2017年4月26日水曜日

誤導されっぱなしのわれわれの「えり抜きの戦争」



今、核大国間の戦争、つまり、米ロ戦争の黒い影が近づきつつある。

シリアがその発火点となるのか、あるいは、北朝鮮がその発火点となるのかは分からない。しかし、戦争の嵐は急速に勢いを増している。その結果もたらされるであろう最悪の事態は文明の消滅である。人類の文明を自分たちの手で消滅させてしまうかも知れないのだ。

こんな心配をしなければならない現在の状況は人類の歴史の中であっただろうか?われわれは今とんでもない時代に生きていると言わざるを得ない。

ロシアの庶民の間では「たとえ貧弱な平和ではあっても、平和は勝ち戦よりもずっといい」と言われているそうだ。これは何度も外敵に攻め込まれて、最終的には外敵を押し戻すことに成功したとは言え、ロシアはその度に甚大な被害を被った。そのような歴史的体験を繰り返して来たロシア人の言葉であるからこそ、これらの言葉には重みが感じられる。

ロシアの歴史を見れば、誰でもが納得できるのではないかと思う。たとえば、第二次世界大戦中に起こった「レニングラードの包囲」を垣間見ると、ロシアの一般庶民が口にする上記の言葉の背景をより具体的に理解することができる。ナチスドイツ軍によって900日間も包囲されたレニングラードは奇跡的にも生き抜いた。もちろん、その代償は耐えがたいものであった。食べるものはなくなり、飢餓や病気で多数の市民が死亡した。レニングラードの市民がどうにかこうにか生き抜いた様子は歴史の証言としてさまざまな書物で紹介されている(たとえば、私が読んだのはハリソン・E・ソールズベリー著、大沢正訳の「攻防900日、包囲されたレニングラード」)。

上記に引用した文言はそうした経験を持っているロシア人社会ならではの世界観であると言えよう。

世界的な戦争の脅威が高まっている今、軍事力を誇示する米国特有の対外政策を改めて考えてみたいと思う。

今日のブログでは419日付けの「誤導されっぱなしのわれわれのえり抜きの戦争」と題された記事 [1] を覗いてみたいと思う。「われわれの」とは「米国の」という意味だ。この記事を仮訳して、読者の皆さんと共有してみよう。

国際情勢について十分な情報を持っている米国を代表する識者が今の米国をどう捉えているのかを知るいい機会になるのではないかと期待している。


<引用開始>

対外政策の目的には他の如何なる目的よりも大事なことがひとつある。それは、たとえシリア、北朝鮮あるいは他の国の何処が相手であったとしても、米国を新たな戦争に突入させないということに尽きる。最近、トランプ大統領はシリアをトマホークミサイルで攻撃し、アフガニスタンでは米国が所有する核兵器以外の兵器の中では最も破壊力が大きいとされる爆弾を使用した。そして、北朝鮮に対しては空母船団を送り込んでいる。われわれは急速に拡大する戦禍に巻き込まれ、米国は核戦力を保有する中国や北朝鮮およびロシアに対する戦争に引きこまれるかも知れないのだ。

もしもこの戦争が世界規模の核戦争となったら、世界は終焉することになろう。通常兵器による戦争であったとしても、米国の民主主義は終わりを告げるか、もはやひとつの連邦国家として存続し続けることはできないであろう。アフガニスタンにおけるソ連邦による戦争がソ連邦を崩壊させることになるなんていったい誰が想像し得ただろうか? 第一次世界大戦が始まった時点で、交戦国間で四つもの国家が崩壊することになるとはいったい誰が予測することができたであろうか?戦争の結果、ホーヘンゾレルン(プロシア)、ロマノフ(ロシア)、オットマンおよびハプスブルグが崩壊した。

こういった事例を見ると、恐ろしい可能性に気付かされる。これらの事例は超現実的で、本末転倒だと思うかも知れない。しかし、トランプはせっかちで、不安定でもあり、経験を持ってはいない。彼の対外政策は毎日のように大きく揺れ動く。北朝鮮を威嚇したように、彼は相手国を威嚇する。これは手ひどい惨状や紛れもなく壊滅的な結果を招くに違いない。

キューバでのミサイル危機に見舞われたJFKの行政府を想い起こして見よう。ケネディの軍事顧問は多くがわれわれを熱核戦争へと導いたであろう。ジョンとロバートのケネディ兄弟は冷静な頭脳と重い責任感に基づいて、顧問らの助言に逆らって、我々を救ってくれた。現在の米国の行政府の会合を考えると、われわれは恐怖で身震いに襲われる。

悲しいことではあるけれども、米国の戦争の歴史は皆を勇気づけるような代物ではない。米国の第二次世界大戦での輝くような高潔さや朝鮮戦争において米国が果たした積極的ではあったとしても、不備の多かった役割は米国が間違った理由付けで戦争を開始し、国内や国外で甚大な損害を引き起こした数多くの戦争を覆い隠すものとはならない。

代償が高い米国のえり抜きの戦争はさまざまな要因によって導かれて来た。ウィリアム・マッキンレー大統領は海外に帝国を樹立するために1898年にスペインに対して戦争をした。ウッドロー・ウィルソン大統領は「あらゆる戦争を終結させる戦争」をするという間違った将来像を抱いて、遅まきながらも1917年に、第一次世界大戦に参戦した。しかし、「あらゆる平和を終結させる平和」を招じ入れてしまったのである。リンドン・ジョンソン大統領は1964年に米国をベトナム戦争に引きずり込んだ。それは主として「共産主義に対して弱い」という自分自身に対する右翼からの非難をかわすためだった。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2001年にアフガニスタン戦争、2003年にはイラク戦争を行い、タリバンやサダム・フセインを倒そうとした。これらは考えが非常に甘いネオコンのゲームプランであって、米国の国益に反する政権を中東から取り除こうとするものであった。バラク・オバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官はムアンマル・カダフィやバシャール・アル・アサドの政権を潰すために2011年にこういった戦争をリビアやシリアへと拡大して行った。 

大統領の座に就いて数週間が経過した今、トランプは前大統領らが開始した戦争を継承し、核兵器を所有する北朝鮮と戦争を始めようとしている。

これらのえり抜きの戦争には三つの重要な点がある。まず、米西戦争、ベトナム戦争、中東戦争においては米国は第二次世界大戦の時のような自衛のためではなく、他国を攻撃したのである。リンドン・ジョンソンは北ベトナムがトンキン湾で米海軍のマドックス号を攻撃したという口実の下でベトナムにおける戦争を拡大した。しかし、ジョンソンはその主張が間違いであることを承知していた。サダムやカダフィならびにアサドの場合、彼らは誰を取っても米国を攻撃したわけではない。イラクの場合、軍事侵攻の口実は存在してはいない大量破壊兵器だった。リビアとシリアの場合には、米国の軍事介入は人道的な目的のためだとされた。カダフィやアサドの圧政から民間人を守るというのが口実であった。どちらの国においても、米国の介入によって数多くの市民が恐ろしい惨状に見舞われることになった。

