安倍首相はドナルド・トランプ大統領の日本訪問に先立って、「日米同盟の絆をさらに確固たるものにしていきたい」と記者会見で述べた [注1]。
しかしながら、米国による単独覇権から多極的世界に移行する際に、いわゆる「ツキジデスの罠」に米国が陥ったとしたら、「日米同盟の絆をさらに確固たるものにする」という政治目標は日本にいったい何をもたらすのであろうか。米国の現実の対中政策を見ると、米国は最後の最後まで軍事力に頼って台頭する中国を抑えようとしている。最悪の場合は戦争だ。
米中間の通貨戦争(つまりは、覇権争い)に当たっては、米国は日米同盟を通じて日本に対してどんな役割を求めてくるのであろうか?その展開次第では、これは日本人にとっては死活問題となりそうだ。
この問いかけに対する答の内容は人さまざまである。
ここに、最近の記事がある。「中国のペトロ・ユアンが軍産複合体によって支援されている米ペトロ・ダラーに挑戦し始めると、通貨戦争が激化」と題されている [注2]。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有してみたいと思う。もちろん、ここに述べられている見方はいくつかのあり得るシナリオの内のひとつである。
<引用開始>
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米ドルの価値が低下し、それに伴う地政学的状況についてあれこれと考える際に決まって私の頭をよぎるのはジェラルド・セレンテの言葉である。彼はTrends
Research Institute の創立者であって、「すべてに失敗した時、彼らは戦争を始める」と述べている。米ドルが世界の準備通貨の座を失いつつあることから、世界戦争は現実として避けようがないようだ。特に、中国やロシアおよびイランが米ドルをうっちゃって、中国の「ぺトロ・ユアン」といった他の通貨を使おうとする戦略的な動きをとる場合には、ことさらにそう思える。中国は原油先物市場での新たな取引を金に裏付けされた自国通貨「ユアン」で行うことを決定している。これは世界経済の力学に大きな変化をもたらす。中国は今年末にはペトロ・ユアンを立ちあげる準備をしており、これは世界の準備通貨としての米ドルに脅威を与えよう。
第二次世界大戦が終焉に向かっていた頃、国際経済システムは最悪の状態にあって、新しい経済システムを作る案が浮上した。1944年7月、730人超の代表者がニューハンプシャー州のブレトンウッズで開催された国連の金融財政会議に集まり、ブレトンウッズ協定に署名した。この協定は国際復興開発銀行(IRBD)や国際通貨基金(IMF)の設立に向けた規則や規制方針を設定しようとするものであった。IMFの主要な目的は支払いにおける一時的な不安定を防止することにあった。ブレトンウッズ協定の枠組みは各国間の貨幣価値を制御することであった。各国は自国通貨が金に対して定められた一定の為替レートの範囲内に収まるよう所定の通貨政策を維持しなければならないとされた。1971年、米国は米ドルの金との兌換性を中止した(当時、金の固定相場は1オンス当たり35米ドルであった)。これで、ブレトンウッズ体制は終わり、米ドルは不換紙幣となり、中央銀行(特に、連邦準備銀行)は「いくらでも増刷する」ことが出来るようになった。
中国の動きは何らかの影響をもたらす。まずは、ワシントン政府が如何なる国家に対してでも必要に応じて経済制裁を課す能力に対して、中国の動きは間違いなく影響を与える。それと同時に、輸入品がより高価になることから、米国の消費者の購買力を徐々に低下させることになろう。
原油の最大輸入国である中国(米国の債務を世界でもっとも大量に保有している)と世界でも最大級の原油輸出国であるロシアはペトロ・ダラーをうっちゃって、ペトロ・ユアンを使うことに同意した。ワシントンの敵国であるイランやベネズエラ、さらには、インドネシア(目下のところ、ワシントン政府のリストには記載されてはいないが)、等を含めて、幾つかの国家が原油の決済で米ドルからペトロ・ユアンに移行することに関心を示していることから、ペトロ・ユアンは全世界に覇権を行使する米ドルにとっては脅威となる。
