2020年4月28日火曜日

新型コロナウィルスの大流行ではいったい誰が得をするのか?

新型コロナウィルスの大流行は純然たる自然発生だったのか、それとも誰かが意図的に引き起こしたのかという設問に対する答えは一筋縄では得られそうにはない。

米国政府、つまり、トランプ大統領は中国の初動の不手際が世界中に新型コロナウィルスの大流行を引き起こしたとして中国政府の責任を攻め立てている。まさに情報戦層である。本日(427日)のロイター通信の報道によると、ソーシャルメディアには中国が秘密作戦を行っていることを示す「明白な証拠」があるとEUの報告書が述べたことを受けて、中国外務省は月曜日(427日)に新型コロナウィルスに関して中国は偽情報を流してはいないと反論した。(原典:China denies spreading coronavirus disinformation following EU reportApr/27/2020

しかしながら、そうした中国に対する厳しい批判の背後には国内問題が影を落としていると言えそうだ。特に、今年の11月に行われる米大統領選においては現職の大統領としては是が非でも勝ちたいという意図が想像以上に大きく働いているのではないかと想像される。米国の世論、メディアの論調、あるいは、政治的な動きにはわれわれ素人には考えが及ばないほどに巧妙な要素が数多く存在しており、極めて複雑な動きを示す。それらを組み立てなおして、全体像を見定める作業は不可能とは言わないまでも、すこぶる困難である。ましてや、われわれ一般大衆はその方面の専門知識に欠けているだけではなく、必要となる一次情報に直接アクセスる術なんて何も持ち合わせてはいない。正直言って、まったくのお手上げ状態だ。

ここに、「新型コロナウィルスの大流行ではいったい誰が得をするのか?」と題された最近の記事がある(原典:Who Profits from the Pandemic?: By Pepe Escobar and crossposted with Consortium News, Apr/09/2020)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。


少なくとも2008年以降深刻な危機に陥っている新自由主義はコントロールや統治のための手法ではあるのだが、監視資本主義がその中にどっかりと据えられていることを理解するのにミシェル・フーコーの著作などを読む必要はない。

しかし、世界組織が今息を呑むような速度で崩壊し、次世代の暗黒世界、即ち、互いに密接に繋がった諸々の不安の真っただ中にありながら、すでに世界規模で存在している大量失業をどう扱うべきかについては新自由主義はまったく何も分からいままである。

支配者階級の預言者であり秘書役でもあるヘンリー・キシンジャーは予想通りに恐れおののいている。彼は「社会の団結を維持するには一般大衆からの信頼を維持することがもっとも重要だ」と言う。「覇権国は自由世界の秩序に必要となる原則を防護すべきだ」と主張する。さもなけれな、「世界は戦火に見舞われるだろう。」

あの文言は実に奇妙だ。一般大衆の信頼なんてどこもかしこも死んだも同然である。自由世界の「秩序」は今や社会進化論が言うところの混乱そのものである。あたかも戦火が燃え盛るのを待っているようなものだ。

数値を見ると驚くばかりだ。日本に本拠を置くアジア開発銀行(ADB)はその年次経済報告書で、完全に独創的な報告ではないかも知れないが、「今世紀最悪の新型コロナウィルスの大流行」がもたらす影響は4.1兆ドル、つまり、全世界のGDP4.8パーセントに達するだろうと述べている。

しかしながら、「供給網の崩壊、支払いの滞り、社会的ならびに金融上の危機が起こる可能性、長期にわたって医療や教育が受けるであろう影響、等はこの数値に含まれてはいない」ことから、これは完全に過小評価であると言えよう。

われわれはこの崩壊が社会にもたらす壊滅的影響を想像することさえもできないでいる。世界経済の下位部門のすべてが再構成されることはもはやないのかも知れない。

世界労働機関(ILO)は控えめに見ても新たに2470万人の失業者が出ると推測している - 特に、航空、観光、接客業の分野では顕著となりそうだ。

世界の航空業界は2.7兆ドルにも達する巨大なビジネスである。その額は世界のGDP3.6パーセントを占める。270万人を雇用している。航空業界と観光業界とを加え合わせると、つまり、ホテルやレストランを始めとして、公園や博物館、等を加えると、この業界は最低でも全世界で6550万人の職場である。

ILOによると、労働者に対する給与としては8600憶ドルから3.4兆ドルもの損失となる。「働いても貧困」あるいは「働く貧困層」は新たな常態となる。特に、南側の諸国において顕著となる。 

ILOの用語の定義における「働く貧困層」とは一人当たり一日2ドルにも満たない所得を得ている労働者所帯を指す。2020年には世界中で3500万人がこの範ちゅうに新たに加わって来る。

世界貿易における持続可能な視点に向けた変革が求められる中で、本報告書は如何にして経済を取り戻すべきかに関して中国東部の浙江省の義烏市におけるかの有名な商人や貿易商に焦点を当てているが、この事実を再確認しておくことは実に有益であろう。義烏市は世界を相手に日用品の卸売に特化した超多忙なビジネスハブである。

彼らの経験から言うならば、回復には長い期間と困難さがついて回る。中国以外の国々や地域が意識不明に陥っている中で、香港のノムラに所属する中国担当チーフエコノミストのルー・ティングは中国は少なくとも来年の秋までは需要が30パ―セント低下すると予測している。

新自由主義が逆行するか? 


Photo-1:フィリピンのブラカン州サン・ミゲル。2016年。
 (Judgefloro, CC0, Wikimedia Commons)

次の段階においては、米国と中国との間における戦略的な競争では通商や先端技術、サイバースペース、気候変動、等に関する中国の多面的な国際的役割が何の制約もなく新たに登場して来る。それらは新シルクロードよりも遥かに先にまで到達することであろう。それは世界規模の公衆衛生政策に関しても同様であろう。「中国ウィルス」と「医療面でのシルクロード」との間で急速に展開されるハイブリッド戦争には万全の準備をしていただきたい。

中国国際問題研究院が最近作成した報告書は中国が如何にして自国国民の健康と安全を第一にする基本政策をとったのかについて報告しており、これは西側が中国を正当に理解する上で格好の助けとなるであろう。

今、中国経済は徐々に回復し、アジア全域のファンドマネジャー集団は、地下鉄の利用者数から始まって麺類食品の消費量に至るまで、あらゆるデータを追跡し、都市封鎖が解除された暁にはいったいどんな経済が台頭してくるのかを見極めようとしている。

それとは対照的に、西側では世間を覆っている悲運や沈み切った気分がファイナンシャル・タイムズ紙に貴重な論説をもたらしてくれた。1980年代の映画の大作「ブルース・ブラザーズ」におけるジェームズ・ブラウンのように、 金融の中心地ロンドンは光を見たようである。少なくとも、本当にその通りだという印象を与えてくれた。新自由主義が逆方向に動く。新しい社会契約。労働市場が「確保」され、再配分が行われる。

でも、皮肉屋は騙されないであろう。世界経済が陥っている氷河期は大恐慌のバージョン2.0、あるいは、失業者の大津波を描写するであろう。庶民は大集団となって当面は熊手に手を伸ばし、AR-15自動小銃を手に取る可能性さえもが今や明白だ。乞食の夕食にパンくずを投げこむことさえも始まるかも知れない。

それはヨーロッパ人の自由裁量にも当てはまるであろう。しかしながら、アメリカのストーリーが断然際立っている。


Photo-2:シアトルにおける壁画。2017年。 (Mitchell Haindfield, Flickr)

われわれは、何十年にもわたって第二次世界大戦後に据えられた世界体制は米国にライバルを寄せ付けない構造的なパワーを与えたのだと思い込まされてきた。そして、今残っているのは構造的な脆弱さやグロテスクにさえ見える不平等、支払いができなくなった借金の山、次々と押し寄せて来る危機である。

連銀の量的緩和というマジックにはもはや誰も騙されない。あるいは、それは短縮語のTALF(長期資産担保証券貸出制度)やESF(経済支持援助)、SPV(特別目的事業体)を体裁よく混ぜ合わせたサラダのようなものであって、連銀・米財務省による寡占的な盲信に組み込まれている。巨大銀行や大企業、市場の女神、等を盲信しているのだ。その代償は平均的な米国人が支払う。

数か月前のことであった。約2500兆ドルに達するデリバティブ市場が崩壊し、どんな理由からであるにしろホルムズ海峡が閉鎖された暁には原油市場が高騰し、世界経済を破壊してしまうといった深刻な議論が沸き起こった。

今、議論は世界恐慌2.0についてだ。つまり、世界経済が破綻した結果、あらゆる制度が崩壊している。問いかけの内容はきわめて妥当なものだ。つまり、世界経済危機がもたらした政治的ならびに社会的大変動は、議論の余地があるかも知れないが、新型コロナウィルスの大流行よりも遥かに大きいと言えるのではないか?これを機会に新自由主義を終わらせて、もっと公平な、場合によってはもっと悪質な結果を招くかもしれないけれども、何らかの新しい制度を導入するべきではないのか? 

