはいない。

ここに「あなたが食べている食品には想像以上に多くのプラスチックが混入しているかも」と題された記事がある(注1)。

海洋が想像以上に汚染されている現実を考えると、海洋産物を愛好する日本人の食生活は想像を絶するようなリスクに曝されているのかも知れない。世界中で健康的な食生活の代名詞にさえなっている日本の食文化を代表する「刺身」や「寿司」が海洋のマイクロプラスチック汚染の蔓延によって敬遠される事態に見舞われる可能性がある。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>




















Photo-1:ブリテイッシュ・コロンビア州のヴィクトリア大学の研究者によると、プラスチック製のボトルやストローは時間の経過と共に分解され、それらの破片はわれわれの食物へ入り込んでくる。 (Lindsey Moore/KQED)

プラスチックごみによる汚染は街の通りや河川を汚し、海洋を漂い、対岸にまで達する。この事実はもはや秘密でも何でもない。

そして、今や、人体にさえも達している。

ブリテイッシュ・コロンビア州のヴィクトリア大学の海洋生物学の研究者が発表した最近の研究によると、米国の平均的な市民が毎日食べる食品、彼らが摂取する飲み物、彼らが呼吸する空気を通じて、年間当たり74,000~121,000個のプラスチックの小片を体内に取り込んでいるという。

大人は子供よりも多く取り込み、男性は女性よりも多く取り込むと研究者は言う。

「プラスチックはあらゆる所に存在する」と、この論文の共著者のひとりであるガース・カバーントンが言った。「われわれはプラスチックとの関係を共同体として考え直す必要がある。われわれは過去70年間にわたって無責任にプラスチックを使用して来た。われわれのプラスチック生産は毎年指数的に増加している。」 

2年前に出版されたカリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究によると、今までに存在したプラスチックの半量は最近の13年間に生産されたものであるという。

先週「Environmental Science & Technology」誌に発表された新たな研究報告によると、ある推算結果が報告されている。この推算は人々が消費する食品中に存在するプラスチックを調査した26個の研究論文を支える合計で402カ所のデータポイントに根ざしている。

これらの研究が示すところによると、微小なプラスチック片はマイクロプラスチックと称され、周囲の大気や塩、砂糖、ボトル入りの水、蜂蜜、海産物、水道水、等に含まれている。ある研究はビールの中にさえもその存在が突き止められている。科学者らは大きさが5ミリ以下の小片をマイクロプラスチックと呼ぶ。それらの多くは非常に微小で肉眼では見えない。

人体への取り込みを推算するに当たって、カバーントンは食品中に存在するマイクロプラスチックと米国人が摂取する米保険福祉省によって決められた推奨食品の摂取量との関係を調べた。

これらは故意に低く見積もった数値であると彼は言う。(訳注:つまり、実際にはもっと多くの量が体内に取り込まれている可能性が高い。)

肉や鶏肉、穀類、乳製品、果物、野菜にどれだけの量が含まれていたら人体に危険であるのかについては、科学者らにとっては当面不明である。カバーントンの推算は平均的な市民が摂取する熱量の15パーセントを占めるだけである。実際の量は遥かに大量になるだろうと彼は言う。

「環境と食品を汚染するプラスチックを引き続き生産し続けるのかどうかについてわれわれは今再考する必要がある」とカバーントンが述べている。

この研究結果は平均的な米国人がどれだけの量のプラスチックを体内に取り込むかを合理的に推算したものだとノースウェスターン大学の化学エンジニアであるジョン・トーケルソンは評価する。彼自身はこの研究には関与してはいない。「彼らは社会に貢献してくれた。」 

しかしながら、この研究の結論の中には過剰な反応であると思われるものもあるとトーケルソンは言う。彼は今「持続性・エネルギー研究所」(
Institute for Sustainability and Energy)でプラスチックと公衆衛生に関する新たな研究プログラムに従事している。

たとえば、この論文で推奨されているプラスチック生産や使用を減少させることよりも、むしろ、もっと良好にリサイクルを実施するプログラムを採用することこそが人が体内に取り込むプラスチックの量を軽減させるのには遥かに有効であると考えられる。

トーケルソンは太平洋の大汚染地域では一般使用に供されるプラスチックが問題となっている訳ではなく、「フィリピンやインドネシア、中国、ベトナム、バングラデシュにおいては廃品の取り扱い方が問題なのだ」と提言している。

海洋プラスチックごみは大問題であることを認めているが、トーケルソンはもっと多くの研究を行うことが必要だと言う。

カリフォルニアの海洋生物学者らは、先週、モンテレー湾がマイクロプラスチックでいっぱいであることを報告し、地球上では最大級の生物生息域である海洋が今や地球上で最大のプラスチック片処分場と化してしまったと述べている。

2017年、「サンフランシスコ河口研究所」(San Francisco Estuary Institute)のマイクロプラスチック・プロジェクトは排水処理施設が毎日7百万個のプラスチック片をサンフランシスコ湾へ放出していることを究明した。多分、これは米国内の主な水域の中では何れの事例よりも大量の放出であろうと推測される。

海洋中のプラスチックごみは非常に特殊な問題である。これらの小片はムラサキイガイや海綿ならびに他の濾過摂食生物によって体内に取り込まれるからだ。これらの海洋生物は通常摂食する食物片からプラスチックの小片を区別することはできない。

そこから始まって、プラスチック片はさらに大きな食物連鎖へと入って行く。2014年には、ある研究によると、大西洋産のカキの場合平均的な一人分の分量には約50個のプラスチック片が含まれており、ドイツの養殖ムラサキイガイには90個が含まれているとの報告があった。

カバーントンの論文は米国人の食事に焦点を当てているが、何処の国であっても人々がプラスチックを体内に取り込む主要な供給源は海産物であると指摘している。

「これは海産物が食物の主要な地位を占めている国々、たとえば、日本やアジアの国々ではより大きな影響があり得ることを意味するものだ」とトーケルソンが言った。 

だが、プラスチックはどんな種類でも人に有害なのであろうか?カバーントンはその点に関してはもっと多くの研究が必要だと言う。 

「われわれはプラスチックについて十分に理解している訳ではない」と彼は言う。「人の健康に対するリスクに関しては研究が始まったばかりだ。」 

KQEDのジャスミン・メヒア・ムノスが本報告を寄稿(訳注: KQEDはサンフランシスコを本拠とするラジオ・テレビ局で、北カリフォルニアをサービス圏としている)。 

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

プラスチックと一言で言っても、さまざまな種類がある。原料が異なり、可塑剤が異なり、最終製品の機能や用途はそれぞれ異なる。可塑剤が人体に害を及ぼすかも知れないとの懸念があるが、現時点では必ずしも十分に究明されているわけではない。したがって、最終的な対応策の議論が可能となるのは先の話である。人の健康被害が論じられているプラスチックの典型的な例は「ビスフェノールA」である。世界中で問題視されており、日本の厚生労働省もウェブサイトで情報を流している。

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インターネット上で入手可能なビスフェノールAに関する情報を下記に纏めておこう。関心をお持ちの方はさらに詳しい情報を収集し、ご本人だけではなく次世代の健康のために役立たせて欲しい。プラスチックごみの健康被害には内分泌かく乱作用が含まれていることから、妊娠中のお母さん方や子育て中のご家庭にとっては今すぐにでも対応を迫られる非常に重要な問題である。警戒をし過ぎるということはないのだ。

◆ ビスフェノールAという化学物質は一部の食品用の容器等の原料に使用されている。樹脂に可塑剤(ビスフェノールA)を加え、成型が行われるが、その際に未反応のまま残っている一部の可塑剤が容器の使用中に溶出する。これが飲食物に移行する。食品に移行したビスフェノールAによる健康への悪影響を防止するために、これまでの各種の毒性試験に基づいてヒトに毒性が現れないと考えられる量を基に、ポリカーボネート製容器等について2.5ppm以下という溶出試験規格が設けられた。また関係事業者においても、ビスフェノールAの溶出をさらに低減させるための製品改良が進んでいる。

◆ ポリカーボネート製プラスチックは何に使われているのか?ポリカ―ボネートは衝撃に強く、高温や低温に耐え、透明であり、変形しにくいといった特徴を有していることから、家電製品で広く使われている。また、食品と直接接する容器・食器類にも使用されている。哺乳瓶もそのひとつだ。

◆ ビスフェノールAはエポキシ樹脂の原料でもある。エポキシ樹脂の典型的な使用例は金属の防蝕塗装、電気・電子部品、土木・接着材として使用される。食品との接触の観点からは、缶詰の内表面の防錆塗装が主な使用例である。

◆ 内分泌かく乱物質(環境ホルモン)は1996年にシーア・コルボーンが著した書籍「失われし未来」(原題:Our Stolen Future)に端を発する。当時、一大センセーションを巻き起こした名著だ。環境省は1998年に内分泌かく乱物質をリストアップし、67物質が疑わしいとされた。その内で食品と接する物質は13物質。11物質がプラスチック添加剤で、2物質がプラスチックの原料であった。

◆ 添加剤の代表的なものがフタル酸エステル類である。11物質のプラスチック添加剤の内で8物質がフタル酸エステル類で占められている。これらは主に塩化ビニールやポリ塩化ビニリデンの可塑剤として用いられる。もっとも多く使用されているのはフタル酸ジー2ーエチルヘキシル(DEHP)で、フタル酸エステル類の60パーセント以上を占める。可塑剤が食品衛生上問題となる理由は可塑剤の添加量が多いことから来る。硬質プラスチックでは添加剤が数パーセント添加され、軟質プラスチックでは20~30パーセントも添加される。フタル酸エステル類は肝臓や腎臓に対して毒性を示し、生殖毒性を引き起こす。添加剤がどのようにして人体に取り込まれるのかについては非常に興味深い調査結果がある。市販弁当中のDEHP濃度はレストランの定食に比べて著しく高かった。追跡した結果、その理由は弁当工場で使われていた使い捨てのビニール製手袋からの溶出にあった。再現実験を行ってみた。手袋をはめた状態で弁当を詰めたところ、詰める前(166ng/g)と後(8,990ng/g)ではDEHP濃度が50倍も高くなった。2000年、厚生労働省はDEHPを含有するポリ塩化ビニール製の手袋を使わないように通知を出した。

◆ 内分泌かく乱物質として疑われた13物質の内でプラスチック原料が2種類あった。その内のひとつがビスフェノールAである。ビスフェノールAはポリカーボネートやエポキシ樹脂の原料である。ポリカーボネートは熱に強く、強度もあり、軽くて美しい樹脂であることから、哺乳瓶や学校給食用食器として広く使用されていた。しかしながら、ビスフェノールAは内分泌かく乱作用を有することが疑われ、哺乳瓶はガラス製に置き換えられ、学校給食用食器は他の材質に変える自治体が相次いだ。規制が厳しいEUでは、内分泌かく乱物質の問題のひとつとされている低用量効果が未解決であることから、2002年にビスフェノールAのTDI(1日当たりの許容摂取量)を0.05mg/㎏体重/日から0.01 mg/㎏体重/日に引き下げた。これに基づいて、EUでの溶出基準は0.6μg/mlとなっている。日本では食品衛生法によるビスフェノールAの規格基準値はフェノールおよびp-tert-ブチルフェノールを含めて2.5μg/ml。

