2016年6月27日月曜日

除草剤「グリホサート」に対する反対が驚くほど拡大



モンサントが製造し、世界市場で販売している除草剤「ラウンドアップ」の主要成分はグリホサートである。他の農薬でも頻繁に起こっているように、この化学物質が食品に混入し、健康被害を招く。グリホサートの健康被害に関しては、このブログでも何回か投稿をしてきた。最近の投稿は20151224日付けの『不信感が募るばかり - 「遺伝子組み換え作物のリスク評価は欠陥だらけ」と専門家が指摘』だ。あの投稿では、私の個人的な感慨について下記のように記した:


小生の心の何処かには、福島原発事故の際に日本中が経験した「安全神話の崩壊」が明らかに尾を引いている。遺伝子組み換え(GM)食品においても、産業界が主張する安全性は単に砂上の楼閣に過ぎないのではないかと感じる。まずは疑ってみる。率直に言って、さまざまな記事や文献を読んでみて、GM食品はもうひとつの「安全神話」に過ぎないと思うようになった。

そのように共感する人々が間違いなく増えている。そして、ヨーロッパでは政治が動き始めた。専門家の立場からそのことについて最近の動きを報告する記事 [1] がここにある。この記事はグリホサートに対する反対あるいは抵抗が驚くほど拡大してきたことを報じている。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>



Photo-1

私はここで告白しておかなければならない。私は、実は、本件がこれ程までに展開するとは思ってはいなかった。世界中の農業で広範に、かつ、徹底して用いられている除草剤「グリホサート」に対して世界的な規模での反対が進行しつつある。まったく驚くべき状況となっている。私が以前報告した内容をご存知の皆さんは私が悲観的な感じを抱いていることを汲み取っていただけただろうと思う。あれは単に「民主的な」草の根的反対運動ではあっても、グリホサートには「恐らく発がん性がある」とするWHOの科学的な見解と相俟って、あの動きが一時保留となっており二度も延期されていた期限が間もなく切れるグリホサートについてはEU圏内での使用許可を欧州委員会が更新することを阻止するには十分であろうと思っていた。欧州委員会のグリホサートに関する次回会合が招集され、どのような決定が下されようとも、この時点ではもうほとんど問題ではない。魔女のジェニーはすでに壺から出て来てしまったからだ。市民に害を与え、人口を低減する手段としては世界でももっとも重要な優生学的プロジェクトのひとつなのであろうが、何十年も前にDDTが辿ったように、今や、グリホサートは禁止の瀬戸際に立たされている。

519日、欧州委員会はグリホサートにさらに9年間の認可を与え(原案は15年)、その使用に関してはほとんど規制を与えないとする修正案を提示した。しかし、EU加盟国の間で必要とされる「賛成多数」を実現することには失敗。これはますます反民主的な様相を呈して来ているばかりではなく(少なくとも、英国人だけはそう感じている [訳注: 結局、先日の国民投票では英国人の過半数がEUからの離脱に投票した])、EU市民の健康と安全に関するもっとも基本的な関心事についてさえも責任を持とうとはしない大企業に抵抗する市民への民主的権限の付与の観点からは驚くべき展開であり、極めて前向きなものでもある。

農薬の大手企業(モンサント、シンジェンタ、バイエル、および同業他社)は自分たちの失敗に唖然とした。たとえそれがベルリンあるいはブリュッセルであったとしても、政府の建物の廊下で行われる政治的取引が政府の有効性を失墜せしめたようである。

ヘンリー・ローランズのGM作物を監視する国際メディア、Sustainable Pulseによると、この大失敗に見舞われたグリホサートの更新プロセスの次の一手は欧州委員会、ならびに、主体性がなく選挙を通じて選出されたわけでもない職員らの手によって新たな修正案を作成し、古い認可が期限切れとなる6月末までにドイツを賛成に回らせるか、あるいは、グリホサートをEU市場全域から6カ月以内に撤退するよう命令を下すかのどちらかとなる。

ブリュッセルの欧州委員会の消息通は、欧州委員会は28参加国の間で賛成多数はとても確保できないと判断し、公式の投票に掛けることさえもしなかったと報じている。フランスとイタリアは公式の投票では反対票を投じるだろうし、ドイツは他の6カ国のEU加盟国と一緒に棄権するだろうと推測された。