透明性のあるブラックロック:

もちろん、ウールストリートは代替宇宙に住んでいる。一言で言えば、ウールストリートは連銀をヘッジファンドにしてしまった。連銀は2020年の終わりには米財務省証券の少なくとも三分の二を所有することになる。

米財務省はあらゆる証券や借用証書を買い漁り、連銀は銀行となって体制全体に資金を提供する。

これは、基本的には、連銀と財務省とが合併したようなものだ。ヘリコプター・マネーを撒き散らす巨大な装置となる。

結局、勝ち組はブラックロックだ。ブラックロックは地球上で最大級の資産運用会社であって、170を超す年金基金、銀行、財団、保険会社の資産を運用する。事実、同社は個人投資家やヘッジファンドの大量の資金を扱っている。ブラックロックは完全な透明性を約束し、これらの証券を買い取り、信用ができないSPVを財務省に代わって運営する。

ブラックロックはラリー・フィンクによって1988年に設立された。ヴァンガード程には大きくはないが、ゴールドマン・サックスにおいてはヴァンガードやステート・ストリートと並んでトップクラスの投資家である。6.5兆ドルの資産を有し、ゴールドマン・サックスやJPモルガン、ドイツ銀行を総計した額よりも大きい。

今や、ブラックロックは連銀と財務省とが用いる新しい基本ソフト(OS)である。世界で最大の影の銀行である。いや、これは中国のことではない。

いちかばちかのこのゲームに比べると、ジョージア州選出のケリー・ロフラー上院議員を巡るスキャンダルは取るに足りないほど些末である。CDCによる新型コロナウィルスの情報が株式市場を大暴落させるかも知れないという内部情報を駆使して、ロフラーは大儲けをしたと言われている。ロフラーはたまたまニューヨーク株式市場の会長を務めるジェフリー・スプレッチャーと結婚していた。彼はゴールドマン・サックスによってニューヨーク株式市場へ送り込まれていたのである。

企業メディアは頭のない鶏のようにこのストーリーを受け入れたが、ペンタゴン用語で言えば、「ポスト新型コロナウィルス計画」はひそかに「前進する」ことを意味する。

その代償は?1カ月当たり一人につきたったの1,200ドル。給与の中央値から判断すると、平均的な家庭が2か月を生き延びるには12,000ドルを必要とすることは誰だって知っている。財務長官のスティーブン・マヌーチンは最高レベルの厚かましさを発揮してそのたった10%を皆に支給することにした。こうして、米国の納税者は津波のような借金に見舞われ、ウールストリートのエリートたちはこの盗品のすべてを鷲掴みにする。比べるものがないような形で富が下から上へと吸い上げられ、最後に中小のビジネスが大量倒産に見舞われる。

フィンクが株主に宛てた手紙で彼はこのゲームを次のように漏らしている。「われわれは今金融の根本的な変革に差し掛かっているのだと私は思っている。」 

まさにぴったりのタイミングで、彼は「近い将来に、多くの人たちが予想するよりも遥かに早い時期に資本の著しい再配置があるだろう」と予測した。 

当時、彼は気候変動のことを指していた。だが、今や、彼は新型コロナウィルスを指している。

ナノチップか何かを体内に埋め込む?

西バージニア州兵の隊員がチャールストンの養老院にやって来て、新型コロナウィルスで何かの支援をすると申し出た。202046日のことであった。(U.S. Army National Guard, Edwin L. Wriston)

このゲームはエリートたちよりも先行しており、危機的な現状を有利に取り込もうとしている。これは次のような四つの要素を手際よく囲い込むかも知れない。つまり、社会信用システム、ワクチンの義務化、デジタル通貨、および、最低所得保障(UBI)のことだ。これは何十年にもわたって言い古されて来たものであるが、CIAの教本「陰謀論」によるとこんな具合になるのである。実際に、これらは起こるのかも知れない。

社会信用システムは中国が2014年にすでに設定したものである。2020年の末までに中国の市民は誰もが個人の信用スコアを取得する。これは事実上「動的なプロフィール」であって、人工頭脳(AI)やいわゆる「物のインターネット」(IoT)を駆使して運営され、これには何処でも使用可能な顔の認識技術が含まれる。もちろん、これによって昼夜の別なく毎日監視が続けられ、 ブレードランナーのようにあちこちと飛び回わる鳥ロボットで総仕上げとなる。

米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、ロシアおよびインドは後塵を拝しているわけではない。たとえば、ドイツは自国のクレジット評価システム(SCHUFA)を改造しつつある。フランスは中国のモデルとよく似たIDアプリを有しており、顔の認識によって本人確認が行われる。

ワクチンの義務化はビル・ゲイツの夢であって、彼はWHO、世界経済フォーラム、巨大な製薬会社と一緒に仕事をしている。彼は南側の国々で「何十億人もの接種」が実施されることを望んでいる。この接種はデジタル・インプラントを埋め込むことを隠ぺいするための動作であろうと誰もが気付いている。

さあ、こちらに彼自身の言葉をご紹介しておこう。3415秒の時点で次のように言っている。「われわれがやるべきことは誰が感染症から回復したのか、誰がワクチンを接種しているのかを示す証明書だ・・・ なぜこれが必要なのかと言うと、あなたの国の市民が悲しいことには接種が実施されてはいない国へも出向かなければならないからだ。あなたにはあなたの国の人々がそういった国へ出かけ、そして、帰国し、あなたの国内で方々を歩き回ることを完全に禁止することなんてとても考えられない。」 

さらには、TEDビデオでは削除されてしまった部分ではあるのだが、これが最後にやって来る。この部分はローズマリー・フレイによって指摘されたものだ。彼女は分子生物学で修士号を取得し、独立した調査報道ジャーナリストとしてカナダで仕事をしている。ゲーツはこう言う。「こうして、このデジタル免疫証明書が発行され、これは全世界を開放することに役立つであろう。」 

この「デジタル免疫証明書」は何らかの悪辣な目的のために国家によって悪用されるかも知れないという点を念頭に入れておくことが決定的に重要である。 

新型コロナウィルスのワクチンの製造を目指しているトップグループの三社は米国のバイオテック企業である「モデルナ」とドイツの「キュアーヴァク」と「バイオ・エヌ・テック」である。 

デジタル・キャッシュは仮想通貨の成果となるかも知れない。米国だけではなく、中国もロシアも国家的な暗号通貨に興味を持っている。もちろん、国際通貨は中央銀行によってコントロールされることになるが、通貨バスケットの形で採用され、実質的に流通することであろう。 

IoTや仮想通貨テクノロジーならびに社会信用システムの毒を持ったカクテルは無限に配列し直すことが可能であって、将来目の前に出現することであろう。

スペインはすでにUBIを導入することを宣言しており、永久に継続したいと言っている。これは何百万人もの職場が戻っては来ない場合に起こり得る社会騒乱に対するエリート族の一種の保険のようなものだ。