◆ ビスフェノールAが原料として用いられるエポキシ樹脂は缶詰の内表面の防錆塗料として用いられる。食品への移行量は比較的高く、コーヒーや紅茶などの缶飲料からは0.003~0.21μg/mlが検出されていたが、その後エポキシ樹脂中のビスフェノールAの残存モノマーを減らす努力をした結果、溶出量は0.005μg/mlと問題のないレベルに低減されている。

(注: ここまでは主として「生活衛生」誌Vol.50、 No.5、p365~371(2006)に掲載されている尾崎麻子(大阪市立環境科学研究所)著の論文 「器具・容器包装と食品衛生」からの抜粋である。)

◆ ビスフェノールAの当面の関心事は毒性を示す濃度よりもかなり低い濃度で起こる内分泌かく乱作用がどの程度の濃度にあるのかという点だ。厚生労働省は内分泌かく乱化学物質ホームページで「ビスフェノールAの低用量影響について」と題して関連情報を提供している。関連情報の一番目の項目は「
ビスフェノールAの低用量影響に関する文献の概要一覧(2012~1997)」。これはMedline等の公開情報において、「Bisphenol A」を検索単語とし、2012年から1997年までの約5500の文献から、1日の体重当たりの投与量単位がマイクログラム及びそれ以下の領域で実施された実験を抽出し、内容を吟味の上選択した約120個の文献について、動物種、投与時期、投与経路、投与量、影響などの情報を整理し、表にまとめたものである。10数年間にまたがるこれらの文献を見ると、ビスフェノールAを試験動物に給餌し、健康被害の発生を確認しようとしたさまざな研究が網羅されている。発癌性や生殖機能、体重の増加、免疫機能、性腺刺激ホルモン分泌細胞、胚細胞、精巣、乳腺、脳の認識機能、挙動、等を含む実に多岐にわたるテーマが報告されている。

◆ ビスフェノールAが引き起こす健康影響に関しては、他の文献(Bisphenol A: An endocrine disruptor: By J Talpade, K Shrman, RK Sharma, V Gutham, RP Singh and NS Meena, Journal of Entomology and Zoology Studies 2018; 6(3): 394-397)からも補っておこう。ErlerとNovakはビスフェノールAは脳に大きな影響を与えることを認めた(たとえば、多動性障害、学習障害、過度な攻撃性、薬物依存に走り易くなる、等)(2010)。Zhou他はビスフェノールAによって引き起こされる健康被害を研究し、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)がもっとも多く観察される内分泌障害であるとして指摘し、再生産年齢にある牛、山羊、犬および女性の4~8パーセントに影響を与えていると報告した(2008)。Gao他はビスフェノールAへの暴露はホルモン性の癌を引き起こすと報告した(2015)。たとえば、乳癌や前立せん癌、卵巣癌、子宮内膜癌が挙げられる。ErlerおよびNovakの研究はホルモンの生産をかく乱し、受胎能力に影響を与え、男性および女性の両方に若い年齢で性的に成熟させることを指摘した(2010)。

もちろん、他にもさまざまな報告がされているが、それらすべてをここに列記することは不可能に近く、そうすることはこのブログの目的ではない。

◆ ヨーロッパではEUがビスフェノールAを内分泌かく乱物質として認定した(EU recognises bisphenol A as an endocrine disruptor: By Manon Flausch, EURACTIV.fr, Jun/22/2017)。

◆ ビスフェノールAに対する暴露を低減するには、まず、食品をマイクロウェーブで温める際にはプラスチック製容器を使用しないことがもっとも大切だ。また、プラスチック製ボトルに入った飲料は冷たいままで飲むことが必要だ。プラスチック製の容器や食器を洗う際には低濃度の洗剤を用いる。再使用が可能なマイバッグを使って、プラスチック製のショッピングバッグの使用は出来るだけ避ける。プラスチック製の容器は古くなるにつれてその化学物質が周囲や食品中へ溶出するので、プラスチック製容器は出来る限りガラス製の容器に置き換える。缶入りのペットフードは使わず、新鮮な食品をペット動物にも与える。

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われわれは今プラスチック王国に住んでいる。日常的なプラスチックの使用を避けることは現実にはもはや不可能である。工業的に生産される製品はほとんどすべてがプラスチックで包装される。不幸なことには、プラスチックのある種の構成材料、たとえば、ビスフェノールAは周囲や食品中に溶出する。ビスフェノールAは世界中で生産され、プラスチックの生産量では最大級であり、食品や飲料から日常的に人の体内に取り込まれている。そして、ビスフェノールAは内分泌かく乱作用を引き起こす物質であることは周知の事実である。

上記でも論じているように数多くの研究が行われているとは言え、人に内分泌かく乱作用を引き起こすビスフェノールAの濃度についてはまだ科学的なコンセンサスは得られてはいないようだ。この現状は何故だろうかと考えると、それはプラスチックを生産する業界からの圧力が大きいからに他ならないと考えるのは私だけであろうか?この図式はグリフォサート除草剤がもたらす発癌性を知りながらも、モンサント社が使用者の健康被害を防止する積極策を講じるという企業側の責任を取らなかった事例を彷彿とさせる。



参照:

注1:
There May Be Way More Plastic in Your Diet Than You Thought - KQED: By Kevin Stark, Jun/11/2019







 


 

2019年7月8日月曜日

米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった

あるニューズレターの最近号に大手メディアでは報じられないような秘話が含まれていた。

「板門店で電撃の米朝首脳会談」と題されたその記事
(http://tanakanews.com/190629korea.htm、2019年6月29日)は国際政治は今大きく舵を切っているんだなあ・・・と実感させるのに十分な内容であった。そこに含まれていたふたつの秘話をここに簡単にご紹介しておこう:

(1)日中関係: 日米安保の代わりとして、中国は昨秋、安倍の訪中時に、日本と安保協定を結びたいと提案していたと、先日、暴露された。こんな暴露が今の時期に行われた点も興味深い。

(2)日韓関係: ハブ&スポーク的な日韓別々の対米従属を維持するための、子供じみた日韓の相互敵視も、米国の覇権低下とともに下火になり、日韓も安保協定を結ぶ。日本の対米従属の終わりが、すぐそこまできている。

日本の対米従属の終わりが本当にすぐそこまで来ているのかどうかは私には分からない。そのようなことは日頃のマスコミ情報からはこれっぽっちも感じられない。また、日米安保条約の代わりに日中安保条約が締結される日が来るのかどうかも私には分からない。しかしながら、国際政治の趨勢を読み取ろうとする専門家は多くの関連情報を収集し、それらの情報の全てを俯瞰し、それらが何を意味するのかを読み取ろうとする。こうして出来上がったジグソーパズルから見えて来る将来像には、おそらく、かなりの信憑性が秘められているのではないか。少なくとも可能性のひとつとして、あるいは、方向性のひとつとして自分の思考過程に放り込むことは意義深いと思う次第だ。

日本での毎日の生活の場を考えてみよう。これらの情報が存在していることも知らずに毎日NHKの報道を視聴している場合とたとえその情報量が小さなものであったとしても外部に存在するさまざまな情報を理解した上でNHKのニュースを視聴する場合とを比較すると、そこには大きな違いがあると言わざるを得ない。多くの場合、その違いはべらぼうに大きい。

米国による覇権を維持する道具のひとつとして国際通貨として何十年間も使用されてきた米ドルに目を向けると、近年、脱ドル化が急速に進行したことが分かる。たとえば、中国は「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立し、アジア地域における米ドルによるインフラ投資を避けるためのシステムを構築した。2016年1月、同銀行の開業式典が行われた。57ヵ国が創設メンバーとして加わり、2019年4月の時点では97カ国・地域が加盟しているという。また、世界最大の原油輸入国である中国は、2018年3月、上海の先物市場でユアン建ての原油取引を開始した。原油の価格形成は従来米欧の独占であったが、ここに世界最大の原油輸入国である中国がこのプロセスに参入し、その影響力を構築し始めたのである。何時の日にかオイルダラーがオイルユアンに取って代られるのかも知れない。

米国の覇権が低下すればするほど、日米安保条約の存在の意味は薄れ、米ドルの強さは低下する。日本国内での日常生活ではそのことを実感する機会は決して多くはないけれども、少なくとも、国際政治の論議においては脱ドル化が何らかの形で論じられることがない日なんて一日もない程だ。今や、これが昨今の現実なのである。

ここに、「米ドルよ、サヨーナラ!君と会えて良かった」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

この表題から感じられるのは「米ドルと喧嘩別れはしたくはない。あくまでも友達として別れようではないか」という紳士的な姿勢だ。思うに、経済制裁や気に入らない政府の転覆、空母の派遣、軍事演習の実施、国際法の無視、条約からの離脱といった諸々の米国の行動を見て、この紳士的な姿勢は米国に対する忠告の言葉である。これは現実の政治とは違った、単なる理想の追求でしかないのではないかと誰かが言うかも知れないが、米国の同盟国の一員である日本に住むわれわれとしては、凋落が始まっている米国との同盟関係を解消する時が来た際にどのようにお別れをするべきかを考えると、これは実に現実的な局面を想定しているとも言える。

<引用開始>

過去の2年間にわたって、ホワイトハウスは貿易論争を引き起こし、同盟国を敵国同様に侮辱し、多国間の条約や合意から脱退したり、批准を拒んだりしてきた。米政府は一方的な規則の適用を広め、米国の要求を他国が受け入れるよう強いた。そうしなければ経済制裁を課すぞ、と脅しをかけた。トランプ政権は米国にとってもっと有利な環境を新たに作ろうと意図したが、結果はその意図とはまったく違って、「ワシントン政府は不安定で、パートナーとしては頼りにならない、信頼することもできない」という共通の認識が国際的に広まって行った。そして、この感情は各国政府間に如何にして米銀を回避するかという議論をもたらした。米銀は、爆弾を投下することを除けば、ワシントン政府にとっては他国を自分たちの命令に従わせるもっとも攻撃的な武器であるのだ。

結果的には、「米国を再び偉大な国に」するというキャンペーンはとてつもなく大きく、否定的な反応をもたらした。裏を返せば、米国の「偉大さ」は他国を偉大な存在ではなくなるように仕向けることによって実現されるのである。米国に好意を抱いている唯一の国家はイスラエルであるが、トランプ政権が与える寛大さを考慮すると、同国にはそう考える理由が間違いなく存在する。イスラエルを除くと、どの国も米国の影響下から離脱することに熱心である。

