「モンサントのラウンドアップは致死的な腎疾患を引き起こしているのかも」との表題を持った記事 [注1]が2月末に現れた。
今までにも除草剤や遺伝子組み換え(GE)作物が新たな環境破壊物質となっているのではないかとする懸念はさまざまな形で報告されている。
しかしながら、たとえば、ある除草剤を使用したが故に健康を害したとしてその除草剤の製造者・販売者に対して製造物責任を法的に訴えようとしても、法廷闘争の場では原因物質と健康被害との直接的な因果関係を裁判所が満足する程度にまで特定できない場合、法的な訴えを起こすこと自体が難しい。通常の農業では何種類もの農薬が使用されていることから、特定の農薬に関して健康被害との因果関係を明確に示すことは農業の現場では至難の技となる。一方、この状況は製造者側にとっては非常に好都合だとも思われる。
私の印象では、今回の記事で報告されている「ラウンドアップ」という除草剤と腎疾患との関連性ほど健康被害を環境汚染の観点から報告した事例は今までにはなかったのではないかと思う。そういう意味で、本件は非常に重要な報告であると思う次第だ。
そこで、本件を今日のブログのテーマにしたいと思う。
ただし、ここに引用する報告が科学的に十分に信頼できるのか、製造元であるモンサントはこの報告に関してまともに反論をすることができるのか、あるいは、裁判所がこの報告書を科学的な証拠として取り上げてくれるのかどうか、等については関連分野の専門家のさらなる究明や環境改善努力に委ねるしかない。誰もが納得できる結論が出るまでには長い時間が必要となるかも知れない…
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それでは、当記事を仮訳して、下記に引用したいと思う。
<引用開始>
Photo-1: スリランカのコロンボ郊外で水田を耕す農夫
(Reuters / Andrew
Caballero-Reynolds)
今まで世界のさまざまな場所で、特に、貧しい農家が多い地域においては致死的な慢性腎疾患に襲われる農夫が後を絶たなかった。そして、その原因を説明することができないままであった。最新の研究によると、この種の慢性腎疾患はバイオ化学大手のモンサント社が製造し、販売している「ラウンドアップ」と呼ばれる除草剤とその地域で使用されている硬水との相乗作用が原因ではないかとのことだ。この新しい研究成果は専門誌、International Journal of Environmental Research and
Public Healthに発表された。
ラウンドアップ、または、その成分であるグリホサートが硬水、あるいは、土壌中に天然の状態で含まれているヒ素やカドミウムといった金属、あるいは、肥料の一部として添加される金属と結合した場合、その毒性が非常に高くなるというメカニズムが提案された。硬水はカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、鉄、その他の金属を含むことが多い。グリホサートはそれ自体が毒性を持っているものの、それは腎臓細胞を死滅させるほど強力な毒性ではない。
グリホサートの分子構造は、1970年代初頭、モンサント社によって除草剤として特許化された。その後間もなく、同社はこれを「ラウンドアップ」という名称で市場へ送り出し、この除草剤は今や世界中でもっとも多く使用されている。
ここに提案された仮定は世界中で見られるようになった不思議な「原因不明の慢性腎疾患」(CKDu)を説明するのに非常に有効だ。たとえば、スリランカ北部の水田地帯ではこのCKDuの発症が数多く見つかっている。また、エル・サルバドルではCKDuは男性の死因の中では二番目に多いという。
本研究によると、この疾患と関連する数多くの観察内容が合理的に説明できるようになったとのことだ。たとえば、患者の96%は「地表に近い、浅い井戸から供給された硬水、または、非常に硬度の高い水を少なくとも5年以上にわたって使用していた」ことが判明している。
CKDuは約20年前にスリランカ北部の水田地帯で初めて発見された。それ以降、その状況は急速な広がりを見せ、今やその地域の労働人口の15%に相当する40万人に影響を与えている。CKDuで少なくとも2万人が死亡した。
2009年、スリランカの厚生省はCKDuの基準を導入した。基本的に、CKDuは慢性腎疾患によく見られるリスク要因である糖尿病や高血圧、糸状体腎炎、あるいは腎炎を伴わないという事実を同省が発見した。
CKDuは地理的および社会経済的な要因と関連しているという事実から、環境的ならびに職業的な要因がこの疾患を解明する糸口になるだろうと推測されていた。本件の場合、化学品が原因だった。
この新たな研究報告によれば、世界保健機構も、CKDuは硬水を消費することや飲み水の量が少ないこと、ならびに、高温への暴露と関係することに加えて、ヒ素やカドミウムおよび殺虫剤への暴露によって引き起こされるということを見い出していた。しかし、なぜスリランカの特定の地域で発症したのか、なぜ1990年代の中ごろ以前には発症しなかったのかについては明快に説明することができないでいた。
研究者たちは1970年代後半のスリランカにおける政治的な変革が農薬、特に、稲作用の農薬の導入に繋がった点を指摘した。12年間から15年間にわたって「低濃度の腎臓を損傷する化学物質」へ暴露され、やがては同化学物質は体内へ蓄積され、1990年代になってCKDuの発症を招いたのではないかと推測されるとしている。
