今スモモの花が満開。日本の桜に代わって当地ではこのスモモの花が春爛漫の風景を決定付ける中心的な花だ。
草地を見ると、オオイヌノフグリが絨毯を敷き詰めたようにタンポポの周りを覆い尽くしている。小さな草花がその息吹を競い始めている。水仙も咲き始めた。
今日(4月6日)は晴天に恵まれ、外出日和となった。娘と二人で古いデパートのひとつ「ウニーリ・デパート」へ出かけ、さらにその目と鼻の先にある旧市街地へも寄ってみた。
この旧市街地(「リプスカニ」と呼ばれている)には第二次大戦前の市街が残されている。第二次世界大戦中、1944年の初期、ブカレストの街は連合軍の空襲に遭ってかなりの被害を出したと言われている。このリプスカニ地域のどの建物が戦前からのものとして残されているのかはまったく分からないのだが、通り全体の雰囲気は言うまでもなく新興の地域とはがらりと違う。
路上のテーブルが埋まり始めた。
テレビのクルーがやって来た。撮影の準備を始めている。
このパブの入り口には洒落たメッセージが掲げられている。We are proudly welcome heavy drinkers. たとえ猛者ではなくてもいいから、ちょっと立ち寄ってみたくなるような粋なメッセージ。ビールのブランドはカールスバーグ。
この二人はパーテイーにでも出かけるのだろうか。それとも、商売?しっかりと準備ができた感じだ。
石畳の通りは続く。
街角ではグラフィテイの被害が目に付く。残念なことだ!
とは言え、「この細い通りの向こうにはどんな店があるのだろうか」などと思いを巡らしてしまう。
柱や飾り物としての彫刻が戦前の雰囲気を伝えてくれている。チャウシェスク時代に建設された無数のアパート群とは違って、味わい深い佇まいを見せている。
8月23日の革命記念日がルーマニアの祝日として非常に重要であった頃、私はルーマニアでふたつのプロジェクトに従事した。合計で7年間。今年の1月に亡くなったセルジウ・ニコラエスクという映画監督が幾つかの映画を作っていた。一世を風靡していたものだ。一番人気は「ソバカス少年」(1973年)とでも直訳しおうか、一人の少年が主人公。彼の回りにストーリーが展開する、結構面白いシリーズ物だった。あの映画は70年代の社会主義というしっかりとした秩序の中から過去を振り返ったもので、社会主義が非合法だった頃の世相をよく描いていたように思う。このリプスカニ地域の佇まいはあの映画の雰囲気を思い出させてくれる。
監督自身も俳優として社会主義活動家を演じていた。当時のことだから、グレーのダブルのスーツにちょっとだぶだぶの感じのズボン、さらには中折れ帽という格好。通りの角を曲がったところで、彼がヒョイと目の前に出て来てもおかしくはないような印象だ。
角地に立つ建物に「寿司」の看板があった。
当地では寿司は高価な食物であって、市民の間ではもっぱらビジネス・ランチ用という理解が浸透している。残念ながら、それが今の位置づけだ。戦前様式の建物が続く。正面に見える建物はある銀行の建物。
幾つか前の写真で見たものとほぼ同一の様式の柱がここにも見られる。
柱や彫刻の一部を拡大するとこんな感じだ。良く見ると、幾つか前の写真で見た柱の装飾よりもずっと手の込んでいる。当時はこういった装飾にお金や手間暇を掛けていたようだ。
この右側の建物の尖塔が見事だ。
路上のテーブルが開いていたので、コーヒーかビールをとることにした。オーダーをして数分も経たないうちに「屋内へ移ろう」ということに決まった。日陰になっていたからか、それとも、風が出て来たせいなのか、いささか寒い感じがしたからだ。
屋内へ入ると結構な混雑振り。やはり、お客さんの多くは中へ移動したのかも。一階は満席だったので、私たちは地下の階へ案内された。
この店の名前は Caru cu Bere という。
直訳すると「ビールを運ぶ荷馬車」という意味。創業は1879年だというから、日本では明治11年のことだ。20年後には現在地へ移転したと言われている。戦前からブカレスト市内の名所のひとつだったらしい。
メニューの作り方が面白い。新聞の紙面を連想させるのだ。
通常、夜の12時まで営業。金曜日と土曜日は夜中の2時までだという。繁盛している様子。
メニューを覗いてみる。学生たちを相手に特別にあつらえた「学生メニュー」が含まれており、目を引いた。幾つかのメニューに共通しているのはこの店自慢のビールCaru cu Bereまたはレモネード(それぞれ300cc)がついている。次のような具合だ。
「学期メニュー」はとにかく学期を通じて何とか過ごそうという、ウィンナーソーセージ。
「奨学生のためのメニュー」はギリシャ風サラダ。一番簡単なメニュー。
「トランシルバニア地方の学校のメニュー」は鶏肉たっぷりの内容。
「落第生のためのメニュー」もある。内容はミッチが3個。実質本位の感じで、決して悪くはなさそう。
「優秀生のためのメニュー」は鶏肉のシュニッツエル(カツレツのような料理)。さすがに一番豪華な感じ。
夜道の足元が心配になる方はお早めにどうぞ!
このリプスカニ地域については、「これから何度もご厄介になることだろうな」との予感がする。
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