2019年9月24日火曜日

イラン対サウジアラビア - ゲームは終わった


イエメンのフーチ派民兵からの無人機とミサイルによる攻撃によって、世界でも最大規模を誇るサウジアラビアの原油施設が破壊され(914日)、サウジの原油輸出能力は半減したと報じられている。市場では原油価格が20%も急騰した。最近の報道を見ると、復旧には当初の予測よりも時間がかかりそうだ。生産能力の完全な復旧には数ヵ月を要すると言われている。

もしもイランとの全面戦争が勃発し、ペルシャ湾が封鎖されたとしたら、世界の原油市場が被る影響は今回の事例には比べようもない程に大きくなるだろう。その場合に世界経済が被るであろう影響は、素人目から見ても、計り知れないレベルに達することは明白だ。

誤解を恐れずに個人的な感想を言うとすれば、今回のサウジアラビアの原油施設に対するイエメンからの攻撃は、皮肉なことではあるが、われわれ一般庶民にもイエメン紛争についてひとつの基本的な理解を可能とするきっかけを提供してくれた。

ここに、「イラン対サウジアラビア - ゲームは終わった」と題された最近の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。この記事の著者がどうして「ゲームは終わった」と言うのかを読み解きたいと思う。

<引用開始>

サウジ・アラムコに対する攻撃は長い戦争の第一波であろうか?それとも、これですべてが終わったのであろうか?現実は後者にあるようだ。いろいろな意味で、イランとサウジアラビアとの間の戦争は戦争が始まる前にすでに終わってしまったのだ。アラムコに対するフーチ派民兵によるこの攻撃は原油価格を20%も急騰させただけではなく、サウジの原油輸出能力を半減させてしまった。

ところで、フーチ派民兵はアラムコの原油施設に対する攻撃は自分たちがやったと宣言したが、トランプ政権は攻撃をしたのはフーチ派ではなく、イランであると言って、その言い分を国際社会に受け入れて貰いたいようだ。https://sputniknews.com/us/201909191076835893-pompeo-attack-saudi-oil-facilities-act-war-iran/. この時点では、日本はそのようには受け止めてはいない。フランスも然りだ。https://sputniknews.com/middleeast/201909191076835540-japan–no-evidence-iran-behind-attack-saudi-aramco-facilities/

しかしながら、現実には、サウジアラビアが立ち上がって戦う決意と能力を有しているかどうかは攻撃を行った者がいったい誰であったのかを特定することとはほとんど無関係だ。これはサウジアラビアが損害を被ったことを不快に思うのに何ほどの時間もかからなかったことをサウジが見せてくれたからである。このことはさらに次のような質問をもたらすだろう。つまり、「今回の攻撃と同様な攻撃を何回受けたら、サウジは完全に降伏するのだろうか?」見るところ、決して多くはない筈だ。

サウジの経済とインフラは極めて脆弱であることから、前の記事で、私は次のようなシナリオを予測した。主要な富を生産する拠点は実質的にはひとつだけであり(原油生産)、主要な都市へ飲料水を送り出す海水淡水化設備を何ヵ所かに持っている国家は実に易しい攻撃目標となる。結局、それらの一握りの生命線とも言うべき目標が攻撃されると、原油の輸出が停止するだけではなく、家庭用の飲料水も断水してしまうのだ。http://thesaker.is/dissecting-the-unfathomable-american-iranian-war/. しかし、海水淡水化設備を停止させるには同設備を直接攻撃する必要なんてないのである。それらの設備には動力源が必要であり、それは燃料から生み出されている。燃料の供給が停止すると、動力源も停止する。燃料の供給が停止すると、エアコン無しでは生存できない国家の発電プラントさえもが停止する。

最近までは、サウジの人たちは水不足や海水が混じった水、焼け付くような暑さには慣れていた。彼らはオアシスの周りに住み、僅かの水を使う生活に適応していた。しかし、サウジの若い世代や何百万人もの海外からの移住者は家庭で毎日シャワーを浴び、水道水を使い、エアコンを稼働させる。戦争の最中、人々は通常自然の中へ分け入り、食物や水を探す。彼らは狩りをし、地元で採れるイチゴや野生の食用植物を収集し、川や流れの水を入れ物に詰め、裏庭で野菜を栽培する。だが、砂漠の王国であるサウジではそのような代替となり得る生活の手法はない。

さらには、1950年代には数百万人の人口であったが、サウジアラビアの現人口は33百万人に膨れ上がり、この総人口には海外から移住して、仕事に就き、居住する数百万人もが含まれている。https://en.wikipedia.org/wiki/Demographics_of_Saudi_Arabia。供給に限度がある塩からい水は破壊されたインフラが修復されるまでの間、十分には供給できない。そもそも配管さえも無いのだから。 

世界で防衛予算が3番目に大きく、ロシアの防衛予算よりも大きい国家としてサウジアラビアはパトリオット・ミサイルから始まり、弾薬に至るまですべてを輸入し続けている。

これはイランの地理や自然がもたらす諸々の資産や人口動態とは鋭い対照を成している。イランは山岳地帯や渓谷、河川、牧地を有し、農業を基盤とする。7千万の国民は工夫を凝らし、自給自足を全うするよう教育されている。これは米国が課した経済制裁の賜物である。

サウジアラビアはイエメンとはすでに戦争状態にあること、特に、イエメンによる空爆はこの数ヵ月急速に拡大していたことを考えると、アラムコは不意討ちを食ったとする見方は実に馬鹿げており、許せない。サウジにとってはさらに恥ずべき状況となるのだが、イランとの戦争は喫緊の課題であった筈だ。それにも関わらず、サウジのもっとも重要なインフラ設備はどうして無防備のままに放置されていたのであろうか? 

