2017年11月25日土曜日

NATOは非常に厄介な分裂へと向かっている



西側の軍事同盟(NATO)が必要であるか否かは質問をする相手によってその答えが大きく分かれる。

歴史的な大きな流れを見ようとする人たちは、90年代のソ連邦の崩壊に伴う東西冷戦の終結に伴ってNATOの存在意義は全面的になくなったと言う。

40年間程続いた東西の冷戦ではNATO軍とワルシャワ条約機構軍とが対峙していた。しかしながら、1989年の夏、オーストリアとの国境に位置するハンガリーのショプロンで起こった汎ヨーロッパ・ピクニックから始まって、西側への亡命を求める東ドイツ市民が大挙西側に雪崩れ込んだ。数か月後、ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦は終った。ワルシャワ条約機構軍は199171日に解散。ソ連邦は19911225日に解体され、クレムリンに掲げられていた赤い国旗は降ろされ、それに代わって現在の白・青・赤の三色旗が掲揚された。

そのような現実とは対照的に、米国の軍産複合体を擁護する人たちはNATOの必要性を何とか説明しようとする。

その説明においては大手メディアが喧伝するロシアの脅威が重要な要素として登場し、新冷戦が自己完結的に議論される。歴史を見ると、この議論の進め方は第一次世界大戦や第二次世界大戦に先立って米国で行われた世論操作のプロセスと酷似している。政治を我が物顔に率いようとする資本家勢力はまたもや自分たちの、つまり、既存勢力の利益を最大化し、覇権構造を長引かせるために世界規模の戦争を企んでいるように感じられる。

米国の大統領が戦争をどのように捉えるのかについては、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の発言を見るのが最適だと思う。詳しくは、2012107日に掲載した投稿「ふたりの大統領」を参照願いたい。幸か不幸か、米国の支配層が持つ典型的な考え方が手に取るように理解することが可能だ。

NATOは西側の利益を防護し、それを温存するための軍事組織である。それは自衛組織ではなく、多くの場合、非常に攻撃的で、侵略的な側面を見せる。

歴史を紐解けば、これは明らかである。湾岸戦争(1991年)では、NATOは国連安保理の委任を受けて軍事行動をしてはいたが、最近は国連安保理からの委任も無しに、NATOの同盟国だけで標的の国家に対して軍事行動を起こしている。その典型的な例はコソボ紛争時の旧ユーゴスラビアに対する攻撃(Operation Allied Force1999年)から始まった。空爆が3ヶ月近くも続いた。このNATOの軍事行動はNATO域外の国家に対する攻撃であったことから、激しい議論を呼んだ。当時のことについてはご記憶の方も多いと思う。

そして、今は、NATOの分裂の可能性が取り沙汰されている。

震源地はトルコである。トルコは長年にわたるNATOのメンバーである。しかしながら、最近、NATOとの亀裂が報じられている。昨年の7月、トルコで軍事クーデターの未遂事件が起こった。その背景に米国の支援があったと指摘されており、トルコ政府は米国離れを鮮明にし、今やロシア寄りの姿勢を強めている。ロシア、イラン、トルコの三国はシリア内戦の終結を目指して、政府側と反政府組織との間で対話を開始し、新憲法の制定、等、統治の在り方について話し合うことで歩調を揃えている。また、トルコ政府はロシアからS-400ミサイル防衛システムを導入することを決定したという。

ここに、「NATOは非常に厄介な分裂に向かっている」と題された記事がある [1]

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

















Photo-1: ヴォイス・オブ・アメリカ/AP   五月、エルドアン大統領の警護員がワシントンで抗議デモのメンバーを襲撃。

もしも、あなたが米国市民であるならば、トルコで休暇を過ごすという計画は諦めた方がいい。トルコ人の友人を米国へ招くことも止めた方がいい。最近、トルコと米国は相手国の市民に対するビザの発行を停止した。これは単にもうひとつの旅行禁止措置が取られたというだけの話ではない。これは現代史に特徴的となっている地政学的な光景なのだ。つまり、ふたつの同盟国同士がお互いの国家間を旅行する市民を引き止めようとしているのだ。古くから存在していた友好関係はひどく悪化してしまった。

米国人旅行者がトプカピ宮殿から締め出され、トルコ人はグランドキャニオンへの観光旅行ができないなんて状況は想像するだけでも難しい。確かに、限定的なビザの発給が月曜日から再開されている。しかしながら、たとえビザを巡る抗争が完全に解決されたとしても、これが象徴する不和はそう速やかに完治されることはないだろう。トルコは65年間にもわたってNATOのメンバーであって、米国の軍事的同盟国であった。公式には今もそうである。しかし、現実はまったく違う。トルコは西側の同盟から脱出することを自ら書きしたためたのである。ワシントンやブリュッセルのNATO本部が決めたことを受け入れるのではなく、トルコは今や自国の国益を追求するために中東の一国のように振舞っている。トルコはNATOを離脱する最初の国家となった。

しかし、これが最後と言う訳ではなさそうだ。

この亀裂の原因は魔女の煮物のようにごちゃ混ぜである。この煮物の具はロシア製の武器から始まり、クルド人ゲリラの問題、経済制裁を破壊しようとする金の取引業者、ふたりの説教師、大統領の警備職員によるならず者的な行動、等から成り立っている。この煮物はトルコの社会に深く浸透した米国に対する懐疑心によって味付けがされているのだ。最近の調査によると、トルコ人の13パーセントは米国の理想を称賛しているが、72パーセントは米国の覇権の影響を危惧している。この反感は西側がトルコのことを長い間誤解していたことを示すものである。