「中国は米ドルを王座から引きずり降ろす壮大な計画を持っている。同国は年内にも強力な動きを開始する」と題したCNBCの記事において、米ドルを迂回し、ペトロ・ユアンを使うという中国の計画に関してこの大手メディアは国際社会に対して次のように報じている:
中国は世界における米ドルの優位性に対抗して大きな動きを始める考えだ。それは年内にもやって来るかも知れない。この新戦略はエネルギー市場からの協力を求めることになるが、現在国際市場で優位を誇っている米ドルに基盤を置いた取引とは違って、この新基準は中国の通貨を用いるものだ。中国政府が望んでいるように、もしもこれが広く採用されることになれば、世界でもっとも強力な通貨である米ドルに挑戦する第一歩を記すことになろう。
中国は世界でもトップの原油輸入国であり、北京政府は自国の通貨が世界経済においてもっとも重要な商品の価格を示す際にユアンを使用することは当然だと考える。しかし、それだけではなく、米ドルから別れを告げることは中国やロシアといった国々にとっては戦略的な優位性をもたらしてくれる。両国は米ドルへの依存性を軽減し、米国通貨に伴うリスクや米国の経済制裁に曝される危険を限定的なものにしようとしているのである。
ドナルド・トランプ米大統領が先頭を切って相手を非難していることから、ワシントン政府にとっては北朝鮮との戦争は避けられそうにはない。米ドルの威力を生命維持装置に繋いで、借金漬けとなっている米帝国は戦争を脅かしの道具として使う。時には、世界の至る場所で、たとえば、米国のリストに記載されているイランやシリア、ベネズエラで実際に戦争をする。イランやロシアはワシントン政府が課す将来の経済制裁を避けるためにすでに米ドルから徐々に移行しようとしている。ロイター通信はべネヅエラの原油輸出の国際決済に関するマドウーロ政権の決定について報道をした。「ベネズエラのマドウーロは米ドルを避けて、ユアンを採用すると言う」との表題を持った報告記事はベネズエラの首都カラカスの連邦議会宮殿で開催された国家選挙人集会でマドウーロ大統領が述べた内容を次のように引用している:
「べネヅエラは新しい国際決済システムを実施する予定で、米ドルの軛からわれわれを解放してくれる通貨バスケットを新設する」と、新たに選出された立法府で行った何時間にも及ぶ演説の中でマドウーロが述べた。しかし、詳細については言及しなかった。「もしも彼らがわれわれに米ドルの使用を求めるならば、われわれはロシアのルーブル、ユアン、円、インド・ルピー、ユーロを使う心積もりだ」とマドウーロは述べた。
CNBCから報道されたもうひとつの記事は「中国はサウジアラビアに対して原油輸出はユアンで決済するように迫るだろう。これは米ドルに影響を与える」と題されているが、High
Frequency Economics社でチーフエコノミストおよび最高経営責任者を務めるカール・ワインバーグはインタビューを受けて、「中国は世界でも最大の原油輸入国であり、サウジアラビアがペトロ・ユアンの使用を強いられた場合、どのようにして米ドルは世界における優位性を失うのか」に関して説明を求められた:
中国が「世界でもっとも大きな原油輸入国」の座を米国から奪ってからというもの、原油の需要に関しては北京政府がもっとも影響力のある役目を担っている、とチーフエコノミストであり最高経営責任者であるカール・ワインバーグは述べた。
「サウジアラビアはこの事実に関心を寄せなければならない。何故かと言うと、今から1年か2年の内にさえも、中国の需要は米国のそれを遥かに凌ぐことになろう」とワインバーグは言う。「原油をユアンで価格設定をする事は間違いなくやって来ると思う。中国に催促され、サウジがそうすることを受け入れた暁には、他の原油市場の参加者たちもそれに従うことだろう。」