しかし、ここに別途の重要な課題がある。トランプ政権が言っているように、そして、われわれにそれを信じ込ませようとしているように、イランが実際に攻撃をしたのだとすれば、米国はイランのミサイルがイラン本土から発射され、ペルシャ湾を横断し、米国製の最新式の防空や敵機の探査用設備やソフトを巧妙に避けて、サウジ領土内の目標に到達したということを認めざるを得ない。これがわれわれに信じ込ませたいトランプのシナリオであるとすれば、イランと軍事的に渡り合おうとしている米国の軍事能力に関してこれはいったい何を物語っているのであろうか?これは例のロシアゲートよりも桁外れに大きな茶番劇だ。あの茶番劇では連中はロシアは「世界でもっとも偉大で、最強の国家」における大統領選の投票結果に影響を与えることが可能だと主張した。この主張は米国の敵国は非常に組織立っており、聡明で、強力であるが、それとは対照的に米国はすっかり混乱しており、間が抜けていて、弱いと言っているのであろうか?あるいは、その両方か?どちらにしても、そのような主張が他国から成されたのではなく、米国自身から発せられた場合、そういった主張は、間違いなく、米国を高く評価することには繋がらない。

米国・サウジアラビアの弱さや脆弱性はもうひとつの同盟国であるアラブ首長国連邦とも共通する。事実、フーチ派民兵の広報を担当するヤヒア・サリアはアラブ首長国連邦を相手に「あんた方はガラスがふんだんに使用されている摩天楼を防護したいのではないか」という容赦のない警告を発した。https://www.rt.com/news/469104-houthis-new-drones-attack-uae/ 。この警告では、サリアは、多分、「自分の家がガラスでできているならば、他人に向けて石を投げるべきではない」というアラビアの格言をふざけて引用したのであろう。世界中が見ている中、しかしながら、無関心さの中で、何年にも及ぶ無差別爆撃を行い、イエメン人を屈服させようとして彼らに飢餓を強いておきながら、イエメンにはその敵国に対して何らかの慈悲を期待することなんていったい出来るのであろうか?

しかし、次のことには直面しようではないか。アラブ首長国連邦のドバイや他の繁栄している都市はゴーストタウンに変身することが運命づけられた。それらの都市が今見せている魅力や嘘で固められた表面的な輝きが失われるのは時間の問題であろう。結局、これらの幻想都市には本物で、実体を伴った、持続可能なものは何もないのだ。もしも何かがあるとすれば、それはイランとの戦争は崩壊のプロセスを加速させ、海外からの投資家や移住者は、たとえ命からがら逃げ回ることはないにしても、大群となって出国することになるだろう。

もしもこれが同盟であるとすればの話であるが、皮肉にも、米・サウジ・UAE同盟はイランがこの地域でイランの優位性を拡大しているとして非難している。この非難については、多分、何らかの証拠が存在するのであろう。しかしながら、本同盟はイラクに政治的真空状態を作り出し、イランが間もなくその真空を埋めることになったのは彼ら自身が喧伝し、イラクへ侵攻し、サダム政権を転覆させたからだという事実を都合よく忘れてしまっている。イラン・イラク間の8年にも及んだ辛酸を舐めるような戦争が勝者も敗者もなく終わったにも関わらず、米・アラブ同盟がもたらしたサダム政権の崩壊はイランを実質的な勝者の地位に押し上げた。そして、今、本同盟はそのイランを阻止しようとしている。この茶番劇的な状況はこれ以上に皮肉な状況となり得るだろうか?

米国はイラン軍の軍事能力を見くびり、イランもまた相手を見くびっている。これはごく普通のことであり、心理戦では本質的なことである。しかしながら、現実においては、イランの軍事的能力は誰にも分からない。それが故に、イランとの全面的な戦争においては、米国は、当初、艦船をペルシャ湾から遠ざけて、後になってより近辺に艦船を配備することに自信が持てるようになるまでは、イランの短距離ミサイルが到達しない領域に配備し続ける。しかしながら、攻撃目標となるサウジの主要な地上施設は動かすことができない。イランにとっては、片手だけでも数えることができるようなほんの僅かな攻撃目標だけでサウジ・UAE両国を降伏させるのには十分だ。

イランの本当の実力は誰にも分からない中、われわれが今知っていることはサウジアラビアが自分たちよりも遥かに弱く、貧しく、恵まれない、飢餓に悩まされているイエメンを打倒することには見事に失敗したということだ。

米国は地上軍を投入しようとはせず、この趣旨からは、海軍をリスクに曝すことを除けば失うものは何もない。非軍事目標はサウジやUAEのインフラであって、パトリオット防空ミサイルシステムは両国を攻撃するために侵入して来るミサイルのすべてを仰撃することはできない。もしもイエメンがこの作戦を実行することができるとするならば、イランにとっても実行することは明らかに可能である。

私は最近ネットフリックスで「ベトナム戦争」の連載物を観たが、あの戦争について本当のことが露見した当時を思い起した。米国のタカ派は米国の市民ならびに全世界に対して嘘をついていたことからは逃げられないと私は思った。ベトナムで行ったように他国を侵略することなんて二度と出来ないだろうと思った。しかしながら、20年も経たずに、彼らは全力を挙げてイラクへ侵攻した。そして、一般大衆は彼らが喧伝するストーリーを信じたのである。多分、世間には決して変わることがないことが存在する。朝鮮、ベトナム、レバノン、イラク、アフガニスタンそしてシリアでの敗退の後、依然として米軍はイランと闘いたいようである。この戦いでは、最大の敗者は米国自身ではなく、米国の同盟国であるアラブ国家だ。つまり、サウジアラビアとUAEであろう。サウジ・アラムコに対して行われた最近の攻撃は避けることが不可能な帰結を物語る序曲に過ぎない。壁にはすでに大書されており、「ゲームは終わった」とはっきりと読み取ることができるのである。

<引用終了>

これで全文の仮訳が終わった。

サウジアラビアの原油生産のインフラがかくも脆弱であると指摘する著者の洞察には説得力がある。原油生産インフラを防護し、サウジの安全保障を強化しようとすると、何年もの歳月を必要とすることであろう。つまり、サウジアラビアが対イラン戦争を今始めることは軍事的にも経済的にも不可能だ。サウジがこの時点にイランとの戦争にのめり込んで行ったら、それは自殺行為となる。

しかしながら、たとえサウジやUAEにとっては最悪な帰結が予想されるとしても、米国の軍産複合体の戦争計画者は依然として対イラン戦争を始めることを推奨するかも知れない。軍産複合体にとってはこの戦争が米国本土で行われるのではなく、戦争ほど利益をもたらしてくれるものは他にはないからだ。短期的ではあっても、彼らは膨大な利益を手放すようなことはしない。引用記事の著者が述べているように、歴史がそのことを見事に証明している。私としては、米国の軍産複合体に関するこの個人的な見方が間違いであることを祈るばかりだ。

参照:

1Iran vs Saudi Arabia: it’s game-over: By Ghassan Kadi, The Saker, Sep/19/2019






2019年9月20日金曜日

香港の反政府運動のリーダーがホワイト・ヘルメットのボスと交流

香港における反政府デモ(69日)に関して朝日新聞デジタルの益満雄一郎記者は610日版で「逃亡犯条例」の改正案に反対するデモ行進を伝えた。10日未明には一部の参加者が暴徒化し、警察と衝突。このデモには103万人(警察発表は24万人)が参加したとのことだ。

