軍備はそれを設計し生産した企業が主張するような能書き通りの性能を発揮するとは限らない。そのような事例は過去においても無数にある。
特に、「弾丸を弾丸で撃ち落とすようなものだ」と形容されるミサイル防衛システムはこの議論を避けて通ることはできないであろう。
さまざまな試射が実施され、たとえ成功裏に終わったとか、成功率は何パーセントだとかの報告をされても、あくまでもそれは試射が成功裏に終わるように注意深く計画され、理想的な条件下で実施されたものである。したがって、実戦での成功率は公表されている数値よりも当然低下すると推論することは極めて妥当である。
実戦においては、弾道ミサイルの発射には相手のレーダー網を撹乱するためのさまざまな手段が併せて用いられる。囮のミサイルさえもが登場してくる。こうして、相手側の仰撃ミサイルの命中率は低下する一方となる。
どこの国であっても、ミサイル防衛システムの配備がすでに進行し、あるいは、完了している場合、世論を乱したくはない政府側は国民に向かって最新式の防衛システムを用いることによって北朝鮮から撃ち込まれて来る弾道ミサイルを撃墜すると説明する。ミサイル防衛システムを売り込む企業あるいは企業連合は、議員の買収さえをも含めて、巧みな販売戦略を総動員して、説得したり、持論を継続する。たとえそのシステムが未完成の代物であってもだ。耳に心地が良い説明を聴かされて、技術的な詳細情報に関しては何も知らない、あるいは、知ろうともしない市民は多くが安心する。こうして、政府は現実には成功率が非常に低く、市民が安心することができるような代物ではないミサイル防衛システムであっても、その受け入れについて世論の形成に成功するのである。
問題は実戦時の命中率だ。ミサイル防衛システムがそのメーカーや政府が言う程にはその性能に期待することができないとしたら、どうだろうか?北朝鮮から核ミサイルを撃ち込まれた場合、韓国や日本の市民は北朝鮮の核兵器によって一瞬のうちに蒸発することになる。最悪の場合、何百万人もの市民が犠牲となりかねない。(予想される犠牲者数に関しては専門家が推算したデータがある。詳細については10月24日に掲載した「もしも北朝鮮が核攻撃を行ったとしたら、日本の被害の大きさはどれ程になるか?」と題した投稿をご覧ください。)
今、米国で議論されている事柄はまさにこの点である。北朝鮮の核ミサイルがシアトルやサンフランシスコあるいはロサンゼルスに飛来し、無数の市民が犠牲となるかも知れないのだ。米国には軍需産業が米政府に納入したさまざまな種類のミサイル防衛システムが存在する。それらは短距離から長距離まで、そして、低高度から高高度までを網羅すると政府は説明する。
ところで、ここに「米ミサイル防衛システムは詐欺行為だ。われわれは皆殺しにされるかも・・・」と題された記事がある [注1]。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。これはわれわれ日本人の生命にかかわることでもある。米ミサイル防衛システムの実態に関しては最新の情報を少しでも多くおさらいをしておきたい。
<引用開始>
Photo-1: 相互確証破壊だって?奴らを核攻撃せよ!
