2015年7月3日金曜日

プーチンに対する89パーセントの支持率は何を意味するのか



この夏にはウクライナ政府に抵抗しているドンバス地域に対してキエフ政権による第3波の軍事攻勢が展開されるとの予測がされていた。この予測が今も有効であるのかどうかは素人の私には分からない。

表題に示すような興味深い記事 [1] がつい最近現れた。

副題として次のように付け加えている。「これは米国にとっては大問題だ。ロシアの市民とロシア政府は一心同体である。プーチンはクレムリンの政策を実施するということではなく、むしろ、ロシア市民の大多数の意思を実施するということを意味するからだ。」 

この記事によると、キエフ政府とその軍部はもう諦めたのではないかと分析している。この点が非常に興味深い。

また、ウクライナの国内事情だけではなく、お隣の強国、ロシアの政治状況に焦点当ててウクライナ情勢を俯瞰している。

一般市民からの支持率が低い政府の政策に比べて、89%もの支持率を有するプーチンが率いるロシアの政策はそれだけに強じんであり、率直なものとなる。国内の批判勢力に対する政治的な牽制や高等なごまかしなどにエネルギーを弄することは全然必要ないのだ。

この記事はごく当たり前のことを指摘しているとも言えるが、私にはこの指摘が非常に新鮮に感じられた。

この記事の著者はロシア文化を詳細に熟知している人だけが可能と思わせるようなロシア政治については非常に緻密な分析結果を提供する点で定評があるSakerである。Sakerのウェブサイトは毎日検索することにしている。私にとってはウクライナ情勢を少しでも多く知る上で重要なブログのひとつである。

早速、仮訳を作成して、読者の皆さんにご紹介したいと思う。


<引用開始>


Photo-1: 彼とロシアの市民との間には隔たりがない

ワシントン・ポスト紙はプーチンの最新の支持率に唖然としてしまったようだ。 

ロシア人は西側との対立に飽き飽きしているとお思いだろうか?決してそうではない。この水曜日に89%という最高値を記録したウラジーミル・プーチンの支持率 [訳注: 世論調査は619日から22日に実施され、624日にRTのサイトに公表された] を見る限りにおいては決してそうではない。

プーチンの支持率は20141月の65%からその2か月後には80%へと急上昇し、ロシアで唯一の独立した世論調査機関であるレヴァダ・センターの調査結果によると、それ以降80%台を維持して来た。

支持率は上昇し続けた。プーチンが政権の座にあった15年間でこの6月の89%というような高い率となったことはかって一度もなかった。

89%の支持率は何を意味するかと言うと、ロシアの全国民がロシアの政策の方向に関してはほぼ一致した見解を抱いていると言える証しである。

ワシントン・ポストが言っていることは正しい。つまり、ロシアの国民は全面的にプーチンを支持している。特に、プーチンの政策に不満を抱いている11%はその多くはプーチンが余りにも資本主義的な市場経済に好意を寄せすぎるとして非難する共産主義者であり、キエフ政権に抵抗しているノヴォロシアに対する支援は余りにも軟弱だとして非難する国家主義者であり、あるいは、一般に米国やEUを信望している多くても1%から3%に相当する一握りの市民である。したがって、今起こっている「帝国」との紛争に関して言えば、プーチンの実際の支持率は97%から98%の範囲にあるとも言えよう。

このことはいったい何を意味するのか?

1) ウクライナに関して「プーチン」あるいは「クレムリン政府」の政策とか姿勢といったものは存在しない。あるのはウクライナに関するロシア人全体の政策あるいは姿勢である。

2) 経済制裁は西側が期待するものとはまったく正反対の効果をもたらした。プーチンに対する不平不満を呼び起こすという当初の目標の代わりに、ロシア人を彼の下に結集させてしまったのである。

3) 「帝国」の「メッセージ」はロシア国内では何のけん引力も示さなかった。西側は信頼感を失い、魅力に欠け、何らの倫理的規範をも示せず、政治的権威は失墜した。大多数のロシア人は、米国はロシアをその支配下に置こうと試みる危険な存在であると見なし、EUは米国追従で、自分の意見を持たない米国の植民地であると見ている。