もっとも実際的な仮定は新型コロナウィルスは新しいデジタル金融システムやデジタルID用ナノチップを含むワクチンの義務化を巧妙に隠ぺいするために用いられるという点だ。そして、これに対する反対はまったく許容されない。スラヴォイ・ジゼクに言わせると、これは専制的な政府であるならば誰でもが思い描く「エロチックな夢」なのである。

しかしながら、その底部においては心配が高じて、鬱積した怒りが力を蓄えつつあって、遅かれ早かれ予想もできない形で爆発するかも知れない。システムが前代未聞の速度で変化している限り、0.1%さえもが果たして安全にやり過ごすことができるかどうかは保証できない。


これで全文の仮訳が終了した。

私は技術屋として社会生活を過ごしてきた。正直に言って、経済や金融の話になると丸っきりの素人だ。そんな私にとっては、「一言で言えば、ウールストリートは連銀をヘッジファンドにしてしまった」とか、「基本的には、これは連銀と財務省とが合併したも同然だ」といった文言によって著者が実際に何を意味したいのかが分かりやすくなるように配慮されている。私にとってはすごく新鮮でもある。

ましてや、ブラックロック社の存在やその商法の詳細については全く何の知識も持ってはいなかっただけに、この記事は非常に興味深く感じられた。引用記事の著者、ペペ・エスコバーは「結局、勝ち組はブラックロックだ」と言う。個人投資家や企業から集めた資金を使って錬金術を駆使する資産運用企業の存在がその力を強力に示すようになったとすれば、米国の富の配分はますます偏在化するのではないだろうか。貧富の差は大きくなるばかりである。

この記事の表題は「新型コロナウィルスの大流行ではいったい誰が得をするのか」と問い掛けている。このまま行けば、持てる者はさらに裕福になり、持たざる者は引き続き貧困に甘んじるしかない。その一方で、最大かつ最悪の懸念は鬱積した不満が社会騒乱に発展することにあって、そうなった暁には0.1%さえもがその安全を保証できるのかどうかは分からないとして著者は懸念を表明し、不確実性を指摘している。新型コロナウィルスによる経済的損失が膨大なレベルに達している今、米国社会は予想もし得ないような大きなチャレンジに直面していると言えそうだ。そして、それは世界経済全体へと波及する。

米国が直面する課題が大きくなればなる程、米国の政治家は国民の関心を外へ向けようとする。新型コロナウィルスが発生した国として中国を叩くことは少なくとも11月の大統領選挙までは続きそうである。

ところで、いささか気にかかる発言があった。

新型コロナウィルスとの激しい闘いが進められている米国での話だ。30年以上にもわたって死亡診断書を作成して来たモンタナ州の医師が死亡診断書に記載される死亡原因としての新型コロナウィルスの記載は定義があいまいであり、結果として統計数値を実際の死者数よりも大きくしているのではないかと公に指摘した。「CDCは新型コロナウィルスによる死者数については嘘をついたことを認める」との衝撃的な表題を持った413日の記事(原典:The CDC Confesses to Lying About COVID-19 Death Numbers: By Matthew Vadum, American Thinker)からその一部を下記に転載しておこう:

「自分が認めてもいいと思うよりも遥かに頻繁に起こることではあるのだが、われわれが死亡診断書に死因を記載する時われわれは間違いなくその死因を特定しているとは限らない。これはまさに生命なのだ。われわれは医師であって、神ではない。死体解剖が実施されることは稀であって、たとえ実施されたとしても実際の死因が常に明らかになるわけではない。医師は最善の類推をして、用紙に記載する。こうして、記載された死因はデータバンクに収集され、統計分析に供される。あなた方の誰もが想像することができるように、このデータは不正確な数値である。これらの不正確な数値はその多くが間違いであったとしても事実を示す数値として受理される。

これが実態であって、すでに長いことそのように実施されている、とブカチェク医師は言う。」

現場の医師にこのような疑問を抱かせたCDCの死亡診断書に関する指針がどのような内容であるのかは素人の私には分からない。しかしながら、上記のような具体的な苦言を招来させたという現実はこの投稿で引用した記事が指摘している四つの目標の実現のためには一般庶民の間に最大限の恐怖感を植え付けるという戦略がCDCの背景で働いていたのではないかと思わせるのに十分だ。

また、その一方で、邪推が邪推のままに終わってくれればいいという思いもある。明らかに、これは専門家たちが適正に判断し、修正しなければならない非常に重要な課題だ。

今後も真相に迫る情報がさまざまな形で公にされるだろう。それらの情報を拾い上げながら、新型コロナウィルスの大流行の深層について少しでも多く、少しでも深く理解し、メディアが喧伝する恐怖感には不用意に惑わされずに健やかな毎日が送れることを願っている。これは決して贅沢な願いではない。これは一般庶民が健康な日々を送るための現実的な願いであると言いたい。









2020年4月21日火曜日

人工的に作られたコロナウィルスが論争を呼んでいる


中国では新型コロナウィルスの大流行は収束が宣言され、経済活動が徐々に復帰しつつある。当面は、第二波に見舞われるのかどうかが最大の関心事だ。日本では全国規模の非常事態宣言が出されて、都市封鎖はないものの、これから規制がさらに厳しくなりそうだ。欧米ではようやく大流行が峠を超しそうな気配で、都市封鎖の解除をどのように進めるべきかに関する議論が盛り上がっている。大打撃を受けたイタリアやスペイン、ならびに、米国やカナダは今一息ついているに違いない。

さまざまな情報が行き交う中で、「ラボで人工的に作り出されたのでもなく、海鮮卸売市場からでもないとすると?Covid-19ウィルスの感染は何ヵ月も前から始まっており、武漢から始まったわけではないとケンブリッジ大学による研究が指摘」と題された記事が先日、418日に発表された。(原題:Neither ‘lab’ nor ‘wet market’? Covid-19 outbreak started months EARLIER and NOT in Wuhan, indicates ongoing Cambridge studyApr/18/2020, https://on.rt.com/af5e

この表題が示しているように、これは新たに発表された文献についての記事であって、今まで多くの主要メディアが喧伝してきた武漢の華南海鮮卸売市場で動物から人への感染が飛び移ったとする説、あるいは、武漢にある生物兵器研究所から漏洩したことから感染が始まったとする説を覆して、まったく別の展開があった可能性を示唆している。この研究は数多くの感染者からサンプリングされた個々のウィルスの遺伝子を系統発生学的に突然変異の前後関係および類縁関係を示したものである。

文献に掲載された系統発生ネットワークの図を下記に示す。文献の内容を概要すると、次のような具合だ。

この系統発生ネットワークはウィルスの変異株の相互関係や前後関係を示す。世界中の研究者から寄せられたデータ(GISAIDデータベースには253人のデータが収録されているが、ここでは完全なゲノムだけを取り出し、160例が解析に供された)を系統発生ネットワーク上で配列してみると、これらの変異株は三つの大きなグループになる。ABおよびCA型とC型は東アジア以外、つまり、ヨーロッパ人とアメリカ人の間にかなりの割合で見られる。Bは東アジアで最も一般的に見られる。これらの三つのグループの中では、コウモリが宿主となっているコロナウィルスの遺伝子から判断するとA型がすべての型の祖先である。


Photo-1

「このウィルスは数か月前に最終的に人の体内に寄生することができる形に突然変異していたが、コウモリや他の動物の体内に、あるいは、人の体内に何ヵ月も留まっており、他の人には感染しなかった」と、研究者のピーター・フォースターが述べている。その後、ウィルスは913日から127日にかけて感染を繰り返し、周囲へ広がって行った。

この研究成果の中で特に重要な点は新型コロナウィルスの人から人への感染は去年の913日に始まったとする見解ではないだろうか?しかも、その場所は武漢ではなく、中国の南部であると言う(注:他の文献によると、)。

もう1点は研究者が「これらの変異株は三つの大きなグループになる。ABおよびCA型とC型は東アジア以外、つまり、ヨーロッパ人とアメリカ人の間にかなりの割合で見られる。Bは東アジアで最も一般的に見られる。これらの三つのグループの中では、コウモリが宿主となっているコロナウィルスの遺伝子から判断するとA型がすべての型の祖先である」と述べている点だ。つまり、中国や東アジアでもっとも一般的に検出されるウィルスはB型に属し、B型の祖先であるA型ならびにC型はヨーロッパ人やアメリカ人の間で多くみられる。

