ウクライナ紛争の向こう側、つまり、米ロ間には今何が見えてくるのかを本日のブログのテーマとしたい。
6月21日のブログでは「米国の核戦力の優位性」に関するロシア側からの反論をご紹介した。
そこでは、「米国の核戦力の優位性」という米国側の論理の中で論拠が不十分な事項に関してロシア側が反論を行っている。その中でもっとも重要な点は核戦争が持つ生態系への致命的な影響である。要するに、核戦争においては、たとえ米国がロシアに対して大規模な奇襲攻撃を行ったとしても米国の一人勝ちとはならず、相互確証破壊となって米ロ両国は壊滅的な影響を受け、人類の文明は滅んでしまうであろうと指摘している。
この指摘は必ずしも新しい情報ではないと言う人がいるかも知れない。しかしながら、この記事を読んでみると、そう言ってはいられない現実があることに気づかされる。
政治的ならびに軍事的な意思決定を行う一握りの人たちがどれだけ健全な判断をしてくれるのかという視点から現在進行しているウクライナ危機やその背後に存在する米ロ間の地政学的な綱引きを見ると、決して楽観的なままでは居られないと思い知らされるのだ。
ひとたび核戦争が起こった場合の究極の結末については、「猿の惑星」あるいは「渚にて」といったハリウッド映画を観て、そこに描かれた相互確証破壊の有様に息を呑んだ人が多いのではないだろうか。
しかし、ここでは科学的な考察の世界での話である。最近の記事 [注1] によると、専門家たちは米ロ間で核戦争が起こった場合それがどのような結末を招くかを考察した。この記事に引用されている科学者たちはロシア人ばかりではなく、米国人も多くいることを承知しておく必要がある。つまり、それぞれの国の政府を援護するために御用学者が行うような論理の展開ではなく、これらの科学者の報告の多くは純粋に科学的な考察の結果なのである。
われわれ素人も核戦争について少しでも理解を深めて置かなければならない。
それでは、その記事を仮訳して、下記に引用してみよう。
<引用開始>
著者からの注: ポール・クレイグ・ロバーツは安全保障に関してトップクラスの情報を握っていた。彼は米ロ間の核戦争は人類ならびに他のすべての生物を絶滅してしまうと何度となく警告している。私自身は専門家としての知識や情報を持っている科学者のひとりとして彼の趣旨に賛同し、彼の警告にさらなる説明を加えてみたいと思う。
核兵器による人類の殺戮
ステイーブン・スター
論文審査(世界的に権威のある科学者によって審査が行われ、記述内容に間違いがないことが証明される)を受けたこれらの論文によると、米国またはロシアの戦略核の半分にも満たない量の核兵器が用いられただけでも、この種の核戦争は人類を破滅させることになるだろうと推測している[4]。換言すると、米ロ間の核戦争は地球規模の気候に長期にわたり非常に深刻な影響を与え、人類や他の地球上のほとんどの動物はもはや生存し続けることはできないだろうとの結論だ。
「Bulletin of the Atomic Scientists」誌に掲載された「自己確証破壊 - 核戦争が気候に及ぼす影響」と題した最近の記事 [5]は次のように述べている。
「ロシアと米国との間で起こり得る核戦争では、新戦略兵器削減条約に基づいて核弾頭の削減が行われた後であってさえも核の冬は起こるだろう。したがって、どちらが先に攻撃を開始したとしても、攻撃した側にとっては自己確証破壊を招くことになる。」
私は2009年に核拡散防止国際委員会のために論文[6]を書いた。それはこれらの研究を纏めたものだ。核戦争による大火災が何百万トンもの煤煙を発生させ、煤煙は雲の上にまで達し、成層圏には世界的な規模の煤煙層が形成される。この煤煙層は急速に地球を取り巻いてしまう。煤煙層は少なくとも10年間前後はそのまま残留し、保護の役目を担うオゾン層を破壊し(その結果、紫外線B波が地上に達するようになり[7])、地表を温める太陽光は遮ぎられて、氷河期のような気候となる。この氷河期は10年間以上も続くことだろう。
米ロ間の核戦争後、米国やユーラシア大陸の中央部の気温は1年から3年にわたって毎日のように氷点下に達する。この厳しい寒さは10年以上にわたって継続し、作物の生育期間を無くしてしまう。作物の栽培は不可能となり、飢餓が到来する。この飢餓によってほとんどの人類は死滅し、大型動物も死滅する。
