2012年10月7日日曜日

尖閣諸島の歴史的背景


この9月、中国では幾つかの大都市で反日デモが展開された。これらの反日デモは暴徒化し、破壊や略奪等により日系企業の工場が操業停止に追い込まれ、日系小売店や日本車デイーラー等が甚大な被害を受けた。何時になったら営業を再開することができるか分からない事例もあるという。反日デモは、1972年の日中国交正常化以来、最大規模のものとなった。そして、直接的な被害よりももっと厳しい状況が今鮮明になりつつある。日本製品に対する不買運動である。この影響は反日デモによる直接的な被害額を大きく超すことになるかも知れない。

927日、中国外相が国連総会で演説を行った。ロイター電[注1]はその様子を次にように報告している。

中国の楊潔チ外相は27日、国連総会で演説し、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題について、尖閣諸島は1895年に中国から奪われたものであり、日本政府による最近の購入は「違法で無効」だと述べた。楊外相は「日本がとった措置は完全に違法で無効だ。日本が釣魚島および属する諸島を盗んだことと、中国がそれらの主権を有するという歴史的事実は変えようがない」と述べた。また、日本政府に対し、交渉を通じた問題解決も呼び掛けた。

今回の中国外相の演説は日本を名指しにし、日本政府が閣議決定した尖閣諸島の国有化を厳しく批判した。その内容は非常に直接的であり具体的な内容になっている。
一方、野田首相の国連演説の要旨[注2]は下記のごとくである。
....国の主権や領土、領海を守ることは国家としての当然の責務で、国際法にのっとり責務を果たす。世界の平和と安定、繁栄の基礎となる「法の支配」の確立は、紛争の予防と平和的解決の実現に不可欠で、一層強化すべきだ。自らの主義主張を一方的な力や威嚇を用いて実現しようとする試みは、国連憲章の基本的精神に合致せず、決して受け入れられない。「法の支配」の強化に向け、日本は国際司法裁判所(ICJ)の強制管轄権を受諾してきた。国連と協力し、各国がICJの強制管轄権を受諾することを呼び掛ける。世界の各地に領土や海域をめぐる紛争が数多く存在している。国際法に従い紛争を平和的に解決することは、国連憲章の理念であり、国際社会で共有された原則だ。わが国はどのような場合でもこの原則を堅持し、国際法に従い平和的な解決を図る。「法の支配」を広げることが、アジア太平洋地域を中心とする各国のネットワークにおいても、秩序と繁栄をもたらす重要なインフラになる。国家間あるいは国際機関内部の規律にも「グローバル・ガバナンスの強化」が求められる。全ての国がそれぞれの能力に応じた責任を全うしなければならず、特に経済成長の著しい国々が、その国力に見合った責任を果たすことを期待する。

上記に引用した野田首相の演説は「法の支配」を強調し、領土問題に関しては国際司法裁判所の判断に従って領土や海域をめぐる紛争を解決して行きたいと表明した。文脈からは明白ではあるものの、「尖閣諸島」や「中国」という言葉の使用は避けた。

少し遡って99日、野田首相はロシアのウラジオストックにて開催されたAPEC首脳会議で中国の胡錦涛国家主席と立ち話を行い、意見交換をしたと報道されている。

中国外務省によると、胡主席は日本の尖閣国有化方針に「日本側が取るいかなる方式の『島購入』も違法かつ無効であり、断固反対する」と表明。「事態の重大性を十分に認識し、誤った決定を行わず、中国側と共に中日関係の大局を維持する」べきだとして、方針撤回を求めた。[注3]

中国が日本政府による尖閣諸島3島の国有化を反対し、中日関係の大局を維持するよう求めていたにもかかわらず、日本政府はウラジオストックでの立ち話が行われた2日後に尖閣諸島の国有化を閣議決定した。
これは交渉相手の心情を無視した動きだったとしか言いようが無い。何と言うタイミングの悪さだろうか。これが反日デモの発端だった。
この閣議決定を受けて、胡主席は面子を失い、日本政府に対する不信感は極に達した。その後、中国国内ではかってない大規模な反日デモが展開された。この過激化した反日デモは、中国政府の想定外であったと言われている。
領土問題はどこの国民にとっても非常に敏感な事柄である。日本人が尖閣諸島は日本の領土であると信じているのと同じ程度に、中国人もまた釣魚島は中国の領土であると信じているに違いない。尖閣諸島の領有権を巡る中国での反日デモは2年前の10月にも起こった。その際も日系企業は大変な被害を被った。今回は2回目で、さらに過激なものとなった。