物事に対する見方を完全に180度も変えてしまうようなことを読んだり、観察したりすることが時にはある。
先週そのような経験をした。私はジョ―・チリンチオーネが書いた「ミサイル防衛の常識に対する申し立て」と題されたLobelogに掲載された記事に遭遇したのだ。その記事の著者は以前下院外交委員会でその職員として働いていたことがあり、現在はワシントンDCに本拠を置き、核・化学・生物兵器の拡散防止を目的とする国際的な基金「プラウシェア・ファウンデーション」でその長を務めている。
この記事はミサイル防衛に関してホワイトハウスや国防省が主張する筋書きの多くが偽りであることを暴いている。
1812年の米英戦争にまで遡って歴史を辿ると、戦争を正当化しようとして連邦政府が述べる説明は何でも疑ってかかることは極めて妥当である。
イランや北朝鮮に対する米国の好戦的な姿勢は米国自身のためにも十分に非難するべきである。米国にとっては、これらの国々が実際的な利害関係をもたらすわけではない。それにもかかわらず、これらの国に戦争の脅しをかけたり、さまざまな理由から外交的な解決策を意図的に排除してしまっている。
軍事力を誇示しながらも、それについて何の罰も受けないままに米国がやり過ごして来た本当の理由は歴史的な側面にある。米国の大陸部は1916年にパンチョ・ビリャによる侵入を受けた時点以降は国内で戦争を経験したことがない。米政権は如何なる政権も対外政策を履行する際には自分たちがしたいことをして来た。彼の国で何が起ころうとも、それは彼の国の出来事なのである。
結果として米国人は戦争を知らない。戦争は何処かよその国で起こり、外国の連中の身に降り懸かるものなのである。時には米国が仲裁に入ることが必要になり、特定の事柄を救済する。あるいは、その時の政権の見解次第では物事をさらに悪化させたりもする。
これこそがジョン・マケインのようなタカ派の人物がジョ―・バイデン前副大統領から「自由」のメダルを贈呈された際に、真面目な顔をして、世界の警察官の役割を演じることにすっかり飽きてしまった米国人を公然と非難することができた所以でもある。
「われわれが作り上げた世界、そして、1世紀の四分の三近くにもわたって支配して来た世界を怖がっており、世界中に浸透させた理想を捨てようとし、世界の指導者の役割を担い、地球上の最後の希望として存在する義務さえをも生焼けで、間違いだらけの国家主義のために拒もうとしている」と言って、彼は米国人を描写している。
最近の世界の歴史に関してマケインが説こうとした説明は実体を完全に欠いており、この種の説明は自分の戦闘機を墜落させ、自分の空母を沈没させそうにしたことのある海軍パイロットには打って付けだ。また、彼は捕虜となってからは北ベトナムのラジオ放送のためにプロパガンダさえをも行った。不幸な事には、マケインのこの世界支配主義者的であり、米国例外主義者的でもある物言いにメディアも同調しているのである。
虚偽や半なまな真実を恒常的に鵜呑みにして来た事実が終わることのない防衛費の増加要求に対して一般大衆がじっと我慢している背景にあるのだ。そして、外界世界は危険な場所であって、避けては通れない場所として受け入れなければならない。当然ながら、われわれ自身は善良な市民なのである。
しかし、世界を「安全な場所」として維持するためには軍部は外国に設けた米軍基地によって全世界を取り囲むべきだとする見解が一般市民に喜んで受け入れて貰える根拠は48州が危険に曝されることがなく、広大な大洋によって遮られ、南北には友好的な国家を持っているという想定に基づいている。海外の敵が発射する弾道ミサイルを仰撃し撃墜するために莫大な費用を投じて開発し、維持してきた最新の技術や仰撃システムを使用することによって遠隔の地の敵国からもたらされる脅威からは防護されるという構図だ。
北朝鮮に関する最近のスピーチにおいて、ドナルド・トランプ大統領は米国のミサイル防衛システムは97パーセントの有効性を有し、100回のうちで97回は米国へ侵入して来る弾道弾を仰撃し、撃墜することができるのだと言って、自慢した。
トランプは海の向こうの北朝鮮で何が起ころうとも、北朝鮮が米国の大陸部に望ましくない結果をもたらすことはできないし、ハワイやアラスカならびにグアムに対しても同様だと述べて、一般大衆を安心させようとした。これらの地域は対ミサイル防衛網によって防護されているのだからと。
トランプは詳細に関しては多くの事柄について無知であるとは言え、疑いもなく、彼はアラスカやハワイの地上配備型ミッドコースミサイル防衛システム(GMD)のことを言及している。これらの施設は3,300憶ドルにも達するミサイル防衛システムの一部を構成するものである。
われわれの政府が海外で何をしようとも、米国が核兵器や通常兵器による物理的な攻撃を受けることがないとすれば、確かに、それは政府の行動に一般大衆を追従させる威力があると言えよう。しかし、これは本当なのだろうか?もしも仰撃能力がゼロパーセントに近いとしたらどうだろうか?
