今月の10日、マティス米国防長官は戦術用戦闘機の稼働率を来年の9月までの1年間に80パーセント代に乗せるようにと指示を出した
[注1]。対象となる戦闘機はF-35 、F-22、F-16およびF-18 。米空軍の2017年度のこれらの戦闘機の稼働率は71.3パーセントで、前年度の稼働率よりも0.8ポイントの低下を示した。
特定の機種について詳細を見ると、稼働率の低さは驚くほどだ。たとえば、F-16Cは70.22パーセント、使用が始まったばかりのF-35Aは54.67パーセント、F-22ラプターは何と49.01パーセントだという。部品の供給に時間を要することやソフトの改善、経験豊かな補修要員の不足、等が主な理由であると言う。
このような現状を目にして、マティス国防長官はついに厳しい改善指示を発した
ものと思われる。この前途多難な取り組みの一方で、ペンタゴンとしては経費の削減も実現しなければならない。そうしなければ、米政府は破産となりかねないのだ。寄生生物が宿主を殺してしまうような状況は何としてでも避けなければならない。
トランプ大統領が述べているように(10月12日のブルームバーグの配信)、1ヶ月後に迫った米中間選挙で米下院で共和党が過半数を維持するかも知れない。そうすれば、トランプ政権を巡る政治的環境が整い、ロシアと中国を敵視する現行の対外政策は多少緩和されるのかも・・・。つまり、核大国同士の全面戦争の危険性はかなり軽減されるであろう。国内経済が自信を取り戻す中、トランプ大統領の選挙公約のひとつが実現される。
あるいは、それとはまったく関係なく、米国の対ロ・対中政策は今のまま継続され、さらに敵対的な状況になって行くのであろうか。私には分からない。
ここに、「米国は全面戦争を準備 - ペンタゴンの報告書が示唆」と題された記事 [注2] がある。
私が知る限りでは、対ロ・対中の全面戦争を口にするのは今までは個人のレベル、あるいは、民間のシンクタンクのレベルであった。ところが、ここにご紹介する記事はペンタゴンという米国政府内の組織が作成した報告書に関するものである。それだけに、その衝撃は比較のしようも無いほどに大きいと推測する。
その一方で、ペンタゴンがネオコンや軍産複合体の牙城であることを考えると、中間選挙では民主党が過半数を得られないという予測をしながらも、この報告書は対ロ・対中強硬派、つまり、反トランプ派がトランプ大統領に送った牽制球である可能性も否定できないような気がする。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
最近の2週間、メディアによる報道がほとんど無いまま、米国政府は核戦力では世界で第2位、第3位に位置するロシアならびに中国との軍事的対決に向かって実質的な動きを見せた。
10月3日、米国は冷戦以降で始めてロシアの本土を直接攻撃すると脅しをかけた。註NATO米国大使のケイ・ベイリー・ハッチソンはロシアが中距離核戦力(INF)協定に違反して、核エネルギーを動力源にした巡航ミサイルを開発したとしてロシアを批判し、ワシントン政府は米国がロシアを叩いて、この兵器を排除すると述べたのである。
この声明は南シナ海でいわゆる「航行の自由」と称する作戦を展開中であった米駆逐艦に向けて中国海軍の軍艦が衝突の進路をとった事件のちょうど3日後のことであった。太平洋上で何十年もの間起こったこともないような潜在的な軍事的衝突を避けるために、米艦艇は進路変更を余儀なくされた。
髪の毛を逆立てるようなこれらの事件の背景において米国は敵国との全面戦争のために非常に真剣で、長い時間がかかる準備を進めようとしている。これは米国の経済や社会に、さらには、政治生命に根源的な変化をもたらすことであろう。
これが金曜日にペンタゴンによって発表された146ページの文書(題名: Assessing and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain Resiliency of the United States)の骨子である。ワシントン政府が局地戦ではなく、ロシアと中国を相手に壮大で、長期的な戦争のために専制政治的な環境の下で準備をしようとしていることは明白である。
