マレーシア航空のMH17便に関する事故調査はその後どうなったのだろうか。事故調査を行っているオランダ政府を主体にした国際調査団からは暫定的な報告書が出されてはいるが、その内容は非常に簡単で、最終結論には至ってはいない。
5月の初旬、極めて専門性の高い報告書がロシアから提出された。作成者はロシアの軍需産業技術者である。一言で言うと、「マレーシア航空のボーイング機はキエフ政府軍のブク・ミサイル・システムが設置されていた地点から発射された地対空ブク・ミサイルで撃墜された」と結論付けている
[注1]。この報告書はオランダ政府にも送付されることになるという。
オランダの事故調査団がこの報告書をどのように位置づけることになるかは予断を許さない。
しかし、米国政府の対ロ姿勢には最近大きな変化があった。
ジョン・ケリー米国務長官がロシアのソチを訪ね、ラブロフ外相ばかりではなく、プーチン大統領とも何時間にもわたる会談を持った。その2-3日前にウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領がドネツク空港を奪回すると発言していたことに関して、ケリー国務長官は反政府派に対するウクライナ政府軍の新たな軍事行動の開始については釘をさしたと報道されている(5月12日)。しかも、ソチの会談ではクリミアの併合そのものは討議の対象にはならなかったとのことだ。米国は、今や、ウクライナ紛争を終息させる方向へ大きく舵を切ったと観測されている。その理由は米国には他にもっともっと大きな課題があって、その解決にはロシアの協力が是非とも必要であるからだと言われている。
このように、米国政府の対ロ姿勢に大きな軌道修正があったことから、オランダ政府も今抱えている宿題については、以前に比べて、最終報告書の作成がより容易くなったのではないかと私は思う。オランダ政府主導の国際調査団の報告書が今後どのように展開するのか、見ものである。
ロシアの軍需産業技術者が提出した報告書 [注2] はロシア語で書かれている。
私はロシア語はまったく理解できないので、まず、Google Translateを用いて英語に翻訳してみた。ロシア語から日本語へ翻訳するのに比べて、英語へ翻訳した方が翻訳上の間違いが少なくて済むのではないかと推測したからだ。私自身は日英・英日の技術翻訳を10数年行ってきているが、英語から日本語への機械翻訳は現時点ではとても使い物にはならないという判断である。このことから、相対的に間違いがより少ないと思われる(実際にそう言えるのかどうかは断言できないが)英語への機械翻訳を行ってみた次第だ。しかしながら、英訳された文書にはロシア語特有の文法に起因すると思われる不備がたくさん出て来た。それらは文脈上からもっとも適切と思われる表現に置き換えて先へ進もうという考えだ。そうは言っても、信頼性の高い和文ができるのかどうかは100%保証することはできそうにない。残念ながら、その辺りが私がロシア語を扱う際の限界である。私の力では結果的に潰しきれなかった間違いや拙訳については、どうかご容赦願いたい。それでもなおこの作業を進めたい理由はこの報告書が西側の無責任な主流メデイアが「ああだ」、「こうだ」と報道する内容とは完全に一線を画するものであり、非常に専門性が高いという事実にある。
私の個人的な印象としては、MH17便の撃墜事件に関してこれ程の専門性を持った報告書に出合ったのは始めてである。
この引用記事は結構長い。しかしながら、それはたくさんの図が挿入されているからでもある。しばらくの間ご辛抱をいただきたいと思う。
<引用開始>
ロシアの軍需産業技術者による専門的な評価: マレーシア航空のボーイング機はウクライナ東部で「地対空」ミサイルによって撃墜された。
ノーバヤ・ガゼタ紙の編集局においては、「2014年7月17日にウクライナ南東部で撃墜されたボーイング777型機(MH17便)の調査報告書、査読が完了」と題された本文書は部外秘扱いである。
我々の知るところでは、MIC NPO Mashinostroyenia株式会社 [訳注:この企業はロシアの指折りのロケットの専門メーカー。議論の焦点となっているブク・ミサイルのメーカーである]
の技術者が作成したこの報告書は悲惨な大事故を調査しているオランダの専門家に宛てて送付すべきものである。
航空関連やロケットの弾道学についてはジャーナリストはまったくの素人であるので、我々はジャーナリストがこの報告書をあれこれ評価することはできないと思うし、評価をするべきではないとも思う。
公的には非常に重要であることから、我々はこの文書の全文を公開し、ロシアだけではなく全世界の専門家集団にこの文書を提供し、さまざまな議論や事実および結論を公に吟味して貰おうと思う。
