2021年12月11日土曜日

ウクライナでは誰が誰と戦っているのか?

 

2014年に起こったいわゆるマイダン革命をきっかけに始まったウクライナを巡る東西間の綱引きは今や爆発寸前にまでエスカレートしている。この現状をもっとも端的に示しているのは最近の米・ウクライナとロシアとの間、あるいは、NATOとロシアとの間に展開されている舌戦である。

123日、米国の主要メディアであるワシントンポスト紙が下記のような報道をした:

ウクライナへのロシア軍の侵攻の可能性を巡って米ロ間の緊張が高まる中、米高官の発言や諜報界からの報告書を入手したワシントンポスト紙によると、米諜報機関はクレムリン政府が来年早々にも175,000人の兵力を動員して、複数の前線においてウクライナへ侵攻する計画を立てていることを察知した(原典:Russia planning massive military offensive against Ukraine involving 175000 troops US intelligence warns, The Whashington Post, Dec/03/2021。ところで、本件を最初に報じたのはブルームバーグ紙で、他の大手が追いかけ記事を掲載した)。 

こうして、ウクライナは急速に国際的な関心を集めている。ヨーロッパが戦場と化すかも知れないとの危機感は高まるばかりである。私が住んでいるルーマニアには、ポーランドと並んで、ロシアに最も近接するイージスアショアミサイル発射施設が存在することから、もしもNATO軍とロシア軍とが戦闘を開始した場合はNATO本部が置かれているブリュッセルと並んで直接の戦禍に巻き込まれる可能性は実に高い。

一方、これはウクライナと米国によって作られた情報戦争の筋書きであるという専門家筋の指摘もある。たとえば、「ロシアがウクライナへ侵攻するという話は米国やNATOの高官らの想像の中に存在するだけだ」との皮肉たっぷりの表題を持った記事があるが、これは典型的な例だ(原典:Russia’s ‚plan to invade Ukraine’ exists only in the US and NATO imagination: By Scott Ritter, RT, Dec/05/2021)。

こうして、この危機を乗り切るために米ロ首脳は127日にビデオ電話会談を行うことになったと報じられている。

われわれ素人には何処に真実が隠されているのかはなかなか分かりにくいのが通例だ。多くの場合に当てはまるように、「来年早々ロシアがウクライナへ侵攻する」というこの筋書きに関してもいったい誰が得をするのかを考えてみる必要がある。

さまざまな解説の中でもっともそれらしい見方を取り上げると、少なくとも、ロシアにはウクライナへの武力侵攻で得るものは何もない。もしもロシアがウクライナへ侵攻したら、米国はさらに経済制裁を強めて、ロシアが海外への決済を行う際に必要なSWIFTを閉鎖すると予告している。一方、ウクライナは軍事的にはロシアに惨敗したとしても、「ロシアが国境を越して攻め込んできた」と一言でも言えば、米国の巨大なプロパガンダ・マシーンがその後を引き受けて世界中に喧伝してくれる。武力ではロシアがウクライナに勝ったとしても、国際政治におけるプロパガンダ合戦ではロシアがウクライナに勝つことは望み薄だ。こうして、ウクライナはNATOへ招じ入れられ、EUからは経済的な支援を取り付けることができるだろう。それにも増して、ロシアからドイツへウクライナを通過せずにバルト海を経てロシア産天然ガスを輸送する「ノルドストリーム2」は、すでに完工したにもかかわらず、その運用はほぼ永遠に葬り去られることさえあり得る。そうすると、ウクライナ経由の既存のパイプラインは当然フル稼働することになろう。ウクライナには莫大な額の通過料収入が従来と同様に入って来る。すっかり疲弊したウクライナ経済にとっては万々歳だ。

ウクライナはNATO軍が配備され、ロシア軍からの標的になる準備が進められており、誤算や自作自演を含めて、何かをきっかけにロシアとの銃撃戦に簡単に移行する可能性を秘めている。たとえ今は舌戦であるとは言え、ウクライナにおけるエスカレーションは嫌でも周囲の関心を呼ぶ。こうして、ウクライナは巧妙に新冷戦の国際舞台に登場した。そんな状況が今さらに醸成されようとしている。

結局のところ、127日の米ロ首脳会談がどんな会談になったかと言うと、バイデン大統領はプーチンはウクライナへの侵攻を決心してはいないことを確認したとのことだ。これはこのビデオ電話会談に同席した国家安全保障問題担当顧問のジェーク・サリバンが会談後に述べた言葉である。(出典:US comments on Russia’s ‚Ukraine invasion’: By RT, Dec/07/2021, https://on.rt.com/bmle

