2018年12月22日土曜日

トランプは軍・安全保障複合体によって潰された


トランプ米大統領の今後の政策が怪しくなってきた。少なくとも、最近の記事 [注1] によると、トランプはついに軍・安全保障複合体によって潰されたとのことだ。

この記事が言うようにトランプが軍・安全保障複合体によって潰され、ネオコンや好戦派の言いなりになってしまったとすれば、今後のトランプ政権の対外政策は大きく変わることだろう。

彼が2年前の大統領選で公約した「対ロ関係の改善」は限りなく遠のくこととなる。

「対ロ関係の改善」を促進する代わりに、新冷戦の構図を維持し、世論を誘導するために、大手メディアは、2016年の大統領選で起こったと彼らが主張するロシアの干渉は実証できなかったものの、またもや「ロシア人がやって来る」と大合唱を再開することだろう。在りもしないロシアの脅威を絶え間なく喧伝することによって、日本を始めとする米国の同盟国は不要な米国製武器を大量に購入させられ、年中行事化した合同軍事演習のために莫大な費用を拠出させられる。こうして、米国の軍需産業だけは短期間の内に大きな利益をあげることが可能となる。

これこそがディープステーツの狙いだ。世界平和は彼らの最大の敵なのだ。

ロシア、中国、その他の反米諸国は米国とその同盟国に対峙することになる。米国の最終的な目標はロシアや中国が地域覇権国として存在し、さまざまな天然資源を有するユーラシア大陸を自分たちの影響圏に含めることである。覇権国としての米国の世界観は国連憲章や国際法を遵守し、外交努力を優先する合理的な世界とはまったく異なる。それは軍事力とプロパガンダとがすべてを優先する世界だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

軍・安全保障複合体から自分の身を守るために、トランプ大統領はロシアと和解するという選挙民との公約を投げ出した。まさにネオコンのイデオロギーが米国の覇権を必要とするように、軍・安全保障複合体は1兆ドルにも達する年間予算を正当化するためには敵の存在を必要とするのだ。クリントンやジョージ・W・ブッシュならびにオバマの政権がロシアを敵に仕立て上げたのである。トランプはこれを変えようとしたが、彼の意図は葬り去られた。

ロシアゲートはトランプ大統領を屈服させるために組織化されたものだ。スティーブン・コーエンや私も含めて何人かが主張しているように、ロシアに対する組織化された対峙がもたらす核戦争のリスクは、今や、冷戦時のそれ以上に危険な状況を呈している。冷戦時には、ワシントン政府とモスクワ政府は少なくとも両国間の緊張を和らげ、相互の信頼を構築しようとする政治的意思があった。しかし、21世紀の今、ワシントン政府は信頼感をぶち壊してしまったのである。

ロシア側は非常に忍耐強く、ワシントン政府の侮辱や挑発に対しては喧嘩腰の態度を取らず、それを避けて来た。しかしながら、彼らは、今や、「ロシア側の忍耐は限界に達した」と言い始めている。

アンドレイ・コルトウノフはトランプ大統領を非難しているが、最大の問題はネオコンや軍・安全保障複合体、プレスティチュートのメディアであり、それらの組み合わせである。この組み合わせは全体としてひとりの大統領にとっては途方もなく大きな力を見せた。民主党およびリベラル派・進歩派・左派はこの悲劇の共謀者である。彼らは自分たちの嫌悪感が合理的な判断を損なうのを見ながらも、それを矯正しようとはせず、その結果、核戦争が再び地球上の生命を脅かす状況をもたらしている。

著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士は経済政策を担当する財務省補佐官を務め、ウオール・ストリート・ジャーナル紙の副編集長を務めた。また、彼はビジネス・ウィークやスクリップス・ハワード・ニュース・サービス、クリエイターズ・シンジケートへ寄稿した。数多くの大学から指名を受けている。インターネット上の彼のコラムは世界中で注目を集めている。近著: The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the WestHow America Was LostThe Neoconservative Threat to World Order、等。


参考記事: 「よせばいいのに又もや冷遇: クレムリンは忍耐の限界に達し、トランプに愛想をつかす」(原題:One Snub Too Many: Kremlin Ready to Turn Against Trump as Patience Coming to an End)。タイラー・ダンカン著。Information Clearing House. 2018年12月9日。

(訳注: この参考記事の全文が下記に掲載されています。)