1920年代、ムスターファ・ケマル・アタチュルクに率いられた世俗主義者たちは権力を掌握した後、自分たちのイスラム主義や中東の遺産からは脱却し、西欧化すると宣言した。数世代がこの宣言を鵜呑みにしてきた。こうして、トルコの政治システムは十分に開放され、一般大衆が自分たちの本当の意見や見方を公表することができるまでになった。数多くの有権者や政治家たちは平和を愛好する国家主義者であって、米国が君臨する世界に住むことを嫌っていることが判明した。このことはトルコ人に関するふたつの幻想の正当性を疑うことになる。つまり、第一には、ほとんどのトルコ人は心の底から西欧化した世俗主義者であるという点、二番目には、彼らは忠実なNATOの同盟国であって、中東戦争や他のワシントン政府の安全保障のためのプロジェクトにも喜んで参加するという点だ。 


















Photo-2

米・トルコ間の最近の危機の要因は少なくとも2003年に遡る。当時、トルコは米軍がイラクへ侵攻する際にトルコ領内を通過したいとする米国の要請を拒んだ。その23か月後、イラク北部に駐留していた米軍が11人のトルコ人治安将校を逮捕し、彼らを連行する際に彼らに頭巾を被せた。これらのイメージがトルコ人社会の記憶に焼き付けられたのである。シリアの内戦は戦略的な不協和音をいっそう先鋭化させた。米国はトルコが敵と見なすクルド人のグループを武装化した。これに対して、トルコはアルカエダや他の武装ゲリラ・グループに対してトルコ領内を通してシリアに向けて武器やゲリラ兵を輸送することを許して、返礼をした。

ワシントンでは反トルコ感情が高まった。5月にトルコ大使館の外で警備職員が抗議デモ参加者らを拳で殴るのをエルドアン大統領が明らかに楽しんでいる様子が映像に収められていたからであった。エルドアンは米国がペンシルバニア在住のトルコ人聖職者をトルコへ送還するよう求めているが、これは昨年のクーデターを企てた中心人物であるとトルコ政府が見ているからである。交換条件として、同大統領は刑務所に入れられている米国人を釈放することを提案した。先月、彼は米国大使館に勤務するトルコ人従業員を逮捕することによって掛け金をさらに吊り上げた。

また、金の取引行為に不正があったとしてニューヨークで近い内に裁判にかけられるトルコ系イラン人の金の取引業者についてもエルドアンは心配をしている。彼はロシアからミサイル防衛システムを導入する旨を公表した。これはNATOの同盟国としては考えられないことだ。地中海の近くに位置し、乱雑に広がったインジルリック空軍基地から米軍の軍用機を締め出す交渉を行うことさえも彼は容認した。米軍はこの地域における戦争業務をこの空軍基地から遂行しているのである。

トルコの離脱はNATO21世紀に適応することに失敗したことを示す出来事であり、その病状をもっとも鮮明に示したものでもある。そもそも、NATOはひとつの脅威、つまり、ソ連邦の脅威に対抗するために設立されたものだ。この脅威はこの同盟に明確な使命を与え、メンバー国を団結させ、ヨーロッパにおいては米国が軍事的優位性を保つ役割を正当化した。ソ連邦の崩壊後、米国は勝利宣言をすることが出来た筈であるし、NATOにおける役割を軽減することも可能であった。また、ヨーロッパの安全保障はヨーロッパへ戻すことだって出来た。ところが、それに代わって、米国はまったく反対の行動をとった。NATOは米国の覇権を維持するための道具として残されたのである。NATOは何カ国もの新メンバーを迎え入れ、ブリュッセルには新たな本部を拡張している。

しかしながら、NATOは決して冷戦の頃と同じように強力で、協調的な同盟軍にはならないであろう。トルコは自国の安全保障は同盟国のそれよりも大切であると見て、離脱しようとしている。他の国々も同じような計算をすることだろう。彼らもトルコの例に続くことだろう。つまり、自国に合った道を辿りながらも、NATOのメンバーの振りをするだけである。

内部崩壊だけがこの硬化し切った同盟が直面する問題であるという訳ではない。もっと性質の悪いのは目的の欠如だ。NATOを率いる米国の将軍たちは新たな使命を定義することによってその存在理由を正当化しなければならない。彼らはふたつの目的を提示した。

今日、NATOは部隊を移動し、武器を備蓄し、ロシアとの国境で演習を実施して、組織的にロシアに対抗しようとしている。それと同時に、NATOはイラクやシリアならびにアフガニスタンといった米国の「域外」での戦争を支援する。トルコはこれらのプロジェクトに参加することには興味を示さない。そうする義務は感じないのだ。これがトルコがNATOから脱退することに正当な資格を与えているのである。

厄介な国家主義や募るばかりの利己心がトルコをこの点に向けて追いやったのだ。冷戦が終わった後でさえも古いスタイルのままのNATOを維持しようとした米国のこだわりもそれに拍車をかけた。他にもうひとつの要因が最近表面化して来た。トルコは何年にもわたってEUへの参加を求めて来た。しかし、それは繰り返して拒絶されて来たのである。そのような歴史的選択肢を持ちながら、ヨーロッパはトルコの面前でその扉を閉めたのである。トルコ人はごく自然と何処か他所に友達やパートナーを見い出そうとし始めた。戦略的同盟でさえも恒久的に存続するという訳ではない。

スティーブン・キンザ―はブラウン大学のワトソン国際公共問題研究所にて上級研究員を務める。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終わった。

この記事によってNATOという軍事同盟が一枚岩ではないことがはっきりと分かる。もしもトルコが正式にNATOから離脱したならば、それは英国のEUからの離脱に匹敵するような混乱を招来させるかも知れない。

NATOの内部崩壊はEUという政治経済の統合組織においても内部に亀裂があることとまったく同様の現象であると言えようか。

英国は今EUからの離脱の最中だ。これに続くのはどの国か?EU圏を二分する問題は、たとえば、経済難民の問題である。難民の受け入れでは割り当て制に反対する国が少なくはない。また、圏内の経済格差によって一部の国々にもたらされた緊縮経済政策は非常に不人気である。ギリシャの困窮は記憶に新しい。さらには、対ロシア政策である。対ロ経済制裁では、ロシア側の農産物輸入を禁止する政策に見舞われ、国によっては大きな経済的損害を被っている。また、ロシア市場を失った産業界も同様だ。EU圏内には大きな亀裂が走っている。しかも、幾つかの性格が異なった亀裂である。