    
外務省のウェブサイトを開くと、「尖閣諸島の領有権についての基本見解」と題する公式文書が掲載されている。平成2410月の掲載となっているから、つい最近のものだ。さらに、英語版と中国語版も併せて掲載されている。察するに、中国外相や野田首相の国連演説の後既存の文書を急遽更新したものと思われる。

添付文書として下記3点が掲載されている。



(3)    67回国連総会一般討論における楊潔チ中華人民共和国外相のステートメントに対する答弁権行使による兒玉和夫大使のステートメント(日本語英語)(平成24927日)

これらの添付文書の内容は、我々素人も是非ともその詳細を知っておくべき内容だと思う。

二国間の領土問題は歴史を抜きにしては語れない。歴史的にはどういった経緯を辿って現在に至っているのか。この点が今日のブログのテーマだ。

さまざまな情報を検索してみた。先ず最も重要な情報は外務省が掲載している上述の文書だ。
ところが、ある専門家の見解を見つけた。その見解によると、日本政府が述べている尖閣諸島の領有権の基礎となる「先占」の論理には弱点があるとのことだ。この指摘を我々は良く知っておく必要があると思う。
つまり、この弱点を突いて中国は国際世論を味方につけようとしているようだ。その詳しい内容を下記に紹介したいと思う。ここで引用する専門家は矢吹晋さんという方で、「21世紀中国総研」の創立発起人である。21世紀中国総研は20036月の創立。
「尖閣騒動―頂門の一針」と題する今年102日発行の最新号[注4]を下記に引用してみる。なお、原文には下線が施されていたり、赤文字があったりするが、原文のままに引用する。
この文書には日常身近にある主要メデアからはなかなか入手できないような貴重な情報が数多く含まれている。その点を念頭に置いて、先へ進むことにしたい。

 

<引用開始>
 
(注:ここに引用した文章では文章の配置スタイルに一貫性が欠けている部分があって、読みにくくしていると思います。修正を試みましたが、うまくいきませんでした。ご容赦ください。)

21世紀中国総研

71号 2012.10.02発行 by 矢吹晋

尖閣騒動――頂門の一針

 あるジャーナリストの話である――今の日本のメディア特に民放は、桜井よしことか中西輝政とか渡辺利夫のようなシロウトに中国を語らせますが、無節操もはなはだしい。今回の尖閣国有化をめぐっては、7月の段階ですでにCCTV4の「中国新聞」で、「非法」「購島」「閙劇」をキーワードに連日日本批判を繰り返していました。

 913日の昼ニュースは、最初から30分間、尖閣問題のオンパレード。小生はこのままでは済まないと思っていたのですが、同日夜NHKの「ニュース9」と、翌14日の「おはよう日本」7時~745分のニュースには「尖閣なし」。あまりにも大きなギャップに絶句――

 このジャーナリストの絶句に近い体験を私はこの半年、数回味わった。

 316日、国際善隣協会で講演した際には、216日夜、北京での日本友好7団体の胡錦涛会見拒否に触れつつ、「40周年記念イベントの幕開け」がこの体たらくでは「本番の秋は更に凄まじいことになりそうだ」と警告した(『善隣』4月号)。

 私の予想というか、危惧は、遺憾ながら的中した。
 問題は、このような形で日中の矛盾が爆発したにもかかわらず、依然として何事が起こったのかを大方の日本人が自覚できていないことだ。
 尖閣は日本固有の領土だ、と金切り声をあげる政治家を英雄扱いし、「中国は事実上、尖閣諸島の領有権を放棄した」と明々白々の事実誤認を書いた御用学者(服部龍二『日中国交正常化』)を繰り返しマスコミに登用させている。これらがすべて中国から見ると、日本右翼の挑戦と受け止められていることにまるで無頓着だ。日本社会の「尖閣カルト」はもはや、カルトとよぶほかないような錯乱ぶりではないか。
 実は、「領土問題は存在しない」という民主党政権=外務省の強弁は、すでに破産したのだ。この問題が登場して以来識者たちが指摘してきた、周知の事柄ではあるが、中国の『尖閣白書』(925日)がついに、この論点を明確に据えて、日本の「無主地先占」論の弱点を鋭く衝いてきた。日本側が「固有の領土とする原点」が大きく揺らいでいる。