ローマ条約に規定されている現行のEU規則の下では、加盟国28カ国の関係閣僚会議において投票を要する議題に関して賛成多数を確保するにはふたつの条件を満たさなければならない。第一には、加盟国数の55パーセントが賛成すること。第二には、EU人口の少なくとも65%を代表する加盟国によって賛成を得ていること。これらの規則の下では、評決時の棄権は反対票とみなされる。

519日に開催された会合の前、この3月に公表された各加盟国政府によるさまざまな声明によると、欧州委員会によるグリホサートの認可更新については公然と反対を唱えているフランスやスウェーデンおよびオランダに加えて、ブルガリア、デンマーク、オーストリア、ベルギーおよびイタリアが「反対」集団に加わった。棄権するドイツを加えると、これらの国々の総人口はEU人口の53パーセントに相当する。つまり、「賛成」派は必要となる65パーセントには達せず、47パーセントにしかならない。

GM作物の栽培そのものがこの極めて有害なグリホサートの消費の中核的な部分を占めるという事実について世界中の多くの人たちが目覚めて来ていることから、EUにおける今日のグリホサートの禁止は世界に展開しようとするGM作物プロジェクトにとっては致命的な打撃となることだろう。第二次世界大戦以降、遺伝子操作や優生学に対してロックフェラー財団が資金を注ぎ込んで来た事実は、私の著書「Seeds of Destructionの中でも記述しているように、ナチが第三帝国の頃に実践した優生学あるいは人種の純粋性に関わるものだと言える。「支配者民族」の創造とも称されるナチの優生学に対してロックフェラー財団が資金援助をしていたという事実はほとんど知られていない。モンサント社は、第一次世界大戦以降、ロックフェラーの中核的な資産に位置しており、最近これにビル・ゲイツが加わった。

産業界がパニック状態に:

ケムチャイナとシンジェンタとの合併や最近承認されたバイエルとモンサントとの合併に見られるように、世界規模の農薬カルテルはこの時点で明らかにパニック状態となっており、その過程では馬鹿馬鹿しいような間違いを仕出かしている。世界中の市民の健康や安全にとって、さらには、リスクの高い農薬業界の将来にとってさえも今さらされている危険は実に大きい。グリホサートは毒性が証明されているラウンドアップの主要成分である。このGM作物の巨大企業にとってはラウンドアップはもっとも多くの利益を稼ぐ主要製品であり、世界でももっとも広く使用されている除草剤である。

今、ワシントン政府はEUに圧力を加えて、環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)のための花道を設けるためにGM作物に関わって来そうな人の健康や環境関連の安全基準をすべて撤廃させようとしている。TTIPの交渉人らは425日にニューヨークで交渉を開始した。EUの健康問題を担当する理事であるアンドリウカイトウスは、ニューヨークでのTTIP会合での話し合いの直後、グリホサートの再認可を5月には通過させようとして急いだ。これは責任を負うことがない欧州委員会傘下の官僚機構に対してワシントン政府が強硬な圧力をかけている事実を物語るもうひとつの証拠でもある。 

516日、グリホサート認可の更新に関して欧州委員会閣僚会議において投票が行われる予定のちょうど数時間前、殺虫剤(および除草剤)の残留物質に関するFAOWHOとの合同会合(JMPR)が彼らが言うところの科学的調査結果を発表した。その冒頭で、公表を急いだと彼らは言っている。その調査はグリホサートに関して下記のように結論付けている: 

「全体的な証拠が示すところによると、グリホサートおよびその製剤製品は体重1キロ当たりで2000ミリグラムを経口で体内に取り込んだとしても、大多数の研究結果が示すところによると、遺伝毒性との関連性を示さなかった。これらの研究は人が食品を摂取するのと同様の経口投与で行われ、この研究モデルは人類に対する遺伝毒性を調査するには適切な手法であると見なされている。この専門家会議はグリホサートが食品を介して体内に取り込まれたとしても遺伝毒性はないとの結論を下した・・・ つまり、この専門家会議は、グリホサートが食品を通して体内に取り込まれたとしても、人が発癌する危険性はないとの結論を導いたのである。」

しかし、これは奇妙な状況を作り出した。つまり、WHO内の一部の機関はグリホサートは「食品を通して人に発癌させる危険性はない」と言い、WHO内のもうひとつの非常に評判が高い「国際がん研究機関」(IARC)は世界中でGMO作物に用いられ、それ以外でも多くの作物に用いられ、家庭菜園でさえも多用されているグリホサートは「おそらく、人に発癌性がある」と発表している。

