2014年7月7日月曜日

ちょっと想像してみてくれ… もしもロシアがカナダ政府を転覆させたとしたら


現在進行しつつあるウクライナ情勢や昨年8月にシリアを取り巻いた国際政治の不条理さはどのようにしたらより正しく理解することができるのだろうか?
英国のジャーナリスト、ニール・クラークが秀逸な記事 [1] を発表した。その内容は風刺が効いており、素人のわれわれにとっても国際政治が持つ不条理さを理解しやすくしている点がいい。そして、その語り口には一種の小気味良ささえもが感じられる。
ところで、非常に読みやすいことから単なる風刺としてこの記事を受け止めたとしたらそれは大きな間違いだと思う。同記事の奥深くには著者の率直な気持ちが満ちている。そこには今日横行している国際政治に関して著者が抱いている不信感、人間性に対して一顧もしない軍事行動に頼った新経済主義に対する憎悪の念、あるいは、人間の業に関する哀しさみたいなものさえも感じ取られる。
個々の文章は最近起こった出来事の主人公やそのドラマを観ている観客を他者と入れ替えることによって、立場が逆転した場合にわれわれ読者がどのように反応するかを計算しつくした上で、われわれが国際政治における諸々の出来事をより正しく、より深く理解することを著者は狙っているようだ。この記事を読み進めて行くと、個々の文章がどの出来事を具体的に語っているのかが直ぐに理解できるという趣向だ。しかも、より深く理解できる。
それでは、早速その記事を仮訳してみよう。 

<引用開始> 

Photo-1: Reuters / Yevgeny Volokin  

民主主義的に選出されているカナダ政府がロシアからの資金援助を背景にしたクーデターによって崩壊させられ、その政権転覆の場面では極右派の活動家やネオナチたちが中心的な役割を担っていたという場合をちょっと想像してみてくれ。
そして、新たな選挙によって選出されたわけでもないこのオタワ「政府」がフランス語を公用語として位置付けている法律を反故にし、ケベック州の知事として億万長者を任命し、ロシア主導の経済ブロックとの連携協定に署名をした場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
ロシアが50億ドルもの金をカナダ政府の転覆のためにすでに注ぎ込んでおり、カナダの主要なエネルギー企業がロシア政府の有力政治家の息子を重役の一人として任命した場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
シリア政府がキャメロン政権を暴力的に転覆させようとしている「英国の友人たち」と称するいくつかの国で構成されたグループのためにダマスカスで会合を開いた場合を。
シリア政府とその同盟国が英国内の「反政府派」に対して何百万ポンドもの金や様々な支援を行っており、反政府派が英国市民を殺害し、学校や病院ならびに大学に爆弾を仕掛けたにもかかわらず、そうした反政府派の行為を非難しようともしなかった場合を。
シリアの外相が翌年に予定されている英国の総選挙を「民主主義の物まね」に過ぎないとしてそれを一蹴し、キャメロン首相は選挙が実施される前に退陣するべきだと公言した場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
2003年に、ロシアとその同盟国が中東の石油産出国に対して大規模な軍事的侵攻を行い、その石油産出国が世界を震撼させるような大量破壊兵器を所有していると公言していたにもかかわらず、実際には大量破壊兵器の存在云々はまったくの虚言であることが判明した場合を。
その進攻後百万人にも及ぶ市民が虐殺され、同国はその後10年も過ぎたというのに依然として混乱状態に陥ったままである場合を。
「政権交代」後にはロシア企業がやって来て、復興や再建のプロジェクトを通して莫大な利益を上げている場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
2003年にロシアが侵攻した中東の国家は大量破壊兵器を所有しているとの宣伝を忠実に繰り返し、報道していた親ロ派のジャーナリストたちがその後陳謝することもなく、多くの人命が失われたにもかかわらず悔い改める気配さえも示すことがなかった場合を。また、そればかりではなく、高給を貰って他の独立国に対する非合法な戦争や「介入」に関する宣伝を続け、戦争を喧伝することには潔しとしない正直なジャーナリストたちを攻撃した場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
中央政府に反対する40人以上もの市民がベネズエラで親政府派の活動家たちによって焼き殺された場合を。
ロシアの対外情報庁の職員ならびにメドベージェフがカラカスを訪問した直後、ベネズエラ政府がより大きな自治権や連邦制を要求している反政府派に対して軍事的な攻勢を開始した場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
昨年の8月、べラルースのミンスクで政府に反対してキャンプを張って抗議をしている600人を超す市民たちが軍隊によって虐殺された場合を。そして、この春、べラルースの法廷が600人を超す野党の支持者に死刑の判決を言い渡した場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
旧「冷戦」の終結後、ロシアが何年もかけて米国の周囲に軍事基地を設け、カナダやメキシコに対してロシアとの軍事同盟に加わるように工作した場合を。そして、今月の始めにはメキシコで軍事演習を大々的に実施した場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
ロシア外務省の高官が駐カナダ・ロシア大使との間で交わした電話の内容がリークされ、その内容をわれわれも知ることになった場合を。その電話では彼らはカナダ政府のメンバーとしては誰々を参画させ、誰々は参画させないといった話をしていた場合を。そして、その後、ロシアが資金援助をした「政府の交代」が実現した後、彼らが了承した人物が選挙を経ずに新たな首相として据えられた場合を。
また、ロシア外務省の高官が「くたばれ、EUめ!」と言った場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
シリアの空軍がイスラエル国内の武器保管庫を空爆し、シリア国内の反政府派へ武器を輸送している車列(安全保障担当者の言)に爆弾を投下した場合を。
ちょっと想像してみてくれ…
ロシアの有力な政治家が西ヨーロッパの街頭で緊縮政策に反対を唱えるデモに加わり、反政府活動をする人たちにクッキーを配り、デモ参加者が要求している政府の辞任を後押しした場合を。  