当面、少なくとも、ヨーロッパにとってこれは大きな収穫である。

今回の会談の内容はすべてが公開されたわけではないので、これ以上のことは言えそうにはないが、すべてが巧妙に仕組まれた米国国内向けの政治シヨウであったということが言えそうだ。ブルームバーグ紙やワシントンポスト紙には「ご苦労さん」と私は皮肉を込めて言いたい。また、米国では来年には中間選挙、2024年には大統領選挙を控えており、トランプ前大統領が多くの支持を集めているとの世論調査結果が報じられている。しばらくの間さまざまな意見が提出され、議論は続く。もっとも重要な点としてはウクライナやポーランドおよびバルト三国が今後どう動くのかという点については注視が必要だ。深層には大きな変化はないからだ。

前置きが長くなってしまった。なぜかと言うと、キエフ政府の動きは非常に急進的な右翼によって支配されており、それがもたらす状況は全世界にとって危険極まりないものになるかも知れないと思えるからだ。

だが、その議論は別の機会に譲るとして本題へ入ることにしよう。

ここに、「ウクライナでは誰が誰と戦っているのか?」と題された最近の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

***

Photo-1: 手持ちの写真。ウクライナのドネツク郊外に展開する分離派の兵士。© Getty Images / Alexander Usenko

ここ数週間激しい戦いや政治的緊張がウクライナの東部を襲っている。しかしながら、時々、紛争を起こしているのはいったい誰なのかが分からなくなることがあり、そういった状況が悪化するばかりの情報戦の核心であったりする。

ウクライナは分断されたヨーロッパに存在する分断された国家であることから、明快さが欠如していることは容易に頷ける。これはキエフ政府と東部のドンバス地域との間の紛争なのか?それとも、ウクライナとロシア、ウクライナとNATO、あるいは、NATOとロシアとの間の紛争なのか?この紛争を解決するために国連はミンスク合意を承認したが、その合意には紛争の当事者はふたつの国内勢力であることが明示されている。つまり、キエフ政府とウクライナからの分離を標榜するドネツクとルガンスクのふたつの共和国だ。ロシアはこの合意は実施すべきものであると主張し、この紛争はウクライナの国内問題であるとの立場を表明した。その一方、NATOはこの紛争はウクライナとロシアとの間で起こった対立状態であるとし、ミンスク合意を台無しにしようとしている。

分断された大陸における分断された国家:

千年以上にもわたってロシアとウクライナは共通の歴史によってお互いの繋がりを持ってきたし、数世紀にわたって同一国家の一員でもあった。しかし、ロシアの近隣国家の歴史はふたつの相容れない国民性や国家建設の手法を育くむことになった。多元論者の見解によると、ウクライナはふたつの民族、ふたつの文化、二つの言語で成り立った国家であり、一元論者の見解は統合された国家主義を標榜し、その根底にはひとつの民族、一つの文化、ひとつの言語しか存在しないと言う。

Photo-2: 関連記事:NATOの拡大についてロシアがレッドラインを説明

一般的に言うと、西部地域に住むほとんどのウクライナ人はロシアとの歴史の共有は帝国主義の遺産であって、これは乗り越えて行かなければならないとし、東部地域のウクライナ人には深い不審の念を抱く。同様にして、東部のほとんどの住民はロシアとの関係は兄弟国家としての繋がりのようなものであるとし、西部の住民には信用を置かず、国家の建設に当たっては民族主義・国家主義的な取り組みをし、ファシストと連携した過去の歴史を持つ西部の住民に対して不信感を抱く。こうして、内部に抱えるこれらの矛盾を解決する策はたったひとつしかなく、現在に至っている。つまり、ロシアからは独立した主権国家を確立することが重要であるが、それは決して反ロ的なプラットフォーム上に築き上げるべきものではない。

ウクライナの未来は分断されたヨーロッパの国境に接していることからもさらに混乱の度を高めている。相互に受け入れることができる冷戦終結後の決着は、西側がロシアを新しい欧州から排除したことから実現には至らなかった。その結果、ゼロサムゲーム的で、かつ、オーウェル風の「ヨーロッパ統合」の概念はヨーロッパにおいては最大の国家であるロシアからすべてのヨーロッパ諸国を離反させ、その代わりにNATOEUを指導者として見る形で推進されて来た。単純に言って、西側と民族や文化について一元論を唱道するウクライナの国家主義者とは国家建設や地域復興における排他的な取り組みにおいてはお互いに旅仲間なのである。つまり、ウクライナ東部の住民を抑圧するウクライナはヨーロッパに組み込まれようとして、ロシアにまつわる歴史やロシアからの影響を徹底して洗浄し、排除しようとして来たのだ。