 1885922日、沖縄県令が釣魚島を秘密調査した後、山県有朋内務卿に提出した秘密報告では、これらの無人島は「『中山伝信録』に記載された釣魚台、黄尾嶼、赤尾嶼などと同一の島嶼であり」、すでに清朝の冊封使船によってよく知られ、かつ琉球に向かう航海の目印として、それぞれ名称が付けられている。したがって、国の標杭を立てるべきかどうか懸念があり、それについて上の指示を仰ぐ、としている。
 同年109日、山県有朋内務卿は井上馨外務卿に書簡を送り、意見を求めた。
 1021日、井上馨から山県有朋宛ての回答書簡では、「この時機に公然と国の標杭を立てれば、必ずや清国の猜疑心を招く。ゆえに当面は実地調査およびその港湾の形状、後日開発が期待できるような土地や物産などを詳細に報告するにとどめるべきである。国の標識設置や開発着手などは、後ほど機会を見て行えばよい」としている。井上馨はまた、「今回の調査の件は、おそらくいずれも官報や新聞に掲載しないほうがいい」ことをとくに強調した。そのため、日本政府は沖縄県が国の標杭を立てる要求に同意しなかった。 
 1890113日、沖縄県知事はまた内務大臣に、釣魚島などの島嶼は「無人島であり、今までその所轄がまだ定められていない」、「それを本県管轄下の八重山役所の所轄にしてほしい」との伺いを出した。
 1893112日、沖縄県知事は国の標杭を立て、版図に組み入れることをふたたび上申したが、日本政府はやはり回答を示さなかった。



 以上で指摘された諸事実は、『日本外交文書』に基づくものであり、中国が偽造したものではない(ただし、念のために書くが、これらの史料を私自身は、確認していない。信頼できる内外の歴史家の分析に依拠している)。
 以上の事実は、すべて日本政府が「無主地先占」を主張して以後の事柄だ。もし尖閣がほんとうに「無主地」ならば、なぜ山県有朋や井上馨がこのような態度をとったのか、それを説明しなければならないのだ。この「史実」をどこまで無視できるか。それが問われているのだ。
なお、「棚上げの黙契」の有無を疑う人々は、以下の史料を読んだ上で発言してほしい。








尖閣問題の交渉経緯の真相

 以下の資料1.から分かるように、第三回首脳会談で田中が尖閣を提起し、周恩来が「今、これを話すのはよくない」と棚上げ案を返答しています。外務省会談記録は、その趣旨を次のように記録しています。


資料1. 外務省が公表した「田中角栄首相、周恩来総理会談」記録によれば、第三回首脳会談1972927日午後410分から、国際問題を語り、そのなかで尖閣を話した。
田中総理 「尖閣諸島についてどう思うか?  私のところに、いろいろ言ってくる人がいる」。
周総理 「尖閣諸島問題については、今、これを話すのはよくない。石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない」。――『記録と考証、日中国交正常化』岩波書店、2003年、68ページ。

 
 もう少し詳細な記録が欲しいところですが、この簡潔な要旨記録から明らかなように、田中は第三回首脳会談で尖閣を提起して、周恩来は、以上のように答えています。

 その後、田中は翌日の第四回首脳会談で再度、尖閣を提起しました。この日の田中と周恩来のやりとりを外務省記録は削除しました。誰が削除したかは明らかです。削除した本人が、清水幹夫に対して、後に真相を語っています。以下の資料2.の通りです。


資料2. さらに、第四回首脳会談1972928日午後3時からの首脳会談で「台湾問題が結着したあと」、周首相が「いよいよこれですべて終わりましたね」と言った。ところが「イヤ、まだ残っている」と田中首相が持ち出したのが尖閣列島問題だった。周首相は「これを言い出したら、双方とも言うことがいっぱいあって、首脳会談はとてもじゃないが終わりませんよ。だから今回はこれは触れないでおきましょう」と言ったので、田中首相の方も「それはそうだ、じゃ、これは別の機会に」、ということで交渉はすべて終わったのです。――橋本恕の200044日清水幹夫への証言、大平正芳記念財団編『去華就実 聞き書き大平正芳』2000年。『記録と考証、日中国交正常化』岩波書店、2003年、223-4ページに再録。