二番目に、国連が1945年に誕生してからは、このようなえり抜きの戦争は国際法に違反する。国連憲章が認めるのは自衛のための戦争と国連安保理事会の承認が与えられた軍事行動だけだ。一国の政府の国家的犯罪からその国の一般市民を「守る責任」を行使するために、国連安保理は国連自身の大原則の下で軍事行動を承認することができる。自衛のための戦争を除いては、如何なる国も単独で軍事行動を起こすことはできない。

多くの米国人は米国が必要と考える軍事行動に対してロシアが悉く拒否権を発動するとして国連安保理を退ける傾向にある。でも、これは完全にその通りだというわけではない。ロシアと中国はリビアの市民を守るために2011年のリビアに対する軍事行動に賛成した。しかし、NATOはただ単に一般市民の安全を守るのではなく、実際には、その国連決議案をカダフィ政権を倒すことに利用したのである。イランとの核協定を締結し、パリ気象条約を採択し、持続可能な開発目標を採択するためにロシアと中国は最近米国とチームを組んでいる。このように、外交努力は実現可能でなのである。常に邪魔をする姿勢は実現可能ではないのだ。

三番目には、これらのえり抜きの戦争は次から次へと大失敗に終わった。米西戦争では、米国は帝国を樹立し、肥沃なキューバを手に入れたが、同国およびフィリピンでは何十年にもわたる政治的不安定を引き起こし、結局、フィリピンの独立やキューバでの反米革命を招いたのである。第一次世界大戦では、米国の介入はドイツとオットマン帝国に対峙するフランスと英国の勝利に向けて戦局を盛り返させることに成功した。しかしながら、和平は大失敗に終わり、ヨーロッパや中東は不安定になり、15年間の無秩序状態がヒットラーの台頭を招いたのである。ベトナムでは、この戦争によって55千人の米兵が戦死し、百万人以上のベトナム人が殺害され、隣のカンボジアでは大虐殺を引き起こし、米国経済は不安定になり、結局のところ米国は完全撤退を余儀なくされた。

アフガニスタンやイラク、リビアでは、これらの国の政権は米軍によって速やかに崩壊させられたが、平和や安定は簡単に手に入ることがなかった。これらの国々では何れの国でも継続する戦争やテロリズムならびに米国の軍事介入によって破壊が続いた。そして、シリアでは、アサドがロシアとイランという強力な同盟国を持っていることから、アサド政権を倒すことには成功しなかった。アサド政権を倒すための米国の介入は多くの国や聖戦士のグループによる代理戦争へと発展して行った。もちろん、ISISはシリア国内へと侵入して行った。

米国の市民に対して戦争を扇動することは、たとえそれが誤導された戦争であったとしても、「米国が攻撃されている」、あるいは、「偉大な人道的理由から戦争を行うのだ」として嘘をつけばそれほど難しいことではない。しかしながら、これらはえり抜きの戦争のための口実ではあっても、正当な理由ではなかった。1898年のハバナ湾での軍艦メーン号の沈没は軍艦の石炭貯蔵庫の爆発によるものであったが、あの沈没はスペイン側が仕掛けたものであるとして戦争となった。トンキン湾における米艦マドックス号に対する攻撃はまったくの作り話であった。サダム・フセインが所有しているとされた大量破壊兵器は存在しないことが分かった。カダフィが市民に対して虐殺を行おうとしていると言う主張はプロパガンダであった。

シリアで進行している戦争については別の状況を指摘することができる。バシャール・アル・アサドに対する反政府派を支援することによって彼の地で進められている米国の介入は表向きでは人道支援を基盤としたものである。しかしながら、ウィキリークスやその他の情報源によると、米国の戦略は2011年以前にさえもIMFが推進する緊縮経済政策によって経済を不安定にし、アサド政権の転覆を模索していたことをわれわれは知っている。イランがアサド政権を後押ししていたことから、米国とサウジアラビアはアサドの退陣を願っていたのである。 

2011年の始めにアラブの春が始まった時、オバマ政権はアサドとカダフィの両指導者を退陣させる絶好の機会であると判断した。カダフィの排除には数か月間続くNATO主導の戦争が必要であったが、シリアではイランとロシアとが後押しをしているのでアサドを排除することはできなかった。

アサドが依然として政権に留まっているのを見て、現地の反政府派を支援するためにオバマはサウジアラビアやトルコとの間で協調作戦をとるようにCIA に命じた。こうして、米政府の戦略担当者の夢であったアサドを速やかに退陣させるという作戦は米国、サウジアラビア、トルコ、ロシアおよびイランを含めた全面的な地域戦争となって行った。これらの国々はすべてが聖戦士を含む代理戦争を介して地域的な覇権を競い合っているのである。

拡大するばかりのこの破壊行為をわれわれが何とか生き延びるにはどうしたらいいのか?我が国の外交政策に関しては四つの改善が必要であると私は考える。

第一に、CIAは大統領が動かす秘密の軍隊の役目を中断し、純粋に諜報だけに専念する機関として活動するべきである。そのためには抜本的な改革を推進するべきだ。1947年にCIAが組織化された時、ふたつのまったく違った役割、つまり、諜報と秘密作戦がその任務として与えられた。トルーマンはこれらのふたつの任務について警戒の念を示したが、時が経つにつれて彼は正しかったことが証明された。CIAが重要な情報を提供した時には生死を決するような成功をもたらしたが、CIAが大統領の秘密の軍隊として活動する時にはどうしようもない大失敗を仕出かす。われわれはCIA の軍隊としての機能を終わらせなければならないのだが、トランプは最近CIA の軍隊としての機能を拡大する権限を与え、国防省の承認もなしにドローン攻撃を行えるようにした。

二番目には、議会にとっては戦争と平和に関する意思決定権を取り戻すことは死活的に重要なことである。これは憲法で定められた役割であって、民主的な政府の防波堤として、恐らく、何よりも重要な役割である。しかしながら、議会はこの責任をほとんど完全に放り出してしまった。トランプが北朝鮮に向かって刀を振り回す時、あるいは、アフガニスタンやイラク、シリアおよびイエメンへ爆弾を投下する時、議会は沈黙したままであり、そのような行為に関して調査を行うでもなく、立法府の権限を与えるでもなく、それらの行為を無効にするでもない。議会としては、これは最大級とも言える責任の放棄である。核装備をしている北朝鮮に対して潜在的には非常に危険な戦争をトランプが引き起こす前に、議会は目を覚まさなければならない。

三番目には、米国の対外政策の意思決定における秘密主義を打破することが基本的に重要である。米国がシリアに対して行っている介入に関して緊急に調査を実施する必要がある。これは現在見るような泥沼をどうして招くことになったのかを一般大衆が理解するためである。議会はこの仕事を開始する様子もなく、もちろん、政府は決してそうする積りはないことから、情報を集め、機能を報告する責任は市民社会に、特に、学者やその他の専門家にあると言えよう。