抗議行動は3月から始まり、78月にはこのデモは見苦しい程の外来者恐怖症や集団暴行の観を呈した。デモ参加者の要求は5項目あったが、その中心的な要求は香港特別行政府が逃亡犯条例の改正案を撤回することにあった。

香港特別行政府長官は最近になって、94日、逃亡犯条例の改正案を正式に撤回すると表明した。これを受けて、翌日、北京政府は香港特別行政府長官の決断を支持することを表明した。しかしながら、反政府抗議活動がこれで収束するのかどうかは極めて流動的であろう。この種の政治的状況においては、多くの場合、お互いの不信感を克服することはそう簡単ではない。

2014年の雨傘運動と呼ばれた反政府デモと並んで、今回のデモにも特筆すべき点がいくつかある。私なりにそれらを記述してみると、今回のデモも米国務省傘下のNED(米国民主主義基金)ならびに香港の主要なメディアのオーナーから資金の提供を受け、さまざまな支援を受けた。

ウィキペディアによると、「NED多くの場合他国の野党の候補に資金提供を続けてきた。直接政党に交付することは法に触れるため、多くの場合、例えば学生による投票キャンペーンのような形で行われる」と描写している。また、「資金の提供と並んで行われる支援としては技術支援、物品、訓練プログラム、メディア利用法、広報活動支援、最先端設備などがあって、政治グループ、市民組織、学生グループや反対運動、出版社や新聞社その他メディアの選定のために提供される。」

香港での反政府デモは学生グループが主体である。学生グループのリーダーらに対してはさまざまな支援が行われている。米国が絡んできた今までの他国に対する干渉(パナマ、ニカラグア、ハイチ、ベネズエラ、フランス、ポルトガル、スペイン、ブルガリア、アルバニア、ウクライナ、セルビア、ジョージア、等)においてはメディアの利用法、広報活動支援、等が繰り返して観察されている。米国が行う反政府支援活動では定番となっている。(注:米国がNGO組織を通じて行う他国への干渉については、具体的な事例をこのブログでも、「ウクライナでのNGO活動」と題した2014310日の投稿で詳しく報告しています。ご一覧ください。)

ここに、「香港の反政府運動のリーダーがホワイト・ヘルメットのボスと交流」と題された最新の記事がある(注1)。

ところで、ホワイト・ヘルメットという組織のシリアにおける活動を記録した短編映画は2017年にオスカー賞を受賞した。しかしながら、「やらせ」と虚偽の集大成であるこの記録映画がオスカー賞を受賞したことはシリア内紛の真の状況を理解している世界中の人たちに「オヤッ!」と思わせた。ハリウッドのコミュニテイーの大部分がそうであるように、アカデミー賞は米英の国際政治によってまんまとハイジャックされてしまったのである。その詳細は多くの紙面を必要とするので、別途議論をしたい。ここで明確にしておきたい点は他国の反政府組織に対して米国が差し伸べるソフトパワーの一角である広報活動支援の実態である。

この引用記事の著者はカラー革命を一種のハイブリッド戦争と位置付けていることに留意しておきたい。香港における反政府運動はただ単に中国政府に難題をふっかけ、中国国内を混乱させ、中国経済のさらなる隆盛を遅延化、あるいは、停止させるというだけではなく、あわよくば、中国を米国の覇権の元にひざまずかせようとするものだ。結局のところ、この行為は武力によって相手を跪かせる伝統的な戦争行為に匹敵する。

中国に対する米国のハイブリッド戦争での主要な戦場は香港だけではない。台湾、西域の新彊ウィグル自治区、チベット地域と何箇所もあるのだ。広大な領土、数多くの少数民族や言語、文化、宗教、歴史を擁する中国の中央政府にとっては頭痛の種だ。しかも、それはかなり厳しい頭痛である。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

 
<引用開始>

(注:この投稿の中ではホワイト・ヘルメットに関する文章でシリア現地の地名や人名をカタカナで表記する必要が出てきますが、その場合、正式な発音ができない私にとっては正しくカタカナ表記をすることは至難の技です。間違いがあることをご了承願います。)

最近ジョシュア・ウンは飛行機で飛び回り、金持ちで名の知られた、権力の中枢にいる人物と親しく付き合い始めている。彼はベルリンへ飛び、アンゲラ・メルケルドイツ首相と会い、民主主義を標榜する人物、たとえば、キエフ市長のヴィタリー・クリチコと会っている。米国がウクライナにおけるカラー革命に積極的に関与していた当時、クリチコはしばらくの間西側の寵児であった。ウンはホワイト・ヘルメットのボスであるラエド・アル・サレーとも会った。実情を知らない人たちのために追記すると、ホワイト・ヘルメットは西側のプロパガンダのための組織であって、テロリストのグループであるアルカエダやジャフバド・アル・ヌスラ(現在はタフリル・アル・シャムと称する)と親密な関係を保っている。(訳注:さらに詳細を追記すると、ウィキペディアによれば、ホワイト・へルメットへの出資の多くは米英両国によって賄われているが、他にもカナダ、デンマーク、ドイツ、日本のJAICA、オランダ外務省、ニュージーランド外務省が含まれる。私自身は日本政府もホワイト・へルメットへ出資しているとは夢にも思わなかった。)本来ならば中国における純粋に草の根的な組織の運動である筈だが、香港でのこの反政府運動のリーダーとシリア紛争の当事者との間にいったい何が共通要素として存在するのであろうか? 表面的には何もない。しかしながら、深層を覗いてみると、あらゆる事柄が見え始める。両者はプロパガンダ組織であり、西側(米英)が推進する外国に対する介入や干渉のために必要なツールなのである。
 
背景の概要: ホワイト・へルメットとアル・ヌスラとの繋がり

ホワイト・ヘルメットは、(今も続いている)シリア内紛の当初、シリア市民の救済者を装ってシリア国内を英雄でもあるかのように闊歩していたものである。彼らはテレビのドキュメンタリーでは大スターであった。こうして、オスカーを受賞した。オスカー賞が彼らの演技に贈られたのだ。実際、その通りであった。文字通り、それは彼らの「演技」に対するものであった。ホワイト・ヘルメットは2013年に英国の元雇用兵で諜報工作員でもあったジェームズ・ル・メジュリエによって設立された 。真の意味で自立したジャーナリストであるヴァネッサ・ビーリーや他のジャーナリストらはホワイト・ヘルメットが米・英・イスラエルが資金を提供していたさまざまな反政府テロリスト・グループ(正式に選出されたバシャル・アル・アサド大統領と戦っていた)の最前線を担っていることを暴露した。このビデオ、あるいは、こちらのビデオを見ていただくと、ビーリーが、アレッポ東部のサクール地区において、アレッポにおけるアル・ヌスラ・フロントの拠点からはたった20メートルしか離れていない、今や放棄されてしまったホワイト・ヘルメットの地区センターの中を歩いている様子が観察される。事実、両組織の地区センターの間にはお互いに行き来する入り口がいくつもあって、両者を区切っているのは遊び場の壁だけである、とビーリーは指摘している:

2017年の430日、アレッポ東部のサクール地区で今では放棄されているホワイト・ヘルメットの拠点を見学した。これはアレッポ東部でかっては最大の規模を誇り、もっとも頻繁に喧伝されて来たホワイト・ヘルメットの拠点であった。破棄された書類を見ると、米英とEU各国がこのグループを支援していたことが判明する・・・ さらには、ヌスラ・フロント、ISIS、および、他の過激派がコントロールする地域において、ホワイト・ヘルメットはこれらの勢力に配属されていたことを示している。これらの勢力はシリアの人口の20パーセント程をコントロール下に置き、ホワイト・ヘルメットが支援し、物資の供給を続ける過激派勢力の手によって数多くの市民は飢餓や必需品の不足、医療サービスの欠如を余儀なくされ、投獄、拷問、処刑、レイプ、等の極端な苦難に曝された。」

(訳注: 調査報道のジャーナリストとしてのバネッサ・ビーリーについてはこの「芳ちゃんのブログ」でもご紹介したことがある。私は、2018619日、「シリア政府軍の沈黙した英雄の前でプライベート・ライアンが恥じる時」と題して投稿した。ビーリーは明確な理念と断固とした行動規範を持っている、尊敬に値するジャーナリストである。彼女は下記のように語っている:私は独立した研究者で、執筆を行い、写真家でもあります。必要な経費は100パーセント自己負担です。資金提供者の意図によって影響を受けやすい多数の大手メディアや国家の支援を受ける独立メディアとは違って、私の場合は、そうすることによって私自身の独立性を可能にしているのです。私は平和活動にも焦点を当て、国外からの干渉や独立国家の内政に介入することもなく、国家主権や市民自らの決断を防護します。)

香港の反政府デモのリーダーであるジョシュア・ウンがネオコン派でクーデターを画策するマルコ・ルビオと面会:

もしもジョシュア・ウンが自分自身を草の根運動のリーダーとして描き上げたいとするならば、彼が今行っている仕事は考え得る範囲では最悪であると言えよう。それを示す証拠は驚くばかりだ。彼は米国の対外政策や外国の政府を転覆させる取り組みに投入される一介の歩兵に過ぎない。そういった取り組みは悪名高いNGOによって実行される。たとえば、米国民主主義基金(NED)だ。香港の反政府デモの参加者の大部分は草の根的な活動家であって、ごく普通の市民であるとしても、これは事実だ。Taunting the Dragon: Background to US-China Trade War & Hong Kong Protestsと題された記事を含めて、多くの記事で報じられているように、ウンは香港の米総領事館の高官のひとりであるジュリー・イーダーと面会しているところを目撃されている。

とりたてて驚くことではないかも知れないが、もしもあなたが今までの話の脈絡を辿っているならば、彼は好戦派やネオコンであって、ベネズエラでのクーデターを画策したマルコ・ルビオとさえも面会している事実をお互いに確認しておこう。私は、2019年の前半に米国が推進していたベネズエラでのクーデターにおけるルビオの役割を強調した。私は上記でリンクを貼った「Taunting the Dragon 」の記事でルビオが中国を北京とウィグルの少数派とに分断する立法化を準備していたという事実についても報告した。ウンがルビオと面会した理由は如何にして香港を中国から引き離し、北京政府に考え得る中でも最大級の困難さをもたらすことができるのかという点にあった筈だ。それ以外にはルビオと会う必要性なんて皆無だったのでは? 

香港の反政府運動:米国の介入と「解放」を要請?

中国人民との関係においては中国政府は「残忍で独裁者として」振舞うことがあり得ることから、香港の反政府派がトランプ大統領に「彼らを解放する」ことを要請するプラカードを掲揚しながら彼らはいったい何を考えているのかを思い計らう必要があろう。(運よく)火の中から飛び出して、(不運にも)チリチリに焼けたフライパンの中へ飛び込むような状況を議論しておきたい。彼らはいったい何を望んでいるのか?米国が中国を攻撃し、香港を割譲するとでも?彼らは北京政府が米中貿易戦争の圧力の前に屈して、深刻な結果を招くこともなく米国が香港に介入することができるとでも思っているのか? RTの報道によると、201998日に展開された最近のデモではこんなことが起こった:

何千人もが香港の反政府デモに参加し、新たに騒乱が起こり警察と衝突した。彼らはワシントン政府に向けて中国の支配から自分たちを解放するように訴えた。これはデモ参加者の一部は今や米国を自分たちの擁護者として見ていることを示すものだ。日曜日に何千人もの反政府派が米総領事館に向かって行進した。彼らはドナルド・トランプ大統領に何週間も続いている政治的大混乱に介入するよう訴えた。ビデオに収録されたデモ行進の様子を見ると、デモ参加者らは米国の国旗を振り、米国の国歌を歌い、自分たちの携帯電話でスピーカーを通して米国の国歌を流した。」

米国による干渉はカラー革命の支持者が米国の国旗を振り、米国の国歌をスピーカーで流すといった実に騒々しい状況を現出するまでになった!なんてこった!数週間前には連中は英国の国旗を振っていたものだ。自分たちを植民地として統治していたイギリスの国旗だ。また、RTは香港デモのリーダーであるジミー・ライ、ならびに、もっと草の根的なマーチン・リーについても報じている。彼らは、ユダヤ主義者でありネオコンでもある元CIA長官のマイク・ポンペオ国務長官と面会した:

「反政府運動のリーダーの一人は香港の富豪として知られているジミー・ライである。彼の会社はアップル・デイリーと称され、もっとも広く読まれている地方紙を所有している。もう一人は法廷弁護士で政治家でもあるマーチン・リーだ。リーは香港で民主党を設立し、その党首を務める。デモの最中にふたりはワシントンを訪れ、マイク・ポンペオ国務長官を含む米政府高官らと面会した。