総合的に見て、今後どのような政治理念が現れるのかによって、ヨーロッパ全域が現在の繁栄を維持するのか、あるいは、ドカ貧に落ち居るのかに大きく分かれるように思える。それは経済や政治の分野だけではなく、軍事同盟についてもまったく同じことであろう。

中・長期的に見ると、ひとつのあり得る筋書きはロシアや中国を中心としたユーラシア経済圏の台頭であろうか。

すでにロシアと中国は天然ガスの輸出入ではロシアのル-ブルや中国のユアンを使い始めていると報じられている。国際決済での米ドルの使用を止めたのだ。今後、米ドルの使用から離脱する国家が増えると、オイルダラーの力は徐々に衰退する。米国最大の同盟国と言われて来たサウジアラビアさえもが中国との原油の取引でユアンを使い始めるのかも知れない。

その一方で、この新たな経済圏の台頭を抑えようとして米国は軍事力による反撃を準備している。ロシアを取り巻くNATO圏の拡大策はそのひとつである。2014年のウクライナでの政権転覆も然りである。また、ポーランドやバルト三国、ならびに、黒海で展開されるNATOの軍事演習もその一部である。しかしながら、シリアの内戦では米国を中心とする西側は大失敗を喫した模様である。

こうした一連の動きの中で、世界中の人たちが抱く最大の懸念は米国特有の戦争嗜好であろう。

米国は世界で最強の軍事力を持っていると自他共に認める国である。NATOという軍事組織が内部崩壊し、解体し、他のすべての策に窮した暁には、米国は気に食わない相手国には核弾頭を打ち込むことにやぶさかではない。将軍らは先制核攻撃を主張するだろう。何の根拠もなしに、自分たちは生き残れると主張する。政治家たちもそれに賛同する。繰り返してそう喋っていることによって、単なる言葉の綾として使われて来た文言はその政治家自身さえもが信じ込み、洗脳されて行く。大手メディアがそれに続く。そして、最終的には一般庶民だ。

核戦争に伴う人類の滅亡などは知ったことではないとする米国社会の短絡的な心理状態がすべてを破壊してしまうことだろう。

そんな結末にならない方策はいったい何か?これを考えることこそが今人類全体が抱えている課題を解く上で根本的な鍵になるのではないか。

答が何も見えて来ない方々には、2016816日に掲載した投稿「ロシア人たちからの警告」、ならびに、つい最近の1120日に掲載した投稿「米国の二大神話を暴く」を推奨したいと思う。ご自分の答えを導いてくれる何らかの切っ掛けが見つかるのではないかと期待する次第だ。




参照:

1NATO is headed for a very messy break-up: By Stephen Kinzer, Boston Globe, Nov/11/2017, www.bostonglobe.com/.../nato-headed...very-messy-bre...

 




2017年11月20日月曜日

米国の二大神話の誤りを暴く



今日ここにご紹介する内容はわれわれ素人にとってはまさに驚きの内容である。このように詳細な解説にお目にかかれるなんて非常に稀だという意味で、これは大きな驚きなのだ。しかも、これは米国で語り継がれてきた神話が嘘であると暴いているのだから無理もない。

「米国の二大神話の誤りを暴く」と題された記事 [1] が最近インターネット上に現れた。著者は軍事に関する分析や評論で一目置かれている「セイカー」である。セイカーの投稿はこのブログでも何回かご紹介して来たので、ご記憶にある方が多いと思う。

この記事に見られるような見解を述べる人たちにわれわれ一般大衆がお目にかかれることは非常に稀である。西側の企業メディアはこういった情報を掲載しようとはしない。何故か?大手メディアは新聞の販売部数を多くし、テレビの視聴率を高めるためにはフェイクニュースを流すことさえも厭わず、この種の情報を時の権威の意向に逆らうものであると判断し、報道内容を取捨選択するからだ。

その結果、今日、彼らが好むジャーナリストの姿はこんな具合だ。「ジャーナリストになるにはロシアを非難せよ。これこそが2017年に学んだ秘訣だ」と、アサンジが指摘している。すでに何年も前からさまざまな形で批判されてきたジャーナリズムの実態ではあるが、西側の企業メディアが地に堕ちたという事実は誰の目にも明らかであろう。

どうしてこのような記事が今現れるのかを改めて考えてみると、それは急速に高まって来た危機感のせいであろうと思う。私の考えでは、最近の米国における「ロシアバッシング」、「新冷戦」、「軍産複合体」、「北朝鮮危機」、「先制核攻撃」、「米ロ核戦争」、「人類の絶滅」、等、さまざまなキーワードを挙げることができる。ここに引用する記事は米国の好戦的な政治家や将軍たち、議会、ならびに、市民に対して発せられた警鐘である。それだけに、多くの人たちにとってはこの記事は耳に痛いに違いないが、最大の問題は何の痛痒も感じない人が実に多いという現実である。

さっそくこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

米国人のほとんどの心に深く刻み込まれている神話がふたつ存在する。これらは極めて危険で、ロシアとの戦争に発展する可能性を秘めている。
  • 一番目の神話は米軍の優位性に関する神話である。
  • 二番目の神話は米国の本土はこれっぽっちも脆弱ではないとする神話である。
こういった神話が存在するが故に何百万ものわれわれの同胞が命を失い、未曽有の悲惨さを味わうことになる前に、これらの神話が大きな誤りであることを暴くことは極めて大切であると私は考える。 