また、我々は関心を持っている方々を招き、当面の調査結果に関する「ノーバヤ・ガゼタ」の関連ページを出版して貰うことにした。このMH17便の撃墜に関する知見はすべてを公表する義務があると考えるからだ。少なくとも、この惨事についてさまざまな憶測が次々と提供されることをこの辺りで中断するためでもある。「死体が満載された飛行機がドンバス上空で爆発した」と仄めかした反政府武装勢力の前指揮官であったイーゴル・ギルキン(ストレルコフ)の言動、ファースト・チャンネルや「コムソモルスカヤ・プラウダ」が宣伝した「ウクライナ軍の戦闘機」や「秘密の目撃者」ならびに「スペイン人マネジャー」、等、は虚偽以外の何物でもなかったと今やはっきりと言えるのではないか。
技術者による報告書:
1. ミサイル型式の特定:
マレーシア航空のボーイング777型機(MH17便)を空中で破壊させたもっとも可能性の高い武器は「ブクM1」対空ミサイル基地から発射された地対空ミサイル9M38M1である。
航空機の損傷の特徴や航空機の構造部品が受けた影響を解析することによってミサイルの型式を特定した。
1.1. 機体が受けた損傷の解析:
インターネットから入手した写真やボーイング777型機(MH17便)の墜落現場の写真は機体の板材や構造材に与えられた外的な損傷を特定するのに役立った。機体には子爆弾
[訳注:ミサイルなどの弾頭部分に取り付けられた爆発体で、標的に近づくと発射される] による3種類の疵跡が残されている。もっとも特徴的な疵跡を図1に示す。
図1:
図1A: 「重い」破片の衝突によって形成された「二重T型」の損傷。
図2B、2C [訳注:これらの図は「図1B」、「図1C」と表示すべきであったと思われます]: 衝突物体が機体に侵入した入口を示し、これらの疵痕は「箱」のような形状をした破片によって形成された。「軽―1」、「軽―2」。
1.2. 子爆弾(弾頭)の解析:
インターネットから入手した写真やボーイング777型機(MH17便)の墜落現場の写真を解析することによって、2種類の子爆弾が特定された。「重い」破片と「軽―1」。衝突した「重い」破片の外観を図2に示す。
図2
「重い」衝突破片の外観はI型鋼のような形状を呈し、典型的に9N314M 型弾頭であることを示している。カタログに表示されているミサイルの弾頭は9M38M1のみである。
1.3. ミサイルを特定する際に生じ得る間違い:
マレーシア航空のボーイング777型機(MH17便)の損傷に関与した高速飛翔物体を究明する際、不正確なデータが使用される可能性がある。
さまざまなインターネット情報には図3に示すようなSAM「ブク」ミサイルの弾頭が示されている。
図3
これらの写真を説明しておこう。図3Aは訓練用の模擬弾頭9N314を示し、これは9M38 ミサイルの部品である。図3Bは模擬弾頭9N314M を示し、SAM 9M38M1の部品である。
9N314および9N314M に関する議論には幾つかの基本的な違いが関与する:
• それぞれの弾頭には特徴的な衝突物体(CU 9N314には2種類の破片、9N314Mには3種類の破片)が装着されており、それらの重量や寸法特性はそれぞれ異なる。9N314型子弾頭に用いられている「重い」破片は「箱」の形状をしており、9N314M型では「I形鋼」の形状をしている。
• 各タイプの弾頭に用いられている「重い」あるいは「軽い」破片が拡散する際の最大・最小拡散速度はそれぞれ異なる。
• 戦闘ユニット [訳注:ここは模擬用と実戦用との区別を説明しているようだ] の場合は、子弾頭を拡散する際の子午線角度は個々に異なり、9N314M 型の弾頭は特殊な分布をした速度線図を持っている。
• 各タイプの弾頭に用いられている「重い」あるいは「軽い」破片が拡散する際の最大・最小拡散速度はそれぞれ異なる。
• 戦闘ユニット [訳注:ここは模擬用と実戦用との区別を説明しているようだ] の場合は、子弾頭を拡散する際の子午線角度は個々に異なり、9N314M 型の弾頭は特殊な分布をした速度線図を持っている。
図3Aおよび3Bは破片の拡散領域の生成特性を描写する際に間違いを招きかねない。ミサイル弾頭の特性を決定する際に不正確なデータを用いると、航空機に与える損傷の性質や程度を評価する上だけではなく、ミサイルの条件を対象の航空機と遭遇させる上でも深刻な間違いをもたらす。
1.4. ミサイルの型式の特定:
損傷の特徴や機体から回収された損傷物体の外観は撃墜に使用された弾頭(9N314M)や子弾頭(「I型鋼」形状の「重い」破片、ならびに、「箱」形状の「軽―1」および「軽―2」の破片)のもっともあり得そうな型式を特定することを可能としてくれる。
このような特徴が存在することから、ミサイルの型式は9M38M1であり、ミサイル本体はSAM「ブクM1」であると特定される。
ここで留意しておかなければならない点がひとつある。完璧な特定を行うためには、疵痕部分の化学分析が必要である。つまり、穴の周縁部の材料について化学分析を行い、航空機のさまざまな場所から回収された子弾頭の化学組成との比較を行うことが必要となる。
2.