しかしながら、FAOWHOとの合同会合によって新たに発表された見解は科学の呈を成してはいない。これは致命的な欠陥を持っている。世界でもっとも古くから存在する職業を冒とくする積りは毛頭ないが、金のやり取りによって決まる売春科学そのものである。

ある評論家はこう指摘した。「実際の生活の場で食品を介して暴露される水準(体重1キロ当たりで3ミリグラム)での調査研究は規制当局側も産業界側もまったく行ってはいない。それにもかかわらず、このような発表が成された。」 低レベルでの除草剤は、高レベル以上に、ホルモンと置き換わることが可能であることからも、これはグリホサートの評価プロセスにとっては巨大な欠陥であると言えよう。これはホルモン・ハッキングと称されるが、ホルモン・ハッキングを引き起こす化学物質は多くの場合発癌性を示す。

利害の不一致:

さらには、このFAOWHOとによる急ごしらえの調査委員会は2031年まで有効なグリホサートの再認可を何としてでも取り付けたいとする化学品業界との連携において利害の不一致を生ぜしめるような委員たちで満杯だ。英国のガーディアン紙の報告によると、FAOWHOグリホサート合同委員会で議長を務めるアラン・ブービス教授はInternational Life Science Institute (ILSI)のヨーロッパ部門の副理事長である。 [訳注: ウィキペデイアの情報によると、ILSIはワシントンDCに本拠を置くロビー活動を専門とする組織であって、食品や化学、ならびに、医薬品関連の企業から資金が提供されている。日本にも支部がある。] これらのセッションではアンジェロ・モレット教授が副議長を務めたが、彼はILSIの下部機関であるHealth and Environmental Services Institute の理事会のメンバーであった。さらには、ILSIRisk21運営グループの理事会のメンバーでもあり、そこではブービス教授が副議長を務めた。ガーディアン紙の報告は次のように指摘している。つまり、「情報公開キャンペーンによって入手した文書によると、ILSIグループは2012年にモンサントから50万ドル(344,234ポンド)の寄付金を受け取り、さらには、モンサントやダウ、シンジェンタ、他の企業を代表する産業界のグループ「クロップライフ・インターナショナル」からは528,500ドルを受け取っている。」

こうして、ひと目でも分かるような倫理観に欠けた科学者たちが殺虫剤に関するFAOWHO合同委員会(JMPR)を率いていたのである。クライアントアース・グループの弁護士を務めるヴィート・ブオンサンテは疑いようもない程にタイミング良く発表されたこのFAO/WHO報告書に関してこう論評している。「グリホサートの安全性についての審査が産業界から直接お金を貰っている学者によって実施されているのだとしたら、そこには間違いなく利害の不一致が存在する。」 

ILSIのメンバーがEFSAの理事会やその委員会にも名を連ねているとする複数の申し立てが成され、錯綜するこれらの利害の不一致に関しては、2012年、欧州議会は欧州食品安全機関(EFSA)に対する資金提供を6か月間中断した。 

グリホサートに関してEU域内での再認可を何としてでも得ようとする農薬業界の動きに見られる汚職の匂いや利害の不一致に加えて、2015年にEFSAによって行われたグリホサートの審査結果はグリホサートを再認証してやろうとする欧州委員会によって採用された。これはWHO傘下のIARCが公表した発癌性の警告とは相矛盾することにもなり、彼らは名前を公表することを拒んだ。

昨年、欧州委員会はこの異論の多いグリホサートに対してさらに15年間の認可を与えるよう推奨した。これはグリホサートには発癌性があるという見解を肯定する理由はまったくないとする態度をとるEUの腐敗し切った下部組織「EFSA」が固持する考えに基づいていた。EFSAは自分たちが根拠とする安全性に関する研究結果を公開することによって自分たちの主張を裏付けようとはせずに、彼らの見解はWHOの著名な下部組織であるIARCの見解とは真っ向から対立することになった。グリホサートは世界中でほとんどのGM作物やその他の作物に対して除草剤として使用され、家庭菜園においてさえも使用されているが、グリホサートには「おそらく、発癌性がある」とIARC は述べている。EFSAの異論の多い見解はドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)の報告書に基づいたものであるが、モンサントや他の農薬関連の業界グループの企業によっても次々に提出された。