窮鼠猫を噛むという状況がついにやって来たのだ。ドイツの無関心なアンゲラ・メルケルでさえも、今や、米国がとんでもない要求をして来た時には国益を最優先すべきだということを理解している。東京(訳注:これは間違いで、開催地は大阪)で開催された最近のG20サミットでは英国、フランス、ドイツは今まで取り組んできた「貿易取引支援機関」(INSTEX)が完成し、稼働を始めたと発表した。 これはヨーロッパの企業が、貿易をSWIFTシステムの枠外で進めることによって、米国からの経済制裁を受けずに、イランのような国家ともビジネス関係を築くことを可能とするものである。SWIFTシステムでは米ドルが圧倒的に多く使用され、同システムは米財務省の実質的なコントロール下に置かれている。

このヨーロッパの動きが何を意味するのかという点は決して軽視するべきではない。世界貿易の決済用としての通貨や準備通貨としてのドルの優位性から離脱するという観点からは、これは実に大きな第一歩であるからだ。多くの場合がそうであるように、米国の国益が被るであろう損害は自ら招いたものだ。米ドルを介さない貿易メカニズムの設定は何年も前から論じられてきたが、トランプ政権が1年前に突然イランとの「包括的共同行動計画」(JCPOA)から離脱すると宣言するまでは何の進展もなかった。

JCPOAには他にも締約国があるが、何れの国もホワイトハウスの動きには激怒した。何故かと言うと、このイランとの合意はイランの核兵器開発を防止し、中東地域での緊張を和らげる上では立派なものであると誰もが信じていたからだ。ヨーロッパの大国であるドイツ、フランス、英国はロシアや中国と並ぶ締約国であり、この合意は国連安保理によっても承認されていた。したがって、「行動計画」を潰そうとする米国の離脱は他のすべての締約国には非常に否定的に受け止められ、ワシントン政府がイランに対して再度経済制裁を課すこと、ならびに、イランとの交易に関する制約に準拠しない第三国に対しても二次的な経済制裁を課すことを宣言した時、これらの締約国の怒りはさらに高まった。

INSTEXは実際に送金をすることもなくイランとの貿易を決済するためにヨーロッパの国々が1年前に設立した「特別目的事業体」(SPV)をさらに改良したシステムである。言わば、これは差し引き勘定に基づいて決済する物々交換取引のようなものだ。このINSTEXに関する発表は先週ウィーンで米国を除くJCPOA締約国がイラン政府の広報担当官であるアッバス・ムサビと会合を持った結果であった。ムサビはこの会合を「残された締約国にとっては、一堂に会し、どうしたらイランとの合意を果たすことができるのかを探る最後の機会である」と評した。

この新たな取り組みには批判があり、INSTEXは十分ではないとイラン政府が公言し、イランはウランの増産計画を実行すると述べているが、イランはこの展開を静かに歓迎している。マイク・ポンぺオ国務長官は直ぐに反応し、先週ニューデリーで「もしも紛争が起こり、戦争が起こり、あるいは、物理的な行動が起こったならば、それはイラン側がそのような選択肢を選んだからに他ならない」と言った。そうとは言え、INSTEXはイランがワシントン政府からの妨害も無しに自国の原油を売ることができるひとつのモデルとなるだろう。しかしながら、ホワイトハウスからの鋭い反応に見舞われることは間違いない。INSTEXが開発の段階にあった頃、米国からの会議参加者は実際の貿易を決済する「イランの特別貿易金融商品」にはすでに米国の経済制裁の対象となっている省庁も含まれていると指摘した。そういったことがあり得るということはワシントン政府はヨーロッパ各国に対する二次的な経済制裁に頼ることを意味し、これは間違いなく二国間関係を今よりもさらに厳しい危険に曝す動きとなるであろう。世界貿易戦争が起こる可能性は明らかであって、上記に論じて来たように、国際的な準備通貨として用いられてきた米ドルからの離脱は今までの出来事がもたらす当然の結果であって、起こり得ることだ。

トランプは「イスラム共和国との貿易を米国の経済制裁から防護するためにドイツ、英国、フランスが作り上げた金融手段に対してすでに脅しをかけている。」 テロ・金融諜報担当の財務次官であるイスラエル生まれのサイガル・マンデルカ―は5月7日付けの手紙の中で次のような警告を発した。「あなた方にはINSTEXが経済制裁に曝されるかも知れないことを注意深く考えて貰いたい。米国の経済制裁に抵触するような行動は深刻な結果をもたらし得る。たとえば、米国の金融システムへのアクセスを喪失することになるであろう。」 

実際に、ホワイトハウスはイランに対する制裁をゴリ押しして、ヨーロッパとの経済戦争さえも辞さないかのようである。財務省はマンデルカ―の手紙に関して声明を発表し、「イランとの貿易の決済では、それが如何なる手段であろうとも、当事者は制裁を受けるリスクに曝される。米財務省はその権限を積極的に行使する積りだ」と述べている。また、5月8日のロンドン訪問中にマイク・ポンぺオはこう言った。「・・・どんな決済手段があるかは問題ではない。その決済が制裁の対象に該当するならば、われわれはその案件を評価し、審査し、そうすることが適切であると認められる場合はその決済に関与した当事者に対して制裁を課す。これは実に明快だ。」 

ヨーロッパの連中が成功することを祈りたいと思うが、これは決して不適切ではない。何故ならば、彼らは自由貿易を支持し、ホワイトハウスが金融システムを使って推進する他国への脅かしには反対の立場を表明しているからだ。米ドルが貿易の決済通貨、あるいは、準備通貨としての役割を辞するとしても、だからどうだって言うんだ?それが意味することは財務省が余分なドル札を印刷する必要はなくなるだろうということであり、米国がクレジットカードにおける世界規模の覇権を維持する能力には大きな妨げとなるであろうということだ。これらは、むしろ、好ましい結果である。そればかりではなく、米国は間もなく米国人が自分の故郷であると誇ることができるようなごく普通の国家になって欲しいと誰もが希望することだろう。

著者のプロフィール: フィリップ・ジラルディは博士号を持ち、「Council for the National Interest」の専務理事を務める。以前はCIAの作戦要員や陸軍の諜報将校を務め、ヨーロッパや中東で20年もの海外勤務をし、対テロ作戦に従事した。シカゴ大学で文学士を取得し、ロンドン大学で現代史に関して修士号および博士号を取得。

この記事の初出は「Strategic Culture Foundation

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

この論評を読んだ結果、私は冒頭に列記したふたつの秘話が決して荒唐無稽なものではなく、現実をよく反映していると思えるようになった。もちろん、脱ドル化が何時頃起こるのかということは恐らく誰にも分からないだろうし、定義をすることさえもそう簡単ではないだろう。しかしながら、その方向性は今までの米国の対外政策がもたらした結果であるとする著者の見方は実に明快だと私には思える。現実を踏まえた見解である。

日本を取り巻く政治的環境は決して不動のものではない。当然ながら世界の潮流によって右に左に傾く。米ソ間の東西冷戦はとっくの昔に終わり、1年前から急展開している米中貿易戦争も永遠に続く訳ではない。つまり、現在の日米安保条約を必要とした米国を取り巻く環境は大きく変貌し、さらに変わろうとしている。今や、ポスト日米安保体制を議論する時がやって来たと言える。

私も、米国人が米国を自分の故郷として誇れるようなごく普通の国家に早くなって欲しいと希望したい。


参照:

注1: Goodbye Dollar, It Was Nice Knowing You!: By Philip Giraldi, Information Clearing House, Jul/05/2019










2019年7月1日月曜日

いったい誰が得をするのか - イランにはオマーン湾でオイルタンカーに向けて魚雷攻撃を仕掛けたり、戦争を引き起こしたりする理由がない

6月13日、オマーン湾で2艘のオイルタンカーが何者かによって攻撃され、その内の1艘に火の手が上がった。攻撃された両タンカーの船員は全員がイランの救助艇や韓国の貨物船によって救助され。イランの港へ運ばれた。これらのタンカーはペルシャ湾から出て、オマーン湾上にあり、インド洋に向かうところであった。この事件の1ヶ月前には、他に、このオマーン湾で4艘のオイルタンカーが攻撃を受けていた。

米国のマイク・ポンペオ国務長官はこの攻撃はイランの仕業だと言った。この判断は諜報データに基づいたものだと付け加えたが、証拠は示さなかった。

オイルタンカーが攻撃されたとの報道を受けて、原油の取引価格は4パーセント強急騰したという。しかしながら、マスコミ各社によって騒がれた割には原油の急騰はさらに悪化する気配はなかった。率直に言って、このオイルタンカーの攻撃ではイランの仕業であるとする米国の主張は説得力に欠けており、多くの人たちは「自作自演ではないか」、あるいは、「イランではなく、他の国が関与しているのではないか」という疑念を抱いたものと推測される。

ここに、「いったい誰が得をするのか - イランにはオマーン湾でオイルタンカーに向けて魚雷攻撃を仕掛けたり、戦争を引き起こしたりする理由がない」と題された記事がある(注1)。タンカー攻撃を行った犯人は名乗り出てはいない。誰が犯人であるのかは目下推測の域を出ない。このような状況下では「誰が得をするのか」を分析してみることが常道だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>




Photo-1: 資料写真: 2018年12月21日、ホルムズ海峡を通過するオイルタンカー。© Reuters / Hamad I Mohammed/ File Photo

ワシントン政府からの非難があったにもかかわらず、分析の専門家らはRTに対して「イランにはオマーン湾においてオイルタンカーを攻撃する動機はない」と言う。この不振な事件はテヘラン政府を支援するどころか、逆にテヘランに害を与えたと述べた。

「フロント・アルタイル」と「コクカ・カレイジャス」の2艘のタンカーが木曜日(6月13日)に攻撃を受けた後、イランはこれらのタンカーの乗組員44人を救出した。マイク・ポンペオ米国務長官は、イスラム共和国がワシントン政府の経済制裁に欲求不満を覚え、攻撃をしたのだと主張し、この事故の責任を速やかにイランになすりつけた。

しかしながら、RTと話をした分析専門家らはポンペオの理由付けには疑問を呈している。

「いったいどういう理由でイランは攻撃をするというのか?」

テヘラン政府にとってはオイルタンカーを攻撃して得をすることは何もない、と国防関連の分析を専門とする退役中将のアムラジ・ショアイブが述べている。

「イランはいったいどうしてそんなことをすると言うのか?彼らには戦争を始める理由なんてないし、現状を悪化させる理由もない」と彼は強調する。

この攻撃への関与についてテヘラン政府は断固として否定した。イランのジャヴァド・ザリフ外相はこの事件は非常に不審であると言い、ワシントン政府が証拠も示さずに主張している非難はイラン政府の外交努力を台無しにしようとする魂胆からだと付け足した。

rt.comからの関連記事: ‘Iran written all over it’: Trump accuses Tehran of carrying out tanker attacks 



Photo-2

また、専門家らはこの攻撃は不可思議なタイミングであるとも指摘している。折りしも、日本の安倍晋三首相がイランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師と会談をしている最中であったからだ。日本の首相がイランを訪問したのは40年振りのことであり、偶然にも、攻撃された2艘のオイルタンカーのひとつは日本企業の所有である。