戦争は不可避的なものへと容易に変わっていく。国内レベルでは、2014年に西側によって支援されたマイダン革命の正当性に反論した東部のウクライナ人はキエフの新政権から攻撃を受けた。地域レベルにおいては、ドンバス地方がNATOの武力支援を受けるキエフ政府によって武力攻撃を受けても、ロシアはドンバスの味方をするために立ち上がろうとはしなかった。NATOの勢力圏がウクライナにまで拡張されることはロシアにとってはその存亡を左右することに繋がり、1962年にソ連がキューバにミサイルを持ち込もうとした際に米国がそれを決して受け入れなかったのとまったく同様に、ロシアにとっては受け入れることができない。ウクライナが自滅の道を進むように唱導したのは実際にはNATO自身であるにもかかわらず、NATOは、今、「ウクライナを支援する」と宣言している。

これは国内紛争か?

2015年のミンスク合意は国連によって承認され、この戦争は国内紛争であり、国内の当事者が解決策を見い出すべきものであるとの定義が成された。この合意はキエフ政府がドンバス地域と外交的に接触し、ドンバス地域に自治権を与えなければならないこと、そして、分離派の指導者らはその後キエフ政府にウクライナ国境の管理権を委ねること、等を規定した。国家建設に関して競合し合う見解に留意しつつ、連邦国家となったウクライナでは権力が分散され、ウクライナが西側ブロックあるいはロシア主導のブロックへ参画することは不可能となるであろうから、連邦化の解決策は地域振興の課題さえをも解決することに繋がる。

ミンスク合意は外国の参画については何らの言及もしてはいないことからも、ミンスク合意については妥当な批判を提起することが可能である。モスクワ政府が示したレッドラインはロシアはこの紛争の当事国のひとつであることを示唆しているが、そのことはNATOも当事者であると認知しなければならないことを意味している。西側は2014年のマイダン革命を後押しし、マイダン革命に反対したウクライナ東部の住民に対してキエフ政府が行った「反テロ作戦」を支持した。また、NATO各国はロシアに対して経済制裁を課し、ウクライナには武器を援助し、ミンスク合意における義務を尊重するようにキエフ政府に圧力を掛けることは拒むといった諸々の策を打ち出し、紛争の舞台を作り出した。

西側の政治家やメディアの連中は一般庶民に対してミンスク合意について詳細を伝えようとはしない姿勢を保ち、キエフ政府がミンスク合意に準拠することを大っぴらに拒んでいる姿が観察され、ミンスク合意に対する彼らの敵意は見え見えである。それどころか、西側の政治家やメディアは、ロシアがミンスク合意では言及されてはいないにもかかわらず、ロシアはこの合意に準拠してはいないと不正直極まりない発言をする始末だ。

これはウクライナ・ロシア間の紛争か?

この内戦をウクライナ・ロシア間の紛争として再定義しようとするキエフ政府とNATOとの集団的取り組みはミンスク合意を台無しにしかねず、相手を小馬鹿にした動きであり、ウクライナ東部の住民のすべてをロシアの単なる工作員として見ることによってすべての政府機関を撤廃し、この軍事ブロックは単に「ウクライナに寄り添っている」だけであるとうそぶくことさえも可能にしている。この姿勢は2014年の革命を「民主主義革命」として描写し、ウクライナ市民の意思を反映したものであるとした西側のプロパガンダに上手く整合するのである。その一方で、このクーデターに反対したウクライナ市民はロシアの「ハイブリッド戦争」の一員であるとして非正当化されたのである。

また、ドンバス地方の紛争をウクライナ・ロシア紛争と見なすことは東部ウクライナの住民を代弁する行為は徹底して抑圧することができるということを示唆している。米国はキエフ政府が反対意見を表明するメディアや抗議行動をする市民を摘発することを支持し、反政府指導者を刑務所に送り込み、抑圧的な言語法を施行し、国家建設に関しては多元論的な見解を持つ東部の市民をのけ者にするといった取り組みさえをも支持している。中でももっとも醜悪な点は米国がナチスの協力者を自由の戦士として祝う反ロ的な歴史の書き換えさえをも支持していることだ。ソ連に反対し、ヒトラーを支援したウクライナ西部のファシストらは英雄であったとする民族主義的、かつ、国家主義的な見解を援護するために、2013年以降毎年、米国は「ナチズムの栄光視と闘う」という国連の決議案に対して反対票を投じて来た。2021年の11月にも国連では米国とウクライナの二か国だけがこの決議案に反対した。

ウクライナにおける戦争を解決するより広範な取り組み:

永続する平和を達成するにはロシアやNATOといった国際的な当事者をウクライナ危機の解決に参画するよう要請しなければならないという主張は実に理に適っている。とは言え、ウクライナ危機を単にウクライナ・ロシア間の紛争として位置づけようとする不正直な試みはウクライナが東部ウクライナの影響を排除し、ヨーロッパからはロシアの影響を排除するためにミンスク合意を潰すことだけを目指すことになりかねない。ミンスク合意はウクライナ国内の当事者に限ってはいるものの、この点は冷戦後に西側によって拒絶されたこと、つまり、この地域に起こる戦闘はヨーロッパの安全保障に関して相互に受け入れることが可能な合意によって終止符を打たなければならないとする基本的な概念に繋がるものなのだ。

著者のプロフィール:グレン・ディーセンは南東ノルウェー大学の教授であって、「Russia in Global Affairs」誌の編集者を務めている。彼のツイッターは Twitter @glenn_diesen

注:この記事に表明されている声明や見解および意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。

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これで全文の仮訳が終了した。

著者の論点は下記の部分で頂点に達した感がある:

中でももっとも醜悪な点は米国がナチスの協力者を自由の戦士として祝う反ロ的な歴史の書き換えさえをも支持していることだ。ソ連に反対し、ヒトラーを支援したウクライナ西部のファシストらは英雄であったとする民族主義的、かつ、国家主義的な見解を援護するために、2013年以降毎年、米国は「ナチズムの栄光視と闘う」という国連の決議案に対して反対票を投じて来た。2021年の11月にも国連では米国とウクライナの二か国だけがこの決議案に反対した。

この見解は政治の醜さ、あるいは、不条理さを明白に伝えていると言えよう。

結局のところ、ウクライナの内戦は複数の顔を持っていることは明らかである。それ故に、解決の目途がなかなかつかないという悪循環に陥っているようだ。

この状況は今後も続くことであろう。それは常識的な直観で物を言うしかない素人の目にも明らかだ。世界レベルでは単独覇権体制を維持しようとする勢力と、多極化を標榜する勢力とが綱引きを継続しているのであって、ウクライナ紛争という現状を解決するにはどちらかの勢力が他を圧倒しない限りは望めそうにはないのかも知れない。外交交渉によって解決することが如何に難しいかについては人間社会は今まで十分に思い知らされて来た。NATOや米国にとっては自分たちがすべてを決定するのだと当然思っている。そこにはロシア側の提案が額面通りに反映されることはない。逆説的に言えば、それは米国および西側は単独覇権体制が今も維持されていると判断しているからに他ならない。

人間が持つ最大の短所である金銭や権力に対する貪欲さは人間が人間である限り何らかの形で継続する。そのことを思うと、核戦争に発展する可能性を持っているウクライナ内戦の解決は近い将来に限って言えば悲観的にならざるを得ない。つい最近、米国の上院議員の一人がウクライナ紛争では米国は核兵器を先制使用するべきだと公言した。多数派の見解ではないにしても、これは非常に物騒な発言である。

参照:

1Who is fighting who in Ukraine?: By RT, Dec/05/2021, https://on.rt.com/bmb1






 

2 件のコメント:

  1. 登録読者のИ.Симомураです.Russia Beyondに Мёртвая рука「死者の手」露全滅後に自動起動する究極報復兵器システムの解説記事が掲載されております.この時期で実に不気味ですね.«Мертвая рука» уничтожит США даже после гипотетической гибели России.「死者の手」以外にも水爆魚雷もあり,米国沿岸部でそれを水中爆発させ、放射能大津波で内陸部まで水没させるということです.海陸の生態系を壊滅させ全地球生命を根絶やしにするものとのこと.

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    1. シモムラさま
      コメントをお寄せいただき有難うござざいます。
      「死者の手」は実に巧妙なシステムですよね。こんなシステムを構築することができるロシアの技術力はたいしたものです。冷戦時代にこのような自動報復システムを設計・構築し、今もなおそれが稼働していることには驚きを感じます。中でも、地中を介して超低周波通信が行われるという点は秀逸ですね。この「死者の手」の存在や外洋に四六時中潜んでいる核ミサイル搭載の原子力潜水艦、ならびに、米国の対空ミサイル防衛システムは対応することはできないロシアの最新の極超音速ミサイル、等を考えますと、ロシアに対する先制攻撃を口にした米上院議員は何と無知なのだろうかとさえ思われ、信じられない状況です。それとも、米国にはこれらを駆逐することが可能な最新の技術が秘密裏に開発されているとでも言うのでしょうか。私の知る限りではあり得ないことです。政治における無知・狂気を見た感がします。

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