この系統発生ネットワークから言える内容と新型コロナウィルスの大流行については中国が責任をとらなければならないと主張する政治家の文言との間の整合性はいったいどのように説明するのだろうか?私には分からない。

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1月末に遡ると、日本の国立感染症研究所による研究成果が公開された。新型コロナウィルスの正体は日本の国立感染症研究所で電子顕微鏡による撮影によって暴かれた。その写真は2020131日に公開された。


Photo-2:新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真。球状の粒子の表面にとげのような
スパイクたんぱく質がある(日本の国立感染症研究所提供)【時事通信社】

その写真と同時に、国立感染症研究所は下記のような説明も付記している:

国立感染症研究所ウイルス第三部で、新型コロナウイルスの分離に成功しました。使用した細胞はVeroE6/TMPRSS2細胞(TMPRSS2というプロテアーゼを発現している)です。臨床検体を接種後、細胞の形状変化を観察し、多核巨細胞の出現を捉えました。細胞上清中のウイルスゲノムを抽出して、ほぼ全長のウイルスゲノムの配列を確定しました。これは、最初に発表されたウイルスの遺伝子配列と99.9%の相同性がありました。分離したウイルスを用いて、ウイルス感染機構及び病原性の解析、ウイルス検査法・抗ウイルス薬・ワクチンなどの開発を進める予定です。また、新型コロナウイルス対策に役立てるため、ウイルスと細胞は国内外に広く配布する予定です。(出典:NIID国立感染症研究所>画像・映像アーカイブ>国立感染症研究所で分離に成功した新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真)

国立感染症研究所がVeroE6/TMPRSS2細胞から分離に成功しコロナウィルスは、上述の系統発生ネットワークでは、おそらく、B型に属するのであろうが、いったいどこにプロットされているのかは分からない。同ウィルスは最初に発表されたウイルスの遺伝子配列(つまり、中国が発表した遺伝子配列)と99.9%の相同性があると言う。99.9%の相同性は中国で流行した変異株とかなり近いものであると判断されるが、その判断がどれだけ妥当であるのかについては専門家の説明を待たなければならない。

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ここで、さらに2015年に遡ってみよう。

その年の1116日に「ラボで作られたコロナウィルスが議論を呼んでいる」と題された記事が出版された(原題:Lab-Made Coronavirus Triggers Debate: By Jef Akst, TheScientist, Nov/16/2015)。

その全文を仮訳して、下記に読者の皆さんと共有しようと思う。


副題:SARSウィルス様のキメラ・ウィルスの作成は科学者らの間に「機能獲得」に関する研究開発について議論を引き起こした。(訳注:「機能獲得」とは微生物に自然の機能とは異なる新たな機能を獲得させることを意味し、これは生物兵器の開発においてはもっとも基礎的な段階である。)

更新情報(Mar/11/2020: ソーシャルメディアやニュースサイト上ではCOVID-19の大流行の原因となったコロナウィルスは研究所から漏洩したものであるとの説が流れた。しかし、SARS-CoV-2 ウィルスが研究所から外部へ漏洩したという証拠はないと科学者らは言っている。

ノースカロライナ州のチャペル・ヒルにあるノースカロライナ大学の感染症に関する研究者であるラルフ・バーリックは先週(119日)彼の研究チームがSHC014 ウィルスの表面タンパク質を持ったウィルスの作成に関する研究を発表した。SHC014 ウィルスとは中国に生息するキクガシラコウモリから検出されたウィルスであって、人の間で起こるSARSとよく似た症状をマウスに引き起こす病原体である。ネイチャーメディシン誌に発表された同チームの研究成果によると、このハイブリッド化されたウィルスはヒトやマウスの呼吸器系の細胞に感染する。

この研究結果によると、SHC014 ウィルスの表面にあるタンパク質が人の細胞に結合し、感染する能力はこのウィルス、あるいは、コウモリから検出される他のウィルスは、中間宿主の存在がなくても、人への感染を引き起こす能力を持っていることを示唆するものである、とネーチャー誌が報告している。それと同時に、機能獲得に関する研究開発と称されるこの種の研究は正当化されるのか否かという論争にこの情報が再度火を付けることになった。「もしもこの新たに作成されたウィルスが漏洩したとしたら、その結果は誰も予測し得ない」と、パリにあるパスツール研究所のサイモン・ウェイン・ホブソンがネーチャー誌に語った。

201310月、米政府は連邦政府が資金を提供した機能獲得に関するすべての研究を中断させた。その理由は、特に、インフルエンザやSARSMERSの流行を懸念したからである。「国立衛生研究所(NIH)はそういった研究に資金を提供していた。彼らの主眼点は人と病原体との間に起こる相互作用における基本的な特性を知り、起こるかも知れない感染症の大流行についてその可能性を評価することを可能にし、一般大衆の公衆衛生や準備の取り組み方について情報を与えることにある」と当時NIH長官を務めていたフランシス・コリンズが述べている。「しかしながら、これらの研究はバイオセーフティーやバイオセキュリティーの分野に新たなリスクを与えるので、もっと十分な理解を必要とする。」 

SHC014コウモリに由来するキメラ・コロナウィルスに関するバーリックの研究は研究中止が宣言される前にすでに開始されていた。しかし、NIHは審査のプロセスにおいてこの研究の続行を許可した。その後、この研究は新たに決められた制約の範疇には入らないと結論付けられた、とバーリックはネーチャーに語っている。しかしながら、ウェイン・ホブソンを始めとする研究者らはこの決定に同意してはいない。

この論争はこの研究成果が如何に豊富な情報を与えるてくれるものであるかという点にまで発展した。「この研究の成果はウィルスを作り出すという点だけだ」とラトガース大学の分子生物学およびバイオディフェンスの専門家であるリチャード・エブライトがネーチャー誌に語っている。

しかし、バーリックや他の研究者はこの研究の重要性を主張した。「この研究成果はこのウィルスを感染症の病原体としての候補者の地位から明白に生命に危険を与える存在へと押し上げてしまった」と、エコヘルス・アライアンスの理事長を務めるピーター・ダスザクがネーチャー誌に述べた。彼の団体は世界中の感染症のホットスポットに出かけて、動物や地域住民からウィルスのサンプルを収集している。


引用文書の全訳はこれで終わった。

トランプ大統領は新型コロナウィルスをあえて「武漢ウィルス」と呼んだり、「中国ウィルス」と呼んで、中国叩きの道具にしており、米国のある上院議員は中国は全世界に引き起こした損害に責任をとらなければならないとまで主張している。これらはすべてが本年11月の米大統領選に向けた国内政治のための戦術であると思われる。しかしながら、上記の情報や他の多くの情報を大きな構図にまとめて全体像を俯瞰すると、中国の責任を云々する前に、究極の責任の所在は米国の研究者ら、特に、ノースカロライナ大学の研究に起源を発しているのではないかとさえ推測されるのである。

もちろん、私はその方面の専門家ではない。したがって、断言は出来ない。しかしながら、歴史を見ると、この世の中には真相が報道されないままに放置されている出来事や大事件は山ほど存在する。そのことを念頭に置くと、今、その歴史が繰り返されているのかも知れないとさえ思える。

これほどまでに全世界を震撼させ、しかも、今ようやく峠を越したかどうかが議論されている新型コロナウィルスのことだ。誰もが真相を知りたいと思っているに違いない。

40年近く経過しても依然としてその正体が掴めず、決定的なワクチンの製造がままならないエイズの轍を踏まないで欲しいと私は思う。たとえば、「HIVワクチンへの期待しぼむ 臨床試験で効果みられず」(ミシェル・ロバーツ健康担当編集長、BBCニュースオンライン2020024日)を参照していただきたい。新型コロナウィルスについては、今後数多くの科学的知見が報道されることであろう。遅かれ早かれ、上述の推論と比べると精度がすこぶる高い結論が導き出されるであろう。


