2016年1月23日土曜日

ロシアの原潜でまさに第三次世界大戦勃発時の緊張感を経験



ここに非常に興味深い記事がある。

原文はロシアの原子力潜水艦の乗組員がロシア語で書いたもの。その記事をロシア系米国人が英語に翻訳し、昨年の1215日にLiveLeak.comというブログ・サイトに投稿した [1]

その米国人の翻訳者は冒頭で下記のように述べている:

この記事を翻訳してから、私は今のロシア人やかってのソ連邦時代のロシア人が持っている核戦争観についてこれよりももっと長いブログを書いてみようと決心した。この決心をここで公言してしまうことによって自分自身に圧力をかけることは決して悪いことではないと思う。

全体としての重要な点は次のことにある。たとえ90パーセントの確率でロシアをユーゴスラビアやリビアおよびシリアのように解体することが可能であって、米ロ間の核戦力による正面衝突の可能性は「たったの」10パーセントにしか過ぎないと米国のネオコン連中が信じているとしても、レイセオン社に数十億ドルの利益をあげさせてやるためだけに核戦争のリスクを負う価値があるとでも言うのだろうか?

とにかく、冒頭でも述べたようにもっと長いブログを間もなく掲載する予定だ。当面はこの短いバージョンを楽しんでいただきたい。あくまでも私の意見ではあるが、結構面白い内容だ。退屈することはないと思う。

前置きは上記のような具合だ。

これは本当に第三次世界大戦が勃発してしまったのかも知れないという恐怖感にかられたロシアの原潜乗組員の体験談だ。さっそく仮訳して、読者の皆さんと共有しよう。


<引用開始>

戦闘警報:
Photo-1: 出典

第三次世界大戦を、今日、この私がどんな風に戦ったのかについて話してみたいと思う。まずは、お互いに正直になろう!皆さんは誰もが高等教育を受けていて、いろんなものを読み、何でもかんでも良くご存知だ。しかしながら、第三次世界大戦がどのように始まるかなんて誰も知らないのではないだろうか。

疑いもなく、皆さんは戦闘や包囲戦、爆撃、等についてはさまざまな映画を観ており、「戦争」という言葉を聞いた時に皆さんが何を想い起こすかを私は簡単に想像することができる。たとえば、低空を飛んでくる飛行機、サイレンの音、ラジオやテレビに流れる警報、超満員の列車、難民の群れ、険しい顔つきの男たち、離れて行く船に向かってハンカチを振る女たち、等だ。あんた方が最初に抱くイメージはこういった事柄だ。物事をもう少し深く考えれば、戦争とは悲しみや飢えであり、あるいは、窮乏や疾病である。そして、もっと大きな悲しみがやって来る。しかし、皆さんが思いつくこれらのすべてのイメージは過去の戦争についてのものだ。本当の意味で現代的な戦争のイメージはこれらとは全然違うんだ。つまり、皆さんは眠っている。そして、次の瞬間にはもう死んでいる。あるいは、皆さんにはいったい戦争が始まったのかどうかさえも分からず、多かれ少なかれ戦争はもう終わっているのだ。

(こういった文脈においては)もしも皆さんが特に幸運に恵まれていて、大都市や戦略的に重要な拠点からは程遠い田舎に住んでいるとすれば、間違いなく、あんた方は核の冬や突然変異を目撃したり、ネズミを食べることやその他諸々の厳しい状況のすべてを体験することができるかも知れない。しかしながら、それは放射能汚染によってゆっくりと死亡して行くことが避けられた場合の話だ。

ところで、軍人たちは一般人に比較すると少しばかりいい状況に恵まれている。軍人は常に戦争に対して準備ができているからだ。もちろん、全員がそうだというわけではなくて、これは戦略核の部隊に組み込まれていて、ちょうどその時点に戦闘状態にある連中の話だ。つまり、これらの記述を読み進めているこの決定的な瞬間にも、当事国の戦略核の兵力の一部は、大陸間弾道弾(ICBM)が搭載された潜水艦を含めて、大量破壊・報復兵器を発射する準備ができている。そして、少なくとも、乗組員の3分の1はその範ちゅうに入る。2番目の3分の1のグループは、理論的には、駆け足で5分から10分ほどの距離にある兵舎で待機している。残りは自分の家庭で時間を過ごしており、戦闘には加わらない。

もちろん、われわれもかっては基地で厳戒態勢をとったこともある。しかし、その場合はスケジュールがいささか違う。2日間を艦内で過ごし、2日間を家庭で過ごすというスケジュールだった。すなわち、乗組員はふたつのグループに分かれてミサイル発射の訓練をしたのだ。それだけの違いだ。もしも戦争が始まってしまって、潜水艦が岸壁からICBM を発射しなければならないような場合には、間違いなく外洋へ出て行くことは出来ないだろう。

ごく自然なことではあろうが、陸上警護やさまざまな形態の任務あるいは検査という形で俺たちは軍隊生活に見られる多くの苦労や欠乏からは開放される。そんなわけで、他に没頭することも無いことから、俺たちはプレファランスというカードゲームに熱中したものだ。特に、夜はそうだった。ご存知のように、男たちは少年みたいなもんだ。夏のキャンプでは少年たちは何をすると思う?眠りに就くだろうか?とんでもない! ところで、真夜中がとうに過ぎてから就寝するとしたらどうなると思う? 翌日、あんたは点呼に整列してから再びベッドに戻って来る。結局、日中は面白さなんて何も感じられない。