日本企業の国華産業(株)は金曜日(6月14日)に同社のタンカーは二発の「飛行物体」による攻撃を受けたが、積荷のメタノールには何の影響もなかったと発表した。

弁護士で中東の専門家であるクーロシ・シャムルーはRTに対して次のように述べている。そのような歴史的な会談を文字通り妨害するなんてあり得ないことだ。特に、そのような行為は反イランを標榜するワシントンのタカ派の手中に陥るようなものであるからだ。

「私は弁護士だ。この犯罪ではいったい誰が得をするのかを理解しなければならない。われわれはペルシャ湾におけるイランと米国の地政学的な状況を見定めることができる。イランは米国によるイラン攻撃をもたらしかねない船舶攻撃には決して踏み切らないだろう。そのようなことをすれば、米国にイランを攻撃する口実をわざと与えてしまうことになる。つまり、タンカー攻撃を行ったのはイランではない。」

事実、この事件はすでにイランに対して経済的影響を及ぼし始めたとテヘラン大学で政治学教授を務め、カールトン大学の客員教授でもあるハメド・ムサヴィはRTのインタビューで指摘した。

「イラン通貨は今日5パーセントも下落した。これは事態が悪化しているとの言説や戦争が起こる可能性があるからだ。目下イラン政府がもっとも望んでいることは米政府との状況を改善することにあると私は推測する」とムサヴィ教授は言う。 

「主流の陰謀論」: 

大手メディアはポンペオのイランに対する非難については彼の論理について質問するでもなく、証拠を求めるでもなく、ただ彼の非難を忠実に右から左へ流しているだけであって、この事実は驚くには値しないと政治分析の専門家であるシャッビール・ラズヴィが意見を述べた。

「湾岸地域、特に、ペルシャ湾やホルムズ海峡においては、過去数ヶ月間、何かが起こるや否や米国は速やかにイランの責任を追及しようとして来た」と彼は言った。この現象はワシントン政府や無批判なメディアによって推進されている「主流の陰謀論」であると説明を加えた。

rt.comからの関連記事: Sabotage diplomacy: Zarif says no need to be ‘clairvoyant’ to see US ‘plan B’ for Iran 


Photo-3

ラズヴィは、ワシントン政府やその同盟国が証拠もなしにこの攻撃の犯人が誰であるのかを公言することは非常に無責任だと強調した。しかしながら、軍事行動を起こすために筋書きを作り上げようとする国が少なくともひとつはあるとシャムルーは指摘する。

「突然、何らかの出来事が発生する。米国は犯人はベトナムだ、イラクだ、あるいは、イランだと言い始める。そうすることによって、彼らは自国の軍が攻撃を開始する正当な理由をでっち上げる。」 

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

たとえ米国がイランの犯行説を声高に喋ったとしても、説得力がついて来ない。6月17日のニューズウィークの日本語版は「タンカー攻撃、イラン犯行説にドイツも異議あり」と題して米国の同盟国の間でも足並みが揃ってはいない現状を伝えている。ドイツのハイコ・マース外相は14日、米政府の証拠に疑問を呈した。米国の主張を支持しているのは英国だけである。

「Japanese tanker owner contradicts U.S. officials over explosives used in Gulf of Oman attack」と題された6月14日付けの記事によると、「コクカ・カレイジャス」の所有者である国華産業(株)の社長は、同社のタンカーの乗組員が爆発の寸前に飛行物体を見ていることや損傷を受けた場所が喫水線よりも上側にあって、爆発を起こしたのは魚雷とか水面下に設置される吸着機雷とかのせいではないと報告している。明らかに、米国の説明とは食い違う。

上記の見解や様々な指摘を読むと、このオマーン湾上での2艘のオイルタンカーの攻撃は、米国がどのような発言をしようとも、イランの仕業ではないことがほぼ確実だ。

時間が経過するにつれて、トランプ大統領は国内でも、国際世論においても孤立する可能性が高い。米国の2018年の世論を見ると、大多数が海外で行われている終わりのない米国の戦争を嫌っており、70.8パーセントが海外での武力侵攻を抑制する立法を求めている(原典:A New Poll Shows the Public Is Overwhelmingly Opposed to Endless US Military Interventions: By
James Carden, Jan/09/2018)。

そのような世論の中、トランプ大統領が来年の米大統領選で再選を目指しても、今回の発言は大失敗だったと後悔することになるかも知れない。あるいは、再選を目指して、得意の大英断によってまったく異なる声明を発表して窮地からの脱出にまんまと成功するのかも知れない。

「犯人はイランだ」と述べたトランプ大統領は今後どのように軌道修正をするのであろうか。見ものである。

♞  ♞  ♞

そして、もうひとつの出来事が中東を震撼させた。

米軍はイラン国内の攻撃目標に向けて空爆を開始するところであったが、その10分前にトランプ大統領によって中断されたとの報道が1週間弱前に現れた。この攻撃は米軍のスパイドローンがイラン軍によって撃墜されたこと(6月20日)を受けた報復攻撃であると説明された。米国はこのドローンは公海上にあったと言う。だが、イランの高官は反論している。

6月22日、イランのザリフ外相はイランが撃墜したドローンの詳しい飛行経路を示した。撃墜時刻は午前4時5分、撃墜場所は北緯25度59分43秒、 東経57度02分25秒であると発表した。



Photo-4: 青線が撃墜されたドローンの飛行経路。オマーン湾に入ってからどこかでUターンをし、北西から北北西に向けて飛行していたが、最後にイランの領海を示す赤線の内側へ入り込んだ。撃墜場所が赤の四角で示されている。

イラン外相が反論したばかりではなく、6月25日のAFPの報道によると、ロシアの安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記が「テヘラン政府によって撃墜された米国のドローンはイランの領空を侵犯していた」と述べている(原典: Moscow says downed US drone was in Iranian airspace: By afp.com, Jun/25/2019)。このロシアの公式発言は米国にとっては非常に重い。

米国のドローンがイランの領空を侵犯したというイランならびにロシアの主張に対して、その後、米国側からのさらなる反論は無い。通常、直ぐにでも反論して来るのが米国流の外交であり、他国をコントロール下に置く覇権のテクニックだ。米国が沈黙を守っている場合は、米国側には反論のしようがないのか、それとも、次の機会を待っているのかのどちらかであろう。

ペルシャ湾からオマーン湾にかけてのオイルタンカーの航行は非常に頻繁である。その混雑ぶりを示すものとして、やや古いデータではあるが、2012年6月2日のある時点での船舶の航行の状況を見ると、こんな具合だ。



Photo-5: 混雑するホルムズ海峡

現在、原油を積み込んだタンカーは毎日10艘から40艘もホルムズ海峡を通過する。今回の事件、ならびに、5月12日に3艘のタンカーと1艘の燃料補給船に対して行われた攻撃を反映して、用船料は10~20パーセント上昇し、保険料も10~15パーセント上昇したという。こうしてペルシャ湾から運び出される原油はほとんどが東アジア向けである。中国、日本、韓国、シンガポール、インドネシアへと輸送される。この地域で活動する海運関連企業は世界で2000社ほどもあって、今回の事件で用船の予約を即座に止めたのは2社だけであったとのことだ。危険が増してはいるが、海運業は毎日継続されている。

もしもイランが戦争に巻き込まれたならば、中東からの原油輸出は完全に中断されるだろう。日本は万事休すだ。ある報道は下記のように伝えている:

消息筋は次のような内容を確認した。戦争が起こった場合、イランは中東からの原油の輸出を完全にストップさせる。これはオイルタンカーを攻撃することによってではなく、中東各国の原油生産施設を攻撃することによってだ。相手国が同盟国あるいは敵国であるかどうかには関係なくこれを実施する。その目的は中東から世界中に輸出される原油のすべてを中断させるためだ(原典: Iran and Trump on the edge of the abyss: By Elijah J. Magnier, Information Clearing House, Jun/24/2019)。 

トランプは外観だけでもイランとの戦争に勝ちたいと思っている。しかしながら、イラン政権はトランプに対しては何の親切心も示さない。これはトランプがイランに対して親切心を示さないのとまったく同じだ。トランプはイラン原油の輸出を一方的に差し止め、イラン経済を窮地に陥れようとする経済制裁は戦争行為であるという事実を忘れてしまったかのようだ。トランプはすでに宣戦布告をしたに等しい。

ここで、トランプが次回の大統領選のために表面的にでもイランとの戦争に勝とうとしていることを示す格好のエピソードをご紹介しておこう。

消息通によると、イランは米国の諜報部門が示した提案を拒否した。米国側は、第三者を通じて、イラン側にとんでもない提案をしてきた。米軍の空爆目標としてイラン側が1ヵ所、2ヵ所、あるいは3ヵ所を選び、それを米国側に伝え、トランプはそれらの目標を空爆するというものだ。そうすることによって、両国はそれぞれが勝者としてこの戦争を終わらせ、トランプは面子を保つことができる。イランはこの提案を断固として拒否した。「たとえイランの人っ子ひとりもいない砂浜に対する攻撃であっても、湾岸地域の米軍施設に対してミサイルによる報復攻撃を行う」と回答した。(原典:Iran and Trump on the edge of the abyss: By Elijah J. Magnier, Information Clearing House, Jun/24/2019) 

舞台裏ではあきれる程に漫画的なやり取りがあったのだ。

ところで、世界の海運業界は安全を確保するために海軍の出動を議論しているが、米国は今やペルシャ湾沿岸からの原油の輸入がないことから、米海軍がしゃしゃり出る幕ではなく、東アジア諸国が対応するべきだとの姿勢をとっている。

しかしながら、ここでは軍事的対応策を考えるのではなく、本質的な解決策、つまり、政治的な決断を優先することが大事だと私は思う。特に、日本にとってはこれは死活的な大問題である。

そもそも、この問題は米国がイラン合意から離脱すると一方的に宣言したことから始まったことだ。米国がイランを敵視する政策を引っ込めさえすれば、すべてが解決する問題である。米国は国際法や条約を無視する対外政策、ならびに、傲慢な例外主義やグローバリズム、新資本主義、経済制裁といった政策を改めるべきである。世界は好戦派のネオコンとはおさらばしなければならない。

中国、日本、韓国、シンガポール、インドネシア、ならびに、EUは結束して、米国にそう提言するべきだ。


参照:

注1: Cui bono? Iran has ‘no reason’ to torpedo oil tankers in Gulf of Oman and ‘go to war’: By RT, Jun/14/2019,
https://on.rt.com/9wdt

 

 

 

 

2019年6月24日月曜日

「MH17便の撃墜はロシア人の仕業ではない」とマレーシアのマハティール首相は言う。米国およびその同盟国はたくさんの事柄について回答しなければならない

5年前に起こったMH17便撃墜事件を再訪してみよう。

最近の6月20日、AFPは次のような報道をした。2014年にウクライナ東部でマレーシア航空のMH17便が撃墜され、乗客乗員298人が死亡した事件で、オランダが主導する国際捜査チーム(JIT)は、19日、ロシア人3人とウクライナ人1人を殺人罪で起訴すると発表した。同事件で容疑者が裁判にかけられるのは初めて。ロシア外務省は声明で、「全く根拠のない嫌疑」だと反発している。4人はいずれも軍や情報機関とのつながりがあり、裁判は来年3月にオランダで開始される予定。だがロシアとウクライナはいずれも自国民の外国への身柄の引き渡しには応じないため、裁判は被告人が欠席のまま行われる可能性が高い。

以上がMH17便撃墜事件にかかわるもっとも最近の出来事だ。

私の個人的な理解はこうだ。捜査チームが発表した本事件の説明には当初から重要な要素が欠如していた。政治的な野心が最優先であったからだ。彼らは意図的に情報を歪曲している。オランダが主導するJITには事実を発掘し、この撃墜事件を引き起こした真犯人を見い出そうとする努力がまったく感じられない。彼らが行っていることは米国の主導の下で真犯人であると思われるウクライナに繋がる証拠はあくまでも隠蔽し、犯人としてでっち上げられたロシアを徹底的に追求することに狙いがある。彼らは科学的な捜査は行わず、米国の政治的思惑に沿う情報しか公開しない。JITはわれわれが理解している科学的な捜査を行うのではなく、あくまでも一般大衆の洗脳のために設置されたと言える。何という捜査班であろうか?