トランプとブッシュの両政権で顧問を務めたクリスチャン・ウィトンは、この夏、香港でライとリーの二人に会っているが、彼は中国政府に対してこういった危機をもたらすことは米国の国家利益に適うことであると言った。」

最後に思うこと:

香港デモは今や15週目を迎えているが、収束の兆しは見られない。米国がロシアを第一の敵国と見なすことから中国を第一の敵国と見なすことにゆっくりと方向転換しようとしている今、皆さんは中国恐怖症が一段と目立ってくることに気がつくことであろう(そして、ロシア恐怖症は低下していく)。外国からの干渉が増え、台湾や香港、ウィグル、ダライ・ラマ(チベット人)に対する支援だけではなく、中国を統治する中国共産党に反対するその他の少数民族に対する支援も増加することであろう。今、われわれは21世紀にいるが、これらの経済的、政治的干渉における性質の悪い悪戯は21世紀の新ハイブリッド戦争の重要な一部を成しているのである。

著者のプロフィール:マキア・フリーマンは代替メディアで、独立したニュース・サイトであるThe Freedom Articles の編集者であり、ToolsForFreedom.com.の上級研究者を務めてもいる。マキアはSteemitFBにも登場する。

初出: この記事の初出は「Global Research」。

原典: 

https://www.mintpressnews.com/james-le-mesurier-british-ex-military-mercenary-founded-white-helmets/230320/

https://www.youtube.com/watch?v=r4JFcB-sHv8

https://thefreedomarticles.com/ngos-choice-tool-subversion-nwo/

https://thefreedomarticles.com/taunting-dragon-us-china-trade-war-hong-kong-protests/

https://twitter.com/SpeakerPelosi/status/666795258747953152

https://www.rt.com/news/468361-us-hong-kong-protesters-meddling/


著作権 © Makia Freeman, Global Research, 2019

<引用終了>

これで全文の仮訳は終了した。

大手メディアを読んでいるだけでは香港における民主化デモの実態は見えにくい。

香港民主化運動のリーダーたちの側面を詳しく調べてみると、草の根的な民主化とは相性の悪い状況が見えてくる。もっとも素朴で基本的なな疑問は、著者が指摘しているように、こういったリーダーを本当に信じることができるのかという点であろう。香港の一般市民は集団暴行を見せ始めた反政府デモを諸手をあげて歓迎することができるのだろうか?

ここには、言論の自由や民主主義といった美辞麗句を駆使して資本家の金儲け主義が利益を追求する姿勢がありありと見えてくる。中国を米国の覇権の下に跪かせるということは必ずしも表向きの民主主義を中国にもたらすことが優先される訳ではない。ましてや、中国に人権の尊重を根付かせようとするものでもない。中国の膨大な資源を自分たちの手中に収めることが中核的な目標であることを見過ごしてはならない。さもなければ、新植民地主義の本質を見失うことになってしまうであろう。

613日のある記事(注2)によると、反政府運動のオーガナイザーは米国のNEDが自分たちのメンバーの何人かと関係を持っていることについてはまったく何も気付いてはいない。奇妙に思えるかも知れないが、それだけに、NEDの行動は実に巧妙に進められているということであろう。


参照:

1Hong Kong Protest Leader Hangs Out with White Helmets Boss: By Makia Freeman, Information Clearing House, Sep/13/2019

2American Gov’t, NGOs Fuel and Fund Hong Kong Anti-Extradition Protests : by Alexander Rubinstein, Jun/13/2019 

 






 

 

2019年9月13日金曜日

金儲け主義が生き残り、人間性の尊重は敗退

私は、20131119日、「文明は資本主義の時代を生きながらえることができるか」と題されたノーム・チョムスキーの論評をこのブログに掲載した。「世界最高の論客」はその論評で環境問題が悪化する中で米国の民主主義と資本主義との組み合わせに深い危機感を述べ、将来を展望した。悲観的な展望である。彼は次のように述べている:

民主主義は近年ズタズタになってしまった。今や、政府に対するコントロール権は収入の尺度で言えばその頂点に集まっているほんの一握りのエリートたちだけに集中しており、「それよりも下にいる大多数の人々は実質的には公民権を剥奪されている。もしわれわれが意味する政治的体制(つまり、民主主義体制)においては政策というものは公衆の意思によって著しく影響されるべきものだと位置づけるならば、現行の政治・経済システムは本来の民主主義からはすっかり逸脱したものとなってしまった。しかも、すっかり寡占化されたものになってしまっている。」

改めて考えて見ると、「文明は資本主義の時代を生きながらえることができるか」というチョムスキーの問いかけの言葉は実に重い。現行の資本主義制度が抱えている問題点の本質を突いた言葉であるからだ。

ここに、「金儲け主義が生き残り、人間性は敗退」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。資本主義が抱えている課題を学んでおこう。

<引用開始>

富の分配を示す最新の数値を見ると、金儲け主義が生きながらえ、人間性の尊重は敗退の途上にある。

 
Photo-1: © REUTERS/Carlos Barria

世界中の主要な宗教と哲学のほとんどの学派が意見の一致を見ることができるのは人間が持つ強欲の危険性と悪魔性についてである。

不幸なことには、何人かの人たちは強欲に関して合意されている基本的な側面を理解することができない。たとえば、ウォルマート帝国の背後にいる家族、ウォルトン家を取り上げてみよう。金融と通貨に関するウェブサイトであるブルームバーグによると、1時間毎に4百万ドルも金持ちになっている。1時間毎だ!毎週とか毎月ではない。その一方で、彼らの労働者には11ドルの微々たる時間給を払っているだけである。 

1時間ごとに4百万ドルもの利益を挙げ、労働者には1時間当たりたったの11ドルを支払うという状況はいったい誰が正当化することができるのであろうか?この地球上にはこれを正当化できる人は誰もいない。心理学的機能の不全者、あるいは、倫理観が完全に欠如した者だけがそのようなシナリオや富のギャップを進歩として捉えることが可能だ。

Read more: Soros & US billionaires call for new wealth tax; public reacts with instinctive skepticism

そう、そう、われわれは前々から人間らしい活動とか、活力、勤勉な仕事振り、起業家精神とかについて耳にしてきた。しかし、これらは単に金儲けや強欲さを正当化する言葉に過ぎない。公衆の面前には大量の言葉が塵芥のように放出され、世界の現実やその中に存在する真理の居場所を覆い隠してしまう。それは人々が働き蜂として骨身を削って働き、些細な給与のために一生を過ごす場所であるのだが、自分たちは自由であるということを本当に信じ込むようにプログラム化されているのだ。