高高度核爆発に起因する電磁パルスは、原発に設置されているものを含めて、現代的な電子機器に内蔵されている集積回路を破壊してしまうことだろう[8]。個々の原発はほとんどが瞬時の内にメルトダウンの脅威に曝され、使用済核燃料プール(原子炉内にある核燃料に比べて何倍もの放射能を有する)は干上がり、半減期が長い放射性物質を放出することになる。放射性降下物によって米国やヨーロッパではもはや人が住めなくしてしまう。もちろん、核戦争を何とか生き延びた人たちも遅かれ早かれ飢餓で死に絶えることになる。
米ロ間の紛争に核兵器が導入された場合、核による大惨事を避け得る可能性はほとんど無い。「抑制された核戦争」とか「核の段階的縮小」といった理論は非現実的である[9]。2010年に、ブッシュ政権は米国の戦略的原則を変更した [訳注:ブッシュ政権は2008年までで、2009年1月にはオバマ新政権が誕生している。念のため]。つまり、米ロ両国によって維持されてきた反撃の原則は先制攻撃の原則へと変わった[10] - ひとたび核戦争が始まった場合、先制攻撃を行う必要があると強調している。軍事的衝突が起こると、両陣営は大規模な先制攻撃を開始しなければならないとする強い心理的圧力にさらされることになる。特に、核兵器が戦場ですでに用いられた場合にはなおさらのことだ。
米国およびロシアはそれぞれが400から500個の何時でも発射が可能な核ミサイルを有しており、これらには合計で少なくとも1800個ほどの核弾頭が装備されている[11]。命令が下されてから数分後にはこれらのミサイルは発射可能となる[12]。米国でもロシアでも大統領の下には、四六時中、「核発射用手提げカバン」を携行する軍人が随行している。こうして、それぞれの大統領は何時でも発射命令を下すことが可能だ。
しかし、米国にせよロシアにせよ、トップの政治的指導者や国会議員たちは自分たちが所有し、何時でも発射することができる核兵器が人類の自己確証破壊のメカニズムを引き起こすということを正確には理解していないのである。たとえば、2010年に、私は新戦略兵器削減条約の交渉に当たっているアナトリー・アントノフ・ロシア大使ならびにローズ・ゴッテモラー米国務次官代行による国連(核拡散防止条約の再検討会議)での共同状況説明の場で彼らに公に質問をする機会に恵まれた。私はお二人に質問してみた。最近刊行された論文審査済みの研究論文によると、米ロの発射可能な核戦力のたった1%であってもそれらが発射され、核爆発を起こすと、世界の気候に壊滅的な影響を与え、両国が所有する戦略核を用いた核戦争は人類を絶滅に導くことになる。これらの研究をご存知かと尋ねたが、お二人とも答えは「ノー」だった。
かなり最近のことであるが、2014年4月20日に私は国連の核不拡散条約準備委員会の会合でNGOの代表者たちに概略説明を行うために派遣された米国の高官らにまったく同じ質問をしてみた。返ってきた返事はまったく同じであった。概略説明を行うために集まった米国の高官らは誰一人としてこれらの研究内容を知っている者はいなかったのだ。同席していたこれらの高官の中には国家安全保障会議の高官も含まれていたのだが。
世界でも指導的な立場にある科学者たちは何年もかけて研究した結果、米国やロシアが保有する戦略核を用いた戦争は人類の歴史に終止符を打つことになるとの結論に至った。これに関してオバマ大統領およびその政府はまったく無知であるという現実に私は脅威を覚えた。これらの核兵器が人類の脅威であることを彼らは知らないのだろうか?それとも、この事実は自分たちの公式の筋書きにはとても合致しないことから、彼らは沈黙しているのだろうか?われわれが耳にするのは原爆によって大きな市や町が破壊されるというトロリストによる脅威についてだけであり、核戦争による人類の絶滅はついぞ論じられてはいない。米ロ戦争の準備のために米国とロシアの両国がお互いに核戦争ゲームを展開している真っ只中にあってもだ。
