2013年7月2日火曜日

シリア紛争 ― 歴史の正しい側に立つ優れた能力

<注:フォントサイズのコントロールがうまく行かず、一部分読みにくいかも知れません。ご容赦願います。>

617日と18日、今年のG8サミットが北アイルランドのエニスキレンで開催された。その速報がロイター[1]によって報道された。その全文を転載すると下記の通りだ。引用部分は何時ものように段下げをして示す。
[エニスキレン(北アイルランド) 18日 ロイター] -8カ国(G8)首脳会議(サミット)で、シリア問題をめぐる米国とロシアの対立があらためて浮き彫りになり、ロシアの孤立化が表面化した。
ロシアのプーチン大統領は、西側諸国が反体制派に武器を供与すれば欧州への攻撃に使用される可能性があると警告。一方でロシアのアサド政権への武器輸出については「法に基づいた契約に従っている」として正当性を強調した。
ロシアはシリア問題についてG8で孤立を深めた。アサド大統領の今後についても他の首脳との意見対立が絶えず、首脳宣言では同大統領の名前すら言及されなかった。
宣言では、米ロが呼びかけている和平会議のできるだけ早期の開催を求める内容が盛り込まれたが、これは過去数カ月の状況と変わりがない。
和平会議開催の日程も決まらなかった。当初は来月の開催が見込まれていたが、先週米政権が反体制派への武器供与方針を明らかにして以来、保留されている。ある関係者は、和平会議の開催は少なくとも8月まで先延ばしされたと述べた。
プーチン大統領は、オバマ大統領がロシアの孤立化を図ったことを示唆。他の首脳の見解は分かれており、シリア反体制派への武器供与計画が先月のロンドンでの兵士殺害事件の背景となった可能性があるとの見方を示した。
一方で各国首脳からは、アサド政権を支援するロシアの姿勢への批判が強まった。この問題をめぐる米ロ首脳会談の雰囲気も重く、平行線のまま終了した。
この最後の行には、ロシアのプーチン大統領はあたかもG8の中では一人の憎まれっ子のような存在として描写されている。
 

         

ところが、G8から2週間足らずしか経ってはいない今、世界の評価は大きく動き始めたと言えそうだ。このブログに引用する最初の二つの記事の間の隔たりの大きさには驚かされるばかりだ。
最初のロイターの記事とは対照的な記事として、628日の記事[2]をここに紹介したいと思う。
二番目の記事の要旨を仮訳すると下記ような内容だ。
....ロック・アーン(注:会場となったリゾートホテルの名称)でのサミットの前夜G8の出席者の一人があからさまにシリア危機に対するロシアの対応について懐疑的な声をあげていたにも拘わらず、このサミットではプーチンの外交的な勝利となった。プーチンはシリア問題について毅然とした態度を貫き、西側の首長らは「法的な手段を用いてアサド大統領を大統領の座から追い払う方法はまったくない」という明確な論理を受け入れざるを得なかった。ロック・アーンでのG8サミットでは、反政府軍に対して化学兵器を使用したと非難することによってバシャル・アル・アサドに政治的な圧力を掛けることには失敗し、シリアの反政府派に有利な国連安保理からのさらなる措置を引き出すことについてもロシアの合意を得ることはできなかった。
ここに記述されている「G8の出席者の一人」とはカナダのハーパー首相を指しているようだ。ハーパー首相は今回の「G8」を「G7+1」と形容したと、カナダの新聞が報道している[3]。これはプーチン大統領だけが意見を異にしていると述べたものだ。
ここで、[2]の記事へ戻ろう。
シリアに関するロシアの確固たる姿勢は西側の冷静な政治家たちとも歩調を合わせつつある。米国の著名な政治分析の専門家であり、ポーランド系米国人であるズビグニュー・ブレジンスキーがロシア側の政策を支持するとはとても考えられないのだが、彼はG8サミットの前夜MSNBCとのインタビューで文字通り下記のような内容を述べている。