刀の刃を研ぎすましておくために、つまり、これは俺たちのことではあるが、われわれは定期的に訓練を受け、演習を行った。カードゲームは全面的に良好で手際よく進行していたのだが、先制攻撃という基本原則は依然として想定されていたからだ。艦内での警報は(比較的静かな)信号ベル、あるいは、吠えたてるような警報サイレンのどちらかによって知らされる。訓練警報は戦闘警報とは僅かに違う。つまり、訓練警報の場合はサイレンが始まる前にベルが断続的に3回鳴る。ただそれだけ。 

早朝の2時、轟き渡るような戦闘サイレンを聞き、艦内放送からは「戦闘警報!ミサイル攻撃!」という唸り声を聞いた時、俺は若い顔に笑いを浮かべてすやすやと眠っていた。俺は飛び起きた。ズボンをはき、シャツやリブリーザーを掴んで、自分の戦闘部署へ走って行った。頭の中では今何が起こっているのかを理解できないでいる。30分前に、俺は軍医さんや電気屋さん、あるいは、タービンの技術屋さんたちを徹底的にやっつけたばかりで、頭の中はまだジャックやエースで溢れかえっているまま眠りに就こうとしていたが、プレファレンスのカードゲームでは自分が世界で一番だというわけではないとすれば、この潜水艦でさえも一番上手いわけではないかも知れないといった感覚に捉われていた。そこへこのミサイル警報だ。俺は走りながらも、目を覚まそうとし、俺と同じように眠たげに、体の半分は裸のままで、水兵たちが俺の脇を飛び越して行く。いいかい?一言だけ念を押しておきたいことがある。半分眠ったままの潜水艦の乗組員が狭い通路の中をありとあらゆる方向へ走っていても、途中で立ち往生をしたり、怪我をする奴なんて一人もいない。しばらくして目が覚め、準備が完了してしまうと、「あの速度と優雅さを維持しながらもう一度繰り返せ」と命令されても、とても出来るもんじゃない!

俺は指揮所へすっとんで行く。(自宅に居る筈の)「親父」がオーバーを着こんですでにそこにいる。さらには、(親父がいない時には副司令官の役目を果たすことになっている)一等航海士もだ。また、(在宅の筈なのに、ミサイル発射キーのひとつを手にした)戦闘チーフもいる。館長は発射キーを手にし、戦闘チーフも発射キーを手にしている。二人の顔は沈んでいるが、真面目そのものだ。指令所へ半分裸で駆け込んで来た俺に対しては何らかの冗談を投げかける様子はなく、何の冷やかしもなかった。俺は制服を着用して、いそいそとネズミのように自分のコンソールへ座った。ミサイル担当の連中はPURO 装置から保護カバーを撤去し、同装置を起動する。頭の中では「何てこった。何が起こったんだ!」と喚き、この瞬間ついに目が覚めた。アントノヴィッチはいない。今、彼は別のシフトだ。ハフィジッチはWIM コンソールに張り付いている。 

「ハフィジッチ」 俺は声を潜めて言う。「ハアアアフィィィジィィィッチ」
「角度を計算し、浮上用バラストタンクに水をはってくれ。」 ハフィジッチは俺の話を遮り・・・ GEUコンソールや区画担当チーフに向かって「直ぐに準備をして、報告をするように!」と怒鳴り始める。 

「タンクに実際に水をはるの?」と、俺は敢えて確認することにした。

「何てこった!」と、俺の直ぐ後ろで一等航海士が言う。『艦内で、他のうすのろが上官の命令に対する返事として「実際に」なんて言葉を吐いたら、そいつには強烈なパンチを食らわして、そいつの子供が先天性の障害を持って生まれて来るようにしてやるぞ!そんな寄生用語を使うとは何事だ?一般人が使うそんな俗語をいったい何処から持ち込んで来たんだ?もし必要だったら、耳にコンドームを被せろ!もう二度と聞きたくはない!』

「サニッチ」と、親父が間に入った。「停泊チームには発射時の安全対策について指示をしてくれ。頼んだぞ!」 

「了解、セン・セイッチ!」

こんちくしょう。しょうがない、これは本物かな?俺はここで眠り、朝飯にはバターが出るのを夢見て、夜になると「裁判官ドレッド」を観て、夜中にはポテトチップをかじりながらプレファランスをして遊び、今、俺は・・・戦闘中か?何、映画のようだって?つまり、俺はここで今すぐ原爆の炎の中で焼き殺されるのか?こんちくしょう、俺にはまだやらなければならないことが山ほどあるんだ!子供だってまだ生まれてはいないんだ!待てよ、この場合子供がいない方がいいのかも。しかし、おふくろや妹たちはどうなるんだ?彼女らに電話をすることさえも出来ない!アンドレイには借金が残っている。いったいどうやって返済すればいいんだ?彼はこの時間は基地で眠っている筈で、なんにも知らないままだ!彼の娘はようやく3ヶ月になったばかり。もう、無茶苦茶だ!市民に向かってこんな仕打ちをするなんて全然正当ではないし、正直でもない!特定の日付の何時何分に俺たちは爆撃を受けるので準備をするようにと前もって知らされてさえいれば、俺たちは帰宅し、サヨナラを言い、お別れのパーティーで酔っ払い、それから、どうなるか分からないが、多分、ついにはアフリカ人の女性と一緒にランババのダンスとかを習い覚えているかも知れない。それから、俺たちは勢ぞろいして、制服に身を固めて、最後の葉巻を楽しんでから戦争へ向かうんだ。でも、多分、そんな風に事が運びそうにはないな! 

