日本経済新聞は、3月24日、「米モンサント開発の除草剤に発がん性の恐れ」と題して次のように報道した:
国連機関によって指摘された批判にはそれ自体に重みがある。
自社の除草剤に関して発がん性の恐れがあることを指摘されたモンサント社は、早速、上述の記事にあるように反論をした。目下、企業利益を擁護しようとするモンサント社と除草剤を使用する農家や消費者の健康を守ろうとするWHOとの間では綱引きが行われている。
スリランカの農民が被った健康被害の様子については、2014年6月2日付けのブログ、「モンサントの除草剤と腎疾患との関連性」で詳細にご紹介した通りだ。
長期的に吸収される微量な化学物質が人の健康を害する事態はさまざまな形で起こる。除草剤に直接的に接する農家の人たちだけではなく、農産物に残留する農薬によって一般消費者(特に、幼児や未成年者)が健康被害を受けることは決して稀ではない。食糧自給率が異常に低い日本の消費者は米国から輸入される農産物(大豆、トウモロコシ、コメ、等)を大量に消費している。国内産食品による暴露と相俟って、米国産の食品中に残留する除草剤の危険性は相対的に高くなる可能性がある。しかも、健康被害は長期的な摂取によって始めて表面化することが多いから厄介だ。我々消費者はこの現実を冷静に見つめる必要がある。
本日は、上記の科学者らの努力を伝えている記事
[注1] を読者の皆さんと一緒におさらいをしておきたいと思う。
<引用開始>
Photo-1 小麦畑に掲示された「遺伝子組み換え作物」の標識
WHOの最近の調査は除草剤「グリフォサート」には「恐らく発がん性がある」との結論を下した。この調査に携わった科学者は自分たちが得た評価結果を後押ししている。このコメントはモンサント社からの反論に対抗するもの。同社はWHOの調査は「論理的な根拠に乏しい」と酷評。モンサントのラウンドアップと称する製品の主成分はグリフォサートである。モンサントの重役は「さらに先へ進みつつ選択肢を検討する」と述べた。
国立癌研究所の名誉研究員であり本調査結果に関する主要な著者でもあるアーロン・ブレア―はロイターに対してこう述べた:「動物試験では十分な証拠をつかみ、人の臨床試験でも限定的な証拠をつかんでいる。また、DNAの突然変異や染色体の損傷を示す強力な証拠も揃っている。」 WHOの国際がん研究機関(IARC)は世界中で広く使用されているこの除草薬が非ホジキンリンパ腫を誘発することを見い出し、グリフォサートに関する研究成果を3月20日に公表した。
このIARCからの報告は「ランセット腫瘍学」誌に発表され、有機リン酸系の除草剤や殺虫剤の評価結果を詳細に論じている。本報告書は「人に非ホジキンリンパ腫を起こす発がん性について限られた証拠が見つかっている」と結論付けた。この結論は2001年以降米国やカナダおよびスウェーデンで当該化学物質への暴露について行われた研究から導かれたもの。
研究者らは「グリフォサートが実験動物に癌を誘発することについて説得力のある証拠」を見い出した。報告書によると、米環境庁(EPA)が1985年に初めてグリフォサートを分類した際、人に対する発がん性の可能性があるとしていた。IARCの作業部会はこのEPAの当初の知見を評価し、「実験動物における発がん性については十分な証拠がある」と結論付けた。WHOの知見にもかかわらず、EPAは2013年にモンサントによるグリフォサートの使用を承認した。
グリフォサートをめぐる闘いは遺伝子組み換え(GM)作物の議論とも絡んでいる。除草剤は典型的にはGM作物に使用される。トウモロコシや大豆は特に除草剤への耐性が高くなるように改質される。モンサントのような企業はこの化学物質の成功に向けて莫大な資本を投下している。散布地域では除草剤は食品や飲料水ならびに空気中にその存在が認められる。
2014年、Anti-Mediaは 「International Journal