上記に想定したような出来事のどれかが実際に起こった場合を想像してみて欲しい。実際の出来事との比較をすることによって、今日の世界ではいったい何が悪さをしているのかが分かってくる筈だ。非常に教訓的でもある。  

Photo-2: Reuters / Hamid Khatib
 
米国とその同盟国がとった行動がもしも他の国々によって実行されたならば、その行動は言語道断であると見なされるのが落ちだ。ここでわれわれがしなければならない事は当事国の国名を他国の国名と置き換えることによって二重基準を浮き彫りにすることだ。
2003年にロシアが中東の石油産出国を攻撃し、親ロ派のジャーナリストが、米国のイラク侵攻時にネオコンやえせ左翼主義者たちが西側で行ったのとまったく同様に、大量破壊兵器に関して虚偽に満ちた好戦的な宣伝活動に加担したとしたら、われわれは間違いなくロシアを国際社会ののけ者として見なすことだろう。また、非合法的な侵攻に関してチアーリーダーの役を演じたジャーナリストらは信用を失墜したままその後の生涯を終わることだろう。米国は制裁を受けることもなく、落伍者として扱われることもないことを除いては、2003年当時に米国大統領であったジョージWブッシュともっとも近しい同盟者であったトニー・ブレアは何れの日にか戦争犯罪のかどで裁判を受けなければならないかも知れないが、イラクへの侵攻を支持したメデアの「評論家」たちは今も依然として健在であり、ロシアに対する新たな冷戦を後押ししたり、シリアへの新たな軍事介入を支持したりしている。
ロシアがカナダあるいはメキシコの民主主義的に選出された政府を転覆させるためにすでに50億ドルもの金を使い、親ロ的な傀儡政権を据えたとしたら、数時間の内にも米国による大規模な軍事的侵攻が始まり、新政府は政権の座から引きずり降ろされるに違いない。西側のテレビのニュース番組や名だたる批評家たちは熱烈に米国の行動を賞賛し、軍事的侵攻を「ロシアの武力侵略に対する反撃」であると宣言し、それを全面的に正当化することができると言うだろう。ところが、ウクライナでの政権交代が米国の手で行われ、キエフに親米的な傀儡政権が樹立された場合、話はまったく違うのだ。もしもロシアがカナダかメキシコでクーデターを画策した場合には声高に「卑劣極まりない!」と叫ぶのではないかと思われる同一人物がウクライナでは合法的な政府を非合法的な方法を用いて崩壊させたことについてはお祝い気分でいる始末だ。
他国が米国の国境に近い場所へ核兵器を据えようとした場合米国がどのように反応するかは衆知の通りだ。1962年のキューバ危機では世界は戦争の瀬戸際に追いやられた。ロシア軍がメキシコで軍事演習を行った場合には第三次世界大戦の危険が声高に論じられることだろうが、NATO軍がエストニアで軍事演習を行う場合は、不思議なことには、それは挑発行為とは見なされないのだ。
べラルースやベネズエラの政府がエジプトの軍事政権が昨年8月に行った様に反政府派に対して容赦のない対応を示したり、西側が支持するキエフの傀儡政権が行った様に戦車を投入し、自国民に対して重火器を使用したならば、えせ左翼主義者の「人権擁護派」の連中は金切り声をあげて、制裁措置を取るようにと訴え、空爆を迫り、ルカシェンコ大統領やマドロ大統領はハーグの国際裁判所へ送り込まれることだろう。