最近「Unz Review」に掲載した投稿では、米軍は米国のプロパガンダ・マシーンが一般大衆に信じて欲しい最新の水準に必ずしも到達してはいないという現実を取り挙げ、私はいろいろな議論を試みた。その記事はロシアの軍事技術を論じるものであったが、私は一例を挙げたに過ぎない。T-50 PAKFAを米国のF-35F-35の惨憺たる現状を詳しく理解したい方はこちらこちらをご覧願いたい)と比較しただけであった。まず第一に、私は一般的には武器システムを論じることに乗り気ではない。何故かと言うと、現実の戦争においては、多くの場合、戦術の方が科学技術よりも遥かに重要であると考えるからだ。二番目には、ロシアの軍事問題や海軍事情に関する専門家であるアンドレイ・マルティアノフが最近ロシアの軍事技術に関してふたつの素晴らしい記事を書いており(こちらこちら)、これらの記事は幾つもの事例を提供している(マルティアノフのブログもご覧願いたい)。マルティアノフの記事や私の記事に寄せられたコメントを読んでみると、プロパガンダ・マシーンによって徹底的に洗脳されている人たちは米国の脆弱性に関する意見に接した場合、ましてや、技術的に劣ると指摘する意見に接した場合にはなおさらのことではあるのだが、即座にそのような意見を退けようとするのを観察することができる。これらの人たちには私のメッセージを間違いなくお届けすることが実に重要だと感じさせられた。依然としてテレビを視聴している市民がポール・クレイグ・ロバーツやウィリアム・エングダール、ドミトル・オルロフ、アンドレイ・マルティアノフ、あるいは、私からの警告によって覚醒するかどうかについては、私は何の期待も抱いてはいない。しかし、われわれはこの試みを継続しなければならないと思う。何故ならば、戦争を推進する連中(ネオコン統一党)は、明らかに、ロシアとの紛争を引き起こそうとやっきになっているからだ。私が本日何を提起したいかと言うと、もしもロシアが攻撃を受けたならば、米国のもっとも神聖な象徴である空母や米本土が速やかに報復攻撃を受け、破壊されるということをここに示すことによって、「対ロ戦争」と「個人的な悲惨さ」というふたつの異なる事象をしっかりと結びつけたいのである。


空母に関する神話:

冷戦のさ中においてさえも、米空母攻撃艦隊はソ連側にとってはいとも簡単に撃沈することが可能な、無防備の獲物であると私は見ていた。私はソ連の対空母作戦について自分が行った研究や実際に米空母の乗組員でもあった友人(同僚の研究者仲間)と交わした会話に基づいてその意見に辿りついたのだ。

冷戦時代にソ連がどのようにして米空母を攻撃し得たのかに関して具体的な展開を描写するのに必要な十分な時間と紙幅を持ちたいとは思うが、私が言いたいことはこんな具合だ。その攻撃では空と海から発射されたミサイルがあらゆる方向から飛来する。あるミサイルは海面すれすれに飛行し、他のミサイルは高高度から急降下して来る。どれもが凄い速度だ。さらには水中から発射されたミサイルや魚雷も組み合わされる。これらのミサイルはすべてが「人工頭脳」を備え、他のミサイルとネットワークを組んでいる。つまり、これらのミサイルはセンサーから得られるデータを共有し、(重複を避けるために)目標を割り振る。防衛手段を活用し、コ―スの修正を行う。標的からは遠隔の距離に位置する戦略爆撃機や潜水艦からこれらのミサイルは発射される。標的を捉えるには衛星や先端的な海軍の偵察技術が必要だ。私の海軍の友人たちはこれらのすべてを熟知しており、彼らは米国(当時はリーガン政権の時代)の公式のプロパガンダを笑っていたものだ。当時、「米海軍は前線に配備した空母によってソ連へ戦争を送り届ける」と宣伝していたのである。米海軍が最初に取る行動は、それとは正反対に、すべての空母を北大西洋から退却させ、いわゆるGUIKギャップの南側の海域へ避難することだったと私の友人たちは皆が言う。ここには醜い真実が隠されている。つまり、空母は(サダム・フセインのイラクのような)小国で実質的に自衛もできない国家に対してアングロ・ザイオ二スト帝国の規則を履行させるために設計されている。「ソ連へ戦争を送り届ける」ためにコラ半島の近傍に空母艦隊を配備するなんて米海軍では誰も考えなかったし、1980年代の後半にあってさえもそんなことを考える者は誰もいなかった。これは純粋なプロパガンダである。一般大衆はこのことは誰も知らなかったが、米海軍の連中は本当のことを誰もが知っていた。

[補足: もしも空母が生き残れるかどうかについて関心をお持ちならば、このロシアの記事をご覧願いたい。われわれのグループのメンバーが英訳してくれた。この記事はロシア人は米空母が難攻不落だなんて決して思っていないことを示す典型的な例だ。]

かって本当であったことは今日ではなおさらのこと本当であるから、国防省の職員がロシアに対して空母から発進した航空機による攻撃を策案しているなんてことは私には想像することも出来ない。米海軍にはロシアを攻撃するのに空母を使う意志がないからと言って、そのこと自体がロシア側が米空母を索敵し、撃沈することはないだろうと言い切ることはできない。たとえ、それがロシアから遠く離れた場所であったとしてもだ。結局、空母は軍事大国間の戦争にはすっかり時代遅れの代物になってしまったのだ。とは言え、空母は依然として非常に高価な標的であり、その象徴的な価値はとてつもなく大きい。本当のことを言うと、米空母は敵国にとってはどの国であっても撃沈したいと思う、実入りが実に大きい標的なのである。つまり、空母は(比較的)小さく、破壊することが(比較的)容易で、世界中に分散して配備されている。米空母はほとんど「米国の一部であると言ってもいいのだが、遥かに身近に位置している。」 


極超音速ミサイル「ジルコン3M22」の導入: 