of Environmental Research and Public Health」誌に発表された論文について報告をした [訳注:Anti-Mediaはニュース報道を専門とする米国の代替メデイアのひとつで、ラジオ放送も行っている]。その論文はグリフォサートと「原因不明の慢性腎疾患(CKDu)」との間には関連性があると主張。この除草剤はスリランカや他の国で稲作農民に甚大な影響を与えている。この知見を受けて、スリランカはグリフォサートの使用を禁止し、ブラジルも禁止措置を検討している。
スリランカの特別プロジェクト担当相であるS.M.チャンドラセナはマヒンダ・ラジャパクサ大統領の命を受けて、同国内でのグリフォサートの販売は禁止になったと述べた。「医療専門家や科学者らによる調査の結果、腎疾患は主としてグリフォサートによって引き起こされていることが判明した。この報告書の内容が報告された直後、マヒンダ・ラジャパクサ大統領は国内市場からグリフォサートを直ちに排除するよう指示した。」
研究者らの知見によると、グリフォサートは農薬中に存在する有毒重金属の腎臓での蓄積を助長する。1990年代、原因不明の慢性腎疾患(CKDu)がスリランカ北部の中央部で初めて確認された。推算によると、約2万人が死亡した。モンサントがグリフォサートを除草剤として販売を開始する前は、グリフォサートは温湯システムに沈殿するミネラル分を除去する用剤として知られていた。
この論文は新しい科学的な知見を提供したわけではないが、研究者らはCKDuが如何にして広まるのかに関してひとつの説を提供した。彼らの考えるところによると、グリフォサートは飲料水中の重金属の含有率を高める。この研究の筆頭著者であるチャンナ・ジャヤスマナ博士は「グリフォサートはこれらの重金属を腎臓に運搬する担体または媒介物質として作用する」と述べた。グリフォサートそのものは有毒物質ではないが、地下水中の重金属と一緒になるとこの除草剤は腎臓に対して極めて毒性の高い物質に変化する。
近年、エルサルバドルやニカラグアおよびコスタリカの農村地帯ではCKDu 患者の数が急増している。
上述の大臣は国家的なプログラムを新たに推進すると述べ、スリランカの農民が有機肥料を使用するように推奨している。農業省は全国で10万エーカーの土地に有機農法を用いた作付けを実施したいとしている。
モンサントの広報担当者を務めるトーマス・ヘルシャーは「スリランカや他の国で起こった腎疾患がグリフォサート系製品への暴露と関係することを示す疫学的研究は行なわれてはいない。あの論文はひとつの説を述べているだけであって、ジャヤスマナの仮説は必ずしも正しくはないとするデータが幾つも出版されている」と述べた。しかし、裏付け資料が存在するとのモンサントの主張にもかかわらず、グリフォサートの危険性を示す証拠は増えるばかりである。
米農務省は昨年新たに一連の遺伝子組み換えトウモロコシや大豆の種子を承認したが、これらはグリフォサートへの耐性を強化したものであり、それゆえに全体としては除草剤の使用が増加し、それと共に我々は多くの健康被害を目にすることになるだろう。事実、米農務省による認可はダウ・ケミカルとモンサントを連携せしめ、この動きは企業が政府をコントロールする状況をさらに強めることに繋がるのではないかと懸念される。
<引用終了>
ここにも米国の巨大ビジネスが政府を丸め込んで企業利益を確保しようとする構図が見られる。さらには国連機関さえをも丸め込もうとしている。あたかも「GM作物村」の横車には限度がないかのようだ。
日本では原子力村の安全神話が見事に崩壊した。4年前のことである。このGM作物村の安全神話も近いうちに崩壊の憂き目を見るのかも知れない。WHOの国際がん研究機関(IARC)が自分たちの主張を固守する姿勢にその兆候が見え始めたように思えるのだが、どうだろうか。私の単なる希望的観測に終わらないで欲しいものだ。
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ところで、米国では来年大統領選が行われる。これと絡んでさまざまな事柄が報道され、今やすでに選挙戦に突入しているかのような様相を呈している。そのひとつにホワイトハウスでオバマ大統領の家族が食べる食事がある [注2]。もっと詳しく言うと、使用される食材が議論の対象である。