そう思う読者の方々が多いのではないだろうか?少なくとも、不審に思っている人たちが数多くいるだろうと推測する。何と言っても、彼らは誰もが考え得る常識的な質問に答えようとはしないからだ。

「MH17
便 - 真実がついに現れつつある」と題された記事がある(注1)。去年の9月26日の記事であるが、その内容は私が今までの情報検索の結果到達していた私なりの結論とほぼ同一である。まずは、この記事の要旨をここに纏めておこうと思う。


要旨: 

2014年7月17日、マレーシア航空のMH17便はアムステルダムを出発し、クアラルンプールに向けて飛行をしていたが、ウクライナ上空で予定の飛行経路を変更するよう誘導された。航空管制官は予定の飛行経路から200キロも北へずれた航路を飛ぶよう指示した。

新しい飛行経路は戦闘地域の真上であった。その5ヶ月前、右翼によるクーデターの後に動き出したキエフ新政権は、当時、ウクライナのドンバスおよびルガンスクの両地域に住む多数派のロシア語系住民に対して内戦を推進していた。

旅客機が撃墜された際は、通常、誰もが従わなければならない手順が存在する。これらの手順には、まず、独立した捜査チームを設定し、現場での実地検証を行い、乗員の遺体を収容し、機体の破片を回収することが含まれる。それに付随して、レーダーや人工衛星のデータ、航空管制官の管制記録、等を取得することも含まれる。

MH17便事件の悲劇のもっとも中心的な要素のひとつはこれらの手順に間違いが起こることを予防する手法がことごとく無視されたことだ。明白な事例を挙げてみよう。

旅客機が撃墜されて1時間も経たない時点で、航空管制官の作業を記録したテープがウクライナ秘密警察(SBU)によって差し押さえられた。それ以降、この管制記録は誰も眼にしてはいない。

当時の米国務長官ジョン・ケリーはこう言った。「米国はウクライナ上空で静止位置にあった衛星からの情報によって何が起こったのかについては熟知している。」 そのデータは後にJITに開示されたが、この衛星データは一般には公表しないとの条件付きであった。

今もそのままである。もしもこの衛星データが過去の5年間に喧伝されてきた「ロシア犯人説」を実際に証明するものであるならば、誰だってそのような証拠はいち早く公開するべきだと考えるであろう。

刑事事件の捜査は捜査の結果には何の利害関係もない捜査官が実施しなければならない。これは古くから存在する自然的正義の原則である。自分が関与した事件の審判には誰も参画することはできない。

驚くことに、JITはオランダとオーストラリア、ベルギー、および、ウクライナで構成されている。最初の2カ国はこの旅客機がアムステルダムから出発していること、ならびびに、オランダとオーストラリアは数多くの犠牲者を出したことから説明が可能だ。

ベルギーの参画はこの悲劇が持つ地政学的な文脈だけから説明が可能だ。つまり、ベルギーにはNTO本部があることだけで説明される(2018年にマンチェスター大学出版から発刊されたKees van der Pijl著の「Flight MH17, Ukraine and the New Cold War」)。しかしながら、ウクライナの参画はこれらの基本的な原則を見事に破ってしまった。ウクライナは当初から中心的な容疑者であった。下記に論じている理由から、今やなおさらその容疑の程度が濃くなっている。マレーシアは、当初、メンバーではなかった。この件についても説得力のある理由は見つからない。

捜査の構造そのものが妥協の産物であるだけではなく、2014年8月に四カ国が署名した機密に関する合意によってこの妥協はさらに深化した。この合意の当事国の一国でも反対であるならば如何なる捜査情報も公表をしないというものである。まったく前代未聞である。これは犯人としてもっとも強く疑われているウクライナに捜査結果について拒否権を与えたも同然である。

如何なる捜査においてももうひとつの原則が存在する。審判は、通常、適度なレベルにある高度な基準にしたがって、すべての証拠が収集され、吟味され、個人または国家が犯人であるとして確定されるまで証拠は保留される。

この基本的な原則も無視された。(ウクライナ政府が言うことは、明白な理由から、誰だって疑ってかかっていただろうが、)特に、オーストラリア政府はこの捜査の初期段階からロシアを非難し、ずけずけと発言した。

ロシア政府が実際の証拠を公表した際、オーストラリア政府は無知のせいか、それとも、恥じ入ったのかは別として、徹底して沈黙した。2018年5月、JITはMH17便を撃墜したと判断されるブク・ミサイルの識別番号を公開した。

この情報公開は事故後4年も経過してからだ。このような基本的な証拠がこのように長い間保留されていたのは何故かという問いかけは実に的を射ている。

2018年9月17日、ロシア国防省のスポークスマンを務めるイーゴル・コナシェンコフ将軍および中央ミサイル砲兵部隊のニコライ・パルシン中将が突破口を開いた。これは長い期間にわたって公の捜査からは欠落したままであったものだが、ブク・ミサイルを識別することに不可欠なデータをJITが公開したことから、急遽、さらなる調査が可能となったのだ。

ロシア当局は関連のある記録文書(これらは今や機密書類から解除されている)を探し出すことに成功した。この調査の結果、下記の事実が報告されている:

(a) このミサイルは1986年にロシアのドルゴプルドニで生産された。

(b) このミサイルは鉄道で1986年12月29日にウクライナへ輸送され、後に配備された。同ミサイルは二度とロシアへ戻っては来なかった。

(c) ブク・ミサイルを所有していた部隊はリヴィウ地域のストルィーという地方都市に駐屯していた。この部隊はドネツクやルガンスク地域で何回にもわたっていわゆる反テロリズム作戦に従事した。

(d) JITの説明はミサイル発射装置はロシア領内へ戻されたとするべリングキャットのビデオの分析に全面的に依存するものであるが、このビデオは偽物であった(スポークスウーマンのスベトラーナ・ぺトレンコの言)。

(e) ロシア側はウクライナのルスラン・グリンチャク大佐の電話内容の音声記録を所有しているが、これはグリンチャクの部隊がMH17便を撃墜したことを示唆している。

(f) グリンチャクの部隊はレーダー追跡にも関与していた。2014年7月17日にはMH 17便を追跡していた。(このことはウクライナ政府は当日はレーダーがメンテナンスのために閉鎖されていたと言ったが、彼らは嘘をついた。)

ところで、米国やオーストラリアの反応は、通常、実に素早い。今回もロシアを非難したのであろうか?彼らは完全に沈黙してしまった。MH17便やウラジミール・プーチン大統領に関して発せられた驚くほどに酷い声明について何らかの陳謝を期待することはナイーブであろう。陳謝をすれば、(自分たちの)政治生命を絶つことに繋がってしまうからだ。

とは言え、多分、将来の審判を急ぐことはない。当初の余りにも性急で、正当な理由に欠けた非難はこの悲劇がもたらした痛みをさらに大きくした。この悲劇は腐敗しきった、非常に危険な、ウクライナ政府に巣食う輩によって引き起こされたという可能性が濃厚である。西側各国がこの現実を認識し、物の言い方や政策を調整するべき機会はとっくの昔に過ぎている。

著者のプロフィール: ジェームズ・オニールはオーストラリアを本拠とする弁護士で、オンライン誌の
New Eastern Outlookのために独占的に執筆している。
https://journal-neo.org/2018/09/26/mh17-some-truth-emerging-at-last/

これで要旨の記述は完了した。

実に立派な纏めであると思う。事実を掘り起こそうとする著者の姿勢が率直で、見事である。

本来ならば、JITこそがこのような姿勢を貫いて現場検証を行い、証拠を収集し、客観的な結論を導く筈であった。民主主義を誇りに思う西側の一般市民は誰もがそう期待し、そのような展開を当然視していた筈だ。特に、数多くの犠牲者を出したオランダやオーストラリア、マレーシアの一般市民にとっては、このJITの仕事の進め方や判断の内容はまったく受け入れられないであろう。民主主義国に住んでいると信じて疑わないわれわれ一般大衆は完全に無視され、われわれは政治的な洗脳の対象でしかない。そして、JITが公表してきた説明は巨大な、組織だった大嘘でしかないことが、今や、明白となった。


♘  ♘  ♘


前置きが長くなってしまったが、ここで本論に入ろう。

ここに『「MH17便の撃墜はロシア人の仕業ではない」とマレーシアのマハティール首相は言う。米国およびその同盟国はたくさんの事柄について回答しなければならない』と題された最近の記事がある(注2)。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

マレーシアのマハティ-ル・モハマド首相は、新たに制作されたドキュメンタリー・フィルムで、マレーシア航空のMH17便の撃墜はロシアの犯行だとする主張は最初から仕組まれたものだと述べている。彼はマレーシアの政府高官が証拠を吟味することは制止されていたという事実を強調した。

2014年7月17日、MH17便の乗員と乗客の合計298人が犠牲となったが、この犠牲者の中には43人のマレーシア人が含まれている。その内のひとりが旅客機が地対空ミサイルによって撃墜された当時首相を務めていたナジブ・ラザクの義理の祖母、
プアン・スリ・シティ・アミラー(83歳)であった。




Photo-1

5月26日、彼のオフィスでマハティ-ルは「彼らは最初からわれわれの参画を許そうとはしなかった。これは不公平であり、通常ではあり得ないことだ。彼らには墜落の本当の理由や犯人が誰であるのかを見つけようという意思がないことは見え見えだった。すでに、犯人はロシアだと決めつけていた。われわれはこのような態度を受け入れることはできない。われわれは法の支配に関心があり、誰が関与したのかには関係なく、誰にとっても正義が行使されることに強い関心を持っている。いったい誰がミサイルを発射したのかをわれわれは突き止めなければならない。そうすることによって初めて、完全な真実で構成された報告書を受け取ることが可能となる」と述べた。

「彼ら」という言葉を用いているが、マレーシア首相はモスクワ政府の主導の下でロシア軍がミサイルを発射したというでっち上げを喧伝して来たオランダとオーストラリアの両政府、ならびに、米国政府を非難したのである。