そして、それより以上に脅威を覚えさせられるのは米国の対外政策を牛耳っているネオコンたちが米国はロシアに対して「核戦力の優位性」を持っていると盲信している点だ。つまり、米国はロシア(や中国)の核戦力に対して核による奇襲攻撃を成功させることが可能で、それらを完全に破壊することができるとしている。この理論は2006年に対外問題評議会によって「米国の核の優位性の始まり」と題してForeign Affairs 誌上で発表された[13]。ロシア軍や中国軍は反撃に出ることはできないとの結論に基づいて、あるいは、たとえ核戦力の小さな部分が残存し得たとしてもその反撃によって米国からの第二波攻撃は危険にさらされることはないとする結論から、この論文は核戦争を扇動している始末だ。
ヴァレリー・ヤリニッチ大佐(7年間にわたってソ連邦・ロシア政府の安全保障を担当)は反論を書きたいとして私に支援を求めて来た。この反論は「核戦力の優位性は誤謬だ」と題されている[14]。ソ連の一般幕僚として勤務し、ソ連の戦争計画に従事していたヤリニッチ大佐は「優位性」に関する記事は間違った手法を用いており、間違った想定に基づいていることから同記事の結論は無効であるとした。私が寄与することができた内容は最近(2006年)発表されたさまざまな研究に関するものだったが、これらは敵側の核戦力を100%破壊するという「大成功」とも言えるような奇襲攻撃であってさえも、核戦争で「勝者」となった国の市民たちは、それ以外の世界中の市民と同様に、核戦争後の飢餓によって絶滅の憂き目を見ることになるという点に集約される。
核の優位性に関する記事はロシアでは非常に大きな反論を招き、ロシア外相が公の場で演説をするほどになったが、この状況は基本的には米国のメデイアでは報道されることはなかった。われわれの反論を米国のメデイアによって公開することはできなかったのだ。問題は、この記事が主張している米国の核戦力の優位性という論理が米国の政治・軍事の分野の権力層によって認識されているのかどうかだ。もしそのような論理が容認されているとすれば、ロシアや中国に対する米国特有の無謀さを説明しているとも言える。
こうして、われわれは自分たちが置かれている状況を知ることになる。我が国の核弾頭の取り扱いに責任を有する連中は、もし彼らが発射ボタンを押すことを選択した場合は人類の歴史に終焉がもたらされるということをまったく理解していないように見受けられる。また、米国の一般大衆のほとんどはこの死の脅威を理解してはいない。十分には理解をしていない権力層が十分に理解をしていない一般大衆を人類の絶滅に向けて引っ張って行こうとしているのだ。
米国の公立学校では、過去20年以上にわたって、核兵器に関する授業を行ってはいない。米国の大統領選挙において核戦争が議論の対象となったのは前世紀のことだ。このように、ほとんどの市民は、一発の戦略核が100平方マイル(訳注:約250平方キロに相当)にもわたって巨大な火の海を生ぜしめること、ならびに、米国とロシアはそれぞれが即時に発射可能な何千発もの核弾頭を所有している事実を知らないままでいる。
ところで、ネオコンの世界観は21世紀になってから米国を毎年のように戦争状態にしてきた。ネオコンの世界観は米国・NATOの戦力をロシアの国境にまで拡張させた。これは大きな間違いである。この間違いが結果として冷戦を再燃させた。ネオコンが持つ顕著な特徴は、米国を「不可欠の国家」であると見なし、これがネオコンをして「米国の例外主義」を盲信させている。本質的には、米国人は他の如何なる国の国民よりも優れているとし、米国の国益や価値観は世界の最高位に君臨するとしている。
5月28日のウェスト・ポイントでの演説でオバマ大統領は「私は全身全霊米国の例外主義を信じている」と述べた。オバマは主要な点として「米国は世界の舞台で常に主導して行かなければならない」、そして、「そのリーダーシップの根幹は常に軍事力にある」と言った。外交ではなく武力、ソフトパワーではなくハードパワーに依存する米国の例外主義はまさに人類を絶滅に導く尊大さ、あるいは、傲慢さそのものだ。ブレジンスキーやウオルフォウィッツの世界観に見られるように、台頭するロシアや中国を何としてでも抑え込もうとする決意はまさに核戦争のための処方箋である。