 明らかに、田中が再度問題を提起して、周恩来が「双方とも言うことがいっぱいあって、首脳会談はとてもじゃないが終わらない」という理由で、棚上げを提案し、田中が同意した。これが田中・周恩来会談の隠された真実です。
 このやりとりを指して、中国側は「黙契」・「共識」(共通認識の意)と呼んでいます。
 「黙契や共通認識はなかった」とする日本政府の主張は、田中・周恩来会談の真相をゆがめるものです。中国はいま、日本政府の認識と尖閣国有化は、田中・周恩来会談における棚上げを反故にしたものと非難しています。
 改竄された外務省記録をもとに戻すことが必要です。当事者の橋本恕中国課長(のち中国大使)は「1972年の真実」を28年後の2000年になってようやく告白した経緯を知らない日本人は、「尖閣問題の棚上げ」「尖閣問題についての共通認識」はなかったと受け取り、「尖閣は日本固有の領土だ」とする一方的理解だけが刷り込まれてしまったのですが、これを是正することが必要です。
 以下に三つの関連資料を挙げます。一つは、いわゆる竹入メモの筆者竹入義勝の回顧録。もう一つは、国交正常化6年後の1978年に来日した鄧小平記者会見の尖閣についての発言です。周恩来の認識と鄧小平の認識は、基本的に同じです。「尖閣は日本固有の領土だ」とする日本側主張に対して、「釣魚島は中国固有の領土だ」と主張しています。そして両者の立場表明を前提としつつ、棚上げで合意しているのです。この合意を日本政府が否定したことによって、国交正常化当時の約束が反故にされたと中国は主張しているわけです。田中・周恩来会談において、「中国側は領有権主張を行わなかった」とする解釈は、明らかに間違いであり、そのような記述を行った服部龍二『日中国交正常化』(中公新書、2011年)に、アジア・太平洋賞特別賞を与えた『毎日新聞』や、大佛次郎論壇賞を与えた『朝日新聞』は、日本世論をミスリードした責任を免れないのです。最後に2年前の国会論議を一つ。大平も園田も、野田政権みたいな独善的態度ではなかったことは明らかです。



資料3. 当時公明党委員長として田中訪中へのメッセンジャー役を務めた竹入義勝は、次のような証言を残している。
 尖閣列島の帰属は、周首相との会談で、どうしても言わざるを得なかった。「歴史上も文献からしても日本の固有の領土だ」と言うと周首相は笑いながら答えた。「竹入さん、われわれも同じことを言いますよ。釣魚島は昔から中国の領土で、わが方も見解を変えるわけにはいかない」。さらに「この問題を取り上げれば、際限ない。ぶつかりあうだけで何も出てこない。棚上げして、後の賢い人たちに任せしょう」と強調した。――『記録と考証、日中国交正常化』岩波書店、2003年、204ページ。

 田中・周恩来会談9月27日のやりとりを最も詳しく記述しているのは、張香山の回想記です。これは矢吹の解釈では、張香山がこの会談に出席しており、しかもこれを記録した中国側議事録に依拠していることを示唆すると考えられます。



資料4.中国外交部顧問として、日中会談に同席した張香山の回想記はもっとも詳しくやりとりを記録している。これは中国側会談記録に基づくものと矢吹は推測する。
 張香山曰く、この問題に関しては、第3回首脳会談[927]がまもなく終わろうという時に話が始まったが、双方は態度を表明しただけで議論はしなかった――
 田中首相1――「私はやはり一言言いたい。私はあなたの側の寛大な態度に感謝しつつ、この場を借りて、中国側の尖閣列島(=釣魚島)に対する態度如何を伺いたい」。

 周総理1――「この問題について私は今回は話したくない。今話しても利益がない」。
田中首相2――「私が北京に来た以上、提起もしないで帰ると困難に遭遇する。いま私がちょっと提起しておけば、彼らに申し開きできる」[申し開きの中国語=交待]。
 周総理2――「もっともだ! そこは海底に石油が発見されたから、台湾はそれを取り上げて問題にする。現在アメリカもこれをあげつらおうとし、この問題を大きくしている。
田中3――「よし!これ以上話す必要はなくなった。またにしよう」。
総理3――「またにしよう。今回我々は解決できる基本問題、たとえば両国関係の正常化問題を先に解決する。これは最も差し迫った問題だ。いくつかの問題は時の推移を待ってから話そう」。
田中4――「一旦国交が正常化すれば、私はその他の問題は解決できると信じる」。
出所:『日本研究』1998年第1
 以上から分かるように、「田中が4回、周恩来が3回」発言した。ちなみに日本外務省の会談記録では、「田中1回、周恩来1回」だけの応答であったように記録されている。
在第三次首脑会谈快要结束的时候谈起的,双方只是表个态就不谈了。当时
a
田中首相说:我还想说一句话,我对贵方的宽大态度很感谢,借这个机会我想问一下贵方对阁列岛(即我钓鱼岛)的态度如何?
b
总理说:这个问题我这次不想谈,现在谈没有好处。
c
田中首相说:既然我到了北京,不提一下,回去会遇到一些困难。现在我提了一下,就可以向他们交待了。
d
总理说:对!就因为那里海底发现了石油,台湾拿它大作文章,现在美国也要作这个文章,把这个问题搞得很大。
e
田中说:好!不需要再谈了,以后再说。
f
总理也说:以后再说,这次我们把能解决的基本问题,比如两国关系正常化问题先解决。这是最迫切的问题。有些问题要等到时间转移后来谈。
g
田中说:一旦邦交正常化,我相信其他问题是能够解决的。
张香山中日复交谈判回顾《日本研究》 1998年第1