ロケットが航空機と出合う条件の特定:
ロケットが航空機を撃墜することができる条件の評価は航空機の損傷の特徴に基づいて行い、ロケットの空中姿勢(航空機に接近する際の水平および垂直平面内での角度)やミサイルが爆発した位置を特定した。
2.1. 航空機の機体外板に残された損傷の評価:
機体外板の損傷を解析したところ、弾頭は搭乗員(正・副操縦士)に損傷を与え、左側のエンジン、左翼、左側の水平安定板、ならびに尾翼の左端部を破壊した。
航空機の主たる損傷は国際調査団の暫定報告書ならびに公共の情報源で入手された写真に基づいて特定された。損傷個所を図4に示す。
図4
航空機の構造的な損傷はその程度によって三つのグループに分類される:つまり、深刻な損傷、中程度の損傷、ならびに、軽微な損傷(跳ね返り)。
2.1.1. 深刻な損傷:
深刻な損傷はそのかなりの部分が機体ならびにその強度部材の破壊に見られ、複数の貫通した穴が機体外板に認められ、コックピット内の装置が破壊されている。
もっとも深刻な損傷はコックピット(左側)近傍に位置する航空機の機首部、コックピットの天井、ならびに、左側エンジンの空気取り入れ口に認められる。損傷の事例を図5に示す。
図5
もっとも興味深い解析結果はコックピット天井の損傷に見られる。図6はコックピットの天井部材を示すが、これらは国際調査団の暫定報告書に含まれているものであり、シュラップネルによって航空機の機体にもたらされた数多くの損傷の典型的な例である。
図6
図6に示す写真では下記の種類の損傷が認められる:
外板(天井)には貫通した穴が認められる。赤い楕円で示された部分。
機体の横桁強度部材(リブNo.243.5およびリブNo.254.5 )には貫通した穴が認められる。
強度部材No.236.5(右上の写真)は破壊されている。
白の矢印は破壊物体の飛翔方向を示し、これは外皮や枠桁に対応する貫通穴と関連して定義付けることができる。運動方向に作用する要素を分析した結果、PEは航空機の構造体に沿って飛翔したことを示す
[訳注:PEが何の略語なのかは分からないが、文脈からは明らかに「破壊物体」を指しています]。
2.1.2. 中程度の損傷:
中程度の損傷は主として鋭利な角によって機体の外皮に生成された貫通穴に認められる。中程度の損傷のもっとも多くはコックピットの近傍に位置する機首部、コックピットの天井、および、左側の水平安定板に認められる。典型的な事例を図7に示す。
図7
コックピットの左側の部分(から客室のドアにかけて)が受けた損傷を解析してみると実に興味深い。コックピットからほんの僅かの距離(2-4メートル未満)を離れただけでも、損傷の特徴は大きく変化する。貫通穴は長穴の形状を呈しており、これは破壊物体の迎え角がかなりの鋭角(20-25度)であることを示している。
2.1.3. 軽微な損傷(跳ね返り)
軽微な損傷は航空機の外皮に認められ、これらは擦り傷である。これらの損傷は機体の左側に観察され、左翼や尾翼の左側にも認められる。軽微な損傷を図8に示す。
図8
左翼の疵痕の解析はもっとも興味深い。図9は左翼の(フラップ)機構のひとつが受けた幾つかの擦り傷を示す。
図9
左翼の(フラップ)機構に損傷を与えた物体を分析した結果、これらの損傷は主としてある領域を持って広がった破片群によってもたらされたものであると自信をもって言える。これは数多くの疵痕があること(それぞれ違う形状の破片、重い破片や軽い破片に起因する)や損傷の量(ミサイルの爆発点からの距離を考慮に入れた1平方メートル当たりの穴の数(密度)、ならびに、損傷物体が影響を与えた領域はコックピット外殻の左側部分よりも大きいこと)に基づくものである。
2.2. 航空機内部の部材が受けた損傷に関する評価:
コックピット(コックピットの床面、副操縦士の椅子、ペダル類)が受けた損傷を評価するために航空機内部の部材が受けた損傷を解析した。図10はコックピットの床の一部を示すが、これは国際調査団の暫定報告書に含まれており、複数のシュラップネルによる損傷の例を示す。
図10
図中の青の矢印は操縦士の椅子に刻まれた損傷を引き起こした破壊物体の運動方向を示す。運動方向に作用する要素を分析した結果、PEは航空機の構造体に沿って飛翔したことを示している。
図11はコックピット内の装置を示す。
図11