米国、ロシア、ならびに、中国の指導者にとっての喫緊の課題は、核兵器の存在はそれらを使用する可能性を高めるだけであり、戦争で核兵器を使用することは人類の絶滅を意味すると公の場で表明することだ。核戦争においては勝者は存在しない。核兵器が人類を絶滅する前に、われわれは核兵器を禁止し破壊しなければならない。
ステイーブン・スターは「社会的責任を果たすための医師団」(www.psr.org)の上級科学者であり、ミズーリ大学の臨床研究所科学プログラムの理事長でもある。スターはBulletin
of the Atomic Scientists 誌やモスクワ物理科学技術研究所の戦略兵器削減に関するウェブサイトへ寄稿している。彼は核戦争によってもたらされる環境についてウェブサイトを掲載している(www.nucleardarkness.org
)。
本内容は著者の所感を示すものであって、これは必ずしも「社会的責任を果たすための医師団」の意見やミズーリ大学ならびにその教授団の意見を反映するものではない。
参照文献
[訳注:以下の参照文献の記述はかなり詳しい内容となっているが、このブログ用としては表題だけを仮訳して、括弧内に示したいと思う。それ以外の部分の仮訳は割愛する。]
[1] O. B. Toon, R. Turco, A. Robock, C. Bardeen, L. Oman, G.
Stenchikov, “Atmospheric effects and societal consequences of regional scale
nuclear conflicts and acts of individual nuclear terrorism(局地的核戦争や核テロによる大気への影響ならびに社会的な影響)”,
Atmospheric Chemistry and Physics, Vol. 7, 2007, pp. 973-2002. Retrieved from
http://climate.envsci.rutgers.edu/pdf/acp-7-1973-2007.pdf
[2] M. Mills, O. B. Toon, R. Turco, D. Kinnison, R. Garcia,
“Massive global ozone loss predicted following regional nuclear conflict(局地的核戦争後に予見される大規模なオゾン層の破壊)”, Proceedings of the National Academy
of Sciences (USA), April 8, 2008, vol. 105(14), pp. 5307-12. Retrieved from
http://www.pnas.org/content/105/14/5307.abstract
[3] I. Helfand, “Two Billion People at Risk? Global Impacts
of Limited Nuclear War on Agriculture, Food Supply, and Human Nutrition(20憶人が危険にさらされる? 局地的核戦争による農業、食糧供給、および、栄養摂取への世界的な影響)”,
Physicians for Social Responsibility, November, 2013. Retrieved from
http://www.psr.org/assets/pdfs/two-billion-at-risk.pdf
[4] A. Robock, L. Oman, G. Stenchikov, “Nuclear winter
revisited with a modern climate model and current nuclear arsenals: Still
catastrophic consequences(最新の気候モデルならびに核弾頭情報を配慮して、「核の冬」を再訪)”,
Journal of Geophysical Research –Atmospheres, Vol. 112, No. D13, 2007.