それは北朝鮮と戦争をするという考えを変えさせることになるのであろうか?あるいは、東欧でロシアに対抗するという考えについてはどうであろうか?
核兵器による応酬なんて想像することもできないと考える人たちにとってはジャック・キーンが発した最近のコメントを念頭に置くことが賢明であろう。彼は元将軍で、ネオコンの間でも指導的な地位を占め、すでに報告されているように、この件に関してホワイトハウスの耳を持ち、ホワイトハウスの考えを反映している。
キーンには平壌に対して軍事的選択肢を採用することに躊躇するような気配はまったくない。北朝鮮の核施設を潰し、「指導層の目標人物」を排除するためには、北朝鮮における核弾頭ミサイルの設定は何と言っても米国を狙うものであることから、米国側が攻撃の引き金を引くことはあり得ると彼は言う。
ある観測筋によると、北朝鮮は核兵器を小型化する能力を獲得することが真近に迫っており、もしもキーンが言っていることを信じるとするならば、それはまさに「戦争行為」であり、ワシントン政府は直ちに攻撃の火ぶたを切るであろう。それに応えて、平壌は報復攻撃を行う。
米国のミサイル防衛システムは97パーセントの成功率を持っているとの主張はチリンチオーネや他の専門家から反論を受けている。米国は「敵のミサイルを何度かは撃墜することができるだろう」と彼は言う。
彼らは幾つかの説得力のある議論をしており、それらは関連の物理学を理解してはいない素人にとってさえも分かり易い。簡単に纏めてみよう。
まずは、ミサイル仰撃機はその目標物に衝突するか、あるいは、効果的であろうとすれば目標物の近傍でそれ自身の弾頭を爆発させなければならない。どちらの手法であっても、達成することは実に困難である。
大陸間弾道ミサイル(ICBM)は毎秒5,000メートルの速度で飛来する。因みに、ライフル銃から発射される弾丸はその五分の一の速度でしかない。
ライフル銃を持った二人の男が相手から1マイル程離れた位置から銃を発射し、弾丸をお互いに衝突させる場面を想像してみよう。もしも弾丸ではなく、ミサイルを言及したいならば、その速度は5倍になることを考えなければならない。
たとえもっとも優れたレーダーやセンサーならびに最新の誘導システムを使用する場合であっても、この仕事に関わる複数の変数は相手を撃墜することに成功するよりも、むしろ、失敗する頻度を高めるであろう。チリンチオーネは「相手の弾丸を撃ち落とせる唯一の可能性は相手の弾丸が協力してくれる場合だけだ」と言う。
二番目に、信頼性を断定するためにペンタゴンが行った試射は、基本的に言って、詐欺的でさえある。ドナルド・トランプのコメントとは対照的に、1機の仰撃機では56パーセントの精度しかない。しかも理想的な条件下での話であることを補うために、97パーセントという精度は一機の目標物に対して4機の仰撃機を発射するという手法に基づいて外挿したものである。
この統計値は1999年以降に実際に行われた試射の結果に基づく数値であり、仰撃機は18機の目標に対して10機を撃墜することに成功しただけである。4機の仰撃機は97パーセントの命中率を達成するだろうという結論は複数の仰撃機は全体の精度を増してくれるだろうという考え方からである。しかし、もしも一機の仰撃機が技術的な欠陥から目標物を撃墜することができないとするならば、4機すべての仰撃機は同じ理由で撃墜には失敗するだろうとほとんどの技術者は主張するのではないだろうか。
試射そのものが首尾よく成功するように、台本は注意深く書かれている。最大の視認性を得ようとすればより好ましい時間帯は夕刻であるが、日中の良好な気象条件の下で実施され、飛来するミサイルは電子的対抗策やチャフまたは幻惑材のような仰撃機を惑わす手段は一切含めずに試射が実施されている。
試射のために目標となるミサイルを発見し易くするために、時には、ミサイルを加熱したり、見失うことがないようにミサイルには応答装置を装着した。結果として、このミサイル仰撃システムは戦場における実際の条件下では一度も試射を行ったことがないのだ。