まず、このミサイルの基本データ(英語およびロシア語のウィキペディアから収録)に注目してみよう: 
  • 低射程距離: 135270海里(155311マイル、250500キロ)。
  • 中射程距離: 弾道弾に近いコースで400海里(460マイル、740キロ)。
  • 最大射程距離: 540海里(620マイル、1,000キロ)。
  • 最大高度: 40キロ(130,000フィート)。
  • 平均射程距離は約400キロ(250マイル、220海里)~450キロ。
  • 速度: マッハ563,8064,567マイル/時、6,1257,350キロ/時、1.70152.0417キロ/秒)。
  • 最高速度: マッハ86,090mph9,800キロ/時、2.7223キロ/秒)。テスト時。
  • 弾頭重量: 300400キロ(高性能爆薬または核)。
  • 形状: レーダー電波吸収材のコーティングの使用によりレーダー断面は小。
  • ミサイルの単価: 12百万ドル(型式によって変わる)。
これらを見ただけであっても、すでに目を見張らせるものがあるのだが、ここでは、このミサイルが持つ唯一の重要な事実はこのミサイルは如何なる発射台からでも発射することができるという点だ。つまり、巡洋艦はもちろんのこと、フリゲート艦、より小型のコルヴェット艦からでさえも発射が可能。原子力潜水艦やディーゼル式潜水艦からも発射が可能である。長距離爆撃機(Tu-160)や中距離爆撃機(Tu-22m3)、中距離戦闘爆撃機(SU-34)からも発射が可能であって、ある報告によれば多目的戦闘機(SU-35)からでさえも発射が可能だ。最後に、このミサイルは陸上への設置も可能である。事実、このミサイルはすっかり有名になったカリブル巡航ミサイルを打ちあげることが可能な発射台からであれば何処からでも発射が可能となり、この事実は商船や漁船であってもジルコン・ミサイルを内部に隠し持ったコンテナーを運ぶことが可能となることを意味する。簡単に言えば、これが意味することは次のように要約することができる: 
  1. ロシアは米海軍が現在あるいは近い将来手にする武器システムを用いて抑止したり、からかったりすることはまったく不可能なミサイルを所有している。
  2. このミサイルは世界の何処へでも、如何なる発射台を用いてでも配備することが可能である。
次のことをもう一度繰り返して言っておきたい。ロシアのどんな船であっても、どんな航空機であっても、今後は米空母を撃沈するだけの潜在能力を持ち得ることになる。過去においては、そのような能力は特定の艦艇(スラヴァ級)や潜水艦(オスカー級)、あるいは、航空機(バックファイヤー)に限られていた。そのような発射台に関しては、ソ連の供給能力は大きいとは言え、限定されており、それらを配備する場所は限られていた。しかし、そのような時代は今や過去のものとなった。今後は、大群のジルコン3M22が何時の間にか何処かから現れ、警告する時間さえもないのだ(5000マイル/時の侵入速度は標的にされる側にとっては短時間対応と比べても余りにも短かい)。事実、この攻撃は非常に迅速に展開し、標的側は攻撃を受けているという事実を伝える時間さえも見い出し得ないだろう。

ところで、上述の事柄はどれをとっても大きな秘密ではない。お気に入りのサーチエンジンで「ジルコン・ミサイル」を検索してみて欲しい。たくさんヒットすることだろう(グーグルでは131,000件、ビングでは190,000件)。事実、数多くの専門家がジルコンはハイテック戦争のプラットフォームとしての空母の役割に終止符を打ったと述べている。上述したように、小国で、防衛力を持たない国家を怖がらせ、彼らに脅しをかけ、いじめ、攻撃するには空母は理想的な道具である。中程度の国家にとってさえも、米空母からの攻撃に対処するには大きな困難に見舞われることであろう。世界が米ドルの使用を継続し、米経済がどこからともなくドル紙幣を創り出し、明日はもうやって来ないかのごとくに米ドルを浪費している限り、たとえ倫理的には嫌ではあっても、空母には依然として輝かしい将来があろう。もちろん、米海軍はロシアを脅す際には空母を使わない。

ジルコンが空母を撃沈する潜在能力に関しては米国のメディアはむしろ率直ではあったが、メディアが稀にしか(あるいは、決して)言おうとはしないのはジルコンの開発によってもたらされた政治的ならびに戦略的な影響である。今後、ロシアは好きな時に何時でも容易く撃沈することができる非常に価値が高い標的を持つことになるのだ。米国の空母船団はロシア側が何時でも撃ち殺せる10人の米国人人質みたいな存在だと言える。極めて重要な点は次のことだ。米空母に対する攻撃は米国本土に対する攻撃とは異なり、核攻撃にはならないだろう。しかしながら、この攻撃がもたらす心理的なショックは本土に対する局地的な核攻撃に匹敵するであろう。 

これはロシアが深刻な報復攻撃(恐らくは、核による報復)に曝されることを意味するであろうから、米空母を攻撃しようとするロシアの意欲は大きく削がれるであろう。しかしながら、その一方では、「エスカレーション支配」に関して言えば、ロシア側には米空母に匹敵するような実際に象徴的な価値を持った標的はないことから、この現状はロシア側に大きな利点をもたらす。

この課題には多くの場合見過ごされている別の側面がある。西側の分析専門家は頻繁に「拒否による抑止」や「接近阻止・領域拒否 (A2AD)といったロシアの戦略に言及する。ほとんどの場合、これらは米国やNATOのシンクタンクにおいては昇進や昇給をもたらしてくれる格好の用語である。しかし、これには先進的なロシア製ミサイルは恐ろしく高価な米国の資産に脅威を与える非常に安価な手法をロシア側に与えたという真理が含まれているのだ。さらに悪いことには、ロシアは(比較的安価な)これらのミサイルを外国へ輸出する気である(事実、そうしたいようだ)。核拡散の脅威に関しては恒常的にヒステリックな状態に陥るにもかかわらず、米国の政治家は通常兵器である対艦ミサイルが見事な威力を発揮し、より大きな脅威となり得ることの認識に欠けているのを見ると、私には滑稽にさえ思える。確かに、MTCRというミサイル輸出を規制する条約が存在するが、この条約は射程距離が300キロを超すミサイルに適用されるだけである。最近の弾道弾ミサイルや巡航ミサイルは小型化し、威力を増し、より簡単に隠すことが可能であり、射程距離は(比較的)容易に延長することが可能で、MTCRのような条約はますます時代遅れなものとなって行くに違いない。