 ちなみに、もう一つのキーワード「共同開発」について、張香山は次のように記録している。
釣魚島の「共同開発」問題に関して、私[張香山]の知るところでは、19795月鄧小平副総理が訪中した鈴木善幸氏と会談した時に提起されたものである。鈴木善幸氏は聞いた後、この意見を持ち帰り、大平正芳首相に知らせると表明した。
关于钓鱼岛共同开发问题,据我所知是在19795邓小平副总理同来华访问的铃木善幸先生会谈时提出来的。铃木先生听后表示要把这个意见带回去,告诉大平首相。
  反霸条款问题总理向竹入提出的八条三项方案里就有这一条。总理告诉竹入说,这是基辛格的发明,已写入中美公报中,现在中日联合声明也用上了,这样中国、美国、日本三国都同意了。竹入听了以后说,这一条可能会产生一些影响。总理说:如果日苏会谈,苏联也讲这一句不是很好吗!总理还说因为这个东西是美国搞的,估计美国是不会反对的。当然,如果这个问题田中首相觉得有问题,可以商量。竹入表示很感谢,说要去说服他们两位。结果,在古井先生带来的日本对案中,已写入这一条,倒是到签订中日和平友好条约时却发生了问题。出所:『日本研究』1998年第1


 1978年の尖閣合意(コンセンサス、共識)について。


資料5. 1978810日、園田外相が訪中して北京で、鄧小平・園田会談が行なわれた。尖閣についてのやりとりは、張香山著『中日関系管窺与見証』によると、以下の通り。なお、日本外務省の会談記録は、尖閣の箇所を削除したものしか発表していない。
  • 中日両国間には若干の懸案がないわけではない。たとえば、日本は尖閣列島と呼び、中国は釣魚島と呼ぶ、この問題もあるし、大陸棚の問題もある(我們両国併不是不存在一些問題的。比如你們説的尖閣列島,我們叫釣魚台問題,還有大陸架問題)。
  • 日本では一部の人がこの問題を利用して『友好条約』の調印を妨害したではありませんか。わが国にも調印を妨害した人がいないわけではない。たとえばアメリカに留学し、アメリカ国籍をとった者、一部の華僑たち、彼らの中に「保釣」運動がある。台湾にも「保釣」運動がありますよ(但在你們国内不是有一些人企図挑起這様的事情来妨礙和平友好条約的簽訂嗎?我們中国人也不是没有這種人,比如説,我們留美的,加入美国籍的,有些還是華僑,不是有一個保釣島嗎? 在台湾也有"保釣"呢!)。
  • この種の問題は、今引っ張りだしてはいけない。『平和友好条約』の精神がありさえすれば、何年か放って置いておいて構わない。何十年か経って協議整わずでもかまわない。まさか解決できなければ、仲違いでもないでしょう(這様的問題現在不要牽進去, 本着「和平友好条約」的精神, 放幾年不要緊, 很可能這様的問題,幾十年也達不成協議。達不成,我們就不友好了嗎?)
  • 釣魚島問題は片方に置いてゆっくりゆうゆうと考えればよい。中日両国間には確かに懸案はある(要把釣魚台問題放在一辺,慢慢来,従容考慮。我們両国之間是有問題的)。
  • 両国は政治体制も置かれている立場も異なる。いかなる問題でも同じ言い方になるのは不可能だ。とはいえ、同時に両国は共通点も多い。要するに、『小異を残して大同に就く』ことが重要だ(我們両国政治体制不同,処境不同,不可能任何問題上都是同様語言。但是我們間共同点很多,凡是都可以「求大同,存小異」)。
  • われわれは多くの共通点を探し、相互協力、相互援助、相呼応する道を探るべきです。『友好条約』の性格はつまりこのような方向を定めている。まさに園田先生のいう新たな起点です(我們要更多的尋求共同点,尋求相互合作,相互幫助,相互配合的途径)条約的性質就是規定了這方向,正是你説的一個新的起点)。
 これを受けて、園田は次のように応じた――鄧小平閣下がこの問題に言及されたので、日本外相として私も一言発言しないわけにはいきません。もし発言しないとすれば、帰国してから申し開きできない。尖閣に対する日本の立場は閣下がご存じの通りです。今後二度とあのような偶然[張香山注、中国漁船隊が尖閣海域に侵入したこと]が起こらないよう希望したい。私はこの一言を申し上げたい(你談了這個問題,我作為日本外相,也不能不説一点。如果不説,回去就不好交代。関于日本対尖閣的立場,閣下是知道的,希望不再発生那様的偶然事情 指中国捕魚船隊,一度進入釣魚島海域,我講這麽一句)。
 これを受けて、鄧小平は次のように応じた――この種の事柄を並べると、われわれの世代の者には、解決方法が見出せない。次の世代は、その次の世代は、解決方法を探し当てることができるでしょう(把這様的事情擺開, 我們這一代人, 没有找到辦法, 我們的下一代,再下一代総会找到辦法解決的)。
――
張香山著『中日関系管窺与見証』当代世界出版社、1998