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ここで、最近の別の記事についても注目しておこうと思う。

「新型コロナウィルスは生物兵器か?」と題された今年の324日の記事である(原題:Is the recent corona virus, COVID-19 a biological weapon? 著者はPeter Bianco)。これはノースカロライナ大学と中国との関係を報じている。

それによると、

世界中の学術研究所や政府の研究所は致死性のウィルスを扱っている。コロナウィルスも含まれ、致死性がより高い開発プロセスは「機能獲得」と称せられている。
中国ではこの種の研究を行うことができるのは武漢の研究所だけである。
2015年にノースカロライナ大学の研究者は中国の武漢からやってきた研究者らと一緒に仕事をしていた。機能獲得の研究も含まれていた。
ボイル教授は「機能獲得」という用語は攻撃用の生物兵器のことを指すと述べている。
米国では、国立衛生研究所(NIH)、疾病対策センター(CDC)、および、トニー・ファウチが率いる国立アレルギー感染病研究所(NIAID)がナチに由来するこの生物兵器の技術開発に資金提供を行っている。
これらの開発研究は科学者や米政府高官らによって危険視されたことから、米国は機能獲得の研究を2014年に中断した。
COVID-19ウィルスの出処がどこであろうともそれには関係なく、機能獲得の研究は誰にとっても安全上の脅威となる。 これらの研究に従事する研究所からは致死的な生物兵器の漏洩が起こるので、これらの研究所は閉鎖しなければならない。

最近のコロナウィルス、 COVID-19は生物兵器だろうか?

フランシス・A・ボイル教授はその通りだと言う。彼はイリノイ大学法学部で国際法の教授を務めており、「生物兵器とテロリズム/Biowarfare and Terrorism」と題された書籍を著している。ボイル教授が起草した生物兵器条約の条文は米国の上下院において全会一致で可決され、ジョージ・ブッシュ(シニア)大統領によって施行された。

メディアはこのウィルスは中国の武漢から発生したものであると報じた。

ボイル教授はその「決定的な証拠」は3人のフランス人研究者とモントリオールからの研究者が共同研究を行い、2020210日に出版された「アンタイヴァイラル・リサーチ」誌にて発表した研究にあると言う。武漢コロナウィルスに関する遺伝子解析を行った結果、本ウィルスの特徴は、他のコロナウィルスと比較して、人の集団の中へ容易に拡散することができる機能を獲得している点にあると著者らは述べている。

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現時点で言えることは、武漢の研究所からウィルスが漏洩したとする説、新型コロナウィルスは人工的に作られた生物兵器だとする説、中国が新型コロナウィルスの大流行に関しては責任をとらなければならないとする説、等がある。それらのどれを取り上げてみても賛成論と否定論とが混在しており、どちらが真実を語っているのかを断定することは専門家にとってさえも決して易しくはないように思える。さらに多くの、幅広い研究成果が必要だと思う。

本テーマについては何回も再訪する必要がありそうだ・・・







2020年4月15日水曜日

新型コロナウィルスの大流行において指導的な役割を演じることができなかった米国は世界の最強国としての地位を失う - 今回は復帰することはできそうにない

私が住んでいるルーマニアのブカレストでは外出禁止令が出てからすでに4週間だ(執筆時の414日現在)。この外出禁止令によって、私のような65歳以上の年配者は11時から13時までの時間帯にだけ食料品や医薬品の購入のために外出することが許されている。また、犬を飼っている人は犬の運動のために外出が許されている。したがって、犬を持ってはいない私は外出が可能な時間は一日に2時間だけ。ということで、近くの公園を歩き回って、絢爛と咲き誇っているスモモの花の風情を写真撮影することは今や贅沢、かつ、手が届かない空想的な事柄となった。リンゴの花も同様だ。この外出禁止令は5月の中旬まで続くと言われている。コロナウィルスの封じ込めが奏功して、政府の外出禁止令が順調に解除されれば、間もなくやって来るバラの季節にはなんとか外出が可能となるかも。楽観視はできないが、そう展開して欲しいものである。

個人的な感触ではあるが、現時点では当地、ブカレストにおける食料の供給は順調であるように見受けられる。もちろん、地域によって、あるいは、国によっては大きな違いがあることであろう。

WHOの最近の報告によると、今回のコロナウィルスの大流行と絡んで世界的な食糧難が予測されるとのことだ。食料の入手が困難になると、政府に対する信頼は大きく揺らぎ、治安が急速に悪化する。如何なる国においてもそのような展開を回避できるかどうかが今後の最大の政治課題になると推測される。

コロナウィルス感染に見舞われた国々(見舞われなかった国はいったいどれほどあるのだろうか?)では、今回、一人一人の市民が生活上の不便、たとえば、外出制限といった制約を受けた。しかも、かなり長い期間に及んでいる。特に、職を失った人たちにとっては現金収入が途切れてしまうことから、きわめて深刻な問題である。2008年の国際金融危機に比べると、今回の新型コロナウィルスの大流行の影響は比べようがないほど広範で、しかも、深刻である。

マーサ・ゲルホーン賞を始めさまざまな賞を受賞しているアイルランド出身の著名なジャーナリスト、パトリック・コバーンの最近の記事がここにある(注1)。この記事には「新型コロナウィルスの大流行において指導的な役割を演じることができなかった米国は世界の最強国としての地位を失う - 今回は復帰することはできそうにない」という衝撃的な表題が付けられている。

世界の最強国とは言うまでもなく政治的、経済的、および、軍事的な影響力を持つ米国を指しており、米国は世界に君臨する覇権国である。つまり、この記事の表題は非常にスケールが大きく、意味深である。この著者の議論の詳細を確かめておきたいと思う。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しよう。

<引用開始>

副題:新型コロナウィルスの大流行によって例証されるように、米国の覇権の崩壊は必ずしも経済や軍事力と大きく関係するわけではなく、すべてはトランプ政権が世界的な現実の危機に対処する能力に欠如していることと大きく関係する。

米国は新型コロナウィルスの世界的大流行において指導的な役割を演じることに失敗した。それ故に、米国は「チェルノブイリ危機」の米国版に見舞われるかも知れない。1986年の旧ソ連邦においては原発事故がまさにそうであったように、今回の出来事は世界における覇権国を蝕ばむシステム的な欠陥を露呈し始めている。この大流行がどのような結末を迎えようとも、今回の危機的状況に関して解決策を求めてワシントン政府に目を向けようとする者は今や誰もいない。

今週、世界の指導者がバーチャルな会合に集合することになったが、米国の影響力の凋落が目の当たりに見せつけられた。その会合での米外交団の取り組みの主眼点は新型コロナウィルスの大流行に関してその責任を中国に負わせようとするキャンペーンの一部として「武漢ウィルス」という文言を声明文に含めるべく他の国々を説得することにあった。つまり、自国内で成果を挙げられない事実から皆の関心を外部へ逸らし、他の誰かを悪者扱いすことがトランプ大統領の政治的戦術の中心的な要素であった。 アーカンソー州選出のトム・コットン共和党上院議員はこれとまったく同じテーマを持ち出して、「中国はこの疾病を世界に向けて放った。中国はその責任を負わなければならない」とさえ言った。

米国の失敗はトランプの毒を含んだ政治スタイルを飛び越してさらに先へと進む。第二次世界大戦以降の世界における米国の優位性は説得や脅し、あるいは、軍事力の行使によって物事を国際的に成し遂げることができる特異な能力に基づいていた。しかしながら、新型コロナウィルスの大流行に当たってワシントン政府が適切な対処をすることができなかったという事実はそのような能力は今や期待できず、米国の力量は失われつつあるとする見方をもたらしている。人々の態度における変化は実に重要である。なぜかと言うと、かっての英国やソ連、あるいは、今日の米国について言えば、最強国の支配力ははったりがどの程度効くのかに依存するからである。覇権国にとっては自分たちが最強国であるとする虚像をいかなる面においてもそう頻繁に検証に曝すことはできない。そのような検証で自分たちが失敗する様をあからさまに見せてしまうなんて許されないのである。大英帝国の誇張された虚像は1956年のスエズ危機で木っ端みじんにされ、ソ連の虚像は1980年代のアフガニスタン戦争で脆くも崩れた。