それを下記に引用してみよう。
<引用開始>
Photo-2 独立した調査結果によると、GM食品は人の健康に有害である。
報告によると、ホワイト・ハウスの食事はオーガニックである。「米国で栽培:ホワイトハウスの菜園ならびに米国全土の菜園についての物語」と題されたミシェル・オバマ大統領夫人の書物には大統領一家が如何にオーガニック(非GM)食品にこだわっているかが記述されている。
しかし、彼らが大統領以外の一般市民について望む食品はまったく別の話となるだろう。特に、2016年の11月にヒラリー・クリントンが大統領に選出された場合にはことさらにその懸念が強まるに違いない。
2014年7月、バイオテックに関する会議で彼女はGM食品を支持して、こう述べた:「私は立派な実績を有している種子や製品を使用することに賛成する。」
さらに、GM食品を批判する人たちを攻撃して、「事実と認識との間には大きな隔たりがある」と彼女は付け加えた。
クリントンおよびブッシュ2代目の大統領の家族らが食べた食物はオーガニック食材を用いて調理された。ウオルター・シャイブは1994年から2005年までホワイトハウスの総料理長を務めていた。
としても大変な挑戦であった。彼女はホワイトハウスに現代風の米国料理を提供し、栄養学的にも立派な食べ物を調理するよう要求してきた。」
使用する食材のほとんどは近隣の生産者や供給業者から取り寄せられた。ホワイトハウスの屋上にある小さな菜園を使って、殺虫剤や化学肥料無しで農産物を栽培した。オーガニック農法で栽培された食材が最優先であった。
歴代大統領の家族は健康的な食品、ならびに、殺虫剤やGM食材が混入しない食事を追求した。その一方で、モンサントや他の巨大なバイオテック企業のために人の健康に有害と見られるフランケン(GM)食品を後押ししている。
2014年、オーガニック消費者組合の副理事長であるキャサリン・ポールは「もしもヒラリー・クリントンが2016年の大統領選に立候補する積りであるならば、彼女は一般大衆の健康に有害となる食材や農法を支持することは真剣に考え直さなければならない」と述べている。
彼女の物の見方は「先代のブッシュ・ジュニアやクリントン、(ブッシュ・シニア)、およびレーガン政権の連中のそれとは何の変わりもなく、彼らの見方はバイオテック産業の論点を右から左へと受け売りしたものだ。」
ヒラリー・クリントンのバイオテックやアグリ・ビジネスとの関わりはローズ法律事務所で弁護士をしていた1980年代に遡る。モンサントやタイソン・フーズは顧客である。
国務長官として、彼女の国務省は諸外国にGM食品に対する市場開放を強力に求めた。GM食品を世界中に広めるために、米国民が支払った税金が使用された。
大うそが広められ、真実は抑圧された。食品の安全に代わって、業界の論点が最優先とされた。
5月17日付けのワシントン・タイムズはヒラリー・クリントンのバイオテックやアグリ・ビジネスとの結びつきが彼女に「フランケン食品の花嫁」というありがたくないニックネームを勝ち取らせたと報じている。
「GM食品に関する議論ではヒラリー・クリントンはいつも化学会社の肩を持つ」とワシントン・タイムズは述べている。
「ビル・ヒラリー・アンド・チェルシー・クリントン財団」が開示した情報によると、モンサントはクリントン財団に50万ドルから百万ドルを寄付し、アグリ・ビジネスの巨人、ダウ・ケミカルは百万ドルから5百万ドルの寄付をしている。
他にも多数の巨大企業が大金を寄付している。これらの大企業はヒラリー・クリントンの大統領選では多額の寄付を行うと推測されている。
彼女は「ヒラリーに期待」と称する彼女の政治活動の特別委員長にモンサントのロビー活動の専門家であるジェリー・クロフォードを選んだ。
彼は以前ビル・クリントンやアル・ゴアならびにジョン・ケリーのためにも働いたことがある。また、モンサントの種子ビジネスのために小規模農家との法的な争いでも働いている。