コックピット内の装置類が受けた損傷を解析したところ、子弾頭の主な方向は左側に偏り(ほとんどが機体構造に沿っている)、上から下へと向かっている。したがって、爆発点は機体の左側近傍にあって、機体の上側に位置する。損傷物体の支配的な飛翔方向は航空機の長手方向の軸線に沿っている。
2.3. 子弾頭による影響の範囲:
機体が受けた主要な損傷についての解析結果に基づいて得られた損傷物体の飛翔方向を図12に示す。
図12
子弾頭の運動方向を青の矢印で示す(図12)。これらの方向を解析した結果、ロケットの経路が特定される - ロケットは航空機の飛行経路と交差するように飛翔した。
この見解は下記の事実に基づくものである:
- 損傷物体の主要な流れ方向は9N314M弾頭におけるロケットの垂直方向のベクトルによって形成される。
- 機体の目視可能な疵跡の大多数はシュラップネルによるものであって、これらは機体の軸線に沿って飛翔した。
上記に述べたように、ロケットは航空機の経路に交差する方向で飛翔した。これは飛行コースの指標に向けて発射した場合にのみ実現可能である。
2.4. 空中でのロケットの飛翔方向を特定:
弾頭が爆発した位置におけるミサイルの飛翔方向を特定した。これは航空機の飛行経路と交差する角度(水平および垂直平面上での角度)を解析することで可能となった。
航空機の構造部材の写真ならびにボーイング777型機の機体設計図(図13)に基づいて、機首部分を再現した。
図13
ボーイング777型機の再現された機首部分を図14に示す。
図14
航空機とロケットとが交差した角度を特定するために航空機の再現された機首部分を解析した。
航空機に向けてミサイルが接近した時点における垂直および水平面上での角度を特定するために、SAM 9M38M1ミサイルの弾頭9N314M によって生成される破片の流れ分布モデルを用いた。
ある広さを持って構造部材や機体を次々と破壊した子弾頭(いわゆる「手術用メス」)の軌跡分布の特徴に基づいて、航空機と遭遇した位置におけるロケット(ミサイルは航空機の経路と交差するように接近)の経路を特定すると、
水平面上では72-75度、
垂直面上では20-22度。
垂直面上では20-22度。
これらの計算結果は航空機およびミサイルの条件と合致し、ロケットの経路に関する結論を支持する。つまり、ロケットは航空機の飛行経路に交差する形で飛翔した。
2.5. ミサイルが爆発した位置の特定:
ミサイルが爆発した位置を特定するために、次の部分の損傷状態を解析した: コックピット(特に左側)、機体左側の外皮、および左翼。
図15は9M38M1ミサイルが爆発したと思われる位置を示す。
図15
弾頭は航空機の外皮から約3-5メートルの位置(図15中の青色の点)で爆発した。これは操縦室の外皮表面には無数の「へこみ疵」や煤による黒いスポットが残されていることから確認される。弾頭の爆発位置の方向:左側正面のgermroshpangoutomの上 [訳注:この単語(ロシア語での綴り:гермрошпангоутом)は意味が不明。何らかの装置の名称] (正操縦士のコックピット前面のガラス窓のさんの左寄り)。弾頭の爆発位置を解析した結果、ミサイルは機首部に誘導されたと結論付けることができる。ここには、三つの「格好の」目標スポットが存在する:つまり、コックピット前方の圧力隔壁、気象観測レーダー用アンテナ、および曲線形状をした機首の外皮だ。
弾頭の爆発位置についてさらに精密な推定を行うには、機首を三次元的に配置することによって可能となる。
2.6. ミサイルが航空機に出合う条件の特定についての結論:
損傷の特徴や子弾頭が飛翔した方向ならびにミサイルが航空機と出合う条件(経路、角度、弾頭が爆発した位置)を解析した結果、下記の結論を得た:
a) ロケットの経路:ロケットは機首部近傍(前方圧力隔壁や気象用レーダーがある部分)で爆発した。ロケットは航空機の経路と交差するように飛翔した。水平平面内では72-75度の角度で、また、垂直平面内では20-22度の角度で航空機の経路と交差した。
b) 弾頭が爆発したと思われる位置は正面のgermroshpangoutomの前方 [訳注:この単語(ロシア語での綴り:гермрошпангоутом)は意味が不明。何らかの装置の名称] (正操縦士のコックピット前面のガラス窓のさんの左寄り)。この爆発位置から約3-5メートル離れている航空機の外皮は剥離された。