結論はこうだ。抑止が効いている限り、米空母を攻撃することはロシアにとっては何の意味も成さない。しかしながら、抑止が失われるやいなや、地球上の何処においてでも米空母を攻撃することができるということはロシア側に極めて柔軟で、強力なエスカレーション支配の能力を与える。これとは対照的に、米国側は同種の標的に対する仕返し攻撃をすることはできないのである。


聖なる場所、即ち、米「本土」に対する攻撃: 

米空母に対する攻撃について議論することは悪いことだと思うならば、ここでわれわれは「ストレインジラブ博士」の領域に分け入って、米国人にとっては到底考えられないことについても議論をしてみよう。つまり、それは米本土に対する攻撃だ。米国以外の人たちにとっては、どんな戦争であっても、定義上は、皆さんご自身の町や市ならびに一般市民が攻撃を受けるという、非常に現実的な可能性が常について回る。しかし、米国人は暴力や死は自国の平和な町や市からは遥か遠く離れた場所で起こるものだという考えに慣れ切っている。米国本土に対する壊滅的な攻撃などはまったく思いもよらない。9/11同時多発テロにおける3000人もの何の罪もない人たちの死亡は米国人の大多数をショック状態に陥れ、米社会のすべての階層において過剰反応を生ぜしめた(まさに、これこそが米国とイスラエルのディープステ―ツが企てた自作自演の目的であった)。空母の場合と同様に、米国の過剰反応による危険性は米国本土の攻撃に対する抑止力として働く。しかし、これは空母の場合とまったく同じであって、抑止力が効いている限り、それは真であるのだ。もしもロシア領が米国の攻撃の目標になったとすれば、これは抑止が失効したことを示しており、ロシア軍は抑止モードから戦争モードへと切り替えなければならない。この時点で、攻撃を受け、死傷者を目の当たりにし、逆説的かも知れないが、米国人の過剰反応は最後の段階を示す緊急警報を発信せしめ、次にやって来る事態は壊滅的なものになるであろうことを誰もが悟ることになる。


RS-28「サルマト」型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の導入: 

「サルマト」と「Yu-71」に関しては公にはほとんど何も知られてはいないのだが、現実にはインターネットが根拠のある推測を全面的に可能とし、われわれがここでどのような種類のシステムを論じようとしているのかに関してかなり明快な考え方を与えてくれる。

RS-28サルマトRS-36 ヴォエヴォダミサイル(米国ではSS-18サタンと分類)の後継機であると考えられる。これは重量が大きく、非常に大きな推力を持ち、個々の弾頭を独立に操作をすることが可能な複数弾頭を装備した大陸間弾道ミサイルである:
  • 重量: 100トン
  • 弾頭重量: 10トン
  • 弾頭: 1015
  • 極超音速滑空飛行体: 324個(これが「Yu-71」であって、下記にて論じる)
  • 射程距離: 10,000キロ
  • 誘導方式: 慣性、衛星、天測航法
  • 弾道コース: 部分軌道爆撃システム(FOBS)を採用することが可能
最後の行にある「FOBSを採用することが可能」という特性は非常に重要であって、サルマトはソ連およびロシア製の殆んどのICBMとは異なり、米国を攻撃するのに北極の上空を通る必要はない。実際には、サルマトは南極上空を通過することが可能であって、ついでに言えば、如何なる方向からでも攻撃が可能で、米国内のどんな標的にでも到達することができる。 この機種の特徴的な能力はまさにこの点にあって、米国の現行の、あるいは、近い将来導入される如何なる弾道ミサイル仰撃システムが相手であっても、それらを出し抜くには十分である。しかし、このミサイルはもっと、もっと素晴らしい。あるいは、話をする相手によっては、もっと悪化するとも言える。即ち、大気圏へ再突入するサルマトの弾頭は低い軌道を飛行し、誘導することが可能で、その後突然標的に向けて降下する。このような攻撃をかわす唯一の方法は360度の全方向に対して仰撃することが可能なABMシステムを用いて米国を防衛するしかない。しかし、米国がそのようなシステムを配備できるのは何十年も先のことだ。すでに大変な威力を持っているこれらの特性に加えて、個々のサルマトは(話をする相手によって異なるが) 324個の「Yu-71」型の極超音速滑空飛行体を装備している。


Yu-71」型(別名「オブジェクト4202」とも称される)極超音速滑空飛行体(HGV)の導入:

またもや、これはメディアが見過ごすなんて出来そうにはないテーマである。HGVとは何か、それはどのように用いられるか、等に関しては数多くの記事を見つけることができる。(私が見出したもっとも立派な英文記事はGlobal Securityが発行した記事であって、「Objekt 4202 / Yu-71 / Yu-74」と題されている。)

このHGVに関してわれわれが知っている内容を下記に纏めておこう:
  • 最高速度: スコット・リッターによるとマッハ5から、ロシアの準公式な消息筋によるとマッハ9まで、スプートニクによるとマッハ15まで、グローバル・セキュリテイーによるとマッハ20まで (これは毎秒7キロ、あるいは時速25,200キロまたは時速15,000マイルに相当)。どれが本当の速度であったとしても、この速度は現行の、あるいは、近い将来配備される米国製ミサイル防衛システムが対応しようとしている速度を遥かに凌ぐものである。
  • 超操縦性: ロシアの情報源はこのYu-71を「超操縦性を備えた弾頭」と形容している。これは空中戦に関わるものではないので、持続的加速性についていったい何を意味するかは実際には問題にならないが、ここではコースを突然変更する能力を意味する。飛行コースを突然変更することによって、ミサイル防衛システムは交戦のための計算さえもが出来なくなってしまうのだ。
  • 弾頭: 核および通常の爆発物あるいは運動エネルギー。
最後の行の記述は非常に興味深い。それが何を言っているのかと言うと、Yu-71 HGV が達成する速度を考慮すれば、この飛行体に爆発物や核の弾頭を装備する必要はない。その非常に大きな速度によって生成される運動エネルギーは大型の爆発物または小型核弾頭が生成し得るエネルギーの大きさに匹敵する。


ここで、すべてを一緒に統合すると・・・: 

皆さんはジルコン・ミサイルおよびサルマトとYu-71との組み合わせの類似性にお気付きになっただろうか?