Retrieved from http://climate.envsci.rutgers.edu/pdf/RobockNW2006JD008235.pdf
[5] A. Robock, O. B. Toon, “Self-assured destruction: The
climate impacts of nuclear war(自己確証破壊:核戦争による気候への影響)”,
Bulletin of the Atomic Scientists, May 30, 2013. Retrieved from
http://thebulletin.org/2012/september/self-assured-destruction-climate-impacts-nuclear-war
[6] S. Starr, “Catastrophic Climatic Consequences of Nuclear
Conflicts(核戦争による気候に対する壊滅的な影響)”, Updated 2009 version (from
INESAP Bulletin 28, April 2008), Retrieved from
http://icnnd.org/Documents/Starr_Nuclear_Winter_Oct_09.pdf
[7] M. Mills, J. Lee-Taylor, “Nuclear War and Ultraviolet
Radiation(核戦争と紫外線放射)”, National Center for Atmospheric
Research, AtmosNews, March 2, 2011. Retrieved from
https://www2.ucar.edu/atmosnews/research/3995/nuclear-war-and-ultraviolet-radiation
[8] Commission to Assess the Threat to the United States
from Electromagnetic Pulse (EMP) Attack, “Report of the Commission to Assess
the Threat to the United States from Electromagnetic Pulse (EMP) Attack:
Critical National Infrastructures(電磁パルス攻撃の米国への脅威に関する評価委員会の報告書)”,
April, 2008, ISBN 978-0-16-080927-9; Retrieved from http://www.empcommission.org/docs/A2473-EMP_Commission-7MB.pdf
[9] N. Sokov, “Why Russia calls a limited nuclear strike
“de-escalation”(何故ロシアは局地的核攻撃を段階的縮小と呼ぶのか) Bulletin of the
Atomic Scientists, March 13, 2014. Retrieved from
http://thebulletin.org/why-russia-calls-limited-nuclear-strike-de-escalation
[10] H. Kristensen, R. Norris, I. Oelrich, “From
Counterforce to Minimal Deterrence: A New Nuclear Policy on the Path Towards
Eliminating Nuclear Weapons(反撃能力から最低規模の抑止力まで:核兵器の排除に向けた新たな核政策)”,
Federation of American Scientists, Occasional Paper No. 7, April, 2009. Retrieved
from http://www.fas.org/programs/ssp/nukes/doctrine/targeting.pdf
[11] “Status of World Nuclear Forces (2014) (世界における核戦力の現状―2014年)”, Federation of American Scientists, Retrieved from http://www.fas.org/programs/ssp/nukes/nuclearweapons/nukestatus.html
[12] S. Starr, “US and Russian Launch-Ready Nuclear Weapons:
A Threat to All Nations and Peoples(米国およびロシアの発射可能な核兵器:すべての国々ならびに市民に与える脅威)”,
Nuclear Age Peace Foundation, July, 2011. Retrieved from
http://www.wagingpeace.org/wp-content/uploads/2012/11/2011_06_24_starr.pdf
[13] K.
Lieber, D. Press, “The Rise of US Nuclear Primacy(米国の核戦力の優位性の始まり)”,
Foreign Affairs, March/April 2006. Retrieved from