彼らの主張は2014年7月29日に米国とEUによって
課された経済制裁の正当な理由として公けにされた。これらの施策はロシアの銀行や造船業に対する経済・貿易戦争としては始めてのものであった。

昨年の末、ロシア国防省はマレーシアのジェット旅客機を撃墜したミサイルは1986年にロシアの製造工場で製造されたものであって、その後ウクライナに向けて出荷されたという証拠を提供した。このミサイルが最後に確認された場所はウクライナ軍の基地である。詳細については、
これを読んでもらいたい。

マハティ-ルはMH17便の撃墜に関してオランダやオーストラリア、米国を非難した最初のマレーシア政府の高官という訳ではない。

ワシントンDCにおいては、撃墜の当日、バラク・オバマ大統領はクアラルンプールのナジブ首相に電話した。ふたりの会話について米国とマレーシアの記録を見ると、オバマはロシアが犯人であるとは
主張していない。 オバマからの電話の後、犯人を言及しないという点においてはナジブはより一層明確であった。「われわれは旅客機にいったい何が起こったのかを究明する」と7月18日の記者会見で述べている。 「旅客機が間違いなく撃墜されたのだとすれば、われわれは犯人の責任を問う。ウクライナ政府は旅客機は撃墜されたと言っている。しかしながら、この段階においてはマレーシアはこの悲劇の原因を特定しなければならない。この旅客機が撃墜されたことが明らかになれば、犯人は速やかに法の裁きにかけなければならない。緊急対策センターが設立された。この数時間、マレーシア政府はウクライナならびに他の関係国と接触を保ち続けている。」

ナジブはオランダ首相とウクライナ大統領と話をしたと記者会見で述べた。彼はオバマとの会話については何も言わなかった。




Photo-2: 2014年7月18日、記者会見でのナジブ首相(中央)。供給元:  https://says.com/  ナジブ首相の声明の重要な点はマレーシア航空とマレーシア政府は国際航空当局からの確認を受け取っていたという点である。

マックス・ヴァンデル・ウェルフとヤーナ・ヴェルラショヴァは5月28日のマハティール首相とのインタビューの様子を撮影した。「MH17便 - あれから5年」と題したドキュメンタリーフィルムの予告編として、今週、彼らはこのインタビュー記録の抜粋を公開した。独立したジャーナリストのための場を開始するために、彼らはこの5月に「ボナンザ・メディア・テレビチャンネル」を創設した。彼らが作成したMH17便に関するドキュメンタリーはこのテレビチャンネルで最初に放映された。
こちらをクリックして、このフィルムを観ていただきたい。このフィルムの全編は来月放映される予定だ。

ヴァンデル・ウェルフはウクライナ東部で破壊されたMH17便について調査を行っている独立した、著名な人物であって、オランダ人である。ヤーナ・ヴェルラショヴァはロシア人のドキュメンタリーフィルムの製作者であって、かってはRTで仕事をしていた。RTは国営放送のBBCやボイスオブアメリカと同様にロシアの国営メディアである。 



Photo-3: 左側はマックス・ヴァンデル・ウェルフ、右側はヤーナ・ヴェルラショヴァ。この映像で、独立したドキュメンタリーフィルムを製作するために何故ヴェルラショヴァがRTを去らなければならなかったのかについても彼らは説明している。この新着のドキュメンタリー「MH17便 - あれから5年」は国際的な寄付金によって資金提供が行われた。 

3月26日、オーストラリアとオランダ両国の外相はシドニーで公の場に姿を現した。ふたりは同月にロシアの代表と「オーストラリアとオランダおよびロシアとの間で責任国家に関して第一回目の反復協議」を開いたと述べた。交渉の詳細については何も言及せずに、オランダのステファン・ブロック外相は「MH17便の撃墜に関してはロシアに責任があるとすでに断定したことを繰り返して述べた。この段階に続いて、われわれはロシアとの接触の段階に入った。」 

マレーシアの犠牲者数は193人のオランダに次いで二番目に多く、オーストラリアの28人よりも多いにもかかわらず、ふたりの高官はマレーシアが「責任国家に関する話し合い」にどうして含まれていないのかについては説明をしなかった。 




Photo-4: 中央左側はオランダ外相のステファン・ブロック、右側はオーストラリア外相のマリーズ・ペイン。供給元: https://www.nst.com.my/  オランダとオーストラリアの高官はマレーシアが自分たちのMH17便の筋書きをぶち壊すことがないようにとマレーシア側に圧力をかけるために定期的に会合を持った。

オランダ・オーストラリアの会談はマハティールからの批判を招き、彼の批判はヴァンデル・ウェルフとヴェルラショヴァとのインタビューを通じて5月26日に記録された。

それから4日後の5月30日、マハティールはオランダとオーストラリアに対する自分の反応を公にした。東京での記者会見で、マレーシアの国営メディアであるBERNAMAは首相が
述べた内容を報じた。「旅客機がロシア人によって攻撃されたと断定するには強力な証拠が必要だ」とマハティールはコメントした。 「犯人はウクライナの反政府派かも知れないし、同一種類のミサイルを所有しているウクライナ政府かも知れない・・・ われわれは当初からこの捜査からは除外されてきたがそれが何故かはわれわれには分からない。これらの動きには政治が大きく絡んでいること、そして、狙いはこの悲劇がどのようにして起こったのかを究明するのではなく、悲劇の責任をロシア人になすりつけようとしていることが見え見えだ。中立的な捜査ではない。」

オーストラリアのマードック・メディアは、マレーシア紙の記事をカンニングして、次のような趣旨の論説を発表した。「マハティール博士は立派な陰謀論を楽しむことで知られた存在であるが、彼の意見が眉をひそめさせるのはこれが初めてではない。」 

原典:
johnhelmer.net

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

最近の数年間というもの、もっと正確に言えば20年近くにわたって、米国(およびその盟友である英国)の対外政治は空回りをしている。少なくとも、このMH17便撃墜事件やシリア紛争、2016年の米大統領選におけるロシアゲート、英国のソルズベリーで起こったスクリッパル父娘毒殺未遂事件、ベネズエラでのクーデター未遂、ホルムズ海峡近海で最近おこった2隻のオイルタンカーに対する攻撃、等は何れもその目的を達せず、次々と失敗している。

この空回りは911同時多発テロ事件における政府調査団にも見られた。イラク戦争では喧伝していた大量破壊兵器が見つからなかった。これらの失敗はそれぞれが同じ延長線上に位置している。

このMH17便撃墜事件でもロシアを犯人としてでっち上げることには失敗した。今や、ロシア犯人説を覆す情報が世間にはたくさん出回っており、われわれ一般庶民さえもがそれらの情報にアクセスし、真の状況を詳細に理解し始めている。この現状を知ろうともせずに、ロシア犯人説をゴリ押しすることはオーストラリアにおいても、オランダにおいても政治的な自殺行為に等しい。

つまり、西側の政治家は選挙民は次回の選挙では今までのようには投票をしてはくれないだろうということを自覚しなければならないだろう。


参照:

注1: MH17: Some Truth Emerging at Last: By James O’Neill, NEO, Sep/26/2018

注2: Russians Did Not Shoot Down MH17, Says Malaysian Prime Minister. US, Allies Have a Lot to Answer for: By John Helmer, Russia Insider, Jun/08/2019

















2019年6月18日火曜日

「芳ちゃんのブログ」からひとつのテーマについて抽出、分類してみました


まずは、このテーマで・・・
 

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Ⓐ テーマ: モンサント、グリフォサート、ラウンドアップ除草剤、殺虫剤、遺伝子組み換え

更新日:2019/06/18

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私は2011年から「芳ちゃんのブログ」をインターネットに掲載しています。最初の段階では特に決まったテーマはありませんでしたが、日数を重ねるにしたがって、外界世界ではシリア紛争、ウクライナ紛争、マレーシア航空MH-17便撃墜事件、スクリッパル父娘毒殺未遂事件、ロシアゲート、等々、が起こり、人々は毎日のように報じられる新しいニュースに釘付けの状態となりました。
私のブログも例外ではありません。その頃から国際政治に関わる投稿が急速に多くなっていった次第です。
その一方で、食品の安全性の問題も重要な関心事です。特に、2014/06/02の投稿は「モンサントの除草剤と腎疾患との関連性」との表題の下で、世界市場を相手にするバイオテクノロジーがもたらす負の側面は必然的に世界規模の影響を与えるという現実を明確に伝えています。この投稿をきっかけにして、私の関心は除草剤、殺虫剤、遺伝子組み換え作物、環境汚染へと広がり、「芳ちゃんのブログ」では国際政治に次ぐ重要なテーマとなっています。
フェースブック友達のひとりの方からの助言もあって、私のブログの中でこの「除草剤、殺虫剤、遺伝子組み換え作物、環境汚染」の分野に属する諸々の投稿を纏めてみることにしました。その結果がここに示すリストです。
「芳ちゃんのブログ」は見出し機能を備えてはいないことから使いにくいのではないかと推測します。その不便さを少しでも解消するために、上記のテーマに属する個々の投稿を抽出し、それらの日付と表題を頼りにリスト化してみました。このリストに含まれる投稿はひとつのファミリーを構成します。このリストでは古い投稿は下部に、新しい投稿ほど上部に位置するように配置しています。
尚、このテーマは人の健康に関わる事柄でもあることから、読者の皆さんの関心がもっとも高い分野であろうと推測し、まずはこのテーマで纏めてみることにしました。このリストは2014/06/02の投稿から始まって、今までの5年間に掲載した投稿を網羅し、現時点では21篇を収録しています。関心のある投稿がありましたら、「芳ちゃんのブログ」を開き、その投稿の日付にしたがって目標の投稿にアクセスしてください。

遺伝子組み換え作物や除草剤がもたらす健康被害について少しでも多く、より深く理解する上でこのインプットが読者の皆様に何らかの形で役立ってくれれば嬉しい限りです。

他のテーマについても同様の試みを継続して行きたいと思います。

 


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Ⓐ テーマ: モンサント、グリフォサート、ラウンドアップ除草剤、殺虫剤、遺伝子組み換え

更新日:2019/06/18

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(21) 2019/06/03、「グリフォサートはわれわれが想像する以上に悪い」
yocchan31.blogspot.com/2019/06/blog-post.html 
            原典:Glyphosate Worse Than We Could Imagine: By F. William Engdahl, NEO, Apr/14/2019

(20) 2019/05/28、「遺伝子組み換えのジャガイモを作り出した科学者が危険な真実を暴露 - 独占インタビュー
yocchan31.blogspot.com/2019/05/blog-post.html
原典:The Creator of GMO Potatoes Reveals The Dangerous Truth - Exclusive Interview: By Sustainable Pulse, Oct/09/2018

(19) 2019/04/02、「最近のグリフォサート由来の癌の訴訟に関して米陪審員はバイエルに対して8千百万ドルの損害賠償を裁定
yocchan31.blogspot.com/2019/04/8.html
原典:US Jury Punishes Bayer with 81 Million Dollar Damages Ruling in Latest Glyphosate Cancer Trial: By Sustainable Puls, Mar/28/2019