コロナウィルスの大流行は米国のトランプにとってはスエズ危機やアフガニスタン戦争に相当する。しかしながら、これらの過去の出来事は新型コロナウィルスの大流行に比べると実に小さく見える。コロナウィルスの大流行は、地球上の誰もがその犠牲になる可能性があり、皆が脅威を感じていることから、遥かに大きな影響力がある。そのような超巨大な危機に直面して、トランプ政権が危機に対応することに失敗したという事実は世界における米国の地位を大きく動揺させるものとなる。

米国の凋落は、通常、中国の台頭の対極の現象として捉えられ、中国は、少なくとも当面は、自国が襲われたコロナウィルスの大流行には成功裏に対応したとして受け止められる。ヴェンチレーターや医療専門家をイタリアへ送り込み、アフリカへマスクを送ったのは中国である。イタリア人は他のEU諸国がイタリアからの医療器材の要請を無視し、中国だけがそれに応じてくれたという事実を記憶に留めることであろう。中国の慈善団体は20万個のマスクをコンテナーに詰めてベルギーへ送ったが、そのコンテナーの側面にはフランス語とフラマン語および中国語で「団結だけが力をもたらす」というスローガンが大書されていた。

危機が過ぎ去った暁には、「ソフトパワー」の実践は限定的な影響力しか持たないだろうと思う人がいるかも知れない。ところが、これが今起こりつつある。それは危機的な事態に当たって中国は器材や専門家を送り出すことができたが、米国はそうすることができなかったというメッセージとなるのだ。しかも、物の見方における変化は一晩のうちに消え去ってしまうことはない。

米国の覇権は衰退の一途にあると言う予言は第二次世界大戦後米国が超大国として舞台に躍り出した時点から掃いて捨てる程あった。しかしながら、大々的に予告された米帝国の衰退は先送りされ、他の国が、たとえば、典型的な例としてはソ連が崩壊するのをまず目にすることになった。「米国衰退論」を批判する評論家は米国はかって世界経済に君臨していた頃に比べると今やその優位性は陰ってはいるものの、米国は依然として世界中で800カ所もの軍事基地を有し、7480憶ドルもの軍事予算を確保していると言う。

しかしながら、米国がソマリアやアフガニスタンにおいてその圧倒的に優れた軍事力を発揮することができなかったという事実は膨大な浪費によって入手できるものは如何に小さいのかを明白に示している。 

トランプは好戦的な文言を口にするけれども、戦争を開始することはなかった。彼はペンタゴンを使う代わりに米財務省の持てる力を駆使して来た。イランに対してはがんじがらめの経済制裁を課し、他の国々に対しては経済戦争で脅しをかけ、彼は米国が世界中の金融システムをコントロール下に置いていることを見せつけて来た。

しかし、経済的ならびに軍事的な超大国としての米国がさらに隆盛を極め続ける、あるいは、衰退していくという議論は明らかにもっと重要な論点があることを見逃している。コロナウィルスの大流行という危機によって例証されるように、世界における超大国としての米国の本物の衰退は多くの人たちが考えるような軍事力や金融力との関係性はほとんどなくて、米国の衰退の主要な原因であり、その症状を見せてもいるトランプ自身と大きな関係があるのだ。

簡単に言うと、米国はもはや他の国々が見習おうとする国家ではない。もし見習おうとする者が居るとすれば、それは専制的で危険な先住民保護主義者、あるいは、独裁者であったりすることが多い。彼らの賞賛は温かく迎えられる。たとえば、インドの国家主義者的なナレンドラ・モディ首相の肩を抱くトランプの姿や北朝鮮の金正恩やサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子といった若い世代の独裁者を手なずける様子を見ていただきたい。

民主的ならびに独裁的な支配者は、少なくとも当初は、コロナウィルスの大流行によってさらに力を得るだろう。それは急性の危機においては人々は自分たちの政府を自分たちが行っていることを熟知している救済者と見なすからである。

しかしながら、扇動政治家としてのトランプや世界中の彼と同類の政治家らは本物の危機に対応することに長けているケースは稀だ。なぜならば、彼らは民族間や宗派間の憎悪を助長し、自分の政敵に罪を負わせ、架空の達成事をぶち上げることによって権力の座にのし上がって来たからである。

ひとつの例を挙げると、ブラジルの極右派の大統領であるジャイール・ボルソナーロだ。彼は政敵やメディアをコロナウィルスの危険性に関してブラジルの人たちをけむに巻いているとして非難している。リオ・デ・ジャネイロにおけるロックダウンでは政府のだらしなさが露呈した。結局、地元の麻薬カルテルが踏み込んで来て、午後8時からの戒厳令を宣言し、それを実施するという始末であった。

トランプは常に米国社会の分断を助長し、それを悪化させること、ならびに、架空の危機、たとえば、米国へやって来る中米からの移民を食い止めるためのかの有名なフェンスの建設といった単純な解決策には実に秀でていた。しかし、今や、彼は本物の危機に直面している。彼はこの危機は長くは続かず、ほとんどの専門家が予想するよりも遥かに軽く終わるとして、大きな賭けに出ている。世論調査によると、彼の人気は上昇している。これは、多分、脅威を感じている一般大衆は悪いニュースよりもいいニュースを聞きたいと思うからであろう。今のところ、この大流行でもっとも酷く見舞われた地域は彼がそれほどの支持を得ることがなかったニューヨークやボストン、その他の都市部である。テキサスやフロリダがこれらの都市が見舞われたのと同じ程度のスピードで大流行に見舞われた場合は、トランプのもっとも中核的な支持者たちの忠誠心はうさん霧消してしまうかも知れない。

どうして米国がひとつの国家としては脆いのかと言うと、それは国家が分断しており、これらの分断はトランプが権力の座に就いている限りは酷くなるばかりであるからだ。これまで彼は深刻な危機を招くことは回避して来た。コロナウィルスの大流行に対する彼の取り組みの失敗は彼が今までして来たことは賢明であったことを示している。しかしながら、今、彼はすでに分断されている国家をさらに分断している。このことこそが米国が衰退する本当の理由なのだ。

<引用終了>

これで全文の仮訳は終了した。

著者の鋭い洞察が小気味良く展開されている。彼は下記のような見解を示した。実に秀逸である:

「米国は新型コロナウィルスの世界的大流行において指導的な役割を演じることに失敗した。それ故に、米国は「チェルノブイリ危機」の米国版に見舞われるかも知れない。1986年の旧ソ連邦においては原発事故がまさにそうであったように、今回の出来事は世界における覇権国を蝕ばむシステム的な欠陥を露呈し始めている。この大流行がどのような結末を迎えようとも、今回の危機的状況に関して解決策を求めてワシントン政府に目を向けようとする者は今や誰もいない。

今週、世界の指導者がバーチャルな会合に集合することになったが、米国の影響力の凋落が目の当たりに見せつけられた。その会合での米外交団の取り組みの主眼点は新型コロナウィルスの大流行に関してその責任を中国に負わせようとするキャンペーンの一部として「武漢ウィルス」という文言を声明文に含めるべく他の国々を説得することにあった。つまり、自国内で成果を挙げられない事実から皆の関心を外部へ逸らし、他の誰かを悪者扱いすことがトランプ大統領の政治的戦術の中心的な要素であった。」

もちろん、他にもさまざまな切り口があることであろう。著者のパトリック・コバーンの見解が正しかったのかどうかは時間が教えてくれることになる。その時間が今後数年以内にやってくるのか、あるいは、数十年先になるのかは誰にも分からない。


参照:

1The US is losing its world superpower status due to its failure to lead on the Covid-19 crisis – and this time, it might not recover: By Patrick Cockburn, @indyworld, Independent,
Mar/27/2020






2020年4月9日木曜日

もっと大きな物事が新型コロナウィルスの背後に潜んでいる

ここに「もっと大きな物事が新型コロナウィルスの背後に潜んでいる」と題された記事がある(注1)。

今や朝から晩まで新型コロナウィルスに関するニュースや情報に明け暮れ、政府が発表する最新のデータについて一喜一憂するようになってすでに久しいが、皮肉なことには、この表題はニュースの上っ面しか見ていないわれわれ一般庶民にとっては日常性をひっくり返すような感じの表題である。果たして何が潜んでいると言うのだろうか?