研究者たちは、この原因物質あるいは化合物「X」はある特定の性質を持っている筈であると推測した。研究者たちが仮説をたてた化合物は、約20年から30年まえに初めて導入された物質であること、硬水と接触して安定した化合物を生成すること、腎毒性を持った金属を含んでおり、その物質は腎臓へ移送されること、幾通りかの暴露の形態、すなわち、皮膚または呼吸器からの吸収が可能であること、等が想定された。
これらの要因はスリランカで頻繁に使用されていたグリホサートが原因物質であることを示唆した。それ以前のいくつかの研究によると、典型的なグリホサートの半減期は土壌中では47日とされているが、「金属イオンとの強固な化合物」が生成されると、生分解するのに最長で22年もの期間を要する、とこの研究は指摘している。
科学者たちはグリホサートと金属との化合物(GMCs)への暴露として三つのステップがあることを解明した。つまり、重金属で汚染された水や食品が摂取され、体内で循環している間に皮膚や呼吸器経由で体内に入ったグリホサートと接触し、GMCsが生成される。
たとえば、稲作に従事する農夫は皮膚への付着や吸入、あるいは、汚染された水の摂取、等によってGMCsへの暴露のリスクが高まる。GMCsは通常見られる肝臓の解毒作用のプロセスからは巧みに逃れているようで、その結果腎臓そのものが損傷を受けることになる、との知見を本研究が報告した。
さらには、エルサルバドルやニカラグア、コスタリカおよびインドにおいても頻発している原因不明の腎疾患とも関連があるとの指摘もしている。
Center for Public Integrity は、最近の5年間で見ると、エルサルバドルやニカラグアにおいてはCKDuによる死者数は糖尿病やエイズならびに白血病の三つの原因を合わせた死者数を上回る程になってい、と報告している。
[訳注:Center for Public
Integrityは米国の非営利系ジャーナリストの団体。調査報道を維持することが非常に困難となった商業主義のジャーナリズムに対する不満が高まり、チャールズ・ルイスを中心としたジャーナリストらによって1989年にこの団体が設立された。この種の試みとしては世界でも初めてとも言われている。米国の大統領選挙では選挙運動への資金提供の上位50社(団体)を公表し、政府の政策と資金の出所との関連性を分析する等、公共のための調査報道に力を入れている。]
<引用終了>
ラウンドアップという除草剤の成分であるグリホサートが水の中に含まれている金属と化合して腎臓に有害な化合物を生成していたこと、典型的なグリホサートの半減期は土壌中では47日とされているが、「金属イオンとの強固な化合物」が生成されると、生分解するのに最長で22年もの期間を要すること、等が解明されたことは素晴らしい。これで、他の有力な説明が出て来ない限りは、「原因不明の慢性腎疾患」(CKDu)とその原因物質であるグリホサートとの関係が解明されたということになる。
スリランカでの「ラウンドアップ」除草剤の健康被害については国家的な救済が必要であることは明白だ。健康被害と除草剤との因果関係がようやく明確になってきた今、行政側は被害者の救済のために次のステップへ踏み出すことが求められる。
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フランスでは、2012年、モンサント社はある農夫に生じた発芽前除草剤「ラッソ」による中毒症状の件で敗訴した。
当時の記事 [注2] によると、小麦の栽培農家であったポール・フランソワ(47歳)は2004年にモンサント社の「ラッソ」という除草剤を誤って吸引した後、記憶喪失や頭痛ならびに言語障害を含む神経障害に悩まされた。製造元のモンサントが適切な警告表示をしなかったが故に、彼は除草剤を吸引してしまい、さまざまな障害に悩まされることになったと主張した。この主張は特定の除草剤と健康被害との関係性を裁判所が認めた非常に稀な事例となった。
フランソワの件は他の訴訟案件とは違っていた。除草剤の噴霧装置のタンクを掃除している際にラッソを吸引してしまった、と彼は述べている。つまり、彼は具体的に健康被害の原因を特定することができたのだ。
除草剤によって神経系に障害が起こり得ることは公知の事実ではあっても、特定の除草剤との因果関係を確立できない限り、通常、訴訟には勝ち目がない。原因と結果との間に科学的な因果関係が確立されてはいないという論理が裁判所では支配的となるからだ。この状況は、国際原子力機関が放射能の被ばく量と特定の健康被害との間に数値的な因果関係が確立されない限りは放射能によるものであるとは認めたがらない構図とどこか非常によく似ている。
好むと好まざるとにかかわらず、利害が相反する当事者間では事実認識に隔たりが生じるのが常だ。
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除草剤や殺虫剤の機能が作物に組み込まれると、これらは遺伝子組み換え(GE)作物と称される。
GE作物を食品に使用するには消費者の安全性が最大の関心事となる。最近、家畜の飼料用として認可されていたGEトウモロコシである「スターリンク」が食品に混入していることが米国で判明した。