反政府側の多くのメンバーにはそんな意識はないことだが、シリア紛争は民主主義を獲得するための戦いであると称することによって、西側は大衆向けの宣伝工作を遂行しようとしている。反政府派はアル・カイーダへの忠誠を誓い、イスラム法の遵守を要求し、何千人ものキリスト教徒を殺害し、テロリスト戦術の使用を標榜しているにも拘わらず、わが国の政治的に腐敗したメデイアならびに政治家たちは反政府派に武器を供給することは民主主義的な国家の樹立に役立つだろうと嘘ぶいている。 
ブレジンスキー氏はカーター政権のもとで国家安全保障担当補佐官を務めたことでもよく知られている。米国の地政学的政策の方向性や立案に深く関与してきた専門家であり、その影響力は決して軽視できない。そのブレジンスキー氏がプーチン大統領と同じ内容の意見を述べている。米国内部でもシリア紛争に関わろうとする米国政府の動きに懸念を示す有識者が増えてきているようだ。
すべての紛争当事者を前提条件を付けないで交渉の場に着かせようとするプーチン大統領の献身振りや英国のキャメロン首相とのプレス・コンファレンスでの彼の率直な対応振りをつぶさに見て、西側の市民社会は非常に広い層にわたって好意的な支持を示した。英国の保守派でロンドンの現役市長であるボリス・ジョンソンはテレグラフ紙で次のような意見を表明した。
今は全面的な停戦を実現する時だ。狂気の沙汰に終止符を打つ時だ。米国、ロシア、欧州連合、トルコ、イラン、サウジアラビア、および全ての当事国は国際会議を開き、大虐殺を止める時だ。シリアを地政学的な得点を稼ぐ場として、あるいは、武力を誇示する場にすることはできない。また、凶暴な連中の手に武器を渡すべきではない。
シリアの市民の生命を守るためには停戦を実現することが先決だ、大虐殺を止める時だとするロンドン市長の政治感覚はプーチンの構想に非常に近い。インターネットで情報を検索していると、今、英語圏のインターネットではこのような論調が次第に増えているように感じる。
プーチンの観点は英国議会でも保守党と労働党の両派から広い支持を得て、彼らはキャメロン首相に対してシリアの反体制派に対する武器の提供は議会の承認もなしに実施するべきではないと迫っている。
先週の日曜日、「スコッツマン」紙のジェラルド・ワーナー氏は、西側諸国では国際法の原則を重んじるプーチンの姿勢、特に、シリア紛争に関する姿勢に対して日増しに賞賛が高まっていると報道した。
新たに観察され始めたプーチンに対する賞賛はどこから来るのかというと、それは欧州同盟や米国を運営している政治的には正しいが弱虫の政治家とは好対照をなすプーチンの独特の存在感に根ざしていると言えよう。先週のG8の写真がすべてを物語っている。参加者たちはPR専門の担当者から今流にネクタイを外すようにと要請された。あたかも、学校のデイスコでダンスに興じるお父様たちのようだ。これは冷笑と軽蔑を誘った。プーチンもジェスチャー・ゲームに加わった。しかし、オバマ・キャメロン・ホランド連合のシリアのアル・カイーダに対する武器提供の話になると、彼の回答は妥協の余地のないモロトフ流の「ニエット!」という言葉だった。

....シリア紛争の影響はレバノンでの宗教間の緊張を高めており、中東地域の他の国々でも同様だ。イラクにおける宗派間抗争は新たな勢いを見せている。スンニ派とシーア派との間には2年以上前にシリア紛争の引き金を引いた「グローバル・エリート」たちの手によって新たな戦争が計画されていることは間違いない。これがヨーロッパや米国自身にもたらす影響は疑いもなく予測されたし、これらの社会に対する電子情報の監視をさらに強化するための口実としても利用されることだろう。 

G8におけるプーチンの活躍振りを目にした西側の反応を見ると、一般市民は意識的に、あるいは、無意識のままにこのことに気付いていることを示唆している。プーチンは西側の認識に強制的に形作られたマトリックスを再設定しようとする趨勢をつかむことに成功した。西側の政治家たちは彼ら自身の嘘で固められた話に身動きもできないでいる。特に、シリア紛争において然りだ。論争の余地がない事実や常識に基づいたロシアの大統領が行った中庸で率直なスピーチの前で、彼らは言葉もなく、好奇心をそそられ、ぼうぜんとした。そして、一般市民は一体誰が歴史の正しい側に立っているのかを嗅ぎ分けることができる。
 

         

上記にもあるように、ある新聞報道によると、英語圏ではプーチンの政治姿勢を支持する人が急速に増えているという。しかも、それは政治家の間だけのことではなく一般市民の間でも同じことで非常に幅広い現象であるとのことだ。
詭弁に詭弁を重ねる政治の世界においては、極端に走らずに常識的な価値観と周波数を合わせることが今やどれほど難しいことか、また、そのような感性を持つ政治家が如何に少なくなっているかをよく物語っているとも言えよう。
そんな政治の現状の中、プーチンが世界の常識の代弁者となり、血なまぐさいシリア紛争に終止符を打つことができるのかどうかは予断を許さない。来年のG8サミットはロシアのソチ近郊で開催される予定だ。今後の動きを注視して行きたいと思う。 
世界の政治を見る時、日本の主流のメデアだけを頼りにしていると時事問題の核心に近づけないことがある。この状況は日本だけではなく、多くの情報が示すように米国でも同じことだ。私としては、非力ながらも、少しでも幅広く情報を収集し、それらを皆さんと共有することによって情報の「空洞化」あるいは「ガラパゴス化」を避けたいと思う次第だ。
 

参照:
1:シリア問題めぐりロシアがG8で孤立化、西側との対立浮き彫りに:ロイター、2013 06 19日、jp.reuters.com>ホーム>ニュース>ワールド
2: Syria: the Art of Standing on the Right Side of History: By Oriental Review, www.orientalreview.org, Jun/28/2013
3Putin sides with “thugs”: PM says as G8 splits over Syrian conflict: By Paul Waldie, The Globe and Mail, www.theglobeandmail.com/ news/ politics/ harper-bashes-putins-support-of-syrian-regime/ article12594964/, Jun/16/2013

 

 

0 件のコメント:

コメントを投稿