両者は、
  1. 攻撃はどの方角からでもやって来る。
  2. 攻撃速度や操縦性が仰撃を不可能にする。
  3. ロシアは米国の価値が非常に大きい標的を極めて短時間の内に破壊する能力を持っている。
米国の意思決定者たちが自分たちの迅速なグローバル打撃計画について話しをしている間にロシア人たちはその種の能力を持つバージョンを実際に開発してしまったのである。

「戦争を本国へ持ち込み」、間違った国民を相手にして悪行を働くことについて真面目に熟考すべき政策に関しては完全に免責とし、そのことを享受して来た国家を鼓舞するには、これらはすべてが理想的な進め方であろう。

米国を潜在的にはさらなる危険に曝すものとして、今まで長い間米国を守って来た地理的条件そのものが、今や、主要な脆弱性になろうとしている。現在、米国市民の39パーセントは海岸線と接する郡に居住している。事実、海岸線沿いの郡の人口密度は内陸部の郡に比べると6倍以上となるのだ(出典)。米国勢調査局は、2010年、「米国における沿岸地域の人口動態:19602008」と題した、素晴らしい報告書を作成している。これは 沿岸部の郡が「経済的ならびに社会的活動に著しい集中」をもたらしていることを示す。事実、極めて数多くの都市や工業の中心地、および、経済のハブが米国の海岸地帯にあって、これらは非常に遠距離の地点(公海上を含めて)から発射されるロシアの通常兵器型巡航ミサイルにとっては「理想的な」標的となる。われわれは将来の、仮想上の巡航ミサイルの話をしている訳ではなく、シリアでタクフィリ[訳注:イスラム国の武装ゲリラのこと]に対して用いられたカリブル・ミサイルの話をしているのである。カリブル巡航ミサイルは何処にでも隠すことが可能で、軍事的または民間の標的に対してどのように甚大な被害をもたらすかに関しては、このビデオを検証しておいて貰いたいものだ: 

現実には、米本土は如何なる攻撃に対しても極めて脆弱である。部分的には、ロシアの最近の軍事技術の進展にその理由があるが、たとえば、「ジャストオンタイム」での製造・納入を行う手法はコストの削減や在庫量の圧縮を目標としており、ほんの些細な中断によってさえも甚大な影響を招来させる可能性があることから、この手法は戦略的あるいは軍事的な観点からは極めて危険である。同様に、特定の産業が米国のひとつの地方に集中している場合(たとえば、メキシコ湾沿いの石油産業)、このような状況は戦争時の被害を受け留めなければならない米国にとってはその能力を低減するだけである。

テレビを視聴する米国人のほとんどは「われわれにちょっかいを出すならば、それが誰であっても、われわれはそいつのお尻を蹴っ飛ばしてやるぞ」とか何とか言って、上記の事柄のすべてを排除しようとするだろう。そういう態度には一理がある。しかし、そのような心理状態は抑止力がその効力を失い、「奴ら」がやって来るというシナリオでは心理的にはうまく機能しないことを示している。かような心理状態は市民の特権である。しかしながら、国家を防衛する任を与えられている連中はそのように考えることは許されず、「抑止の最小限度」を越してその先を見定めなければならない。民間人が問題を引き起こしてしまった場合、彼らは血にまみれた混乱状態を復旧するよう求められるのである。ジョルジュ・クレマンソーはかって「戦争は極めて真剣な行為であるから、軍人どもに任せてはおけない」と言ったと報じられている。私は、これとはまったく逆の状況が真だと思う。戦争は極めて真剣なことであるから、民間人、特に、米国のネオコンの連中(連中のほとんどは制服を着て戦場に行ったことなんて一度もないのだ)に任せてはおけない。彼らは次の戦争は容易く、安全で、苦痛を伴わないと何時でも言う。ケン・エイドルマンがイラクなんて「簡単に勝てそうだと言ったことをご記憶だろうか?これとまったく同様の連中が今政権に就いており、彼らは次の戦争は簡単に勝てそうだと言い、ロシアとの衝突の軌道上を急速に進んでいるけれども、これは米国が首尾よく対応することが可能であるから、米国は交戦すべきだと彼らは言う。米軍の優位性に関する神話と米国本土は難攻不落であるという神話との組み合わせが米国人に現実離れした考えを抱かせ、責任の回避さえをもたらしている。これは事実によって支えられたものではない。私は「米国人が如何に間違っていたのか」を悲惨な結末を通じて見い出すことがないように切に望む者である。

ところで、ロシア軍参謀本部長であるゲラシーモフ将軍がロシアはイスカンダールMやカリブルおよびX-101 といったミサイルを用いて「通常兵器による抑止システム」を構築したと述べている 

ゲラシーモフ将軍によると、ロシア軍は4000キロの射程範囲内にある標的は何であっても攻撃することができる高精度武器システムを持っているのだ。さらには、この種のミサイルを発射するプラットフォームの数は12倍にも増加し、高精度巡航ミサイルの数は30倍にもなった、とゲラシーモフが宣言した。また、ゲラシーモフ将軍は、カリブル巡航ミサイルとバスチョン移動型沿岸防衛ミサイル・システムおよびS-400対空防衛システムとを組み合わせることによって、ロシアがバルト海やバレンツ海、黒海および地中海の空域と海域を完全にコントロール下に収めることを可能にした(まさに、これはA2ADだ!)と説明している。ゲラシーモフは「高精度の武器を開発したことによって、戦略的抑止力の任務を核兵器から通常兵器へ移行することが出来た」と述べて、彼の状況説明を終えた。