(18) 2019/03/08、「このままでは欠かすことができない昆虫さえもが絶滅してしまう
yocchan31.blogspot.com/2019/03/blog-post.html
原典:We’re Killing Off Our Vital Insects Too: By F. William Engdahl, NEO, Mar/02/2019

(17) 2019/02/17、「グリフォサートの致死性を明らかにしたことによりスリランカ人の専門家が著名な科学賞を受賞
yocchan31.blogspot.com/2019/02/blog-post_40.html
原典:Sri Lankan Experts Receive Top Scientific Award for Revealing Lethal Truth about Glyphosate: By Sustainable Pulse, Feb/04/2019

(16) 2018/10/31、「人の遺伝子編集における地政学
yocchan31.blogspot.com/2018/10/blog-post_31.html
原典:The Geopolitics of Human Gene Editing: By Ulson Gunner, NEO, Oct/19/2018

(15) 2018/10/22、「遺伝子操作によって再合成された「馬痘」が引き起こすかも知れない天然痘の大流行の可能性に科学者たちはびびっている
yocchan31.blogspot.com/2018/10/blog-post_22.html
原典:Scientists Freak Out Over Pandemic Potential Of Genetically Engineered Smallpox: By Tyler Durden, ZEROHEDGE, Oct/14/2018

(14) 2018/08/29、「モンサントの有罪判決は始まったばかり
yocchan31.blogspot.com/2018/08/blog-post_29.html
原典:Monsanto Guilty Verdict Is Only Beginning: By F. William Engdahl, NEO, Aug/15/2018

(13) 2018/01/16、「機密の裁判所文書においてモンサント社は安全性試験が未完了の「ラウンドアップ」除草剤に発癌性があることを認めている
yocchan31.blogspot.com/2018/01/blog-post_16.html
原典:Monsanto Admits Untested Roundup Herbicide Could Cause Cancer in Secret Court Documents: By Sustainable Pulse, Aug/09/2017

(12) 2017/06/15、「遺伝子組み換え大豆に危険なレベルの除草剤グリフォサートを検
yocchan31.blogspot.jp/2017/06/blog-post_15.html
原典:Potentially dangerous levels of glyphosate found in GM soy: From THE DETOX PROJECT, detoxproject.org/glyphosate/potentially-dangerous-level..

(11) 2017/06/11、「グリフォサートの機密データの中に腫瘍を引き起こす証拠を発見」
yocchan31.blogspot.com/2017/06/blog-post_11.html
原典:New Tumor Evidence Found in Confidential Glyphosate Data: By Sustainable Pulse, May/31/2017


(10) 2017/01/10、「バイエル社の農薬がミツバチを不妊化している
yocchan31.blogspot.com/2017/01/blog-post.html

原典: Bayer AG Makes Bee Contraceptives: F. William Engdahl, New Eastern Outlook, Aug/13/2016,  journal-neo.org/2016/08/.../bayer-ag-makes-bee-contraceptive...


(9) 2016/06/27、「除草剤グリホサートに対する反対が驚くほど拡大」 
yocchan31.blogspot.com/2016/06/blog-post_43.html
原典: The Amazing Glyphosate Revolt Grows: By F. William Engdahl, New Eastern Outlook, May/23/2016, journal-neo.org/2016/.../the-amazing-glyphosate-revolt-grows...
(8) 2015/12/24、「不信感が募るばかり - 「遺伝子組み換え作物のリスク評価は欠陥だらけ」と専門家が指摘
yocchan31.blogspot.com/2015/12/blog-post_24.html
原典:Growing Doubt: a Scientist’s Experience of GMOs. Flawed Processes of GMO Risk Assessment: By Jonathan Latham PhD, Global Research, Sep/02/2015
(7) 2015/09/02、「アルゼンチン - モンサントによって汚染された国
yocchan31.blogspot.com/2015/09/blog-post.html
原典: Argentina: The Country that Monsanto Poisoned? Photo Essay: By Syddue, Dec/29/2014, overgrowthesystem.com/argentina-the-country-that-monsanto-... 
(6) 2015/08/27、「遺伝子組み換え食品には安全性の証拠が出揃ってはいない
yocchan31.blogspot.com/2015/08/blog-post_27.html
原典: No scientific evidence of GM food safety: By Nafeez Ahmed, INSURGE Intelligence, Jul/13/2015
(5) 2015/06/22、「モンサント社の元社員であった一流専門誌の編集者、その地位から解任される
yocchan31.blogspot.com/2015/06/blog-post.html
原典: Former Monsanto Employee Fired from Major Scientific Journals Editor Position: By Christina Sarich, Global Research, Mar/30/2015, www.globalresearch.ca/former-monsanto-employee-fired-fro...
(4) 2015/06/15、「モンサントの除草剤と発がん性との関連性 - WHOは公表した調査結果を撤回しそうもない」
yocchan31.blogspot.com/2015/06/who.html
原典:World Health Organization Wont Back Down From Study Linking Monsanto to Cancer: By Derrick Broze, The Anti-Media, Mar/30/2015, theantimedia.org/world-health-organization-wont-back-down-... 
(3) 2014/06/13、「遺伝子組み換え食品による著しい炎症反応 - 豚を使った試験で
yocchan31.blogspot.com/2014/06/blog-post_13.html
原典:Large Pig Study Reveals Significant Inflammatory Response to Genetically Engineered Foods By Dr. Mercola, May/18/2014, articles.mercola.com/sites/.../gmo-foods-inflammation.aspx
(2) 2014/06/07、「まさに信じがたい - 遺伝子組み換え作物に反対する人を黙らせようとしたシンジェンタ社の対応
yocchan31.blogspot.com/2014/06/blog-post_7.html
原典: Syngenta methods of silencing GMO opposition are unbelievable: By William Engdahl, RT, May/15/2014, http://on.rt.com/yfwt3v
(1) 2014/06/02、「モンサントの除草剤と腎疾患との関連性
yocchan31.blogspot.com/2014/06/blog-post.html
原典: Monsanto's Roundup may be linked to fatal kidney disease, new study suggests: By RT, Feb/27/2014, http://on.rt.con/do84uy
 

 
 

 

2019年6月16日日曜日

ゴルノフに関してロシアのメディアが連帯 - アサンジのことで媚びへつらう欧米の不快なメディアとはまったく対照的


イワン・ゴルノフという調査報道ジャーナリストのことをご存知であろうか。誰も知らなかったと思う。ロシア人のジャーナリストのことであることから、今回の出来事が世界中を駆け巡るまでは、このジャーナリストの存在は日本の一般庶民にとっては知る術もなかった。

彼は、最近、麻薬ディーラーの容疑でモスクワの警察に逮捕された(6月6日)。しかしながら、警察は確固たる証拠を示すことが出来なかった。市民やメディアからの批判を受けて、結局、当局は彼の逮捕を白紙に戻した。内務省は今回のスキャンダルを引き起こした警察の幹部を調査すると約束した。このような展開はロシアでは異例のことである。それだけに、この一週間世間の注目を集めていた。

ロシアにおいてはジャーナリストが首を突っ込むことが出来ない、あるいは、非常に難しいと言われている分野がいくつかある。プーチン大統領の個人的な事柄を筆頭にして、ロシア政府に対する批判、等々、はタブー視されている。首都モスクワの警察がイワン・ゴルノフを逮捕したことは不当であるとする批判も、その展開次第ではあらぬ方向へ走ってしまう可能性があった。しかしながら、今回はメディアが彼の逮捕に対する批判をしっかりと支えてくれたことから、警察はゴリ押しすることができず、ゴルノフの逮捕を白紙に戻した。

ここに「ゴルノフに関してロシアのメディアが連帯 - アサンジのことで媚びへつらう欧米の不快なメディアとはまったく対照的」と題された記事がある(注1)。著者は長年モスクワに駐在しているアイルランド人のブライアン・マクドナルドである。この著者はロシアを正しく理解しようという姿勢を常に貫いていることを私はここで指摘しておきたい。それは米国で2年以上も続いたロシアゲート事件にかかわる彼の論評、等から容易に感じられる。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。ブライアン・マクドナルドの意見を拝聴してみよう。

<引用開始>
Photo-1: © REUTERS/Tatyana Makeyeva; © AFP / Daniel LEAL-OLIVAS 

もしもあなたがイワン・ゴルノフについて懸念を表明し、ジュリアン・アサンジについては何の懸念も示さずに言論の自由を支持すると宣言したならば、あなたはとんでもない偽善者である。逆の場合も同じことだ。

モスクワで根拠が薄弱なまま麻薬取締法違反で逮捕されたロシアン人ジャーナリストについて連帯の表明があった。これは大歓迎だ。しかしながら、自国におけるジャーナリズムに対する攻撃を無視し、あるいは、それを助長しておきながら、地政学的な得点をあげようとする輩からの連帯の表明はご免蒙りたい。

予測通りではあるが、ゴルノフの逮捕に関する米英のメディアならびに政治家からの反応はそのほとんどがこの出来事をクレムリンが言論の自由を抑圧するものとして捉えようとしていた。

RT.COMからの関連記事: 
Russian journalist accused of drug dealing tests negative for drugs

しかしながら、現実は遥かに複雑である。西側の大手メディアはロシアに関して真面目な専門的知識に欠けている実態を、またもや、露呈することになった。

先ず、ロシア政府の狼狽振りを1から10の点数尺度でこの出来事を明確に評価しておこうではないか。ロシア政府にとってはこのゴルノフの逮捕は最高点を越して、11点だ。麻薬取締法違反で自分の仲間を逮捕することは馬鹿げており、ロシアへ外資を呼び込む旗艦として働いている「サンクトペテルブルグ国際経済フォーラム」の存在を霞ませてしまった程だ。

第一面でサンクトペテルブルグを訪問している習近平中国主席を報道し、ウラジミール・プーチン大統領のチームのために立派なPRを行う筈であった。しかし、その代わりに、ニュース紙は繰り返してゴルノフに焦点を当てることになった。国内でも、そして、国外でもだ。
rt.comからの関連記事: Court puts Russian journalist charged with drug dealing under house arrest 


Photo-2

ゆっくりとした変化:

クレムリン政府が莫大な費用を要する自分たちの通商媒体に破壊工作をするという何らかのサディスティックな願望を持ってはいない限り、明らかに、この出来事には「プーチンをまさにボンドのような全能の悪党」と見なす西側が頻繁に使う筋書きを通して見る場合に比べてさらに何かが存在するみたいだ。皮肉なことには、現実は専制的で、全権力を掌握する政府が反対意見を封じ込めようとしているという筋書きよりももっともっと深刻であるのかも知れない。

それに代わって、この出来事は国の安全保障当局の内部には実際に罰を受けることもなく活動する工作員がいることを追認するようなものでもある。これはロシアだけに特有なものという訳ではないが・・・。

さらには、微妙な違いに興味を抱く人たちは、その歴史から見てさえも、ロシアにおける変化はどうしてこうも遅いのかを理解しているに違いない。さらには、プーチン(あるいは他の指導者)が深く根付いている政府機関に分け入って、一日の内にそれをひっくり返すことはできないということをも十分に理解しているに違いない。一日ではなく、多分、何十年もかけたとしてもだ。