彼らが自由であるとすれば、それは彼らが貧困に陥ることは自由であり、ホームレスになることも、空き腹を抱えることも、それらの苦労に翻弄されることも自由なのである。それ以上のものでもない。

ルトン家の富は今や1,910億ドルに達し、この世界の頂点に立っているが、このような強欲の病に陥った堕落者は彼らだけかというと決してそうではない。菓子業界の巨人、マース家を見たまえ。彼らの富は1,270億ドルだ。膨大な量のマースのチョコレートバー。ワシントンで数多くの政治家に融資を行っている悪名高いコック兄弟はどうか?彼らは現在 1,250億ドルもの財産の山の上に座っている。

ほんの一握りの金持ちが節度を欠くほどに膨大な量の富をかき集めてしまうことを許す社会は腹立たしい程の貧困を夥しい数の市民に強いる社会でもあるという事実を理解するのに経済学の学位なんてまったく必要がない。ましてや、マルクス経済学の理論にどっかりと座り込む必要もない。誰にとっても他人の存在なくしては存在することができない。

今日の米国では貧困の犠牲者は夥しい数に昇る。正確に言うと、約4千万人である。彼らは間違いなく犠牲者である。貧困に関するこのような馬鹿げた話は彼らが自ら招いたものだなんて言わないことにしよう。このような言い草はメディアや政治の領域で影響力のある地位にある超富裕者や彼らのおべっか使いによって絶えることもなく量産されて来たプロパガンダなのだ。

ところで、わたしは超富裕者を刑務所へ送り込めと言っている訳ではない(少なくとも、過剰な程に長い刑期ではない。彼らが自分の考えを真っ直ぐにし、自分自身の人間らしさを介して過酷な労働や再教育にもう一度接することができるだけの時間で十分だ)。私の提案は、むしろ、彼らに課税することだ。つまり、文明とうまく釣り合うような手法による課税であって、公益の観点から彼らの富を再配分することにある。


カール・マルクスはたまたまこれに賛成している(彼のことをご記憶だろうか?)。顎鬚を蓄えた、あの偉大な人物はこう言った。「歴史は公益のために尽力し自己の気品を高めた人物を偉人と称する。もっとも多くの一般市民を幸福にしたとして彼らは称えられるのだ。」 イエス・キリストもこのことを理解していた。彼が両替商を寺院から追い出したのはこれが理由であったのだ。そして、キリストは、マルクスのように、革命家でもあった。読者の皆さんはこの見方には反対だろうか?もしも反対ならば、次のような彼の言葉を考えて欲しい: 

あなたがたいま飢えている人たちは、さいわいだ。満腹するようになるからである

あなたがたいま泣いている人たちは、さいわいだ。笑うようになるからである

しかしあなたがた富んでいる人たちは、わざわいだ。慰めを受けてしまっているからである

あなたがた今満腹している人たちは、わざわいだ。飢えるようになるからである

あなたがた今笑っている人たちは、わざわいだ。悲しみ泣くようになるからである

 
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キリストの言葉に耳を傾け、斬新な気分をひととき味わっている中で、この議論に付け加えておきたいことがひとつある。それは初期のキリスト教は当時の共産主義であり、共産主義はわれわれの初期キリスト教であると言う議論だ。キリスト教が現れた当初、あたかも共産主義のようなキリスト教が革命の教義であった。それはローマ帝国という名目の下で数多くの人たちが苦しんでいた深刻な抑圧や貧困と闘うべく現れたものだ。ローマ帝国は人類の進歩というよりも、むしろ、人類の進歩に対する障害と化していたのである。

今日、米国の帝国主義は人類の進歩に対する障害となっている。つまり、米国は強欲や権力、覇権を貪り求める病にすっかり冒されているのだ。

超富裕者のすべてが米国人であるという訳ではない。もちろん、そうではない。ブルームバーグの記事が教えているように、彼らはそれぞれが異なる国籍を持っており、彼らが住む場所は世界中に広がっている。しかしながら、世界を席巻する文化的価値は米国の文化的価値であって、特に、米国の文化的価値こそが超富裕者らの間の価値観となっている。このことに異議を唱える者は果たして居るだろうか?

ところで、共産主義という言葉を言及しただけでも顔を青ざめる人たちに対しては私はお詫びをしたいが、それは消えてしまうこともなく、幽霊として今も残っている。共産主義の考えは、退廃や強欲および人々の金儲け主義と並んで苦難や貧困および人のニーズが存在し続ける限り、消え去ることはないであろう。

哲学者のエリック・フロムは常に物事の本質にまで掘り下げることができる信頼すべき人物である。彼は「金儲け主義は底なしであって、自分のニーズを満たすために無限の努力をさせる。しかしながら、満足感に到達することは決してない」と述べている。次回にウールマートへ行く機会があったら、ウルトン家のことを考えてみて貰いたい。1時間当たりに4百万ドルという金額はかっての価値を持ってはいない。 

著者のプロフィール: ジョン・ワイトは、インデペンデントやモーニングスター、ハフィントンポスト、カウンターパンチ、ロンドンプログレッシブジャーナル、および、フォーリンポリシージャーナルを含めて、多数の新聞やウェブサイトに寄稿している。

注: この記事で述べられている見解や意見はあくまでも著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。

<引用終了>

 

これで全文の仮訳が終了した。

ノーム・チョムスキーと引用記事の著者であるジョン・ワイトの両者は同じことを述べている。飽くことなく追及される金銭欲はわれわれの孫の代には環境をすこぶる悪化させてしまうであろうとノーム・チョムスキーは予測し、金儲け主義が優先されるあまりに人間性の尊重は置き去りにされてしまうであろうとジョン・ワイトは言う。

21世紀の西側世界は資本主義の限界に到達したかのようである。そうかと言って、資本主義に変わる新しい経済システムはあるのだろうか。当面は資本主義と民主主義との組み合わせが続くことになろう。

超富裕者の富に課税し、彼らの富の一部を社会に還元するという考えが今米国で提唱されている。しかも提案したのは18人の超富豪たちである。その中にはジョージ・ソロスの名前も見られる。彼らは2020年の大統領選候補者宛にこの提案を公開書簡として送付した(An Open Letter to the 2020 Presidential Candidates: It’s Time to Tax Us More: Jun/24/2019)。

「アメリカには裕福な者に対してさらに課税するための道徳的で倫理的、ならびに、経済的な責任がある」と主張している。さらに、「富裕税は、気候変動への対処や経済の回復、医療制度の改善、公平な機会の創出、そして、民主主義的自由の強化を助けられるかもしれない。富裕税の導入は、我々の社会の利益のためだ」と述べている。