上昇用バラストタンクの計算は最初の試算でうまく行った。脳は数学とは関係が無い時には数学的な計算をより素早く、より正確に行うことができるんだということに俺は前から気付いていた。

「上昇用バラストタンクの計算が終わりました!バラストを張る許可を!」
「計算が終わったの?」と、ハフィジッチが訊いた。
「ここにあるよ。297ミリの表になっている。すべてが鉛筆で細かく書いてあるけれど、チェックしてみてくれ!」

ハフィジッチがその表を振っている。

「どんな値?」 
325トンだ。」 

ハフィジッチは耳の後側を掻いて、こちらをチラッと横目で見て言った。
350トンにしたら?」と。

ところで、彼は何時も完璧に正しいんだ。大した野郎だ! 

「俺は詳しく計算しているっていうのに、あんたやアントニッチは何時も目分量ってのはどうしてなんだ?!」 俺はぶつくさ言いながら、海水取り込みバルブを開き、超音波水位計を起動する。

「お前はまだ若造だからだ!俺たちは単に目分量で言っているわけではなくて、海軍兵士としての勘と何年もの経験に基づいて喋っているんだ!お前にも自分の勘が育ってくるよ。その時には俺たちと同じことをするようになるさ!」 
「毛で蔽われるようになってからさ!」と、館長が付け加えた。
「いったい何が毛で蔽われると言うんですか?」 ハフィジッチはすっかり混乱していた。
「彼の勘のことだよ。勘が働くようになってから、毛で蔽われるようになるんだ!」

彼は不注意にもあんな冗談を言ったのだろうか?それとも、差し迫っている運命を前にして皆の緊張を緩めようとしてあんなふうに振る舞っているんだろうか?俺は周囲を見回してみる。PURO設備の連中は大急ぎで発射前の準備をしており、表示灯は点滅し、リレーが作動している。秘密通信用コンソールは接続され、通信士官が戦闘チーフと一緒にそのコンソールへ何かを入力している(多分、発射許可コードかも)。また、BIUSは作業中のRTS要員に囲まれて、彼らのスタッフは答えを算出することも出来ないでいる。ボースンらは重い外套を着こんで、まるで出航の準備が出来ているみたいだ(恐らくは最悪の事態を何とか逃れるチャンスがあって、俺たちは海へ出ようとしているのかも?とすると、少なくとも、これはいいニュースだぞ!)。

いや、そうではなくて、いったい何が起こっているのかを何とか理解することが必要だ!ただじっと座ったまま世界で今何が起こっているのかを知らずにいるなんてとても耐えられない!どういう風に訊ねようか?もしもこれが演習であることを告げる最初のベルの音を聞くこともなく眠りこけていたことを俺が認めてしまえば、後で皆は間違いなく俺を笑いものにし、俺のことを「政治将校」と呼ぶに違いない。まあ、それ自体は大したことじゃあないが、でも、やっぱり・・・

「司令官殿!」 俺はついに訊ねてみることにする。俺たちは本当に戦いに出ていくのかと。すると、俺は一等航海士を見て、もしも俺がこの戦闘は「本物なのか」と訊けば、彼は約束通りに俺にパンチを見舞うことだろう。ところが、不運極まりないことには、俺の脳はこの偉大で、かつ、万能なロシア語の中に「本物」という言葉の同義語をまだ見い出せないままでいるのだ!

「何をお望みだね?」 指揮官は俺の精神的混迷状態を見ることには耐えられない。

「え~と、今日は家でテレビを見ましたか?世間では今何が起こっているんでしょうね?地政学的な現状はどんな具合ですか?」 

「親愛なるエド、私は、もちろん、まったく相応しくない時に限ってくだらない話をしようとする君の意欲を評価する者のひとりではあるが、私はすでにICBMの発射準備を終えたし、敵の領土内に破壊や大混乱ならびにパニックを引き起こすべく、発射キーを首の回りから外しているところだ。それが見えんかね?どうしたんだね!」 

「同志スタニスラフ!どうして君は下級士官たちと一緒に政治情報セッションを持たなかったのかね?彼らの新鮮な脳は吟遊詩人が新しい調べを恋い焦がれるように知識に飢えているんだよ! 」

あの最後のくだりは俺たちの政治将校に向けて怒鳴ったフレーズだ。

「もちろん、私はやってますよ!定期的にセッションを持ってます!奴らの方がセッションを欠席するんです!!!」 

「スタス、若い裸の女の子のポスターを教室にぶら下げるんだ!連中は駆け足で集まってくるだろう!」と、実務的でセカンドクラスの忠告を捻り出すことではピカ一のハフィジッチが口を挟む。 

はてと、彼らは依然として冗談ムードのままだ。違うかい?こういう人たちのことを俺はよく知っているが、連中はいつも冗談を言い、特にもっとも不適切な時に限ってそうするんだ。しかし、発射前準備が完了していることや、もうすべてのことが片付いていることはPURO 指令の様子を見ただけでも俺には分かる。俺は大至急小便をしようと思った。もう耐えられそうにはないということではなくて、俺はあの特有の反応があったことだけは認める。自分の気持ちを逸らせようと思って、ノートを取り出して詩を書こうとした。その詩はぎこちなく、ひどいリズムだった。でも、だからって、今やもうどんな違いがあると言うんだ?もしも俺たちが焼き殺されてしまうとすれば、俺には才能が無かったということについては誰も知る由が無いだろうし、もしも俺たちが生き延びるとすれば、氷原の下にじっと隠れている間にもう一度推敲し直すことだって出来るだろう。

「ミサイル準備完了!発射可能!」と、BU-2のチーフが報告する。

司令官と戦闘チーフは自分のキー(赤と黄色)を差し込み、数を逆に数え始める。俺は立ち上がる。だって、これはすごく荘厳な一瞬なんだ。違うかい? 