米ドルは世界の準備通貨としての地位をゆっくりと失いつつあるが、中国との戦争はあり得るか?米国は中国に対する断固たる警告として北朝鮮を攻撃するのか?あるいは、米ドルを救うために中国をこの紛争に引きずり込むのか?サダム・フセインはイラクからの原油輸出で米ドルの代わりにユーロを使おうとし、リビアのムアンマル・カダフィはアフリカ大陸における米ドルの座を奪って、ゴールド・ディナールを使おうとした。イラクとリビア両国のこれらの決定は米軍およびNATO軍によって両国を破壊する結果となった。米国は中国に対してもこれと同じことをするのだろうか?中国は米国からの攻撃に対して自衛することが可能であることから、私は断じてそうはならないと思う。中国はイラクでもなければ、リビアでもない。もっと長い目で見た場合、対中戦争は起こるのだろうか?米国はゆっくりとしたペースで崩壊しつつある中で、ワシントン政府はその生存を賭けて何でも実行するであろう。米ドルは軍産複合体を支え、彼らが世界中で展開する破壊的で非常に金のかかる冒険を支えているのである。
ペトロ・ユアンの立ち上げはいわゆる「脱ドル化」を加速する。しかしながら、大手メディアにはペトロ・ユアンが近い将来米ドルを駆逐するとは考えない人たちが居ることも事実だ。たとえば、ブルームバーグのデイビッド・フィックリングは最近「ペトロ・ユアンの時代はやって来なかった」という記事で次のように述べている:
たとえば、中国の大連商品取引所でもっとも多く取引されている鉄鉱石に注目してみよう。本土の商品市場では近年熱病に冒されたような行動が観察されている。売値と買値との間のかい離はロンドンやニューヨークにおける主要な取引におけるそれに比べると依然として何倍も大きいのである。そのような状況は取引コストを高め、乱高下を激しくさせ、価格形成を弱める。そして、
原油の大手消費国としては、北京政府はそのような変化には反対する筈である。
配慮すべき生産国も存在する。中東の輸出国のほとんどは自国通貨を米ドルに固定している。原油価格のユアン建てへの切り替えは自国の予算に外国為替リスクを招じ入れ、どう見ても利得はほとんどない。特に、それは中国が一般に輸出総額の20パーセント未満を消費するだけであるからだ。
それは計画された契約がまったく無用であることを意味するものではない。中国は自分たちの目的により適合したベンチマークを持つことによって恩恵を被ることだろう。西側の主要契約の対象となる原油は硫黄成分が低い原油であることとは対照的に、これは特に中国市場で主として消費される中程度に硫黄成分を含む原油を反映したベンチマークの場合だ。
ユアンが世界を変えるなんて期待するな。経済の中心が東へ移動している中にあっても、ウェスト・テキサス原油や北海原油との関連付けは今後何年にもわたってそのまま強力に残っていることだろう。
書籍「Currency
Wars: The Making of the Next Global Crisis」の著者であるジェームズ・リッカーズは、次に示すように、フィックリングの分析に対してもっとも強く反論するひとりである:
米国内で紙幣を増刷することは中国ではインフレ率を高め、エジプトでは食料品価格を高騰させ、ブラジルでは株式市場のバブル化をもたらす。紙幣の増刷は米国の借金が低く評価されるので、海外の債権国はより安くなった米ドルで返済を受け取ることを意味する。米ドルの価値が低く評価されると、発展途上国からの輸出品は米国市民にとってはより高価になることから、貨幣価値の低下はそれらの発展途上国ではより高い失業率をもたらす。その結果起こるインフレは発展途上国の経済に対するインプット、たとえば、銅、トウモロコシ、原油、小麦、等の価格の高騰を意味する。海外各国は米国発のインフレに対しては補助金や関税、資本規制を実施して対抗する。通貨戦争の影響は急速に広がって行く。
米ドルはワシントン政府自体の経済や外交政策、ならびに、政府とウオールストリートの銀行カルテルや多国籍企業および軍産複合体との間の共謀のせいで失墜しつつある。「カイザーリポート」のマックス・カイザーはRTニュースのインタビューを受けて、どうして世界は米ドルを避けようとしているのかに関して次のような説明をしている:
世界中の国々は「借金帝国」の一員として米国の軍国・冒険主義に資金を提供し続けることに、つまり、米ドルを支えることにすっかり疲れてしまっており、これらの国々は「脱ドル化」に加わろうとしている、とカイザーは言う。米ドルは米国の基盤であり、主要な製品でもあることから、米国の金融界や軍産複合体は、戦うこともなしに、米ドルの覇権を諦めるようなことはしない。そして、米国はもうひとつのお気に入りの道具である戦争を活用することだろうとカイザーは言う。