この文書は米国の軍事力が既存の目標、つまり、敵国に対して「今晩にでも参戦する」ために準備を整えるには経済の大規模な再建が必要であることを明確にした。米国が「軍事力競争」に勝つためには「産業態勢を一新しなければならない」とこの文書が宣言をしている。
「米国の製造業や防衛産業の基盤」はこの報告書を遵守し、「我が国の兵士」が頼りにすることができる「プラットフォームやシステム」を作り出さなければならない。この複合体は政府を擁するだけではなく、民間部門や「研究開発機関」ならびに「学会」をも擁する。換言すれば、米経済の全体と米社会を擁しているのである。
「米国の製造業は過去の20年間にすっかり疲弊してしまった・・・。この事態は米製造業が国家の安全保障要求を満たす能力を蝕んでいる。今日、われわれはある種の部品においては国内で単一の供給源に頼らなければならないし、外国の部品供給網に頼らざるを得ない部品や製品さえもある。われわれは軍部に供給する部品を国内では製造できない可能性に直面している」と、本報告書は警告している。
この戦略上の欠陥を矯正するべく、本報告書は次のような結論を述べている。「活発な国内製造業や堅固な防衛産業基盤を育み、弾力的な部品供給網を支援することが重要だ」と。
本報告書は、「中国の経済戦略は他の国の産業政策の敵対的な影響力と結託して、米国の産業基盤に脅威を与えており、これは米国の国家安全保障に対してますます大きなリスクを形成している」として、真っ向から中国をやり玉に挙げている。
換言すると、軍事的優位性を維持するには米国産業の優位性の推進は不可欠である。
重工業の保護は米国の収益の大部分を実現しているハイテック業界を保護する米政権の取り組みと並んで推進される。
本報告書が述べているように、『中国共産党の「2025年における中国製」と称される「主要産業イニシアティブ」のひとつとして、人工頭脳や量子コンピュータ、ロボット、自律走行車両、新エネルギー車両、高性能医療機器、ハイテック船舶用備品、その他の国防に不可欠な新規産業が列挙されている。』
「中国の研究開発費用は急速に米国のそれに近づいており、近い将来に同等のレベルに迫ろうとしている」と同報告書は警告し、たとえば、中国の製造業者であるDJIが商業用ドローン市場を席巻しているという事実を心配そうに指摘している。
米国のハイテック業界を保護し、さらに拡大させるペンタゴンの計画には中国人学生の米大学への留学をビザの発給を制限することによって抑制するという政府の取り組みも含まれる。本報告書は米国でSTEM(科学、技術系、工学系、数学)分野での卒業生の25パーセントは中国国籍である・・・として不満を述べている。取りも直さず、米国の大学は中国が経済や軍事面で台頭する上で主要な支援役を演じているのである。
換言すれば、本報告書は「国家の力を構成する複数の要素、つまり、外交、情報、経済、金融、諜報、法の執行、軍事、等をうまく統合すること」を求めており、最近刊行された「米国家安全保障戦略」に記された概念を具体的に表現したものである。
この方程式の主要な要素は米企業の技術部門である。彼らは実入りのいいペンタゴンとの契約に跳びつき、最新世代の武器の開発を行って来た。これらに対する支払い、ならびに、国際的な競争相手からの頑固なほどの保護を受けることの見返りとして、彼らはリークされたグーグルの文書が示す内容を忠実に実行してきた。それは「検閲への動き」と称され、米軍や諜報部門の要求に協力するものである。
政府の圧政的な手法とますます強力になっていく寡占状態との結びつきを促す論理は「全面戦争」と「独裁的社会」との間の相関関係でもある。そこではもはや憲法の主要条項といえども実質的な意味を持たない程だ。