 園田外相の訪中を踏まえて友好条約が調印されたので、その批准書交換のために鄧小平の訪日が行なわれた。鄧小平は19781025日日本記者クラブで、記者会見を行った。その発言趣旨は、資料5.と酷似している。つまり、北京における園田・鄧小平会談を踏まえて、資料6があることは明らかだ。



資料6. 鄧小平副首相 尖閣列島は、我々は釣魚諸島と言います。だから名前も呼び方も違っております。だから、確かにこの点については、双方に食い違った見方があります。中日国交正常化の際も、双方はこの問題に触れないということを約束しました。今回、中日平和友好条約を交渉した際もやはり同じく、この問題に触れないということで一致しました。中国人の知恵からして、こういう方法しか考え出せません。というのは、その問題に触れますと、それははっきり言えなくなってしまいます。そこで、確かに一部のものはこういう問題を借りて、中日両国の関係に水を差したがっております。ですから、両国政府が交渉する際、この問題を避けるということが良いと思います。こういう問題は、一時棚上げにしてもかまわないと思います。十年棚上げにしてもかまいません。我々の、この世代の人間は知恵が足りません。この問題は話がまとまりません。次の世代は、きっと我々よりは賢くなるでしょう。そのときは必ずや、お互いに皆が受け入れられる良い方法を見つけることができるでしょう。――鄧小平記者会見「未来に目を向けた友好関係を」19781025日日本記者クラブホームページhttp://www.jnpc.or.jp/files/opdf/117.pdf


 資料5.と資料6.で得られた「合意、共識、コンセンサス」は、その後、国会でどのように認識されていたかを示す資料を一つだけ掲げる。



資料7.衆院安保特別委(20101021日)の議事録。
 船長逮捕事件における前原誠司発言が出た際の、民主党議員の質問です。「棚上げ」を園田直外相も大平正芳首相も認めていたと紹介しています。
 神風英男委員(民主)=(野田内閣・野田改造の防衛大臣政務官)
 日本としては、(棚上げ)合意がないという立場であろうと思います。ただ、当時大平内閣のもとで、当時の沖縄開発庁が調査団を尖閣諸島に派遣した、この調査に関して、中国が、鄧小平副首相との合意に反するという抗議があったわけであります。これを受けて、衆議院の外務委員会において、当時の園田直外務大臣がこのように述べられている。
 「日本の国益ということを考えた場合に、じっとして今の状態を続けていった方が国益なのか、あるいはここに問題をいろいろ起こした方が国益なのか、私は、じっとして、鄧小平副主席が言われた、二十年、三十年、今のままでいいじゃないかというような状態で通すことが日本独自の利益からいってもありがたいことではないかと考えます。」
 こういうように述べられているわけでありまして、いわば棚上げ状態にしておくことが日本の国益にも合致するんだというような趣旨のことを当時の園田外務大臣が述べられ、また、いろいろその当時の議事録を拝見しますと、大平総理も同じような立場に立っているようであります。

 

