2019年9月24日火曜日

イラン対サウジアラビア - ゲームは終わった


イエメンのフーチ派民兵からの無人機とミサイルによる攻撃によって、世界でも最大規模を誇るサウジアラビアの原油施設が破壊され(914日)、サウジの原油輸出能力は半減したと報じられている。市場では原油価格が20%も急騰した。最近の報道を見ると、復旧には当初の予測よりも時間がかかりそうだ。生産能力の完全な復旧には数ヵ月を要すると言われている。

もしもイランとの全面戦争が勃発し、ペルシャ湾が封鎖されたとしたら、世界の原油市場が被る影響は今回の事例には比べようもない程に大きくなるだろう。その場合に世界経済が被るであろう影響は、素人目から見ても、計り知れないレベルに達することは明白だ。

誤解を恐れずに個人的な感想を言うとすれば、今回のサウジアラビアの原油施設に対するイエメンからの攻撃は、皮肉なことではあるが、われわれ一般庶民にもイエメン紛争についてひとつの基本的な理解を可能とするきっかけを提供してくれた。

ここに、「イラン対サウジアラビア - ゲームは終わった」と題された最近の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。この記事の著者がどうして「ゲームは終わった」と言うのかを読み解きたいと思う。

<引用開始>

サウジ・アラムコに対する攻撃は長い戦争の第一波であろうか?それとも、これですべてが終わったのであろうか?現実は後者にあるようだ。いろいろな意味で、イランとサウジアラビアとの間の戦争は戦争が始まる前にすでに終わってしまったのだ。アラムコに対するフーチ派民兵によるこの攻撃は原油価格を20%も急騰させただけではなく、サウジの原油輸出能力を半減させてしまった。

ところで、フーチ派民兵はアラムコの原油施設に対する攻撃は自分たちがやったと宣言したが、トランプ政権は攻撃をしたのはフーチ派ではなく、イランであると言って、その言い分を国際社会に受け入れて貰いたいようだ。https://sputniknews.com/us/201909191076835893-pompeo-attack-saudi-oil-facilities-act-war-iran/. この時点では、日本はそのようには受け止めてはいない。フランスも然りだ。https://sputniknews.com/middleeast/201909191076835540-japan–no-evidence-iran-behind-attack-saudi-aramco-facilities/

しかしながら、現実には、サウジアラビアが立ち上がって戦う決意と能力を有しているかどうかは攻撃を行った者がいったい誰であったのかを特定することとはほとんど無関係だ。これはサウジアラビアが損害を被ったことを不快に思うのに何ほどの時間もかからなかったことをサウジが見せてくれたからである。このことはさらに次のような質問をもたらすだろう。つまり、「今回の攻撃と同様な攻撃を何回受けたら、サウジは完全に降伏するのだろうか?」見るところ、決して多くはない筈だ。

サウジの経済とインフラは極めて脆弱であることから、前の記事で、私は次のようなシナリオを予測した。主要な富を生産する拠点は実質的にはひとつだけであり(原油生産)、主要な都市へ飲料水を送り出す海水淡水化設備を何ヵ所かに持っている国家は実に易しい攻撃目標となる。結局、それらの一握りの生命線とも言うべき目標が攻撃されると、原油の輸出が停止するだけではなく、家庭用の飲料水も断水してしまうのだ。http://thesaker.is/dissecting-the-unfathomable-american-iranian-war/. しかし、海水淡水化設備を停止させるには同設備を直接攻撃する必要なんてないのである。それらの設備には動力源が必要であり、それは燃料から生み出されている。燃料の供給が停止すると、動力源も停止する。燃料の供給が停止すると、エアコン無しでは生存できない国家の発電プラントさえもが停止する。

最近までは、サウジの人たちは水不足や海水が混じった水、焼け付くような暑さには慣れていた。彼らはオアシスの周りに住み、僅かの水を使う生活に適応していた。しかし、サウジの若い世代や何百万人もの海外からの移住者は家庭で毎日シャワーを浴び、水道水を使い、エアコンを稼働させる。戦争の最中、人々は通常自然の中へ分け入り、食物や水を探す。彼らは狩りをし、地元で採れるイチゴや野生の食用植物を収集し、川や流れの水を入れ物に詰め、裏庭で野菜を栽培する。だが、砂漠の王国であるサウジではそのような代替となり得る生活の手法はない。