c) 2.3 – 2.5項で検討したロケットと航空機が出合う条件はミサイルがかなりの速度パラメータで発射された場合にのみ実現可能である。
3. ミサイル発射位置の推定:
3.1. 基礎データの特定:
ミサイルが発射されたと思われる地点の推定作業は弾頭が爆発した位置における航空機とミサイルの空中での運動ならびに位置のパラメータから始まる。
3.1.1. ボーイング777型機の位置とパラメータ:
航空機の位置ならびにパラメータは国際調査団発行の暫定報告書から入手した。
航空機のコース: 115度、
速度: 約905キロメートル/時、
高度: 33,000フィート(FL330)、約10,060メートル。
速度: 約905キロメートル/時、
高度: 33,000フィート(FL330)、約10,060メートル。
航空機の推定破壊位置: 北緯48º07'37.7、東経38º31'34.7。
3.1.2. ロケットの位置とパラメータ:
ロケットの位置とパラメータはミサイルが航空機と出合う条件の評価結果(2.3―2.5項を参照)に基づいて計算した。
両者が交差した角度は:
水平面上で: 72-75度、
垂直面上で: 20-22度。
水平面上で: 72-75度、
垂直面上で: 20-22度。
弾頭の爆発位置: germroshpangoutomの左側前方 [訳注:この単語(ロシア語での綴り:гермрошпангоутом)は意味が不明。何らかの装置の名称] (正操縦士のコックピット前面のガラス窓のさんの左寄り)。
この爆発位置から約3-5メートル離れている航空機の外皮は剥離された。
3.2. ロケットの発射地点(地域)のモデリング:
ロケットの発射地点(地域)のモデリングには下記のふたつの場合を検討した:
スネジノエ(ドネツク地域)からの発射。この主張はインターネットで入手できるいわゆる「確かなデータ」に根拠を置いていたり、証拠は示せないものの、ドネツク人民共和国の民警が発射したSAM「ブク」ミサイルであるという。
発射地点と考えられる地域を特定。この地域からの発射はロケットが航空機と出合う条件を満足する。
3.2.1. 一番目の事例:
SAM「ブク」(JSC "DNPP")のミサイル製造メーカーのテスト用スタンドで模擬試験を行った結果によると、スネジノエやトレーズ(ドネツク地域)の何れの場所からでも発射されたミサイルは明らかに航空機と出合う条件にあり、正面からの衝突コースにある。航空機とロケットとの交差角度は水平面内では5-20度未満で、垂直面内では0-12度の範囲にある(この角度は発射時の傾斜角度次第となる)。
スネジノエ地域から発射されたロケットの経路が航空機の経路と交差し、航空機と出合う条件を図16に示す。
図16
(飛行経路との交差角度を最大にとって)ロケットが航空機と出合う条件を大雑把に解析しただけでも、スネジノエ地区から発射されたミサイルの場合は破壊物体は航空機の機首部分を破壊するだけであって、主翼やエンジン、水平安定板、ならびに尾翼には損傷を与えそうにはない。
この見解は下記の事実から誘導される。
ミサイルはスネジノエ地区から発射されたとするインターネット説では航空機が受けたすべての損傷(図16)を説明することはできない。上記の条件は次の事項を説明してはいないことになり、これは最大の矛盾となる:
- 左側のエンジン、左翼、左側の水平安定板および尾翼の左側に与えられた損傷(青の疑問符)の原因は何か、
- 操縦室の右側の窓ガラス(副操縦士側)は破壊されずに残っている。子弾頭は2400メートル/秒以上もの速度でここを通過した筈だが(図17)。
- コックピットの右側は破壊されずに残っており、破壊物体が出て行った痕跡が見当たらない(赤の疑問符)。
- 操縦室の右側の窓ガラス(副操縦士側)は破壊されずに残っている。子弾頭は2400メートル/秒以上もの速度でここを通過した筈だが(図17)。
- コックピットの右側は破壊されずに残っており、破壊物体が出て行った痕跡が見当たらない(赤の疑問符)。
図17
この写真(図17)を解析すると、発射されたミサイルの飛翔方向が航空機の経路とほぼ平行である(交差角度は0-20度の範囲内)場合、損傷領域について言えば、コックピットの右側ならびに前部圧力隔壁がひとつの塊となっており、副操縦士側(つまり、右側)の窓ガラスは破壊されずに残った。つまり、起こり得る損傷は実際とはまったく違った様相を示す。ミサイルがこの方向で発射された場合、ロケットの子弾頭の飛翔方向は航空機の軸線とほぼ直交することになる。この場合、ミサイルは航空機の機首部分をもぎ取り、コックピット近傍の右側に残る機体部分には複数の出口が生成される筈だ。