物事は巡り巡って自分の身に降り懸かって来ることが多い。グリホサートですっかり閉塞させてしまった欧州委員会のパイプには農薬カルテルがもたらしたとてつもない量の糞便物質が観察される。グリホサートの再認可を巡る現行の闘いを見てもっとも大きな驚きを感じる点は、こともあろうに欧州委員会が除草剤「グリホサート」の業界カルテルになりふり構わず屈服しようとしている点であり、発癌性があるかも知れない化学品を欧州委員会が認可しようとしていることを人々が認識し始め、それに反対しているという点である。しかも、これは急速に拡大しており、国際的な動きともなっている。そして、この認識はGM作物が作り出した暗闇の部分にも光を当てることになる。これはビル・ゲイツやデイビッド・ロックフェラー、モンサント、シンジェンタ、ならびに彼らの盟友にとっては抗し難いものとなるだろう。

欧州委員会は今日までにグリホサートを再認可しないで欲しいと訴える150万通もの請願書を受け取っている。欧州委員会のグリホサートの認可に対する反対は自己展開式の様相を見せており、これは除草剤カルテルには危機感をもたらした。この認可プロセスが一般大衆の知るところとなったのだ。このような形態は初めてのことであり、ブリュッセルばかりに限られることではないが、これは何が安全で何が危険であるのかについて欧州委員会に助言を与える役目を持った科学者団体の腐敗振りを顕わにしたものでもある。

著者のプロフィール: F. William Engdahlは戦略リスクに関するコンサルタントであり、方々で講演を行っている。プリンストン大学で政治学博士号を取得。原油や地政学に関する著作ではベストセラー作家である。もっぱらNew Eastern Outlookオンライン・マガジンに投稿している。
http://journal-neo.org/2016/05/23/the-amazing-glyphosate-revolt-grows/

<引用終了>


規制当局の認可を巡っては、洋の東西を問わず、さまざまな形で汚職が横行する。その汚職を助長するものとしては汚職が横行し易い構造(官僚機構や行政構造)の存在がある。特に、規制当局の諮問機関として設定される専門家グループのメンバーに指名される学者らの間には研究資金を通じて産業界と癒着した状況がしばしば見られる。端的に言えば、巨大企業にとっては製品の販売額が増加し、市場での占有率が高まりさえすればいいのであって、その製品を消費する一般大衆の安全性は二の次となる。こうして、消費者の安全性は骨抜きにされてしまう。GM食品について言えば、金と時間がかかる中・長期の安全性については調査研究を実施しようともしない。企業論理としては短期的な利益の追求に余念がないのだ。

規制当局側が時には第三者の科学者集団の客観的な見解を活用することはあっても、何時もそうであるとは限らない。このGM食品の例では、不幸にも、科学者としての客観的な姿勢はまったく見られない。まさに驚くべき状況がこの記事によって明確に報じられている。

構造的にこれと似たような状況が日本でも起こっている。余談になるが、福島第一原発事故と絡む小児甲状腺癌について考えてみよう。

福島第一原発周辺の子供たちは今小児甲状腺癌の多発に見舞われている。合計で172名に達したと報じられている。しかしながら、集団検診を行っている医師団は何故か依然として福島原発事故による放射能との因果関係を否定している。それではいったい何がその要因となっているのか?この疑問については説明をしようともしない。

しかし、遅かれ早かれ、客観的かつ科学的な情報が積み重なって来るにしたがって、本当の姿が顔を見せることになるのではないか。一般市民の知識も深まり、一部の専門家が唱導したい見解についてさえも、通常、その偏向振りや嘘を発見する能力あるいは勘が少しづつ備わって来る。小児甲状腺癌の検診や治療を担当する医師団が政府の政治的見解に偏ったまま、客観的な科学的知見をいつまでも無視し続けることができるとは思えない。

このGM作物の安全性を巡る欧州委員会の大失敗に帰した対応と福島第一原発事故における小児甲状腺癌を巡る日本政府の対応は悪い意味で実によく似ている。ふたつの異なる状況の中に見出される相似性は驚くばかりである。