「どうして君は立ち上がったんだ?」と、ハフィジッチが不審そうに訊いてきた。

「奴のけつがすっかり痺れてしまったのさ」と、一等航海士が彼に言う。「奴は鉢に植わったサボテンみたいに座ってばかりいるもんだからね!」 
 
何とも奇妙な連中ばかりだ!!! ほんのささやかな哀愁の存在が妥当であるとすれば、まさに今がその瞬間なんだ! 

321、発射!」 BU-2チーフのカウントダウンが終わり、司令官と戦闘チーフは自分のキーをコンソールから外し、キーを自分の首の回りに戻した。

「発射演習、終了!」と親父が宣言。「設備をゼロ状態に戻せ!」

ワーオ、神様、本当に有難う!!! 健全な睡眠は確かに体にはいいんだが、演習ベルが鳴っている時に眠っているのだけは体にはよくない。そんなことをしてみな。あんたの神経は甚大な影響を被ることになるぞ!それは俺が請け合うよ!

あんたたちに助言をしておこう。意味のある睡眠をとろうじゃないか。そして、第三次世界大戦はアッ言う間に進行してしまい、みんなが間違いなく死ぬことになるんだから、戦争好きな連中の言う事なんて決して聞くんじゃないぞ!どう考えたって、ロマンチックと言えるような代物じゃあないんだから!

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[著者は数年前にアクラ級原潜に勤務していたが、現時点でもそうしているのかどうかは不明だ。]


Photo-2: 浮上航行中のアクラ型原潜。セイル前方の赤白に塗り分けられた部分はDSRV(深海救難艇)との接合用ハッチ。縦舵室上方の棒状の物は曳航ソナーの格納部 [注: 
この写真はこのブログの作成者(芳ちゃん)が付け加えたものです。出典:ウィキペディアから]

1艘のアクラ型原潜には20基のICBMが搭載され、それぞれに10個の弾頭が装備される。つまり、1個の弾頭は広島型原爆の7倍の威力を有するので、総破壊能力は広島型原爆の1400個分に相当する。 

アクラ級原潜に関するビデオ: 
https://youtu.be/Wlp1lUWqRYI

注記:

* 政治将校は米国の艦船にて勤務する従軍牧師と同じような任務をいくつか遂行し、政治的状況やイデオロギー問題に関して乗組員を教育する役目を持っている。共産主義的なイデオロギーが徐々に崩壊してしまってからというもの、政治将校が尊敬を集めることは少なくなった。下記のような言い古された言葉に出くわすことも多い: 

「掃除や整理整頓を行う任務は政治将校にとってはお安い御用だ。自分の口を閉じると、道具はすべて片付いてしまう。」 

「政治将校が乗船してはいない艦船なんておバカさんが一人もいない集落のようなものだ。」 

「スターリン時代のコミッサールと政治将校との違いは、前者は
もっとも危険な戦いの最前線に立ったものだが、後者は国家が斡旋してくれる住居を手に入れる最前線に立つ。」 

<引用終了>


これで仮訳はすべて終わった。ところどころに際どい表現が出て来るが、それは男たちだけの集団では、好むと好まざるとにかかわらず、洋の東西を問わず何処にでも起こることだとして容認してやりたいと思う。それを差し引いたとしても、ユーモアに富んだこの文章が秀逸であるという事実には変わりはない。

著者は現代の戦争、つまり、第三次世界大戦を「・・・皆さんは眠っている。そして、次の瞬間にはもう死んでいる・・・」と描写している。核戦争が持つ想像もできないような破壊力が単刀直入に描かれている。ここがこの記事においてはもっとも輝いている部分だと言えよう。

また、「本物」という言葉の同義語を見つけようとして、悪戦苦闘するくだりも原著者の文才やユーモアを大事にする態度を偲ばせてくれて、それらがこの記事全体を素晴らしい出来栄えにしているのではないか。「地政学的な現状はどんな具合ですか?」と、司令官に訊ねるところでは私は吹き出してしまった。

言うまでもないが、この原潜の乗組員がわれわれに伝えたい最終的なメッセージは「第三次世界大戦なんて起こすな!」ということに尽きる。

2016年のわれわれの世界においては、中東やウクライナでは核保有国である米国とロシアとの代理戦争が進行しているという隠しようもない現実がある。それだけに、われわれはこのメッセージの重さを率直に受け止め、その考えを全面的に支持したいと思う。このかけがえのない地球とその自然環境を次世代のために残せるように、われわれは全力を尽くさなければならない。