したがって、損傷を受けた機体の調査結果やロケットが航空機と出合う模擬環境に基づいて言うと、インターネットで得られるいわゆる「確かなデータ」を用いた多くの「調査」結果に基づくミサイルは「スネジノエ」から発射されたとする説は完全に捨てられる。
3.2.2. 二番目の事例:
3.1項で得た生データを用いて「逆モデリング」によって得られるミサイル発射位置の推定:
推定されるミサイル発射位置の模擬結果を図18に示す。
図18
模擬作業では、ミサイルが航空機と出合う条件、ならびに、ミサイルの誘導時に起こり得る最大誤差を考慮に入れた。
MH17便の「ボーイング」機がミサイルと遭遇した位置までミサイルを誘導するモデリングを行ってみた。その結果、2.3-2.5項で明記した条件を満足するミサイルと航空機の経路が交差する条件は非常に限られた位置からの発射のみとなる。推定位置は「ザロシェンスコエ」集落の南側となる。
この領域の大きさは南北で約2.5キロメートル、東西で3.5キロメートル。出合いの条件を満たす発射地点の広さは、西から東に向かっては、航空機の飛行経路との交差角度(75-78度)ならびに最大照準誤差(2-3度)によって制約される。同様に、出合いの条件を満たす発射地点の広さは、北から南へ向かっては、航空機の飛行経路との垂直面内での交差角度(20-22 度)ならびに傾斜角度の範囲および最大照準誤差(2-3度)によって制約を受ける。
水平面内および垂直面内における損傷領域について行ったその後の評価によると、ロケットと航空機の経路は互いに交差し、損傷領域における損壊のすべてを網羅し得るミサイルの発射地点は上述の限られた地域のみに限定される。特に、出合い時の垂直面内の角度は重要である。
ザロシェンスコエの集落の近くには、2014年7月17日のロシア国防省の衛星観測によると、ウクライナ軍の自走式SAM「ブク」ミサイル発射台が設置されていた(下記のPhoto-4および5を参照)ことは注記に値する。
Photo-1
Photo-2
Photo-3
Photo-4
Photo-5
Photo-6
3.3. 航空機とロケットとが出合った激突時に航空機が空中で破壊した程度や順序についての評価:
ふたつのモデリングを評価した結果、二番目のモデル(ロケットは「ザロシェンスコエ」から発射された)によってのみ航空機の空中での破壊の程度や順序を説明することが可能である。
3.2.1項で示しているように、正面から衝突する経路でミサイルが発射された場合は、子弾頭の主な流れは航空機の機体の軸方向とは垂直に交わり、航空機の機首をもぎ取る。それと同時に、コックピットの残りの右側半分には複数の破片の出口が残される筈であり、副操縦士側の窓ガラスが原型を留めることは不可能である(図16および17を参照)。
「ザロシェンスコエ」地区からミサイルが発射された場合、ミサイルの経路のパラメータはミサイルが航空機と出合う条件を満たし、この場合子弾頭は航空機の機体の縦軸に沿って飛翔する。破壊物体がこのような運動をする場合にのみ、機体のすべての損傷が説明され、左側エンジンや左翼ならびに尾翼の損傷についても説明可能となる。図19は、機体の強度部材が損傷を受けた領域を念頭に入れて再現した機首の破壊領域を示す。
図19
図19では機体の強度部材が破壊された領域を青色で表示した。ボーイング777型機を空中での破壊に導いたのは機体上部のNo.212からNo.382までの(横方向の)強度部材と縦通材(縦方向の強度部材)の損壊である。それと同時に、機体のフロント部分が分離するといった大破壊を引き起こした。このことは大きく広がっている事故現場によっても確認される。
3.4. ミサイルの発射場所の評価結果:
損傷の特徴および航空機が空中で損壊した程度や順序、ならびに、模擬結果は下記事項を示唆する:
a) 損壊した航空機の様子および機体の損傷の程度や順序は「スネジノエ」地区からミサイルが発射されたという説を排除する(3.2.1項を参照)。