この提案が果たして超富裕者の総意となり得るのかどうかは私にはまったく見当がつかない。

米国の超富裕者の実態を学ぶために、米国税庁が公表した2016年度の連邦税に関する個人納税者のデータを覗いてみよう。その概要は次のような具合だ:

― 納税者総数:140,900,000

― 納税総額:1.4兆ドル(前年比で0.8%減)

― トップ1%の納税総額の全体に占める割合:37.3

― トップ1%の納税総額:1.4兆ドル x 0.373 = 5,222億ドル

― トップ1%の総納税額の割合(37.3%)は下位90%の総納税額(30.5%)よりも多い

― トップ1%の税率は26.9%で、下位50%の税率は3.7

18人の超富裕者が提案した富裕税はトップ1%の1%を対象としている。人数的には14,090人となる。大雑把に言って、富裕税の導入が実現するかどうかはこれら富裕者の半分以上が賛成してくれるかどうかである。導入に反対する富裕者が多ければ、議員を何らかの形で買収し、立法化を阻止するロビー活動のための財源はいくらでも捻出することが可能であろう。

しかしながら、一般大衆の多くは懐疑的であって、この提案を胡散臭い提案として受け止めているようだ。

来年の大統領選でこの提案を新政策として受け入れる候補者が現れるのかどうかが見ものである。

 
 
参照:

1Latest wealth figures: Greed is winning and humanity is losing: By John Wight, Aug/12/2019

 

 

 

2019年9月5日木曜日

ドイツはもはや貴国の典型的な従属国ではないよ


ドイツと米国との間の溝は深くなるばかりである。これはEUと米国との関係についても言えることだ。幸か不幸か、このことは世界中で認識されつつある。
メルケル首相の携帯電話を米国の諜報機関が盗聴したという。しかも、長期にわたって。それだけではなく、数多くの側近らも盗聴された。これは米国防省傘下の国家安全保障局(NSA)がCIAと共に行った行為であった。NSAは遠隔操作で携帯電話に盗聴用のバグをインストールする能力があることで知られている。
米上院の委員会は水曜日(731日)にロシアからドイツへ施設される「ノルドストリーム2」の建設に携わっている企業に経済制裁を課すという法案を通過させた。このパイプラインはヨーロッパに対するモスクワ政府の経済的影響力を強化することになるとトランプ政権は見ている。米上院外交委員会は「ヨーロッパのエネルギー安全保障を防護する法律」を202で可決した。同法はヨーロッパにおけるロシアの影響力に関して何人かの議員が抱く懸念を反映したものであって、法律として成立するには上院と下院を通過し、さらには、トランプ大統領の署名を得る必要がある。(原典:Senate panel backs Nord Stream 2 pipeline sanctions bill: REUTERS, Jul/31/2019
この米国の動きに対して、ドイツは真っ向から対立。ノルドストリーム2の建設は完全に経済的な選択であって、ドイツの内政に米国が首を突っ込む理由はないとして、ドイツは強く反発している。米国が提案するように、米国産の天然ガスを輸入するとすれば、ヨーロッパの需要家は大きなコスト的負担を強いられる。それはヨーロッパにとっては経済上の自殺行為に等しい。
このパイプラインの建設工事は今年中には完了すると言われている。今後数ヵ月で米議会と米大統領がこのドイツに対する経済戦争をどのように進めるのか、それに対してドイツ政府やパイプライン建設事業に参画しているヨーロッパの巨大企業(ロシアのガズプロム、ドイツのウニパ―およびBASF傘下のウィンターシャル、英・オランダのシェル、オーストリアのOMV、フランスのエンジ―)がどう対応するのかが見ものとなる。
日本人の眼から見ると、米国の政治的圧力に抗して闘っているドイツ政府や民間企業の姿勢は実に見事であると言いたい。少なくとも私にはそういった印象が強い。
ここに「ドイツはもはや貴国の典型的な従属国ではないよ」と題された新しい記事がある(注1)。 
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