「ロシア側の忍耐は限界に達した」と、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトウノフ議長はブルームバーグに述べている。トランプ政権が発足して2年、米ロ両国の関係は劣化するばかりの今、異例なことではあるけれども、実際にはこれはロシア側の国益を分析する試みである。ロシアゲートで始まり、いわゆる四次元的意思決定という幻想的なシナリオによってトランプの反ロ政策 [訳注:「反ロ」ではなく、「親ロ」ではないかと推測されます] にけりをつけることで終わるというごく一般的に見られる大手メディアの分析と比べると、これは実に対照的だ。

コルトウノフはさらに「この人物と取引をするのは難しく、彼をパートナーとして信頼することはできず、パートナーには向いていないことを示している」と述べている。

氏名は伏せられているが、クレムリン内部の何人かの高官とのインタビューの後、ブルームバーグはロシア側の欲求不満は限界に達していると結論付けた。その報告は「ドナルド・トランプは1カ月足らずの間に2回もプーチンの期待を裏切っている。よせばいいのに又もや、プーチンをすっぽかしてしまいそうだ」と書いている。

最初の出来事は休戦記念日の百年祭を祝う11月11日の週末で、舞台はパリだったが、 ブルームバーグによると、もっと大きな衝撃をもたらしたのはアルゼンチンで開催されたG20のサミットだった。

トランプは2016年の大統領選で選出された後、ロシアの議員たちからは拍手喝采やシャンペーンによる敬意を表されたけれども、トランプの気まぐれな意思決定はモスクワでは日増しに重荷として見なされるようになった。先週、トランプが直前になってG20のサミットでのプーチンとの会合をツイッターでドタキャンした時、ロシアの高官らはあっけに取られたものだ。これは実に醜悪な決断だ、と高官のひとりが述べている。4人の高官(内部事情を喋っていることを認識されることがないように、彼らは名前を伏せるよう求めてきた)によれば、それ以来、ロシア側の欲求不満は募る一方である。

MSNBC流のクレムリン・ホワイトハウス間での秘密の操り人形をあれこれと操作する巧妙な術についてはこれぐらいにしておこうと思うけれども、われわれはそのような退屈なコメントが間もなく和らぐであろうと期待しているわけではない。

同じテーブルにつくことは極めて困難である、あるいは、不可能であると両大国が認めたのだ。これはいったい何を意味するのだろうか?ここにますます危険な兆候を示す得点表があるが、これは世界の安定や平和にとって吉兆であると言えるような代物ではない。ブルームバーグの知見によれば、地政学的な緊張が高まる中で、これは対立する二人の指導者を超すものである。

新たな軍拡競争: 歴史的な中距離核戦力条約を破棄するとのトランプの脅かしによってもたらされる新たな軍拡競争に関してプーチンが警告を発しているように、米国の要求に対抗する備えを固めること以外に、クレムリンにとっては代替策は何も残されてはいない。

制裁: プーチンは前に課された罰に対しては対応策を取ることを控えたが、もしも将来米国が新たな制裁を課した場合には、ロシアは報復措置を採るかも知れない・・・ ロシアが行ったとされる選挙に対する介入に関して米国が新たな制裁を課せば、何か月にもわたって緊張は一気に高まるであろう。

ウクライナ、シリア、イラン: 軍縮、ウクライナやシリアにける紛争、ならびに、イランとの核合意といった厄介な争点に関する米国との話し合いにおいてはロシアは強硬路線を採る。

黒海における軍事的緊張: 安保理の臨時会合においては駐国連米国大使のニッキー・ヘイリーはウクライナの艦船に対する攻撃を「無謀で」、「違法な」行為だとまくしたてた。マイケル・ポンぺオ国務長官は同行為を「危険な展開であり、国際法の違反だ」と述べた。

欧州の安全保障に対する脅威: この地域の軍事的最前線については、もしもトランプが中距離核戦力制限条約から脱退した後に欧州が米国のミサイルを配備した場合、ロシアはそれらの国を目標とすると述べ、すでに脅しをかけている。「ロシアと話をする際には戦力的な立場から話をするな」と、議員のクリンツエヴィッチが警告している。「あんた方はどんな攻撃を受けるかについては何にも分からず、厳しい頭痛に見舞われることだろう。」

外交の扉は閉ざされつつある: 米国議会が(ロシアによる)選挙介入に関して調査を行う中で、トランプが直面する政治的困難についてはロシアの高官は以前は「理解」を示していたものだが、今やトランプに対して大っぴらに疑問を呈するようになった。トランプ大統領はクリミア半島の近海でロシア海軍がウクライナと紛争を起こしたことを非難し、両大統領の会談を中止した。彼の決断は彼の個人弁護士であるマイケル・コーエンがモスクワにおけるトランプの不動産投資の計画に関して議会で偽証をしたことを認めてから数時間後に公表された。