b) ミサイルの発射場所としてより以上にあり得そうな場所は「ザロシェンスコエ」の南の地区である。この地区からミサイルが発射された場合にのみ、ミサイルは航空機と出合う条件を満たし、MH17便の航空機の強度部材に損傷を来すことが可能となる。
b) ミサイルの発射場所としてより以上にあり得そうな場所は「ザロシェンスコエ」の南の地区である。この地区からミサイルが発射された場合にのみ、ミサイルは航空機と出合う条件を満たし、MH17便の航空機の強度部材に損傷を来すことが可能となる。
4. 専門家仲間による主たる査読の結果:
外部から高速度で飛来した破壊物体によって引き起こされたMH17便の航空機の損傷の評価ならびに航空機の強度部材から抽出された損傷部材の調査内容について専門家仲間による査読が行われた。
主な査読結果を下記に示す:
- MH17便の航空機を破壊に導いたロケットの型式の特定(関連情報の更新)。
- 弾頭の爆発位置でロケットが航空機と出合うことができる条件。
- ミサイルの発射地点の特定。
- 弾頭の爆発位置でロケットが航空機と出合うことができる条件。
- ミサイルの発射地点の特定。
重要な調査結果:
a) MH17便の空中での損壊は9M314M型の弾頭を装備した地対空ミサイル9M38M1の爆発によるものである。これはSAM「ブクM1」ロケットの主要型式である。
b) ミサイルが航空機と出合う条件ならびにその結果起こった破壊の流れの領域は飛行経路データを満たすミサイルの発射によってのみ実現可能となる。ロケットは航空機の飛行経路とは水平面内で72-75 度、垂直面内で20-22 度の交差角度を持って飛翔した。
c) ミサイルは航空機と出合う条件を満たさなければならないことから、ミサイルの発射位置としてもっとも可能性が高い区域(2.5km x 3.5km)が特定された。この場所は「ザロシェンスコエ」集落の南に位置する。
編集者から:
この報告書によってすべてが終わるわけではない。むしろ、新たな疑問を誘起し、新たな課題が浮かび上がって来る。その最たるものは「ブクM1」は何処から持ち込まれたのか、誰が持ち込んだのかである。これらの疑問に答えることは容易ではない: 当時は前線が一本だけではなく、戦況を示す地図にはいわゆる白黒がはっきりしない地域が無数にあった。我々は専門家の皆さんをご招待し、公開された報告書の議論に参加することをお勧めしたい。
我々「ノーバヤ・ガゼタ」は引き続き調査を行う。
<引用終了>
これで報告書の仮訳は終わった。
案の定、Google Translateによってロシア語から英語に訳した文章には非常に分かりにくい部分が何箇所もあった。読者の皆さんは幾つかの訳注からこのことをすでに察知されたことと思う。たとえ訳注を入れてはいないにしても、難解な部分は他にもいくつかあった。それらは前後の文脈から意訳をしてみた。不可解な部分については、忌憚のないご意見をいただきたいと思う。
私自身、疑問点がひとつある。図18において、この報告書はミサイル発射地点を示しているが、ここに報告された発射地点(「ザロシェンスコエ」集落の南側)は航空機の進行経路に向かって右側(手前側)にあるとしている。しかし、もうひとつの可能性、つまり、航空機の経路の左側(向こう側)にあって、報告書による発射地点とは鏡像関係となるような地点からミサイルが発射された場合にも、機首の破壊だけではなく、左側エンジンや尾翼の左側を破壊するような子弾頭の飛翔が起こり得るのではないだろうか。報告書はこの可能性について何の言及もしてはいない。その可能性は何かの理由ですでに捨てられたのだろう。考え得る最大の理由は、MH17便の飛行経路の向こう側にはウクライナ軍のブク・ミサイルが配置されてはいなかったということに尽きる。
この報告書に関しては、今後提出される賛成論や反対論を楽しみにしていよう。
小さなことではあるが、付け加えておきたいことがある。この報告書には子弾頭の写真(図2)が含まれている。ミサイルの子弾頭がインターネット上に現れたのは今年の3月19日のオランダのRTL Newsからの記事 [注3] であった。それによると、このような破片は数万個で構成され、総重量は70キロ程になるという。
年内には「オランダ安全委員会」からの最終報告書が公開される予定である。問題は、国際調査団が結成された際、調査団を構成するメンバー国(例えば、ウクライナ)にとって公開内容の一部が自国に不都合となる場合にはその部分を削除する権利があるという前提でこの調査団が発足したという経緯がある。つまり、この国際調査団は最初から事実を全面的に報道することはないという政治的な動機を多分に含んで出発したということである。