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ベルリンとワシントンとの間の相互関係が低下し始めてすでにかなりの期間が過ぎようとしている事実は否定しようとしても、それ自体は何の意味も無い。その理由を説明することができる理由は数多くあるが、中でもドイツ全域で厚かましい程に広範にわたってワシントン政府が情報収集を行って来た行為には誰もが注視することであろう。米国がドイツの一般市民や著名な政治家について機密情報を収集した事実を伝えた数多くのメディアの英雄的な取り組みの結果、これらの事実は一般大衆にも十分に知られることになった。
2013年、ウィキリークスは米諜報機関がドイツのアンゲラ・メルケル首相や彼女の数多くの支援者らの携帯電話を盗聴した事実をすっぱぬいた。
その1年後、ドイツの安全保障当局は機密書類をCIAに引き渡し、ドイツに被害を与えたとしてドイツ連邦諜報サービス(BND)のオフィサーを逮捕した。
これはベルリン政府がロシアに対して厳しい姿勢を採ろうとするバラク・オバマ政権との間でもめていた頃のことである。両者間の違いは埋めることができず、両政府の関係は「大西洋貿易と投資に関するパートナーシップ」の提案を巡ってさらに悪化した。これは後にドナルド・トランプによって葬り去られた。その頃、中東における米軍の作戦を支援することは止めるとドイツが決断をしたとしても何ら驚くには値しないのではないか、とディ・ヴェルト紙は伝えた。
2017年当時、アンゲラ・メルケルは米国との親密な関係を止める可能性があることを仄めかしていた。 
今年の5月、連邦議会の経済委員会の委員長を務めるクラウス・エルンストは嫌われ者の駐ベルリン米国大使に向けて「ドイツは米国の植民地ではないので、わが国は自国のエネルギー政策に関して人を見下したような態度で述べられたコメントに対しては寛容ではない」ことを告げた。次に、野党の自由民主党(FDP)の副議長であるウルフガング・クビキはリチャード・グレネルが繰り返して試みた干渉はドイツの主権を犯すものであるとして、ヘイコ・マース外務大臣にグレネルをペルソナ・ノン・グラータ(訳注: 好ましくない人物を指す外交用語。国外退去を求められる)であると宣言するよう求めた。
トランプが政権に就いて2年半経った今、米国とドイツとの間には友好関係の形跡さえもないと南ドイツ新聞は言う。同紙の主張によると、ワシントン政府は二度とドイツの国益を保護しようとはしないだろうから、ベルリンにとってはトランプ政権後の行動計画を練ることが喫緊の課題である。
ドイツと米国との二国間関係の将来について疑念を抱く者は、最近になって、ドイツ製品があたかも中国で生産されたかの如くトランプがドイツからの製品にも課税することにえらく熱心であることに気付いた。これらの悪い状況をさらに悪化させたのはトランプは一国が他国と協定を結ぶ際にはその責任を取らなければならないということを十分には理解してはいないことだ。実例としてはトランプ政権が気候変動に関するパリ協定やJCPOAから一方的に離脱したことが挙げられる。 
アンゲラ・メルケルはドイツの軍事費を2024年には国内総生産の1.5パーセントまで増加させ、NATOの目標である2パーセントに近づけるという約束をするに違いないと指摘されていた。しかしながら、これらの約束はワシントン政府がロシア産天然ガスのドイツへの輸入を増加させるパイプラインの建設、つまり、ノルドストリーム2プロジェクについて反対を唱えたり、ドイツの次世代携帯電話のための5Gネットワークから中国のフアウェイ社を排除しようとする動きの前のことであった。ウールストリートジャーナルはもしもドイツが軍事費を減少させるならば、ドイツは米国製航空機を調達したり、同国内に設置されている米核兵器を保守点検することは困難になるであろうと言う。この動きは間断なく悪化し続けてきた大西洋を挟んだ両国の関係にさらなる歪を付け加えることになるであろう。 
トランプの最初の任期が終わりに近づくにつれて、米独間の関係が悪いと評するドイツ人の数は73パーセントにまで増加したとピュー・リサーチ・センターおよびカーバー・ファウンデーションは伝えている。これとほぼ同割合のドイツ人がドイツは米国からは独立した対外政策を追求するべきであると考えている。
この2月、毎年開催されるミュンヘン安全保障会議の前日、ピュー・リサーチ・センターとフリードリッヒ・エベルト・ファウンデーションは何事にも増してドイツ人が恐れているのは米国の影響力が増加する可能性であって、この状況はドイツの安全保障を脅かすものであると彼らは言う。これは最初は奇妙に聞こえるかも知れないが、ドイツの新聞は、ヨーロッパの大部分のメディアのように、トランプは平衡感覚を欠いており、一貫性がなく、新たな戦争を引き起こしたとしてもそのことには気付かないような人物として描いていることをわれわれは記憶に留めておきたい。 
アングロ・サクソンによって何十年間にもわたって洗脳を受け、すっかり平和主義者となったドイツが今後EUの安全保障に関する責任をどのようにして自ら背負い込むのかについて論じることは極めて難しい。これはドイツ国家全体が自分たち自身の理想として身に着けて来た理想とは矛盾するからだ。ドイツをそっとさせておき、巨大な怪物と化した過去の遺産であるNATOを廃絶することに代わって、ワシントン政府はノルドストリーム2のプロジェクトを葬り去ろうとし、NATOのためにドイツがもっと多くの軍事費を計上することを求めている。ドイツが数多くの難題に直面している今、ベルリン政府には著しく大きな欲求不満をもたらしている。ベルリン政府が地政学的にはまだ子供のような状態にあるこの時期に地政学的ゲームのすべての側面が一気に表面化した格好だ。過去の大西洋主義的な精神に憑りつかれたエリートたちも含めて、ドイツは英国のEU離脱がもたらす苦難やトランプのEUに対する弱体化からEUを防護し、ドイツ独自の国益を追求するべきであるという理解が存在する。 
かっては「西側」と呼ばれていた地域には深い亀裂が現れ、ベルリン政府は自国の運命だけではなくEU全体の運命さえをも自からの手に収める勇気を見い出さなければならない。何時の日にかNATOは過去の遺物となるだろうと何度となく言われてきたが、米国の政治家の多くはNATOを温存することに関心を持ち、ドイツが自国の目標を追求することを妨げている。このような状況にあって、メルケルがロシアとの和解を模索していることは決して驚きではない。それは一貫性のない米国大統領と比べれば、より簡単に推察が可能であると思える。 

著者のプロフィール: グレーテ・マウトナーはドイツ出身の独立した研究者であり、かつ、ジャーナリストである。オンラインマガジンの「New Eastern Outlookて独占的に執筆している。  

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。
日本国内では東京新聞が「米国との決別辞さず」と題した記事を掲載した(94日)。その記事を下記に転載して、この投稿を閉じることにしたい。日本のメディアにもドイツの動きを冷静に理解し、報じようとするジャーナリストがいるのだ。嬉しい発見である。

www.tokyo-np.co.jp/.../CK2019090402000167.html - 
Sep/04/2019
 先進七カ国首脳会議(G7サミット)の際、ドイツのメルケル首相と会談したトランプ米大統領は「すばらしい女性」と持ち上げ、これまで寄りつかなかったドイツを「近いうちに訪問したい」とまで述べた。
 今回の上機嫌ぶりにもかかわらず、ドイツのトランプ氏への不信は消えない。
 ガブリエル前外相は「中国やロシアより米国のほうが問題が多い」と述べた。同趣旨の見方を外交官から直接、聞いたこともある。
 ドイツにとって米国は、民主主義の手本であるとともに、恩人だった。
 西ドイツ時代、マーシャル・プランで戦後復興のための援助を受けた。ソ連が西ベルリンと西独との交通路を遮断したベルリン封鎖では、「大空輸」で生活物資を供給してもらった。西ベルリンを訪れたケネディ米大統領は「私はベルリン市民だ」とドイツ語で連帯を表明し、レーガン米大統領は「壁」の撤去を訴えた。
 それだけに、トランプ氏への失望は大きい。最近のメルケル氏の暗い表情は、選挙での相次ぐ敗北だけが原因ではなさそうだ。
 ドイツはトランプ氏に擦り寄らず、価値観を守る道を選んでいる。人権をないがしろにする差別的な政権をつけ上がらせた結果、どんな災厄がもたらされたか、自国の歴史で身に染みて知っているからだ。米国離れを模索するのは決して愚策ではない。(熊倉逸男)

東京新聞が指摘した重要な側面として「ドイツはトランプ氏に擦り寄らず、価値観を守る道を選んでいる」という記述がある。これは日本の首相が頻繁に口にして来た「米国との価値観の共有」とは異なり、ドイツは「独自の価値観を守る」ことに全精力を注入していることを示す。対米政治姿勢に関して日独間にはこれだけの決定的な違いがある。


参照:
1Germany - Not Your Typical Vassal State Anymore: By Grete Mautner, NEO, Aug/31/2019