四番目には、われわれは国連安保理の枠内で活動する世界規模の外交に速やかに復帰しなければならない。確かに、ロシアは米国の提案には拒否権を発動することだろう。そして、その逆の状況も起こるだろう。しかしながら、これは外交によって同意を取り付けた例のイランとの核交渉やパリでの気象変動に関する合意において実現された成功物語の再現である。これはわれわれ皆が生き延びることを可能にするものだ。

われわれは第一次世界大戦の100年目を迎えているが、数多くの歴史家は当時の状況と今われわれが抱えている現状に類似性を見い出している。第一次世界大戦の前夜、世界経済は絶頂期にあり、技術革新や科学は上昇の一途を辿り、世界戦争なんて夢にも考えられないことであった。しかしながら、技術進歩の力強さそのものや世界経済が強国間に恐怖を覚えさせ、互いに強い嫌悪感を引き起こしたのである。競い合う帝国は互いに他の帝国を相対的に危険であると見なすようになり、そのような恐怖を解消するには戦争しかないと考えるに至った。

もちろん、主要な違いは今や比較にはならないほどに大きくなった破壊力にある。半世紀前に JFKが大統領就任に当たって述べたように、 「今や、世界は大きく変化した。なぜかと言うと、人類はすべての形態の貧困を排除する力を持っている。それと同時に、すべての形態の人類の命を抹殺する力をも持っている」のである。 

米国は過去には考えることが出来なかったようなレベルの裕福さや生産性を実現し、技術ノウハウを開発した。しかしながら、われわれは戦争への理不尽な執着によってすべてを危険に晒してしまう。それに代わって、もしもわれわれが膨大な知識や経済力および先端技術を病気の克服や貧困の撲滅、環境保護および世界的な食糧の確保に用いたとしたら、米国は他の国々を多いに鼓舞し、新たな世界平和の時代をもたらすことに寄与することになるだろう。

著者のプロフィール: ジェフリー・デイビッド・サックスは米国の経済学者であって、コロンビア大学の地球研究所の理事長を務め、コロンビア大学が教授団に与えうる最高位の大学教授の称号を保持する。

注: この記事に表明されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

この著者が言いたいことは米国は帝国主義的な対外政策を止めるべきだという点にある。そして、そのためには何をするべきかを提言している。

核装備を持った中国や北朝鮮およびロシアを相手に戦争を引き起こすことの無謀さを正面切って論じている点には好感を持てる。この著者と大手メディアに登場するネオコン贔屓の論説委員や評論家との間には雲泥の差が感じられる。

今の米国を眺めてみると、米国政府は重篤な生活習慣病に陥っているかのように見えてならない。軍事力を他国に対する威嚇のための道具として用いる対外政策や長年にわたる軍事行動が米国の財政を蝕み、国内経済を疲弊させ、庶民の生活の質をないがしろにしている。その影響は今や無視できないレベルに到達しようとしている。どこかの時点で、米国経済が心臓麻痺あるいは脳卒中を起こしたとしても決して不思議ではない。

米国の政治指導者は何時になったら目を覚ますのだろうか?

今や、中国経済は米国のそれに匹敵しており、中国の経済発展は続いている。IMFによると、購買力基準で算出したGDPでは2014年に中国が米国を抜いた。中国の国際社会に対する影響力は強まるばかりである。アジアに注視すると、アジアの盟主は日本から中国に移ってすでに久しい。米国による単独覇権の世界構造から多極的な世界へと移行している現実を見据えた対外政策の推進が米政府には待たれる。遅かれ早かれ、米国は必然的に引用記事の著者が提言する方向へと舵を切るしかないだろうと思う。


      

ここで、英国や米国が辿った軍事介入の歴史をもう一度簡単に反芻しておこうと思う。皆さんの参考のために2012124日の投稿、「法的帝国主義と国際法」の一部を下記に転載してみる(斜体で示す)。

115日付けのデイリー・テレグラフ紙の記事(British Have Invaded Nine Out of Ten Countries: By Jasper Copping, Nov/05/2012)によると、英国は次のように位置付けられる。約200カ国ほどの歴史を調査したところ、英国の侵略を受けなかった国はたった22カ国しかなかった。90%の国々は何らかの形で英国の侵略を受けた歴史を持っている。侵略を受けなかった幸運な22カ国はどこかと言うと、例えば、ガテマラやタジキスタン、マーシャル諸島、等がこのグループに含まれ、ヨーロッパではルクセンブルグが含まれる。日本では薩摩藩と英国海軍との戦いがあった(1863年)。「薩英戦争」と呼ばれている。戦闘は3日間続いた。この戦いの様子は大河ドラマ「篤姫」にも描かれている。当事の英国は日本へ陸軍を派兵する余裕がまったくなく、日本にとっては幸運なことに3日間だけの小規模の戦闘で終わった。

一方、米国による軍事介入の歴史を見ると、これも長いリストとなる。1890年から2011年までの121年間に行われた軍事介入に関する報告(出典:FROM WOUNDED KNEE TO LIBYA: A CENTURY OF U.S. MILITARY INTERVENTIONS: by Dr. Zoltan Grossman, academic.evergreen.edu/g/grossmaz/interventions.html)によると、146件の事例が掲載されている。平均で毎年1.2件。ただし、これには1992年にロサンジェルスで起こった略奪や暴動を鎮圧するために海兵隊を派遣した国内での介入がいくつか含まれている。61番目には第二次世界大戦が掲載されている。この表の最後を飾るのは2011年のリビアに対するNATOによる空爆である。今後、シリアやイランといった国々の名前が追加され、この表はさらに長くなるのかも知れない。


帝国の繁栄にとっては他国に対する侵略や富の略奪が重要な要素であることは論を待たない。そして、侵略を受ける国にとっては死活問題となる。それは経済問題であったり、政治的な課題であったりする。米国以外の一国の指導者が長期政権を目指そうとすると、はっきり言って、覇権国に追従するしかない。自国の国益を守ろうとする独立心が旺盛な一国の指導者は多くの場合短命に終わる。

こうした状況は経済や軍事力の面で段違いの差がある場合にのみ生じる。相手が軍事的に弱いからこそ、英国や米国は軍事力を誇示することによって世界中で覇権を維持することができたのだ。

しかしながら、今の米国が核保有国のロシアや中国を相手にして、カリブ海のグラナダへ軍事侵攻をした時のように相手を手玉に取ることが可能であろうか?私にはそうは思えない。

たとえ、戦争好きのネオコンが言うようにロシアに対して核による先制攻撃をしたとしても、外海の奥深くに潜む核装備をした潜水艦からの報復を受けることは火を見るよりも明らかだ。たった一隻の潜水艦が残ってさえいれば、その潜水艦は徹底的な反撃をすることができる。結局、米国が無傷のままで勝ち残ることなどはあり得ないだろう。