イスラエルの兵器貯蔵庫や車列を爆撃した当事者がシリア空軍であって他の何者でもないとしたならば、シリアに対していったい何が起こるかは誰もが予測し得る。われわれはどうしてこのような厚かましい偽善行為を許容するのだろうか?
他国がしでかした場合には間違っていると非難し、制裁を加え、軍事攻撃や侵攻をするけれども、同じことを米国やその同盟国がしでかすことは可能だと言い張ることができる法的あるいは倫理的な根拠はまったく存在しない。国際法や他国への不干渉の原則は、その国の政治システムや政府の形態の如何を問わず、すべての国に対して平等に適用するべきである。英国政府は、シリア政府が英国の国内問題に関して干渉する権利を持ってはいないのと同様に、シリア政府の国内問題に関して干渉する権利を持ってはいない。ロシアが米国と国境を接する国で「政権交代」を実現する権利を持ってはいないのと同様に、米国はロシアと国境を接する国で「政権交代」を実現する権利を持ってはいないのである。
われわれはすべての主権国家が平等であることに基盤を置いた新しい国際秩序を必要としている。つまり、今年開催されたベルグラード・フォーラムにおいて想定された新しい「平等な世界」を必要としている。その宣言はここに読み上げることができる。その宣言を整備するために現行の西側諸国の偽善や二重基準が起こる度にその事実を暴露することによって同宣言を想い、同宣言に取り組むことができるならば、世界は遥かに安全な場所となるのではないだろうか。
この文書に示された文言や見解ならびに意見は著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではなりません。

<引用終了> 

イラクやシリア、エジプトやウクライナに関しては毎日のようにニュースが報道されてきた。その報道内容は、多かれ少なかれ、米国とその同盟国の筋書きに都合のよい内容だけを伝え、都合のよい解説だけが行われてきた。
この記事の著者はそういった国際政治が持つ不条理をあばくことによって、もっと安全で住みやすい世界が到来すると述べている。日本でもそうだが、欧米の大手の商業新聞やテレビ局は「プレステチュート」(「商業主義のためにジャーナリズム精神を売りとばし、身を沈めてしまった新聞あるいはメデア」の意)と呼ばれて久しいが、この著者は旺盛なジャーナリズム精神を今も持っている。頼もしい限りだ。
この記事はウクライナ紛争の本質を見事に伝えている。 

参照:
1: Just imagine... If Russia had toppled the Canadian government By Neil Clark, RT, May/20/2014, http://on.rt.com/7yfllx

 

 

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