また、この記事は「ワシントン政府はEUに圧力を加えて、環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)のための花道を設けるためにGM作物に関わって来そうな人の健康や環境関連の安全基準をすべて撤廃させようとしている」と述べている。TTIPとは双子の関係にあり、日本が加盟しようとしているTPPでもこれと同じようなことが起こっている、あるいは、計画されているのではないだろうか?TPPは農業問題だけが焦点ではない。上記の人の健康や環境に関する安全基準といった他にも基本的な問題点がたくさんある筈だ。

また、この引用記事では人口調節を目的とした優生学的プロジェクトが言及されているが、その件については別途触れたいと思う。


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ここで、ホルモン・ハッキングについて少し学んでおこう。

内分泌かく乱物質(あるいは、環境ホルモン)は1990年代の後半から2000年代の前半にメディアによって広く取り上げられたことがあるので、皆さんの多くはそれがもたらす健康被害に関してはご存知だと思う。そこへ、この投稿でご紹介しているように、グリホサートや除草剤のラウンドアップが原因物質としてその戦列に加わって来た。

どのような種類の健康被害をもたらすのかについて記述している最近の記事 [2] を仮訳して、下記に共有したいと思う。


<引用開始>

要旨: グリホサートおよびラウンドアップは実験によると内分泌かく乱物質であることが示されている。人における内分泌のかく乱はある種の癌や先天異常、不妊症等の生殖上の問題、ならびに、胎児や赤ちゃんおよび子供の発達障害に関与する。

ヨーロッパの法律の下では、内分泌かく乱物質である殺虫剤は市場で販売することは禁止されている。1 各国政府はこれらの物質は内分泌かく乱物質がもたらす脅威として深刻な疾病や健康問題、たとえば、癌や生殖上の問題、先天異常、等に関与するということを認識している。これらの影響は低濃度の水準で長期の暴露によって引き起こされると考えられる。あるいは、子宮内の胎児の場合には、ある特定の発達段階における暴露が障害をもたらす。

グリホサート・タスクフォース(GTF)のウェブサイトはグリホサートは内分泌かく乱物質ではないとするドイツ政府の見方を引用している。2 

しかし、これは深刻な誤解を招きかねない。それどころか、論文審査のある独立系の文献によると、グリホサートやラウンドアップといった製品は内分泌かく乱物質である。

グリホサートやそれを主成分とする製剤がもたらす内分泌かく乱効果は知らぬ間に進行し、たちの悪い毒性を示す。内分泌かく乱物質は通常の毒物のような挙動は示さない。つまり、通常の毒物の場合は、暴露レベルが高いと毒性の程度が高まる。内分泌かく乱物質の場合は、多くの場合、低濃度で観察され、それよりも高い濃度では観察されない。3,4 規制当局へ提出するために実施される研究は比較的高めの暴露水準で行われており、これらの問題を検出することはできないのだ。 