核戦争を考える時、その答えは二者択一だ。地球上のすべての生命を絶滅させてしまうのか、それとも、それを回避するのかのどちらかである。


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核戦争ならびに地球の温暖化の脅威が今どの辺りにあるのかを象徴的に示す手法として、米国の科学誌「原子力科学者会報」は今真夜中の何分前にあるのかを掲示している。これは「世界終末時計」と称される。この文脈においては、真夜中はまさにこの世界が滅亡する運命の時刻だ。2015年の1月、地球の温暖化は放置されたままであり、核戦争の脅威が今まで以上に高まってきたとして、今までは真夜中の「5分前」を示していたこの世界終末時計は「3分前」に訂正された [注2]。

この世界終末時計の歴史的な推移に注目してみよう。

世界終末時計が設定された当初、つまり、1947年にはこの時計は真夜中の「7分前」を指していた。ソ連が原爆のテストに成功した1949年には「3分前」に改訂された。水爆実験が米ソ両国で始まった1953年には「2分前」として掲載された。米ソ両国が地域紛争で直接対決を避ける動きをとった最初の年、1960年には世界終末時計は「7分前」に戻された。部分的核実験禁止条約が締結され、大気中での核実験が禁止された1963年には「12分前」へ戻った。1984年には米ソ間の政治的対話はすっかり冷え込んで、核兵器削減交渉はプロパガンダの場へと変貌していった。こうして、世界終末時計は「3分前」を示した。1989年にはベルリンの壁が崩壊し、東ヨーロッパでは各国がソ連の支配から解放されていった。鉄のカーテン以降の44年間の冷戦は幕を閉じることになった。これを受けて、1990年には世界終末時計は「10分前」に戻った。1991年には冷戦が公式に終わり、世界終末時計は「17分前」となった。しかし、世界には40,000発の核弾頭があって、ソ連邦が崩壊した後のロシアでは核弾頭の保管が不十分になったとして、テロリストの手に渡る可能性が新たな安全保障上の脅威と見なされるようになった。こうして、1995年には「14分前」となった。1998年にはインドとパキスタンが核実験を行い、米ロの核兵器の削減は進展せず、米ロ間では15分以内に発射できる核弾頭の合計数は依然として7000発もあった。世界終末時計は「7分前」を示した。2007年には米ロ両国は技術的には数分以内に相手に向けて核弾頭を発射できるところまで来た。また、北朝鮮では核実験が開始された。こうして、世界終末時計は「5分前」となった。

当然ながら、これらの数値が示すように、世界終末時計は核大国間の政治的な動きによって大きな影響を受ける。さらには、世界の覇権国であることを自他ともに認める米国政府の対外政策は軍産複合体の政治的な意図によって大きな影響を受けることは衆知の事実である。

ソ連邦が崩壊した後を受ける今のロシアは常に米国の政策に反応して来たという事実がある。ロシアは地域的な覇権国になる意志は毛頭ないらしい。多くの事象がこのことを示唆している。ということは、米国の軍産複合体が「ロシアとの対決を止める」と決意しさえすれば、この世界終末時計は直ちに巻き戻すに違いない。一気に、「17分前」よりももっと前へ戻るのではないだろうか?

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米科学者連盟(FAS)の資料によると、全世界で装備されたり、備蓄されている核弾頭の数は次のような具合だ [3]。この際、核戦争の脅威をおさらいするために最新のデータを確認しておこうと思う。現時点で全世界が抱えている核弾頭の数は15,800発である。これは全人類を何回殺戮することが可能なのだろうか?

Photo-3: 核弾頭の国家別数量(2015928日現在)


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「芳ちゃんのブログ」には本日の投稿と関連が深い内容を持ったものをいくつか掲載しています。たとえば、それらの表題は下記の如くです:

2016816日: ロシアには第三次世界大戦よりももっとやりたいことがある

201475日: 核戦争による人類の絶滅

2014621日: 「米国の核戦力の優位性」は単なる誤謬に過ぎない

2014424日: 今朝は雷鳴で叩き起こされた - 亡き母に捧げる詩

20121110日: 日本に対する米国の原発支援は「原爆の製造」に好都合だったから

しかしながら、このような内容のブログを書かなければならないという気持ちにさせる今の世界情勢はいったい何時まで続くのであろうか?今もっとも不気味に思えるのは核戦争の懸念や脅威を報じる記事が数多く見られ、その数が増えているようにさえ感じられることだ。正直言って、これが私の実感である。


参照:

1Near-WWIII experience of a Russian submariner: By LiveLeak.com, www.liveleak.com/view?i=63c_1450155007, Dec/15/2015  [訳注: Tatzhit Mihailovich著の記事「In previous Cold War, USSR had plenty of reasons not to use nukes. These reasons are gone now (mostly due to US foreign policy)」にはここに引用した記事が言及されている。つまり、Tatzhit Mihailovichがロシア語の原文を英語に翻訳した当人である。結局、残念ながら、原著者であるロシアの原潜搭乗員の氏名は不明のままです。]

2Timeline: IT IS 3 MINUTES TO MIDNIGHT: By the Bulletin of the Atomic Scientists, updated on Jan/22/2015

3 Status of World Nuclear Forces: By Federation of American Scientists (FAS), Updated on Sep/28/2015

 