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>


Photo-1: Photograph by Nathaniel St. Clair

物事の多くは当局がそう言っているからそのように見えるのだと誰かが言っている。その言い方が余りにも皮肉っぽく聞こえるならば、しばらく休息してから、一年前に、いや、たった数週間前にもっとも重要であったことはいったい何であったのかを反芻してみて欲しい。

すると、西側に対するロシアの介入が当事のもっとも重要な問題であって、それに対抗するためにはわれわれの感情的ならびに政治的なエネルギーのほとんどを投入しなければならない課題であると当事は考えていたのではないだろうか。あるいは、数週間前にはドナルド・トランプをホワイトハウスから追い出しさえすればすべてが解決するとあなたは思っていたかも知れない。

または、ブレグジット(英国のEUからの脱退)こそが英国の問題を解決する万能薬である、あるいは、それとはなったく逆に、英国の凋落をもたらすことになるとあなたは考えていたのではないだろうか。

あなたは果たして今でもそのようにお考えだろうか? 

結局のところ、たとえそうしたいとは思っても(疑いもなく、ある者は実際にそうしようとするが)、われわれはコロナウィルスの大流行に関してウラジミール・プーチン、あるいは、フェースブックでの宣伝のために数千ドルを費やし、挑発的なメッセージをインターネット上に掲載するロシア人を実際に非難することはできそうもない。

たとえそうしたいとは思っても 、民営化され、設備がまったく貧弱で全米規模で起こる医療危機に対しては何の準備もできてはいない、見るも無残な米国の医療システムの現状に関してトランプを非難することはできそうもない。

われわれの中の何人かにとってはひどく関心をそそられることではあろうが、英国での死者の急増に関して欧州圏の甘い国境や移民を実際に非難することはできそうもにもない。英国へウィルスをもたらしたのはグローバル化された経済と格安の航空運賃によって支えられている人の移動のせいであって、大流行が根を下ろした際に躊躇したのはブレグジットを推進していたボリス・ジョンソン英首相自身であった。

もっと大きな構図:

たった数週間前にわれわれが優先事項だと思っていた物事はもっと大きな現実の課題からはかけ離れていたのだと言えよう。大きな構図であると思っていたが、実はそれは十分に大きな構図ではなかったのかも。恐らく、もっともっと重要で急を要する事柄についてわれわれは考えてみるべきであった。つまり、それは現在われわれが耐え抜こうとしている大流行の脅威に見られるようなシステム上の脅威についてだ。

なぜならばわれわれ皆がロシアゲートやトランプあるいはブレグジットのことでうつつを抜かしていた頃、ペンタゴンを含めて、数多くの専門家らはそういった悲惨な出来事を予測し、事前に警告を発し、それを回避するために準備を整えるよう呼び掛けていたのである。

それらの警告を無視したからこそ、あるいは、警告に関心を示さなかったからこそ、今、われわれは現行の出来事に見舞われているのであって、それは科学を信用しなかったからではなく、その脅威を回避するために何らかの措置を取ろうとする意志が働かなかったからである。

われわれがじっくりと考えるとするならば、ふたつの事柄に達することができる。第一に、われわれの関心事はわれわれのものであることは実に稀である。多くの場合、他人様の事柄を弄んでいるのだ。二番目に、われわれに提示される「現実の世界」が名実ともに客観的現実と呼べるものを反映していることは実に稀なことだ。それはわれわれのために作り出された政治的、経済的ならびに社会的な優先事項の組み合わせである。

われわれのコントロール外にあって、既得権を持っている勢力、つまり、政治家やメディア、業界、等はまさに映画製作者が映画の筋書を書くように、現実を作り出してしまう。彼らはわれわれが注目すべき方向をある特定の方向に仕向け、他の方向へ導こうとはしない。

決定的に重要な視点:

他の物事のすべてを覆い隠してしまうような、今回われわれが直面している本物の危機においては、それが単なるひとつの機会であるとは言え、われわれは真実を認識し、われわれ自身にとって決定的に重要な視点を見い出す絶好の機会が与えられる。これは真の意味でわれわれ自身に属する視点であって、他の何人にも属するものではない。

かっての自分を、つまり、コロナウィルス以前の自分を思い起していただきたい。あの頃の優先事項は今の自分が感じている優先事項と同じであっただろうか?

この問いかけはこの危機においてあなたが現時点で優先している物事は必ずしも以前思っていた優先事項よりもあなたにとってより重要であると言っているわけではない。

もしもあなたがテレビを視聴し、新聞を読んでいるならば(ところで、テレビも観なければ新聞も読まない人っているのだろうか?)、自分自身のことや愛する家族のことを思って、多分、あなたは今脅威を感じていることであろう。考えを巡らすことができる事柄はコロナウィルスのことだけとなった。何かと比べてみたところで、それ以上に重要なことなんて何もありはしない。あなたが考えることは現行の都市封鎖がいったい何時になったら終わるのか、何時になったら通常の生活に復帰できるのかという点だけだ。

しかしながら、それさえもが客観的に言って「現実の世界」ではない。たとえコロナウィルスが恐ろしくても、コロナウィルスがもたらす脅威に誰もが恐れを抱こうとも、例の「当局のエージェント」はまたしてもわれわれが注目したい方向を特定の方向に仕向け、コントロール下に置こうとする。ただし、今回は医師や科学者が当局の一員なのである。そして、結果として良くても悪くても、彼らは自分たちの既得権に都合の良い方向へとわれわれの関心を誘導する。

感染者や死者の数は増え続け、それを示すグラフ、若者たちや年配者たちの話、生き残るための壮絶な闘いのすべてが唯一の目的に資するのである。つまり、われわれ皆が都市封鎖に固執し、人との接触においては一定の距離を保ち、楽観的になり過ぎて感染症を広めることはないようにすることだ。

ここで、われわれの関心事について考えてみよう。それは過剰に病院を満杯にすることなく、生き延びることだ。そして、それは指導者たち、つまり、「当局のエージェント」の関心事と一致させることによってだ。われわれは生き延びて、繁栄したい。彼らは秩序を保ち、不満感が沸騰して怒りや反乱に発展することを回避して、自分たちが有能であることを実証したいのだ。

細かい事柄によって締め出されてしまう: 

しかしながら、われわれの関心の対象はわれわれが思っているほど十分にわれわれ自身が所有しているわけではない。われわれがグラフに注目している時に、カーテンをぐいと開けて隣人たちが二回目の走りに出かけたかどうか、あるいは、家族全員が裏庭に集まって、年老いた両親からは遠い人の誕生日を祝っているのかどうかを確認しようとさえする。この危機がいかにうまく取り扱われているのかについて考える時間はほんの僅かの時間でしかないのである。ここでも、細かい事柄やごく平凡な事柄が基本的に重要で、もっと大きな視点を与えてくれる物事を脇へ押しやってしまう。

現時点でわれわれがもっとも恐れるのはわれわれが基本的に重要な視点を見い出し、それを維持することには反対しようとする敵の存在である。グラフや死者数によって恐怖を覚えれば覚えるほど、われわれはたとえそれが何であろうとも、とにかく安全だと教えられた方向へと動いてしまう。

一般大衆が恐れていること、つまり、経済状況の悪化、将来の職場探しに関する懸念、等に関して実施された秘密の調査によれば、米国のような国々では巨額の公的資金が大企業に流れている。大企業や主流メディアのコントロール下にある政治家は、何の調査を受けることもなく、一目瞭然の理由から大企業によるこの現金強盗を後押しするのである。