事実、米海軍のトップは下記のような発言をしている。「なぜ西側は大西洋をパトロールするロシアの潜水艦を恐れるのか」と題された記事 [2] によれば、こう発言している(引用部分を斜体で示す)。

「実効性があって、訓練が行き届いている、技術的にも進歩したロシアの潜水艦が大西洋で米国側に挑戦している」と、米海軍中将のジェームズ・フォッゴ3世が最近述べた。このコメントを評して、ドイツの日刊紙「ディ・ヴェルト」が米国の心配の理由をいくつか挙げている。

「ロシアは米国との間の技術的なギャップを急速に縮めている。彼らはわれわれが持っていた優位性を克服し、われわれの弱点につけ込むことができる近代的な軍事力を築いている」と、米海軍中将のジェームズ・フォッゴ3世はアメリカ海軍協会誌へ投稿した記事で書いている。

「ロシアは先進的で著しく静粛な攻撃型潜水艦やカリブル・クルーズミサイルで武装したフリゲート艦を開発し、建造している(これには地中海に配備されるキロ・クラスの6艘のディーゼル式攻撃型潜水艦が含まれる)。偶然にというわけではないが、これらの潜水艦はステルス性が高いことからわれわれにとってはもっとも困難で、やりがいのある相手だ。」

「冷戦時代にわれわれが享受していた対潜軍事力の優位性はなくなりつつある。ロシアの潜水艦は以前にくらべて能力が高く、われわれは再びロシアとの間で技術的な軍備競争に入っている」と、彼は付け加えた。

ドイツのディ・ヴェルト紙は米国がなぜそのような懸念を抱くのかに関して理由をいくつか挙げた。

潜水艦が核戦争の勝敗を決するからだ、とダニエル・ディラン・ベーマーが同紙に寄稿した記事の中で述べている。

本国が核攻撃を受けた場合、核弾頭ミサイルを搭載した潜水艦は自国の海域から遠く離れた場所からでさえも報復攻撃を行うことができる。

本国から遠く離れた外洋の奥深くに潜み、大量破壊兵器を搭載した移動可能な戦力は最初に戦端を開いた国を間違いなく破壊することを保証する。

こうして、原子力潜水艦は世界規模の戦略ゲームにおいてはもっとも重要な戦力のひとつであると見られている。

しかしながら、このゲームにおいてはもうひとつの非常に重要な戦力がある。一見しただけでは取るに足りないものに思えるが、それは潜水艦を探査する能力だ。 

相手の潜水艦を最初に発見した側は相手を破壊することが可能で、反撃を防止することが可能となる。

偵察用航空機は敵の潜水艦を発見することができることから、航空機と潜水艦との協力作戦が非常に重要となる。

ロシアは最新式の航空機を所有している。

核大国間では敵国の潜水艦の動きに匹敵する程の重要な情報はない、と著者は最終的に言う。


米軍の高官の発言には、多くの場合、誇張が含まれている。それは軍事予算を増額して欲しいからだ。少なくとも、軍事予算の削減は何としてでも回避したいのだ。それに加えて、軍需産業を繁盛させておきさえすれば、自分の退役後の仕事場を確保する可能性にもつながる。
それにしても、ロシアの潜水艦が静粛さを増し、索敵能力が向上していることは事実のようである。米海軍にとってはそのことが気になって仕方がないのであろう。

さまざまな議論がある中で、ここで、私が言いたいことはひとつだけ。それは米国で喧伝されている先制核攻撃論のことだ。ネオコンの連中が言うように、先制核攻撃によってロシア、あるいは、中国からの報復攻撃の可能性をゼロにすることはどう見ても不可能だ。ましてや、核兵器を搭載した潜水艦の存在を考慮すれば、なおさらのことだ。報復攻撃の可能性をゼロにすることができないとすると、たとえば、米ロ間では遅かれ早かれ全面的な核戦争となるだろう。こうして、全世界は壊滅する。文明が消滅してしまうのだ。

こんな馬鹿げたことが起こってもいいのか?私にはとてもそうは思えない。

皆さんはどうお思いだろうか?

そうした意味からも、本日のブログで引用したジェフリー・デイビッド・サックス教授の記事は本質的に非常に重要であると思う。



参照:

1: Our Misguided ‘Wars of Choice': By Jeffrey D. Sachs, Information Clearing House, Apr/19/2017

2: Why the West is so Worried of Phantom Russian Sub Patrols in the Atlantic: By Sputnik News, Jun/11/2016




 

2017年4月20日木曜日

アサド大統領とのインタビュー - AFP



シリアのアサド大統領の人となりに関しては、RTのソフィー・シュワルナゼ記者が行ったインタビューが詳細に報告している。私はそのインタビューの模様を「徹底的に悪者扱いされているアサド大統領 — RTによるインタビュー」と題して20121112日の投稿でご紹介をした。

彼女が得た印象は、たとえば、下記のような具合だ(斜体で示す)。

私にとって際立って印象深かった点は、メデアで人々が伝え、描いている内容よりも全てがずっと複雑であるということです。事実、あらゆるメデアの報告よりも遥かに複雑です。ですから、私は重ねて何度でも言っておきたいと思うのです ー 非常に複雑だってことを。アサド大統領に関しては、インタビューの前に15分間ほど彼とおしゃべりをする機会があったのですが、彼はメデアによって徹底的に悪者扱いされていると思います。実際は、彼は非常に高い教育を受けている人だし、非常に心地よい人物です。彼は吐き気がするような大統領でもないし、よく言われているような類の人物ではないんです。地に足をつけた立派な人物だという印象です。

一番印象深かった点は、シリア国内の状況は私たちがメデアを通じて知ることができる内容よりももっともっと複雑です。これは人々と話をしてみた結果から言っているんですが....国は二分されていますし、この紛争が始まる前からアサド大統領を好きではなかったという人たちでさえも今は原理主義者たちが入ってきて、権力の座につくのではないかという脅威におののいている状況です。原理主義者とは「自由シリア軍」として闘っている連中のことです。でも、シリアの人たちはそういう連中とは違います。たくさんの宗教グループがあって、他の宗教グループの人たちと一緒にスンニ派、シーア派、アラウィ派、キリスト教徒たちが平和裏に暮らしてきたのは非宗教的なアラブ国家だったからだと思います。もしもアサドが権力の座から去ったとしたら、シリア軍は崩壊し、これらの過激派のイスラム教徒が入ってきて、彼らと同じような過激な宗教を強制するのではないかと怖がっています。実際に、自由シリア軍のツイッターを覗いてみたのですが、彼らには標的があるのです。消してしまいたいと思う人物を標的に位置づけている....基本的には、原理主義者が権力の座に着くことを嫌っている有名人たちを彼らは狙っているのです。つまり、ただ単にアサド大統領だけが標的という訳ではないのです。アサドが去ろうと留まろうと状況は次第に悪くなって行くと皆が感じとっています。もしもアサドが去ってしまったら状況は一変して....テロリストたちの襲撃が続き、原理主義者が政治権力を奪うことになる。人々はこのような展開が実際に起こるのではないかと非常に怖れているのです。