政府説明責任局はこの技術における欠陥を「故障モード」と記述しているが、これらの欠陥は米国は意図した通りには作動しない仰撃システムを所有していることを意味する、と同局は結論を下した。カリフォルニア選出の下院議員のジョン・ゲイラメンディは「この答えは完全に明白だと思う。このシステムは作動しそうもない。それでもなお、恐怖心の勢い、投資の勢い、さらには、産業界の勢いがあって、これを推進しているだけだ」と述べ、批判した。
国防省内の運用試験や評価を行う部門も懐疑的である。 アラスカやハワイの地上配備型ミッドコースミサイル防衛システム(GMD)は「・・・北朝鮮から発射された少量の中距離ミサイルまたは長距離弾道ミサイルから米本土を守る能力は限定的である・・・ 運用可能な仰撃機の信頼性や入手可能性は低い」と報告している。
北朝鮮からのミサイル攻撃を仰撃する能力に関するホワイトハウスの危険なまでに過剰な自信は部分的には虚勢でしかなく、平壌がミサイルの発射を始めれば、北朝鮮は廃墟と化し、米国は無傷のままに残ることを平壌に自覚させようと意図したものだ。
しかしながら、ともかくも、巧妙に手際よく物事を進めることがない大統領の下にあって、私はそれが事実であるとはとても思えない。そして、北朝鮮は核兵器やICBMを作ることが可能であり、米国のミサイル防衛網の欠陥については、他の誰もが知っているのと同じように、十分に理解していることであろう。
しかし、本当の危険に曝されるのは政府によって嘘を吹き込まれている米国の市民だ。16年間にもなる戦争を可能とし、さらに継続されている「テロとの戦い」が自分の身に危険を及ぼすことはなく、これが自明の理であるとするならば、戦争は考え得ることであり、核戦争さえもが起こり得る。これがホワイトハウスからのメッセージであるとすれば、安全保障を重視する国家には無謀な冒険主義をさらに鼓舞することになるのではないか。
北朝鮮の脅威を真剣に受け止めた方が遥かにいい。シアトルのような西海岸の都市は核兵器攻撃の目標になり得ることを認めるべきではないか。
そうすれば、戦争は現実の生活に影響をもたらし、馴染ではない正直さを注入しさえすれば、多分、国連や連邦議会の演説で脅しをかける代わりに、平壌と真剣に交渉するべきだとする市民の要求が沸き上がって来るのではないか。
原典: The Unz Review
<引用終了>
米政府内の「政府説明責任局」や国防省の運用試験や評価を行う部門がミサイル防衛システムの有効性を疑っているにもかかわらず、この防衛システムは修正を施さないまま、放置されて来た。換言すれば、技術開発が出来ないまま、今も改良型を配備できないままであると言うべきかも知れない。
政府の説明を鵜呑みにする限りはこの現状はまったく意外である。要するに、現在配備されているミサイル仰撃システムは軍産複合体が述べた美辞麗句に乗せられて、米国や日本および韓国、ならびに、EUは米国製のミサイル防衛システムの導入を決めたということを意味する。上記に引用した記事の表題に「詐欺行為」という文言が現れるが、まさに格好の表現であると言えよう。
同システムの有効性がゼロに近いことを米政府が認めた場合はメーカーあるいは政府の誰かが責任を取らなければならないことから、政府内の官僚主義的な力学や政治的な思惑から隠蔽が続いて来たのではないかと思う。北朝鮮からの核ミサイルの脅威を受けて、今まで隠蔽されていた大嘘がばれたとは滑稽でさえもある。
北朝鮮の核兵器の脅威から日本の市民を防護するために、日本政府は米国のイージス・アショア・システムを導入したいと言っている。一般市民はこのシステムの有効性に関して十分に理解しているのであろうか。日本の市民にとっては、この疑問に関して技術的に正確な答を求めることが何よりも重要であると思う。
参照:
注1: US
Missile Defense Is a Scam That Could Get Us All Killed: By Philip Giraldi,
Oct/25/2017, russia-insider.com/.../us-missile-defense-scam-could-get-us-all-...
0 件のコメント:
コメントを投稿