論文審査が行われた論文によって公表されている最新の知見としては下記の項目が含まれる: 
  • グリホサートを主成分とする除草剤は雌のナマズのホルモン水準を変化させ、魚卵の生存能力を低下せしめた。本研究はこの除草剤はナマズの生殖には有害であると結論している。5
  • ラウンドアップはマウス細胞におけるステロイド・ホルモンであるプロゲステロンの生産をかく乱した。6
  • グリホサートを主成分とする除草剤はラットに対しては強力な内分泌かく乱物質として作用し、思春期での暴露によって生殖機能の発達に害を及ぼす。7
  • 人細胞を試験管内で実験したところ、グリホサートを主成分とする除草剤は、米国の動物飼料用として用いられるある種のGM作物に許容されるグリホサートの残留濃度に比べて800倍も低い濃度であってさえも、男性化ホルモンであるアンドロゲンの作用を妨げた。グリホサート系除草剤を用いてこの濃度で処理した人細胞ではDNA損傷が見られた。グリホサート系除草剤は女性化ホルモンであるエストロゲンの作用や生成をかく乱した。毒性が最初に現れた濃度は5ppmで、内分泌かく乱が最初に現れた濃度は0.5ppmであった。これは動物飼料用として許容されている400ppm800分の1の濃度である。8
  • ラウンドアップ除草剤は環境面で意味がある暴露濃度(この製剤をグリホサート基準で0.00023パーセントにまで希釈)にて研究所の試験管内で発育させた人の乳癌細胞に遺伝子の異常調節を引き起こした。解析を行った1,550の遺伝子のうちで680の遺伝子の発現が増加あるいは減少した。ラウンドアップはエストロゲンと置き換わったり、エストロゲンと相乗的に作用することができた。エストロゲンは乳癌細胞の成長に必要である。これらの知見は本ホルモン機構においてはグリホサートが非常に強力な内分泌かく乱作用を持っていることを証明するものである。著者らはこう言っている。「人の細胞では、低濃度のグリホサートに暴露された後に非常に複雑な事象が起こり、これらのパターンは不明のまま残されてはいるが、試験を行った全体の中で発現レベルが変わったたったみっつの遺伝子に関わる事象を取り上げてみただけでも、これらは複雑であり、潜在的には母親や胎児の細胞を損なう可能性がある。」9
  • グリホサートは、EU圏内で飲料水に許容されるレベルにおいて、それ自身が持つエストロゲン様の作用機序によって試験管内のエストロゲン依存性乳癌細胞の増殖を高めた(さらなる詳細についてはPotentially dangerous levels of glyphosate found in GM soy を参照されたい)
  • ラウンドアップの生体内での影響をラットを用いて調査した。飲料水に1リッター当たりで50ngのグリホサートを希釈した。この希釈濃度はEU圏での飲料水に許容される濃度の半分であり、11 米国の飲料水に許容される濃度の14,000分の1である。12  その結果、臓器に重篤な損傷がもたらされ、2年間の暴露の後には雌の動物に乳腺腫瘍の増加が観察された。後者の腫瘍に関してはより多くのラットを用いた実験を行い再確認をする必要がある。13
  • ラウンドアップはオーストラリアで飲料水に許容される濃度にて試験管内の人細胞に毒性を示し、内分泌かく乱物質であることが分かった。この内分泌かく乱作用はプロゲステロン・ホルモンの生成を不能にすることによってこれらの細胞に対して毒性を引き起こした。恒常的に毒性を示す最低濃度はリッター当たりで720マイクログラムであった。オーストラリアの飲料水に関する指針は1mg/Lという比較的高い濃度に設定されており(米国の基準である700ug/L あるいは 0.7mg/Lよりも高い)、この濃度はオーストラリアにおいては許容範囲内にある。14
安全であると見なされて来た低濃度での長期的な動物試験がもっとたくさん行われるまでの間は、農薬業界による強力なロビー活動や政府内の同盟者たちによってこれらの知見は人に対してはどれだけ適用できるのかといった論争が続けられることだろう。

参照文献 [訳注:この部分の仮訳は割愛します]
  1. European Parliament and Council. Regulation (EC) No 1107/2009 of 21 October 2009 concerning the placing of plant protection products on the market and repealing Council Directives 79/117/EEC and 91/414/EEC. Off J Eur Union. 2009:1-50.
  2. Glyphosate Task Force. Industry Task Force welcomes important step in the EU review of glyphosate. Glyphosate Facts. 2014. http://www.glyphosate.eu/news/industry-task-force-welcomes-important-step-eu-review-glyphosate.
  3. Vandenberg LN, Colborn T, Hayes TB, et al. Hormones and endocrine-disrupting chemicals: Low-dose effects and nonmonotonic dose responses. Endocr Rev. 2012;33(3):378-455. doi:10.1210/er.2011-1050.
  4. Vom Saal FS, Akingbemi BT, Belcher SM, et al. Chapel Hill bisphenol A expert panel consensus statement: integration of mechanisms, effects in animals and potential to impact human health at current levels of exposure. Reprod Toxicol. 2007;24:131-138. doi:10.1016/j.reprotox.2007.07.005.
  5. Soso AB, Barcellos LJG, Ranzani-Paiva MJ, et al. Chronic exposure to sub-lethal concentration of a glyphosate-based herbicide alters hormone profiles and affects reproduction of female Jundiá (Rhamdia quelen). Environ Toxicol Pharmacol. 2007;23:308-313.
  6. Walsh LP, McCormick C, Martin C, Stocco DM. Roundup inhibits steroidogenesis by disrupting steroidogenic acute regulatory (StAR) protein expression. Env Health Perspect. 2000;108:769-776.
  7. Romano RM, Romano MA, Bernardi MM, Furtado PV, Oliveira CA. Prepubertal exposure to commercial formulation of the herbicide Glyphosate alters testosterone levels and testicular morphology. Arch Toxicol. 2010;84:309-317.
  8. Gasnier C, Dumont C, Benachour N, Clair E, Chagnon MC, Séralini GE. Glyphosate-based herbicides are toxic and endocrine disruptors in human cell lines. Toxicology. 2009;262:184-191. doi:10.1016/j.tox.2009.06.006.
  9. Hokanson R, Fudge R, Chowdhary R, Busbee D. Alteration of estrogen-regulated gene expression in human cells induced by the agricultural and horticultural herbicide glyphosate. Hum Exp Toxicol. 2007;26:747-752. doi:10.1177/0960327107083453.
  10. Thongprakaisang S, Thiantanawat A, Rangkadilok N, Suriyo T, Satayavivad J. Glyphosate induces human breast cancer cells growth via estrogen receptors. Food Chem Toxicol. 2013;59:129-136. doi:10.1016/j.fct.2013.05.057.
  11. Council of the European Union. Council directive 98/83/EC of 3 November 1998 on the quality of water intended for human consumption. Off J Eur Communities. 1998. http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:1998:330:0032:0054:EN:PDF.
  12. US Environmental Protection Agency (EPA). Basic information about glyphosate in drinking water. 2014. http://water.epa.gov/drink/contaminants/basicinformation/glyphosate.cfm#four.
  13. Séralini G-E, Clair E, Mesnage R, et al. Republished study: long-term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize. Environ Sci Eur. 2014;26(14). doi:10.1186/s12302-014-0014-5.
  14. Young F, Ho D, Glynn D, Edwards V. Endocrine disruption and cytotoxicity of glyphosate and roundup in human JAr cells in vitro. Integr Pharmacol Toxicol Genotoxicol. 2015;1(1):12-19.
<引用終了>