あの時点からもう4年以上が経過した。シリアでの紛争は続いている。最近、シリアは領内のシュアイラート空軍基地に対して米国のクルーズミサイル攻撃を受けた(47日)。この新たな展開によって、アサド大統領は否応もなく今まで以上に世界中から注目されている。

米ミサイル攻撃に関するトランプ政権の理由付けが報じられた。シリア空軍が投下した化学兵器によって80人を超す市民が殺害され、米ミサイル攻撃はそれに対する報復であるという。しかしながら、ホワイトハウスが発表したその理由付けは今見事に崩壊しようとしている。

われわれにとってもっとも今日的な問題は、われわれ一般大衆が政治的な思惑に沿って編集されている大手メディアの報道だけを鵜呑みにしていると、世界の動きを理解することはほとんど不可能となるという現実だ。

このような背景の中、413日、AFP(フランス通信)のアサド大統領に対するインタビューの模様が報じられた [1]。今まで以上に厳しい状況に曝されて、アサド大統領は今どんな考えを抱いているのだろうか?

本日のブログではこの最近のインタビュー記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始> 

ダマスカス、SANA(シリアン・アラブ・ニュース・エージェンシー)バシャール・アル・アサド大統領はAFP のインタビューに応じて、ハーン・シャイフーンの町で起こった事は作り話だと述べた。シリアは化学兵器を所有してはいないし、たとえ所有していたとしてもシリアはそれを使う積りは毛頭ないと強調した。

ハーン・シャイフーンでの惨事に関する調査は、それが客観的でありさえすれば、どのような調査であってもシリアは調査を許可する用意があるとアサド大統領は言明した。

アサド大統領は米国は政治的解決の実現に真剣さを示してはいないと言う。

シリアの戦力、つまり、テロリストを攻撃するシリア政府の戦力はこのミサイル攻撃で何の影響も受けなかったとのことだ。 

このインタビューの全内容を下記に示す: 

質問1: 大統領閣下、まず、このインタビューのために私を受け入れてくださったことについて感謝致します。大統領閣下、先週の火曜日(44日)、ハーン・シャイフーンの町を化学兵器で攻撃するように命令を下されたのですか? 

アサド大統領: ハーン・シャイフーンで何が起こったのかに関しては、この時点まで、実際には、誰も調査をしてはいません。ご存知のように、ハーン・シャイフーンはアルカエダの一派であるアルヌスラ・フロントのコントロール下に置かれています。ですから、世界中がこの時点までに得ている情報はアルカエダの一派によって公表された情報だけです。それ以外の情報は誰も持ってはいません。われわれが今までに見た写真やビデオのすべてが真実であるのか、あるいは、作り話であるのかについては、われわれには分かりません。この現状こそがハーン・シャイフーンで起こったことを調査するようにとわれわれが国際社会に要請した最大の理由です。これが一番目。

二番目には、アルカエダの情報源は例の攻撃は朝の6時から6時半頃に起こったとしています。その一方、同地域をシリア軍が攻撃したのは昼前後、11時半から12時頃でした。つまり、彼らはふたつのストーリー、あるいは、ふたつの出来事をごちゃ混ぜにして喋っていることになります。化学兵器攻撃の命令はしませんでした。われわれは化学兵器はもう所有してはいませんし、化学兵器は数年も前に引き渡してしまいました。たとえ所有していたとしても、われわれはそれを使おうとはしないでしょう。化学兵器の使用は我が国の歴史では一度もないのです。

質問2: としますと、いったい何が起こったのでしょうか? 

アサド大統領: すでにお伝えしましたように、唯一の情報源はアルカエダです。しかし、われわれとしては彼らからの情報を真に受けることはできません。われわれの印象では、西側、特に米国はテロリストたちとぐるになっています。ミサイル攻撃を行う口実を作り出すためにすべてのストーリーを作り上げたのです。あのミサイル攻撃はハーン・シャイフーンで起こったことを理由に行われたのではないのです。ふたつの出来事ではなく、ひとつのストーリーです。その第1段階はソーシャルメディアやテレビで観ている内容、プロパガンダ、等の一連の動きであって、第2段階はミサイル攻撃です。この動きと軍事攻撃との間にはたった二日間、48時間しかないことから、これこそが実際に起こったこととしてわれわれは見ています。調査は何も行われず、具体的な証拠は何も提示されず、単なる主張とプロパガンダがあっただけ。それから、ミサイル攻撃。

質問3: この化学兵器攻撃は誰の仕業だと考えますか? 

アサド大統領: 化学兵器攻撃があったという主張はアルカエダ、アルヌスラ・フロントがしたものです。われわれは誰の仕業かを調査する必要もありません。彼らが公表したのです。この攻撃は彼らのコントロール下にありました。彼ら以外の誰かが行ったわけではないのです。この攻撃については、私がすでに言いましたように、攻撃が実際に行われたのかどうかさえも確定されてはいません。ビデオをどうやって検証しろと言うんでしょうか?今日、偽のビデオがたくさん出回っています。しかも、それらのビデオは偽物だという証拠もあります。たとえば、ホワイトヘルメットです。彼らはアルカエダです。彼らは髭をきれいに剃ってしまったアルヌスラ・フロントの活動家であって、白いヘルメットを被り、人道的な活動をする英雄のように見せています。しかし、あれは本物の姿ではありません。彼らはシリア軍兵士を殺害しました。インターネット上には証拠もあります。今回の化学兵器攻撃もまったく同じことです。殺害された子供たちが本当にハーン・シャイフーンで殺害されたのかどうかはわれわれには分かりません。本当に殺害されたのか?攻撃があったのだとしたら、いったい誰が攻撃をしたのか?化学物質は何か?これらの疑問については何の情報もありません。まったくゼロです。誰も調査を行ってはいません。

質問4: つまり、作り話だとお考えでしょうか? 