http://www.foreignaffairs.com/articles/61508/keir-a-lieber-and-daryl-g-press/the-rise-of-us-nuclear-primacy
[14] V. Yarynich, S. Starr, “Nuclear
Primacy is a Fallacy(核戦力の優位性は誤謬だ)”, Intelligent.ru, 2006
(Russian) 25 May 2006, Global Research, March 04, 2007. Retrieved from http://www.globalresearch.ca/nuclear-primacy-is-a-fallacy/4991
<引用終了>
この記事は誰にとっても必読だと私は考える。
著者が示したもっとも貴重な指摘は次の点にあると私は思う。
「われわれは自分たちが置かれている状況を知ることになる。我が国の核弾頭の取り扱いに責任を有する連中は、もし彼らが発射ボタンを押すことを選択した場合は人類の歴史に終焉がもたらされるということをまったく理解していないように見受けられる。また、米国の一般大衆のほとんどはこの死の脅威を理解してはいない。十分には理解をしていない権力層が十分に理解をしていない一般大衆を人類の絶滅に向けて引っ張って行こうとしているのだ。」
具体的に言えば、米国の対外政策、つまり、ロシアや中国に対する政策を立案する集団はネオコンで構成されているが、彼らは核戦争がもたらす相互確証破壊、つまり、人類が絶滅してしまう可能性を十分に理解してはいないと著者は警鐘を鳴らしているのだ。ロシアとの核戦争では先制攻撃をすることによって、米国が一人勝ちになるとする論理は子供じみた論理だ。また、それだけではなく、この論理は人類の存続に対しては余りにも無責任でもある。
この指摘にあるように、米国の対外政策が核戦争が持つ相互確証破壊を十分に理解してはいないネオコン系に握られているという事実は人類の存続にとっては危険極まりない。われわれは肝に銘じておかなければならない。
このことをひとりでも多くの人と共有したいと思う。
♞ ♞ ♞
米国の軍事的戦略やその行動を論じる時、阿部首相がゴリ押しする「集団的自衛権の行使」はいったい何を意味するのだろうか。
上記に引用した米国の核戦力の優位性は対ロシア、ならびに、対中国を意識した論理の展開である。尖閣諸島に関しては、阿部政権は日米安保条約に基づいた米国からの軍事的支援を是が非でも取り付けたいようだ。その約束を米国から引っ張り出すためにも、阿部政権は日本国内を政治的に二分している「集団的自衛権の行使」を実現したいようである。
尖閣諸島という局地的な軍事的衝突が米中の核戦争に発展する可能性を考えてみよう。
米国のネオコン政治家や軍人たちの考え方を見ると、仮に尖閣諸島周辺で戦術核が使用された場合、米国は戦略核を使用して大規模な先制攻撃を行い、中国の核戦力を一気に破壊したいと考えることだろう。
その場合、中国からの反撃は米国に対してだけではなく、日本の軍事的拠点もその対象にすると考えることがより妥当ではないだろうか。
上記に引用した文献が述べているように、たとえば、日本の上空で核ミサイルが高高度爆発した場合を考えてみよう。
電磁パルスによってあらゆるコンピュータは瞬時の内に機能を失う。この電磁パルス攻撃は、電力、輸送、情報通信、等のインフラを壊滅状態にし、日本にある数十基もの原発を停止させ、メルトダウンさせる。それと並んで、もっと大きな脅威は使用済み核燃料プールが干上がってしまい、核反応が引き起こされる。日本の原発には何百、何千発もの原爆に匹敵する量の放射能を放出することが可能な使用済み核燃料が貯蔵されている。こうして、核弾頭を使わなくとも、日本の原発から放出された放射性降下物は人類の滅亡をもたらすことになろう。
まさに悪夢だ!これ以上に悪いシナリオはない。
外交を軽視し、軍事的な力関係だけで国際問題を解決しようとした場合の対価はあまりにも大きい。軍事行動では予期しないことが次々と起こる。それは歴史が教えている。核戦争ではたった一回の判断ミスが人類の絶滅につながってしまう。誰もやり直すことはできないのだ。
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人類に英知があるとすれば、それはいったい何処へ行ってしまったのだろうか。
毎年夏が来ると決まって原爆のことをあれこれと考えさせられる。今年はどうかというと、ウクライナ紛争の背後には米国とロシアという二大核保有国が地政学的な対決をしようとしている姿が見える。このことから、どうしても核戦争を想像してしまう。この想像は8月という季節が近づいて来たからという理由からだけではないと思う。両国の意思決定者には核戦争を回避する英知を是が非でも持って貰いたい。
それとも、人類は核戦争を回避するだけの英知を持ち合わせてはいないのだろうか?
余談になるが、先日、私の兄がこんな話をしてくれた。昨年の夏のことだったという。サツマイモ畑でサツマイモの生育状態を確認した兄は「三日もしたら収穫しよう」と思った。三日後に収穫のためにサツマイモ畑へ出かけて行った。まったく予期しなかった出来事が起こっていた。サツマイモ畑はイノシシによって掘り尽くされてしまっていた。このイノシシたち、よりによってあのサツマイモ畑のサツマイモについてどのようにしてその食べ頃を判断したのだろうか。人間とイノシシとの知恵比べではどうも人間の負けだったと認めざるを得ないと兄は言う。
参照:
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