われわれの関心事はコロナウィルスによって完全にハイジャックされてしまっているので、想定される経済的恩典、あるいは、あたかも本物のように見えるトリックルダウン説に関する不可解な議論をわれわれが意図的に分析することはできないだろうと彼らは予測しているのだ。

導入されつつある劇的な変化は他にもたくさんあり、それらはあまりにも多く、かつ、あまりにも急速過ぎるので、われわれはそれらの変化をまともに追跡することさえもできないでいる。移動の禁止。監視の強化。検閲。

苛酷な権力が警察に移譲され、軍隊を街の通りへ配備することさえもが準備中である。裁判なしの拘留。戒厳令。 かってトランプあるいはブレグジット、ロシアがわれわれの中心的な心配事であった頃われわれを心配させるには十分であった諸々の対策が、今や、「正常な生活への復帰」を果たすには正当な対価であるかも知れないと考えるようにさえなっている。

以前は誰もが享受していた正常な生活を切望することは、逆説的に言うと、かっての正常な生活へ戻る機会を永遠に奪ってしまうような新常態を受け入れなければならないことを意味しているのかも知れない。

要は、物事は単にわれわれの多くが容易に受け入れられる以上に暫定的であるというわけではなく、「現実の世界」を眺める、あるいは、「正常さ」を観察するわれわれの窓はほとんどすべてが作り物であるということだ。

ウィルスによって気を逸らされて: 

この時点ではまったく不可思議に聞こえるかも知れないが、われわれが感じる恐れや心痛の最中、この大流行は実際には大きな構図であるとは言えない。われわれの関心はウィルスによって消費されてしまい、実に恐ろしい意味合いにおいてはそれは気晴らしでさえもあるかのようだ。

多分、われわれが想像するよりももっと早い時期になるかも知れないが、23年後にはわれわれはこのウィルスの大流行を振り返って、その距離と後知恵との恩恵を受けて、われわれが今プーチンやトランプあるいはブレグジットに関して思っているのと同様に感じ取るのではないだろうか。

それは昔のわれわれ自身の一部を感じさせ、古い優先事項や遥かに大きな構図の中の小さな部分、われわれが何処へ向かっていたのかに関するひとつの手がかり、あるいは、それがもっとも重要であった時にさえもわれわれが関心を払おうともしなかった前兆、等をはっきりと示してくれることであろう。

このコロナウィルスはひとつの小さな警告である。数多くの警告のひとつである。つまり、われわれは自分たちが他の生命と共有している自然界との同期を破って生活をしてきたのだ。われわれはそれをコントロールし、統治する必要がある。われわれはそれを取得する必要がある。治安が必要だ。死を征服することが必要だ。これらはどれもが他の全ての必要性を押しのけてしまったのだ。

われわれは迅速で容易な解決策を約束した連中に従い、妥協することを拒む連中や権力者の意向を伝える連中、恐怖心を広める連中、あるいは、周囲を憎む連中に従った。

もしもわれわれ自身が注目したい関心事に方向を切り変えることができるならば、もしも暫くの間われわれの関心事を自分たちのコントロール下に取り戻すことができるならば、われわれはコロナウィルスによって蝕まれていただけではなく、われわれが抱いた恐怖心や憎悪、飢餓感、利己心によって蝕まれていたことをはっきりと理解することであろう。

その証拠は火事や洪水、疾病、絶滅してしまった昆虫、汚染しきった海洋、この地球上で古来から肺の役割を担ってきた森林、融け去りつつある氷冠、等に見られる。

大きな構図はごく普通の視野の中に隠されている。もはや、ロシアやブレグジットのような課題によって視野を遮られているわけではなく、今やそれは生と死との間の細い境界線を示している。

著者のプロフィール:ジョナサン・クックは「マーサ・ゲルホーン・ジャーナリズム特別賞」を受賞。彼の最近の著作は「Israel and the Clash of Civilisations: Iraq, Iran and the Plan to Remake the Middle East(Pluto Press)および、「Disappearing Palestine: Israel’s Experiments in Human Despair(Zed Books)。彼のウェブサイトは http://www.jonathan-cook.net/

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

著者が言いたかったことはこうだ。

「苛酷な権力が警察に移譲され、軍隊を街の通りへ配備することさえもが準備中である。裁判なしの拘留。戒厳令。 かってトランプあるいはブレグジット、ロシアがわれわれの中心的な心配事であった頃われわれを心配させるには十分であった諸々の対策が、今や、正常な生活への復帰を果たすには正当な対価であるかも知れないと考えるようにさえなっている。

以前は誰もが享受していた正常な生活を切望することは、逆説的に言うと、かっての正常な生活へ戻る機会を永遠に奪ってしまうような新常態を受け入れなければならないことを意味しているのかも知れない。

要は、物事は単にわれわれの多くが容易に受け入れられる以上に暫定的であるというわけではなく、現実の世界を眺める、あるいは、正常さを観察するわれわれの窓はほとんどすべてが作り物であるということだ。」

彼が指摘している内容は大災害が起こった時の政府の対応に共通して見られるとも言えよう。

政府としてはパニックに陥ることを是が非でも回避するためにさまざまな対応策を取る。米政府の場合は対応策のひとつとして軍の派遣も含まれる。また、正当化することができる策だけとは限らない。中には一般大衆を恣意的に誤導することさえもある。

日本について言えば、今考えつく好例は福島原発の事故の際に日本政府がとった行動だ。「放射能は健康に害を与えるようなレベルではありません」と当時の内閣官房長官はテレビで繰り返した。今になって言えることはあれは真っ赤な嘘だった。当時18歳未満の子供たちにその後甲状腺がんが多数発見されたことは今では誰もが知っている。しかも、事故直後に放射能がどのように広がったのかを示すコンピュータによるシミュレーションの結果はついに公表されなかった。政府にとってはさぞや不都合なデータが含まれていたのであろうと容易に想像することができる。他にどんな理由があったと言うのか!

一般大衆の立場から言えば、行動制限がなく、友人たちと自由に集まることが可能であった以前の快適な生活に戻りたいと思うならば、もっとも重要なことは恐怖心や不確実性といった背景の中であっても事実に基づいて常識的に、そして、論理的に物事を分析し、考える姿勢は絶対に放棄してはならないという点だ。さもなければ、理性的な理解力は失われ、とんでもない陰謀論または偽情報に振り回されて、そこから抜け出すだけの冷静さはまったく期待できないであろう。

「われわれ皆がロシアゲートやトランプあるいはブレグジットのことでうつつを抜かしていた頃、ペンタゴンを含めて、数多くの専門家らはそういった悲惨な出来事を予測し、事前に警告を発し、それを回避するために準備を整えるよう呼び掛けていたのである」
と著者が指摘しているが、コロナウィルスの大流行に関しては米政府は専門家から事前に知らされていたという事実を支える関連情報として、私が知る限りでは、下記のような事例がある:

  1. Exclusive: The Military Knew Years Ago That a Coronavirus Was Coming: By Ken KlippensteinTwitter, The Nation, Apr/01/2020
  2. Two years before coronavirus, CDC warned of a coming pandemic: By Alexander Nazaryan, National Correspondent, Yahoo News, Apr/02/2020
  3. What did they know, exactly? US intel warned of ‘cataclysmic’ coronavirus pandemic in NOVEMBER 2019, report claims: By RT, https://on.rt.com/aehl, Apr/08/2020 

ところで、今回の投稿では何時もとは明らかに違うことがあった。引用記事を意訳することによって読み易くしてはいるのだが、それでもところどころにやや難解な部分が残っているような気がする。ご容赦ください。誤解を恐れずに率直に言うと、この著者には他の書き手では遭遇しなかったような難解さを私は感じた。逆に、それはとりもなおさず私自身の力不足を証明することに他ならないので、これを機会に気分を引き締めて、さらに精進したいと思う次第だ。

参照:

1The Bigger Picture is Hiding Behind a Virus: By Jonathan Cook, Apr/03/2020