4) ロシア人は事実に「目をつぶる」ようなことはしない。今まで私がこのブログで繰り返して書いているように、ロシア人は戦争をしたいとは思っていない。しかし、必要であれば戦争をも辞さない。彼らは心理的にも物理的にも国を挙げて完全に結集している。脅しや経済制裁をどれ程与えたとしても、彼らの団結を変えることは出来ない。 

5) プーチンの権力の基礎は以前よりも強化されている。ロシアの市民が全面的にプーチンを支持しているばかりではなく、反プーチンや親米の「自由主義者」や「民主的な」勢力はまったくの混乱状態にあり、(そのほとんどは政治的に、時には実質的に)非常に慌ただしい様相を呈している。

6) 対ロ経済制裁によって辛酸を舐め、国際市場では原油価格が低迷したことによってなおさら厳しい状況となったが、ロシア経済は(クレムリンにとってさえも)想像以上にうまく行っているという事実がますます明白になり、ロシアに対する孤立政策は絶望的とも言える程の大失敗である。

7) 数多くの指標があるが、その大部分は同一の結論を指しているようだ。つまり、キエフ政権は崩壊の瀬戸際にある。政敵の追放が始まり、逃亡者の数が急増し、キエフ政権は狂気の沙汰とも言えるような決断をし(オデッサ州知事にグルジア元大統領のサーカシビリを指名)、ゴールドマン・サックスは724日にはキエフ政府は公式に債務不履行に陥るのではないかとの予測をしている(非公式には、すでに債務不履行の状態だ!)。 

換言すると、ロシアはこの紛争を通じてかってない程に強力になった。しかし、ウクライナはかってない程に弱体化している。   

米国にとってはもはや手の施しようもない。「帝国」はロシアをウクライナとの戦争に引きずり込むことには失敗した。そして、ウクライナはドンバスを潰すことに失敗し、EU内には政治的亀裂が至るところに見られる。

ロシア国境の周辺で行われたNATOによる武力の誇示はロシア人に怒りを引き起こしただけで、その威力について強力な印象を与えるどころか、軍事的脅威を与えることさえもできなかった。

では、次の一手は?

さて、すべては米国次第である。ロシア側はこの状況を必要な期間にわたって維持することが可能だ。それとは対照的に、EUは経済的な打撃を受けており、政治的にはその状況はさらに厳しい。仮にギリシャの市民が西側の金権政治に抵抗し、西側の最後通牒に反対したとしたら、その結果もたらされる政治的危機によってEUは極端な弱体化を辿ることだろう。 

モルドヴァとルーマニアにはトランスニストリアをめぐって直接的にロシアに対抗する意思を示す兆候は見られない。これはいいニュースである。この件については西側に対して何らかの警告が与えられたのではないかと私は想像している(つまり、前回ロシアの平和維持軍が攻撃を受けた時何がおこったかを思い出させたのではないだろうか)。 [訳注: 「ロシアの平和維持軍に対する攻撃」とは南オセチアを巡って2008年に起こった1週間のグルジアとロシアとの間の戦争を指しているものと思われます。] 米国がすでに失敗に帰したウクライナ政策にしがみついていればいる程、EU内の亀裂は拡大することになろう。 

ミンスク-2の合意は死んだ。キエフ政府とその軍隊は明らかにドンバスを諦めた。つまり、彼らは毎日のように砲撃を行い、(飲料水や医療品を含めて)物資の供給を断ち、年金の支払いを停止し(これはミンスク-2合意に対する明らかな違反である)、彼らの政治的に誇張された言葉遣いは以前にも増して敵意丸出しで、好戦的なものとなっている。

とは言え、西側のエリートはその状況を受け入れることはできない。彼らはこの大失敗に終わった政策に政治的な資源や信頼性を相当な規模で投入してきたが、今や、自分たちの顔は最終的に丸つぶれであることを認めざるを得ない。したがって、まさにキエフのウクライナ・ナチ政権と同様に、ロシアが反撃に出て来ない限り、西側の指導者らは吠え続けるだけで、噛みつこうとはしないのではないかと私は思う。

<引用終了>


上記の4)の記述はロシアがかってナポレオン軍を敗退させ、第二次世界大戦ではナチス・ヒトラーの巨大な戦争マシーンを撃破したロシアの歴史を彷彿とさせる。

歴史を紐解く時、決まったように、現在の政治状況がどのような結末となるのだろうかという問い掛けに明快な答えを示してくれる。最近、ロシアの歴史に関しては、900日におよぶレニングラードの包囲、ならびに、スターリングラードでの攻防戦について読んだ。両者とも圧巻だった。

ところで、米国市民のオバマ大統領に対する支持率はどうだろうか?