ゲラシーモフが述べた内容を十分に評価するために、次のことを考えて貰いたい。抑止とは、定義上、 引き起こされる結果について疑念を起こさせ、恐れを植え付けることによって、ある行為や出来事を止めさせることである。つまり、ゲラシーモフが実際に言いたいことは、ロシアは米国にとっては受け入れ難い結果をもたらすことができる通常兵器、あるいは、非核戦力を有しているということだ。これはまったく新しく、基本的に形勢を一変させるものである。一番重要な点は、米国は技術的な優位性を持ってはいないこと、ならびに、米国は圧倒的な報復攻撃に対して脆弱であり、通常兵器に対してさえも脆弱であることについてロシアの高官が公言したことである。ひと言で言えば、ゲラシーモフ将軍は米国の地政学的理論におけるもっとも重要なふたつの神話が誤りであることを示したのだ。

米国側の相手とは異なり、ロシア人はロシアの軍事力を典型的に過小評価する傾向にあることを念頭に置いて欲しい。ロシアのメディアはロシア製の武器システムが「世界でもっとも恐ろしいものであり、最高である」と自慢している様子を見ることができるが、ロシアの軍人はロシア軍については機密を守り、本当の能力を過小評価するという組織としての文化を共有している。さらには、下級将校は言いたいことは何でも喋ることができるが、上級将校は、特に代行将校の場合は厳しい規則を守り、自分が喋る一語一語の重さを測りながら喋ろうとする。参謀本部長がロシアは通常兵器による抑止力を持っていることを宣言した場合、あなたは彼の言葉を持って銀行へ出かけることさえも可能だ。彼の言葉は本物なのだ。

ロシアの空母が北海から地中海に移動した際、西側のメディアが依然として「完全な馬鹿者」モードに浸り切っている様子をわれわれは目撃した。一方では、アドミラル・クズネツフを錆びついた古バケツとして描写し、他のNATO軍は同空母はロンドンを攻撃するかも知れないとして恒常的に尾行した。同様に、米国の政治家はロシアを「ガソリンスタンド」になぞらえ、このガソリンスタンドはホワイトハウスの住人を誰にするかを決断する能力を持っているとさえ言った。この種の報道はまったく有用ではない。そればかりか危険でさえもある。一方では、「ロシア人は後ろ向きだ」という見方は傲岸で、うぬぼれた態度を育てる。他方では、ロシアの脅威に関するフェークニュースを恒常的に報じる。これらの行為はロシアの脅威のすべてが(実際の脅威を含めて)純粋なプロパガンダであるとして排除されるに至るという、言わば、「オオカミ少年」的な非常に危険な状況を招きかねない。もちろん、現実はそれとは非常に異なり、単純で、二元的でさえある。つまり、ロシアは米国に対しても、(バルト三国も含めて)他の何処の国に対しても脅威をもたらすことはない。しかし、もしも西側のある政治家が自分はナポレオンやヒトラーよりも遥かに賢くて、強力であり、彼がついに「ロシアを跪かせるんだ」と決断したならば、彼と彼の国家は徹底的に破壊されることになるであろう。それは実に簡単なのだ。 

セイカー

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

この著者は彼特有の語り口を持っている。それは分析能力と論理的な思考力によって裏付けされたものであって、強力な説得力を形作っている。

著者は、冒頭で、『・・・何故ならば、戦争を推進する連中(ネオコン統一党)は、明らかに、ロシアとの紛争を引き起こそうとやっきになっているからだ。私が本日何を提起したいかと言うと、もしもロシアが攻撃を受けたならば、米国のもっとも神聖な象徴である空母や米本土が速やかに報復攻撃を受け、破壊されるということをここに示すことによって、「対ロ戦争」と「個人的な悲惨さ」というふたつの異なる事象をしっかりと結びつけたいのである』と述べている。

そして、後半においては、『・・・ジョルジュ・クレマンソーはかって「戦争は極めて真剣な行為であるから、軍人どもに任せてはおけない」と言ったと報じられている。私は、これとはまったく逆の状況が真だと思う。戦争は極めて真剣なことであるから、民間人、特に、米国のネオコンの連中(連中のほとんどは制服を着て戦場に行ったことなんて一度もないのだ)に任せてはおけない。彼らは次の戦争は容易く、安全で、苦痛を伴わないと何時でも言う。ケン・エイドルマンがイラクなんて「簡単に勝てそうだと言ったことをご記憶だろうか?・・・と述べ、著者の主張は真骨頂に達した。

ネオコンの連中が軽々しく口にする威勢のいい言葉、たとえば、「米軍の優位性」、「新冷戦」、「対ロ戦争」、ロシアに対する「先制核攻撃」といった言葉は実に危険であり、事実に基づいてはいないことから、政治的には極めて不健全であると私ははっきりと理解した。

米軍部の独走による自作自演作戦、世界規模の核戦争への拡大、さらには人類の絶滅という連鎖を断ち切らなければならない。そうするためには一般市民(つまり、われわれ自身)の覚醒が如何に重要であるかをこの記事によって思い知らされた。

この記事を最後まで読んでみて、著者がこの記事で意図した事柄は十分に伝えられていると感じた。最後に残るのはわれわれが何処まで正確に理解したかである。

この著者が述べている内容は誇張されていると言う人たちが少なからずいることであろう。もしもこれが誇張された内容であると反論するならば、その反論の基礎となる証拠を示さなければならない。そういった証拠が提示されるまではこの著者の見解は100パーセント有効であると言わざるを得ない。




参照:

1Debunking Two American Myths: By The Saker, Information Clearing House, Nov/10/2017