2016年1月17日日曜日

サウジアラビア(スンニ派)がイラン(シーア派)と戦争状態にある本当の理由は・・・



2016年の中東における騒乱状態はサウジアラビアでの47人の処刑で始まった。12日のことだった。ほとんどがアルカイダ系のテロリストであったと報道されている。

処刑された47人のうちにはシーア派の著名な指導者、ニムール・アル・ニムールが含まれていた。アル・ニムールはサウジアラビアの東部の州の出身である。処刑の報を聞いて、シーア派の信徒が抗議の声を高めた。隣のイランではサウジアラビア大使館への放火騒ぎにまで発展した。13日、サウジアラビア外相は在テヘランのサウジアラビア大使館を閉鎖し、イランとの国交を断絶すると発表した。

アル・ニムールの処刑はサウジにとっては安全保障上の問題ではなく、多分に政治的なものであったと見られているが、この事件の背景について学んでみよう。

まず、数年前の報道 [1] についておさらいをしておこう。この記事は、サウジ東部の出身で、シーア派の高位聖職者であったアル・ニムールがどんな政治的立場にあったのかを詳しく伝えている。


<引用開始>



Photo-1:サウジアラビアのカティーフで礼拝するサウジアラビアのシーア派住民。2008326日。シーア派住民の尊厳が改善されない場合にはサウジアラビアからの分離も辞さない、とある高位聖職者が述べた。この聖職者が説教の際にサウジアラビア政府に対して抗議してからというもの、サウジ国内のいくつかのシーア派地域では住民の間に緊張感が高まっている。聖職者のニムール・アル・ニムールは身を隠し、警察は彼の出身地であるアワミヤの街の入り口に検問所を設置した。(AP Photo/STR) — AP

【サウジアラビアのアワミヤにて】 ある聖職者がサウジからの「分離」を仄めかしたことから、サウジアラビア政府はこの貧しくて急進的なシーア派の街に対して取り締まりを強めた。この街はサウジの石油資源が埋蔵されている地域のど真ん中に位置している。また、それだけではなく、サウジ国内では少数派であるシーア派にとっては、ここは彼らの中核的な街でもあるのだ。

聖職者のニムール・アル・ニムールは、もしもサウジ政権がシーア派住民をもっと大切に扱うことを拒むならばサウジからの分離も辞さないと脅かした。この宗派の信者はサウジ王国の総人口である2260万人の10パーセントを占め、政府によるこの地域での差別的な扱いは長年にわたって苦情の根源となっていた。シーア派住民は軍隊や官庁では要職に就くことはできず、国家の富の分配は不公平である。

「われわれの尊厳は単なる将棋の駒のように扱われて来た。われわれの尊厳が改善されない場合は、われわれは分離を要求する」と、先月、金曜日の礼拝でアル・ニムールが述べた。「われわれの尊厳は国家の統合よりもはるかに大きな価値を持っている。」 

あの辛辣な説教以降、政府による取り締まりによって35人もの市民が逮捕され、アル・ニムールは身を隠した。警察はアワミヤに通じる道路に検問所を設けた。アワミヤはシーア派地域にある貧しい街のひとつだ。

シーア派の他の聖職者らは、「政府側は差別や貧困に関する地域住民の怒りにはもっと関心を寄せるべきだ」、「これは何時の日にか暴動に発展するかも知れない」と言いながらも、アル・ニムールの要求からは距離を置こうとしている。

サウジアラビアでは「分離」という言葉はタブー視されており、政府にとってはとてつもなく身にこたえる課題である。それは東部のシーア派住民が住む地域がこの国の原油生産の中心地であるからというだけではなく、この地域はシーア派が多数を占める他の国々、つまり、イランやバーレーンおよびイラクに隣接しているからでもある。

サウジアラビアのようなアラブ諸国はこの地域における競争相手であるイランがその影響力を拡大している事実に今まで以上に気を揉んでいる昨今、この騒乱が新たに加わった。しかも、近年ではもっとも深刻なものだ。すぐ隣の小国、バーレーンでは少数派のスンニ派が多数派のシーア派を統治しており、ここでも、イランに対する一般的な不安感に加えて、この数か月間先鋭化して来た新たな騒乱が起こっている。

アル・ニムールの鋭い言葉は2月下旬に聖都メジナ(またはマディーナ)で起こった衝突が引き金となったものと思われる。この衝突はシーア派の巡礼たちが崇拝の対象としているシーア派の人物の墓地を訪れた際に起こった。巡礼者の話によると、スンニ派の宗教警察は女性の巡礼者をビデオカメラで撮影した。これは女性のつつましさを侮辱する行為である。しかも、彼らはこのビデオテープを反故にすることや巡礼者に引き渡すことは拒んだのである。

警察関係者は巡礼者らが他の礼拝者や当局に対して攻撃的な儀式を行っていたとして非難した。この衝突で何人ものシーア派の市民が負傷し、刑務所に放り込まれた。アブドラー国王とシーア派代表との間で手短かに行われた会見の後、これらの拘束されていた市民は開放された。

内務大臣のナイエフ王子はメジナの衝突ではシーア派が特に攻撃の的になったわけではないと述べた。スンニ派の市民も逮捕されたという。 

シーア派に関するスンニ派側の心配の種は宗教と政治の両方にまたがっている。イスラム教の中でも強硬路線で知られるワッハーブ派はシーア派を異端者と見なし、この強硬派はシーア派の強化につながるような動きについては何でも反対する立場だ。