<引用終了>

さて、「中山伝信録」という言葉が出て来るが、これは、amazon.co.jpによると、1719年に来琉し尚敬王の冊封使により1721年に出版された冊封使録の白眉であり、近世琉球と中国の交流の一大百科全書である。ここに収録された情報が中国側の主張の根拠となっているようだ。

また、「保釣」運動という言葉もある。これは日本が実効支配している尖閣諸島は中国固有の領土であるとして、中国人社会で行われている「領土返還」運動を指す。

上に引用した矢吹晋さんの文書には、明治政府の高官らが尖閣諸島についてやり取りした内容が紹介されている。そのやり取りを見ると、日本の所有であることを示す標杭を尖閣諸島に設置することに躊躇している様子が伺われる。しかし、その理由は記述されていない。

個人的な見解ではあるが、多分、中国側が反論するであろうと予測されたがために躊躇したのではないだろうか。そして、明治政府が標杭の設置方針を固めた時期(1895114日に閣議決定)は日清戦争(18947月―18953月)で日本の勝利がほぼ確実になって、清国が講和交渉を申し入れた18941122日以降のことだ。

カイロ宣言を見ると、中国と米国ならびに英国による対日戦争努力の目的は「第一次世界大戦により日本が占領した太平洋の全島の奪還、及び日本が中国領土から奪った領土を中華民国へ返還(例として満洲台湾澎湖諸島)させることにある」としている。この日本語訳の「奪った」という用語に対応する原本の英語は「...Japan has stolen from the Chinese..」の文章の下線部に示すstolenとなっている。

こういった経緯から、今年9月に中国外相が国連総会で行った演説で、「日本が釣魚島および属する諸島を盗んだ」という文言に繋がったものと判断される。

さらには、領土問題が生じる理由は条約作成時の文章の作り方そのものにも起因しているのではないか。台湾の領土が何処から何処までと定義されるのかは日清講和条約の条文では必ずしも明確ではないことから、中国側は尖閣諸島は台湾の一部であると主張する。それに対して、日本側は尖閣諸島は琉球列島の一部であると主張する。お互いに水掛け論に陥っているのが現状だ。この状況はサンフランシスコ講和条約で千島列島の地理的範囲が明確に定義されてはいなかったことから戦後ロシアと日本との間に北方領土問題が浮上し、未だに解決されてはいない状況とよく似ている。
また、時の政府は必ずしも史実をすべて公表するとは限らないことをここでも改めて知らされる。特に、外務省の場合は取り扱う事柄の性格からも機密を要求されることが多いと思う。マスコミが扱う外務省関連の情報が矛盾を露呈したり、不完全であったりすることはしばしば起こる。その結果、我々国民には不十分な、あるいは、不完全な情報が与えられるだけ。それが故に、誤った認識がそのまま放置され、定着してしまうことにもなる。
 

日本と中国のどちらの主張が国際法上正しいのだろうか。

野田首相が国連演説で主張したように国際法に則って日中間の尖閣諸島問題を解決しようとする場合、日本は国際世論を味方につける必要がある。日本の英知を総動員して関連情報を世界に発信し、日本の主張を訴えなければならないだろう。
尖閣諸島の領有をめぐる論点―日中両国の見解を中心に―[5]という文書がインターネット上で閲覧することができる。2007年に国会図書館が発行した文書だ。その表題が示すように、この文書からは日中両国の見解を一挙に知ることができるので、大変興味深い。
本文書の全てを引用することはいささか難しいが、その表紙には同文書が扱う論点が記載されている。それらの論点を下記に示す。
1971(昭和46)年以降、中国政府は、尖閣諸島は明代より中国の領土であった、などとして、同諸島に対する領有権を主張している。他方、日本政府は、同諸島の領有権問題の存在自体を認めていない。本稿は、尖閣諸島の領有権をめぐる両国の見解を比較し、検討を加えたものである。主な論点は、①1895(明治28)年に日本の領土に編入されるまで、同諸島は無主の地であったのか、それとも中国の領土であったのか、②閣議決定による日本の領土編入は有効に行なわれたのか、③領土編入以降、日本は同諸島に対して継続的かつ平穏に主権を行使しているか、に大別される。特に、継続的かつ平穏な主権の行使の有無は、領土の帰属をめぐる過去の国際裁判においても、重視されている。
本文書で興味深く感じたのは、琉球と中国との境界は何処にあったのかを検証し、尖閣諸島は琉球には属してはいなかったとする中国側の見解に対して詳しく反論している点だ。
尖閣諸島の領有権問題に興味を覚える方は是非この文書にも目を通していただきたい。
 