アサド大統領: われわれにとっては100パーセント、間違いなく作り話です。われわれは化学兵器は所有してはいませんし、使う意志もありません。証拠はないけれども、それらしき兆候はいくつかあります。この出来事に関する情報や証拠は誰も持ってはいませんが、兆候はあるのです。たとえば、2週間足らず前、あの攻撃の10日程前のことでしたが、テロリストらは、ダマスカスの郊外やハーン・シャイフーンから遠くはないハマを含めて、いくつもの前線で進撃をして来ました。われわれが化学兵器を持っており、それを使う意志があったと想定してみましょう。われわれが退却し、テロリストが進撃して来た時にどうしてそれを使わなかったのでしょうか?実際には、今回の化学兵器攻撃のタイミングはシリア軍が急速に進撃をしていた時のことであり、テロリスト側が崩れつつあった時でした。化学兵器を持っていて、それを使う意志があった場合、それはどのように使うのか?われわれが危機的で困難な状況に陥っていたわけではない時に、あのタイミングでどうして化学兵器を使わなければならないのか?これが第一。

第二に、化学兵器を使いたい場合、それを所有し、それを使う意志があるとしたならば、再度の想定ですが、われわれが闘っているテロリストに対してではなく、どうして市民に向けて使うのでしょうか?第三には、あの地域にはわれわれの軍隊は配備されてはいませんし、戦闘も行われてはいない。ハーン・シャイフーンには目標物は何もないのです。そのような場所をどうして攻撃するのか?いったい何が理由なのか?軍事的に、私は軍事的な観点から喋っているのです。もちろん、これは倫理的な範ちゅうともなるわけですが、化学兵器を所有していたとしても、われわれはそれを使う意志は持たないでしょう。なぜならば、倫理的には受け入れられないからです。あらゆる兆候が西側のストーリーを否定しています。この出来事のために彼らがでっち上げようとしたことは辻褄が合わないのです。どう見ても、彼らのストーリーには説得力がありません。

質問5: 米国が行った空爆に関してですが、トランプはあなたやシリアに対する姿勢を劇的に変化させたようです。あなたご自身が潜在的なパートナーとなるかも知れないと述べた相手を今失ってしまったという感じをお持ちでしょうか?

アサド大統領: 私は「もし・・・」と言っていました。すべてが条件付きです。もしも米国がテロとの闘いを真面目に推進するならば、われわれはパートナーとなることでしょう。これは米国だけに限ることではないと私は言いました。テロとの闘いを推進したい国はどこの国であってもお互いにパートナーとなります。われわれにとって、これは大前提だと言えます。実際問題としては、前にも言いましたが、最近証明されたことは彼らはテロリストとぐるになっており、米国や西側はテロとの闘いを真剣に行ってはいません。昨日、彼らの議員の一人がISIS をかばっていました。彼らはISIS は化学兵器を所有してはいないと言っていました。シリア政府やシリア軍と戦っているISIS を彼らは防護しようとしているのです。ですから、実際にテロリストと闘い、テロリズムと戦っているわれわれの側とテロリストをあからさまに支援する彼らの側との間でパートナーを組むことについて話しをすることは不可能です。

質問6: つまり、米国による攻撃によってトランプに関するあなたの受け止め方はすっかり変わってしまったと言えるのでしょうか? 

アサド大統領: とにかく、私は彼が大統領に選出される前、そして、その後も彼について何らかの意見を述べることについては慎重さを保って来ました。彼が何をするのかを見ようと私は何時も言って来ましたし、われわれは個々の文言に対してコメントをする気はありません。現実には、これは問題が米国の大統領個人にあるのではないことを示唆する最初の証拠です。問題は政権であり、ディープ・ステーツです。米政府は今も以前と同じであって、まったく変わってはいません。大統領は米国という舞台におけるさまざまな出し物の中のひとつにしか過ぎないのです。トランプは指導者になることを願望していましたが、米国ではどの大統領も真の指導者になろうとすると、いずれは自分の言葉を侵食し、自尊心を呑み込まざるを得なくなり、180度の方向転換を行うことになります。さもなければ、その大統領は政治的な代償を支払わなければならなくなるのです。

質問7: しかし、さらに別の攻撃があるとお考えでしょうか? 

アサド大統領: もちろん、これは米国が軍産複合体や金融会社、銀行、いわゆるデイープ・ステ―ツによって統治され、それらのグループの利益のために働いている限りは・・・の話です。そのような状況は何時でも、何処でも起こります。シリアだけに限られることではありません。 

質問8: それが再度起こった時には、あなたの軍隊やロシアは反撃をしますか? 

アサド大統領: 報復についてのお話でしたら、実際には何百キロも離れた場所からやって来るミサイルにはわれわれの手は及びません。シリアにおける現実の戦争はそういったミサイルではないのです。現実の戦争はテロリストが相手です。これがこの戦争におけるもっとも危険な相手であって、われわれの反撃は今も戦争の初日に行ったこととまったく同じままであって、シリア国内の何処においてでもテロリストを潰すことにあります。テロリストを排除した暁には、われわれは何も心配することはないでしょう。これがわれわれの反撃です。これは反撃であって、単なる反応ではありません。

質問9: あなたがおっしゃるところによると、シリア軍あるいはロシアにとっては報復をおこなうことは難しいと言えますが、これは軍艦の場所が非常に遠いことが理由ですね?

アサド大統領: はい、われわれのような小国にとっては、もちろんその通りです。それは誰もが理解していることです。手が届きません。つまり、彼らは別の大陸からミサイルを持ち込むことが可能です。われわれは皆がそのことをわきまえています。彼らは軍事大国ですが、われわれはそうではありません。ロシアに関しては、まったく別の議論です。

質問10: OPCWの調査の結果得られた結論は受け入れますか? [訳注: OPCWは「化学兵器禁止機関」の略]

アサド大統領: われわれは最初から、2013年にテロリストがシリア軍に対して化学兵器を使った最初の攻撃から、あの時点から調査を求めて来ました。化学兵器による攻撃があった時、ならびに、その種の主張があった時に調査を求めたのは何時もわれわれの側です。われわれの側が求めたのです。今回の件については、われわれは昨日ならびに攻撃後の数日間にわたって国際調査に関してロシア側と協議して来ました。しかし、国際調査は公平なものでなければなりません。その調査が公平なものでありさえすれば、われわれは如何なる調査も受け入れることができます。われわれは偏見のない国々がこの調査団に参加することを確かにしなければなりません。これは調査結果が政治的な目的のために利用されることがないようにするためです。

質問11: もしも彼らがシリア政府を非難したとしたら、あなたは退陣しますか? 

アサド大統領: 彼らが非難するとしたら?あるいは、証明するとしたら? これらふたつの間には大きな違いがありますよ。いや、彼らはすでにシリア政府を非難しています。「彼ら」という言葉が西側を指すとするならば・・・、いや、われわれは西側のことはまったく気にしてはいません。もしも化学兵器禁止機関を指していて、もしも彼らが攻撃があったことを証明することが出来たとするならば、われわれはあの攻撃を命令した人物が誰だったのかを究明しなければなりません。シリア軍としては、100パーセント化学兵器を所有してはいませんし、攻撃することなんて出来ません。たとえそうしたくても、われわれには出来ません。そのような攻撃を実施する手段は持っていないからです。われわれにはそうする意思もありません。 

質問12: 化学兵器は持っていないのですね。

アサド大統領: いいえ、持ってはいません。数年前、2013年にわれわれはすべての化学兵器を破棄し、化学兵器禁止機関がシリアは化学兵器が完全になくなったと宣言しました。

質問13: ペンタゴンはあの空軍基地には化学兵器があると言いましたが、それは否定しますか? 