さらには、1950年代には数百万人の人口であったが、サウジアラビアの現人口は33百万人に膨れ上がり、この総人口には海外から移住して、仕事に就き、居住する数百万人もが含まれている。https://en.wikipedia.org/wiki/Demographics_of_Saudi_Arabia。供給に限度がある塩からい水は破壊されたインフラが修復されるまでの間、十分には供給できない。そもそも配管さえも無いのだから。 

世界で防衛予算が3番目に大きく、ロシアの防衛予算よりも大きい国家としてサウジアラビアはパトリオット・ミサイルから始まり、弾薬に至るまですべてを輸入し続けている。

これはイランの地理や自然がもたらす諸々の資産や人口動態とは鋭い対照を成している。イランは山岳地帯や渓谷、河川、牧地を有し、農業を基盤とする。7千万の国民は工夫を凝らし、自給自足を全うするよう教育されている。これは米国が課した経済制裁の賜物である。

サウジアラビアはイエメンとはすでに戦争状態にあること、特に、イエメンによる空爆はこの数ヵ月急速に拡大していたことを考えると、アラムコは不意討ちを食ったとする見方は実に馬鹿げており、許せない。サウジにとってはさらに恥ずべき状況となるのだが、イランとの戦争は喫緊の課題であった筈だ。それにも関わらず、サウジのもっとも重要なインフラ設備はどうして無防備のままに放置されていたのであろうか? 

しかし、ここに別途の重要な課題がある。トランプ政権が言っているように、そして、われわれにそれを信じ込ませようとしているように、イランが実際に攻撃をしたのだとすれば、米国はイランのミサイルがイラン本土から発射され、ペルシャ湾を横断し、米国製の最新式の防空や敵機の探査用設備やソフトを巧妙に避けて、サウジ領土内の目標に到達したということを認めざるを得ない。これがわれわれに信じ込ませたいトランプのシナリオであるとすれば、イランと軍事的に渡り合おうとしている米国の軍事能力に関してこれはいったい何を物語っているのであろうか?これは例のロシアゲートよりも桁外れに大きな茶番劇だ。あの茶番劇では連中はロシアは「世界でもっとも偉大で、最強の国家」における大統領選の投票結果に影響を与えることが可能だと主張した。この主張は米国の敵国は非常に組織立っており、聡明で、強力であるが、それとは対照的に米国はすっかり混乱しており、間が抜けていて、弱いと言っているのであろうか?あるいは、その両方か?どちらにしても、そのような主張が他国から成されたのではなく、米国自身から発せられた場合、そういった主張は、間違いなく、米国を高く評価することには繋がらない。

米国・サウジアラビアの弱さや脆弱性はもうひとつの同盟国であるアラブ首長国連邦とも共通する。事実、フーチ派民兵の広報を担当するヤヒア・サリアはアラブ首長国連邦を相手に「あんた方はガラスがふんだんに使用されている摩天楼を防護したいのではないか」という容赦のない警告を発した。https://www.rt.com/news/469104-houthis-new-drones-attack-uae/ 。この警告では、サリアは、多分、「自分の家がガラスでできているならば、他人に向けて石を投げるべきではない」というアラビアの格言をふざけて引用したのであろう。世界中が見ている中、しかしながら、無関心さの中で、何年にも及ぶ無差別爆撃を行い、イエメン人を屈服させようとして彼らに飢餓を強いておきながら、イエメンにはその敵国に対して何らかの慈悲を期待することなんていったい出来るのであろうか?

しかし、次のことには直面しようではないか。アラブ首長国連邦のドバイや他の繁栄している都市はゴーストタウンに変身することが運命づけられた。それらの都市が今見せている魅力や嘘で固められた表面的な輝きが失われるのは時間の問題であろう。結局、これらの幻想都市には本物で、実体を伴った、持続可能なものは何もないのだ。もしも何かがあるとすれば、それはイランとの戦争は崩壊のプロセスを加速させ、海外からの投資家や移住者は、たとえ命からがら逃げ回ることはないにしても、大群となって出国することになるだろう。