とは言え、何時も繰り返される反ロシアの大合唱には、予想通りではあるが、何かを理解しようとする姿勢は何も見えては来ない。彼らはこの出来事が潜在的には分水嶺的な瞬間であるということを理解するのに必要な知識もなく、何の関心も持ってはいないのだ。

Michael Weiss (@michaeldweiss) のツイッタ一、
2019年6月9日:

ロシア政府によって無実の罪で投獄されたジャーナリスト、イワン・ゴルノフ
@meduzaprojectとの完全な連帯、これは実に心打たれる光景だ。日刊紙のコメルサントやヴェドモスチ、ならびに、RBKテレビチャンネルが出版・放映した: pic.twitter.com/1ZXT58CYiG

ロシアにおけるジャーナリスト集団はゴルノフを巡って団結し、社会運動を引き起こした。この連帯は思想が何であるとか、所有者が誰であるとかという諸々の境界を越して、結集された。たとえば、公共テレビ網のNTVではイラダ・ゼウナロヴァは、驚くことには、こう言った。「この国はペレストロイカの過程でオーウェル的な反ユートピア社会にはならないと決断した。今、わが国はそこへ戻ってはならない」と。

 その一方で、フィル・ドナヒューと一緒に行って来た仕事振りや公共テレビでの人気の高いショウ番組の司会役を務めたことから米国では知名度が高いウラジミール・ポズナーは
こう言った。 「イワン・ゴルノフの逮捕はロシア人ジャーナリスト全員の顔に唾を吐きかけたようなものだ。私は自分の顔に唾を吐きかけようとは思わない。」 

RTならびにロシア・セヴォードニャの編集長を務めるマルガリータ・シモニアンは金曜日(6月7日)に
ツイッターでこう言った。 「政府はこの逮捕に関しては一般大衆の疑問点のすべてに答えなければならない。理由は簡単だ。一般市民は実に多くの疑問を抱いているからだ。」 

彼女は、土曜日の午後、
さらにこう言った。 ゴルノフを裁判前の逮捕の状態に置くのではなく、彼は自宅へ帰らせるようにと嘆願した。これは「彼の健康と一般的な状況を配慮した結果だ」と言った。さらに、彼女は悪行があったことを示す何らかの「証拠」を一般大衆に示さなければならないという自分の主張についても念を押した。

グルノフは偶々RTのTシャツを着ていた。そのTシャツにはフランスでの「黄色のヴェスト」運動とロシアとの関連性を見つけ出せという上層部からの圧力の下でBBCの特派員が述べた「ニュース編集室は血なまぐさいニュースを求めている」という引用が書かれていた。結局、英国の国営テレビ局は自分たちの国内から始まった運動の中にロシアの幽霊を見つけ出すことはできなかった。
rt.comからの関連記事: ‘We are Golunov’: Leading Russian papers run similar frontpage supporting charged journalist 


Photo-3


彼らは一緒に肩を並べている: 

月曜日(6月10日)に、ロシアの三つの「高級日刊紙」が 「Я/Мы Иван Голунов」 (私・われわれはイワン・ゴルノフ)という同一の見出しでそれぞれの第一面を
飾った。これは、明らかに、2015年にフランスで起こったパリの風刺雑誌社に対するテロリスト攻撃の後に現れた「Je suis Charlie」(I am Charlie) という連帯を表明する文言からヒントを得たものだ。

これらの三紙はどれを取っても「親プーチン派」であるとは言えない。彼らは一般的に政府に対しては批判的である。しかし、今回の出来事には前例がなく、「ロシアのメディアには自由がない」として頻繁に用いられる欧米のたわ言をはっきりと否定するものだ。

明確さを期して言えば、当地のテレビ局はほとんどが国営であり、彼らは極めて親政府的である。しかしながら、新聞はほとんどが独立しており、多くの新聞はクレムリン政府に対しては毅然とした態度を保ち、敵対することも辞さない(たとえば、ノーバヤ・ガゼタ紙がそうだ)。

と同時に、インターネット(今やニュースの供給源としてはテレビとライバル関係にある)はほとんどまったく検閲を受けず、数多くの反政府的な新聞が広く購読されている。これには西側によって支援され、西側の管理下にあるBBCのロシア語放送、カレント・タイム(訳注:これは米国が2年前に設立したロシア語放送であって、ロシアのRTに対抗するものだ)、米国のRFERL(ラジオ・フリー・ヨーロッパおよびラジオ・リバティー)、ドイチェ・ヴェレ、フランス24、ベル、メデューサといったメディアも含まれる。因みに、メデューサはゴルノフの雇い主である。

そして、これは西側はいったいどのような反応をしたのかという点にわれわれの関心を向けさせ、最近起こった、非常に知名度の高いジャーナリストの逮捕との比較を余儀なくさせるのだ。言うまでもなく、ジュリアン・アサンジとの比較だ。
rt.comからの関連記事: Journalists silent on Assange’s plight are complicit in his torture and imprisonment 


Photo-4

米国への送還を明確に意識した罪状でアサンジが逮捕された時、BBCのボスであるトニー・ホールは黙りこくっていた。2014年、英国の国営放送局はロンドンのエクアドル大使館に亡命しているジャーナリストを揶揄するホームコメディーを製作し、ホールはその放送予定を喜んで
発表した。 ポズナーやゼウナロヴァとは対照的に、この国営テレビ放送局の他の司会者らはホールに倣って沈黙していた。

また、ロンドンの指導的な新聞各社はアサンジを防護するために結集することはなかった。それどころか、(ドナルド・トランプを支持するルパート・マードックが所有する)タイムズ紙はこの逮捕を支持した。ガーデイアン紙だけは気の抜けたような支持を表明し、反アサンジのくだらない馬鹿騒ぎに対して一定のバランスを保った。

実際に、同紙のもっとも秀でた、論調を決めてくれる記者ではあるのだが、退屈で、繰り返しの多い、飽き飽きするような無骨者で、どうにかこうにか読み取れる長い記事やツイッターによって親体制派の田舎者であるという自分の
地位を何年にもわたって固めたマリナ・ハイドはアサンジの苦しみや屈辱にサディスティックとも言えるような快楽を見出していた。

Joseph A. Farrell (@SwaziJAF)のツイッター、
2019年6月1日:

国連の特別報告者による拷問に関する声明の中に
@marinahydeを参照する記述を見つけた。あなたも歴史に残るだろう。でも、それは悪い意味でだ。@wikileaks#Assangepic.twitter.com/xe2M1n0V4Y


ふたつの顔: 

最後に、われわれはジェレミー・ハントのことを忘れることはできない。英国の外相で、将来、首相となるかも知れない彼が、先週、米国のテレビでアサンジの米国への送還を阻止する積もりはないと言った。しかしながら、日曜日に彼は「われわれは本件の行方を見守っている」と
ツイートして、ゴルノフについて懸念を表明した。

彼のロシア人ジャーナリストに対する支援は、それが純粋なものでありさえすれば、歓迎されるだろう。主権国家の内政への干渉を匂わせる何かがあるとしても、アサンジに対する間違った取り扱いや彼に対する抑圧に関するハントの姿勢を見ると、彼の言動は実にばかばかしい。

もちろんのこと、ハントは自分の言動に饒舌さとか偽善性とかを感じ取っている訳ではない。なぜかと言うと、彼のようなタイプは洗練さを求めることはないし、倫理的な同義性を追求することもないからだ。自分たちはそういった不都合を超越した地位にあると思っている。

私はグルノフを応援するだけではなく、アサンジをも応援する。これら両者を応援することができずに、自分は基本的な倫理観と行動原理を持ったジャーナリストであるとか、政治家であると自認するならば、あなたは鏡の中の自分を数日にわたってじっくりと見つめ直す必要があるだろう。とは言え、この忠告は、多分、ピントが外れている。なぜならば、これらの連中の多くや宮廷の道化師らは、恐らく、鏡に映った自分の姿を賞賛しながら何日間かを過ごすだけであって、必要とされる自己反省には取り組もうともしないだろう。

注: この記事で表明されている声明や見解および意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。

<引用終了>


これで引用記事全文の仮訳が終了した。

英国のメディアとロシアのメディアとの比較が興味深い。ブライアン・マクドナルドの世界観から見ると、英メディアのジャーナリストとしての倫理観や使命感は完全に地に堕ちたと言える。つまり、彼らが新聞を売り、テレビ放送を継続している理由は金儲けしかないのだ。一般大衆にとって不幸なことには、彼らは真理の追究をとっくの昔に捨ててしまった。彼らは事実を隠蔽し、捻じ曲げて、報じたいことだけを報じ、一般大衆の理解を特定の方向へ誘導しようとする。そのことは大分以前からさまざまな出来事を通じて感じられていた。最近の例では、マレーシア航空MH-17便撃墜事件やスクリッパル父娘毒殺未遂事件に関するメディアの取り組み方を見て、何らかの疑問を抱いた人たちにはこのことは容易に納得できるであろう。

一方、ロシアでは、引用記事に報じられている3紙に加えて、欧米のメディアや政治家から敵視されているRTの編集長を務めるマルガリータ・シモニアンも言論の自由を守るためにゴルノフの釈放を求めていた。ロシアのメデイア界では幅広い支援があったのだ。

ゴルノフは6月11日に釈放された。驚くほどに急速な展開であった。

しかも、当局はゴルノフを麻薬ディーラーとして罠にかけようとした警察を調査することを約束した。ゴルノフの釈放は捜査当局が自分たちの間違いを認めた非常に稀な事例である。また、ロシアのジャーナリストが汚職事件や政治的腐敗あるいはプーチン大統領の個人的な生活について報じるには大きな困難が伴うことが露呈された。(出典:Russian journalist freed after police abruptly drop charges: By Nataliya Vasilyeva and Francesca Ebel, Associated Press, Jun/12/2019)

総じて、ブライアン・マクドナルドは「この出来事は潜在的には分水嶺的な瞬間である」という見方をした。これは歴史的な流れを直視した結果であると思われる。ロシアと西側とを比較する時、たとえば言論の自由について論じる時、今まではロシアには言論の自由がなく、言論の自由を享受しているのは西側だけだという見方が主流を成していた。ところが、相前後して最近起こった二人のジャーナリスト、つまり、イワン・ゴルノフとジュリアン・アサンジの逮捕劇を見ると、ロシアでは言論の自由が定着し始めているが、西側は言論の自由を投げ捨ててしまったと言える。今、真の意味で民主主義が所在する場所が入れ替わろうとしているのである。2019年6月はまさに時代の流れを変える分水嶺的な瞬間である。

ブライアン・マクドナルドのジャーナリストとしての冷静な分析、ならびに、旺盛な独立心に敬意を表したい。


参照:

注1: Russian media solidarity for Golunov contrasts with loathsome US/UK press bootlicking over Assange: By Bryan MacDonald, RT, Jun/10/2019,
https://on.rt.com/9w48