2012年9月18日、市民団体「地球の友」が米国において市販のタコスからスターリンクを検出したと公表した(米国においては、食品にスターリンクの持つ殺虫性たんぱく質Cry9Cは含まれてはならないとされている)。これを受けて、企業による製品の自主回収、スターリンクの作付け中止、米国政府による2012年産スターリンクの買い上げ等の一連の措置がとられた。
ここで、殺虫作用を持つ「Cry9C」というたんぱく質の機能を確認しておこう。Cry9C はトウモロコシの害虫である毛虫の腸内でさまざまな部位に結合し、その細胞を破壊する。こうして、殺虫効果を発揮する。しかしながら、このたんぱく質は他の動物には作用しないという。
開発業者であるアベンティス社がスターリンクの栽培認可を自主的に辞退したため、10月12日付けで米国環境保護庁(EPA)は栽培認可を取り消した。こうして、米国ではスターリンクの作付けが2013年以降は中止となった。
GE 食品には殺虫作用や除草作用を呈する物質(タンパク質)が常に付きまとう。この物質が人間の体内に取り込まれた時アレルギー症状を起こすかどうかがもっとも重要な点である。また、アレルギー症状は個人の体質に依存すると見受けられ、因果関係が科学的に解明できるのかどうかは消費者側にとっても大きな関心事である。
ある研究者自身に言わせると、最大の難関はどうやってGE作物を生産している企業から独立して研究をすることができるのかという点だそうだ。素人のわれわれには理解しにくいことであるが、ある研究者の報告によると、下記のような状況だそうだ
[注3]。
<引用開始>
…バイオテク産業は、どちらかと言うと、外部に対して巧妙で非常に高度な制御機構を設けており、これによって彼らの製品が独立した研究にさらされることを防いでいる。
「その通りです。研究をしようとする人にとってはさまざまな困難がつきまといます」と彼女は言う。「通常は、研究を実施するための資金の確保に集中します。でも、試験の対象である材料を確保しなければなりません。この場合は、遺伝子組み換え種子となりますが、試験用のGE種子を入手すること自体が結構難しいのです。」
『農家の人たちが作付けのために必要な種子を購入したい場合、「技術使用者合意書」に署名しなければなりません。それらの種子に関して署名者が何らかの研究をすることは許されず、研究のために他人へ譲ることも許されないのです。』
『基本的には、何か別の合法的な方法を模索する必要があります。私たちはそうしましたが、かなりの時間が必要となりました。他の手法としては、業界へ出向いて、「種子を少し分けていただけませんか?」と依頼する必要があります。私たちもそうしました。種子を入手するために私たちに提示された条件は、ほとんどの場合、企業から公正に種子を入手できるような条件ではありませんでした。』…
<引用終了>
上記の引用例に見られるように、バイオテク産業は商業的に自衛するためにそうしているのだろうが、これがGE作物に関する第三者の独立した研究を妨げている大きな要因となっているという。このような状況を知ることによって、バイオテク産業を取り巻いているひとつの現状をよく理解することができる。企業側と農家との間で現在行われている商業的な手続きを続行することによって、企業側にとっては技術的な面で外部からとやかく言われないで済むという具合だ。企業側にとってはこの上なく好都合なことだろう。
しかし、この状況は食品の安全や安心を確保する上で不必要なハードルを設けてしまっている。このままでは、消費者には産業界の言うことしか伝わらず、第三者の独立した研究者からの科学的な研究活動が排除されたままとなってしまう。非常に理不尽だ!
個々の企業や業界の透明性を高め、消費者の健康を積極的に守るという毎日の生活の中でももっとも基本的な条件を整えるには上記のような状況が継続してはならないと。今後このような状況が起こらないようにするには、企業側の義務を明確に規定し、規定に違反した場合には罰則を科す法律を制定するしかないと思う。
ところで、2013年、モンサントはヨーロッパから撤退したとのことだ。これはヨーロッパの消費者が抱いている「GE作物は安心して食べることができるのか」という非常に基本的な疑念に応えるだけの情報を消費者や環境保護に熱心な勢力に対して提示することができなかったということを意味する。これがGE作物の現状ということのようだ。
参照:
注1: Monsanto's Roundup may be linked
to fatal kidney disease, new study sugGEsts: By RT, Feb/27/2014, http://on.rt.con/do84uy
注2: Monsanto guilty of chemical poisoning
in France: By Catherine Lagrange and Marion Douet, Reuters, Feb/13/2012, www.reuters.com/.../us-france-pesticides-monsanto-...
注3: Large Pig Study
Reveals Significant Inflammatory Response to Genetically Engineered Foods: By Dr. Mercola, May/18/2014, articles.mercola.com/sites/.../gmo-foods-inflammation.aspx
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