もしもこれが同盟であるとすればの話であるが、皮肉にも、米・サウジ・UAE同盟はイランがこの地域でイランの優位性を拡大しているとして非難している。この非難については、多分、何らかの証拠が存在するのであろう。しかしながら、本同盟はイラクに政治的真空状態を作り出し、イランが間もなくその真空を埋めることになったのは彼ら自身が喧伝し、イラクへ侵攻し、サダム政権を転覆させたからだという事実を都合よく忘れてしまっている。イラン・イラク間の8年にも及んだ辛酸を舐めるような戦争が勝者も敗者もなく終わったにも関わらず、米・アラブ同盟がもたらしたサダム政権の崩壊はイランを実質的な勝者の地位に押し上げた。そして、今、本同盟はそのイランを阻止しようとしている。この茶番劇的な状況はこれ以上に皮肉な状況となり得るだろうか?

米国はイラン軍の軍事能力を見くびり、イランもまた相手を見くびっている。これはごく普通のことであり、心理戦では本質的なことである。しかしながら、現実においては、イランの軍事的能力は誰にも分からない。それが故に、イランとの全面的な戦争においては、米国は、当初、艦船をペルシャ湾から遠ざけて、後になってより近辺に艦船を配備することに自信が持てるようになるまでは、イランの短距離ミサイルが到達しない領域に配備し続ける。しかしながら、攻撃目標となるサウジの主要な地上施設は動かすことができない。イランにとっては、片手だけでも数えることができるようなほんの僅かな攻撃目標だけでサウジ・UAE両国を降伏させるのには十分だ。

イランの本当の実力は誰にも分からない中、われわれが今知っていることはサウジアラビアが自分たちよりも遥かに弱く、貧しく、恵まれない、飢餓に悩まされているイエメンを打倒することには見事に失敗したということだ。

米国は地上軍を投入しようとはせず、この趣旨からは、海軍をリスクに曝すことを除けば失うものは何もない。非軍事目標はサウジやUAEのインフラであって、パトリオット防空ミサイルシステムは両国を攻撃するために侵入して来るミサイルのすべてを仰撃することはできない。もしもイエメンがこの作戦を実行することができるとするならば、イランにとっても実行することは明らかに可能である。

私は最近ネットフリックスで「ベトナム戦争」の連載物を観たが、あの戦争について本当のことが露見した当時を思い起した。米国のタカ派は米国の市民ならびに全世界に対して嘘をついていたことからは逃げられないと私は思った。ベトナムで行ったように他国を侵略することなんて二度と出来ないだろうと思った。しかしながら、20年も経たずに、彼らは全力を挙げてイラクへ侵攻した。そして、一般大衆は彼らが喧伝するストーリーを信じたのである。多分、世間には決して変わることがないことが存在する。朝鮮、ベトナム、レバノン、イラク、アフガニスタンそしてシリアでの敗退の後、依然として米軍はイランと闘いたいようである。この戦いでは、最大の敗者は米国自身ではなく、米国の同盟国であるアラブ国家だ。つまり、サウジアラビアとUAEであろう。サウジ・アラムコに対して行われた最近の攻撃は避けることが不可能な帰結を物語る序曲に過ぎない。壁にはすでに大書されており、「ゲームは終わった」とはっきりと読み取ることができるのである。

<引用終了>

これで全文の仮訳が終わった。

サウジアラビアの原油生産のインフラがかくも脆弱であると指摘する著者の洞察には説得力がある。原油生産インフラを防護し、サウジの安全保障を強化しようとすると、何年もの歳月を必要とすることであろう。つまり、サウジアラビアが対イラン戦争を今始めることは軍事的にも経済的にも不可能だ。サウジがこの時点にイランとの戦争にのめり込んで行ったら、それは自殺行為となる。

しかしながら、たとえサウジやUAEにとっては最悪な帰結が予想されるとしても、米国の軍産複合体の戦争計画者は依然として対イラン戦争を始めることを推奨するかも知れない。軍産複合体にとってはこの戦争が米国本土で行われるのではなく、戦争ほど利益をもたらしてくれるものは他にはないからだ。短期的ではあっても、彼らは膨大な利益を手放すようなことはしない。引用記事の著者が述べているように、歴史がそのことを見事に証明している。私としては、米国の軍産複合体に関するこの個人的な見方が間違いであることを祈るばかりだ。

参照:

1Iran vs Saudi Arabia: it’s game-over: By Ghassan Kadi, The Saker, Sep/19/2019






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