プロとしてのキャリアー中、特に政治の分野では大統領夫人としてもっとも重要な政治的問題ではヒラリーは間違った側に立つことが多かった。医療保険や食品の安全、戦争、等に関してだ。
2001年に大統領府を去ってから彼女とビルが超大金持ちになったという事実は偶然の産物ではない。
開示された財務報告書によると、ヒラリーがニューヨーク州の上院議員であった当時や国務長官を務めていた当時を含めて、2001年から2012年の間に彼らは1億6千3百万ドルを稼いだ。
2014年1月以降に行った演説で彼らは2千5百万ドル以上を稼いだ。ヒラリーは「困難な選択肢」と題された2014年の回想録では5百万ドルを稼いでいる。
彼女の財団はサウジアラビアやウクライナの新興成金あるいは前議員から汚い資金を受け取った。外国の十指に余る影響力のある商人が大口の寄付者となっている。こうした状況は2009年にヒラリーが国務長官に就任した以降に起こったものである。
批評家らに言わせると、大統領へ選出された場合、直接交渉をしなければならない当事国から何百万ドルもの資金を受け取っていると、大統領候補者としては深刻な利害の不一致を招くことになりかねない。
連邦法は政府や企業、個人および団体が米国の政治的キャンペーンに寄付することを禁じている。
<引用終了>
この現実は何を意味するのだろうか。
米大統領の家族が住むホワイトハウスでは、農薬や除草剤が混入しないようにと「オーガニック」食材を使って調理した食事が提供されている。一方、オバマ大統領の下で国務大臣を務めたヒラリー・クリントンはモンサントで代表されるバイオテックやアグリ・ビジネスの大企業を援護しており、GM食品や除草剤・殺虫剤のビジネスには非常に好意的である。
政治の世界ではよくあることだとは言え、このダブル・スタンダード振りは驚くばかりだ。
米国の産業界と国連の機関との間にはさまざまな確執が存在する。福島原発でメルトダウン事故が発生し、原発の安全神話が崩壊した際、われわれ一般人はWHOと国際原子力機関(IAEA)との間には奇妙な関係が存在することを知るに至った。IAEAとWHOとの間の1959年の協定により、原子力や放射線に関する研究や利用についてはIAEAがすべてを管轄することになった。この協定が存在することから、WHOの本来の業務である筈の放射線の健康影響に関してはWHOは口出しをすることができない。
いわゆる「原子力村」は放射線の健康影響を自分たちの手で評価し、原発産業にとって好都合な安全神話を推進することができる環境を構築していたのである
[注: 詳細については、小生の2012年6月3日付けの「チェルノブイリ原発事故での犠牲者数の推定」を参照されたい]。
WHOにとっては、このIAEAへの権限の委譲は屈辱的な後退であると言えよう。
発がん性が疑われる除草剤や遺伝子組み換え作物では、そんな轍を踏むことがないようにして欲しい。WHOは巨大企業からの圧力に屈せず、全世界の農家や一般消費者の健康を守って欲しいものである。
参照:
注1: World Health Organization Won’t Back Down
From Study Linking Monsanto to Cancer: By Derrick Broze, The Anti-Media,
Mar/30/2015, theantimedia.org/world-health-organization-wont-back-down-...
注2: Hillary
Clinton Endorses GMOs. White House Meals are Organic: By Stephen Lendman,
Global Research, May/25/2015, www.globalresearch.ca/hillary-clinton-endorses-gmos-white-h...
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