余談になるが、インターネット上ではこのロシア語の報告書の他に英語版も見つかった。しかしながら、内容を調べてみたら、小生がGoogle Translateを使って英訳したものと瓜二つであった。私以外にもまったく同じようなことをしている人が米国にもいたわけだ。ということで、その英語版は、残念ながら、この仮訳作業には全然参考にならなかった。
参照:
注1: New Report
Claims Buk Missile Deployed by Kiev’s Forces Downed MH17: By Sputnik,
May/06/2015, sputniknews.com/europe/20150506/1021764384.html
注2: Это был
«Бук-М1»: By Novaya Gazeta, May/06/2015, www.novayagazeta.ru/inquests/68332.html
注3: Evidence proving that flight MH17 was taken down by a
BUK missile: By RTL News, Mar/19/2015, www.rtlnieuws.nl/.../evidence-proving-flight-mh-17-was-take...
非常に長文の難解な翻訳ありがとうございます。タイムリーなことに先週2日にモスクワでこの論文の筆者(アルマズアンテイ社)の記者会見がありました。各テレビ局のニュースになり、かつ週末のニュース解説番組でも大きく扱われていました。当然ロシアにとっては歓迎すべきニュースということです。番組では技術的な仔細は軽く触れ、強調していたのは以下の点です。
返信削除*「ブクM1」による撃墜である
*「ブクM1」は99年以降ロシア軍には配備されていない
*「ブクM1」は05年当時、ウクライナには1000基あった
という具合でウクライナによる撃墜であることを強く示唆し(断定はしていない)、続いて「しかしながらこれだけが撃墜の原因だとは考えていない。ブクシステムが原因とすればそれはM1しかあり得ない」と技術者の上司は会見で述べていました。
それから各局が取り上げていたのが、ドネプロペトロフスクの空軍基地の整備士のインタビューです。数ヶ月前から有名なインタビューですが、今回はモザイクなしで彼のパスポートで素性を示した上で事件当日の様子を証言していました。
*いつもは搭載しない空対空ミサイルを装備してSU25が飛んで行った
*帰還した時はそのミサイルはなかった
*パイロットの名前はボローシンで、帰って来た時、「その飛行機ではなかった」と云っていた
更に番組ではボローシンが事件2日後、受勲し階級が上がった事を付け加えていました。
ということで、現在ロシアでは撃墜の原因はこの二つが有力とされているようです。それからテレビでよく言われることは、アメリカの偵察衛星が撃墜時間帯に現場を通っていた筈だが、一切の情報公開は未だにない。ボイスレコーダ、ドネプロペトロフスク空港の管制との会話も全く出てこない。全く説得力のある説明がなく一方的にロシアが非難されることに対する怨嗟です。
2日のアルマズアンテイ社の記者会見はかなり大がかりなもので海外の記者の為に英語同時通訳のサービスもあり、欧米の記者多数、日本の記者も参加していたようです。しかし寡聞にして、この会見の内容が日本で報じられた所を僕は知りません。欧米含めてどこか伝えた所はあったでしょうか?ロシアを貶めるニュースは喜んで報じるけども、ロシアを利するニュースは一切伝えないというのがモスクワ特派員の仕事なのでしょうか?
石井鶏児様
削除前回も素晴らしいコメントをいただいておりましたが、貴重なコメントを有難うございます。お陰様で、ここに掲載した内容をさらに正しく理解する上で貴重なインプットになることと思います。
西側のメデイアはこのアルマズアンテイ社の報告書について報道した痕跡は見当たりませんよね。インターネット上では代替メデイア系のみがこの報告書のことを伝えているようです。今後、果たしてどのように展開するのでしょうか?
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