これらの措置の中心的な目標は「国家的な安全保障」を推進するという名目の下で階級闘争を何としてでも抑圧することにある。世界的に展開されて来た米国の軍国主義の拡大は階級闘争の急激な高まりと符合する。その事例としては、流通業界の大手であるUPS社の従業員による利権契約の拒否が挙げられる。同社の強力な労働者組織は米国の産業基盤に害を与えるだけではなく、戦時経済の実に多くの業界に害を及ぼしかねないのである。
<引用終了>
これでこの記事の仮訳が終了した。
むしろ、私はこの引用記事の著者が推測した内容が間違っていることを望みたい。核大国間の全面戦争などは間違っても起こって欲しくはないからだ。
米国が世界の覇権を達成するために対ロ・対中全面戦争を開始するとすれば、その準備は米国の全産業が対象となり、非常に長い時間を要することであろう。因みに、米国は第二次世界大戦のために大恐慌時代、あるいは、それよりも前から準備を開始していたと言われている。この歴史的事実を参考にすると、これから10~20年という長い準備期間が必要となるであろう。米国の戦争立案者は対ロ・対中戦争では米国は被害を受けずに、相手を一方的に叩くことを夢見ているのであろうか。まさにそれは夢に過ぎないのではないか。
現実には、甚大な相互破壊に見舞われることになる。それはほぼ確実である。何故かと言うと、ロシアの防衛能力が最先端技術を駆使して、一段と躍進しているからだ
[注: ロシアの最新の防衛能力に関しては、3月16日付けの「ロシアの新兵器が意味すること」と題した投稿をご一覧ください。内容はロシアの軍事評論では第1人者と見られるアンドレイ・マルティアノフの解説です]。もしも米国がこの種の技術を開発しようとすると10年も20年もかかるだろうと言われている。したがって、米国の先制核攻撃によってロシアの報復能力を壊滅するというシナリオはもはや現実味を持ってはいない。米ロの核大国同士が全面戦争に突入するという筋書きは必ずしも米国がロシアを叩く先制攻撃によって戦争が終わることにはならず、お互いに報復攻撃の繰り返しとなる。最悪の場合、これは人類が築き上げた文明の崩壊をもたらし、ほとんどすべての生命が地球上から抹殺されてしまうことを意味する。
米国の製造業は海外へ移転し、中産階級が縮小の一途を辿り、国内の政治理念はもはや伝統的な二大政党間の政治議論ではなく、持てる者と持たざる者に二極分化し、国内の持たざる者の不満を抑えるためには警察国家となって、まるで軍隊のように武装した警察が市民に向けて襲い掛かり、政府に反論する者に対しては武力の行使も厭わない。今日の米国社会はそんな将来の社会を示しているかのようである。
そして、海外においては、ロシアや中国の原油や天然ガス、その他の天然資源を求めて、自暴自棄となった米政府(米帝国、あるいは、ディープステーツ)は手持ちの世界で一番強力な軍事力を活用しようとする。それを推奨する報告書がペンタゴンに現れたのである。米国の憲法や民主主義、人権、ならびに、国連憲章や国際法への配慮は見られない。
しかし、このような事態は決して起こってはならない!
政治家の間では、つまり、米国の与党と野党の間には政治的議論の対象が数多く存在する。しかし、それらの議論はこの核大国間における全面戦争を是が非でも回避するという政治的命題に比べると非常に瑣末であることを肝に銘じて貰いたいものだ。
そして、それを現実のものにするのは民意だ。米中間選挙は1ヶ月足らずでやって来る。米国の市民よ、一刻も早く目を覚ませ!
好むと好まざるとにかかわらず、これは西側各国の市民にもそっくりそのまま共通することだ。
参照:
注1: Mattis orders fighter jet
readiness to jump to 80 percent - in one year: By Aaron Mehta, Defense News,
Oct/10/2018注2: Pentagon Report Points To US Preparations For Total War: By Andre Damon, Information Clearing House, Oct/11/2018
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