最近の記事 [2] によると、「最新の米国の世論調査によると、オバマ大統領の対外政策はたった38%の有権者が支持するのみであり、50%の有権者は信任してはいない。議会については、米国人の10%が信任しているだけで、60%の有権者は不満を抱いている。」 

米国では行政と立法のふたつの重要な部分が選挙民の信任を得るだけの機能を果たしてはいないことが市民の不満の種となっている。

これらの数値を見るだけでも、米ロ両国は非常に対照的であり、行政側と一般市民との間の一体的な関係には非常に大きな差があると言える。

日本の阿部首相についてはどうかと言うと、622日の朝日新聞の報道によれば、阿部首相の支持率は39%に低下した。日本も、オバマ大統領の事例と似たりよったりだ。

話を元に戻そう。

EUの政治家はEU圏の拡大だけではなく、もっと断固とした姿勢や方針をキエフ政権に示す立場にあった筈だ。しかしながら、多くのEU政治家が頻繁に口にしてきた「ヨーロッパの価値観」は、対ロ経済制裁が失敗に終わったことが明らかになった今でさえも、経済制裁を6カ月延長することを許した(622日のRTの報道)。「現状を理解しているのだろうか?」と疑いたくなる程だ。不可思議極まりない。

ウクライナ東部での人道的危機は極めて甚大である。彼らはそのことには目をつぶっているみたいだ。これもまた不可思議極まりない。

人的損失について現状をおさらいしておきたいと思う。

ウクライナ東部の2州でウクライナ軍による砲撃や銃撃で死亡した市民の数は、国連の人道問題調整事務所(OCHA)の626日の報告によると、6,503人(201446日から2015619日まで)と報道されている。そして、身の安全を確保するために130万人が自宅をを離れた (ウィキペデイアから)

ウクライナ軍の死者数は2,317人(201446日から2015615日まで)。ドネツクおよびルガンスク両人民共和国の民兵の死者数は1,400人から2,248人(201446日から2105220日まで)。ロシアからの志願兵の死者数は400人から500人程度と推定されている。ドネツクの上空で撃墜されたマレーシア航空のNH-17便の搭乗員と旅客は298人全員が死亡した(ウィキペデイアから)

ドイツの諜報機関は実際の死者数は、キエフ政府の数値は低めに抑えられていることから、上記の数値の10倍に膨れ上がるのではないかと推測している。

上記の他に数多くの行方不明者がいる。同じく、ウィキペデイアによると、実態は下記のような具合だ。

201558日、ウクライナ大統領は1,000人もの民間人が行方不明であると公表した。20156月の上旬、ドネツク検察局はキエフ政府のコントロール下にある地域では1,592人が行方不明であると報告した。その内の208人の行方が確認されただけである。同時期に、国連の報告書によると、1,331人から1,460人が行方不明となっており、これには少なくとも378人の兵士と216人の民間人が含まれている。345人の身元不明者の死体がドニエプロペトロフスク州の死体置き場に保管、あるいは、埋葬されている。6月の中旬、キエフ政府はウクライナ兵の行方不明者の数は289人に上ると報告した。

政治の原則論に軸足を置くと、何と言っても、今もっとも重要なことは生命の保証、安全の確保である。

ウクライナの一般市民が、ドンバス地域の住民だけではなく、それ以外のウクライナの地域の住民も分け隔てなく、一日でも早く、平穏な毎日を過ごすことが出来るようになって欲しいものである。これこそがウクライナをめぐる究極的な政治課題である筈だ。そうでなければならない。


参照:

1What Does Vladimir Putin’s 89% Rating Really Mean?: By The Saker, Jun/30/2015, thesaker.is/what-does-vladimir-putins-89-rating-really-mean/

2One Way to Handle the Crisis in US-Russia Relations: By Vladimir Rodionov, Sputnik, Jun/25/2013, sputniknews.com/columnists/20150625/1023854427.html




0 件のコメント:

コメントを投稿