アサド大統領: 彼らはあの空軍基地を攻撃し、さまざまな物資の貯蔵設備を破壊しましたが、サリンはありませんでした。どうしてでしょうか?彼らはあの空軍基地からサリン攻撃を行ったと言っていましたが、彼らが貯蔵庫を攻撃した際にサリンにはいったい何事が起こったのでしょうか?われわれはサリンに関して何か聞いていますか?何も聞いてはいません。われわれの参謀長が数時間後にはあの基地へ行きましたが、もしもサリンが貯蔵されていたとしたらどうして彼は基地内を歩き回ることができたのでしょうか? あの基地では何百人もの兵士や将校が勤務していましたが、殉職したのはたった6人だけです。どうしてこんなことが可能なんでしょうか?結局、サリンはなかったのです。ですから、彼らは死ぬことはなかったのです。ハーン・シャイフーンでも同様の作り話に接しています。救助隊員が犠牲者を、あるいは、死者とおぼしき人たちや負傷者を救助しようとした際、事実、彼らはマスクや手袋を付けてはいませんでした。どうして、こんなことが可能なんでしょうか?サリンはいったいどこへ行ってしまったのでしょうか?サリンが使われたのだとしたら、彼らは直ちに影響を受けた筈です。つまり、これは単なる主張でしかなく、この化学兵器攻撃やこれらの主張は作り話であり、サリンは何処にもなかったことの証拠です。

質問14: 閣下が何らの命令をも出してはいないとするならば、あの化学兵器攻撃はシリア軍内のならず者か非主流派によって実行されたのでしょうか? 

アサド大統領: たとえならず者の分派がいたとしても、シリア軍は化学兵器を持ってはいません。これが第一。二番目には、たとえその気があったとしても、ならず者部隊が勝手に航空機を差し向けることはできません。これは航空機ですよ。ちっぽけな車両をあちらこちらへ移動させたわけではありません。あるいは、小型の自動小銃を使ったのとはわけが違います。自分のピストルを勝手に振り回して、法を破った連中のことについては誰でも話をすることができますが、そういう事態は世界中の何処でも起こっています。しかし、航空機の場合はそう簡単には行きません。これが二番目。

三番目には、シリア軍は正規軍であって、民兵組織ではありません。これは正規軍ですから、階級組織がありますし、命令を与える場合は非常に明確な手順があります。「ならず者が軍の指導層の意思に反して何かを引き起こそうとした」という事態はシリアでは過去の6年間の戦争中に一度も起こってはいません。

質問15: 米国の攻撃の前にロシア側から警告を受け取りましたか?ロシア人は空軍基地にいましたか? 

アサド大統領: いいえ、ありませんでした。ロシア人は警告をする時間がなかったのです。米国側がロシア側に連絡をしたのは攻撃開始の数分前でした。また、ある者は基地へ到達するまでには時間がかかることから、警告は発射の後だったとも言っています。しかし、実際には、何かが起こることの兆候を察知していましたから、われわれはいくつもの対抗措置を取っていました。

質問16: 米国側が言うには、シリア空軍の20パーセントが破壊されたと言っていますが、これを確認していただけますか? 

アサド大統領: その20パーセントが何を言及しているのか、その判断基準がまったく分かりません。その100パーセントは何を言っているのか?航空機の数のことか?それとも、質的なことか?それは飛行可能な航空機だけのことか、それとも、待機していた航空機のことか?彼らが言わんとしていることは何なのか私には分かりません。いや、実際にはわれわれやロシア側は数機の航空機が破壊されたことを公表していますが、破壊された航空機のほとんどは古い航空機で、何機かはもう使用されてはいませんでした。これが実際に起こったことです。その証拠としては、攻撃を受けた後もわれわれはシリア全域でのテロリストに対する攻撃を中断しませんでした。つまり、われわれは実際に影響を受けたとは思いません。われわれの火力、すなわち、テロリストを攻撃するわれわれの能力はこの攻撃からは影響を受けてはいないのです。

質問17: シリア政府は当初化学兵器の貯蔵庫を爆撃したと言いましたが、あれは本当ですか?

アサド大統領: あれは可能性の話です。テロリストと関連のある目標物を爆撃する場合、中に何があるかは分からないからです。これが目標物だということは分かってはいても、その目標物は商店かも知れないし、倉庫かも知れません。あるいは、本部かも知れません。それはわれわれには分かりません。しかし、テロリストたちがその場所を使っていることは分かっており、他の場所と同様にその場所を攻撃します。これがこの戦争が始まった頃から毎日のように、時には毎時間ごとに実施して来たやり方です。しかしながら、その場所に何があるのかは分かりません。つまり、われわれの空爆で化学品の貯蔵庫を爆撃したというのは幾つかの可能性のひとつです。しかし、タイミングについては彼らの発表とは辻褄が合いません。テロリスト側は朝の内に発表しただけではなく、彼らのメディアやツイッター、ならびに、インターネット上の記載によると、攻撃があったと言われている時刻の23時間も前、午前4時には、攻撃があることを報じているのです。朝の4時です。化学兵器の攻撃があることを報じたのです。彼らはその攻撃をどうして知っていたのでしょうか?

質問18: ハーン・シャイフーンはあなたにとっては大きな後退となったとは思いませんか?米国はこの6年間で初めてシリア軍を攻撃しました。短いハネムーンが終わった後、昨日、ティラーソン国務長官はアサド家の治世は終わると言いましたが、ハーン・シャイフーンはあなたにとって大きな後退ではありませんか?

アサド大統領: シリアにはアサド家の治世なんてありません。彼は夢を見ているのか、あるいは、幻覚を見ているのでしょう。ですから、われわれは彼が喋った文言に無駄な時間を費やしたくはありません。現実には、後退であるとは思えません。これまでの6年間、米国はシリア中で、ISISやアルヌスラならびに同様の思想を持ったさまざまな派閥を含めて、テロリストらを支援して来ました。このことは明白であり、シリアで証明されています。直接攻撃に関して議論をしたいとお望みならば、23ヶ月前のことですが、最近の攻撃よりもさらに危険な攻撃がありました。あれはオバマが政権を離れる直前、数週間前のことだったと思いますが、シリアの東部にあるデール・エゾルで彼らが戦略的には非常に重要な山を攻撃した時のことです。あれはシリア軍の基地でした。シリア正規軍の基地です。ISISこの山を支配するのには大きな助けになりそうな目標でした。もしもシリア軍に粘りがなく、十分に強くはなかったとしたら、デール・エゾル市は今頃はISIS の手中に陥り、イラクのモスルと直接繋がっていたことでしょう。これはISIS にとっては戦略的に非常に大きな収穫となった筈です。実際には、米国政府は直接的に関与をしていました。しかし、今回、なぜ彼らは直接ミサイル攻撃をしたのでしょうか?それは、私がもうお伝えしましたように、あの地域のテロリストが崩壊しそうになっていたからです。つまり、彼らはあらゆる種類の武器を送り込んだものの、効果はなく、シリア軍を直接攻撃する以外に、米国にとっては自分たちの代理を務めるテロリストを支援する選択肢はなかったのです。

質問19: あなたにとっては、大きな後退ではなかったのですね?