「多分、彼らは日本と中国の間で戦争を引き起こすだろう。あるいは、北朝鮮との戦争を始めるかも知れない。米ドルを世界の準備通貨の座に維持するためであったら彼らは何だって実行するだろう」と、カイザーは言った。「彼らはアフガニスタンへ侵攻したように国家を侵略する。彼らを押しとどめる物なんて何もない。何故かと言うと、これこそが帝国の基盤なのだ。米国は土地に基盤を置くわけではなく、有形財に基盤を置くわけでもない。米国はレントシーキング(制度や規制の改正などによって超過利潤を追求すること)に基盤を置く。米ドルを無事に着陸させ、収益を持ち出し、もはやその国が支払いを履行することが出来なくなると、資産を解体し、それらを取り上げる。われわれはこの手法を南米で見て来た。これこそが米帝国を築き上げた方法なのだ。」
あなたご自身が同意をしようが、同意をしたくはなかろうが、通貨戦争はすでに始まっている。われわれは誰もが近い将来の数か月、あるいは、数年間注意深く観察し、米ドルの優位性を維持するためにワシントン政府がどこまで深入りするのかを見極めたいと思う。中国がペトロ・ユアンを立ちあげようとしていることからも、米国は北朝鮮に対する戦争を始める積りなのかも。
<引用終了>
これで全文の仮訳は終了した。
われわれ日本人にとっては、マックス・カイザーが喋った一言が恐ろしい。米国の戦争を推進する勢力をこう描写している: 「米ドルは米国の基盤であり、主要な製品でもあることから、米国の金融界や軍産複合体は、戦うこともなしに、米ドルの覇権を諦めることはない。そして、米国はもうひとつのお気に入りの道具である戦争を活用することだろう」と。そして、さらにこう付け加えた。「多分、彼らは日本と中国の間で戦争を引き起こすだろう。あるいは、北朝鮮との戦争を始めるかも知れない。米ドルを世界の準備通貨の座に維持するためであったら彼らは何だって実行するだろう。」
ここには戦争を巡る米国政治の本当の姿が率直に描かれている。
日米同盟の基本的な進め方として、有事の際には日本の自衛隊は米軍の指揮下に入るとされている。米国大統領ならびに彼を取り巻く軍産複合体の考え方に関して日本人の立場から予想し得る最悪の状況を纏めてみよう。
米軍の最高軍事司令官は米国本土を戦場にしたくはない。中国と戦う場合も例外ではない。仮に米国の同盟国である日本が対中戦争で戦場と化したとしても、それは米国にとっては太平洋を挟んで遥か彼方にあるアジアの国の問題であるのだ。たとえ日本が壊滅的な破壊を被ったとしても、そのこと自体は米国にとっては依然として戦術的な意味しか持たない。イラクの戦場で米軍の報道担当者によって記者会見の場で頻繁に用いられて来た「巻き添え被害」という言葉があり、この言葉はそのような深層心理を見事に象徴している。最終的には、米国本土を戦場にはしないという戦略が実現できさえすれば、日本が戦場になって、巻き添え被害が甚大になったとしても、米国にとっては痛くも痒くもないのだ。
戦争をどこかで継続していなければ一国の経済が成り立たないという体制は実に不健全である。米国の政治経済システムは末期的な成人病に蝕まれている。そして、日米同盟はその現状を支えようとさえしている。これは真の友人が相手に対してすることではない。
参照:
注1:安倍晋三首相「日米同盟の絆をさらに確固たるものにしていきたい」: 産経ニュース、2017年11月5日
注2: A Currency War Will Escalate as China’s ‘Petro-Yuan’
is Set to Challenge the U.S. Military-Backed ‘Petro-Dollar’: Timothy Alexander Guzman,
Silent Crow News, Nov/02/2017
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