最近、トランプがロシアを冷遇する状況が顕著となっている。クレムリンの報道官を務めるドミトリー・ぺスコフは両大統領のヘルシンキでの会談の際に提案されたプーチンのワシントン訪問は、今や、完全に「問題外だ」と述べている。これが意味するところは来年6月に日本で開催されるG20のサミットの前に両者が会談を持つチャンスはまったく無くなったということだ。G20のサミットの場でさえも怪しい程だ。

参考記事: スティーブン・F・コーエンが言うには「ミュラー特別検察官の捜査に伴って引き起こされた興奮状態はトランプがロシア側と会談を持つことを妨げる。これは国家の安全保障を危険に陥れかねない」 https://t.co/ANv5o6zhmU — RCP Video (@rcpvideo) Dec/04/2018 

ロシア側の政府高官やシンクタンク関係者らの間で重要なテーマは、ロシアはワシントン政府との関係を改善するためには「何かを提供する」ように何時も求められるが、その見返りとしてはその過程でよそよそしい態度に見舞われ、イライラさせられるだけだという点だ。

国内メディアから始まって政府高官に至るまで、ロシア全土の楽観主義は今や衰退しつつある・・・ 

もしも民主党のヒラリー・クリントン候補が大統領に就任していたら現行の衝突は回避されていたかも知れないという考えはプーチンがきっぱりと退けてしまったが、与党であるユナイテッドロシア党の中枢の党員らはトランプが勝利を収めたことを残念に思っている。

「クリントンの場合に比べて、状況は遥かに悪い」と、ユナイテッドロシア党の運営委員会を率いるフランツ・クリンツエヴィッチ上院議員が述べている。「彼女は経験豊かな政治家であって、彼女の行動はすべてが論理や議論された内容に基づいている。ところが、トランプの場合はあちらこちらへと大きく揺らぐ。」 - ブルームバーグ

前駐米ロシア大使を務め、現在はロシア議会の代議士であるウラジミール・ルーキンはブルームバーグに対してロシア人の見方を「われわれはギブ・アンド・テイクに応じることはできるが、ギブ・アンド・ギブには応じられない」と述べている。

本稿は最初に「Zero Hedge」に掲載された。


注: この記事に表明されている見解はあくまでも著者の見解であって、Information Clearing Houseの意見を代表するものではありません。

<引用終了>


これで引用記事全文の仮訳が終了した。

トランプはわが身の安全が心配になって来たようだ。トランプが政治的信条を変えて、ネオコンや好戦派の圧力に屈したと判断する観測筋は少なくない。事実、トランプの家族の安全を脅かすメッセージが寄せられたとも報じられている。

この引用記事を読んで、少なくともひとつだけはっきりとしている点がある。不幸なことには、世界はさらに混乱の度を高めている。米国の軍・安全保障・大手メディア複合体がこの混乱を推進していることは明白だ。これが現実なのである。この混乱の延長線上には核大国間の核戦争が待ち構えている。嫌な世の中になって来たものだ。

トランプは奥の手が尽きてしまったのだろうか?彼特有の意表を突いた政治的行動によって、米国政界における対ロ関係の綱引きを関係改善に向けて引き戻せないものであろうか?

12月19日、トランプ大統領はISISの討伐が終了したので、米軍をシリアから撤退させると宣言した。もちろん、ネオコンや軍・安全保障複合体、ならびに、アラブ世界の混乱を恒常化させたい親イスラエル派は大反対である。これがすんなりと実行されるのかどうかは現時点では不透明だ。

トランプ大統領は表面的には軍部に対する統制力を失ったかのように見えるが、彼は今でもこのような決断ができるのだ。11月の中間選挙の結果、下院での過半数体制は失ったものの上院では与党が過半数を維持したことから、トランプ大統領は中間選挙は大成功だったと評した。上院の支持さえ取り付けられれば、トランプは歴史的な快挙を実行できる筈だ。今年の前半に行われた北朝鮮との交渉では彼特有の離れ業を見せて、トランプが軍部の上手を取ったことは記憶に新しい。対ロ関係の改善でもこのような動きが可能なのかどうか、注視して行きたいと思う。この文脈においては、シリアからの米軍の撤退は少なくとも歓迎すべき兆候だ。


参照:

注1: Trump Has Been Broken by the Military/Security Complex: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Dec/09/2018










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