ここで尖閣諸島が日本に帰属するのか、あるいは、中国に帰属するのかを断言する積もりはないし、断言するだけの専門的な見識を持ち合わせてはいない。しかし、今最も必要なことは国民の一人ひとりが史実を少しでも多く、少しでも正しく、そして少しでも深く知ることこそが尖閣諸島問題を客観的な結論に導くための最初の一歩になるのではないかと思う次第だ。

このことは日本の国民ばかりではなく中国の人たちについても言えることである。
願わくば、ここに引用したような研究者らによる文献は中国語や英語に翻訳して海外に広く情報発信して欲しいと思う。当事国がこれらの情報をお互いに共有することが重要だ。既に、中国は米国をはじめとして海外でのキャンペーンを組織的に行っていると聞く。
例えば、ワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズの両紙が9月28日、尖閣諸島に対する中国政府の巨大な意見広告を掲載した[注6。「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国に帰属する」という大見出しの記事ふう広告である。両紙ともニュース・セクションの中ページに両面見開きの扱いで、ワシントン・ポストの方は一般ニュース記事に囲まれていた。
また、中国国営の中央テレビ(CCTV)は4日から5日にかけ、中国の劉暁明駐英大使が尖閣諸島の領有権を主張する論文を10月3日付の英紙デイリー・テレグラフに公表したことを繰り返し報じた[注7
日本はこういった国際的なキャンペーン合戦で遅れをとってはならない。国際世論を日本に有利になるように展開しなければならないからだ。国際司法裁判所といえども国際世論を気にするだろうと思うからだ。
例えば、ボスニア・ヘルツゴヴィナ紛争(1992-1995)においては、イスラム系勢力が米国の大手PR企業を雇って、「民族浄化」という新語を作り、それを繰り返して使うことによって定着させ、[セルビア系勢力=極悪非道]のイメージを作り上げ、国際世論を味方につけることに成功した。その結果、セルビア系勢力に対して圧倒的な勝利を収めたことは記憶に新しい。
次元がまったく違うが、卑近な例として小生個人の身の回りの状況についても述べておきたい。中国は24時間体制でCCTV(中国国営の中央テレビ)を通じて、ニュースを含め、様々なテレビ番組を海外向けに放映している。小生が住み始めたルーマニアの首都ブカレストでもケーブルTVで随時CCTVを視聴することができる。最近、尖閣諸島に関するニュース番組が急激に増えたというのが小生の印象だ。つまり、全世界で中国政府の主張がCCTVで流されており、その量が急増しているということになる。
一方、NHKによる海外放送は当地(ブカレスト)では視聴できない。視聴しようとすると、パラボラアンテナの設置が必要となり、結構、厄介だ。一方、お隣の韓国やロシアからの国営放送も、中国からのCCTVと同様に、24時間視聴できる環境にある。日本は通信技術やITについては超一流の域にあることが自他共に認められた存在であるにもかかわらず、世界に情報を発信するためのインフラとして最も基本的な海外向けテレビ放送の配信においては中国や韓国およびロシアに比べて遅れをとっているように感じる。非常に残念なことだ。
今回の国連総会での演説について言えば、その内容や一般人に与えるインパクトから判断すると、中国の一方的な勝利に終わってしまったのではないか。そして、国際世論を味方につけるための当事国の努力を第2ラウンドとすれば、この第2ラウンドでも目下中国が優勢であると言わざるを得ない。この認識は私だけのものだろうか。
 

 
参照:

1:日本が尖閣諸島を盗んだ 中国外相が国連演説:jp.reuters.com2012928

2:野田首相国連演説要旨:時事ドットコム、2012927日、www.jiji.com/jc/q/c?g=pol_30&k=2012092700042
注3野田首相「尖閣大局的対応を」、胡主席「国有化撤回要求」―日中首脳が15分立ち話:時事通信、201299日、www.jiji.com/jc/q/c_profile/pdf/c?g=pol_30&k...
注4尖閣騒動頂門の一針:矢吹晋著、21世紀中国総研第71号、2012102日、www.21ccs.jp/china_watching/.../Directors_watching_71.html
5尖閣諸島の領有をめぐる論点―日中両国の見解を中心に―:国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 5652007 228日、www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0565.pdf
6中国機関紙を「転載」する米紙:MSN産経ニュース、ワシントン・古森義久、2012106

7中国、尖閣領有主張の国際宣伝活動を強化:読売新聞、2012105

 

 

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