イラクでは2003年のサダム・フセインの排除以降シーア派が勢力を拡大して来たことから、サウジアラビア国内のシーア派をつけあがらせているとして、サウジ政府は脅威を感じていたものと見られている。また、シーア派の住民を扇動して、サウジ王国を不安定化させるのではないかとの懸念をサウジ政府は抱いているのである。

サウジの新聞によると、ナイエフ内相はサウジアラビアは「スンニ派の教義」にしたがっていると述べ、「他の教義を信じる市民もいるが、賢明な市民は特にこの教義を遵守しなければならない」と付け加えた。

ムハンマド・アル・ニムールは彼の兄弟よりも穏健であると見られている。彼の兄弟が行った説教に関しては、同宗派の苦情についても詳しい調査を実施することを含め、サウジ政府は「もっと慎重で、もっと公正に」対応すべきだったと述べた。

自分が喋った文言に関しては弾圧が加えられることを予測して、アル・二ムールはたとえ自分が逮捕され、あるいは、追跡されたとしても、反政府デモはしないようにと信者には告げていた。その代わりに、特別な祈りを捧げてくれと言っていた。

木曜日の夜、アル・ニムールとの連帯を示すために、25千人が住むこの街のモスクのほとんどはシーア派の住民で埋め尽くされ、神の助けを嘆願する祈りが大声で捧げられていた。シーア派を創立したイマーム・アリに向けた祈りである。危機に見舞われた際にはイマーム・アリは決まって祈りを捧げたと言い伝えられている。前夜、大声で祈りを捧げるために住民たちは屋上へ登った。

『市民たちはアル・ニムールが言ったことを復唱しようとはしないだろうが、彼らは「アラー、アラー」と叫ぶことができる』と、アル・ニムールの兄弟であるムハンマド・アル・ニムールは言う。木曜日には、アワミヤにある彼の農家の近くにあるモスクからは祈りの声が聞こえていた。

シーア派の住民が住む中心都市カティ-フはアワミヤに比べると、それ程には急進的ではなく、もっと裕福でもある。住民は宗教指導者よりももっと融和的な態度をとっている。

「アル・ニムールの発言はシーア派住民の大多数の意見を代表するものではない」と、カティ-フ市議会のシーア派メンバーであるジャーファル・アル・シャイエブは言う。「シーア派は分離という政治的な意図を持ち合わせてはいない。」 

「彼はどこでも見られる怒りの感情を表現したかっただけだ」と、アル・シャイエブが付け加えた。 

<引用終了>


アル・ニムールは反政府的な発言をしたことは事実のようである。しかし、この記事で知り得る限りにおいては、彼は暴力を否定していた。

別の報道 [2] によれば、シーア派に対しては公平な人権の確保を求め、サウジアラビア政府の民主化を要求していた。アル・ニムールは反政府論者であったとしても、常に平和的であったことが分かる。2011年から2012年にかけて行われた反政府運動の際には、信者に向けてアル・ニムールは次のような指示を与えていたと報じられている。「たとえ警察が銃を発射して来たとしても、あんたたちは暴力に訴えるのではなく、自分たちの声を張り上げるんだ!」。

こうして、彼の処刑の理由はテロリストのようなサウジの安全保障に関わるものではなく、多分に政治的な範ちゅうに属するものであったことが分かる。


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世界中の市場に原油を供給するサウジアラビアは、この数十年、中東最大の経済を誇って来た。しかしながら、現在の政策を変更しないでそのまま継続していると、サウジアラビアの財政は2020年までには破たんするだろうと、昨年の10月、IMFが警告した [3]IMFはふたつの要因を挙げている。中東諸国において拡大し深化し続けている政情不安、ならびに、原油価格の低迷である。多くの専門家は原油価格の低迷はしばらく続くだろうと推測している。

ここで、サウジアラビアの国内問題からはしばらく離れて、サウジアラビアを取り巻く地政学的な側面についても学んでみたい。ここに格好の記事 [4] がある。その記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

スンニ派とシーア派のイスラム教徒は千年以上もの長い間お互いにしのぎを削ってきた。しかしながら、その間、両者は最近までほとんどの場合共存し続けて来た。

では、今、何故に彼らは幾つもの国が関与するような戦争を起こしているのだろうか? 

現代の地政学的な争いは殆んどが原油や天然ガスに関わるものである

これはスンニ派とシーア派との間の戦争にも当てはまるのだろうか? 

その通り!米国とその同盟国はスンニ派を支援してシーア派と戦っている。これは原油のためだ。

中東における原油の最大級の分け前はたまたまシーア派諸国に所属している。また、スンニ派が多数派を占める国では少数派であるシーア派の地域に所属する。

具体的に言うと、ジョン・シュワルツは今週「インターセプト」にて下記のように報告した

これらの紛争のほとんどは地図の製作者であり、フロリダの米空軍特別作戦学校・統合特殊作戦大学にて准教授を務めているM.R.イザディが作成した地図によって説明することが可能だ。

この地図によると、宗教的な歴史とプランクトンの嫌気的分解との間に現出した不可思議な関係によって、ペルシャ湾から産出される化石燃料のほとんどはシーア派の住民が住む足下に偏在している。スンニ派が多数を占めるサウジ国内でも同様の関係が当てはまる。大油田の殆んどはサウジの東部一帯にあり、その地域ではシーア派が多数派を占めるのだ。 

その結果、サウジ王家のもっとも深刻な脅威のひとつは、ある日サウジのシーア派が原油と共にサウジから分離し、シーア派が多数を占めるイランと同盟を図るかも知れないと言う点にある。

