国際的に著名な科学系専門誌の編集者が特定の産業界からの出身で、その編集者が寄稿されてきた原稿を審査する際にその産業界のためには不都合な内容であるとして特定の研究成果を没にしていたとしたら、皆さんはどう思うだろうか。
大多数の人は「けしからん!」、「言語道断だ!」と言うだろう。
ところが、これは今年の3月の記事 [注1] ではあるが、遺伝子組み換え作物(GMO)の毒性に関する論文を巡ってそのような状況が実際に起こっていた。多くの研究者は産業界からの資金提供によって研究活動をしている。それをいいことに、資金を提供する側の産業界は近視眼的な行動に陥り、研究によって得られた新しい知見を自分の都合のいいように歪曲しようとする。時に、その横暴振りには目に余るものとなる。
今日はこの記事を仮訳して、皆さんと共有したいと思う。
<引用開始>
モンサントの元従業員であったリチャード・グッドマンは「Journal of Food and Chemical
Toxicology」誌(FCT)の編集局から解任された。同誌がセラリーニの研究論文を撤回する暫く前に、グッドマンは共同編集者として同誌に任命されていた。同様に、編集長のA・ウオレス・ヒースも新任の編集者と交代することになった。
主要な専門誌として評価されているこの科学専門誌はGMO業界の肩を持つような編集者を更迭し、科学そのものに徹することに決心したようだ。「偏向しない」編集長が新たに迎えられ、バイオテック業界に偏向したA・ウオレス・ヒースは更迭された。ウオレス・ヒースはGMOの毒性を明確に示したセラリーニ他が投稿した論文を撤回したのである
[訳注:この論文は「結論に到達してはいない」という理由でFCT誌への掲載後14カ月も経ってから撤回された。しかし、撤回の理由は前例のないものであった。ある解説記事
[注2] によると、その著者は「多くの研究者はこの論文の撤回の本当の理由はセラリーニの研究がGMO作物の消費によって除草剤が体内に取り込まれ健康被害が起こるという証拠を見い出したことにあると考えている。その結果、モンサントだけではなくGMO業界全体を危険にさらすことになるかも知れない」と解説している]。
モンサントのGMOトウモロコシ「NK603」は安全であるとする2004年の研究に応えて:
「…ギレス・エリック・セラリーニ教授によって率いられた殆んどがフランス人の研究者で構成された研究陣は2年(700日余り)にも及ぶ飼育試験 [2] を行った。この試験では他の条件は殆んど同様とした。彼らの論文は2012年9月にFCTに掲載された。これによって、モンサントの論文では棄却されていた当初の懸念が深刻な疾病として浮き彫りにされたのである。つまり、肝臓や腎臓、下垂体に損傷が認められ、中でも特に注目すべき点としては雌の個体に早期死亡や大きな腫瘍の発生が起こった。加えるに、この研究では微量のモンサントのラウンドアップがラットの飲水に添加された。NK603は遺伝子組み換え技術によってこのラウンドアップ除草剤に対する耐性が付加された品種。」
ところが、暫くしてから、セラリーニの論文はFCTから撤回された。この撤回の事実は、バイオテックは危険であるという見方は見当違いだと喧伝する業界のサクラによって無鉄砲な形で利用されることになった。数多くのブログやフェースブックで考慮に値する以上に議論が沸騰した。同誌は、今や、何らかの新規入れ替えを行っている。モンサントを支持し、偏向していた二人の編集者はその職から解任されたのである。
セラリーニの論文が撤回された後、何百人もの科学者たちが同誌と連絡を取り、「どうして撤回するのか」と質し、「論文の撤回はバイオテック業界からの圧力に屈することになるのではないか」と述べ、抗議をした。学会は激怒し、モンサントやダウ・ケミカル、シンジェンタ、等によって子供じみた名前を付され揶揄されていたにもかかわらず、研究者らは上記のような厳しい意見を表明した。
ホセ・ドミンゴが新編集長に迎えられた。彼はGMO作物の安全性は確立されたとは言えないとする論文をいくつか出版している。
「FCTでは非常に重要な変革が実行されている。編集長のA・ウオレス・ヒースはセラリーニ他の論文を同誌から撤回したのである。GM作物の安全性はまだ確立されたとは言えないとする論文を発表しているホセ・L・ドミンゴが同誌編集局の新編集長として迎えられた
[19]。また、セラリーニの論文が撤回される暫く前に同誌の共同編集者に加わっていた元モンサント社の従業員であったリチャード・グッドマンはもはや編集局に名を連ねてはいない。」
同誌から撤回されたにもかかわらず、セラリーニのオリジナルの研究成果は数多くの読者を獲得した。また、ギレス・エリック・セラリーニ教授の研究者グループは、グリフォサートが如何に心臓の機能を損なうかに関して得た知見を含めて、さらなる研究成果を発表している。それをここに示す。
FCTは、今や、正気に戻った。多分、産業界から研究費用の支払いが行われている他の研究もすべてが権威のある科学誌からは追放されることになるだろう。
追加的情報源: SGR.org.uk
<引用終了>
この記事によってバイオテック産業界の巨人「モンサント」が自社にとって都合の良い研究内容だけを報告し、都合の悪い情報は出版されないようにするために特定の論文を権威のある専門誌から排除しようとしていた事実が明らかとなった。
これはバイオテック業界、特に、モンサントにとってはかなり大きな事件であるに違いない。今回のセラリーニ論文を巡る攻防は結局のところモンサント側の負けに終わったように思える。
GMO食品や殺虫剤の健康被害については新しい知見が数多く蓄積されつつある。特に、長期にわたる摂取の結果起こる子供たちの健康被害は深刻である。今までは少なくとも業界に不利にはならない論文だけが公開されていたのではないか。出版されなかった論文の幾つかはここに紹介されたセラリーニの論文と同じ運命に遭遇し、希望の専門誌には受理して貰えなかったのではないか…
ここでも、論文を発表する場である著名な専門誌を巻き込んだ産業界による「GMO村」の出現である。「原子力村」の安全神話が崩壊する様子をつぶさに見てきた日本の消費者にとっては「またか」という感がある。
上記の引用記事の最後の段落に示された「産業界から研究費用の支払いが行われている他の研究もすべてが権威のある科学誌からは追放されることになるだろう」という期待あるいは願望を私自身も共有したいと思う。
食品は長期的な摂取による毒性や発がん性があってはならない。これは食品に対する最優先の要件である。我々の次世代の健康を守るためにはGMO村の存在によってもたらされる弊害は少しでも排除して行かなければならない。
参照:
注1: Former Monsanto Employee Fired from Major Scientific
Journal’s Editor Position: By Christina Sarich, Global Research, Mar/30/2015, www.globalresearch.ca/former-monsanto-employee-fired-fro...
注2:Scientific Publication in Peril: the
Séralini Affair: By Eva Novotny, SGR Newsletter no.43 (advance publication),
Oct/24/2014
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