アサド大統領: その通りです。あれは実際にはより大きな文脈、つまり、これまで6年間の文脈での一部です。今回は変わった形態をとりましたが、シリアで起こっている事柄に関する米国ならびに西側の政策の中核はまったく変わってはいません。個々の声明は忘れましょう。時にはより厳しい声明が発せられますが、別の機会にはより穏やかな声明を聞くことになります。でも、政策そのものはまったく同じままです。

質問20: あなたはテロリストを徐々にイドリブに追い込んでしまいましたが、次は彼らを攻撃する計画でしょうか? 

アサド大統領: われわれはシリア中の何処でも、それがイドリブあるいは他の町であったとしても、テロリストは攻撃します。タイミングとか優先順位そのものは軍事的課題ですから、軍事的観点から議論をすることになります。

質問21: ラッカはシリア政府にとっては優先順位が高いと以前おっしゃいましたよね。ラッカへ進軍している戦力はほとんどが米国が支援するクルド人です。ラッカの解放からシリア軍が仲間外れにされる恐れはありませんか?

アサド大統領: いいえ。われわれはテロリストの手から地方都市を解放してくれる勢力を支持しますが、テロリストから解放された地域がそのまま、たとえば、米軍あるいはその代理勢力や他のテロリストの占領下に入るという意味ではありません。誰の手によってラッカが解放されるのかはまだはっきりとは分かりません。あの地域をシリア軍に引き渡すのは間違いなくシリア勢力なのか?シリア軍と協調してくれるのか?これらの事柄はまだはっきりとは分かりません。しかしながら、われわれが耳にするのは単にラッカを解放するという声明だけです。そうした声明はもう1年、あるいは、1年近くにも渡って聞いてきましたが、現実には何も起こりませんでした。つまり、これは仮説でしかないのです。現実には、具体的なことは何もないのです。

質問22: 米国とロシアはジュネーブ和平プロセスの共同スポンサーです。両国間の緊張のせいで、このプロセスは頓挫するのでしょうか? 

アサド大統領: このプロセスが活動しており、何時でも活動が可能で、再活性が可能であることと、そのプロセスが効果的であることの間には大きな違いがあります。この瞬間までは、決して効果的ではありませんでした。何故でしょうか?それは米国が政治的解決を実現することに真剣ではないからです。彼らはこのプロセスをテロリストのための傘として用いたいのです。もしくは、彼らは戦場では勝ち取れなかったことをこのフォーラムを通じて入手したいのです。それこそが本プロセスがまったく効果を示し得なかった理由なのです。今も、まったく同じ状況です。われわれには米政権がこの件について真剣であるとはとても見えません。彼らは依然として前と同じテロリストを支持しているからです。「結構ですよ。このプロセスは再活性することが可能です」とわれわれが言うことは可能ですが、同プロセスが効果的、あるいは、生産的なものとなるだろうと期待することはできません。

質問23: 6年も経過しましたが、大統領閣下、お疲れではありませんか?

アサド大統領: 実際問題として私がプレッシャーを感じるのは政治的状況や軍事的状況ではなく、シリア国内の人道的状況です。日常的な流血沙汰や殺害、シリアの各家庭を襲っている心痛や苦難です。「疲れ」を正確に描写するとすれば、これこそが疲れを感じさせる最大の要因です。その一方、戦争や政治あるいは西側との関係を論じる場合には私は疲れを感じることはまったくありません。われわれは自分たちの国家を守ろうとしているのであって、その点に関しては疲れを感じることなんてまったくありません。

質問24: 夜眠れないことってあるのでしょうか?

アサド大統領: もう一度言いますが、問題はシリア国民の苦難です。私とシリア国民の家族との間の人道的な相互関係こそが、直接的であるにせよ間接的であるにせよ、時々夜眠れなくなる唯一の課題です。しかしながら、西側が発する声明、テロリストに対する支援、等による脅威ではありません。

質問25: 今や、フォウアとケフラヤの人たちは自分たちの集落を去って、ダマスカスやアレッポへ移動したいようです。これは住民の移動を意味しますが、戦後のシリアは戦前のシリアとは違ったものとなりそうです。心配することはありませんか? 

アサド大統領: このような文脈での移動は決まって起こることです。われわれがそうしようと思って選択したものではありません。われわれは誰もが自分の集落や自分の町に留まっていられることを望みますが、テロリストに囲まれ、攻撃を受け、日常的に殺害が横行するような地域では住民はそこから立ち退かざるを得ないのです。もちろん、解放された暁には彼らは自分の集落や町へ戻ることでしょう。そういう状況は他の場所でも方々で起こりました。つまり、これは一時的なものです。これが永久的なものであるならば、人口動態的な変化に関して言えば、それはシリア社会の利益にはなりません。一時的なものである限り、われわれが心配することは不要です。

ジャーナリスト: 大統領閣下、このインタビューに快く応じてくださって感謝したいと思います。

アサド大統領: どうも有難うございます。

ジャーナリスト: 非常に興味深いインタビューでした。どうも有難うございました。

アサド大統領: こちらこそ。

注: この記事に表明された見解は著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

4年前のインタビュー記事を読んだことがある皆さんは、今回のインタビューでもアサド大統領の知性や品格ならびに市民に対する関心の深さを改めて感じ取っていただけたのではないだろうか。少なくとも、私にはそう感じられる。質問23から質問25までの応答内容はそういった彼の人となりを率直に示しており、非常に興味深い。

2014年に行われたシリア大統領選を見ると、アサド大統領の人気振りが分かる。ウィキペディアの記述によると、この選挙では73パーセントの有権者が投票し、アサド大統領は88パーセントの得票率を得た。さらには、ロシア外務省のスポークスマン役を務めるアレクサンダー・ルカシェビッチはこの投票はシリア政府当局が継続的に機能して行く上では非常に重要であると言った。この大統領選はシリア国内の紛争のせいで「当然ながら、100パーセント民主的であるとは言えない」けれども、投票率や透明性、ならびに、外国人選挙モニタ-たちの観察結果を見ると、「この選挙の正当性を疑う理由は何もない」と述べている。

重ねて言うが、もっとも重要な点はこれらの記事から推察されるアサド大統領の姿は一部の西側のメディアが描くような独裁者の姿とはまったく違うという点だ。



参照:

1President al-Assad Interview With AFP: By Information Clearing House, Apr/13/2017, www.informationclearinghouse.info/46859.htm