グリホサートは内分泌かく乱物質であり、かなり低い濃度で毒性を示すという知見は今までメディアには登場しては来なかった。少なくとも、私は知らなかった。しかしながら、上記の参照文献の発行年を見ると、もっとも古いものは2000年にすでに発表されていた。そして、2010年頃からは複数の発表が相次いで登場して来た。

また、この内分泌かく乱物質としての問題と平行して、グリフォサートは注意欠陥過活動性障害やアルツハイマー症、無脳症、自閉症、先天異常、脳腫瘍、慢性腎臓病、大腸炎、うつ病、糖尿病、心臓病、甲状腺機能低下症、炎症性腸症候群、肝臓疾患、ルー・ゲーリック病、多発性硬化症、非ホジキンリンパ腫、パーキンソン病、不妊症や流産あるいは死産、肥満症、呼吸系統の疾患、等の原因物質でもあるとして議論されている [注:より詳細については15 Health Problems Linked to Monsanto’s Roundup”: By Alexis Baden-Mayer, Organic Consumers Association, Jan/23/2015を参照されたい]

除草剤として使用されるグリホサートは食品を経由して、あるいは、飲料水に含まれる低濃度の不純物としてわれわれ消費者の体内に到達する。また、空気中にも浮遊している。子供たちが遊びまわる環境は多くの場所が汚染されている。健康被害が実際に自覚されるまでには長い年月を必要とする。そして、われわれ自身が健康問題に気付いた時、その原因がグリホサートであると関連付けることができる専門家はいったいどこかに居るのだろうか?多分、多くの場合、原因不明として取り扱われることになるのではないか。

そういった不条理には耐えられないと感じる人たちはこの問題が今後どのように展開して行くのかに関して注視し続けなければならない。我々一般市民の間でも少しでも多くの人が関連情報を適切に理解しておかなければならない。何と言っても、将来の世代の健康が掛かっているのだから。

20年前に「環境ホルモン」という概念を導入した米国の科学者、テオ・コルボーンは彼女の著書に「奪われし未来」という表題を付けた(初版は1996年に米国で出版され、日本では和訳版が2000年に出版された)。その方面の専門家として、国際社会に対して警鐘を鳴らしたのである。最大の課題はどうやって将来の世代の健康を確保するのかにあった。これ程重い指摘はない。当時、世界はこの指摘に愕然とした。


参照:

1The Amazing Glyphosate Revolt Grows: By F. William Engdahl, New Eastern Outlook, May/23/2016, journal-neo.org/2016/.../the-amazing-glyphosate-revolt-grows...

2Hormone hacking: By Detox Project, (発行年月日が不明ではあるが、20152月以降の発行と推察される) detoxproject.org/glyphosate/hormone-hacking/