米国が2003年にイラクへ侵攻し、サダム・フセインのスンニ派政権を倒し、親イランのシーア多数派に権力を移譲させてからというもの、この脅威は増大するばかりであった。ニムール自身は2009年に次のように述べた 「もしもサウジ政府がシーア派住民の扱いを改善しないならば、サウジのシーア派は分離を訴えるだろう。」 



Photo-2: この地図は中東の人口の密集の状態と原油や天然ガスの産出地域を示す。さらに広範な地域を見るには地図をクリックして欲しい [訳注:クリックすると、ここに表示された地域よりも北側に位置するカスピ海周辺についても見ることができます]。濃い緑色の地域はシーア派が多数派を占め、薄い緑色の地域ではスンニ派が多数派で、紫色 [訳注:「紫」というよりも、むしろ「青色」に近いが・・・] の地域ではスンニ派の分派であるワッハーブ派・サラフィ派が多数を占める。黒と赤の部分はそれぞれ原油や天然ガスの埋蔵地域である。出典:コロンビア大学のマイケル・イザディ博士のGulf2000、ニューヨーク。 

イザディの地図はものの見事に説明してくれている。サウジの原油は実質的にそのすべてが小さな地域に偏っており、これらの地域ではシーア派の住民が多数を占める。(たとえば、ニムールはアワミヤの街に住んでいた。この街はバーレーンの北西に位置し、サウジの油田地帯の中心地である。)もしもこの地域がサウジアラビアから分離したとすれば、サウジ王国の信奉者は王国の誕生以降80年で破産し、彼らに残るものは何もありはしない。せいぜい、あご鬚を染める染料とかバイアグラの処方箋程度であろう。

ニムールの処刑は、ひとつの要因としては、国内のシーア派が独立を求める兆しは何が何でも潰そうとする政策に起因するものであって、サウジ政府はまさに自暴自棄の状態に陥っているとして説明することも可能だ。

2011年の「アラブの春」の際には、スンニ派の王家によって統治され、シーア派が多数を占めるバーレーンをサウジが支援したという事実についても、同様の状況によって説明することができる。

まったくこれと同様の計算がジョージH.W.ブッシュの意思決定の背景にも存在していた。サダム・フセインが1991年に化学兵器を使って湾岸戦争の末期にイラク国内のシーア派による暴動を鎮圧した時、彼はサダム・フセインの側に立った。ニューヨークタイムズのコラムニストであるトーマス・フリードマンがその当時説明していたように、サダムは「イラクをひとつにして治めて、米国の同盟国であるトルコやサウジアラビアに満足感をもたらした。」 

サウジアラビアやバーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦、カタールおよびクウェートといったスンニ派の湾岸諸国は、シーア派の住民が油田やガス田の上に座っているということから、ひたすらにイランやシーア派の世界を追い回し、中東や北アフリカ一帯でスンニ派とシーア派との間で戦争を引き起こし、地下資源をつかみ取ることを「正当化する」ことができるように何でも行っている。

<引用終了>


原油や天然ガスといったエネルギー資源は20世紀以降その重要性が誰の目にも明確になった。21世紀における中東での戦争もまさにエネルギー源が戦争の理由となっている。地下資源の偏在は個々の地域の経済的な裕福さに決定的な違いをもたらし、地上に住む人たちの宗教、特に中東や北アフリカではイスラム教の諸々の宗派が織り成す模様が火に油を注ぐ形になっている。

そして、これらの国々の背後には米国やEUおよびロシアの影が見え隠れする。

余談になるかも知れないが、「芳ちゃんのブログ」では、20111130日に「アラブの春と米国の思惑 - ある歴史家の見方」と題したブログを掲載した。その内容を今あらためて読んで見ると、あの当時からすでに数年が過ぎ、さまざまな出来事が中東や北アフリカ一帯を襲ったこと、ならびに、歴史的な事実についても多くを目にして来た今、そこに記述されている内容に関して「ああ、やっぱり、こうだったんだ」と納得させられる思いがする。ご興味がある方々には再読をお勧めしたいと思う。


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本日(117日)目にしたニュースによると、米国は対イラン経済制裁を解除した。これによって、イランは国力を急速に強化することにつながりそうだ。

一方、IMFが警告しているように、イランならびにシーア派世界との戦争を公式に、あるいは、非公式に進めるサウジアラビアは原油価格の低迷によって財政難となって、国内政策に大変更を加えなければ、数年後には財政破たんに追い込まれるかも知れないとさえ言われている。

ムスリム圏においてスンニ派とシーア派のふたつの世界のリーダー格を演じるサウジアラビアとイランは、今、陰陽を分けつつある。今後どのように展開するのだろうか?



参照:

1Saudi government cracks down on Shiite dissidents: By DONNA ABU-NASR, The Associated Press, Apr/01/2009

2 Sheikh Nimr: Martyr of World War III: By Phil Butler, Jan/08/2016, journal-neo.org/2016/01/.../sheikh-nimr-martyr-of-world-war-...

3: Saudi Arabia could be bankrupt by 2020 – IMF: By RT, Oct/23/2015, http://on.rt.com/6ui1

4: The REAL Reason Sunni Governments Like Saudi Arabia Are At War Against the Shias: By WashingtonsBlog, Jan/09/2016, www.washingtonsblog.com > ... > Politics / World News